弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄し、右部分に関する第一審判決を取り消
す。
     前項の部分につき、被上告人らの請求をいずれも棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 第一 上告代理人中山晴久、同原田昭、上告指定代理人香川保一、同近藤浩武、
同長島俊雄、同鎌田泰輝、同上野至、同東光宏、同藤田鈴夫、同青木元一、同西川
義輝の上告理由について
 一 事実関係
 原審が確定したところによれば、被上告人らに対する懲戒免職処分(以下「本件
処分」という。)に関する事実関係は、おおむね次のとおりである。
 (一) 八月一九日の件(Dに対する懲戒処分についての抗議行動)
 昭和三六年八月一九日、神戸税関長官房主事Eは、同主事室で、税関長に代わつ
て、Dに対し、懲戒処分書及び処分説明書を交付しようとした。その処分理由の要
旨は、Dが、昭和三四年一〇月二七日、外国貿易船FのGを同船に訪ねて一緒に下
船した際、Gが米国製タバコ等の密輸入を企てて携帯しているのを知りうべき立場
にありながらこれを確知することなく、税関職員として適切な助言、指導を怠りか
つ陸務課の検査に協力しなかつたのは、税関職員たるにふさわしくない行為にあた
る、ということであつた。H労働組合I支部(以下「組合」という。)の組合員は、
Dに対する処分を知るや、正午前から零時三〇分ころにかけ続々主事室につめかけ、
一二時三〇分から一時ころにかけて四〇名ないし五〇名になり、官房主事の説明を、
理由にならない、不誠実だとして抗議を続け、口々に理由を説明せよ、できないの
なら税関長を呼べなどと大声をあげたので、室内は騒然となり、一時三〇分ころま
で押し問答が続いた。一時三〇分ころから二時ころにかけて、E官房主事、J人事
課長らは組合員に対し「帰ります」「退去して下さい」と要求したが、多数の組合
員は進路を開けることなく立ちはだかつて抗議を続け、その間室内や入口ドアには、
「不当弾圧撤回!」「首切りを仕事にする奴、E!」「オマエはバカなチンピラだ」、
「チンピラ弾圧屋のE 税関から出て行け」、「メツセンジヤーボーイもできぬ官
房主事はヤメロ」などと書かれたビラが貼られ、同趣旨の発言がされていた。組合
執行委員である被上告人B1は、組合員の一員として、官房主事、総務課長らの附
近に位置して激しく抗議していたが、同人らの耳もとで、バカヤロー、チンピラな
どと怒声、罵声を発し、また、携帯マイクを使用して同様の行為をした。抗議は、
途中休憩等をはさみ断続的に続いたが、五時三〇分ころパトカーのサイレンが聞こ
えたので、組合員は退室し、E主事らは警察官に守られて室外に出た。
 (二) 一〇月五日、二六日の件(勤務時間内の職場集会等)
 (1) 昭和三六年一〇月五日、組合は、総評及び公務員共闘会議の統一行動の一
環として、H労働組合本部からの指令に基づき、本庁舎玄関前において、政暴法反
対、公務員給与五〇〇〇円賃上げ、神戸税関における計算センター設置反対、勤務
評定反対、人事の民主化などの要求をかかげ、午前八時四〇分ころから九時一〇分
ころまで(勤務時間の定めは八時三〇分からであるが、九時五分までを出勤簿整理
時間又は出勤猶予時間としてそれまでに出勤すればよいことになつており、九時五
分から執務態勢にあつた。)職場集会を開催した。神戸税関長は、集会開催の前日
組合支部長である被上告人B2に対し勤務時間にくい込まないようにとの警告を、
また、当日九時五分ころ集会中の組合員に対し執務命令を発したが、いずれも無視
された。被上告人らは、右集会の準備をし、組合書記長である被上告人B3は開会
の挨拶等をし、同B2は組合員の団結をうながす演説をした。
 集会の終了直前、被上告人B3は、職場に帰るとき税関長室前を通り要求を直接
訴えようと提案し、右提案は可決され、組合員約三〇〇人が四列縦隊のような形で
労働歌を合唱しながら正面玄関から二階へ上り、被上告人B3の音頭で、「五〇〇
〇円賃上げ」、「勤評反対」、「合理化反対」、「K(税関長)やめろ」、「E(
官房主事)やめろ」などのシユプレヒコールを繰り返した。被上告人B2は列外に
出て同B3に合わせて音頭をとり、同B1は同様列外に出て隊列の後部を指導した。
右隊列は、九時一八分ころ二階監視部長室横の階段附近で流れ解散した。
 (2) 同年同月二六日、組合は、前回同様の統一行動の一環として、H労働組合
本部からの指令に基づき、同一の要求をかかげ、本庁舎前で、午前八時四〇分ころ
から九時一五分ころまで職場集会を開催した。上告人神戸税関長は、集会開催の前
日被上告人B2に対し前同趣旨の警告書を交付し、また、当日九時五分ころ集会中
の組合員に対し執務命令を伝えたか、組合側はこれを無視した。被上告人B2、同
B3は、集会を準備し、B2は組合代表として演説し、B3は官側への抗議団の派
遣を提案した。
 同日、同税関東部出張所においても、二階ベランダで、午前八時四〇分ころから
九時一五分ころまで職場集会が開催され、被上告人B1は、統一行動の意義を話し、
政暴法反対の演説を行い、九時五分以降も税関長の執務命令を無視して演説を続け
た。
 (三) 一〇月三一日ないし一一月二日の件(輸出為替職場の人員増加要求活動)
 神戸税関においては、輸出業務が集中する月末月初の各二、三日のいわゆる繁忙
期には、輸出担当職員は二時間くらいの超過勤務や日曜休日の出勤が多く、また、
大量の業務を処理するために、各職員がその能力に応じまた各人の責任において審
査を簡略化することも行われており、一人が一日に約二〇〇件を処理することもあ
つた。組合は、輸出の増加により業務は増加しているのに職員はふえないとして、
従来から人員増加要求を続けていたが、この要求を貫徹するため、被上告人らは、
次のような行為を行つた。
 (1) 一〇月三一日午後五時過ぎころから、輸出為替の職場で、繁忙期の業務処
理、人員問題を検討するため、一五人の職員が参加して職場集会が開かれた。その
席に組合の代表者として参加した被上告人B3は、官側は組合が人員要求しても何
もしてくれず、労働強化を強いている、職員は無理のない件数をやることにしよう、
そうすれば仕事が残るので超過勤務命令を出すだろう、それを拒否すれば困つて人
員不足を認識するだろうとの提案をし、これまでのように大量の事務処理をするこ
とをやめ、無理のない件数(大体一〇〇件程度をさす。)をやつて人員不足を認識
させようということになつた(輸出申告の書類は、まず為替課輸出係で審査され、
輸出課、監査第一部門、そして再び輸出課へと流れているから、為替課での処理が
遅れれば全部が遅れることになる。)。
 (2) 翌一一月一日、輸出為替の職員は、右集会の決定に従つて通常の繁忙期の
ような迅速な事務処理をしなかつたため処理は遅れ、午後四時ころには、五時以降
臨時開庁をして超過勤務をしなければならないことが明らかな状態になつていた。
三時四〇分ころ、組合執行部は、輸出第一、第二、為替の各課長に輸出第二課長の
席に集まるよう要請し、そこで増員要求に対する協力を求めた。四時四〇分ころL
為替課長から一時間の超過勤務命令が出されたが、被上告人B1は、五時ころ仕事
を始めようとした職員に対し、人員要求の協力を確約しないと仕事をしないと課長
と交渉しているから待てと言い、そのため職員は仕事をしなかつた。結局、六時こ
ろから臨時開庁され、職員は五時半ころから超過勤務についたが、七時になつても
残件が多くあつたので、L課長は更に一時間の超過勤務を命じたところ、被上告人
らは、輸出為替の職場に来て、課長に対し、職員は疲れているからやめたらどうか
と言い、職員に向つては、用のある者疲れている者は帰れと言い、ために職場は混
乱し、課長は、これ以上仕事を続けることはできないと判断し、七時過ぎころ一般
職員を帰宅させた。このため業者から苦情が出る一幕もあつたが、残つた分は翌日
優先的に処理することで業者の納得を得て、その日の業務は打ち切られた。
 (3) 翌一一月二日午前九時一五分ころ、L課長は、前日の残件を含めて大量の
事務を処理するため、通常五〇ほどある審査点を四点に減縮する大巾かつ画一的な
審査の簡略化を指示した。しかし、神戸税関ではかつて梅干事件(昭和三六年に梅
干に関して農林省の検査合格証がないのに輸出許可をしたことで担当職員及び係長
が収賄の嫌疑を受けた事件)があり、それ以来職員の間に審査を省略することを恐
れる空気があつて、職員は容易に右指示に従わず、組合執行部に税関長と交渉して
重点審査が原因で事故が起つた場合の責任の所在を明らかにするよう要請した。そ
こで被上告人ら三名を含む執行委員は一〇時ころ税関長と交渉しその見解をただし
たが、明確な答弁が得られなかつた。被上告人B3及び同B1は、一〇時を少し過
ぎたころ、輸出為替課におもむき結果を報告するとともに、職員に向つて、このま
ましていたら責任問題が起こる、課長に一札入れてもらつてから仕事をしようなど
と言つた。L課長は、被上告人B3らの要求に応じて職員に対し、あらためて重点
審査を指示するとともに責任は私が持つから心配はいらない旨を説明したが、B3
らは執ように文書にすることを要求し、職員に対して、文書にするまで輸出課への
書類を回すなと言つたので、結局、L課長は一〇時三〇分ころ文書にすることを約
束し、職員に文書にするから仕事をするように言つた。この間書類の流れはとまり、
為替課から輸出課へ回つた書類を為替課へ引き上げたりした。二時ころ、被上告人
B3、同B1らが課長のもとに来て、早く文書を書かないと書類を回さないと言い、
課長が文書にして読み上げたとき、被上告人B3は、それは命令かお願いかと尋ね、
課長が、命令であるが仕事を早く処理するためやわらげた方がよいとの考えで、お
願いであると答えたところ、職員に向つて、お願いなら従う必要はないと言つたた
め、職員の間にとまどいを生じ、仕事は依然停滞していた。更に、三、四〇分後に
は被上告人B3が再び輸出為替課に姿をあらわし、重点審査の責任は係員にあると
税関長が言明したと言つて仕事を中止させるに至つたが、M課長補佐が総務課で確
認したうえ、右B3発言を否定し、責任は課長にあると言つたので、以後正常な状
態にもどり、仕事が促進した。
 (4) 同日午後五時ころ、鑑査第一部門においては、輸出為替課の確認事務が上
述の経過で促進された影響を受け、同課から大量の書類が一時に回付され、通常の
方法では処理し切れない事態となつた。そこで、N鑑査部長は、局面打開の方法と
して、輸出為替課におけると同様ここでも重点審査をすることを指示するとともに、
三〇分休憩して五時半から臨時開庁することとし、職員に対し超過勤務命令を出し
た。しかし、その指示の趣旨が必ずしも明瞭でなかつたため、職員の間に疑義を生
じ、このことは組合執行部に報告された。そこで、被上告人B2、同B3を含む組
合執行部約一〇人は、鑑査部O審査官に対し指示の内容をただし、来合わせたN部
長を取り囲んで、こんなに大量の仕事をやらせてできるものか、お前の指示を受け
てやると殺されてしまう、などと大声を出した。そのころ窓口にいた多くの業者か
ら、早くやつてくれ、船の出航に支障をきたすとの申入れがされたので、N部長は、
審査を簡略化する新たな指示をしたところ、被上告人B2ら組合執行部はそのよう
な命令は文書にせよと大声でせまり、室内は騒然として、右指示が文書とされた七
時ころまで職員の仕事はとまつた。
 (四) 一二月二日の件(超過勤務命令撤回闘争)
 一一月二日に結成された組合の輸出分会は、組合とともに人員要求をしていたが、
人員不足を当局に認識してもらうとの趣旨で、分会役員は超過勤務命令撤回願を全
員で出すことを決め、組合執行部も同調した。そこで、一二月二日(土曜日)の午
前中、組合執行部及び分会役員が手分けして、各職場で用紙を配付し、超過勤務命
令が出た後職員に要請してその撤回願いを書かせ、これを回収した。輸出一課では、
被上告人B3がこれらの行為を行い、午前中の勤務時間が終るや、組合執行部や分
会役員は、三階講堂に職員を集めるため各職場をまわつた。土曜日の臨時開庁は通
常一時から始まるのであつたが、当日は被上告人B3らの申入れにより一時三〇分
から臨時開庁されることとなつたところ、一時一五分ころ、同被上告人ら組合役員
は、P業務部長らに約四五人の超過勤務命令撤回願を提出し、職員は疲れている、
個人個人の健康状態や都合を調べて命令を出して欲しいと命令の撤回を求めた。P
部長、N鑑査部長はこれを拒否した。被上告人B1、Qら組合執行委員は一時三〇
分になつて超過勤務につくべく職場に帰つて来た職員に講堂に行くようすすめ、講
堂では、被上告人B2が、撤回願について交渉している、官は一方的に命令を出し
ているが必ずしも従う必要はないと説明した。一時五〇分ころR総務課長らが講堂
に行き、集まつていた職員に対し、超過勤務の執行命令を伝えたところ、被上告人
B2は、部長交渉中だから待機しているのだと大声で答え、組合員はほとんど職場
にもどらず、一時三〇分を過ぎても輸出の職場では仕事がされなかつたため、業者
から抗議が出、苦情が申し立てられていた。二時ころ被上告人B3が講堂に来て交
渉は決裂した旨伝え、同B2が職場に帰つて仕事するようにと命じたので、二時五
分ころから仕事は順調に進み、遅い職場でも七時ころには終了した。
 二 原審の判断
 原審は、右事実に基づき、次のとおり判断した。
 (一) 被上告人らの各行為は、次のような懲戒事由に該当する。
 (1) 前記一の(一)の八月一九日の被上告人B1の行為は、国家公務員法(以下
「国公法」という。)八二条三号に該当する。
 (2) 前記一の(二)の(1)、(2)の一〇月五日及び二六日の被上告人らの行為は、
国公法九八条五項(昭和四〇年法律第六九号による改正前のものをいう。以下、国
公法の規定のうち引用するものについて同じ。)前後段に違反し、同法八二条一号
に該当する。しかし、国公法九八条一項、一〇一条一項、人事院規則一四―一第三
項(昭和四一年七月九日人事院規則一―四による廃止前のものをいう。以下同じ。)
前後段に違反するとして、国公法八二条三号を適用する余地はない。けだし、これ
らの法条に違反する行為は、もともと争議行為に通常随伴する行為であつて、これ
に対する規制は、仮にその争議行為が違法な場合でも、専ら国公法九八条五項によ
つてされるべきものと解すべきであるからである。
 (3) 前記一の(三)の被上告人B3、同B1の一一月一日及び二日の輸出為替課
における各行為及び被上告人B2の一一月一日の輸出為替課における行為は、国公
法九八条五項後段に、被上告人B2、同B3の一一月二日の鑑査第一部門における
行為は、同法九八条五項前段に違反し、同法八二条一号に該当する。しかし、被上
告人B3の一〇月三一日の行為は、いまだこれをもつて怠業行為を企て又はその遂
行を共謀し、そそのかし、あおつたものと認めるには足りず、また、前述の理由に
より、被上告人B3、同B1の一一月一日の行為を人事院規則一四―一第三項後段
に、被上告人B3、同B1の一一月二日の輸出為替課における行為を国公法一〇一
条一項、人事院規則一四―一第三項前段に、被上告人B2、同B3の一一月二日の
鑑査第一部門における行為を人事院規則一四―一第三項後段に違反するとして、国
公法八二条三号を適用する余地はない。
 (4) 前記一の(四)の被上告人らの行為は、国公法九八条五項後段に違反し、同
法八二条一号に該当する。しかし、前述の理由により、国公法一〇一条一項、人事
院規則一四―一第三項前後段に違反するとして、国公法八二条三号を適用する余地
はない。
 (二) 国公法九八条五項は、国家公務員の争議行為を一律全面的に禁止したもの
ではないこと、禁止される争議行為と許される争議行為との限界の判断はむずかし
いこと、特に時間内にくい込んだ職場集会の許されるかどうかの限界の判断はむず
かしいこと、本件行為の態様、被上告人らの組合における地位、本件行為当時の社
会情勢等、諸般の事情を考慮すれば、被上告人らの懲戒処分の前歴を考え合わせて
も、懲戒免職処分をもつて臨むのは、社会観念上著しく妥当を欠くと認められるか
ら、本件処分は裁量の範囲を超えたものとして違法というべきである。よつて、本
件懲戒免職処分は取り消されるべきものである。
 三 上告理由
 論旨は、要するに、原判決には次の違法があり、その違法は判決に影響を及ぼす
ことが明らかである、というのである。
 (一) 前記一の(三)の(1)の一〇月三一日の為替課における被上告人B3の行為
は、これをもつていまだ国公法九八条五項後段の怠業行為を企て、又はその遂行を
共謀し、そそのかし、あおつたものと認めるに足りないとした点において、国公法
九八条五項の解釈適用を誤つたものである。
 (二) 前記一の(二)ないし(四)の被上告人らの行為(ただし、一〇月三一日の為
替課における被上告人B3の行為を除く。)について、これらの行為が国公法九八
条一項、一〇一条一項、人事院規則一四―一第三項に違反せず、したがつて、右法
令に違反するものとして国公法八二条一号に該当するものではなく、また、国公法
八二条三号に該当しないとしたのは、これらの法令の解釈適用を誤つたものである。
 (三) 前記一の(一)ないし(四)の被上告人らの行為(ただし、被上告人B3の一
〇月三一日の為替課での行為を除く。)は、国公法八二条一号又は三号に該当する
としながら、免職処分を選んだのは裁量権の範囲を逸脱するものとした点において、
国公法八二条の解釈適用を誤り、ひいては行政事件訴訟法三〇条にも違反するもの
である。
 四 当裁判所の判断
 (一) 一〇月三一日の輸出為替の職場における被上告人B3の行為について
 税関の輸出業務担当の部課の組合員である職員が、組合の人員増加要求を貫徹す
るために、処理件数を低下させ業務の正常な運営を阻害することは、争議行為(怠
業)にあたるというべきであるところ、前記一の(三)の(1)の事実によれば、一〇
月三一日の輸出為替の職場における被上告人B3の行為は、少なくとも、争議行為
の遂行をそそのかし、あおつたものというべきであり、国公法九八条五項後段に違
反し(なお、同項が憲法二八条に違反しないことは、後述のとおりである。)、同
法八二条一号に該当するといわなければならない。これと異なる原審の判断は、ひ
つきよう、右規定の解釈適用を誤つたものというべきである。
 (二) 国公法九八条五項と同法九八条一項、一〇一条一項、人事院規則一四―一
第三項、国公法八二条一、三号との関係について
 国公法九八条五項と同法九八条一項、一〇一条一項、人事院規則一四―一第三項
とは、その構成要件において完全に互いに他を包摂し又は他に包摂される関係に立
つものではなく、また、国公法九八条五項の保護法益は、主として国民全体の共同
利益であり、その他の規定のそれは、公務運営の適正と能率の確保を目的とする国
の公務運営上の諸利益であつて、両者の規定の趣旨、目的は必ずしも同一でないば
かりでなく、国家公務員は、私企業における労働者と異なつて争議行為を禁止され、
争議行為中であることを理由として、当然に、上司の命令に従う義務(国公法九八
条一項)、職務に専念すべき義務(同法一〇一条一項)、勤務時間中に組合活動を
行つてはならない義務(人事院規則一四―一第三項)等を免れない。したがつて、
職員の行為が争議行為禁止規定(国公法九八条五項)に違反する場合であるからと
いつて、右行為は、国公法九八条一項、一〇一条一項、人事院規則一四―一第三項
の違反となることを妨げられるものではなく、右規定違反として国公法八二条一号
に該当し、また、行為の態様により同条三号に該当することもありうるものと解す
べきである。これを本件についてみると、次のとおりである。
 (1) 前記一の(二)の(1)、(2)の被上告人らの行為のうち、被上告人らが、上
告人の警告及び執務命令を無視して職場集会を行い、集会を積極的に指導したこと
は、国公法九八条一項、同条五項前後段、一〇一条一項、人事院規則一四―一第三
項前後段に、一〇月五日の庁内デモ行進に参加しシユプレヒコールを指導し、ある
いは隊列を指導したことは、国公法九八条五項前後段(被上告人B3がデモ行進を
提案したことは同項後段)、一〇一条一項、人事院規則一四―一第三項前段に違反
し、いずれも国公法八二条一、三号に該当する。
 (2) 前記一の(三)の被上告人らの一一月一日の輸出為替課における行為は、国
公法九八条五項後段、人事院規則一四―一第三項後段に、被上告人B3、同B1の
一一月二日の輸出為替課における行為は、国公法九八条五項後段、一〇一条一項、
人事院規則一四―一第三項前段に、被上告人B2、同B3の一一月二日の鑑査第一
部門における行為は、国公法九八条五項前段、人事院規則一四―一第三項後段に違
反し、いずれも国公法八二条一、三号に該当する。
 (3) 前記一の(四)の被上告人らが超過勤務撤回願を一せいに提出するように勧
しようした行為は、国公法九八条五項後段、一〇一条一項、人事院規則一四―一第
三項前段に、超過勤務につくべき職員を三階講堂に集結させ午後一時三〇分から二
時五分ころまで同人らによる通関業務を妨げた行為は、国公法九八条五項後段、人
事院規則一四―一第三項後段に違反し、いずれも国公法八二条一、三号に該当する。
 しかるに、右と異なり、国公法九八条一項、一〇一条一項、人事院規則一四―一
第三項に違反するとされる行為が争議行為である場合には、その規制は専ら国公法
九八条五項によつてされるべきであり、右規定違反として国公法八二条三号を適用
する余地はないとした原審の判断は、ひつきよう、これらの法条の解釈、適用を誤
つたものといわなければならない。
 (三) 裁量権の範囲の逸脱について
 公務員に対する懲戒処分は、当該公務員に職務上の義務違反、その他、単なる労
使関係の見地においてではなく、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務
することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわ
しくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、
科される制裁である。ところで、国公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲
戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分
を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(七四条一項)を定め、
平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反しては
ならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。したがつて、懲
戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、
影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選
択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処
分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、
を決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広
範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、
都下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な
結果を期待することができないものといわなければならない。それ故、公務員につ
き、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処
分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解
すべきである。もとより、右の裁量は、懇意にわたることを得ないものであること
は当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会
観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認め
られる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないも
のというべきである。したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつて
は、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかな
る処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較して
その軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観
念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判
断すべきものである。
 右の見地に立つて、原審が確定した事実に基づき、本件処分が社会観念上著しく
妥当を欠くものと認められるかどうかについて検討する。
 まず、八月一九日の抗議行動については、Dの処分につき税関当局側の態度が組
合員を納得させるものでなかつたことが執ようかつ激しい抗議活動を誘発した原因
の一つとなつていたとしても、原判決もいうように、当局は根拠なくDの行動に疑
いを抱いたわけではないことがうかがわれ、その根拠の公表を強く迫つた本件抗議
活動の態様は明らかに行き過ぎであり、殊にその際における被上告人B1の言動は
甚だしく乱暴であつて、その情状は決して軽いものではない。次に、一〇月五日、
二六日の職場集会等は、職場離脱の時間がそれほど長時間にわたるものではなく、
また、そのため業務処理が遅れ具体的に問題が生じたことがなかつたとしても、公
共性の極めて強い税関におけるものであり、職場離脱が一部の職場だけではなく全
体で行われたこと、しかも、それが当局の再三の警告、執務命令を無視して強行さ
れたことも、軽視することができないところである。更に、一〇月三一日から一一
月二日までの人員増加要求活動は、繁忙期における執務状態に基因し、職場からの
強い要求があり、人員増加要求の目的自体は正当であつたとしても、繁忙期以外は
休暇をとれないというほどではなく、一か月を平均すれば神戸税関だけが特に繁忙
といえない状態であり、大蔵省関税当局も当時人員増加の要求に力を入れ、他省庁
に比較してかなりの増員を獲得し、神戸税関にも多数の配分があつたというのであ
つて、本件の行為は、繁忙期において輸出関係書類の処理件数を低下させ、残件が
増加したところで超過勤務を妨害し、重点審査が指示されるやそれをも妨害すると
いう悪質な一連の業務処理の妨害であり、人員不足を認識させる方法として正当と
はいいがたいものである。また、従前いわゆる梅干事件があり重点審査につき職員
に不安があつて文書にすることを要求したものであつたとしても、梅干事件は収賄
の疑いから取調べがされたものであつたのに対し、本件は上司の指示によるもので
あつて、両者は同一には論じられないものというべきであり、従来も職員各人の責
任で重点審査が行われていたというのであるから、本件の場合に限り文書にしなけ
れば不安であつたとは認められないし、また、本件行為により船積みができないと
いう最悪の事態は避けられたとしても、職場を混乱させ、一一月一日に処理すべき
分を二日に持ち越すという結果を発生させ、その遅延により業者に迷惑を及ぼし業
者の苦情が出るという影響は軽視することができないところであり、これらの活動
における被上告人らの行為の責任は重大であるといわなければならない。また、一
二月二日の超過勤務命令撤回闘争は、繁忙期の勤務状態に遠因があり、船積みする
ことができないという最悪の事態の発生はなかつたとしても、繁忙期における職場
離脱による超過勤務の拒否であつて、輸出関係全体に及び、ために業者からも抗議
が出ていたこと等を考慮すれば、その情状は軽いものということはできない。なお、
国家公務員の争議行為及びそのあおり行為等を禁止する国公法九八条五項の規定が
憲法二八条に違反するものではなく、また、公務員の行う争議行為に同法によつて
違法とされるものとそうでないものとの区別を認めるべきでないことは、当裁判所
の判例(昭和四三年(あ)第二七八〇号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七
巻四号五四七頁)とするところであるから、国公法八二条の適用にあたつても、同
法九八条五項により禁止される争議行為とそうでないものとの区別を設け、更に、
右規定に違反し違法とされる争議行為に違法性の強いものと弱いものとの区別を立
てて、右規定違反として同法八二条により懲戒処分をすることができるのはそのう
ち違法性の強い争議行為に限るものと解すべきでないことは、当然である。したが
つて、被上告人らに対する本件懲戒処分が裁量権の範囲を超えるかどうかの判断に
際して、原判決のように、禁止される争議行為と許される争議行為との限界の判断
がむずかしいこと、特に時間内にくい込んだ職場集会の許されるか杏かの判断がむ
ずかしいことを考慮に入れるべきでないことは、いうまでもないところである。
 前記の被上告人らの本件行為の性質、態様、情状及び被上告人らが日米安保条約
反対闘争で昭和三五年六月三度にわたり午前九時三〇分ころまでの勤務時間内職場
集会をしたことにより、同年七月被上告人B2が減給一〇分の一を二か月、同B3
が減給一〇分の一を三か月、同B1が戒告の各懲戒処分を受けていること等に照ら
せば、原審が挙げる諸事情を考慮したとしても、本件処分が社会観念上著しく妥当
を欠くものとまではいえず、他にこれを認めるに足る事情も見当たらない以上、本
件処分が懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用したものと判断するこ
とはできないものといわなければならない。これと異なる原審の判断は、ひつきよ
う、国公法八二条の解釈適用を誤つたものというべきである。
 (四) むすび
 原審の判断には右に述べた違法があり、右の違法は判決の結論に影響を及ぼすこ
とが明らかであるから、論旨は理由がある。
 第二 結論
 以上の次第で、原判決中上告人敗訴部分は、破棄を免れない。そこで、更に、右
部分について判断するに、原審が確定した本件処分説明書の処分理由の記載に照ら
せば、本件処分説明書には本件処分を違法とする手続的瑕疵はなく、また、前述し
たところによれば、被上告人らは国公法八二条一、三号の懲戒事由に該当する(な
お、当裁判所も八月一九日の被上告人B1の行為は国公法八二条三号に該当すると
認める。)ところ、本件処分は右懲戒事由にあたることを理由として行われたもの
と解されるから、なんら不利益取扱いの禁止に違反するものではなく、また、前述
のように本件処分は懲戒権の範囲を超えこれを濫用したものということはできない
のであるから、本件処分に被上告人ら主張の違法はなく、その取消を求める被上告
人らの本訴請求は、理由がない。したがつて、これと判断を異にする第一審判決を
取り消し、被上告人らの請求をいずれも棄却すべきである。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、九六
条、八九条、九三条に従い、裁判官環昌一の反対意見があるほか、裁判官全員一致
の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官環昌一の反対意見は、次のとおりである。
 私は、被上告人らのように国公法の適用のもとにあつて行政事務に従事する公務
員(以下単に「公務員」という。)に対して懲戒処分をしようとする場合に、その
処分事由とされる当該公務員の行為が、職員の団体(以下便宜「組合」という。)
の団体行動その他の行動に関連してなされたものであるとき、そして特に懲戒処分
のうち免職処分を選択しようとするときには、以下にのべるような特別の考慮が要
請されるのであり、本件においてこのような考慮をすると、多数意見とは反対の結
論にいたらざるをえないと思う。
 一 公務員は、国民全体の生存の確保のため片時も停廃することの許されない、
いわば国民全体の共同の事務である行政事務を処理することによつて国民全体に奉
仕するものとして、国民によつて選定されるものである。公務員も、憲法二八条に
いう勤労者にあたるものであるが、右のようなその職務の極めて高い公共性に由来
する特殊な性格をもつているため、そのいわゆる労働基本権については、これに内
在するものとしての制約が存するのであり、国公法等の公務員関係法令中に定めら
れている、いわゆる正当な労働基本権の行使を制約する規定であつても前述の趣旨
に照らして合理的なものは適憲であると考えられる。そして、国公法九八条一項、
二項(本件当時は旧九八条一項、五項)は、公務員が法令に従い上司の職務上の命
令に忠実に従わなければならないこと、同盟罷業等の争議行為や怠業的行為をした
り、これをあおつたりしてはならないことを定めており、これに違背した公務員は
労働基本権の保障を理由とする民事上の免責を主張することができず、政府はこれ
に対して同法八二条の定めるところにより懲戒処分をすることができ、かつ、その
処分の種類、程度は原則として処分権者と定められている者の合理的な裁量にゆだ
ねられているものと解せられるが、このような労働基本権の制約は合理性を欠くも
のとは考えられない。各個の公務員たる職員は、前記のようなその職務の高い公共
性とその遂行の重い責務を認識した上、その基本権には右のような制約があること
を前提として、自らの意思によつて公務員となり政府と労使関係に立つにいたつた
ものであるから、このような制約に服すべきであることは当然である。しかし、そ
うだからといつて、公務員についてその憲法上の勤労者としての生存権を確保すべ
き要請の存することもまた否定することはできないから、組合やその役員が使用者
たる政府の当局者に対して労働条件や当局の労働関係上の処置などについて、抗議
したり、不満の意思を表明したり、是正や改善と考えられるところを申入れて認識
や理解を求めたりするなどの行動をすることは、前記の制約に反せず、かつ節度を
こえるものでない限り禁止されるものではなく、当局としてはこれに誠実に対応す
ることが要請されているというべきである。その意味では、公務員の労使関係は、
高度の相互信頼の上に成り立つているものと解せられる。
 二 このように公務員と政府との関係には、公務員の地位の特殊性に基づく特別
の関係としての面と実質上雇傭契約に類する合意の存在に基づく労使関係としての
面とがあり、公務員の地位と職務内容に応じて、特殊性の面が特に強いとみられる
ものから、一般私企業の従業員と変らない労使関係にあるとみられるものまでが存
在するから、前述の信頼関係にもまたこれに応じてその性質、程度に差異があると
考えられるが、懲戒処分に関する規定は主として右にのべた労使関係の側面におい
て働くものであると思う。そして、前記のように組合の行動に関連する職員の行為
についてされる懲戒処分は、その行為を職務の不履行や右の信頼関係をそこなう非
行などにあたるものとしてされる不利益処分(制裁)であつて、その本来のねらい
は、その不利益のもつ抑止力によつて当該職員に対し将来を戒め再び右のような行
為をすることによる公務の停廃を防止しようとするところにあると考えられる。従
つて、国公法八二条に定める懲戒処分のうち、停職、減給又は戒告の処分(以下「
停職等の処分」という。)のように、彼処分者に公務員たる地位を保有せしめたま
まなされる制裁が右のねらいに沿うものであることはいうまでもないが、これに反
して免職処分は、その性質上その抑止力によつて、当該職員に将来の職務の完遂を
期待するものでないことは明らかであり(副次的には他の職員に対する警告という
他戒的なねらいのあることは否定しえないところであるが)、その実質は、国公法
上身分を保障されている職員に対して、その義務の不履行や非行を原因とする労使
関係消滅の効果を伴ういわば使用者による一方的な解約権の行使であつて、次にの
べるような特別の不利益を伴うものであると解せられる。すなわち、今なおいわゆ
る生涯雇傭を通例とする我が国の労働事情のもとでは、通常の転職、勤務先の変更
等でさえ、勤労者にとつて収入や生活の安定その他の面でなみなみならぬ障害とな
るものであることは明らかであるが、ましてや懲戒処分を理由とする離職の場合に
は、その社会的信用の格別の失墜と相まつて再就職が著しく困難となることは見や
すいところである。のみならず、免職処分は、被処分者に対し退職手当金や恩給の
受給権について著しい不利益を伴うものであり(国家公務員退職手当法八条一項一
号、恩給法五一条一項一号、なお、国家公務員共済組合法九七条一項参照)、停職
等の処分のうち最も重い一年の停職処分に比べてその実質上の厳しさは同日の比で
はない。このようにみてくるといわゆるS事件判決(最高裁昭和四三年(あ)第二
七八〇号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁)が、「労働基
本権につき(中略)当然の制約を受ける公務員に対しても、法は、国民全体の共同
利益を維持増進することとの均衡を考慮しつつ、その労働基本権を尊重し、これに
対する制約、とくに罰則を設けることを、最少限度にとどめようとしている態度を
とつているものと解することができる」と判示するところにうかがわれる法の精神
は、懲戒処分に際し、右のようにその厳しさにおいて格別である免職処分を選択す
る裁量においても生かされるべきであつて、これを選択することには特別に慎重で
なければならないというべきである。
 以上のべたところから、私は、このような事案における懲戒処分が裁量権の範囲
をこえず適法であるとされるためには、当該職員の職務上の義務の違背や非行の程
度が重いというだけではなく、一般の事案における場合よりも特に慎重な配慮のも
とで、なおかつ、その行為を徴憑として当該職員が全体の奉仕者である公務員とし
ての自覚と責任感を著しく欠如することが明らかに認められるなど、労使間の前述
の信頼関係が失われその回復が至難であることが、客観的に十分な合理性をもつて
肯認できる場合でなければならないと考える。
 三 以上の見地から、原審の確定したところに基づいて、本件処分事由とされる
事実を、本件懲戒免職処分との関連でどのように評価すべきであるかを検討する。
 (一) 八月一九日の件について
 右の事案における被上告人B1の行為は、同機上告人ら組合員が、同じく組合員
である訴外Dに対する処分事由や処分にいたる経過について当局側に説明を求め、
かつ、抗議をした際行われたものであるが、同被上告人らの業務放棄の結果を伴つ
たものとはされていない。そして右Dに対する処分にいたるまでの経緯に照らして
みると、少なくとも同被上告人ら組合員が当局に説明を求めたり抗議すること自体
理由のない不当な行為であつたとまではいえないし、他方これに対する当局側の対
応が誠実なものであつたとはいい難い。もとより、原審認定のような当局側にもそ
の生起に責なしとしないと考えられる緊迫した事態のもとであつても、同被上告人
が原審認定のような暴言を吐いたり当局側の者の耳もとでマイクを使つたりしたこ
とは、特に組合の役員の地位にある者の行為として確かに節度をこえて違法かつ無
益無用のものであつたというべきではあるが、それは右のような事態のもとでの集
団心理によるところが少なくなかつたと考えられ、また、同被上告人が暴力その他
の物理力を直接あるいは組合員を指揮して行使させ当局側の者の退出を阻止したよ
うな事実までは認め難いところである。
 (二) (イ) 一〇月五日、二六日の件、(ロ) 同月三一日ないし一一月二日
の件、(ハ) 一二月二日の件について
 右(イ)(ロ)(ハ)の各日に行われた原審認定の被上告人らの各行動が、いず
れも業務の放棄を含み職場秩序を乱す違法なものであり、従つて、これに対して出
された当局側の職務上の命令は正当というほかはないから、被上告人らがこれに従
わなかつたことも違法であることを免れない。また、その間に行われた被上告人ら
組合員の具体的言動にも節度をこえ違法にわたるところが少なからずあつたことを
否定することはできない。
 しかしながら、その行動の内容、実質についてみると、右三件ともそれは窮極的
には使用者たる政府の労働政策ないし労働条件に関する組合としての抗議ないし不
満の意思の表明であり、神戸税関当局との関係では組合の要員不足の主張に基づい
た、抗議等の意思の表明を中心とするものであつたとみるべきものである。そして、
原審認定の次のような事情、すなわち昭和三六・三七年度において相当数の増員が
行われ神戸税関にもかなり多数の配分があつたことから同税関当局も人員増加の必
要性を認め、これを要求していたものと推測されること、横浜税関に比べても神戸
税関の処理事務が特に繁忙であつたとはいえない状態であつたことなどを考慮して
みても、組合がそれでもなお要員不足が解消されないとして、当局に不満の意思を
表明し、その認識を求める必要があると考えたことが必ずしも不当であるとはいえ
ないし、他に従来の当局のこれに対する対応等の関連から、このような意思の表明
をすること自体が不当ないし不必要なものであつたとするに足る特別の事情の存在
も認め難い。また、前記(イ)の事案はもともと組合がH労組本部の指令に従つて
したものであつて、始業時を選び、実質的に比較的短時間の業務放棄に制限して行
動していること、(ロ)の事案において当局のいわゆる重点審査の指示に対し、被
上告人らがその文書化を要求したのも、もともと組合員たる職員の被上告人ら役員
に対する要請に端を発したものであり、その経緯からみて怠業行為の引延ばしや当
局に対するいわゆるいやがらせのねらいをもつてされたものとまで認めることは相
当でなく、また、右の事案では一部分を除いて結局仕事はその日のうちにほぼ処理
されていること、(ハ)の事案においても、被上告人らは結局組合員をして超過勤
務命令に服させたため、その日の仕事の処理は終つていることなどの諸事情にかん
がみると、被上告人らが組合の役員としてその職務の高い公共性を認識して国民に
対する影響を大きくしないようそれなりに配慮し自制したことをうかがうことがで
きる。なお、被上告人らその他の組合員の当局との折衝、デモ行進、いわゆるシユ
プレヒコールなどにおける節度をこえ粗暴にわたる発言、振舞などは、すべて集団
行動時における附随的なものと考えられ、さきに(一)の事案における暴言について
のべたところと同様本件の本質的な考慮においてはこれをしかく重視すべきものと
も思われない。
 四 以上検討したところを総合して考えると、右の各事案における被上告人らの
それぞれの行為の情状、その国民に対する影響ひいては被上告人らの責任が、軽視
することを許されない重大なものであるとすることも理解できないではないが、被
上告人らが自らの職務の公共性に対する認識とその遂行に対する責任感とを著しく
欠くものであり、被上告人らの地位と職務内容に相応する労使間の相互の信頼関係
がもはや回復し難いと認められる程度にまで失われたとみることは、前記のような
慎重な考慮のもとでは、納得しがたいところである。のみならず、被上告人らの本
件処分の前の処分歴は、多数意見が拳示するとおり被上告人B2は減給一〇分の一
を二か月、同B3は減給一〇分の一を三か月、同B1については戒告の処分をいず
れも一回受けたというにとどまるのであるから、停職等の処分による抑止力に期待
することが不可能であり、今直ちに前述したような特別に厳しい免職処分によりこ
れを職場外に放逐するほかないとした上告人の裁量はあまりにも性急にすぎるもの
であつて妥当なものとは考えられない。従つて、被上告人らの本件処分事由とされ
る行為は、何らかの懲戒処分を受けるに値する違法なものであるとはいえ、これに
対してなされた本件懲戒免職処分を適法とする多数意見の結論には賛同し難く、原
判決はその結論において正当としてこれを是認することができるので、本件上告は
排斥を免れないものと考える。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    天   野   武   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    服   部   高   顯
            裁判官    環       昌   一

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛