弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 職権によつて調査するに、
 一 本件の事実関係は、原審の確定した事実及び記録によれば、次のとおりであ
る。
 1 被上告人は、昭和四八年六月一二日、D(以下「D」という。)に対し四〇
〇万円を、元金弁済方法は昭和五一年から昭和五八年まで毎年五月三一日に年五〇
万円宛の分割償還とし、年九・七五パーセントの利息(但し、昭和五三年七月一日
これを変更して年一〇・五パーセントとされた。)は毎月月末にその日までの分を
支払う、損害金は年一八・二五パーセントとし、Dが右債務の一つでも期限に弁済
しないときは、被上告人の請求によつて期限の利益を失い、直ちに全額弁済すると
の約定のもとにこれを貸し付けた(以下この貸金債権を「本件債権」という。)。
 2 上告人は、右貸付当日本件債権につき被上告人に対し連帯保証した。
 3 次いで、被上告人は、D及び上告人に対し昭和五四年一一月二九日到達の内
容証明郵便をもつて同年一二月九日までに本件債権の延滞金を支払うよう催告した
が支払がなく、D及び上告人は同日期限の利益を喪失した。
 4 被上告人は、D及びE(以下「E」という。)に対し、昭和六〇年六月四日
当時、本件債権のほかに次の二個の債権を有していた。なお、これら三個の債権に
は、いずれも「弁済が債務全額を消滅させるに足りないときは、被上告人の適当と
認める順序方法で充当することができる。」旨の特約が付されていた。
 (一) Dに対する昭和四八年七月三一日付け貸金元金七〇〇万円のうち残元金三
〇〇万円、未払利息金八七万五〇一七円(昭和五四年一二月九日現在)及び右残元
金に対する昭和五四年一二月一〇日から昭和六〇年六月四日まで年一四・七五パー
セントの割合による遅延損害金二四二万九五〇六円(以下これらの債権を併せて「
甲債権」という。)。
 (二) Eに対する昭和四八年一一月一三日付け貸金元金四八〇万円のうち残元金
五〇万円、未払利息金六万八八一九円(昭和五四年一二月九日現在)及び右残元金
に対する昭和五四年一二月一〇日から昭和六〇年六月四日まで年一四・七五パーセ
ントの割合による遅延損害金四〇万四九一七円(以下これらの債権を併せて「乙債
権」という。)。
 5 被上告人は、昭和六〇年六月四日、本件債権及び甲、乙の各債権を被担保債
権とし、債務者兼所有者をD又はE(D所有の土地三筆に極度額五〇〇万円の根抵
当権(共同担保)が、E所有の建物一棟に極度額一〇〇〇万円の根抵当権が各設定
されていた。)とする宮崎地方裁判所延岡支部昭和五六年(ケ)第七号不動産競売
事件(以下「本件競売事件」という。)につき、一括売却による売却代金七六〇万
円から執行費用三〇万三八二八円を控除した七二九万六一七二円の配当金(以下「
本件配当金」という。)を受領し、昭和六一年四月四日の第一審第一二回口頭弁論
期日で陳述した同日付け準備書面により、上告人に対し、右各債権に付されていた
前記充当に関する特約に基づいて、本件配当金七二九万六一七二円を、(ア)甲債
権の前記残元金及び未払利息金の全額並びに遅延損害金のうち一三二万六四三六円
を減免した残金一一〇万三〇七〇円の合計四九七万八〇八七円に、(イ)乙債権の
前記残元金及び未払利息金の全額並びに遅延損害金のうち二〇万二一八二円を減免
した残金二〇万二七三五円の合計七七万一五五四円に、(ウ)本件債権の昭和六〇
年六月四日時点の未払利息金一〇万四一二一円及び年一四・七五パーセントの割合
による遅延損害金一六九万二五五六円のうち一四四万二四一〇円の合計一五四万六
五三一円に各充当する旨の意思表示をした。
 二 原審は、右事実関係の下において、被上告人が前記特約に基づいてした本件
配当金の指定による弁済充当(以下「指定充当」という。)を有効であるとして、
被上告人が上告人に対し本件債権のうち任意弁済された元金の内金一九一万円を控
除した残元金二〇九万円及び昭和六〇年六月四日現在の約定利率を下回る年一四・
七五パーセントによる未払遅延損害金二五万〇一四六円並びに右残元金に対する昭
和六〇年六月五日から完済まで約定利率を下回る年一四・七五パーセントの割合に
よる遅延損害金の各支払を求める本訴請求は全部認容すべきものとし、これと同旨
の第一審判決を正当として控訴棄却の判決をした。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
  不動産を目的とする担保権の実行としての競売(以下「競売」という。)にお
いて、民事執行法一八八条により準用される同法六一条により数個の不動産が一括
売却された場合において、その各所有者を異にし、しかも右各不動産を目的とする
担保権の担保権者が異なるとき又は担保権者が同一であつてもその被担保債権の債
務者が異なるときは、同じく準用される同法八六条二項の「各不動産ごとに売却代
金の額を定める必要があるとき」に該当し、同項により各不動産ごとにその売却代
金の額及び執行費用の負担を定めて、それぞれの担保権者について配当の額を算出
すべきである。これを本件についてみると、D及びE所有の各不動産が競売におい
て一括売却され、その売却代金七六〇万円から執行費用三〇万三八二八円を控除し
た七二九万六一七二円が被上告人に配当され、Dに対する本件債権及び甲債権並び
にEに対する乙債権に充当されたものとされているが、一括売却された各不動産が
その所有者を異にし、さらに各不動産を目的とする担保権の被担保債権の債務者を
異にする場合であるから、前記説示のとおり右売却代金を各不動産の最低売却価額
に応じて案分し、各不動産の売却代金の額及び執行費用の負担が定められた上で、
担保権の被担保債権について配当すべき額が定められ、配当が実施されたものとい
うべきである。そして、この場合、同一の担保権者に対する配当金がその担保権者
の有する数個の被担保債権のすべてを消滅させるに足りないときは、右配当金は、
右数個の債権について民法四八九条ないし四九一条の規定に従つた弁済充当(以下
「法定充当」という。)がされるべきものであつて、債権者による弁済充当の指定
に関する特約がされていても右特約に基づく債権者の指定充当は許されないものと
解するのが相当である。けだし、不動産競売手続は執行機関がその職責において遂
行するものであつて、配当による弁済に債務者又は債権者の意思表示を予定しない
ものであり、同一債権者が数個の債権について配当を受ける場合には、画一的に最
も公平、妥当な充当方法である法定充当によることが右競売制度の趣旨に合致する
ものと解されるからである(なお、本件記録編綴の乙第一号証(民事執行法一八八
条により準用される同法八五条一項の配当表の写し)によれば、本件競売事件の配
当表には、一括売却による売却代金について、執行費用として三〇万三八二八円が、
担保権者被上告人の昭和四八年六月一二日付貸金外に対して七二九万六一七二円が
配当等実施額として掲げられており、右配当表が既に確定しているものと推認され
るが、その記載内容は適正を欠くものの、前記説示のとおりの趣旨の下において各
不動産ごとに売却代金及び執行費用の額が案分され、更に本件債権及び甲債権に法
定充当されたものと解さざるを得ない。)。
  しかるに、原判決は、前記一括売却による売却代金から執行費用を控除したも
のが本件債権、甲債権及び乙債権の総債権を消滅させるに足りないものとして被上
告人のした前記指定充当の効力をそのまま肯認しているのであるから、民事執行法
八六条二項、八五条四項及び五項並びに民法四八八条の解釈適用を誤り、ひいては
審理不尽及び理由不備の違法があり、右の誤りは、前記事実関係の下において、判
決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるところ、その影響する金額を明確にし
得ないから、原判決は結局全部破棄を免れない。そして、本件は、前記売却代金の
配当額及び右充当関係について更に審理を尽くさせるため、これを原審に差し戻す
のが相当である。
 よつて、上告人の論旨についての判断を省略し、民訴法四〇七条を適用して本件
を福岡高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    香   川   保   一
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    奧   野   久   之

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