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裁判例


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       主   文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
1 主位的請求
 被告が平成12年8月31日原告に対してなした昼夜間独居拘禁に付する旨の処
分を取り消す。
2 予備的請求
 被告が平成13年8月31日原告に対してなした昼夜間独居拘禁の期間を更新す
る旨の処分を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,受刑中の原告が,被告から昼夜間独居拘禁処分及びその期間を更新する
処分を受けたものの,それらは違法である旨を主張して,それらの取消しを求めた
事案である。
1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,平成10年9月25日,京都地方裁判所において,現住建造物等
放火未遂,爆発物取締罰則違反等の罪により懲役12年の判決を受け,平成12年
1月5日,上記刑が確定し,同年3月9日,徳島刑務所に移監されて懲役刑の執行
が開始された。
 原告は,徳島刑務所において分類調査を経た後,行刑累進処遇令第4級に処遇さ
れ,昼間雑居・夜間独居拘禁に付され,同刑務所第8工場に配役された。
(2) 被告は,徳島刑務所分類審査会(以下「分類審査会」という。)の検討結
果に基づき,平成12年8月30日,原告を昼夜間独居拘禁処分に付する決定を
し,同月31日,原告にその旨を告知した上,独居房に収容した(以下「本件処
分」という。)。
(3) 被告は,分類審査会の検討結果に基づき,平成13年2月28日,原告に
対する昼夜間独居拘禁処分の期間を更新する処分をし,その後も3か月ごとに更新
して(以下,平成13年8月になされた期間更新処分を「本件更新処分」とい
う。),現在に至っている(弁論の全趣旨)。
2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 被告の主張
ア 監獄法15条は,拘禁方法につき独居拘禁を原則としている。これを受けて,
刑務所長は,受刑者の刑期,犯歴,性格,刑務所内における行状,他の受刑者との
関係,集団生活への適応の可否,施設内の保安状況等を総合的に考慮し,当該受刑
者に対するもっとも有効かつ適切な拘禁方法を決定することになるが,これは,行
刑に精通するとともに,豊富な経験を有し,当該受刑者の素質,行状等を熟知して
いる刑務所長の専門的かつ技術的な判断に委ねられているというべきである。
イ 原告は,他の受刑者に対し,自己の申立てにより刑務所内の処遇が改善されて
いる旨を吹聴するようになった。そこで,被告は,分類審査会における検討結果を
ふまえて,原告に対する本件処分を行ったが,その後も行状が改善されなかったた
め,さらに本件更新処分を行った。なお,原告の健康状態は,昼夜間独居拘禁に十
分耐えられるものである。
 よって,被告の本件処分及び本件更新処分は適法である。
(2) 原告の主張
ア 監獄法,同法施行規則及び行刑累進処遇令は,在監者の拘禁形態について,昼
間雑居夜間独居拘禁を原則とし,その次に昼夜間雑居拘禁を位置づけ,昼夜間独居
拘禁は,刑事施設の安全と秩序維持のため,特に必要のある場合にのみ認められる
例外的措置としているものと解される。そうすると,刑務所長が受刑者を昼夜間独
居拘禁に付するためには,刑務所施設の安全と秩序維持のため,受刑者を他の受刑
者らから隔離する必要のあることが要件となる。
イ 原告は,徳島刑務所へ移監された後,現在に至るまで,何らの規律違反も犯し
ておらず,他の受刑者らとの間でトラブル等が発生したこともないから,原告を他
の受刑者から隔離しなければならない必要性はない。一方,原告は,本件処分及び
本件更新処分により長期間にわたって昼夜間独居拘禁を強いられたため,腰痛が増
悪するとともに,自律神経失調症と認められる精神障害も発症し,心身が昼夜間独
居拘禁に不適当な状況にある。
 そうすると,被告の本件処分は違法であり,仮にそうでないとしても,少なくと
も,本件更新処分は違法である。
第3 当裁判所の判断
1 前記第2の1(2)(3)の各事実のほか,証拠(甲20ないし23のほか,
各項目の末尾に記載したもの)及び弁論の全趣旨によれば,下記の各事実を認定す
ることができる。
(1) 原告は,徳島刑務所入所後まもなくから,処遇の改善を求めたり,徳島刑
務所の医療措置や職員の言動に関してたびたび所長面接願せんを提出するなどした
上,他の受刑者に対し,自らの所長面接願せん等により,徳島刑務所における在監
者の処遇の見直しがされたなどと喧伝することがあった。原告は,そのほかにも,
刑務所職員を数回にわたって,特別公務員職権濫用罪で告訴したが,いずれも不受
理や不起訴処分で終わった(乙12)。
(2) 分類審査会は,平成12年8月30日,原告を集団処遇することは困難と
して,原告を昼夜間独居拘禁に付すべきものと判断し,被告も,この検討結果に基
づき,本件処分を行った。
(3) 原告は,本件処分に付された翌日の同年9月1日以降,昼夜間独居拘禁処
分に付されたために精神的に不安定な状態になり,パニック症候群を生じた,持病
の腰痛が悪化したなどとたびたび訴え,外部での自費治療を受けることを求めた。
原告は,同年12月27日までの間,前後十数回にわたり,徳島刑務所医務課長
(以下「医務課長」という。)や徳島大学附属病院精神科助教授(以下「徳大病院
助教授」という。)の診察を受けたが,口内炎や湿疹の症状が認められたものの,
そのほかに健康上の特段の異常はなく,徳大病院助教授によって,原告にパニック
障害はなく,精神障害や神経症は認められない旨の診断がされ,湿疹に対する軟膏
のほかに,原告の不安状態を緩和するために抗不安薬が投与された。なお,徳島刑
務所では,原告を含む第1舎収容受刑者に係る医務受付を,水曜日及び金曜日の週
2回実施している。
 一方,原告は,上記の間,1回当たり27分間の戸外運動の際には,腕立て伏せ
約150回,柔軟運動,背筋約70回,スクワット約30回を行うなどしていた。
 原告は,上記の間も,徳島地方検察庁あてに,刑務所職員を数回にわたって,特
別公務員職権濫用罪で告訴したほか,徳島刑務所の係官に対し,処遇改善を求める
旨の願せんを提出したり,自らの願い出により在監者の処遇内容が変更されたなど
と誇示することがあった(乙1ないし3,5,8,18)。
(4) 被告は,平成13年2月28日,原告の集団処遇は困難である反面,心身
に故障があるとは認められないとして,分類審査会の意見に基づき,昼夜間独居拘
禁処分の期間を更新することとした。
(5) 原告は,主として腰痛を訴えて,平成13年2月28日,同年3月9日,
同年4月25日及び同年5月28日,医務課長らの診察を受けた。その結果,原告
は,視力や下肢等の運動能力には異常が認められない旨の診断を受け,腰痛緩和の
ための湿布薬を処方された。
 一方,原告は,戸外運動のたびに,上記(3)のような運動を続けていた。
 また,原告は,徳島刑務所の係官に対し,処遇改善を求める旨の願せんを提出し
たり,自らの願い出により在監者の処遇内容が変更されたなどと誇示することがあ
った(乙2,3,6,9)。
(6) 被告は,平成13年5月23日,分類審査会の意見に基づき,原告に対す
る昼夜間独居拘禁処分の期間を更新することとした。
(7) 原告が徳島弁護士会に対して人権救済の申立てをしたところ,同弁護士会
は,平成13年7月24日ころ,被告に対し,原告を昼夜間独居拘禁から雑居拘禁
に速やかに移監するよう勧告した(甲19)。
(8) 原告は,精神障害があると言って精神科医のカウンセリングを受けさせる
ように求め,平成13年8月1日,医務課長の診察を受けたところ,過呼吸症候群
の可能性が高く,精神科医の診察の必要性はないと診断された。原告は,同月27
日,徳大病院助教授の診察を受けたところ,パニック障害は認められず,精神障害
ではなく,集団処遇は不適である旨の診断を受けた。
 一方,原告は,戸外運動のたびに,上記(3)のような運動を続けていた。
 また,原告は,徳島刑務所の係官に対し,処遇改善を求めて被告との面接交渉を
要求したり,独居拘禁は奴隷的拘束に当たると抗議したりした(乙2,4,7,1
0,11,13,14)。
(9) 被告は,平成13年8月30日,分類審査会の意見に基づき,原告に対す
る本件更新処分を行うこととした。
(10) 原告は,平成13年11月ころから平成14年1月ころまでの間,定期
的に戸外運動を行ったが,その内容はおおむね上記(3)と同様のものであり,腰
痛や心拍数増加といった体調不良を訴えたり,途中で運動の中止を申し出ることな
どはなかった。また,原告は,支給される日々の食事を残すことなく摂取していた
ばかりか,副食の量を減らされたと苦情を申し立て,これを願旨とする所長面接願
いを提出することがたびたびあった(乙15,16,20)。
(11) 原告は,現在は,独居房で,あぐらをかいた状態で手作業をしている。
また,原告は,週に2ないし3回くらい,1回当たり27分間の戸外運動をしてお
り,それを中止したことはない。
2 上記1の事実関係をふまえた上で,本件処分及び本件更新処分の違法性につい
て検討する。
(1) 監獄法15条は,在監者は,心身の状況により不適当と認められるものを
除くほか,これを独居拘禁(昼夜間独居拘禁)に付することができると定める。他
方,行刑累進処遇令29条本文は,第4級及び第3級の受刑者は原則として雑居拘
禁に付することと定め,同令30条本文は,同令の適用を受ける受刑者については
雑居拘禁が原則であり,また,第2級以上の受刑者については,夜間独居を原則と
すると定める。これら法令の規定や,昼夜間独居拘禁は本来社会的存在である人間
としての生活のあり方とはかけ離れた不自然な生活を強いるものであり,その継続
は受刑者の心身に有害な影響をもたらすおそれがあることをふまえると,受刑者の
処遇は,昼間雑居夜間独居を望ましい形態と予定しているものと解することができ
る。
 しかし,この昼夜間独居拘禁に付するか否かの判断は,監獄法施行規則47条が
「戒護上隔離の必要なもの」と規定していることなどに照らすと,行刑の専門的か
つ技術的事項に属し,もっとも事情に精通している刑務所長の裁量に委ねられてい
ると解するのが相当である。また,監獄法施行規則27条は,昼夜間独居拘禁処分
の期間は,特に継続の必要がある場合には3か月ごとにこれを更新することができ
るとするが,上記に説示したところによれば,その更新の必要性の判断もまた刑務
所長の裁量に属するものと解するのが相当である。
 したがって,昼夜間独居拘禁処分及びその更新処分については,当該刑務所長の
裁量的判断が,合理的な根拠を欠き,著しく妥当性を欠く場合に限り,裁量権の範
囲を逸脱ないし濫用したものとして,違法と評価されることになる。
(2) これを本件についてみると,上記1に認定した各事実によれば,原告は,
本件処分の前から,処遇改善のためなどとして所長面接願せんを提出し,刑務所側
が対応策をとるとそれがあたかも自らの手柄であるかのように喧伝する一方,自ら
の意のままにならないと,徳島刑務所の係官に対し,法的根拠を明らかにするよう
要求したり,訴訟の提起をほのめかしたり,あるいは職権濫用と主張して刑務所職
員の刑事告訴を繰り返すなど,他の受刑者と比較してもかなり特異な行動傾向を示
しており,そのような傾向は,本件更新処分時においても継続していたことが認め
られる。これらを前提とすると,原告を雑居拘禁に付した場合には,長期受刑者を
収容する徳島刑務所において,原告の上記のような行動傾向が他の受刑者に悪影響
を及ぼすおそれがあることは否定できず,施設内の規律及び秩序の維持,ひいては
集団処遇にも支障が生ずることが十分に予想される。そうすると,本件処分及び本
件更新処分時において,行刑上,原告を昼夜間独居拘禁に付する必要性があったこ
とは否定できず,被告の本件処分及び本件更新処分について,合理的な根拠を欠く
とか,著しく妥当性を欠くなどとみることはできない。
 次に,上記1に認定した各事実によれば,原告は,本件処分後も,平成13年8
月ころ,過呼吸症候群と診断されたほかには,特段の身体の不調があるとかパニッ
ク障害その他の精神障害が生じているなどとは診断されていない一方,徳島刑務所
に入所して以来,戸外運動の際には欠かさず屈伸運動等を積極的に行い,その際に
は身体の不調を訴えることもなく,毎日の食事もすべて摂取していることが認めら
れる。これらを前提とすると,原告には,昼夜間独居拘禁に耐えられないほどの心
身の故障があるとは認められない。この点,原告は,腰痛の増悪や自律神経失調症
の発症の原因が,昼夜間独居拘禁にある旨を主張する。しかし,原告のこれらの症
状については,徳島刑務所においてその都度適切に対処していることが認められ,
その他上記認定の諸事情に照らせば,原告のこれらの症状を考慮しても,なお,刑
務所内における規律維持のために原告を昼夜間独居拘禁に付する必要性が否定でき
ないとの上記結論は,左右されるものではない。
 そうすると,被告の本件処分及び本件更新処分に違法はない。
第4 結語
 よって,原告の本件主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がないからこれら
を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法
61条を適用して,主文のとおり判決する。
徳島地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官 村岡泰行
裁判官 石垣陽介
裁判官 千賀卓郎

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