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平成27年(行ウ)第29号行政処分取消等請求事件(第1事件)
平成28年(ワ)第140号国家賠償請求事件(国賠)(第2事件)
平成29年9月8日千葉地方裁判所民事第3部判決
口頭弁論終結日平成29年5月12日
主文
1千葉刑務所長が原告Aに対し平成27年4月8日付けでした原告Bへの信書
の発信を禁止する処分を取り消す。
2被告は,原告Aに対し,5000円及びこれに対する平成27年4月8日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。10
3被告は,原告Bに対し,3万5000円及びこれに対する平成27年4月8
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用のうち,原告Aと被告の間に生じたものは,これを2分し,その1
を原告Aの負担とし,その余を被告の負担とし,原告Bと被告の間に生じたも15
のは,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1第1事件
主文第1項と同旨20
被告は,原告Aに対し,50万円及びこれに対する平成27年4月8日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2第2事件
被告は,原告Bに対し,50万円及びこれに対する平成27年4月8日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。25
第2事案の概要
第1事件は,千葉刑務所に収容中の受刑者である原告Aが,千葉刑務所長が
原告Aに対し平成27年4月8日付けでした原告Bへの信書の発信を禁止する
処分が違法であると主張して,被告に対し,同発信禁止処分の取消しを求める
とともに,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償金50万円及びこれに対す
る同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求5
めた事案である。
第2事件は,原告Aと信書のやり取りをしていた原告Bが,千葉刑務所長が
原告Aに対して上記発信禁止処分を含め7回にわたり原告Bとの信書の発受を
禁止する処分をしたことはいずれも違法であると主張して,被告に対し,国家
賠償法1条1項に基づき,損害賠償金50万円及びこれに対する平成27年410
月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求
めた事案である。
1刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」
という。)の定め
刑事収容施設法126条は,刑事施設の長は,受刑者に対し,同法の規定に15
より禁止される場合を除き,他の者との間で信書を発受することを許すものと
定めている。
刑事収容施設法128条は,同条ただし書に該当する場合を除き,刑事施設
の長は,犯罪性のある者その他受刑者が信書を発受することにより,刑事施設
の規律及び秩序を害し,又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるお20
それがある者(受刑者の親族を除く。)については,受刑者がその者との間で信
書を発受することを禁止することができると定めている。
また,刑事収容施設法129条1項は,同法127条の規定による検査の結
果,受刑者が発受する信書について,その全部又は一部が「発受によって,受
刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき」(同法129条25
1項6号)など同項各号のいずれかに該当する場合には,その発受を差し止め,
又はその該当箇所を削除し,若しくは抹消することができると定めている。
2前提となる事実(争いのない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に
認められる事実)
当事者
ア原告Aは,平成15年12月25日,さいたま地方裁判所において,殺5
人,名誉毀損,住居侵入,恐喝及び強盗致傷の罪により,無期懲役に処す
る旨の判決の宣告を受け,平成18年9月20日,同判決が確定したこと
により,同年11月20日,千葉刑務所に収容され,同日以降同刑務所で
服役している。同判決では,原告Aが,C,D及びE(以下,C及びDと
併せて「共犯者3名」という。)と共謀の上,殺人及び名誉毀損の犯行を行10
ったものであり,原告Aが同各事件の首謀者である旨認定されている。な
お,上記殺人及び名誉毀損事件は,いわゆる「桶川ストーカー殺人事件」
として大々的に報道された。(乙1,17)
イ原告Bは,主に刑事事件を中心に取材活動をしているフリーのルポライ
ターである(甲3)。15
信書の発受禁止処分に至る経緯の概要
ア原告Aは,平成24年6月6日から,原告Bと信書のやり取りを開始し
た。信書の内容は,主として,桶川ストーカー殺人事件に関するものであ
り,原告Bは,原告Aに対し,共犯者3名へ取材を依頼する手紙を出した
こと,E及びDから返信があったこと,両名から少しずつ話を聞いている20
こと等を記載した信書を送っていた。
イ原告Bは,原告A,E及びDとの信書のやり取り等を基に,桶川ストー
カー殺人事件に関する記事を2本執筆し,それらは「冤罪FileNo.
19」(平成25年5月28日発行・発売)及び「冤罪FileNo.21」
(平成26年5月28日発行・発売)に掲載された。(甲1,2)25
ウ千葉刑務所長は,平成25年7月18日,原告Aに対し,刑事収容施設
法128条に基づき,原告Bからの信書(以下「本件信書1」という。)の
受信を禁止する処分(以下「本件処分1」という。)をし,その旨原告Aに
告知した(乙5)。
エ千葉刑務所長は,平成25年8月8日,原告Aに対し,刑事収容施設法
128条に基づき,原告B宛ての信書(以下「本件信書2」という。)の発5
信を禁止する処分(以下「本件処分2」という。)をし,その旨原告Aに告
知した(乙6)。
オ千葉刑務所長は,平成25年10月9日,原告Aに対し,刑事収容施設
法128条に基づき,原告Bからの信書(以下「本件信書3」という。)の
受信を禁止する処分(以下「本件処分3」という。)及び原告Bからの信書10
(以下「本件信書4」という。)の受信を禁止する処分(以下「本件処分4」
という。)をし,その旨原告Aに告知した(乙7,8)。
カ千葉刑務所長は,平成26年1月10日,原告Aに対し,刑事収容施設
法128条に基づき,原告Bからの信書(以下「本件信書5」という。)の
受信を禁止する処分(以下「本件処分5」をし,その旨原告Aに告知した15
(乙9)。
キ千葉刑務所長は,平成27年1月13日,原告Aに対し,刑事収容施設
法128条に基づき,原告Bからの信書(以下「本件信書6」という。)の
受信を禁止する処分(以下「本件処分6」という。)をし,その旨原告Aに
告知した(乙10)。20
ク千葉刑務所長は,平成27年4月8日,原告Aに対し,刑事収容施設法
128条に基づき,原告B宛ての信書(以下「本件信書7」といい,上記
ア~キの各信書と併せて「本件各信書」という。)の発信を禁止する処分(以
下,「本件処分7」といい,本件処分1~本件処分6と併せて「本件各処分」
という。)をし,その旨原告Aに告知した(乙11)。25
3争点及び当事者の主張
原告Bが,「受刑者が信書を発受することにより」「受刑者の矯正処遇の適
切な実施に支障を生ずるおそれがある者」(刑事収容施設法128条本文)に
当たるとして本件処分7をした千葉刑務所長の判断に裁量権の範囲を逸脱し,
又は濫用した違法があるか
(被告の主張)5
原告Bは,原告Aの意向に従って,共犯者3名と信書の発受をしていた。
共犯者3名は,刑事施設に収容されている「犯罪性のある者」であり,本来
原告Aとの外部交通が認められないものであるところ,原告Bは,D及びE
との信書の発受で得た両名の動向等を,原告Aへ伝達・仲介していた。そう
すると,原告Bが伝達・仲介することにより,原告Aと共犯者3名との間で10
交流が行われることになれば,受刑者の改善更生のため好ましくない社会関
係を遮断するという刑事収容施設法128条の趣旨を潜脱することになる。
また,原告Aは,真摯に受刑生活を送り,再び罪を犯さないよう,日々改
善更生に努めているとは到底いえない状況であるところ,原告Bとの信書の
発受の中で,本来は交流を許されない共犯者3名の動向に関する情報を提供15
するよう執拗に打診し,あるいは打診しようとしており,原告Bとの信書の
発受を継続した場合,共犯者3名の動向等に関する情報収集に執着するあま
り,矯正処遇の目標達成への真摯な取組について更に期待できなくなるとい
うべきである。したがって,原告Bとの信書の発受を許せば,原告Aの改善
更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる蓋然性があり,20
原告Aに対する適切な矯正処遇の実施のためには,原告Bとの交流自体を禁
止する必要性があった。
なお,刑事収容施設法128条と同法129条は,異なる観点からの規制
であって適用場面を異にしており,同法128条の措置による前提として同
法129条の措置を検討しなければならないものではない。25
よって,原告Bが,「受刑者が信書を発受することにより」「受刑者の矯正
処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」に当たるとして本件処分
7をした千葉刑務所長の判断に裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用した違法が
あるということはできない。
(原告Aの主張)
原告Bは,桶川ストーカー殺人事件の取材をする目的で原告A及び共犯者5
3名との信書の発受を行っており,共犯者3名との信書の発受で得た情報を
原告Aに伝達・仲介しようとしていたわけではないから,原告Bとの信書の
発受が刑事収容施設法128条の趣旨を潜脱する脱法行為であるということ
はできない。原告Bはジャーナリストであり,その属性からして,原告Bと
の信書の発受自体を禁止する必要はない。仮に信書の内容に問題があれば,10
同法129条に基づく差止め,削除等をすれば足りるから,信書の発受禁止
は必要かつ合理的な範囲を超えた規制というべきである。したがって,原告
Bとの信書の発受を許しても,原告Aの改善更生に放置することのできない
程度の障害が生ずる蓋然性はなく,原告Bは,「受刑者が信書を発受すること
により」「受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」に15
当たらないというべきであるから,本件処分7をした千葉刑務所長の判断に
は裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用した違法がある。
本件処分7は原告Aとの関係で国家賠償法1条1項の適用上違法か
(原告Aの主張)
本件処分7は違法であり,原告Aとの関係で国家賠償法1条1項の適用上20
違法である。
(被告の主張)
本件処分7は適法であり,千葉刑務所長が本件処分7をしたことに職務上
の義務違反はない。
本件各処分は原告Bとの関係で国家賠償法1条1項の適用上違法か25
(原告Bの主張)
原告Bは,「受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」
に当たらないから,本件各処分は刑事収容施設法128条本文の要件を充足
しない。
そして,千葉刑務所長は,本件各処分をするに当たり,憲法21条の精神
に照らし尊重される重要な権利である,原告Bの取材の自由に配慮すべき法5
的義務を負うところ,そのような配慮を全くしていないのであるから,本件
各処分は国家賠償法1条1項の適用上違法である。
(被告の主張)
国家賠償法1条1項の「違法」とは,国又は公共団体の公権力の行使に当
たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背すること10
をいい,公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と
当該行為をしたと認め得るような事情がある場合に限り,「違法」の評価を受
ける。そして,個別の国民との関係で職務上の法的利益を保護すべき職務上
の法的義務を負っていると認められなければ,当該個別の国民との関係で当
該公権力の行使が国家賠償法1条1項の適用上違法となることはない。15
刑事収容施設法126条及び128条は,受刑者の利益と刑事施設内の規
律及び秩序の確保等との調整を図り,一定の場合に信書の発受を禁止するこ
ととしたものであり,上記各規定が,受刑者との信書の発受を求める外部の
者の固有の利益と刑事施設内の規律及び秩序の確保等との調整を図る趣旨を
含むものと解すべき根拠はない。本件各信書の発受についても,千葉刑務所20
長が,刑事収容施設法128条に基づく拒否の判断に際し,原告Aの利益を
離れて,原告Bの固有の利益に配慮する義務を負うことはない。
また,本来信書の発受について上記のような制限を受けるべき立場にある
刑務所に収容中の受刑者に対し取材活動をする者が自由に信書を発受して取
材活動をすることが権利として保障されているとまでいうことはできず,刑25
務所長が,取材活動をする者の取材活動として行われる受刑者との信書の発
受に応ずべき法的義務は存在しない。本件各信書の発受についても,千葉刑
務所長が,原告Bの取材活動として原告Aとの間で行われるこれらの発受に
応ずべき法的義務は存在しない。
なお,本件各処分のうち本件処分7以外の処分も,刑事収容施設法128
条の要件を充足する適法なものである。5
したがって,本件各処分は原告Bとの関係で国家賠償法1条1項の適用上
違法であるということはできない。
千葉刑務所長に過失があるか
(原告らの主張)
本件各処分はいずれも刑事収容施設法128条の要件を充足しないもので10
あり,千葉刑務所長には過失がある。
(被告の主張)
否認ないし争う。
損害
(原告Aの主張)15
原告Aは,本件処分7により原告Bへの信書の発受が禁止されたことによ
り,報道機関との外部交通の機会を不当に奪われ,その表現の自由を過度に
制約され,強い精神的苦痛を感じた。この精神的苦痛を慰謝するために必要
な慰謝料は,50万円を下らない。
(原告Bの主張)20
原告Bは,本件各処分により,原告Aとの信書の発受が禁止されたことで,
原告Aに対して取材を行う機会を不当に奪われ,その表現の自由を過度に制
約され,強い精神的苦痛を感じた。この精神的苦痛を慰謝するために必要な
慰謝料は,50万円を下らない。
(被告の主張)25
争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提となる事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実
が認められる。
原告Bと原告Aの信書のやり取り5
ア原告Aは,平成24年2月23日付けで,冤罪File編集局に対し,
自己の冤罪を訴えるとともに,自己の再審に関する取材を依頼する旨を記
載した手紙を送付した(甲4)。
イ当時冤罪Fileに定期的に寄稿していた原告Bは,冤罪File編集
局での協議を経て,原告Aの取材を担当することになり,原告Aに対し平10
成24年6月1日付け信書を送付した。その信書には,原告Bは個人的に
以前から原告Aが主犯とされていることに疑問を感じていたこと,原告A
が再審請求をするのであれば,再審の動向や,捜査及び裁判の実態につい
て話を聞きたいと思っていること,当面は原告Bが冤罪Fileの担当記
者として,手紙などで色々と話を聞かせてもらいたいと思っていること等15
が記載されていた。(甲5)
ウ原告Aは,平成24年6月7日付けで,原告Bに対し,どんな質問にも
答えるつもりであること,共犯者達の証言は全てねつ造であること,F弁
護士が弁護人となって再審請求をしていること等を記載した信書を送付
した(甲6)。20
エ原告Bは,平成24年6月16日付けで,原告Aに対し,再審請求をす
るに当たり,新証拠としてどのようなものを考えているか,実行犯とされ
た人間は,原告Aの家族に対し宛てた手紙でどのようなことを書いている
のか,事件の真相はどういうことなのか等の質問を記載した信書を送付し
た(甲7)。25
原告Aは,平成24年7月5日付けで,原告Bに対し,上記原告Bの質
問に対する回答等を記載した信書を送付した(甲8)。
オ原告Aは,平成24年8月21日付け及び同年9月13日付けで,原告
Bに対し,「Dとも,手紙のやりとりをして下さい。」「Cになら?面会でき
るかもなので,会って下さい。」などと,D及びCに対する接触を促す記載
のある信書を送付した(甲11,12)。5
カ原告Bが平成24年9月25日付けで原告A宛てに送付した信書には,
「お父さんのほうにも,Dさんの手紙がいっぱい届いているようですね。
今度上京した時,時間がとれるようなら会わせて頂き,お話を聞かせて頂
くと共に手紙も見せて頂けるようお願いしておきました。その手紙の内容
次第では,この手紙自体が再審請求の無罪証拠になるのではないかという10
気がします。Aさんのほうに来ているDさんやEさんの手紙についても,
そうではないかと思います。また,Eさんですが,過去の報道を調べてい
たら,週刊文春でも,裁判で嘘をついたという告白をしているのですね(も
しも,この記事をご覧になられていないようでしたら,コピーを送らせて
頂きます)。お父さんのお話を聞く限り,Eさんがお父さんのほうに手紙を15
書いてきたのはお金目的みたいに思えますのでで,接触する際には注意が
必要だと思いますが,私もなんとか接触してみたいと思います。」,「Cさん
にも接触を試みてみたいと思います。」などと記載されていた。(甲13)
キ原告Aが平成24年10月16日付けで原告B宛てに送付した信書に
は,Cと「ぜひ文通してみて下さい」との記載があったが,抹消指導を受20
け,当該記載部分については抹消された(甲15,乙2の2・20頁)。
ク原告Bが平成24年10月31日付けで原告A宛てに送付した信書には,
「Dさんたちの手紙は具体的な内容はわかりませんが,Aさんを有罪に追
い込んだ証言を撤回する内容が書いてあるなら,再審の新証拠になりうる
のではないかと思います。その詳細については,また教えて頂けましたら25
幸いです。私もDさんたちには,手紙を書いてみます。」などと記載されて
いた(甲16)。
ケ原告Aが平成24年11月29日付けで原告B宛てに送付した信書には,
「他の連中と文通は進んでいますか?動きがあったら?私にも送って下さ
いませ。」などと記載されていた(甲17)。
コ原告Bが平成24年12月28日付けで原告A宛てに送付した信書には,5
「あと,他の連中の件ですが,原稿に追われていて,なかなか手紙を書け
ずにいました。仕事が遅くてすみません。これから全員にアプローチをか
けていきたいと思います。進展がありましたら,その都度,ご報告させて
頂きますね。」などと記載されていた(甲18)。
サ原告Bが平成25年1月14日付けで原告A宛てに送付した信書には,10
新年の挨拶のほか,「Eさん,Dさん,Cさんにも取材依頼の手紙を出して
おきました。何か進展がありましたら,またご報告させて頂きます。」など
と記載されていた(甲20)。この信書が原告Aに交付された同月19日頃
には,千葉刑務所において,今後共犯者からの伝言や情報仲介があれば禁
止とするとの方針が決められた(乙2の2・26頁)。15
シ原告Bが平成25年2月1日付けで原告A宛てに送付した信書には,原
告Aの再審請求書案に関することのほか,「あと,Eさん,Fさん,Dさん
に手紙を出したところ,とりあえず,Eさんからは返事をもらえました。
Eさんもまだ私の取材を受けるかどうか決めかねているようですが,とり
あえずもう一度手紙を書いてみたいと思います。また何か進展がありまし20
たら,ご連絡させて頂きます。」などと記載されていた(甲22)。
ス原告Aが平成25年2月8日付けで原告B宛てに送付した信書には,「話
しが,バラバラになりましたが...E,D,千葉にいる共犯,それぞれク
セがあり,たかり屋の策士の所もありますので,充分注意して,接して下
さいませ」などと記載されていた(甲23)。25
セ原告Bが平成25年2月10日付けで原告A宛てに送付した信書には,
「2月になってDさんからも手紙を頂きました。まだ取材を受けるかどう
か決めかねているようですが,はがきの短い文面から罪の意識に苦しまれ
ている思いのようなものが感じられ,感触は悪くないです。Eさんもそう
でしたが,やはりDさんのほうがより罪の意識が強い印象がありますね。
いずれにせよ,何か進展がありましたら,またご連絡させて頂くように致5
します。」などと記載されていた(甲24)。
ソ原告Bが平成25年2月21日付けで原告A宛てに送付した信書には,
「この16日,Eさんから二通目の手紙が届きました。手紙では,Aさん
の再審請求への協力について前向きな気持ちが力強く綴られており,やは
りEさんもAさんの件では長年,良心の呵責に苦しんでいたのだろうか・・・10
と感じましたが,私は甘いでしょうか?Eさんのことはあまり疑い過ぎず,
かといって何から何まで信じないように,うまくやりとりしていきたいと
思っています。」などと記載されていた(甲25)。
タ原告Bが平成25年3月1日付けで原告A宛てに送付した信書には,原
告Aが再審請求をしていることを記事にできないか冤罪Fileの担当者15
に相談してみること等が記載されていた(甲26)。
チ原告Bが平成25年3月8日付けで原告A宛てに送付した信書には,F
弁護士に取材依頼をしたことのほか,「Eさん,Dさんからはその後,一度
ずつ手紙をもらいました。二人共,『なんでも質問してください』とのこと
ですので,色々聞いてみたいと思います。二人に話を聞いたら,Aさんに20
も新たにお聞きしたいことが出てくるのではないかと思います。その際は
どうかよろしくお願い致します。」などと記載されていた(甲27)。
ツ原告Aが平成25年3月12日付けで原告B宛てに送付した信書には,
「共犯者達への質問で,追加で,絶対必要なので,以下,お願いします。
①私を悪く言うように,ユウドウしていた,警察検事達のやりとり,②な25
ぜ?殺人罪にすることに対して,嘘までついて,Aをおとし入れたのか?
③全ての件で,Gなど知らないととぼけ,全てAのしわざと,嘘をつき通
したりゆう,◎事件後Gと,何度も,ケイタイで話していた内容!本当の
話しを訊いて。◎私が公務員,消防職員なのも知っていたのに,私の事を,
ヤクザだと思っていたと,悪く言う事で,何のメリットがあったのか?(私
におどされたとゆうストーリーを作っていたのか?)以上のような事も,5
裁判で何も出ていないので」などと記載されていた(甲28)。
テ原告Aが平成25年4月23日付けで原告B宛てに送付した信書には,
再審請求に関することのほか,「彼らからの手紙は?どうですか?何か良い
事があったら,教えて下さいませ・・」などと記載されていた(甲31)。
ト原告Bが平成25年4月25日付けで原告A宛てに送付した信書には,10
原告Aの再審請求に関する記事を冤罪Fileに入稿したことのほか,「E
さん,Dさんとのやりとりですが,なかなかペースが上がらず,すみませ
んが,少しずつ続けさせて頂いています。Aさんとしては,二人のことは
一生許せないと思いますが,二人に本当のことを話してもらうためには,
偽証を問い詰めるようなやり方では逃げられるだけだと思いますので,彼15
らの言うことにも耳を傾けて,少しずつ本当のことを聞き出していきたい
と思います。そういう戦略でいきたいと思いますので,ご了承頂けました
ら幸いです。」などと記載されていた(甲32)。
ナ原告Aが平成25年5月7日付けで原告B宛てに送付した信書には,「共
犯者二人は,本当に,海千山千自分達の事しか考えてないようなやからで20
すが,Bさんなら,上手く,聞き出してくれると思っておりますので宜し
くお願い致します。」などと記載されていた。同信書では,共犯者3名は,
氏名が黒塗りされ,収容中の刑務所名で特定されていた。(甲33)
ニ原告Bが平成25年5月7日付けで原告A宛てに送付した信書には,「頂
いた手紙を拝見し,話しが行き違いになっているようにも思いますが,E25
さんやDさんからは少しずつ話しを聴かせてもらっています。私は現時点
では,Eさんが一人で暴走してしまったというのが,Hさん殺害に至る真
相ではないかと思い始めています。また,Dさんは,Aさんが首謀者であ
ると警察などから吹き込まれたことにより,本当にそう思い込んでいるの
ではないか・・・・・・という印象を受けています。いずれも現時点での見立て
に過ぎませんが(つまり,今後,考えが変わる可能性もありますが),少し5
ずつ真相に迫っていきたいと思います。」などと記載されていた(甲34)。
ヌ原告Bが平成25年6月7日付けで原告A宛てに送付した信書には,冤
罪Fileの5月号に記事が掲載されたことのほか,E,D及びCにも編
集部から同誌を一部ずつ送ってもらったこと等が記載されていた(甲36)。
ネ原告Aが平成25年6月13日付けで原告B宛てに送付した信書には,10
冤罪FileNo.19が届いたことへの礼,同誌に掲載された記事に対
する意見のほか,「現在,他の共犯者達は,Bさんに対して,どのような事
を語っているのか?かいつまんでもかまいませんので,私にも説明してく
ださいませんか・・本当の事を言っているのかどうか?私が一番知ってい
る事なので,お願いします。」などと記載されていた(甲37)。15
本件各信書の内容
ア平成25年7月3日付けの本件信書1(原告B作成,原告A宛て)(甲3
8)
本件信書1には,原告BがI弁護士に対し裁判記録の閲覧と取材の依頼
をした旨のほか,次のような記載があった。20
「3人との手紙のやりとりですが,Cさんは相変わらず音沙汰なしです
が,Eさん,Dさんとは細々とやりとりを続けています。
Eさんについては,冤罪Fileで書いた『AにもGにも指示を受けず,
自分が勝手にやったことだった』という内容の証言で一貫しています。い
やがらせ行為については,私が聞いていないこともあり話題に出ませんが,25
Eさんはいやがらせ行為のほうは関与していなかったのでしょうか?
Dさんは,非常に協力的ですが,憶測や伝聞に基づく話が多いですね。
たとえば殺害については,『(殺害の)指示はGではなく,Aからあったと
聞いています』などという書き方をします。私が受ける印象としては,D
さんは嘘をついているわけではなく,取り調べで刑事から吹き込まれた情
報などを信じてしまっているように感じます。Dさん自身,実は本当のこ5
とがよくわかっていないのではないかと私はにらんでいます。
実際,Eさんの話によると,Hさんの殺害はEさんが勝手にやったこと
で,Dさんは『顔を傷つけるだけ』と思いながら現場に立ち会ったようで
すから,Dさんが本当のことを何も知らなくても不思議ではありません。
いずれにしても,この2人の取り調べや裁判の証人尋問での証言内容に10
ついては,裁判記録に目を通し,確認しておきたく思います。それをしな
いと,この2人からいくら話を聞いても,真相に関する理解が進みにくい
と思えます。」
イ本件信書2(原告A作成,原告B宛て)(乙2の2)
本件信書2には次のような記載があった。15
「私が6月13日頃にB様にお手紙を出さしてもらってから本日まで
ご返事が来ないので・・・何かあったでしょうか?
もしも本が出て私との文通が不用になったとしてもどうかペンフレンドと
しても文通を続けていただけたら大変嬉しいのですが・・・」
ウ本件信書3(原告B作成,原告A宛て)(乙2の2,乙7)20
本件信書3には次のような記載があった。
「私の手紙が入らないという話,お父さんから聞きました。何か対策を
考えたく思います。大変ですが,がんばっていきましょう。引き続き,よ
ろしくお願い致します。」
エ平成25年9月6日付けの本件信書4(原告B作成,原告A宛て)(甲325
9)
本件信書4には次のような記載があった。
「ご連絡が滞り,すみません。
対応が遅くなってしまい恐縮ですが,私がAさんに出した手紙が届いて
いないという件について,どういう事情でそんなことになっているのか,
千葉刑務所に確認してみたく思います。5
なくなっているのか,なるべく詳しく教えて頂けないでしょうか?
千葉刑務所に確認の上,何らかの対処をしたいと思いますので,お手数
かけてすみませんが,どうかよろしくお願い致します。
裁判のことについては,事件のおおまかな流は分かりましたので,次は10
I弁護士から記録をもらい,詳細について理解を進めたいと思っています。
また事実関係をお聞きしたことも色々出てくると思いますので,今後と
もどうかよろしくお願い致します。」
オ本件信書5(原告B作成,原告A宛て)(乙2の2,乙9)
本件信書5には次のような記載があった。15
「今年は再び,手紙のヤリトチができるようにして,さらに面会もでき
るようにしたいですね。」
カ本件信書6(原告B作成,原告A宛て)(乙2の2,乙10)
本件信書6には次のような記載があった。
「J弁護士から連絡がありました。訴訟がんばりましょう。本年もどう20
かよろしくお願い致します。」
キ本件信書7(原告A作成,原告B宛て)(乙2の2,乙11)
本件信書7には次のような記載があった。
「大変ながらくお久しぶりです。お元気でやっているのは弁護士から訊
いておりますが,又,文通できる喜びで一杯であります。前回の冤罪ファ25
イルも見ました。さて,今年は更に共犯者とされる人間が2人も満期出所
いたしますので,Bさんの仕事が更に忙しくなると思いますが,なにとぞ
お力ぞえを今後とも宜しくお願い致します。」
同信書につき,千葉刑務所長は,再考するよう指導したが,原告Aは,
原状どおりでの発信を希望した(乙14)。
原告Bと共犯者3名との信書のやり取り5
ア契機
原告Bは,共犯事件では,言い分が共犯者同士で対立することが多いこ
とから,共犯者3名にも取材する必要性があると考えた。そこで,原告B
は,平成25年1月14日付けで,共犯者3名(当時,Cは千葉刑務所に,
Dは大分刑務所に,Eは宮城刑務所に収容中の受刑者であった。)に,原告10
Aが冤罪ではないかと疑っていること,関係者に話を聞きたいと思い取材
依頼の手紙を出したこと等を記載した信書をそれぞれ送付した。(甲40,
64,122,原告B本人)
イEとのやり取り
原告Bは,平成25年1月23日付けのEの信書を受け取った。同信書15
には,Eが原告Bと信書のやり取りをするに当たっての質問等が記載され
ていた。(甲65)
原告Bは,上記Eの信書に対し返信し,以降平成14年に週刊文春に掲
載されたEの手記について質問する手紙を送るなど,Eとの信書のやり取
りを始めた。原告B宛ての信書には,上記原告Bの質問(共犯者の関係,20
事件に至る経緯,事件時の状況,事件後の状況等)に対する答え等が比較
的詳細に記載されており,E宛ての信書には,原告Aの近況,Dの信書の
内容等が記載されていることもあった(甲66~79)。
原告Bは,本件処分1の後も,Eとの手紙のやり取りを続けた(甲80
~121)。冤罪FileNo.21に掲載された記事は,主としてEの信25
書の内容を基にしたものであった。
ウDとのやり取り
原告Bは,平成25年1月14日付けの信書で,Dに対し,取材を申し
込んだところ,同年2月2日付けで,DからCとEの立ち位置を教えてほ
しいとの信書を受け取り,同月8日付けで,Eと手紙のやり取りをしてい
ること等を記載した信書に,週刊文春に掲載されたEの手記を同封して送5
付した(甲41,42)。
その後,原告Bは,Dに対し桶川ストーカー殺人事件について質問する
内容の信書を送るなどして,Dと手紙のやり取りを続けていた(甲43~
52)。
原告Bは,本件処分1の後も,Dと信書のやり取りを続けていた(甲510
3~63)。
エCとのやり取り
原告BがCに宛てた平成25年1月14日付け及び同年3月25日付
けの各信書は,千葉刑務所長により受信を禁止する処分がされた(甲12
2,123,乙3,4)。15
原告Aの受刑状況及び矯正処遇の目標の達成度
原告Aの矯正処遇の目標として,①規則を遵守し,真摯な態度で受刑生活
を送ること,②犯した罪を深く反省し,日々被害者の冥福を祈り,しょく罪
に務め,罪を償うこと,③社会復帰を目指して忍耐強く地道に受刑生活に取
り組むことが掲げられている(乙12)。20
原告Aは,千葉刑務所において定められている既決被収容者遵守事項に違
反して懲罰を受けている。また,上記処遇目標の達成状況は,A(矯正処遇
の目標を達成している),B(矯正処遇の目標をおおむね達成している),C
(矯正処遇の目標を一部達成しているが不十分である),D(矯正処遇の目標
を少ししか達成していない)及びE(矯正処遇の目標を達成していない)の25
5段階で評価されるところ,平成18年12月から平成26年11月までの
8回にわたる原告Aの矯正処遇の目標の達成度は,上記①の目標についてC
評価7回,D評価1回,上記②の目標についてC評価5回,D評価2回,上
記③の目標についてC評価7回,D評価1回となっている。(乙20)
2争点(原告Bが,「受刑者が信書を発受することにより」「受刑者の矯正処
遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者」(刑事収容施設法128条本文)5
に当たるとして本件処分7をした千葉刑務所長の判断に裁量権の範囲を逸脱し,
又は濫用した違法があるか)について
判断枠組み
刑事収容施設法は,基本的には信書の発受の相手方の範囲を限定せず,一
般的に受刑者の権利として保障しつつ,同法128条は,その例外として,10
犯罪性のある者のほか,「受刑者が信書を発受することにより,刑事施設の規
律及び秩序を害し,又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそ
れがある者」と受刑者の間の信書の発受を禁止することができる旨定めてい
る。ここで,表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨,目的に鑑みる
と,「刑事施設の規律及び秩序を害し,又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に15
支障を生ずるおそれがある者」に当たるとして受刑者とその者との信書の発
受を禁止することができるのは,信書の発受の相手方の地位,経歴等の人的
属性,受刑者との関係のほか,受刑者の性向,行状,刑事施設内の管理,保
安の状況,当該信書の内容そのほかの具体的事情の下で,受刑者が信書の発
受という方法で当該信書の発受の相手方と交流すること自体を許すことによ20
り,刑事施設内の規律及び秩序の維持,受刑者の身柄の確保,受刑者の改善,
更生の点において放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性
があると認められる場合に限られると解するべきである。そして,上記の放
置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があるかどうか,及
びこれを防止するためにどのような内容,程度の制限措置が必要と認められ25
るかは,刑事施設内の諸事情に通暁し,直接その衝に当たる刑事施設の長に
よる個々の場合の具体的状況の下における裁量的判断にまつべき点が少なく
ないから,障害発生の相当の蓋然性があるとした刑事施設の長の認定に合理
的根拠があり,その防止のために当該制限措置が必要であるとした判断に合
理性が認められる限り,刑事施設の長の当該措置は適法として是認すべきも
のと解される(最高裁昭和58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号75
93頁,最高裁平成18年3月23日第一小法廷判決・裁判集民事219号
947頁参照)。
本件処分7の適否についての検討
アそして,被告の主張を踏まえると,本件処分7の適否については,原告
Bとの信書の発受を許すことによって,原告Aの改善,更生の点において10
放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があるとの千葉
刑務所長の判断に合理的根拠があるかどうかを中心に検討すべきことにな
る。
イそこで,まず原告Bの人的属性について検討すると,原告Bは,フリー
のルポライターであって,原告A及び共犯者3名と信書をやり取りするな15
どして桶川ストーカー殺人事件についての取材をしていたものであり(前
記認定事実),「犯罪性のある者」には当たらず,上記取材を始めるまで,
原告A及び共犯者3名との交流はなかったことがうかがわれる。
ウのとおり,原告Bは,原告Aと信書のやり取りをす
るほか,共犯者3名に対しても信書を送付し,そのうちE及びDとは信書20
のやり取りを行うようになった。前記認定のとおり,
原告Aは,原告Bに対し,複数回にわたり,共犯者3名への接触を促して
いるが,原告Bは,取材の対象としている桶川ストーカー殺人事件が原告
A及び共犯者3名の共犯事件であることから,共犯者3名にも取材を依頼
したものであって,事件の性質上自然な経緯であるといえ,原告Aの意向25
に従って共犯者3名に接触したと認めるに足りる証拠はない。
エサ~ソ,同チ,同ツ,同ネのとおり,原告Bは,原告A
宛ての信書において,共犯者3名に信書を送付したこと,E及びDから返
事があり,信書のやり取りを続けている旨記載していたこと,他方,原告
Aも,原告B宛ての信書において,上記両名に対し質問してほしいことや
上記両名とのやり取りについて教えてほしい旨記載していたことが認めら5
れる。他方で,原告Bは,後に,再審請求の中で,原告Aが,原告Bを通
じて,共犯者と口裏合わせをした等の疑念を抱かれることのないよう,E
及びDに対する取材の進歩状況等を抽象的に伝えるにとどめ,両名からの
信書の内容を逐一具体的に原告Aに伝えていたわけではなかった。原告B
は,原告Aの上記要望についても,「二人に本当のことを話してもらうため10
には,偽証を問い詰めるようなやり方では逃げられるだけだと思いますの
で,彼らの言うことにも耳を傾けて,少しずつ本当のことを聞き出してい
きたいと思います。」などと自分の取材の方針を伝えている(前記認定事実
。証拠上,原告Bが,E及びDに対して,原告Aの質問をそのまま記
載した信書を送った事実も認められない。15
この点,本件信書1にはE及びDの信書の内容が記載されている。その
内容についてみると,Eの証言は冤罪FileNo.19で書いたとおり
一貫しているなどと記載されているにすぎず,既に同誌は原告Aに対して
交付されていたことも併せて考えると,Eの動向についての情報を伝達・
仲介したと評価することは困難である。また,Dの情報についても,原告20
Bの事件に対する見方も交えながら,Dの信書のごく一部の内容を記載し
たにとどまるものといえる。原告Aからも信書のやり取りを通じて取材を
続けるという原告Bの意図からしても,不必要な記載であるとは断定でき
ず,これが原告A・共犯者3名間の情報を伝達・仲介する意図の下に行わ
れたとまでいうことはできない。本件信書1以外の本件各信書の内容につ25
いてみても,原告Bが,原告A・共犯者3名間の情報の伝達・仲介を担っ
ていたことをうかがわせる記載はない。これらの事情に照らすと,原告B
が,原告A・共犯者3名間の情報を伝達・仲介していたと判断したことに
ついて合理的根拠があったとはいい難い。
オそもそも,原告Aの原告Bとの信書の発受は,本件処分1まで1年以上
にわたり制限されていなかったのであるから,当該信書に共犯者三人の動5
向等に関する内容が記載されていることが原告Aの矯正処遇上の支障にな
り得るとしても,刑事収容施設法129条に基づく発受の差止め等で対応
することが十分可能であると考えられる。そうすると,上記のような記載
があったからといって,直ちに原告Bが信書で交流すること自体に問題の
ある人物と評価することに合理的根拠があるということにもならない。10
被告は,刑事収容施設法128条と同法129条は異なる観点からの規
制であり,同法128条の措置を執る前提として同法129条の措置によ
ることを検討すべきものではないと指摘するが,上記事実関係の下では,
千葉刑務所長が同法128条の措置を執ったことに合理的根拠があるかど
うかを判断する過程で,同法129条による対処が可能かどうかを検討す15
ることが,同法の解釈適用上妨げられるものではないというべきである。
カ被告は,原告Aが矯正処遇の目標達成への真摯な取組をしていなかった
ことを指摘する。確かに,原告Aの矯正処遇の
目標の達成状況が芳しくなかったことは認められる。しかし,原告Aは,
平成24年2月23日付け信書を冤罪File編集局に送付した時点にお20
いて既に冤罪を訴えており,犯した罪を深く反省し,
日々被害者の冥福を祈り,しょく罪に努め,罪を償うことという処遇目標
とは相容れない状況にあったのであり,本件処分1がされるまで,原告A
は1年以上にわたり原告Bと信書の発受をしていたところ,そのこと自体
が原告Aの矯正処遇の適切な実施にどのような支障を与えていたかについ25
ては証拠上明らかではなく,他に原告Bとの信書の発受を許すと原告Aが
矯正処遇の目標達成への真摯な取組について更に期待できなくなるような
状況であったとの評価を基礎付ける事実関係も認められない。
キそうすると,千葉刑務所長が,原告Bとの信書の発受を許すことによっ
て,原告Aの改善,更生の点において放置することのできない程度の障害
が生ずる相当の蓋然性があると判断したことについて合理的根拠があった5
ということはできない。
小括
よって,千葉刑務所長が,原告Bが「受刑者の矯正処遇の適切な実施に支
障を生ずるおそれがある者」に当たるとして本件処分7をしたことは,その
裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用したものであって,違法であるというべき10
である。
3争点(本件各処分は原告Bとの関係で国家賠償法1条1項の適用上違法か)
について
判断枠組み
ア国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員15
が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損
害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規
定するものであって,同項の適用上違法といえるためには,公務員が当該
行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に
違反したと認められることが必要である。20
イところで,刑事収容施設法は,基本的には信書の発受の相手方の範囲を
限定せず,一般的に受刑者の権利として保障しつつ,刑事施設の長は,被
収容者と外部の者との信書の発受を一定の場合に禁止し又は差止め等をす
る権限を有しているところ,当該施設の規律及び秩序の維持,被収容者の
矯正処遇の適切な実施等の観点からその権限を適切に行使するよう職務上25
義務付けられていると解される。そして,他人と信書の発受をすることは
表現の自由として憲法21条により保障されている重要な権利利益である
ことからすると,刑事施設の長が,刑事収容施設法128条の要件に該当
しない者との信書の発受を禁止した場合には,当該信書の発受の相手方と
の関係において,合理的な理由なく信書の発受を妨げられないという法的
利益を侵害するものであり,当該相手方に対して負う職務上の法的義務に5
違反するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法となるというべき
である。
ウ被告は,前記第2の(被告の主張)のとおり主張し,最高裁平成2
0年4月15日第三小法廷判決・民集62巻5号1005頁を引用する。
同判決は,弁護士会である原告が,人権擁護委員会の調査活動は法律上保10
護された利益であって,刑務所長が同委員会に対し受刑者との接見を許さ
なかったことは,平成17年法律第50号による改正前の監獄法45条2
項に基づく刑務所長の裁量権を逸脱又は濫用するものとして,国家賠償法
1条1項の適用上も違法となるなどと主張して損害賠償を求めた事案であ
り,上記監獄法45条2項は,受刑者については親族以外の者との接見を15
原則として禁止する一方,刑務所長において特に必要ありと認める場合は
これを許すこととしていた。そうすると,受刑者の信書の発受を原則とし
て許すものとしている刑事収容施設法の規定に基づいてされた信書の発受
の禁止の違法性が問題となる本件に直ちに当てはまる判断ではないと解す
べきである。20
また,被告が引用する大阪高等裁判所平成20年6月6日判決(乙19)
は,刑務所に収容中の受刑者のみが原告となり,刑事施設の長がした刑事
施設及び受刑者の処遇等に関する法律(平成18年法律第58号による改
正前のもの)95条に基づく受信の禁止処分は国家賠償法1条1項の適用
上違法であると主張した事案であるが,そもそも受刑者との関係において25
信書の受信を禁止する処分は法律上の要件を充足し,国家賠償法1条1項
の適用上違法ではないと判断されており,本件とは前提となる事実関係を
異にする。したがって,同判決における判示を直ちに採用することはでき
ない。
本件各処分についての検討
そして,本件各処分は,いずれも原告Bが「受刑者の矯正処遇の適切な実5
施に支障を生ずるおそれがある者」に当たるとしてされたものであるところ,
前記認定事実及び前記2で述べたところによれば,本件各処分は,いずれも
千葉刑務所長の裁量権の範囲を逸脱又は濫用してされたものであって刑事収
容施設法128条の適用上違法であり,原告Bとの関係においても,国家賠
償法1条1項の適用上違法であるというべきである。10
4Aとの関係で国家賠償法1条1項の適用上違法か),
について
前記2のとおり,本件処分7は違法であって取り消されるべきところ,前述
したところによれば,千葉刑務所長が本件処分7をしたことは,原告Aとの関
係で国家賠償法1条1項の適用上も違法であるというべきであり,そのことに15
ついて過失も認められる。そして,本件信書7の内容等前記事実関係に照らし,
原告Aの被った精神的苦痛に対する慰謝料は5000円と認めるのが相当であ
る。
また,前記3のとおり,千葉刑務所長が本件各処分をしたことは,原告Bと
の関係においても国家賠償法1条1項の適用上違法であるところ,前述したと20
ころによれば,そのことについて過失も認められる。そして,本件各信書の内
容等前記事実関係に照らし,原告Bの被った精神的苦痛に対する慰謝料は3万
5000円と認めるのが相当である。
第4結論
以上によれば,原告Aの請求は本件処分7の取消し並びに慰謝料5000円25
及びこれに対する平成27年4月8日から支払済みまで年5分の割合による遅
延損害金の支払を求める限度において,原告Bの請求は慰謝料3万5000円
及びこれに対する同日から支払済みまで上記割合による遅延損害金の支払を求
める限度において,それぞれ理由があり,その余は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官阪本勝裁判官野中伸子裁判官小橋陽一郎)

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