弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件申立人に対する刑の執行については、本刑懲役拾年(昭和二七年政
令第一一八号により懲役七年六月に減軽)に裁定未決勾留日数九十日及び法定未決
勾留日数四百九十五日と九百七十四日を通算すべきものとする。
         理    由
 本件刑の執行異議申立の趣旨は、刑の執行を受けているAが提出した異議申立書
を引用するが、その要旨は、申立人は、殺人等被告事件に付、昭和二十三年四月八
日岐阜地方裁判所において懲役十五年未決勾留日数中九十日通算の判決言渡を受
け、同月十日控訴申立を為し昭和二十四年八月十八日名古屋高等裁判所において、
第一審と同じく懲役十五年第一審における未決勾留日数中九十日第二審における未
決勾留日数中三百日通算の判決言渡を受けたので、即日上告申立をしたところ、昭
和二十六年八月一日最高裁判所で原判決破棄、第二審差戻の判決があつた結果、昭
和二十七年四月十七日名古屋高等裁判所において、懲役十年第一審における未決勾
留日数中九十日算入の判決言渡があり同月十八日更に上告申立をしたが、この上告
は破棄され、右差戻後の控訴判決は確定するに至つたものであつて、結局、控訴も
上告も理由があつたことになつたのであるが、岐阜地方検察庁検事石原金三は、右
刑の執行に当り、前記の未決勾留の裁定通算の外に上告申立後の未決勾留日数九百
七十日を法定通算したのみで、申立人が昭和二十三年四月十日控訴申立した日から
上告申立の前日である昭和二十四年八月十七日までの未決勾留日数四百九十五日の
法定通算を為していないのである。これは、旧刑訴法第五百五十六条第一項第二項
に違反するものであるから、本件異議申立に及んだのであると謂うにある。
 よつて申立人Aに対する殺人等被告事件の刑事記録及び本件記録を観るに、同人
の勾留関係、各審級における判決、上訴関係及び刑の執行に関する各事実は、次の
通りの経過になつている。
 (1) 昭和二十二年十一月十日逮捕拘禁、
 (2) 同年十一月十三日勾留、
 (3) 同年十一月二十一日起訴、
 (4) 昭和二十三年四月八日岐阜地方裁判所は、第一審として、次の通り判決
言渡をした。
 被告人を懲役十五年に処する。
 未決勾留日数中九十日を右本刑に算入する。
 訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
 (5) 昭和二十三年四月十日被告人から控訴申立
 (6) 昭和二十四年八月十八日名古屋高等裁判所は、控訴審として、次の通り
の判決(差戻前の控訴判決)言渡をした。
 被告人を懲役十五年に処する。
 未決勾留日数中原審における分九十日、当審における分三百日を右本刑に算入す
る。
 原審並に当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
 (7) 昭和二十四年八月十八日被告人から上告申立、
 (8) 昭和二十六年八月一日最高裁判所において、次の通りの上告判決言渡が
あつた。
 原判決を破棄する。
 本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
 (9) 昭和二十七年四月十七日名古屋高等裁判所は、控訴審として、次の通り
の判決(破棄差戻後の判決)言渡をした。
 被告人を懲役十年に処する。
 第一審における未決勾留日数中九十日を右本刑に算入する。
 訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
 (10) 昭和二十七年四月十八日保釈、被告人から上告申立、
 (11) 昭和二十八年六月十一日最高裁判所で上告棄印の判決言渡があり、同
月二十三日右判決確定
 (12) 右の通り差戻後の控訴判決の確定により、岐阜地方検察庁検事石原金
三は、刑の執行を為すに当り、Aの刑期は、確定判決によると懲役十年であるが、
昭和二十七年政令第百十八号減刑令により懲役七年六月に減軽されたものとし、未
決勾留日数の通算については、
 (イ) 裁定通算として九十日、
 (ロ) 法定通算として昭和二十四年八月十八日の上告申立の日から昭和二十七
年四月十八日保釈になるまでの九百七十四日を算入しただけで、昭和二十三年四月
十日の控訴申立から昭和二十四年八月十七日までの上告申立の前日に至る破棄差戻
前の控訴審における未決勾留日数を算入していないことが明らかである。
 よつて右の事実関係から観ると、本件は、刑訴法施行法第二条により、旧刑訴法
が適用されることは明らかであつて、申立人Aが昭和二十三年四月十日控訴申立を
した日から差戻前の控訴判決言渡を受け上告申立をした昭和二十四年八月十八日の
前日に至る差戻前の控訴審における未決勾留日数四百九十五日が、刑法第五百五十
六条第一項第二号により法定通算すべきものであるかどうかが問題となつているの
である。旧刑訴法第五百五十六条第一項第二号の上訴の理由があるときとは、上訴
審の判決主文の刑が原判決主文の刑より軽くなつたこと(没収刑が軽くなつた場合
及び原審の未決勾留日数通算が多くなつた場合も含む)及び原判決を破棄した場合
を指すものであつて、控訴の理由があつたかどうかは控訴判決できめるべきもので
あり、上告の理由があつたかどうかは上告判決(破棄自判の場合について後記の通
りの例外がある)できめるのが通常であ<要旨第一>つて、この点については、上訴
の理由があるかどうかは、審級毎にきめるべきであると謂う検察官の意見は正 旨第一>当であるけれども、控訴の理由があるかどうかは、控訴判決書度によつて一
応予想せられるが、それだけでは、終局的確定的に決定するものではない。その控
訴判決が上告申立がないか又は上告審によつて破棄せられることなく確定するに至
つて、はじめて確定的に控訴の理由があつたかどうかがきまるのである。従つて、
宣告された控訴判決の刑が第一審判決の刑より軽くなつても、この判決が上告審で
破棄され、自判によつて第一審と同様の判決があつたり、控訴審に差し戻され、差
し戻し後第一審と同様の刑の言渡があつて、この判決が確定したときは、控訴の理
由はなかつたことに帰着するのである。これと反対に宣告された控訴判決の刑が第
一審判決と同じであつて、これだけを見ると控訴の理由がないように見えるが、上
告の結果、右控訴判決が破棄され、上告審において、自判により第一審の判決も破
棄し、第一審の刑より軽い刑を言渡したり、又は上告審が事件を控訴審に差し戻
し、差し戻し後の控訴審において、第一審の刑より軽い刑を言渡し、この判決が確
<要旨第二>定したときは、結局控訴も上告も何れも理由があつたことになるのであ
る。被告人のみの控訴申立があつたとき、宣告された控訴判決の刑が第
一審より軽くても又は同様であつても、その控訴判決が、上告審で破棄せられる
と、その控訴判決は、判決としての効力を生じないものであつて、上告審で破棄自
判した判決の中に控訴判決に代るものがあつたり、上告審が事件を控訴審に差し戻
し、差し戻し後の控訴判決があり、これが確定したとき、その確定した控訴判決が
控訴審の正当な唯一の控訴判決となるもので、この判決によつて、控訴の理由があ
るかどうかを考えるべきものである。差し戻し前の控訴判決は、判決としての効力
はなく、過去の訴訟の経過を示す事実に過ぎないものとなるのである。新刑訴法第
四百二条(旧刑訴法第四百三条)の不利益変更禁止に関する最高裁判所の判例とし
て、差し戻し後の控訴判決は、差し戻し前の控訴判決より重い刑を言渡してはなら
ぬ旨の判決があつて、これによると、差し戻し前の判決に何等かの効果をもたせて
いるように見えるが、これは、被告人のみが上訴した場合、如何なる経過をたどつ
ても、被告人に不利益となるような判決を為すことができないようにして、被告人
の上訴権を尊重すると共に、上訴判決の公平を期するために、過去の訴訟上の事実
に過ぎない差し戻し前の判決を差し戻し後の判決をする際の制約としたにとどまる
ものであつて、差し戻し前の判決を控訴の理由があるかどうかの標準とすべきもの
であると謂う点の判例とすることができないものと解すべきである。却つて、本件
のような未決勾留日数の法定通算について、最高裁判所は、判例として、「被告人
が控訴上告した事件について、上告審が第一審及び第二審の判決を破棄自判した場
合には、第一審判決後の未決勾留日数は、当然、全部本刑に通算される」としてい
る(昭和二十六年七月二十日第二小法廷判決、集五巻八号)。右の判例は、新刑訴
法第四百九十五条の解釈に関するものであるが、未決勾留日数の法定通算につい
て、新旧刑訴法は、訴訟の構造の変化に伴い、文言の相異はあるけれども、実質的
には、変更されていないので、右判例の趣旨は、旧刑訴法第五百五十六条第一項第
二号の解釈についても、参考とすべきものである。
 本件について観るに、申立人Aは、殺人等の被告事件につき、第一審では懲役十
五年の判決言渡を受け、申立人(被告人)から控訴申立を為し、控訴審でも第一審
同様懲役十五年の判決言渡を受けたが、上告した結果、右の控訴判決は破棄され、
もとの控訴裁判所に差し戻され、差し戻し後の控訴審では、懲役十年の判決言渡を
受け、右の差戻後の控訴判決は、確定したのであるから、前記説明の通り、申立人
(被告人)の上告が理由があつたと共に、結局において控訴も理由があつたことに
なるのである。従つて、控訴申立の日から上告申立の前日までの未決勾留日数は、
総て、右懲役十年に通算すべきものである。
 然るに、検察官は、旧刑訴法第五百五十六条第三項により、上告申立後の未決勾
留日数九百七十四日を通算しただけで、控訴申立の日である昭和二十三年四月十日
から上告申立の前日である昭和二十四年八月十七日までの未決勾留日数四百九十五
日を通算しなかつたのは、旧刑訴法第五百五十六条第一項第二号の解釈適用を誤つ
た刑の執行と謂うことができる。これと同趣旨に出でた本件異議申立は、理由があ
る。
 よつて、旧刑訴法第五百六十四条により、主文の通り、決定する。
 (裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 赤間鎮雄)

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