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平成14年1月10日宣告 
平成13年(わ)第1056号,第1110号 
         判決
 上記4名に対する関税法違反被告事件について,当裁判所は,検察官山崎由賀,
私選弁護人岡田基志,同松本光二各出席の上審理し,次のとおり判決する。  
         主文
     被告人Aを懲役2年及び罰金100万円に処する。
     被告人Bを懲役2年及び罰金100万円に処する。
     被告人Cを懲役2年及び罰金100万円に処する。
     被告人Dを懲役1年6月及び罰金80万円に処する。
     被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは,
     金5000円を1日に換算した期間,各被告人を労役場に留置
     する。
     被告人らに対し,この裁判確定の日から4年間,それぞれその
     懲役刑の執行を猶予する。
     被告人B及び同Cから,福岡地方検察庁小倉支部で保管中の缶入りのジクロロ
ジフルオロメタン(段ボール箱に収納されたもの)3万5998缶(平成13年小倉領第131
0号の82)を没収する。
         理由
(犯罪事実)
 被告人4名は,共謀の上,経済産業大臣の輸入承認を要するジクロロジフルオロメタン
を不正に輸入しようと企て,平成13年6月8日ころ,ジクロロジフルオロメタン310グラム
入り缶合計3万5999缶をコンテナに収納して中華人民共和国武漢から発送し,同月20
日,北九州市門司区太刀浦海岸の関門港門司地区指定保税地域内に搬入した上,同月
25日,同区港町6番7号a株式会社門司支店において,同所に設置された同区太刀浦
海岸9番門司税関田野浦出張所と連動している海上貨物通関情報処理システムの端末
機を操作し,上記貨物が輸入承認を要しないテトラフルオロエタンである旨の内容虚偽の
輸入申告事項を入力・送信して輸入申告し,税関長の許可を受けないで上記ジクロロジ
フルオロメタン310グラム缶合計3万5999缶を輸入しようとしたが,同出張所職員に看
破されたため,その目的を遂げなかった。
(証拠)省略
(法令の適用)
罰条     被告人4名について,いずれも
                刑法60条,関税法111条2項,1項
刑種の選択     被告人4名について,いずれも
                懲役と罰金を併科。
労役場留置     被告人4名について,いずれも
                刑法18条
刑の執行猶予     被告人4名について,いずれも
                刑法25条1項
没収     被告人B及び同Cについて
                関税法118条1項本文
(量刑の理由)
 本件は,被告人4名が,共謀の上,我が国では事実上輸入が禁止されているジク
ロロジフルオロメタンを国内で販売する目的で大量に無許可輸入しようと企てたが,
税関での成分検査で犯行が発覚したため未遂に終わったという,関税法違反の事案で
ある。
 本件事案の背景には次のような事情があった。すなわち,被告人らが無許可輸入しよう
と企てた物質であるジクロロジフルオロメタン(フロン12)を含むフロンは,オゾン層を破
壊するとの指摘がなされたことから全世界的な規制の取り組みがなされるようになり,我
が国においても関係法令を整備し,その結果,フロン12については限られた医療機器に
用いる目的以外では経済産業大臣の輸入承認を得られず,その目的以外での輸入は事
実上できない状況にあった。そのため,専ら自動車のエアコンの冷媒として使用されてい
たフロン12に代わって,代替フロンと呼ばれるテトラフルオロエタン(134a)がその目的
で使用されるようになったが,平成5年以前に生産された自動車のエアコンにはフロン12
を充填する必要があったことから,平成7年末で国内生産が中止された同物質は常時品
薄の状態にあって,1缶当たり3000円程度の高値で取引されていた。
 ところで,自動車整備業を営む被告人B及び同Cは,台湾でフロン12が安値で出回っ
ていることを知るや,これを密輸入して国内で転売して利益を得ようと考え,被告人Dを通
訳として交渉した結果,中華人民共和国からフロン12を入手できることになり,同被告人
と共謀の上,平成12年7月中旬ころ,同国からフロン12を代替フロンとして無許可輸入
する手筈を整えるとともに,被告人Aにも無許可輸入したフロン12を国内で販売させるべ
く,事情を話して仲間に引き入れた。以後,被告人4名は,共謀の上,平成12年8月から
平成13年5月まで合計9回にわたりフロン12を大量に無許可輸入した上,これらを国内
で販売し多額の利益を得る中で本件犯行を犯したものであって,これまでと同様に多額
の利益を安易に取得しようとした,その短絡的かつ自己中心的な犯行の動機に酌量の余
地は全くない。
 犯行の態様は,中国の仕入れ先との交渉,代金の送金手続,通関手続,輸入後の梱
包作業,国内での販売に至る一連の過程を各被告人が分担して敢行したものであり,ま
た,輸入に際しては,予め仕入れ先との間で,代替フロンである134aと偽るために,フロ
ン12の缶をラベルを貼らない状態で134aと記載された段ボール箱に梱包して密輸入
し,その密輸入後に,その缶にフロン12のラベルを貼った上,これを無地の段ボール箱
に詰め替えて,フロン12として各取引先に販売していたものであって,計画的,組織的か
つ巧妙であり甚だ悪質である。
 被告人4名は,被告人Dが仕入れ先との交渉,被告人Cが通関手続等,被告人Bが資
金調達等,被告人Aが国内販売等をそれぞれ分担して前記無許可輸入行為を繰り返し,
本件犯行においても同様の役割を果たし,果たすことが予定されていたものであり,それ
ぞれがフロン12の無許可輸入において不可欠の重要な役割を果たしつつ本件犯行に加
担していたものである。
 被告人4名は,9回にわたる前記常習的な同種犯行において,フロン12の310グラム
入り缶を,1缶当たり400円(船賃等を含む)で各回とも大量に無許可輸入して,これを1
缶当たり1050円から1600円程度で国内販売し,要した各費用を差し引いてもそれぞ
れが多額の利益を得ていたものであり,仮に,本件犯行が発覚しなかった場合は,それ
ぞれがさらに多額の利益を得ていたであろうことは容易に推察される。
 被告人4名は,本件無許可輸入について,通関業者から密輸入するフロン12が税関で
成分検査されることを知らされると,本件犯行の発覚をおそれ,話し合いの上,被告人A
が逃亡して行方をくらまし,その余の被告人3名は事情を知らないことにした上,販売先
に口止め工作をし,関係書類を廃棄するなどの犯行隠蔽工作を行っており,その犯行後
の情状も悪質である。
 本件犯行は,前記のとおり,フロンなどの物質による環境破壊から地球を守るため全世
界的にフロン12を含む特定の物質の製造や排出の規制が行われようとする中で,環境
破壊物質であるがゆえに事実上輸入を禁止されている物質であることを知りながら,全く
利己的な動機から無許可輸入を企てたという,かかる規制に真っ向から違反してなされ
た悪質な事案であって,一般予防の見地からも被告人らに対しては厳重な処罰が求めら
れているというべきである。
 以上の情状にかんがみると,被告人4名の刑事責任はいずれも決して軽いものではな
い。
 しかし,他方,被告人4名はいずれも,本件犯行を深く反省していること,被告人らには
それぞれ税務調査が行われて不正に得た利益の相当部分については課税徴収されるこ
とが見込まれること,被告人Aには罰金前科1犯のみしかなく,その余の被告人らには前
科がないこと,被告人4名は,本件犯行について社会に対する謝罪の証として,被告人B
が金300万円,同Dが100万円をそれぞれ財団法人法律扶助協会に贖罪寄付し,被告
人A及び同Cがそれぞれ100万円を交通遺児奨学金基金に贖罪寄付したこと,被告人A
については母親が,被告人Bについては妻が,被告人Cについては婚約者がそれぞれ証
人に立って,今後の指導監督を誓約していること,被告人B及び同Cは自動車整備業を,
同Dは自動車部品輸入業をそれぞれ営んで稼働していること,被告人Aも職は転々とし
ているものの社会適合的な生活を営んでいたものとみられること,被告人らはいずれも
本件により相当期間身柄を拘束されて反省の機会を与えられたことなど各被告人のため
に酌むことのできる事情も認められる。
 そこで,各被告人のために酌むことのできる事情に,各被告人が本件犯行において果
した役割等本件に顕れた諸般の事情を総合勘案すると,被告人らには社会内における
更生を期待することとして,懲役刑については今回に限り執行猶予付きの判決を言い渡
すことにし,主文のとおりの刑を言い渡すのが相当と判断した。
平成14年1月10日
福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部
裁判官川野雅樹

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