弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人宮沢邦夫の上告理由第一点について。
 論旨は、所論の本件各契約が地上権設定契約であり、立木所有権は全部植込者に
属し、残木についても地上権が残存するとの原審の認定、判断は、審理不尽、経験
則違反、理由不備の違法があると主張する。
 しかし、所論各契約は地上権設定契約であり、立木所有権は地上権者に帰属し、
かつ原判決別紙図面表示の点線より南部(古木の植林地)にも地上権は存し、該地
上立木の所有権は地上権者に属するとした原判決の各認定、判断は、甲一号証ない
し五号証その他原判決の挙示する各証拠に照らし是認し得ないわけではない。所論
は、ひつきよう原審の裁量に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、
採るを得ない。
 同第二点、第三点について。
 論旨は、原判決の、第一審被告D、E両名の侵害行為には故意過失なく、上告人
(第一審被告A)は右両名に対し和解において本件伐木を搬出処分することを承諾
し、不法に被上告人の所有権を侵害した旨の判断を非難し、上告人は約二年間前記
D、E両名の侵害行為を阻止こそすれ、なんら自ら侵害行為をしていないのである
から、原判決には民法七〇九条ないし七一九条の解釈適用を誤つた違法があるか、
または審理不尽、理由不備の違法があると主張する。
 しかし、原判決の確定したところによれば、本件立木を伐採、搬出、売却したの
は、すべて前記D、Eの両名であるが、上告人の被相続人Fは、本件山林立木が第
一審原告たる被上告人の所有であることを十分知つていたものと認められ、従つて、
上告人が原判示の昭和二四年一二月一〇日裁判上の和解をするにあたり、右Fに対
し本件山林につき地上権の有無、従つて、これに生立している立木が他人所有であ
るかどうかを尋ねてその調査をすべき注意義務があつたものというべきであつたと
ころ、上告人は原判決説示のとおりその注意義務を怠り、過失によりこれを調査す
ることをせず、前記和解に基づき、前記D、Eの両名から対価を受領して、同人ら
が他にこれを売渡処分することを承諾し、同人らがこれを売渡処分したことにより、
被上告人に損害を蒙らせたというのである。かかる事実関係の下においては、上告
人は結局過失により被上告人の権利を侵害したこととなるのであつて、右上告人の
行為は、所論のように前記D、E両名の侵害行為を単に阻止しただけであつて何ら
不法行為を構成しないとの論旨は、理由がない。右と同趣旨に出でた原判決は正当
であり、原判決の右判断の過程においても、論旨のような違法は認められない。そ
れ故、所論は採るを得ない。
 同第四点について。
 論旨は、上告人において本件立木が被上告人の所有であることを知らなかつたこ
とにつき過失がある旨の原判決の判断を非難し、地上権の登記も立木につき明認方
法も施されていなかつたのであるから、被上告人の所有であることを知らなかつた
のは当然であり、原判決には経験則違反、審理不尽、理由不備の違法があると主張
する。
 しかし、原判決は、本件立木の前所有者Gは被上告人にこれを譲渡する前昭和一
六年か一七年頃Hをして甲四号証を持参せしめ、上告人に本件立木の買取を勧めた
事実を、これに関するHの供述(記録二五五丁参照)に基づき認定しているのであ
るから、上告人に過失があつた旨の判断は正当であり、その過程にも論旨の違法は
認められず、所論は理由がない。
 同第五点について。
 論旨は、本件立木の伐採が開始され、伐木の搬出がなされるまでの四年以上の期
間、被上告人は何ら権利保全の方法を講ぜず、また右侵害行為の行なわれたことを
知らないはずはなく、仮に知らなかつたとすれば、それは被上告人の重大な過失で
あるにかかわらず、過失相殺の抗弁を排斥したのは、民法七二二条二項の解釈適用
を誤つたか、または経験則違反、審理不尽、理由不備の違法があるというのである。
 しかし、仮に権利保全の方法を講ぜず、また自己の権利が侵害されているのを知
らなかつたとしても、その一事のみでは、被害者に過失ありとはいえず、原判決に
は所論の違法は認められない。所論は採るを得ない。
 同第六点について。
 論旨は、原判決が損害額の算定にあたり昭和二五年六月当時における一般的な立
木の時価を基準としたことを非難し、上告人の侵害行為は和解により搬出を許容し
た点にあると判断されているのであるから、昭和二四年一二月一〇日当時における
本件伐採木の具体的価格を基準にすべきであると主張し、原判決の審理不尽、理由
不備の違法をいうのである。
 しかし、原判決の確定したところによれば、伐採されていた本件伐木は昭和二四
年一二月二一日から昭和二五年六月末までの間に売却処分されたものであるが、原
審は、右売却処分された立木の価額を第一審鑑定人I、原審鑑定人J、K、Lの鑑
定結果に基づき算定しているのであつて、右鑑定のうち、価格につき鑑定をした鑑
定人Lは昭和二五年六月頃現在を基準として鑑定しているが、原判決は、特別の事
情が認められない本件においては、前示期間中も同額であると推定できる旨を判示
しているのであるから、論旨指摘のとおり昭和二四年一二月一〇日を基準とすべき
であるとしても、その価格は右と同額であつたものと認められるから、所論は、ひ
つきよう、判決に影響のないところの主張に帰し、採用に値しない。
 同第七点について。
 論旨は、上告人は被上告人の地上権取得につき登記の欠缺を主張できないとの原
判決の法律判断を非難し、民法一七七条の解釈適用の違法および判例違反を主張す
る。
 しかし、本件においては、立木所有権が被上告人に属するかどうか、それを上告
人に対抗し得るかどうかが、結論を左右するのであつて、地上権(土地使用権限)
を上告人に対抗し得るかどうかは結論に影響のない事項である(昭和一七年二月二
四日大審院判決、民集二一巻一五一頁参照)。そして、立木所有権の公示手段は立
木法による登記か明認方法の何れかであるが、上告人は、原判示のように不法行為
者であつて、被上告人の立木所有権と相容れない権利関係に立つ者、すなわち登記
の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者または有効な取引関係に立つ第
三者ではないのであるから、被上告人はその立木所有権を公示なくして上告人に対
抗し得るものである。従つて、論旨は、判決に影響のない原判決の地上権取得と登
記の欠缺に関する説示に対する違法の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
 上告代理人有地寛、同竹中竜雄の上告理由について。
 論旨の採るを得ないことは、第一点については、前記上告代理人宮沢邦夫の上告
理由第七点に対する判断において、第二点については同第二点、第三点に対する判
断において、第三点については同第五点に対する判断において(なお、原判決には
所論のような判断遺脱の点も認められない。)、第五点については同第一点に対す
る判断において、それぞれ説示したとおりであり、また第四点は、上告人自身にと
つて不利益な主張であつて(原判決は、本件伐木の損害額の算定については、立木
価格より地代全額を控除しているものであるところ、論旨は、上告人の本件土地所
有権の持分は一〇分の七であるから、控除額は地代の一〇分の七に止まるべきであ
るというのであり、また上告人は、原審において、地代全額を控除すべき旨を主張
しているのである。)、適法な上告理由に当らない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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