弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成18年3月23日宣告裁判所書記官
平成17年(わ)第7号傷害致死被告事件
判決
主文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中290日をその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,平成16年12月24日午後零時30分ころ,愛媛県伊予市甲a番地b乙ア
パート3号被告人方において,同居中の孫A(当時2歳)に対し,その顔面,頭部を平手
で数回殴打して横転させ,その身体を前後に数回揺さぶる暴行を加え,よって,同児に急
性硬膜下血腫,くも膜下出血の傷害を負わせ,平成17年1月1日午後5時10分ころ,
松山市丙町c番地B病院において,同児を上記傷害に基づくびまん性脳損傷,脳浮腫によ
り死亡させたものである。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
1弁護人は「判示日時・場所において,被告人が,Aに対し,その顔面,頭部を平手,
で数回殴打し,その身体を前後に数回揺さぶり,床に引き倒す暴行を加え,急性硬膜下
血腫,くも膜下出血の傷害を負わせ,上記傷害に基づくびまん性脳損傷,脳浮腫により
死亡させた」との公訴事実に対し,①行為の態様は概ね公訴事実のとおりであるが,被
告人はAの頭頂部は叩いていないし,床に引き倒すと評価されるような行為もしていな
い,②被告人の行為とAの死亡との間には因果関係がないので,被告人の行為は暴行罪
にとどまる旨主張し,被告人も公判廷においてこれに沿う供述をし,さらに①につき,
左手ではAを叩いていない旨供述する。以下,この点につき補足して説明する。
2関係各証拠によれば,本件の事実経過等につき,次の事実が明らかである。
()被告人は,平成16年12月24日午後零時30分ころ,布団で寝ていた孫のA1
を起床させるため,同人の手を引っ張り起こそうと手に触れたところ,Aが大声で泣
き出した。被告人は,Aの態度に立腹し,Aに暴行を加えた(以下「本件暴行」とい
う。なお,暴行の詳細は後に記載する。Aの横で寝ていたAの母親のCが被告人。)
を止め,被告人はAに対する暴行をやめた。
()Aは,同日午後6時ころ,子供用の弁当を食べ,同日午後8時ころ,布団に入っ2
た。Aは,翌25日午後2時30分ころ,布団から起きてケーキを食べ,同日午後6
,。,,,時ころおでんを食べた同日午後7時ころCが仕事で出かけ同日午後8時ころ
Aは布団に入った。
()被告人は,同日午後9時30分ころ,Aが痙攣を起こしているのに気が付いた。3
被告人は,同日午後9時52分ころ,Aの具合がおかしい旨Cに連絡した。Cが仕事
先から帰宅し,Aが痙攣を起こしているのに驚き,同日午後10時28分,119番
通報した。
()Aは,同日午後10時50分,B病院に搬送された。搬送中,Aは除脳硬直を起4
こしており,B病院に搬送された際には,意識障害があり,対光反射はなく瞳孔も散
大していた。
()翌26日午前零時ころ,B病院脳外科部長のD医師がAを診察した。D医師は,5
Aの脳幹は機能しておらず,成人であればそれ以上の治療は控えるような状態だと判
断した。しかし,Aがまだ2歳であることから,奇跡的な回復に望みをかけ,脳保護
療法を実施することにした。D医師は,Aを急性硬膜下血腫,びまん性脳損傷と診断
した。
()翌27日,Aの脳浮腫は強まり,D医師は,Aは脳死と診断してもよい状態であ6
ると判断した。D医師は,Aに対する脳保護療法を中止し,人工呼吸器等により生命
維持に努めることにした。
,,。()平成17年1月1日午後5時10分Aは心肺機能も停止し死亡するに至った7
()なお,Aは,平成16年夏ころからほぼ毎日,Cが午後7時ころ仕事に出かける8
と,後頭部や額の左側をコツコツと軽く柱に当てるという行動をとっており,同年1
2月24日,25日にも上記行動をとっていた。
3関係各証拠によれば,Aの身体の状況等につき,次の事実が明らかである。
()平成16年12月26日,D医師は,Aの右下顎部,両耳,前額部,前頸部に皮1
下出血を認めた。頭皮の開放的な損傷はなかった。眼底出血が認められた。
()平成17年1月1日,警察官が死亡したAの体を検証すると,Aの後頭部に皮下2
出血様,左額部に円形の皮下出血,右頬部に3か所の皮下出血,下唇内側の右頬寄り
に1か所の皮下出血を認めた。
()平成17年1月4日,E大学医学部法医学教室内において,F医師によりAの司3
法解剖が行われた。解剖の結果によれば,Aには,①右前額部に頭皮下出血(外皮に
。),(。)損傷はないがあり②頭頂部に数カ所の頭皮下出血頭皮に開放性の損傷はない
,,,,,,があり③右側頭葉底部側頭部脳底部前頭葉に脳挫傷があり④クモ膜下出血
硬膜下血腫(出血量約10グラム)が認められた。
()解剖時の所見4
F医師は,解剖結果から,Aの死因をびまん性脳損傷,脳浮腫と推定し,その原因
は脳挫傷,硬膜下血腫であると判断した。また,脳挫傷,硬膜下血腫は脳に外力が加
わることによって生じるものであること,Aは2歳の小児であること,頭部のみに皮
下出血があり,頭頂部に頭皮下出血が集中していること等を総合考慮し,脳挫傷,硬
膜下血腫の原因は他者により加えられた外力であり,凶器は頭皮と同等の硬度を有す
るもの,すなわち,平手や手拳による殴打の可能性があると推定した。なお,急性硬
膜下血腫は,生じた段階から非常に重篤な意識障害に陥り,同時に著明な脳浮腫が生
じる。頭部に外力が加えられた時,急性硬膜下血腫が生じ,その瞬間から意識混濁状
態に陥り,痙攣等はその後に生じる。Aの急性硬膜下血腫の発生機序は,脳挫傷であ
ると推定するとした。
4まず,本件暴行の内容について検討する。
()被告人は,本件暴行の内容につき,次のように供述している。1
ア捜査段階
寝ているAを引っ張り起こそうとAの手に触れた瞬間,Aが突然大声で泣き始め
た。私は,Aの態度に腹が立って怒りの気持ちが押さえきれなくなり,Aを引っ張
り上げ,左右どちらかの後頭部付近から半身になりながら布団に叩きつけられるよ
うにした。そのままAを引っ張り起こして立たせると,私は,横から斜め下に振り
下ろすようにAの左顔面付近目がけて思い切り右手で平手打ちした。Aは,布団の
上でその場に布団の枕側に崩れるようにして横向きに倒れた。私は,再び,Aを引
っ張り起こして立たせ,今度は左手でAの右顔面付近目がけて同じように平手打ち
した。Aは,布団の上で布団の足元の方に向かって斜め下に崩れ落ちるようにして
倒れた。私は,Aが倒れ込むとすぐまたAの腕をつかんで立たせ,同じように今度
は右手でAの左顔面付近を平手打ちした。Aは,布団の上に倒れ込んだ。私がさら
にAを引き起こすと,Aは布団の上に座り込んだ。私は,ひざまずき,Aの両肩を
,,「。」両手でつかみ上半身を3回位前後に揺さぶりながら何でママが居たら泣くの
などと言い,その体勢のまま,Aの左頬を右手で真横から平手打ちした。Aは横に
倒れ込んだ。私は,立ち上がり,Aを引っ張り起こして立たせ,その後,3回位,
左右の手でAの左右の顔面付近を平手打ちしては引き起こすということを繰り返し
た。Aの頬付近に当たるように平手打ちしていたが,しっかり狙って殴ったという
よりも力任せに殴っているので,Aの口付近に当たったこともあれば,Aの耳あた
りに当たったものもあり,Aの頭や脳天にも当たっていると思う。
イ公判供述
Aを起こそうと声をかけると,知らん顔をするので手に触れると,大声で泣き出
。。,したまた始まったという感じでパニック状態になったAの手を上に引っ張ると
Aは座るような体勢になり,うつ伏せに倒れた。Aの手を引っ張って立たせ,右の
平手でAの左頬を叩くのを3回繰り返した。Aは,叩かれるたびかがむように座っ
て横に寝るような格好になった。座っているAの肩を持ち,何で泣くのという感じ
で前後に2回揺さぶった。それから,さきほどと同じようにAを立たせては右の平
手で左頬を叩くということを3回繰り返した。捜査段階では,Aの右頬を左手で叩
いたと述べて犯行再現もし,そのときは記憶のとおり再現したと思うが,今の記憶
では右手でAの左頬を叩いた記憶しかない。Aの頭頂部を拳骨で叩いたりはしてい
ない。Aの頭頂部の皮下出血については心当たりがない。手が当たった位置につい
ては,Aの頬のあたりだった記憶はあるが,よく憶えていない。Aの頭の横の方を
叩いたかもしれないが,頭の上の方は叩いていない。
()上記各供述を対比して,その信用性について検討する。2
被告人の捜査段階の供述は,記憶の鮮明なうちに述べられたものであり,具体的か
つ迫真的な内容となっている上,自らによる犯行再現状況とも概ね合致するものであ
る。特に,被告人が左右の手でAの頬目がけて平手打ちし,Aの口,耳,頭や脳天あ
たりにも当たった可能性があるという点は,前記認定のAの右頬部に3か所,下唇内
側右頬寄りに1か所,両耳に皮下出血が認められたことやAの頭頂部に複数の頭皮下
出血があり,これは平手や手拳で殴打されたことにより成傷された可能性があること
等の客観的状況とも符合し,信用性が高いと認められる。これに対し,被告人の公判
供述は,概要においては捜査段階と同旨であるものの,左右の手でAを叩いたという
点,Aの頭の上の方を叩いた可能性があるという点について捜査段階と異なるもので
ある。しかし,被告人の上記公判供述部分は,Aの右顔面,頭頂部に複数の皮下出血
が認められたことと合致しないうえ,被告人は,捜査段階の供述もそのときの記憶に
基づく供述である旨述べているのに,その供述内容を変遷させた理由につき何ら合理
的な説明をしていない。したがって,被告人の上記公判供述部分は信用性に乏しいと
いわざるを得ない。
以上によれば,被告人は,左右の手でAの顔面及び頭頂部を含む頭部を平手で数回
殴打してAを横倒しにし,布団の上に座り込んだAの両肩を持ち前後に数回揺さぶる
暴行を加えたと認められる。なお,上記認定のAの頭部の皮下出血の状況と,被告人
の「力任せに殴った」旨の供述に照らせば,被告人は相当程度の力をもってAを殴打
したと認めるのが相当である。
5因果関係
続いて,本件暴行とAの死亡との間に因果関係が認められるかについて検討する。
()Aの死因等について,医師は,次のように述べている。1
アF医師
Aの死因は,硬膜下血腫と脳浮腫である。Aは,脳挫傷やくも膜下出血を伴って
いたこと,血腫が比較的正常な血液の色調及び性状を保っていたことから,急性の
硬膜下血腫だと判断した。硬膜下血腫の原因は,その大きさから考えて,脳と硬膜
の間にある架橋静脈の剪断が主たる原因と考えられる。脳挫傷の所見もあるが,そ
の程度は軽微で,出血量もほとんどなかったので,脳挫傷が主たる原因とは考えな
い。架橋静脈の剪断は,脳が急激に揺さぶられて偏位し,脳と硬膜との間にまたが
る架橋静脈が引っ張られて伸展し,静脈壁に不完全断裂が起こり,最後には静脈が
剪断することによって生じる。偏位を生じさせた外力(以下「外力」という)に。
ついては,解剖所見では,頭頂部に集中して複数の皮下出血が認められ,これ以外
に手がかりがなかったため,解剖時の判断としては,頭頂部に加わった外力が原因
だと考えたのであって,頭頂部への外力が硬膜下血腫の原因であると解剖所見に基
づいて判断したわけではない。しかし,外力は,顔面や頭部を揺さぶる行為であれ
ば何でもよく,顔面や頭部を殴打する行為でも脳の偏位は生じうる。また,外力が
加えられた時期は,解剖時には,頭頂部皮下出血の色調や吸収機転から,解剖時か
ら1週間ないし10日間程度前ころに加えられたものであると考えた。これ以外に
外力が加えられた時期を特定できる解剖所見はなく,これまでの医学的知識と経験
から,典型的な場合は,通常は外力が加われば直ちに急性硬膜下血腫が生じて意識
混濁状態になることから,意識混濁状態になったころに外力が加えられたであろう
と考えた。しかし,急性といっても「亜急性」とか「遅延発症型」といった意識清
明期が見られる症例もある。その後,被告人が,Aが意識不明となる約33時間前
にAの顔面等を平手で6回くらい殴ったと話をしている旨聞いた。被告人の暴行が
原因でAの脳に偏位が生じたと考えても矛盾はないし,意識不明となる約33時間
前の暴行によりAが硬膜下血腫を起こしたと考えても矛盾はない。硬膜下血腫を生
じた原因としては,頭頂部への外力と被告人が説明している顔面等への殴打行為と
が考えられるが,顔面の殴打行為の方が架橋静脈の剪断がより生じやすいため,顔
面等への殴打行為の方が原因としてふさわしいと考える。
イD医師
B病院搬送後数時間内に撮影されたCT画像によれば,Aの脳の右前頭葉には,
新しい(急性)硬膜下血腫と古い(慢性)硬膜下血腫が認められた。新しい硬膜下
,。,血腫は上記撮影時から遡って1週間以内に生じたものである古い硬膜下血腫は
上記撮影時から遡って数週間から二,三週間前に生じたものと考えられるが,二,
三か月前のものがCTに写ることもある。慢性硬膜下血腫は,神経症状自体はほと
んどないのが通常であり,それだけで死因になるとは考え難い。Aの死因は,新し
い硬膜下血腫だと考えるのが通常である。もちろん,古い硬膜下血腫がなければ死
亡するまでには至らなかった可能性も全く否定はできないし,古い硬膜下血腫を形
成した際に損傷された血管が更に切れて新しい硬膜下血腫を形成した可能性もあり
。,,,得るしかし臨床的には古いもので急激な変化というのはなかなか考えにくく
新しい出来事が起こったことで脳に決定的な障害を来したと通常は考える。B病院
に搬入される前日の昼ころ,顔面等を6回くらい平手で殴打されたことが原因で急
性硬膜下血腫を生じた可能性は十分に考えられる。小児の場合,成人に比べると通
常以上に脳と頭蓋骨の間に隙間があり,脳表と頭蓋骨をつなぐ橋静脈に一定以上の
外力が加わり,脳が揺さぶられ,橋静脈が切れて出血するというのが小児に特徴的
な急性硬膜下血腫である。上記殴打行為により脳が激しく揺さぶられ,脳と硬膜の
間にずれが生じることも考えられ,それにより急性硬膜下血腫が生じたと考えても
矛盾はない。また,小児の場合,上記のとおり脳と頭蓋骨の間に隙間があり,出血
しても血腫となって脳を圧迫するまで時間的経過がある場合もあり得るので,Aの
,。場合には外力を受けてから1週間程度の期間が経過している可能性も考えられる
なお,Aには眼底出血もあるが,平成16年11月以前の暴行で眼底出血ができた
と考えても不自然ではない。
ウG(H大学大学院の法医学分野教授)
Aの場合,急性硬膜下血腫とくも膜下出血が,死因であるびまん性脳損傷,脳浮
腫を引き起こしたと考えられる。
硬膜下血腫の出血源は,一般的に,①脳表面と硬膜を結ぶ架橋静脈の破綻,②
静脈洞の破綻,③脳挫傷による脳表面の動脈,静脈の損傷,④脳内血腫(出血)
,。の脳表面への溢血が考えられこのうち架橋静脈の破綻が最も多いと言われている
本件の場合,脳内血腫の存在は否定できること,脳挫傷によるクモ膜下出血が認め
られるが,その出血の程度は点状ないし斑状というべき程度のもので,それのみで
,,死因となった硬膜下血腫の出血源となったとは考えがたいことからして出血源は
架橋静脈の破綻と考えるのが妥当である。架橋静脈とは,脳表面と硬膜を結ぶ静脈
で,脳表面と硬膜の間にずれが生じ,架橋静脈がその長さと強さを超えて牽引され
る結果,破綻すると考えられる。脳表面と硬膜の間のずれは,たとえば,頭部及び
顔面が静止状態から急激に大きく移動することにより脳と硬膜との間に加速度の差
が生じて「ずれ」る。被告人が捜査段階で供述している「引っ張り上げて,布団,
に落とす「顔面,頬部を平手で,布団に倒れる程に殴打する」等の暴行行為は,」,
頭蓋内において脳表面と硬膜の間に「ずれ」を生じさせた可能性が考えられる。解
剖所見では,Aの脳の前頭葉と右側頭葉底部,側頭部,脳底部の表面に点状ないし
斑状のくも膜下出血,脳挫傷が観察されている。これらの損傷が,上記暴行の際に
,,「」成傷されたものだとすれば頭部に作用した打撲の外力は脳と硬膜の間にずれ
を生じさせた根拠となり得る。硬膜下血腫は,出血源となる血管等が破綻して出血
が始まり,出血量が増加して血腫を形成し,その血腫の拡大と脳浮腫の進行に伴い
頭蓋内圧が亢進し,傾眠・昏迷状態から昏睡状態に陥り,死亡に至るという経過を
たどる。この経過において,受傷(出血開始)から頭蓋内圧亢進症状の発症の間に
意識清明期があることはよく知られている。特に,架橋静脈や脳表面の血管の破綻
による硬膜下血腫では,多くの場合,意識清明期があり,高度の脳挫傷や脳内血腫
を伴う場合は意識清明期を欠くことが多いとされる。Aの硬膜下血腫の出血源は,
架橋静脈の破綻によるものと考えられ,脳挫傷も高度ではなかったので,受傷(出
血開始)から頭蓋内圧亢進症状の発症の間に意識清明期があったと考えても矛盾は
しない。硬膜下出血(血腫)の成傷時期については,解剖時に撮影した写真をもと
に判断すると,血腫が固まっており,一部硬膜側に癒着していること,血腫の色合
いは未だ正常の血液の色調を保っていることから,死亡時には1週間程度経過して
いたと考えられる。
,,,()上記の各医師の所見はその内容としてAの急性硬膜下血腫の主たる出血源は2
架橋静脈の破綻によるものであり,被告人の本件暴行は,架橋静脈を破綻させ,硬膜
下血腫を惹起し得る外力であって,本件暴行と前記認定のAの異常の発生までの間に
約33時間の時間経過があったとしても,本件暴行によって架橋静脈が破綻させられ
たと考えることに医学的な矛盾はないという点で一致しており,その判断の合理性,
信用性は極めて高いというべきである。そして,上記各医師の所見に加えて,本件暴
行は,上記認定のとおり,Aの頭部を数回殴打して横倒しにする等したというもので
あり,被告人は相当程度の力でAを殴打したことを総合すれば,本件暴行により,A
に脳挫傷を負わせるとともに架橋静脈を破綻させ硬膜下血腫を惹起させたと認めるの
が自然かつ合理的である。以上によれば,本件暴行とAの死亡との間には合理的疑い
を超えて因果関係の存在を認定できる。
なお,F医師は,前記3()のとおり,司法解剖の際,急性硬膜下血腫は,生じた3
段階から非常に重篤な意識障害に陥り,同時に著明な脳浮腫が生じること,頭部に外
力が加えられた時,急性硬膜下血腫が生じ,その瞬間から意識混濁状態に陥り,痙攣
等はその後に生じることを述べているところ,これは,上記5()アで触れていると1
おり,解剖時の所見だけからこれまでの医学的知識と経験で考えられる典型的な場合
について説明したにすぎないのであって,F医師の解剖時の所見は上記認定と矛盾す
るものでない。
()弁護人は,Aの頬や顔面に目立った外傷,内出血はなく,本件暴行はその程度の3
ものであったと考えられること,この程度の力であれば,Aの頭頂部に被告人の手が
当たったとしても,解剖時に確認されたような頭頂部皮下出血を生じさせたとは考え
難いこと,したがって,本件暴行以外の外力がAの頭頂部に加えられ,それが死因と
なった可能性があり,本件暴行とAの死亡との間の因果関係には合理的疑いが残るな
どと主張する。しかし,前記認定のように,被告人は本件暴行によってAの頭頂部を
叩いており,しかも相当程度の力でAを叩いたと認められるのであるから,弁護人の
主張は理由がなく,採用することはできない。
()なお,D医師の所見によれば,CT撮影時(平成16年12月25日)から1週4
間以内の外力によって硬膜下血腫が生じていた可能性があり得るので,情状に関する
事情として,本件記録上考えられる,その期間内にAの頭部に加えられた外力によっ
て,硬膜下血腫が惹起された可能性の有無について検討する。まず,被告人は,公判
廷で「Cが平成16年12月19日より以前にAを叩き,Aが鼻血を出した。同月,
,,」,25日買い物から帰ったCがAをちょっとしばいたなどと言った旨供述するが
Cはこれらを明確に否定している上,被告人は,捜査段階では,平成16年12月に
入ってからは,Cも被告人もAに乱暴したことはない旨供述していたところ,公判廷
で供述内容を変遷させた理由について何ら合理的な説明をしていないことに照らし,
信用できず採用できない。次に,上記認定のように,Aによる後頭部や額の左側をコ
ツコツと柱に当てる行動によって惹起された可能性について検討するに,小児精神科
医師及びD医師は,2歳程度の子供が自力で脳を損傷するまで頭を壁にぶつけること
は通常考えられない旨述べている上,証拠上,Aが脳に損傷を来すような自傷行為を
したことをうかがわせる事情はないことに照らせば,この可能性はないというべきで
ある。また,D医師によれば,Aに眼底出血が認められるが,これは平成16年11
月以前の暴行によって生じたとしても不自然ではなく,眼底出血の存在のみで上記1
週間以内の暴行があったと認定することはできない。
以上のとおり,被告人の本件暴行以外に,Aの硬膜下血腫の原因となりうべき外力
は認められない。
6結論
以上によれば,被告人が,Aに判示の暴行を加え,その結果,Aを死亡させた事実が
合理的疑いを超えて認定できる。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
本件は,被告人が,当時2歳9か月であった孫に暴行を加えて死亡するに至らせたとい
う傷害致死の事案である。
被告人は,無抵抗の被害者に対し,その顔面,頭部といった身体の枢要部を,平手で相
当の力でもって数回殴打したものであり,本件犯行態様は執拗かつ危険で悪質というべき
である。そして,被害者は,このような被告人の一方的な暴行によってその幼い命を奪わ
,。,,れたのであって生じた結果は誠に重大というほかない被告人は平成16年3月ころ
被害者が部屋中に大便をつけるなどの行為などをしたことから,被害者が被告人にわざと
反発しているのではないかなどとの思いを持つようになり,本件に至るまでにも,被害者
が泣きやまない場合などは,どうして泣きやまないのかといういらだちを感じ,手や顔を
。,,,叩くなどしたことがあった本件当日被告人は被害者を起こそうと声を掛けたところ
無視するような態度を被害者がしたと感じ,さらに被害者の手に触れたところ,被害者が
突然泣き出したことから,立腹して本件犯行に及んだものである。被害者の年齢を考慮す
,,,れば被害者が前記のような行動をすることはあり得ることでありそのように考えれば
被告人の本件犯行の動機は一層短絡的かつ身勝手なものと評価されるべきである。他方,
被害者には,本件被害を甘受すべき落ち度は全くない。被害者が本件犯行により被った肉
体的,精神的苦痛は察するに余り,幼すぎる命を祖母によって奪われた被害者は誠に哀れ
というほかない。以上によれば,被告人の刑事責任は相当に重いというべきである。
そうすると,本件犯行が計画的なものとは認められないこと,被告人は被害者が死亡し
たことについて悪いことをしたと思う旨述べていること,被告人の視力障害の程度が身体
障害者1級相当であること,前科前歴がないこと等の被告人のために酌むべき事情を最大
限考慮しても,被告人に対しては主文掲記の刑をもってその罪を償わせるのが相当と考え
られる。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑懲役5年)
平成18年3月23日
松山地方裁判所刑事部
裁判長裁判官前田昌宏
裁判官武田義・
裁判官佐藤志保

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