弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決中,控訴人敗訴部分(原判決主文第1項(2)及び同(3),第2
項(2)及び同(3),第3項(2),第4項(1))をいずれも取り消す。
2上記の各部分について,被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用(補助参加費用を含む。)は,第1,2審とも被控訴人の
負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要(略称及び呼称については,特に断りのない限り,原判決に従う。)
1本件は,枚方市の住民である被控訴人が,平成15年12月10日から平成
17年3月31日までの間,当時の枚方市長及びその補助機関である職員らが,
枚方市職員給与条例(昭和23年条例第103号。但し,平成13年条例第3
7号による改正後で,平成17年条例第18号による改正前のもの。以下「本
件給与条例」という。)54条2項,56条に基づき,「非常勤職員」と呼称
された一般職の職員(甲事件∼丁事件を通じて,以下「本件非常勤職員」とい
う。)に対してした特別報酬の支給決定は,地方自治法(但し,平成20年法律
第69号よる改正前のもの。以下同じ。)203条,204条の2,地方公務
員法24条,25条等を根拠とする給与条例主義に反する違法な公金の支出で
あった旨主張して,現在の枚方市長である控訴人に対し,地方自治法242条
の2第1項4号に基づき,下記のとおり,損害賠償請求ないし不当利得返還請
求をすることの義務付けを求めた住民訴訟である。
2甲事件について
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⑴甲事件は,別紙「支給額等一覧表(甲事件)」の「非常勤職員氏名」に記
載された枚方市の一般職の職員19名(以下「甲事件の非常勤職員」という。)
が退職時に退職手当としての特別報酬の支給を受けたことについて,枚方市
の住民である被控訴人が,現在の枚方市長である控訴人に対し,地方自治法
242条の2第1項4号に基づき,①上記特別報酬が支給された当時の枚方
市長であったA(以下「A旧市長」という。),総務部長であったB(以下
「B旧総務部長」という。),人事室長であったC(以下「C旧人事室長」
という。)及び職員課長であったD(以下「D旧職員課長」という。)に対
しては,不法行為に基づく損害賠償請求として,連帯して,甲事件の非常勤
職員19名に支給された上記特別報酬相当額の合計金額(6027万013
4円)及びこれに対する平成16年4月1日(上記特別報酬の支給施行日で
ある同年3月31日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金を支払うよう,②教育委員会事務局管理部長であったE(以下
「E旧教育委員会管理部長」という。),教育長であったF(以下「F旧教
育長」という。)及び教育次長であったG(以下「G旧教育次長」という。)
に対しては,不法行為に基づく損害賠償請求として,連帯して,甲事件の非
常勤職員19名のうち「教育委員会」に所属していた職員10名(番号10
∼19)に支給された特別報酬相当額の合計金額(3412万7055円)
及びこれに対する平成16年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金を支払うよう,③甲事件の非常勤職員19名全員に対
しては,民法704条に基づく不当利得返還請求として,それぞれが受け取
った特別報酬相当額(上記別紙の「請求を求める額」記載の各金額)及びこ
れらに対する平成16年4月1日からいずれも支払済みまで民法所定の年5
分の割合による利息を支払うよう,それぞれ請求することの義務付けを求め
たものである。
⑵なお,被控訴人の①A旧市長,B旧総務部長,C旧人事室長及びD旧職員
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課長に対して損害賠償を求めることの義務付け請求は,3412万7055
円及びこれに対する平成16年4月1日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員の支払いを求める限度で,E旧教育委員会管理部長,F旧教育長及び
G旧教育次長と連帯して,また,上記別紙の「請求を求める額」記載の各金
額(番号1∼19)及びこれらに対する平成16年4月1日から支払済みま
で年5分の割合による金員の支払いを求める限度で,甲事件の非常勤職員(番
号1∼19)と個々に連帯して支払うよう請求することを義務付けるもので
ある。
次に,被控訴人の②E旧教育委員会管理部長,F旧教育長及びG旧教育次
長に対して損害賠償を求めることの義務付け請求は,3412万7055円
及びこれに対する平成16年4月1日から支払済みまで年5分の割合による
金員の支払いを求める限度で,A旧市長,B旧総務部長,C旧人事室長及び
D旧職員課長と連帯して,また,上記別紙の「請求を求める額」記載の各金
額(番号10∼19)及びこれらに対する平成16年4月1日から支払済み
まで年5分の割合による金員の支払いを求める限度で,上記職員(番号10
∼19)と個々に連帯して支払うよう請求することを義務付けるものである。
そして,被控訴人の③甲事件の非常勤職員19名のうち,<ア>「市長部局」
に所属していた職員(番号1∼9)に対して不当利得の返還を求めることの
義務付け請求は,それぞれ,上記別紙の「請求を求める額」記載の各金額(番
号1∼9)及びこれらに対する平成16年4月1日から支払済みまで年5分
の割合による金員の支払いを求める限度で,A旧市長,B旧総務部長,C旧
人事室長及びD旧職員課長と連帯して,また,<イ>「教育委員会」に所属し
ていた職員(番号10∼19)に不当利得の返還を求めることの義務付け請
求は,それぞれ,上記別紙の「請求を求める額」記載の各金額(番号10∼
19)及びこれらに対する平成16年4月1日から支払済みまで年5分の割
合による金員の支払いを求める限度で,A旧市長,B旧総務部長,C旧人事
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室長,D旧職員課長,E旧教育委員会管理部長,F旧教育長及びG旧教育次
長と連帯して支払うよう請求することを義務付けるものである。
⑶原審は,被控訴人の甲事件請求のうち,①A旧市長に対して損害賠償請求
をすることの義務付けを求めた部分については全部認容し(但し,連帯関係
としては,上記別紙の「請求を求める額」記載の各金額[番号1∼19]の支
払いを求める限度で,甲事件の非常勤職員[番号1∼19]と個々に連帯して
支払うよう求めることを義務付けた。),B旧総務部長に対して損害賠償請
求をすることの義務付けを求めた部分については,甲事件の非常勤職員のう
ち「教育委員会」に所属していた職員(番号10∼19)に支給された退職
手当としての特別報酬相当額である3412万7055円及びこれに対する
平成16年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払いを求
めた部分との関係では,同人が地方自治法242条の2第1項4号本文前段
の「当該職員」に該当しない旨認定判断してこれを却下し,その余の請求に
ついては同人に過失がない旨認定判断してこれを棄却し,C旧人事室長及び
D旧職員課長に対して損害賠償請求をすることの義務付けを求めた部分につ
いては,同人らがいずれも「当該職員」に該当しない旨認定判断してこれを
却下した。次に,②F旧教育長及びG旧教育次長に対して損害賠償請求をす
ることの義務付けを求めた部分については,同人らがいずれも「当該職員」
に該当しない旨認定判断してこれを却下し,E旧教育委員会管理部長に対し
て損害賠償請求をすることの義務付けを求めた部分については,同人に過失
がない旨認定判断して全部棄却した。そして,③甲事件の非常勤職員19名
全員に対して不当利得の返還を求めることの義務付けを求めた部分について
は,同人らに対し,それぞれが受け取った退職手当としての特別報酬相当額
(上記別紙の「請求を求める額」記載の各金額)をA旧市長と個々に連帯し
て支払うよう請求することの義務付けを求める限度で認容し,その余の請求
(悪意の受益者に基づく利息請求)を棄却した。
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3乙事件について
⑴乙事件は,別紙「支給額等一覧表(乙事件)」の「非常勤職員氏名」に記
載された枚方市の一般職の職員370名(以下「乙事件の非常勤職員」とい
う。)が平成15年度12月期の期末手当等としての特別報酬の支給を受け
たことについて,枚方市の住民である被控訴人が,現在の枚方市長である控
訴人に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,①上記特別報酬
が支給された当時の枚方市長であったA旧市長,B旧総務部長,C旧人事室
長,D旧職員課長,職員課グループ統轄リーダーであったH(以下「H旧職
員課統括リーダー」という。)に対しては,不法行為に基づく損害賠償請求
として,連帯して,乙事件の非常勤職員370名のうち「市長部局」に所属
していた職員131名(番号1∼121,361,362,364∼371)
に支給された上記特別報酬相当額の合計金額(4770万5292円)及び
これに対する平成15年12月11日(上記特別報酬の支給施行日である同
年12月10日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金を支払うよう,②A旧市長,E旧教育委員会管理部長,教育委員会
事務局管理部次長であったI(以下「I旧教育委員会管理部次長」という。),
教育委員会事務局管理部総務課長であったJ(以下「J旧教育委員会総務課
長」という。),教育委員会事務局管理部総務課グループ統括リーダーであ
ったK(以下「K旧教育委員会統括リーダー」という。)に対しては,不法
行為に基づく損害賠償請求として,連帯して,乙事件の非常勤職員370名
のうち「教育委員会」に所属していた職員239名(番号122∼357,
363,372,373)に支給された特別報酬相当額の合計金額(850
7万9496円)及びこれに対する平成15年12月11日から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう,③乙事件の非常
勤職員370名のうち,366名の職員及び死亡した職員4名の相続人(番
号1,42,183,318)に対しては,民法704条に基づく不当利得
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返還請求として,それぞれが受け取り又は相続した特別報酬相当額(上記別
紙の「請求を求める額」記載の各金額)及びこれらに対する平成15年12
月11日からいずれも支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息を支
払うよう,それぞれ請求することの義務付けを求めたものである。
⑵なお,被控訴人の①A旧市長,B旧総務部長,C旧人事室長,D旧職員課
長及びH旧職員課統括リーダーに対して損害賠償を求めることの義務付け請
求は,上記別紙の「請求を求める額」記載の各金額(番号1∼121,36
1,362,364∼371)及びこれらに対する平成15年12月11日
から支払済みまで年5分の割合による金員の支払いを求める限度で,上記職
員131名(番号1∼121,361,362,364∼371)の本人な
いし相続人(番号1,42)と個々に連帯して支払うよう請求することを義
務付けるものである。
次に,被控訴人の②A旧市長,E旧教育委員会管理部長,I旧教育委員会
管理部次長,J旧教育委員会総務課長,K旧教育委員会統括リーダーに対し
て損害賠償を求めることの義務付け請求は,上記別紙の「請求を求める額」
記載の各金額(番号122∼357,363,372,373)及びこれら
に対する平成15年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員
の支払いを求める限度で,上記職員239名(番号122∼357,363,
372,373)の本人ないし相続人(番号183,318)と個々に連帯
して支払うよう請求することを義務付けるものである。
そして,被控訴人の③乙事件の非常勤職員370名のうち,<ア>「市長部
局」に所属していた職員131名(番号1∼121,361,362,36
4∼371)の本人ないし相続人(番号1,42)に対して不当利得の返還
を求めることの義務付け請求は,それぞれ,上記別紙の「請求を求める額」
記載の各金額(番号1∼121,361,362,364∼371)及びこ
れらに対する平成15年12月11日から支払済みまで年5分の割合による
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金員の支払いを求める限度で,A旧市長,B旧総務部長,C旧人事室長,D
旧職員課長及びH旧職員課統括リーダーと連帯して,また,<イ>「教育委員
会」に所属していた職員239名(番号122∼357,363,372,
373)の本人ないし相続人(番号183,318)に不当利得の返還を求
めることの義務付け請求は,それぞれ,上記別紙の「請求を求める額」記載
の各金額(番号122∼357,363,372,373)及びこれに対す
る平成15年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払
いを求める限度で,A旧市長,E旧教育委員会管理部長,I旧教育委員会管
理部次長,J旧教育委員会総務課長及びK旧教育委員会統括リーダーと連帯
して支払うよう請求することを義務付けるものである。
⑶原審は,被控訴人の乙事件請求のうち,①A旧市長に対して損害賠償請求
をすることの義務付けを求めた部分については全部認容し(但し,連帯関係
としては,上記別紙の「請求を求める額」記載の各金額[番号1∼357,3
61∼373]の支払いを求める限度で,上記職員ないし相続人[番号1,4
2,183,318]と個々に連帯して支払うよう求めることを義務付けた。),
B旧総務部長に対して損害賠償請求をすることの義務付けを求めた部分につ
いては,同人に過失がない旨認定判断して全部棄却し,C旧人事室長,D旧
職員課長及びH旧職員課統括リーダーに対して損害賠償請求をすることの義
務付けを求めた部分については,同人らがいずれも地方自治法242条の2
第1項4号本文前段の「当該職員」に該当しない旨認定判断してこれを却下
した。次に,②E旧教育委員会管理部長に対して損害賠償請求をすることの
義務付けを求めた部分については,同人に過失がない旨認定判断して全部棄
却し,I旧教育委員会管理部次長,J旧教育委員会総務課長及びK旧教育委
員会統括リーダーに対して損害賠償請求をすることの義務付けを求めた部分
については,同人らがいずれも「当該職員」に該当しない旨認定判断してこ
れを却下した。そして,③乙事件の非常勤職員370名のうち,366名の
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職員及び死亡した職員4名の相続人(番号1,42,183,318)に対
して不当利得の返還を求めることの義務付けを求めた部分については,それ
ぞれが受け取った平成15年度12月期の期末手当等としての特別報酬相当
額(上記別紙の「請求を求める額」記載の各金額)をA旧市長と個々に連帯
して支払うよう請求することの義務付けを求める限度で認容し,その余の請
求(悪意の受益者に基づく利息請求)を棄却した。
4丙事件について
⑴丙事件は,枚方市の「教育委員会」に所属していた一般職の職員224名
(以下「丙事件の非常勤職員」という。)が平成16年度6月期の期末手当
等としての特別報酬の支給を受けたことについて,枚方市の住民である被控
訴人が,現在の枚方市長である控訴人に対し,地方自治法242条の2第1
項4号に基づき,①上記特別報酬が支給された当時の枚方市長であったA旧
市長,教育委員会事務局管理部長であったL(以下「L旧教育委員会管理部
長」という。),教育委員会事務局管理部次長であったM(以下「M旧教育
委員会管理部次長」という。),教育長であったG(以下「G旧教育長」と
いう。)及びK旧教育委員会統括リーダーに対しては,不法行為に基づく損
害賠償請求として,連帯して,丙事件の非常勤職員224名に支給された特
別報酬相当額の合計金額(8456万7334円)及びこれに対する平成1
6年7月1日(上記特別報酬の支給施行日である同年6月30日の翌日)か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう請求
することの義務付けを求めたものである。
⑵原審は,被控訴人の丙事件請求のうち,①A旧市長に対して損害賠償請求
をすることの義務付けを求めた部分については全部認容し,L旧教育委員会
管理部長に対して損害賠償請求をすることの義務付けを求めた部分について
は,同人に過失がない旨認定判断して全部棄却し,M旧教育委員会管理部次
長,G旧教育長及びK旧教育委員会統括リーダーに対して損害賠償請求をす
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ることの義務付けを求めた部分については,同人らがいずれも「当該職員」
に該当しない旨認定判断してこれを却下した。
5丁事件について
⑴丁事件は,別紙「支給額等一覧表(丁事件)」の「非常勤職員氏名」に記
載された枚方市の一般職の職員355名(以下「丁事件の非常勤職員」とい
う。)が平成16年度6月期,12月期の期末手当等としての特別報酬,平
成17年3月31日を支給施行日とする退職手当としての特別報酬の支給を
受けたことについて,枚方市の住民である被控訴人が,現在の枚方市長であ
る控訴人に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,丁事件の非
常勤職員355名のうち,①「市長部局」に所属していた職員として平成1
6年度6月期の期末手当等としての特別報酬の支給を受けた職員128名
(番号2∼40,42∼114,330∼336,339,342∼349)
及び死亡した職員2名の相続人(番号1,41)に対しては,民法704条
に基づく不当利得返還請求として,それぞれが受け取り又は相続した特別報
酬相当額(上記別紙の「16年度6月期支給額(円)」記載の各金額)及び
これらに対する上記支給以降の日である平成17年4月1日からいずれも支
払済みまで民法所定の年5分の割合による利息を支払うよう,②「市長部局」
ないし「教育委員会」に所属していた職員として平成16年度12月期の期
末手当等としての特別報酬の支給を受けた350名(すなわち,丁事件の非
常勤355名の職員から同支給を受けていない番号1,41,59,80,
295の職員[5名]を除いた350名)に対しては,民法704条に基づく
不当利得返還請求として,それぞれが受け取った特別報酬相当額(上記別紙
の「16年度12月期支給額(円)」記載の各金額)及びこれに対する上記
支給以降の日である平成17年4月1日からいずれも支払済みまで民法所定
の年5分の割合による利息を支払うよう,③「市長部局」ないし「教育委員
会」に所属していた職員として平成17年3月31日を施行日(但し,N[番
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号295]との関係では平成16年8月20日を施行日)とする退職手当とし
ての特別報酬の支給を受けた22名(番号11,12,19,24,34,
42,44,81,176,184,185,204,212,213,2
19,230,248,275,295,297,312及び313)に対
しては,民法704条に基づく不当利得返還請求として,それぞれが受け取
った特別報酬相当額(上記別紙の「16年度退職時等支給額(円)」記載の
各金額)及びこれに対する上記施行日の翌日である同年4月1日からいずれ
も支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息を支払うよう請求するこ
との義務付けを求めたものである。
⑵原審は,被控訴人の丁事件請求のうち,丁事件の非常勤職員352名の職
員及び死亡した職員3名の相続人(番号1,41,295)に対してそれぞ
れが受け取った特別報酬相当額(上記別紙の「請求を求める額」記載の各金
額)を支払うよう請求することの義務付けを求める限度で認容し,その余の
請求(悪意の受益者に基づく利息請求)を棄却した。
6控訴の提起状況について
控訴人は,以上のような原判決を不服として本件控訴を提起したが,被控訴
人は,控訴及び附帯控訴のいずれも提起しなかった。
7関係法令の定め及び前提事実について
⑴下記のとおり補正するほかは,原判決12頁7行目から33頁11行目ま
でに記載のとおりであるから,これを引用する。
⑵原判決の補正
ア原判決16頁の8行目から9行目にかけての「別表第2及び同第3の適
用を受ける職員」の次に,「(以下「常勤職員」という。)を付け加え,
12行目の「常時勤務を要する職員」を「常勤職員」と改める。
イ原判決16頁24行目の末尾に続けて,「(なお,特別報酬のうち,本
件給与条例56条1項1号所定の特別報酬を,以下「期末手当等としての
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特別報酬」といい,本件給与条例56条1項2号及び3号所定の特別報酬
を,以下「退職手当としての特別報酬」という。)」を付け加える。
ウ原判決27頁22行目の「(本件給与条例)」を削除する。
8本件の争点及び争点に関する当事者の主張(但し,当審において審理の対象
となる部分に限る。)
⑴本案前の争点
ア甲事件の請求のうち,甲事件の非常勤職員(19名)に対して不当利得
返還請求をするように求める部分(前記2⑴③),乙事件の請求のうち,
乙事件の非常勤職員366名及び死亡した非常勤職員4名の相続人に対し
て不当利得返還請求をするように求める部分(前記3⑴③)及び丁事件の
請求(前記5)は,それぞれ特定を欠き,あるいは,地方自治法242条
の2第2項1号所定の出訴期間に反するものとして不適法であるか【本案
前の争点1】
イ甲事件,乙事件及び丁事件の各訴えについて,それぞれ民事訴訟費用等
に関する法律3条1項に基づく訴え提起手数料が適法に納付されているか
【本案前の争点2】
⑵本案の争点
ア本件非常勤職員に対して本件給与条例54条2項,56条所定の特別報
酬を支給する旨を決定し,同決定に基づいて特別報酬を支給した行為は,
給与条例主義に反し,違法であるか【本案の争点1】
(ア)A旧市長から専決を任されたB旧総務部長及びE旧教育委員会管理
部長が,甲事件の非常勤職員に対し,平成16年3月31日を施行日と
する退職手当としての特別報酬を支給する旨を決定し,同決定に基づい
て上記特別報酬を支給した行為は,給与条例主義に反し,違法であるか
【本案の争点1−甲】
(イ)A旧市長から専決を任されたB旧総務部長及びE旧教育委員会管理
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部長が,乙事件の非常勤職員に対し,平成15年12月期の期末手当等
としての特別報酬を支給する旨を決定し,同決定に基づいて上記特別報
酬を支給した行為は,給与条例主義に反し,違法であるか【本案の争点
1−乙】
(ウ)A旧市長から専決を任されたL旧教育委員会管理部長が,丙事件の
非常勤職員に対し,平成16年6月期の期末手当等としての特別報酬を
支給する旨を決定し,同決定に基づいて上記特別報酬を支給した行為は,
給与条例主義に反し,違法であるか【本案の争点1−丙】。
(エ)A旧市長から専決を任された「市長部局」の平成16年度の総務部
長及びL旧教育委員会管理部長が,丁事件の非常勤職員に対し,平成1
6年6月期,12月期の期末手当等,平成17年3月31日を施行日と
する退職手当としての特別報酬をそれぞれ支給する旨を決定し,同決定
に基づいて上記各特別報酬を支給した行為は,給与条例主義に反し,違
法であるか【本案の争点1−丁】
イA旧市長は,本件非常勤職員に対する特別報酬の支給を阻止しなかった
ことについて,不法行為に基づく損害賠償責任を負うか【本案の争点2】
ウ本件非常勤職員は,枚方市に対し,それぞれに支給された特別報酬につ
いて,不当利得返還義務を負うか【本案の争点3】
(3)争点に関する当事者の主張は,下記(4)を付け加えるほかは,原判決39
頁5行目から76頁16行目までに記載のとおりであるから,これを引用す
る。
(4)控訴人補助参加人Aの主張
ア枚方市のように非常勤職員に対して期末手当等あるいは退職手当として
の給与を支給したり,本件給与条例と同様に非常勤職員に対する特別報酬
の支給額を決定するのに必要な月額報酬の額及び具体的な支給率等を条例
に明記しないで規則に委任している普通地方公共団体は多数存在してい
−13−
る。
イ平成13年に本件給与条例を改正するにあたり,非常勤職員に特別報酬
を支給したり,その額を決定するのに必要な月額報酬の額及び具体的な支
給率等を条例に明記しないで規則に委任することについて,複数の議員か
ら批判されたことは事実であるが,それでも枚方市の議会は,上記改正を
賛成多数で可決した。
ウこれらの事実等によれば,A旧市長が,本件給与条例の特別報酬に関す
る規定が給与条例主義に反しないものとして適法であるという見解に立脚
したことには相当の根拠があったというべきであり,本件非常勤職員に対
して特別報酬を支給することを阻止しなかったことについて,故意又は過
失があったとはいえず,不法行為責任を負うことにはならない。
第3当裁判所の判断
1本案前の争点1(甲事件の請求のうち,甲事件の非常勤職員[19名]に対し
て不当利得返還請求をするように求める部分,乙事件の請求のうち,乙事件の
非常勤職員366名及び死亡した非常勤職員4名の相続人に対して不当利得返
還請求をするように求める部分及び丁事件の請求は,それぞれ特定を欠き,あ
るいは,地方自治法242条の2第2項1号所定の出訴期間に反するものとし
て不適法であるか)について
(1)当裁判所も,原審と同じく,甲事件の請求のうち上記請求部分,乙事件の
請求のうち上記請求部分及び丁事件の請求は,それぞれ特定に欠けたり,あ
るいは,法定の出訴期間に反するものではなく,いずれも適法と判断する。
その理由は,下記のとおり補正するほかは,原判決87頁14行目から9
4頁9行目に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)原判決の補正
ア原判決87頁14行目の「甲事件の請求(3)及び同(4)」を,「甲事件の
請求のうち,甲事件の非常勤職員(19名)に対して不当利得返還請求を
−14−
するように求める部分」と,同行目の「乙事件請求(4)及び同(5)」を,「乙
事件の請求のうち,乙事件の非常勤職員366名及び死亡した非常勤職員
4名の相続人に対して不当利得返還請求をするように求める部分」とそれ
ぞれ改めた上,以下,同様に読み替える。
イ原判決94頁7行目の「本案前の争点③」を,「本案前の争点1」と改
める。
2本案前の争点2(甲事件,乙事件及び丁事件の各訴えについて,それぞれ民
事訴訟費用等に関する法律3条1項に基づく訴え提起手数料が適法に納付され
ているか)について
(1)当裁判所も,甲事件,乙事件及び丁事件について,いずれも適法に訴え提
起手数料が納付されているものと判断する。
その理由は,下記のとおり補正するほかは,原判決94頁11行目から9
8頁4行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)原判決の補正
ア原判決97頁10行目の「同一の日」の次に,「(但し,N[別紙『支給
額等一覧表(丁事件)』の番号295]との関係では,平成16年8月20
日)」を付け加える。
イ原判決97頁13行目の「後記6(2)のとおりの経緯で」を,「引用した
原判決124頁以下に記載のとおりの経緯で」と改める。
3本案の争点1(本件非常勤職員に対して本件給与条例54条2項,56条所
定の特別報酬を支給する旨を決定し,同決定に基づいて特別報酬を支給した行
為は,給与条例主義に反し,違法であるか)について
⑴地方公務員の任用に関する法令の定め,非常勤の国家公務員に対する給与
の支払いに関する法令の定め,地方自治法203条,204条及び204条
の2の改正経緯,枚方市に勤務する一般職の職員(常勤職員及び非常勤職員)
の勤務条件の状況,本件給与条例及び本件非常勤職員給与規則が制定された
−15−
経緯,本件非常勤職員の勤務実態,本件非常勤職員に対する特別報酬の支給
手続等については,下記のとおり補正するほかは,原判決78頁11行目か
ら82頁1行目まで及び102頁5行目から140頁22行目までにそれぞ
れ記載のとおりであるから,これを引用する。
ア原判決78頁11行目の「前記前提となる事実等」を「前記前提事実等」
と改める。
イ原判決81頁25行目の「K教育委員会総務課長」を「K旧教育委員会
統括リーダー」と改める。
ウ原判決102頁5行目の「前記1(3)」を,「前記において引用した原判
決部分(78頁14行目から82頁1行目)」と改める。
エ原判決111頁8行目から13行目まで及び115頁4行目から118
頁3行目までをいずれも削除する。
オ原判決121頁5行目の「呼称されており,」の次に,「地方公務員法
17条に基づき,」を付け加える。
カ原判決134頁7行目の「平成17年4月1日」を「平成14年4月1
日」と改める。
キ原判決138頁15行目の「記載されており,」の次に,「当該非常勤
職員が希望すれば,特別の事情のない限り,」を付け加える。
ク原判決139頁8行目の「各職種まとめ」を「本件非常勤職員の職務等
一覧表」と改め,以下,同様に読み替える。
ケなお,「A市長」を「A旧市長」と読み替えることとし,枚方市の職員
の呼称について,市長部局にあっては,「B旧総務部長」,「C旧人事室
長」,「D旧職員課長」,「H旧職員課統括リーダー」と,教育委員会に
あっては,「F旧教育長」,「G旧教育次長」,「I旧教育委員会管理部
次長」,「J旧教育委員会総務課長」,「M旧教育委員会管理部次長」,
「K旧教育委員会統括リーダー」と,それぞれ読み替える。
−16−
⑵被控訴人は,本件非常勤職員は,枚方市から「非常勤職員」として任用を
受けているのであるから,地方自治法204条1項の「常勤の職員」には該
当せず,期末手当等及び退職手当としての特別報酬の支給を受けることは違
法である旨主張する。
しかしながら,そもそも,地方自治法204条1項所定の「常勤の職員」
が「給与」の一部として同条2項所定の諸手当(特に,生活費の補助として
の性質を有する期末手当,勤務成績を評価して支給される勤勉手当や給与の
後払い的な性質を有する退職手当)の支給を受けることができるものとされ
たのは,上記「常勤の職員」に対しては,純粋に勤務時間に実働した勤務自
体の対価としての意味を持つ報酬ないし給与に加え,日常的かつ固定的に勤
務を継続しているという観点及び普通地方公共団体から支給を受ける「給与」
を生計の資本としてそれぞれの生活を維持しているという観点にかんがみ
て,このような生活の実情に応じた経済的手当を支給するのが適切な勤務形
態であることを考慮したものと解される。したがって,「常勤の職員」とは,
地方公務員としての勤務に要する時間が普通の労働者の労働時間と同程度で
あり,かつ,その者の生活における収入の相当程度を地方公務員としての勤
務による収入に依存する職員をいうと解すべきである。そうすると,普通地
方公共団体に勤務する一般職の職員が地方自治法204条1項の「常勤の職
員」に該当するか否かについては,任用を受ける際に合意した勤務条件,実
際に従事した職種及び職務内容,実働の勤務時間等の勤務実態に関する具体
的事情を検討した上で,それぞれの職員が生計の資本としての収入を得るこ
とを主たる目的として当該職務に従事してきたものであるか否かによって判
断するのが相当であり,それぞれの職員がどのような呼称によって任用を受
けたかという形式的な理由によって区別されるものではないというべきであ
る。
そこで,本件非常勤職員の勤務実態に関する上記のような具体的事情を検
−17−
討すると,前記認定事実(補正して引用した原判決18頁∼23頁参照)に
よれば,本件非常勤職員は,いずれも常勤職員と同様に地方公務員法17条
に基づいて任用された一般職の職員であり,同人らの職種,職務内容及び勤
務時間等は,別紙「本件非常勤職員の職務等一覧表」記載のとおりであると
ころ,勤務時間を見る限りでは,週38時間45分と定められている常勤職
員の勤務時間(職員の勤務時間・休暇等に関する条例2条1項,同条例施行規
則3条1項参照)と比較してほとんどがそれを下回っている(本庁舎宿日直
代行員のみが39時間余りとなっている。)ものの,少なくとも週4日ない
し月15日の出勤を義務付けられ,週勤務時間数は最短の職務でも29時間
を超えている(すなわち,「非常勤職員の勤務時間及び休暇」[平成6年7月
27日号外人事院規則15−15]によれば,「非常勤職員の勤務時間は…常
勤職員の1週間当たりの勤務時間の4分の3を超えない範囲内において,各
省庁の長…の任意に定めるところによる。」ものとされているところ,本件
非常勤職員の勤務時間は,枚方市に勤務する常勤職員の勤務時間[38時間4
5分]の4分の3に相当する時間とほとんど同じかそれを上回っていること
が認められる。)上,1日の実働時間は基本的に8時間という日常的かつ固
定的な勤務形態の下で業務に従事するものであって,中には,かつて常勤職
員が行っていた業務を引き継いだり,あるいは,常勤職員と共同して業務に
従事する職種(上記別紙の番号4,7∼13,18∼20)も含まれており
(丙32,34,丁1,4∼10,12),地方公務員法38条所定の制限
(営利企業等に従事することの制限)を受けるものとされていたことが認め
られるほか,その一方で,当該非常勤職員が希望すれば,特別の事情のない
限り,非常勤嘱託等の定年に関する要綱(甲∼丙事件の乙5)ないし非常勤
職員の任期に関する要綱(乙12)によって定められた定年ないし更新停止
年齢に達するまでの間,毎年任期の更新を重ねて受けることができていたと
いうのである。
−18−
そうすると,本件非常勤職員が「非常勤職員」と呼称されていることに法
的な意味を認めることはできないのであって,本件非常勤職員の勤務実態は,
常勤職員と大きく変わるものではなく,本件非常勤職員も,常勤職員と同様,
生計の資本としての収入を得ることを主な目的としてそれぞれの職務にそれ
ぞれ従事してきたものと推認されるから,本件非常勤職員は,地方自治法2
03条所定の「非常勤の職員」ではなく,同法204条所定の「常勤の職員」
に該当するものと解するのが相当である(なお,本件非常勤職員が任用時に
おいて「非常勤嘱託に任ずる」ものとされた上で雇用期間を「発令日から1
年」とされたのは[原判決138頁参照],地方自治法172条において,「常
勤の職員」の人数が条例で定められた定数を超えることができないものとさ
れている関係上,本件非常勤職員を任用することによって上記定数を超えて
しまうことのないように,形式的に「非常勤の職員」として採用せざるを得
なかったからにすぎないというべきである。)。
したがって,本件非常勤職員は,常勤職員と同様,地方公務員法24条6
項所定の条例に基づく限り,地方自治法204条2項所定の各種手当(期末
手当,退職手当等)の支給を受けることができるということになる(地方公
務員法25条1項)。
以上に反する被控訴人の主張は,すべて採用することができない。
⑶次に,被控訴人は,本件給与条例には本件非常勤職員に支給された特別報
酬の額を決定するのに必要な具体的な基準が規定されていないから,職員の
給与は条例に基づいて支給されなければならないという給与条例主義(地方
自治法204条3項,同法204条の2,地方公務員法24条6項,同法2
5条1項等)に反するものであるとして,本件非常勤職員に特別報酬を支給
した行為は違法かつ無効である旨主張するので,以下検討する。
まず,地方自治法204条3項によれば,「給料,手当…の支給方法は,
条例でこれを定めなければならない。」とされ,同法204条の2によれば,
−19−
「普通地方公共団体は…いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく
条例に基づかずには,これを…職員に支給することができない。」とされ,
地方公務員法24条6項によれば,「職員の給与…は,条例で定める。」と
され,同法25条1項によれば,「職員の給与は,前条第6項の規定による
給与に関する条例に基づいて支給されなければならず,又,これに基づかず
には…支給してはならない。」とされているところ,これらの条項によれば,
枚方市の一般職員についても,常勤職員だけではなく,個々の非常勤職員と
の関係でも,同人らに支給される特別報酬の額を決定するのに必要な具体的
基準及び具体的数値(特別報酬の基礎額となる月額報酬の額及び特別報酬を
計算するための支給率)が本件給与条例自体にすべて規定されるのが望まし
いということはできるものの,だからといって,「条例で定める」あるいは
「条例に基づいて」という文言から,条例自体に上記のような具体的基準及
び具体的数値が明確に規定されていなければならないとか,条例によって手
当に関する具体的な支給要件,額,支給方法を規則等に委任することが一切
許されないものとは解されず,以下に述べる理由により,上記各条項にいう
給与条例主義にあっても,条例によって給与の額の具体的な決定を執行機関
に委ねることは許されているものと解すべきである(上記各条項にいう「条
例」とは,上記のような具体的基準及び具体的数値そのものを規定した条例
を意味するものではなく,非常勤職員に給与を支給するにあたっての指針と
なるような基本的事項を示した総論的な意味での条例と解することは文理上
十分に可能である。)。
そもそも,地方自治法204条3項,同法204条の2,地方公務員法2
4条6項,同法25条1項等によって給与条例主義が定められたことの主な
趣旨は,地方公務員に対して支給される給与の額及びその支給方法を住民の
直接選挙で選出された議員によって構成される議会の制定する条例において
定めることにより,その民主的統制を図ることにある(なお,付随的な趣旨
−20−
としては,地方公務員が労働基本権について一定の制約を受けることを考慮
し,安定性の高い給与の支給を受けることのできる法的地位を付与すること
にあるものと解される。)ところ,上記のような具体的基準及び具体的数値
が条例自体に定められていなくても,条例において,給与の額及び支給方法
についての基本的事項が規定されており,ただ,その具体的な額及び具体的
な支給方法を決定するための細則的事項についてこれを他の法令に委任して
いるにとどまる場合には,直ちに上記各条項にいう給与条例主義の趣旨を損
なうものではないというべきである。
これを本件についてみると,前記前提事実等によれば,本件給与条例は,
①54条2項において,非常勤職員に対し,普通報酬及び特別報酬を支給す
るものと定め,②55条2項において,普通報酬(月額報酬及び超過勤務報
酬)のうち,月額報酬については31万6800円を超えない金額を規則で
定めるものとし,③56条1項において,期末手当等としての特別報酬の支
給基準日を「6月1日」及び「12月1日」,退職手当としての特別報酬の
支給基準日を「満60歳に達する日以後における最初の3月31日」とそれ
ぞれ定めた上で,④56条2項の1号イ及びロにおいて,1の年度における
基準日ごとの支給率については「100分の300」及び「100分の14
0」を超えない率及び基準日までの在職期間が6か月に満たない場合に減ず
べき割合をそれぞれ規則で定めるものとし,⑤56条2項2号において,退
職手当としての特別報酬の支給額を決定するのに必要な乗率については「2
6.015」を超えない数値を規則で定めるものとしているところ,上記②,
④及び⑤において規則で定めるべきものとされた「(月額報酬の)金額」,
「支給率」,「割合」,「乗率」については,いずれも本件非常勤職員給与
規則において具体的に規定されている(原判決別紙「本件非常勤職員給与規
則の別表」参照)というのであるから,給与の額及び支給方法についての基
本的事項は本件給与条例において定められており,その具体的な額等を決定
−21−
するための細則的事項を規則に委任しているにとどまるものと解することが
できる。
そうすると,本件非常勤職員に支給された特別報酬は,上記①のとおり,
本件給与条例54条2項に基づいて支給されるものであるから,上記特別報
酬が「条例に基づいて支給」(地方公務員法25条1項)されるものである
ことに変わりはなく,また,上記特別報酬は,本件給与条例55条1項及び
56条2項において定められた月額報酬及び支給率の上限値という給与の額
及び支給方法についての基本的事項に基づき,その範囲内で,本件非常勤職
員給与規則の別表に定められた「(月額報酬の)金額」,「支給率」,「割
合」,「乗率」をもとに決定されるものであるところ,同規則(本件非常勤
職員給与規則)は,地方自治法15条の「規則」として,枚方市民の直接選
挙によって選出された枚方市長が制定したものであり,地方自治法16条5
項本文によって条例に準じた公布及び施行の手続を経た上で住民に公開され
ているものであることを併せ考えれば,給与条例主義の趣旨である地方公務
員の給与に対する民主的統制の要請に反するものとはいえないというべきで
ある。
⑷これに対し,被控訴人は,本件給与条例自体に特別報酬の額を決定するた
めの具体的基準及び具体的数値そのものを規定することが法律上要請されて
いるものと解釈した上で,それらを規則に委任することは給与条例主義の趣
旨を没却するものである旨主張する。
しかしながら,前記において説示したとおり,給与条例主義の根拠とされ
る各条項の文理に照らせば,被控訴人が主張するような厳格な解釈を当然に
採用すべきものとは解されない上,特別報酬の額を決定するための具体的基
準及び具体的数値そのものが条例自体に規定されず,それらが規則に委任さ
れているとしても,その上限値については本件給与条例の55条2項及び5
6条2項において規定されているのであるから,枚方市長が規則の制定を通
−22−
じて特別報酬の支給額を恣意的ないし無制限に決定することは事実上困難で
あるのみならず,そもそも,給与条例主義の主たる趣旨が地方公務員に支給
される給与について民主的統制を図ることにあり,しかも,直接的な民主的
基盤を有する規則の法的性格をも併せ考えるならば,本件給与条例自体に上
記のような具体的基準及び具体的数値が規定されていなくても,本件給与条
例において少なくとも給与の額及び支給方法についての基本的事項が定めら
れており,かつ,その具体的な額等を決定するための細則的事項が本件非常
勤職員給与規則に定められている本件においては,本件給与条例及び本件非
常勤職員給与規則に基づく本件非常勤職員に対する特別報酬の支給が給与条
例主義の趣旨を没却した結果になっているとはいえず,給与条例主義に反す
るものではないというべきである。
また,給与条例主義によって地方公務員に支給される給与を民主的に統制
すべきものとされた理由は,その給与が地方公共団体の税収等の財源によっ
てまかなわれるものであり,上記給与の総額が増加することは住民の経済的
負担を増大させることにかんがみ,これを財政民主主義の観点により抑制す
ることが要請されているからであるところ,法律及び条例によって職務上の
地位が長期的に保障されている常勤職員(地方公務員法27条以下参照)と
は異なり,雇用期間が1年に限定されている非常勤職員については,翌年度
以降の職務上の地位が必ずしも保障されているものではない(保障すべきこ
とが当然には予定されていない。)ことからすると,非常勤職員に支給され
る給与については,非常勤職員個人に支給される給与の上限を条例において
規定するとともに,非常勤職員全員に支給される給与の総額については,会
計年度ごとに他の歳出予算とともに議会の統制を受けるものとし(地方自治
法96条1項2号,210条,211条参照),その具体的配分に関しては
任用権者及び執行機関に委ねるべく規則に委任したとしても,議会を通じた
民主的統制の及ばないところで非常勤職員の給与が恣意的に増加するおそれ
−23−
があるとはいえないのであって,本件給与条例においても,月額報酬及びそ
れを基礎額とする特別報酬について,それらの上限を画する金額及び支給率
等という給与の額及び支給方法についての基本的事項が定められているので
あれば,財政上の民主的統制を損なうことにはならないというべきである。
さらに,前記認定事実(引用した原判決120頁∼123頁参照)のほか,
別紙「本件非常勤職員の職務等一覧表」記載のとおりの本件非常勤職員が従
事する職種及び職務内容等を見れば,その職種,採用方法,職務内容,勤務
形態等は多様であり,元々,本件非常勤職員を任用することになった経緯と
しては,それぞれの職務等が永続的ないし長期的に維持すべき必要性を有す
るものであるかどうかはともかく,その時々の社会情勢に応じて多種多様な
行政サービスを可能な限り提供すべきことが要請される一方で,条例上定数
に限界のある常勤職員によっては物理的に対応することが困難な実情も存在
していたことが窺われるところ,このような本件非常勤職員に対して支給す
べき給与の額をあらかじめ条例において固定的に規定しておくことは,その
職種の非定型的かつ臨時的性質にかんがみ,必ずしも適切ないし容易である
とはいえず,規則において柔軟かつ機動的に対応できるように定めることに
は十分な合理性があるということができるのであって,これらの背景事情を
考えるならば,特別報酬の額を決定するのに必要な具体的基準及び具体的数
値を条例(本件給与条例)に規定するのではなく,それを規則(本件非常勤
職員給与規則)に委任しているからといって,給与の額及び支給方法につい
ての基本的事項を条例に定めている限り,給与条例主義の趣旨である民主的
統制が弱められているということはできない。
なお,公務員の給与等の勤務条件に対する民主的統制を図るべきことは,
国家公務員と地方公務員において何ら異なるものではない(最高裁昭和51
年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号1178頁参照)。そして,国家
公務員に給与を支給するための根拠法規は,一般職の職員の給与に関する法
−24−
律(いわゆる給与法)であり,その3条2項によれば,「いかなる給与も,
法律又は人事院規則に基づかずに職員に対して支払い,又は支給してはなら
ない。」ものとされているところ,これに対し,地方公務員に給与を支給す
るための根拠法規は,地方自治法ではなく,地方公共団体が制定した給与に
関する条例であるから,国家公務員に関しては「法律又は人事院規則」にそ
の給与の額を決定するのに必要な具体的基準及び具体的数値を規定すべきも
のとされているのであれば,地方公務員に関しても「条例」又は「規則」に
その給与の額を決定するのに必要な具体的基準及び具体的数値が規定される
ことが要請されているというべきである(もっとも,国家公務員の給与につ
いて人事院規則に白紙的な委任をすることが許されないのと同様,地方公務
員の給与についても規則に白紙的な委任が許されないのは当然であるととも
に,給与条例主義により,少なくとも給与の額及び支給方法についての基本
的事項が条例において定められるべきことは,前記説示のとおりである。)。
そうすると,枚方市が非常勤職員に対して特別報酬を支給するにあたり,
その額及び支給方法についての基本的事項として,本件給与条例54条2項
において,非常勤職員には普通報酬及び特別報酬を支給するものと定める一
方で,55条2項において,上記特別報酬の基礎額となる月額報酬の上限額
(31万6800円)を定め,56条2項の1号イ及びロにおいて,期末手
当等としての特別報酬の額を決定するのに必要な支給率の上限率(100分
の300,100分の140)を定め,56条2項2号において,退職手当
としての特別報酬を決定するのに必要な乗率の上限率(26.015)を定
めた上で,月額報酬の具体的な額(給与表)や特別報酬の額を決定するため
の具体的な支給率等については規則(本件非常勤職員給与規則)に委任する
という給与体系を採用しているからといって,給与条例主義に反するもので
はないというべきである。
以上に反する被控訴人の主張は,すべて採用することができない。
−25−
⑸その他本件全証拠を検討しても,原判決別紙「本件非常勤職員給与規則の
別表」に定められた特別報酬の基礎額となる月額報酬に関する給与表(別表
第1)及び特別報酬の額を決定するのに必要な支給率等(別表第2∼第6)
が常勤職員のそれと比較して不当に高いものであるとはいえず,これらの金
額ないし数値を設定した枚方市長において,その裁量権を逸脱するような違
法があったとは認められない(そもそも,被控訴人からそのような主張がな
されているものでもない。)。
したがって,本件非常勤職員に対し,本件非常勤職員給与規則において定
められたそれぞれの月額報酬を基礎額として同規則において定められた支給
率等に基づいて決定された特別報酬を支給した行為がいずれも違法ないし無
効であるとは認められない。
⑹以上によれば,下記のとおり,被控訴人の各請求(甲事件請求∼丁事件請
求)は,その余について検討するまでもなく,いずれも理由がない。
アA旧市長から専決を任されたB旧総務部長及びE旧教育委員会管理部長
が,甲事件の非常勤職員に対し,平成16年3月31日を施行日とする退
職手当としての特別報酬を支給する旨を決定し,同決定に基づいて上記特
別報酬を支給した行為は,いずれも給与条例主義に反するものではなく,
適法である。
イA旧市長から専決を任されたB旧総務部長及びE旧教育委員会管理部長
が,乙事件の非常勤職員に対し,平成15年12月期の期末手当等として
の特別報酬を支給する旨を決定し,同決定に基づいて上記特別報酬を支給
した行為は,いずれも給与条例主義に反するものではなく,適法である。
ウA旧市長から専決を任されたL旧教育委員会管理部長が,丙事件の非常
勤職員に対し,平成16年6月期の期末手当等としての特別報酬を支給す
る旨を決定し,同決定に基づいて上記特別報酬を支給した行為は,いずれ
も給与条例主義に反するものではなく,適法である。
−26−
エA旧市長から専決を任された「市長部局」の平成16年度の総務部長及
びL旧教育委員会管理部長が,丁事件の非常勤職員に対し,平成16年6
月期,12月期の期末手当等,平成17年3月31日を施行日とする退職
手当としての特別報酬をそれぞれ支給する旨を決定し,同決定に基づいて
上記特別報酬を支給した行為は,いずれも給与条例主義に反するものでは
なく,適法である。
4本案の争点2(A旧市長は,本件非常勤職員に対する特別報酬の支給を阻止
しなかったことについて,不法行為に基づく損害賠償責任を負うか)について
⑴当裁判所は,前記3において説示したとおり,本件非常勤職員に対して特
別報酬を支給したことは適法であると判断するものであるが,仮に,それが
給与条例主義に反するものとして違法であったとしても,A旧市長において,
補助職員の専決により財務会計上の違法行為である上記特別報酬の支給をす
ることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反したものであるとか,故意又は
過失によりこれを阻止しなかったとまでは認められず,不法行為責任を負う
ものではないというべきである。その理由は,次のとおりである。
⑵被控訴人は,常勤職員及び非常勤職員を問わず,地方公務員である職員に
支給される給与については,その額を決定するのに必要な具体的基準及び具
体的数値となる月額報酬の額及び支給率等を条例自体に規定するのが給与条
例主義の要請であるとした上で,①本件給与条例が平成13年に改正される
に先立って審議された議会においても,複数の議員から,本件非常勤職員に
特別報酬を支給するにあたり,本件給与条例に上記特別報酬の額を決定する
のに必要な具体的基準及び具体的数値を規定せずにそれらを規則に委任する
ことは給与条例主義に反する旨の指摘がなされていただけではなく,②昭和
54年8月31日自治給発第31号各都道府県知事,各指定都市市長あての
行政局公務員部長通知「違法な給与の支給等の是正について」(以下「昭和
54年通知」という。)により,「条例において単に給与の支給根拠のみを
−27−
定め,具体的な額,支給要件等の基本的事項をすべて長又は規則に委任する
ようなことは給与条例主義の趣旨に反するものであり,その内容は条例に明
確に定めること。」という指導がなされていたことからすれば,本件非常勤
職員を含む枚方市の非常勤職員に対して特別報酬を支給するものとしたり,
特別報酬の額を決定するのに必要な具体的基準及び具体的数値を規則(本件
非常勤職員給与規則)に委任することはいずれも違法と解するのが当然であ
って,これを違法と解しないことについて相当の根拠があったとはいえない
として,本件非常勤職員に対する特別報酬の支給を阻止しなかったA旧市長
は,その過失責任を免れない旨主張する。
しかしながら,ある事項に関する法律解釈について異なる見解が対立し,
実務上の取扱いも分かれており,そのいずれについても相当の根拠が認めら
れる場合において,公務員がその一方の見解を正当と解し,これに立脚して
公務を執行したときは,後にその執行が違法と判断されたからといって,直
ちに上記公務員に過失があったものとすることは相当でないというべきであ
るところ(最高裁昭和46年6月24日第一小法廷判決・民集25巻4号5
74頁,最高裁平成16年1月15日第一小法廷判決・民集58巻1号15
6頁,最高裁平成16年3月2日第三小法廷判決・裁判集民事213号61
3頁参照),被控訴人が指摘する上記各事実のうち,①は単に法律解釈につ
いて異なる見解が対立していたというにすぎないし,また,証拠(丙44の
1,2)及び弁論の全趣旨によれば,②において引用する昭和54年通知が
発せられた背景には,その当時に実働を伴わない給与等の違法支給が行われ
ていたという事例が多数報道されて社会的に問題となっていたことが窺われ
るものの,非常勤職員に給与を支給するにあたって,条例ではその上限額及
び総額を画する数値を定めることにして個別具体的な給与の額を決定するの
に必要な具体的基準及び具体的数値(月額報酬の額及び支給率等)について
はこれを規則に委任することまで厳格に禁止する趣旨で発せられたものとは
−28−
解されない(そのことは昭和54年通知の文理に照らしても明らかであり,
本件給与条例が,基本的な事項の「すべて」を規則に委任していたものとは
到底解されない。)から,上記①②のような事実が存したことをもって,本
件給与条例の特別報酬に関する規定が違法と解するのが当然であったとか,
これを違法と解しないことについて相当の根拠がなかったということはでき
ない。
⑶かえって,次のような事実等が認められることからすると,被控訴人の上
記主張とは逆に,A旧市長が本件給与条例の特別報酬に関する規定は違法で
はないと解した上で,補助職員が専決により本件非常勤職員給与規則に基づ
いて本件非常勤職員に特別報酬を支給するのを阻止しなかったことについて
は,相当な根拠があったものというべきである。
アまず,枚方市とは別の市に関する事案であるものの,「市が任用した非
常勤の嘱託員に報酬を支給するにあたり,市の条例では『月額27万円又
は日額1万2700円の範囲内で任命権者の定める月額又は日額』とした
上で,その具体的な報酬額を市長の定める『支給内規』に規定していたと
ころ,上記市の住民が,そのような報酬の支給は違法であるとして,市長
を被告として,当時の市長に損害賠償を請求をするように求めた」という
住民訴訟の控訴審(大阪高等裁判所平成19年(行コ)第17号)において,
「非定型的・臨時的で報酬額を予め定め難い非常勤の嘱託員については,
報酬の限度額,支給の方法その他の基本的な事項については条例に規定し,
一定の限度額の範囲で任命権者に具体的な額の決定を委任しているもので
あり,その…委任の在り方には,十分な合理性が認められるものであって,
…給与条例主義の趣旨を没却するものではないと考えられるので,委任の
限界を超えるものではなく当然に許容されるものである。」と判示した上
で,「(上記支給内規に基づく非常勤の嘱託員に対する)報酬の支給が違
法であるとは認められない。」として上記住民の請求を棄却する旨の判決
−29−
(大阪高等裁判所平成19年10月31日判決・判例時報2021号15
頁)がなされ,その後,同判決は上告不受理によって確定したという事例
が存した(丁25,弁論の全趣旨)。
イ同様に,枚方市とは別の市に関する事案であるものの,「市が任用した
嘱託職員に退職手当としての離職報償金を支給するにあたり,市の条例で
は『(嘱託職員の報酬月額を)職務の複雑性,困難性…に基づき,規則で
定める額とする。』とした上で,『規則』において退職手当としての離職
報償金を支給する旨の規定を設けていたところ,上記市の住民が,そのよ
うな離職報償金の支給は違法であるとして,市長を被告として,上記嘱託
職員に不当利得の返還請求をするように求めた」という住民訴訟の控訴審
(東京高等裁判所平成20年(行コ)第19号)において,「(仮に,上記
のような離職報償金の支給が)給与条例主義違背の疑念を残すとしても,
(その後に退職手当の支給を明確化した)支給条例及び上記離職報償金に
ついては上記退職手当の支給の内払いとみなす旨定めた改正条例とが制定
されたことにより,上記の瑕疵がさかのぼって治癒され,…(上記のよう
な)離職報償金の支給は適法なものとされた」と判示した上で,「嘱託職
員に離職報償金分の不当利得があるとは認めることができない」として上
記住民の請求を棄却した第1審判決に対する控訴を棄却した判決(東京高
等裁判所平成20年7月30日判決)がなされ,その後,同判決は確定し
たという事例が存した(丁21,弁論の全趣旨)。
なお,上記事例での「支給条例」及び「改正条例」によれば,嘱託職員
に支給する退職手当は,規則によって定められる報酬月額に一定の支給率
を乗じて決定するというものであって,要するに,退職手当の額を具体的
に決定する報酬月額は条例で規定されずに規則に委任するものとされてお
り,嘱託職員に支給する退職手当の額を決定するのに必要な具体的基準及
び具体的数値が条例上規定されていたものではなかったところ(丙46,
−30−
47),上記判決は,たとえそのような条例に基づく嘱託職員に対する退
職手当の支給であったとしても給与条例主義に反するものではなく適法で
ある旨の判断をしたものであった。
ウまた,従前の給与条例から本件給与条例に改正された平成13年当時,
大阪府内において,「非常勤職員」あるいは「非常勤の嘱託員」などと呼
称されていた一般職の職員に対して期末手当等(これと同視すべき給付金
を含む。)を支給している普通地方公共団体は25団体存在し,退職手当
(これと同視すべき給付金を含む。)を支給している団体も11団体存在
したところ(甲96),平成21年現在においても,同様の呼称によって
普通地方公共団体の業務に従事する一般職の職員の給与について,条例上
はその最高額(上限額)を定めるのみで,個別具体的な額の決定について
は任命権者の裁量に委ねるものとしている普通地方公共団体は,枚方市以
外にも多数存在する(丙53)。
⑷そうすると,仮に,現時点における法的判断として,枚方市が,平成15
年度及び平成16年度の当時,本件給与条例において,非常勤職員に支給す
る特別報酬の基礎額となる月額報酬についてはその上限額しか定めず,また,
上記特別報酬の額を決定するのに必要な支給率等についてもその上限値しか
定めることなく,それらの具体的な金額ないし数値を規則(本件非常勤職員
給与規則)に委任していたことが給与条例主義に反するものであり,その結
果,本件非常勤職員に特別報酬を支給したことはすべて違法である旨解され
ることになったとしても,A旧市長が補助職員の専決による上記財務会計上
の行為を阻止しなかったことについて故意又は過失があったということはで
きない。
したがって,前記3(本案の争点1)に説示したとおりの理由だけではな
く,上記のような理由からも,被控訴人が,控訴人に対し,不法行為に基づ
く損害賠償請求として,A旧市長に対して本件非常勤職員に支給された特別
−31−
報酬相当額及びこれに対する遅延損害金を支払うよう請求することの義務付
けを求めた請求は理由がなく,棄却を免れない。
5本案の争点3(本件非常勤職員は,枚方市に対し,それぞれに支給された特
別報酬について,不当利得返還義務を負うか)について
⑴普通地方公共団体の職員は,当該団体との間で,法律又はこれに基づく条
例によって給与の支給を受けることを合意した上で,地方公務員法17条以
下の手続に基づいて任用を受けるものであるところ,このような任用関係か
らすれば,上記合意を含む任用手続が公序良俗その他社会正義に著しく反す
るものであったとか,重大かつ明白な瑕疵が存したものであったなどの特段
の事情がない限り,支給された給与については,命ぜられた職務に従事した
ことの対価及び生計の資本として受け取ることができるものというべきであ
り,これを不当利得として返還すべき義務を負わないと解するのが相当であ
る。
そこで検討すると,前記3⑵において認定説示したとおり,本件非常勤職
員は,生計の資本となる収入を得ることを主たる目的として任用を申し込み,
枚方市との間で,常勤職員と同様に,地方公務員法17条以下に従って枚方
市において定められた手続に基づき,いずれも本件非常勤職員給与規則に基
づく月額報酬及びそれを基礎額とする特別報酬の支給を受けることを合意し
た上で任用を受けたものであり,また,本件非常勤職員給与規則の別表に定
められた本件非常勤職員に支給される特別報酬の基礎額となる月額報酬の額
(別表第1)及び特別報酬の額を決定するのに必要な支給率等(別表第2∼
第6)を見ても,常勤職員のそれと比較して不当に高いものであるとはいえ
ず,これらの金額ないし数値を設定した枚方市長において,その裁量権を逸
脱するような違法があったとは認められない(前記3(5)参照)。
そうすると,本件非常勤職員が枚方市から任用を受けるにあたっての手続
が,公序良俗その他社会正義に著しく反するものであったとか,重大かつ明
−32−
白な瑕疵が存したものであったなどの特段の事情があったということはでき
ず,それぞれに支給された給与の一部である特別報酬が不当利得に該当する
ものとは認められないから,本件非常勤職員がこれらの返還義務を負うこと
はない。
以上に反する被控訴人の主張は,すべて採用することができない。
⑵したがって,前記3(本案の争点1)において説示したとおりの理由だけ
ではなく,上記のような理由からも,被控訴人が,控訴人に対し,不当利得
返還請求として,本件非常勤職員に対してそれぞれが受け取った特別報酬相
当額を支払うよう請求することの義務付けを求めた請求は,いずれも理由が
なく,棄却を免れない。
6結論
以上の次第で,被控訴人の請求を一部認容した原判決は相当でないから,原
判決中の控訴人敗訴部分を取り消した上,これをいずれも棄却することとして,
主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官三浦潤
裁判官比嘉一美
裁判官井上博喜

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