弁護士法人ITJ法律事務所

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    主       文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
 (1) 原判決を取り消す。
(2)被控訴人は,控訴人に対し,5851万9846円及びこれに対する平成11
年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(控訴人は附帯請求の割合につき当審において年5分と請求の減縮をし
た。)
  (3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
(4) 仮執行の宣言
 2 被控訴人
   主文と同旨
第2 事実関係
   本件は,被控訴人の発行する岐阜新聞の販売店であった岐阜新聞東部販売
所(以下「本件販売店」という。)を経営するA(以下「亡A」という。)が,被控訴
人から本件販売店の注文部数を超えて新聞の送付をする「押し紙」によって
損害を受けたとして,不法行為に基づく損害賠償として5851万9846円及
びこれに対する訴状送達の翌日である平成11年7月25日から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたのに対し,被
控訴人が,これを否認して,むしろ亡Aは実販売部数に一定の予備紙等を加
えた部数を超えて注文することにより利益を上げる「積み紙」をしていたもの
である等と争った事案である。
   原判決は,被控訴人の行為が「押し紙」であっても,直ちに不法行為となるわ
けではなく,亡Aは,本件販売店が受取る奨励金や折込広告料等も考慮した
上で,利害得失を自ら決断して,異議を述べず,代金を支払っていたから不
法行為とはならない旨など判断して,請求を棄却した。
   これに対し,亡Aから本件控訴がなされ,同人の死亡により妻である控訴人
が訴訟承継したものである。
1 証拠(甲1及び2,72,乙1,3ないし5,13,証人B,同C,同D,A本人)及び
弁論の全趣旨により容易に認められる事実
 (1) 亡Aの父Eは,昭和33年ころ,被控訴人(当時の商号は株式会社岐阜日
日新聞社)との間において,一定地域内で被控訴人の発行する新聞を専
属的に販売する新聞販売店契約を締結した。
    亡Aは父の死亡後,昭和60年4月1日,それまでの契約を引き継ぐ形で,
被控訴人と新聞販売店契約(以下「本件販売店契約」という。)を締結し,
以来,同人は,本件販売店を経営して,被控訴人からその発行の新聞を
購入し,これを戸別配達の方法で販売してきた。
 (2) 亡Aは,平成9年4月ころから,アルコール中毒及び精神病により入退院を
繰り返すようになり,その間,本件販売店の経営は実質上同人の妻である
控訴人が行ったものの,購読者の一部から,新聞の不配,遅配,雨天時の
新聞の濡れ,集金の誤り等の苦情が被控訴人や他の被控訴人の新聞販
売店にあり,本件販売店の経営改善や亡Aに代わる後継者問題につい
て,被控訴人担当者と控訴人間の話合いが持たれた。しかし,これらの話
が進展しないうちの平成11年2月か3月ころ,亡Aから被控訴人取締役F
に対して,「アダルトの裏ビデオをあげるから,紙を切ってくれ。」との旨の
電話がなされた。被控訴人は,このような,異常ともいえる申出をして減紙
を要請する電話を受けて亡Aに対する不信感を募らせ,同年4月,控訴人
や同人と亡Aの長男Dと本件販売店の経営改善,後継者問題について話
をしたが,結局,被控訴人が望むDは後継者となることを辞退し,控訴人が
後継者となる意向を示した。被控訴人は,控訴人が亡Aに代わって実質的
に本件販売店の経営をしている間にも上記のごとき苦情があること等か
ら,控訴人が後継者となることは困難であるとして,亡Aに対し,同年5月7
日付け内容証明郵便で,同年6月10日をもって本件販売店契約を解除す
る旨の通知をなした。
 (3) 亡Aは,本訴に先立ち,本件販売店について地位保全,新聞の供給,被控
訴人による同販売店の営業の妨害禁止を内容とする仮処分命令の申立て
をしたが,却下されたことから,即時抗告を申立てた。そして,同抗告審に
おいて,平成11年10月1日,同年6月10日をもって本件販売店契約が解
除されたことを確認し,この契約に付随して差し入れられた預託金を被控
訴人は亡Aに返還するとともに解決金436万2500円を支払い,亡Aが本
件訴状請求の趣旨第1項(亡Aが被控訴人に対し本件販売店契約上の地
位があることの確認請求)を取り下げる内容の和解が成立し,実行され
た。
  (4) 亡Aは,本件訴訟を提起し,また,本件控訴をしたが,平成14年4月4日
死亡し,妻である控訴人が同人の本訴における地位を単独相続した。
2 争点1(「押し紙」の有無)
  (1) 控訴人
   ア 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」とい
う。)2条9項に基づく公正取引委員会昭和39年告示14号(新聞業にお
ける特定の不公正な取引方法,以下「本件告示」という。)は,新聞の発
行を業とするものが,新聞の販売を業とするものに対し,その注文部数
(新聞購読部数に予備紙等を加えたもの)を超えて新聞を送付する「押し
紙」を禁止している。
   イ 被控訴人は,亡Aに対し,平成6年から平成11年に亘って,同人が注文
している部数を超えて新聞を本件販売店に送付する「押し紙」を行った。
その内容は,別紙岐阜新聞割当購入一覧表(以下「別紙一覧表」とい
う。)のとおりであり,同一覧表の「残紙」欄部分が「押し紙」である。
  (2) 控訴人
   ア 被控訴人は亡Aに対し,「押し紙」をしたことはない。
   イ 亡Aは,「積み紙」を行っていたと考えられる。「積み紙」をすれば,被控訴
人に支払う代金は高くなっても,折込広告料及び奨励金が高くなり,ま
た,配達しないため配達費用が安くなり,亡Aが利得するものである。
 3 争点2(不法行為に該当するか否か)
  (1) 控訴人
   ア 「押し紙」は,独禁法及び関係規定に違反するものであるから,私法上直
ちに違法とはならないものの,特段の事情がない限り違法性が認められ
るものである。
     すなわち,「押し紙」が禁止されているのは,新聞発行を業とする新聞社と
新聞販売を業とする新聞販売店との契約上の地位が対等でなく,優越
的地位にある新聞社が注文部数を超えて新聞を送付し,販売店が不当
な処遇を受けやすいことからであるから,私法上も,原則として違法とな
り,不法行為に該当するものである。
   イ 亡Aは,被控訴人販売部長Bに「押し紙」を止めてくれるよう何度も要望し
ており,平成11年の,上記アダルトの裏ビデオをあげるから紙を切って
くれとの被控訴人取締役への電話も,言葉として適当でない部分がある
ものの「押し紙」を止めてくれとの趣旨である。
   ウ 亡Aが,「押し紙」分の代金を被控訴人に支払っていたことは,これを承諾
していたものではなく,「押し紙」を断ったりその分の代金を支払わないよ
うなことをすれば,被控訴人から本件販売店契約を解除されることにな
るからである。実際,亡Aが「押し紙」を止めてくれと上記電話等で述べ
たことにより,被控訴人から同年6月10日をもって本件販売店契約を解
除する通知を受けた。また,被控訴人から本件販売店への請求書(乙
8)に,「貴店が新聞部数を注文する際は,購買部数(有代)に規定の予
備紙等(有代)を加えたものを超えて注文しないでください。本社は,貴
店の注文部数を超えて新聞を供給することはいたしません。また,貴店
において本社の請求部数に疑義のある場合は,書面をもって翌月定数
日までに本社に申し出てください。」との記載がされているが,これをもっ
て亡Aが「押し紙」を承諾していたものと捉えることは誤りである。
     さらに,「押し紙」による本件販売店の被控訴人に対する支払増加分は,
折込広告料及び奨励金によって補填されるようなものではなく,かなり
の負担部分が残る。
   エ 以上のとおり,本件において,違法性を阻却するような特段の事情はない
から,被控訴人の上記「押し紙」は,不法行為に該当する。
  (2) 被控訴人
   ア 「押し紙」が独禁法及び関係規定において禁止されていることをもって,
直ちに私法上違法として不法行為となるものではない。具体的事実関係
に基づいて,損害賠償が認められるに至る程度の違法性が必要であ
る。
   イ 控訴人は,新聞社と新聞販売店とが対等ではなく,新聞社が優越的地位
にある旨主張するが,被控訴人と本件販売店との具体的取引関係の主
張に基づかない抽象的なものであり,無意味な主張である。被控訴人
は,業務区域を区分けして,本件販売店の区域内では亡Aに販売業務
を独占させ,奨励金も支払っており,被控訴人が優越的地位にありこれ
を本件販売店に行使するような実態ではない。被控訴人は,亡Aからア
ダルトの裏ビデオをあげるから紙を切ってくれとの電話を受けるまで,同
人から「押し紙」であることやこれを止めてくれとの指摘,要望を受けたこ
とはない。被控訴人が亡Aとの本件販売店契約を解除することに踏み切
ったのは,「押し紙」の指摘を同人から受けたことによるものではなく,購
読者サービス上の問題があったからである。すなわち,本件販売店契約
書(甲2)に「両者は互に新聞の公器性を尊重し新聞販売の特殊性に鑑
み左の通り契約を締結する」との記載があるが,新聞社は,業務区画を
分割して,その区域内につき担当販売店に業務を独占させており,岐阜
新聞の購読を希望する者は,担当販売店から配達して貰うほか殆ど有
効な手立てがなく,その担当販売店の購読者サービスが悪い(配達につ
いての不配,遅配,雨天時の新聞の濡れ,集金時のトラブル等)からと
いって,隣接販売店のサービスを受けるわけにはいかない。また,紙面
内容において,競争他社を凌駕していても,遅配が繰り返されたり,集
金にトラブルがあれば,競争他社に購読者を奪われてしまうことにもなり
かねない。新聞の公器性という観点から,購読者の存在を重視しなけれ
ばならず,販売店が購読者サービスを疎かにすることは,新聞社との信
頼関係を左右する重大な事由であり,この点について被控訴人から一
定の指示,指導を受けることは,本件販売店契約締結において,亡Aも
当然承知のことである。被控訴人は,亡Aが購読者サービスを疎かにし
ていること,その後継者として適当と思われるDが辞退したこと,控訴人
では経営責任を果たせないと考えられること等から,やむなく本件販売
店契約を解除したのである。
   ウ なお,被控訴人は,亡Aから増紙計画を出して貰い,十分その意向を聴
取して,無理のない増紙の要請をしているが,さらに販売店の意見を保
障するものとして,被控訴人から本件販売店への請求書(乙8)に,「貴
店が新聞部数を注文する際は,購買部数(有代)に規定の予備紙等(有
代)を加えたものを超えて注文しないでください。本社は,貴店の注文部
数を超えて新聞を供給することはいたしません。また,貴店において本
社の請求部数に疑義のある場合は,書面をもって翌月定数日までに本
社に申し出てください。」との記載をしているが,亡Aから何らの疑義や
異議はなかった。したがって,仮に「押し紙」ととられるようなことがあった
としても,亡Aはこれを承諾して代金を支払っていたものである。
   エ しかし,本件は実際は「積み紙」であり,亡Aは,折込広告料及び奨励金
の領得を考慮して行ってきたことを,被控訴人から,本件販売店契約の
解除通知を受けてから,解除の責任を転嫁するため「押し紙」の問題に
帰せしめようとしているにすぎない。
 4 争点3(損害額)
(1) 控訴人
  別紙一覧表の「割当購入部数」から「実販」と「2.6%超過」の予備紙等を
控除した「残紙」が「押し紙」であるが,これに被控訴人からの「奨励金」と
調整部数である「300部返金相当部分」を控除修正した「超過支払高」に
消費税を加えた,平成6年1月から平成11年4月までの合計5851万98
46円が損害額である。
(2) 被控訴人
争う。
別紙一覧表の「実販」部数の数値に疑義があり,予備紙等の割合も,サ
ービス紙や試読紙分が必要であることを考えると低すぎる。控訴人は,平
成2年の実販部数が朝刊で1600部であることを認めた上で,本件販売店
は被控訴人に1820部を電話で注文していたことも認めるとともに,これを
「押し紙」とは言わない旨原審において証言している。
亡Aは,「割当購入部数」に基づいて株式会社岐阜折込センター及び株
式会社岐阜新聞PRセンターから折込広告料の支払を得ていたのである
から,「残紙」部分については上乗せ領得をしていることになる。実販部数
が2500部でなく,約4割減の1500部ということになれば,広告料収入も
4割減ることになり,乙24の本件販売店折込料推移表のとおり平成6年か
ら平成11年までの間に,亡Aは4759万円余の折込広告料の上乗せ領得
をしていることになる。
これらによれば,仮に「押し紙」による過払い部分があったとしても,折込
広告料の上乗せ領得分を控除すると,控訴人の損害はない。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,控訴人の被控訴人に対する本件不法行為に基づく損害賠償請
求は,以下のとおり理由がないものと判断する。
 2 争点1(「押し紙」の有無について)
  (1) 独禁法2条9項に基づく本件告示は,新聞の発行を業とするものが,新聞
の販売を業とするものに対し,その注文部数を超えて新聞を送付する「押
し紙」を禁止しており,同告示の実施要綱は,「押し紙」に関して,「注文部
数」とは「新聞購読部数」に「予備紙等」を加えたもので,「予備紙等」とは予
備紙,月末予約紙,月初おどり紙の合計であるとしている。予備紙は,実
際に購読者に配達ないし販売するのに必要な部数のほかに,輸送中に破
損したりして足りなくなった場合の予備にとっておく部数で,地区新聞公正
取引協議会で新聞購読部数の2パーセントと決められている。月末予約紙
は,新たに定期購読者となった者に,配達の順路を覚えるためも含めて何
日間か無料で配達される新聞であり,月初おどり紙は,購読者の契約が終
了月で切れるのか自動延長になるのか,月末まで分からないため引き続
いて配達される新聞であり,いずれも予備紙と同様に具体的数字で決めら
れている。「押し紙」が禁止されている理由は,新聞社が注文部数より多く
販売店に送りつけると,販売店は売れない新聞の分まで原価を負担するこ
とになり,また,ひいては無代紙を配布して景品表示法違反の行為を招き
かねないこととされている。(甲63及び弁論の全趣旨)
  (2) 亡Aは被控訴人との本件販売店契約に基づき,戸別配達の方法で新聞を
販売しており,亡Aが被控訴人に継続して注文する部数を連絡し,被控訴
人が本件販売店にこれを送付することになっている。そして,注文部数を
増加するときは,月末の26日ころまでに電話で亡Aが被控訴人にその旨
連絡し,注文部数を減少するときは,翌月5日までに同様に電話で連絡す
ることになっていたが,実際は必ずしも購読者数の増減に応じて,亡Aから
被控訴人への連絡はなされておらず,実販売数を超えた部数の新聞の送
付を亡Aは受けたまま,その都度全部数の代金を被控訴人に支払ってき
た。(弁論の全趣旨)
  (3) 被控訴人が本件販売店に送付した朝刊の部数につき,次のとおりの変動
がみられる。すなわち,平成6年11月,1370部から1440部に増加し,こ
れは平成7年10月まで続き,同年11月,1440部から1490部に増加し,
これは平成9年10月まで続き,同年11月,1490部から1580部に増加
し,これは平成10年10月まで続き,同年11月,1580部から1590部に
増加し,これは平成11年4月まで続いた。(甲3ないし60「各枝番を含む」
及び弁論の全趣旨)
    これらの,送付部数の増加は,1,2年毎の11月に10部から90部に及ん
でおり,予備紙等の調整とは考え難く,また,上記のとおり亡Aから積極的
に注文がなされたものとは認められない。
    したがって,これら送付部数の増加は,一応上記「押し紙」であると解され
る。
  (4) なお,被控訴人は,「押し紙」であることの認識がなかった旨主張するが,
独禁法が「一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健
全な発達を促進することを目的とする」経済取締り法規であり,これに基づ
く本件告示が特殊指定であり,もっぱら客観的要件を重視していることに
かんがみると,主観的認識の有無を不法行為に関する違法性について考
慮することはともかく,「押し紙」の有無について考慮することは適当ではな
いというべきである。
    また,被控訴人は亡Aの行為は「積み紙」である旨主張するが,後記のとお
り,「積み紙」的色彩がみられ不法行為の成否につき考慮されるとしても,
本件は,亡Aが,もっぱら奨励金や折込広告料等の領得を目的として,積
極的に被控訴人に本来必要な注文部数を超えて注文したものとまでは認
め難いから,経済取締り法規上において禁止されている「押し紙」に一応該
当する旨の上記認定を左右するものではない。
 3 争点2(不法行為に該当するか否かについて)
  (1) 「押し紙」は独禁法に基づく本件告示により禁止されているが,同法及び関
係規定が「一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健
全な発達を促進することを目的とする」経済取締り法規であり,「押し紙」の
違反行為がなされた場合,支部新聞公正取引協議会(以下「支部協」とい
う。)が種々の措置を講じて対処することができるとしていること等にかん
がみると,「押し紙」に該当する行為が直ちに私法上不法行為となると解す
ることは困難であり,その具体的内容及び程度を総合的に検討して,損害
賠償の対象となる程度の違法性が認められる場合に,不法行為に該当す
るものというべきである。(甲63,乙20及び弁論の全趣旨)
そこで,この点につき以下検討する。
  (2) 亡Aは,本件販売店の購読者数の増減があっても,特に被控訴人に注文
部数の増減の連絡をしないことが多くあり,平成6年11月から平成10年1
1月にかけての上記被控訴人からの送付部数の増加についても,特に被
控訴人に対し疑義ないし異議を述べることなく,これを受領し代金を支払っ
ていた。(乙13,17,証人B,A本人及び弁論の全趣旨)
  (3) 被控訴人は,販売店からの要望でもある競合他新聞社に負けない紙面作
成のために設備投資を行い,これを受けて販売店も販路拡張に精を出す
共通の目標のためとの認識を持って,各販売店から増紙計画を示して貰
い,販売店の要望を汲み取りながら販売店の目標数を決定の上増紙の要
請をしているところ,本件販売店においても同様にして,亡Aに増紙の要請
をして,平成3年,平成4年と増紙をし,その後,本件「押し紙」として問題と
なっている平成6年からの増紙についても,被控訴人としては,亡Aが作成
提出した増紙計画を受けて,同人に増紙目標数を要請している。また,本
件販売店への被控訴人の請求書(乙8)に,「貴店が新聞部数を注文する
際は,購買部数(有代)に規定の予備紙等(有代)を加えたものを超えて注
文しないでください。本社は,貴店の注文部数を超えて新聞を供給すること
はいたしません。また,貴店において本社の請求部数に疑義のある場合
は,書面をもって翌月定数日までに本社に申し出てください。」との記載を
して,増紙について同人から疑義の申出があれば改めるべき対応をしてい
た。(甲71,乙13及び14,17ないし19,証人B,A本人及び弁論の全趣
旨)
  (4) 亡Aは,父Eが経営していたときに,同人が被控訴人に「紙を切ってくれ。」
との旨述べて,特に問題なく被控訴人から減紙して貰ったことがあることを
供述しており,また,被控訴人の増紙の要請に対して,平成4年ころ,亡A
が期間の猶予を申し出て被控訴人が猶予をしたこともあったこと等に照ら
すと,亡Aが被控訴人に増紙について全く疑義を述べられないような状態
ではなかったものと考えられる。(乙17,A本人及び弁論の全趣旨)
  (5) 控訴人は,被控訴人から本件販売店への請求書(乙8)には,被控訴人の
請求部数に疑義のある場合,その旨を申し出るようにとの記載があるもの
の,被控訴人に減紙を要請すると,本件販売店契約を解除される虞がある
から,これを恐れて,承諾はしていないが「押し紙」を断れなかったのであ
り,実際,「紙を切ってくれ。」と亡Aが被控訴人に述べたことにより,平成1
1年6月10日をもって本件販売店契約を解除するとの通知を受けた旨主
張する。
    しかし,被控訴人が上記解除通知に踏み切ったのは,上記第2,1(2)の認
定のとおりであり,亡Aから「紙を切ってくれ。」と言われたことによるもので
はなく,被控訴人はやむなく解除を決断したものと認められ,上記第3,3,
(2)ないし(4)を考え合わせると,本件販売店契約の解除を恐れて,承諾はし
ていないが「押し紙」を断れなかった旨の控訴人の上記主張は採用できな
い。
  (6) また,控訴人は,「紙を切ってくれ。」と何度も亡A及び同人が被控訴人担
当者に述べたが,聞き流されたり,「いつ辞めて貰っても良い。」との旨言
われたりして「押し紙」を余儀なくされたと主張するが,上記解除を恐れ「紙
を切ってくれ。」と言えず「押し紙」を断れなかった旨の主張と矛盾する上
に,亡Aは「いつ辞めて貰っても良い。」と言われたことを否定していること,
被控訴人担当者Bは平成11年3月以前にそのようなことを亡Aから聞いた
ことがなく,「いつ辞めて貰っても良い。」との旨も言ったことがないと陳述し
ていること,この点に関する亡Aの本人尋問における供述はかなり曖昧で
あること等に照らすと,控訴人の上記主張は採用できない。(乙13,A本人
及び弁論の全趣旨)
  (7) 「押し紙」の違反行為がなされた場合,支部協が緊急停止命令その他種々
の措置を講じて対処することができるにもかかわらず,亡Aがそのような措
置を求めたことが窺えず,さらに,同人は,「押し紙」が不公正な取引方法
に該当すると主張していながら,本訴提起直前になって,公正取引委員会
の地方事務所に口頭で説明をしたのみであり,独禁法45条3項の書面に
よる報告をしていない。(甲63,乙20及び弁論の全趣旨)
  (8) 被控訴人から亡Aに送付部数に応じて奨励金を支払っており,それは149
8部,1680部,1691部と各基数設定をして,その部数を超えるごとに奨
励金を出し,さらに1844部を超えると特別奨励金を出すシステムになって
いるところ,同人は増紙を受け入れることによって,多額の奨励金(控訴人
の主張によれば別紙一覧表「奨励金」欄の金額)を被控訴人から受領して
いた。また,折込広告料は本来購読者に配達された部数に応じて販売店
に支払われるべきものであるところ,亡Aは,「押し紙」と主張するものを含
めた部数について同広告料の支払を受けていた。したがって,亡Aの増紙
を受け入れる行為は,「押し紙」部分の配達等の手間を要せずに,多額の
奨励金及び折込広告料の上乗せを不正に利得するものであり,本件告示
及び実施要綱において禁止されている「積み紙」的色彩を帯びるものとい
える。これらが「押し紙」部分について亡Aから被控訴人に支払う金額に相
当するか否かは明らかではないが,一部不足が出たとしても,亡Aは,これ
ら多額の奨励金及び折込広告料の上乗せ利得等の事情を考慮した上で,
営業全体の利益を考え,被控訴人の上記のごとき増紙の要請を疑義を述
べることなく受け入れ,「押し紙」分の代金もこれを承知で支払ってきたもの
と認められる。(甲63,乙9及び10,12ないし15,16の1ないし9,17,2
1ないし24,証人G,同B,A本人及び弁論の全趣旨)
  (9) 被控訴人が,上記のごとく増紙に際して,亡Aに一定の確認ないし疑義に
対する対処手続をとっていたこと,同人が平成11年2月ないし3月まで「紙
を切ってくれ。」との旨を被控訴人に明確に連絡していなかったこと等に照
らすと,被控訴人において本件が「押し紙」に該当するまでの認識がなかっ
たか,あったとしても特に明確なものではなかったものと推認され,亡Aが
積極的に増紙に関する疑義や減紙を明確に申し立てていれば,長良北部
の新聞販売店を経営するHが被控訴人に注文部数を超えていることを指
摘してこれを改めさせたことからしても,被控訴人の「押し紙」は続かなかっ
たのではないかとも考えられる。(上記関係証拠に加えて証人H及び弁論
の全趣旨)
  (10) 以上の諸事実を総合考慮すると,被控訴人の本件販売店に対する上記
増紙及びその送付行為は,一応「押し紙」に該当するものの,不法行為とし
て損害賠償の対象となる程度の違法性は認め難いから,不法行為には該
当しないものというべきである。
  (11) なお,控訴人は,被控訴人が販売店に対して優越的地位にあることか
ら,亡Aは「押し紙」を拒否できず沈黙していた旨主張するが,違法性の有
無に関して抽象的主張にとどまり,具体性を欠く上に,具体的事実関係は
上記認定のとおりであるから,控訴人の上記主張は採用できない。
    その他,控訴人は,本件につき縷々主張するが,いずれも上記認定を左右
するものではない。
 4 すると,その余について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する本
件不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
第4 結論
 よって,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので,こ
れを棄却することとし,控訴費用の負担について民事訴訟法67条,61条を
適用して,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第2部
         裁判長裁判官    熊  田  士  朗
            裁判官島  田  周  平
            裁判官玉  越  義  雄
  
(別紙省略)

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なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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