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平成12年(ワ)第3585号 実用新案権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成13年8月29日
             判      決
原       告 ワイケイケイアーキテクチュラ
ルプロダクツ株式会社
訴訟代理人弁護士     小  坂  志磨夫
同                小  池     豊 
同                櫻  井  彰  人
  被       告東洋エクステリア株式会社
訴訟代理人弁護士       小  林  幸  夫  
補佐人弁理士田  村  公  總
        主      文
1被告は,原告に対し,3300万円及びこれに対する平成11年
4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余
を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
       事実及び理由
第1 請求
1主位的請求
  (1) 被告は,別紙物件目録2記載の連棟式車庫を製造し,使用し,販売し,貸
し渡し,販売又は貸渡しの申し出をしてはならない。
  (2) 被告はその保有する前項の連棟式車庫を廃棄せよ。
  (3) 被告は,原告に対し,2億7891万2864円及び内金1億3191万
2864円に対する平成11年4月1日以降,内金1億4700万円に対する平成
12年10月1日以降,それぞれ支払済みまで各年5分の割合による金員を支払
え。
 2 予備的請求
(1) 被告は,別紙物件目録2記載の連棟式車庫の構成部材をセットとして販売
してはならない。
(2) 被告は,別紙物件目録2記載の連棟式車庫の構成部材のうち,合掌材及び
合掌材取付金具を製造販売してはならない。
(3) 被告は,その所有する前項の合掌材及び合掌材取付金具を廃棄せよ。
  (4) 被告は,原告に対し,2億7891万2864円及び内金1億3191万
2864円に対する平成11年4月1日以降,内金1億4700万円に対する平成
12年10月1日以降,それぞれ支払済みまで各年5分の割合による金員を支払
え。
第2 事案の概要
本件は,連棟式車庫の屋根端部連結構造に関する実用新案権を有する原告
が,連棟式車庫又はその部品を販売した被告に対して,同連棟式車庫が原告の実用
新案権を侵害するとして,上記実用新案権に基づき,販売等の差止め及び損害賠償
金の支払等を求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告は,サッシ及びその他の建築材料の製造及び販売等を目的とする株式
会社である。
被告は,門扉及びフェンス等のエクステリア製品の製造及び販売等を目的
とする株式会社である。
(2)ア 原告は,以下のとおりの実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,
その考案を「本件考案」という。)を有している。
     実用新案登録番号      第2148586号
     考案の名称         連棟式車庫の屋根端部連結構造
     出願日           平成2年4月18日
     登録日           平成9年6月20日
     実用新案登録請求の範囲  別紙実用新案登録公報写しの該当欄記載
のとおり(以下,同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。)
 イ 本件明細書の「実用新案登録請求の範囲」の記載を構成要件に分説する
と,次のAないしCのとおりとなる。
    A 支柱1に屋根4を取り付けた片流れ屋根を備えた一対の車庫5,5
を,その屋根4の端部相互を対向して配設し,その屋根端部を連結して成る連棟式
車庫において,
    B① 前記屋根4の端部を構成する前枠10の外側面を略半円形状とし,
     ② 相対向する一対の前枠10,10の外側面上部間に跨って,横片2
3に締結片24を設けて成る前枠連結カバー22の横片23を載置し,
③ 前記一対の前枠10,10の外側下部に,裏板25における前記前
枠10の外側面と同一形状の一側前枠当接部26と他側前枠当接部27をそれぞれ
押しつけ,
    C この裏板25よりビス29を前記締結片24に締付けて前記連結カバ
ー22と裏板25で一対の前枠10,10を挟持したこと
を特徴とする連棟式車庫の屋根端部連結構造
(3) 被告は,業として,平成6年4月から平成11年3月までの間,別紙物件
目録1記載の連棟式車庫(以下「被告製品1」という。),又はその部材を製造販
売し,平成8年9月から現在まで,別紙物件目録2記載の連棟式車庫(以下「被告
製品2」といい,被告製品1と併せて「被告製品」という。)又は,その部材を製
造販売している(被告が製造販売している物が被告製品全体であるのか,その部材
であるのかについては争いがある。)。
(4)ア 被告製品1の構成を分説すると,次のA′ないしC′のとおりとなる。
    A′支柱1に曲率半径6メートルの湾曲屋根を取り付けた起り屋根3を
備えた一対の車庫2を,その屋根3端部相互を対向して配設し,その屋根端部を連
結してなる連棟式車庫であること,
    B′① 起り屋根3の端部を構成する前枠10の外側面11を上部に突条
を有する曲率半径約31ミリメートルの円弧面による略半円形としたこと,
② 相対向する一対の前枠10の外側面11上部間に跨って,横片51
に締結片52を設けるとともに下端に約6ミリメートルの高さの上向き引掛片53
を設けた合掌材5の横片51を載置したこと,
③ 合掌材取付金具6を,その上端に約9ミリメートルの高さの下向き
引掛片62を設けるとともに,約25ミリメートル幅の基板61を介してその左右
にそれぞれ前記前枠10の円弧面と円弧中心を同一とする同心円にして曲率半径約
31ミリメートルの一側前枠当接部63と他側前枠当接部64を左右対称に設け,
合掌材取付金具6の一側前枠当接部63と他側前枠当接部64を前枠10の外側面
下部にそれぞれ配置したこと,
    C′合掌材取付金具6の基板61よりビス65を合掌材5の締結片52
に締め付け,合掌材5と合掌材取付金具6で一対の前枠10,10を挟み込んだこ

   イ 被告製品2の構成を分説すると,次A″ないしC″のとおりとなる。
A″支柱1に曲率半径9メートルの湾曲屋根を取り付けた起り屋根3を
備えた一対の車庫2を,その屋根3端部相互を対向して配設し,その屋根端部を連
結してなる連棟式車庫であること,
B″① 起り屋根3の端部を構成する前枠10の外側面11を,第4図に
示すごとく,曲率半径60ミリメートルにして約65度(1/5.5円)の角度幅
の上部円弧面12と,曲率半径10ミリメートルにして約60度の角度幅の下部円
弧面13とを上下に連続させた形状としたこと,
② 相対向する一対の前枠10の外側面11上部間に跨って,横片51
に締結片52を設けるとともに,その下端に約6ミリメートルの高さの上向き引掛
片53を設けた合掌材5の横片51を載置したこと,
③ 合掌材取付金具6を上端に約14ミリメートルの高さの下向き引掛
片62を設けるとともに,約22ミリメートル幅の基板61を介して,その左右に
それぞれ前記前枠10の下部円弧面13と円弧中心を同一とする同心円にして曲率
半径10ミリメートルとし約60度の角度幅の一側前枠当接部63と他側前枠当接
部64を左右対称に設け,合掌材取付金具6の一側前枠当接部63と他側前枠当接
部64を前枠10の外側面下部にそれぞれ配置したこと,
C″合掌材取付金具6の基板61よりビス65を合掌材5の締結片52
に締め付け,合掌材5と合掌材取付金具6で一対の前枠10,10を挟み込んだこ

(5) 被告製品1の構成B′①は本件考案の構成要件B①を,被告製品1の構成
B′②及び被告製品2の構成B″②は本件考案の構成要件B②をそれぞれ充足す
る。
(6) 被告が平成7年8月9日から平成11年3月末日までの間に販売した被告
製品1の販売総額は,32億9782万1600円である。
2 争点に対する当事者の主張
(1) 被告製品1は本件考案の構成要件を充足するか。
   ア 構成要件Aの充足性について
(原告の主張)
被告製品1は,支柱1に曲率半径6メートルの片流れ屋根3を備えた一
対の車庫2を,その屋根3端部相互を対向して配設し,その屋根端部を連結してな
る連棟式屋根であるから,構成要件Aを充足する。
これに対し,被告は,被告製品1の車庫の屋根は「起り屋根」であっ
て,「片流れ屋根」ではないと主張する。しかし,被告の上記主張は,以下のとお
り失当である。すなわち,起り屋根とは「上方に対し凸になった曲線形の屋根」を
いうが,片流れ屋根とは「建物において一方のみに傾斜した屋根」であり,建物に
対する屋根の傾斜態様を表しており,屋根自体の形状とは無関係である。そして,
被告製品1の屋根の形状は起り屋根であるけれども,屋根の勾配形態は「前枠を頂
点として一方のみに傾斜した屋根」であるから片流れ屋根である。
(被告の反論)
 本件考案の構成要件Aの「片流れ屋根」とは,「建物において一方のみ
に傾斜した屋根」を意味する。
被告製品1の屋根の形態は,「起り屋根」,すなわち「上方に対し凸形
になった曲線形の屋根」である。被告製品1の屋根は片流れ屋根ということはでき
ない。
  したがって,被告製品1の構成A′は本件考案の構成要件Aを充足しな
い。
イ 構成要件B③の充足性について
(原告の主張)
(ア)本件考案の構成要件B③にいう「一側前枠当接部と他側前枠当接部
をそれぞれ押しつける」とは,以下のとおり,ビスの締着に先行して前枠に裏板を
押しつける意味に限定して解すべきではない。
すなわち,本件考案は,「連棟式車庫の屋根端部連結構造」であっ
て,組立方法ではない。そして,実用新案は,物品の形状,構造又は組合せに係る
考案を対象とするものであり,製法(組立方法)が要件とされるものではない。最
高裁昭和56年6月30日判決(ベニヤ板製長押事件,民集35巻4号848頁判
例時報1008号145頁)も,実用新案において製造方法を技術的範囲に取り込
むことを否定した。したがって,被告のこの点に関する主張は理由がない。
(イ) 一方,被告製品1は,合掌材取付金具6を,その上端に高さ約9ミ
リメートルの下向き引掛片62を設けるとともに,幅約25ミリメートルの基板6
1を介してその左右にそれぞれ前記前枠10の円弧面と円弧中心を同一とする同心
円にして,曲率半径約31ミリメートルの一側前枠当接部63と他側前枠当接部6
4を左右対称に設け,合掌材取付金具6の一側前枠当接部63と他側前枠当接部6
4を前枠10の外側面下部にそれぞれ押しつけているものであるから,構成要件B
③を具備する。
 なお,被告は,本件実用新案登録に対する無効審判において,原告
(被請求人)が,公知資料では合掌材取付金具と前枠との関係が「当てがう」もの
であって,本件考案の「押しつける」ものとは異なると述べた点が,本訴での主張
と矛盾するという。しかし,原告主張は公知資料には,前枠と合掌材取付具との当
接構造が記載されていないことを述べたにすぎないのであって,何ら矛盾するもの
ではない。
(被告の反論)
(ア)本件明細書における実用新案登録請求の範囲の欄には,「前記一対
の前枠10,10の外側下部に,裏板25における前記前枠10の外側面と同一形
状の一側前枠当接部26と他側前枠当接部27をそれぞれ押しつけ,」(構成要件
B③)とし,次に「この裏板25よりビス29を前記締結片24に締付けて前記連
結カバー22と裏板25で一対の前枠10,10を挟持した」(構成要件C)と記
載されていることに照らすならば,「押しつけ」動作と,「締付け」動作とは区別
され,順に行われるものと理解すべきである。そうすると,構成要件B③における
「押しつけ」とは,ビスの締着に先行して前枠に裏板を押しつけることを指すと解
すべきである。
(イ)一方,被告製品1の合掌材取付金具は下向き引掛片を備えており,
その前枠への配置は,その下向き引掛片を,合掌材に設置した上向き引掛片に相互
を噛み合わせるように支持して,対向する前枠の長手方向端部から前枠間にスライ
ド挿入することによって行うものであるから,本件考案の構成要件B③にいう「一
側前枠当接部と他側前枠当接部をそれぞれ押しつける」ものではない。
   なお,原告は,本件実用新案登録に対する無効審判において,同審判
で提出された公知技術における連棟式車庫の屋根端部連結構造の合掌材取付金具
は,前枠の外側に「当てがう」ものであり,本件考案の「押しつけ」るものとは異
なると主張していることらかすれば,被告製品1のように,ビスの締付けによって
結果的に押しつけ状態を達成させるものは,「押しつけ」に該当しないことにな
る。
したがって,被告製品1は,本件考案の構成要件B③を充足しない。
ウ 構成要件Cの充足性について
(原告の主張)
(ア) 本件考案の構成要件Cにおいては,前枠と裏板の前枠当接部が揺動
変位しても挟持の状態が得られれば足りると解すべきであって,前枠と裏板の前枠
当接部が揺動変位しても,常時「密接」するものでなければならないと解すべきで
はない。
(イ)一方,被告製品1は,合掌材取付金具6の基板61よりビス65を
合掌材5の締結片52に締め付け,合掌材5と合掌材取付金具6で一対の前枠1
0,10を挟持したものであるから,構成要件Cを具備する。
(被告の反論)
(ア)本件考案の構成要件Cにおける「前枠連結カバーと裏板で一対の前
枠を挟持」するとは,以下のとおりの理由から,「揺動変位する」可能性のある前
枠を挟持することを指すと解すべきである。
 本件考案は,その一対の前枠が揺動変位する可能性があることを前提
として,なおその相互の連結を達成させた技術であって,本件明細書には揺動変位
の可能性のない前枠に関する記載はないから,構成要件Cは,合掌連結時に,およ
そ揺動変位の可能性のない一対の前枠を挟持することを含まないと解すべきであ
る。
   そして,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄に「前枠連結カバーと
裏板とに対して前枠が若干揺動変位できるから,屋根勾配の異なる屋根の屋根端部
を連結できる。」,「前枠連結カバー22と裏板25に対して前枠10が若干上下
揺動変位できるから,屋根勾配の異なる片流れ屋根を備えた車庫でも連結でき
る。」と記載されていることからすると,構成要件Cにおける「挟持」とは,片流
れ屋根の連結において,前枠に上下の段差を生じ得ることを前提として,上下の段
差が生じたときにも常に裏板の前枠当接部が前枠の外側面と密接した状態に強固に
挟持し得ることを意味すると解すべきである。「揺動変位」とは,単に屋根勾配が
異なることによって前枠の角度が異なることのみを意味するものではなく,前枠が
連結に際して上下方向に揺れ動くことをも含める趣旨に解すべきである。この点
は,本件明細書には,「上下揺動変位」,「揺動変位」との記載があることから明
らかである。
 (イ) 一方,被告製品1においては,上り連結金具の連結によって上り同
士を連結して,前枠の高さ位置を同一にして,一定の間隔を開けて前枠を対向した
後に,合掌材を前枠に載置し,合掌材取付金具をスライド挿入し,ビスの締着によ
って,合掌材と合掌材取付金具で前枠を挟み込んで合掌材を取り付けるものであ
る。上り連結金具の連結は,前枠の上下動揺変位,すなわち段差を許容するもので
はなく,常に前枠が同一の高さで定位置にある状態で,合掌材と合掌材取付金具に
よって挟み込みがされる。仮に,前枠に段差を生じると,前枠の円弧面の中心と合
掌材取付金具の前枠当接部の円弧面の中心との間に位置ずれが生じる結果,双方の
中心が一致しなくなり,同心円の関係が損なわれるため,前枠に対して合掌材取付
金具の前枠当接部の一方又は双方が密接しない状態となる。
したがって,被告製品1においては,本件考案の構成要件Cの「挟
持」はなく,同構成要件Cを充足しない。
(2) 被告製品2は本件考案の構成要件を充足するか。
ア 構成要件Aの充足性について
(原告の主張)
 被告製品2は,支柱1に曲率半径9メートルの片流れ屋根3を備えた一
対の車庫2を,その屋根3端部相互を対向して配設し,その屋根端部を連結してな
る連棟式屋根であるから,構成要件Aを充足する。
 その詳細については,前記(1)アにおける原告の主張と同じである。
(被告の反論)
 前記(1)アにおける被告の主張と同じである。
イ 構成要件B①の充足性について
(原告の主張)
 (ア) 本件考案の構成要件B①の「略半円形状」とは,以下のとおり,全
体として湾曲状を呈していることを指すと解すべきである。すなわち,「半円形
状」という用語は,「半円形」又はこれに類する形状を指すと解すべきであるが,
さらに「略」という文言が用いられている以上,全体として湾曲状を呈しているこ
とを広く指すのは明らかである。
これに対し,被告は,本件考案の構成要件B①の「略半円形状」と
は,円を略2分の1にした略2分の1円弧を意味すると主張する。しかし,「略半
円形状」とは,「略2分の1の円」という「円弧の長さ」によって理解すべきでな
く,略半円形状という全体形状によって理解すべきであるから,被告の上記主張は
失当である。
(イ)一方,被告製品2の前枠外側面は,曲率半径60ミリメートルにし
て約65度(1/5.5円)の角度幅の上部円弧面12と,曲率半径10ミリメー
トルにして約60度の角度幅の下部円弧面13とを上下に連続させた形状であり,
全体として湾曲状の形をしているから,被告製品2は本件考案の構成要件B①を充
足する。
(被告の反論)
(ア)本件考案の構成要件B③の「略半円形」とは,同一曲率半径の円を
略2分の1にした略2分の1円弧を指すと解すべきである。
 これに対し,原告は,「略半円形」を「全体として湾曲状を呈してい
る形状」を指すと解すべきであると主張する。しかし,本件明細書にはそのような
記載はないのみならず,原告の主張のように解すると,前枠が揺動変位すると裏板
の前枠当接部が前枠外側面と密接しなくなり,本件考案の作用効果を奏することが
できない。したがって,原告の上記主張は失当である。
 (イ) 一方,被告製品2における前枠の外側面は,曲率半径60ミリメー
トルにして約65度の角度幅の上部円弧面と,曲率半径10ミリメートルにして約
60度の角度幅の下部円弧面を上下に連続したものであり,弓形をしている。被告
製品2における前枠が揺動変位すると,前枠の外側面と合掌材取付金具の前枠当接
部とが密接することができなくなる。
 したがって,被告製品2の前枠の形状は,略半円形ということはでき
ず,本件考案の構成要件B①を充足しない。
ウ 構成要件B③の充足性について
(原告の主張)
(ア)被告製品2は,合掌材取付金具6を上端に高さ約14ミリメートル
の下向き引掛片62を設けるとともに,約22ミリメートル幅の基板61を介し
て,その左右にそれぞれ前記前枠10の下部円弧面13と円弧中心を同一とする同
心円にして曲率半径10ミリメートルとし約60度の角度幅の一側前枠当接部63
と他側前枠当接部64を左右対称に設け,合掌材取付金具6の一側前枠当接部63
と他側前枠当接部64を前枠10の外側面下部にそれぞれ押しつけているものであ
るから,本件考案の構成要件B③を充足する。
その詳細は,前記(1)イにおいて主張したとおりである。
(イ) この点,被告は,被告製品2においては,合掌材取付金具の前枠当
接部は,前枠外側面の下部円弧面だけと同一形状となっているにすぎず,前枠外側
面のその他の部分とは同一形状になっていないので,本件考案の構成要件B③の
「同一形状の」という要件を充足しない旨主張する。しかし,本件考案の構成要件
B③において同一形状であることが要求される部分は,前枠当接部と前枠外側面と
が相互に当接する面のみであり,被告製品2においても,前枠外側面の下部円弧面
と合掌材取付金具の前枠当接部は同一形状であるから,被告の上記主張は理由がな
い。
(被告の反論)
前記(1)イで主張したことと同様である。さらに,被告製品2において
は,前枠外側面と合掌材取付金具の前枠当接部とは同一の形状とはいえないから,
本件考案の構成要件B③の,裏板における前記前枠の外側面と「同一形状の」一側
前枠当接部と他側前枠当接部を備えたものということはできない。すなわち,本件
考案の実施例では,前枠外側面は「同一曲率の1つの円弧」で形成され,裏板の前
枠当接部はこの円弧と同一形状であるのに対し,被告製品2における前枠外側面は
「曲率の異なる二つの円弧」を連続させた形状である。合掌材取付金具の前枠当接
部は,前枠外側面の下部円弧面だけと同一形状になり,前枠外側面のその他の部分
とは同一形状になっていない。被告製品2は本件考案の構成要件B③を充足しな
い。
エ 構成要件Cの充足性について
(原告の主張)
被告製品2は,合掌材取付金具6の基板61よりビス65を合掌材5の
締結片52に締付け,合掌材5と合掌材取付金具6で一対の前枠10,10を挟持
したものであるから,本件考案の構成要件Cを充足する。
その詳細は,前記(1)ウにおける原告の主張と同じである。
(被告の反論)
 前記(1)ウにおける被告の主張と同じである。
(3) 被告の製造販売行為は,本件実用新案権を侵害するか。
 (原告の主張)
   被告の行為は,その態様に照らして,被告製品の部材のみではなく,被告
製品全体を製造販売した行為と解すべきである。すなわち,被告は車庫そのものを
自社商品として宣伝に供していること,被告製品のすべての構成部材が被告により
製造販売されているのみならず,完成のためのすべての部材をセットした形で価格
表示がされ,被告自身がセット販売していること,被告は車庫の品質不良等につき
保証をしていること,被告名義で車庫自体の取付説明書(組立マニュアル)を発行
していること,末端ユーザーサイドで組み立てられた車庫に被告製品であることを
示す表示がされており,その表示(ステッカー)も被告の作成に係るものとして示
されていること等の点に照らすならば,被告が製造,販売したのは,被告製品の部
材のみではなく,被告製品全体である。
 したがって,被告の行為は,本件実用新案権を侵害する行為である(主位
的主張)。仮に,被告の製造販売行為が,本件実用新案権の実施行為とはいえず,
いわゆる直接侵害行為に当たらないとしても,少なくとも間接侵害に当たる(予備
的主張)。
(被告の反論)
被告は,被告製品の部材を代理店ないし販売店に販売し,上記代理店ない
し販売店が顧客からの注文に応じて被告製品全体を工事付きで販売するのであっ
て,被告が被告製品全体を販売しているわけではない。すなわち,車庫には,車両
1台用のタイプ,2台用のタイプ,セダン用,ハイルーフ用等色々な形態があり,
その形態に応じて部材の組み合わせも異なるところ,被告の販売システムは,顧客
が上記のような多種多様な形態の中から1つの形態を選択して,これを代理店ない
し販売店から購入し,代理店ないし販売店が顧客が選択した形態に対応した部材を
被告から購入するというものである。被告製品はその部材ごとに価格が設定してあ
り,顧客は部材単位で購入することもできる。
 したがって,被告の製造販売行為は,本件実用新案権の実施行為とはいえ
ず,少なくとも,いわゆる直接侵害行為ではない。
(4) 原告の被った損害額はいくらか。
 (原告の主張)
ア 被告製品1の製造,販売による損害額等について
(ア) 原告は,被告の平成7年8月9日から平成9年1月末日までの販売
行為に対しては,不当利得返還請求権に基づき,同年2月1日から平成11年3月
末日までの販売行為に対しては,不法行為による損害賠償請求権に基づき,不当利
得の返還ないし損害の賠償を請求する(遅延損害金は,不当利得及び不法行為の後
である平成11年4月1日から請求する。)。
      被告が平成7年8月9日から平成11年3月末日までの間に販売した
被告製品1の販売総額は,32億9782万1600円であり(当事者者間に争い
はない。),実施料率は4パーセントが相当であるから,その実施料相当額は1億
3191万2864円である。
したがって,被告製品1の販売行為について,原告の被告に対する請
求額は,1億3191万2864円である。
(イ) 被告が本件実用新案権を侵害したことにより原告が被った損害額等
(実施料相当額)の算定に当たっては,連棟式車庫全体の販売額を基礎とすべきで
あり,連結構造を構成する部分の販売額のみを基礎とすべきではない。
 また,被告は,被告製品全体を販売しているのであり,部材のみを販
売しているのではないが,仮に,被告が部品のみを販売しているとしても,被告に
は被告製品を実際に販売している者と共同不法行為が成立するから,被告製品全体
の販売額を基礎として損害額を計算すべきである。
イ 被告製品2の製造,販売による損害額等について
原告は,被告の平成8年9月1日から平成9年1月末日までの販売行為
に対しては,不当利得返還請求権に基づき,同年2月1日から平成12年9月末日
までの販売行為に対しては,不法行為による損害賠償請求権に基づき,不当利得の
返還ないし損害の賠償を請求する(遅延損害金は,不当利得及び不法行為の後であ
る平成12年10月1日から請求する。)。
     上記の被告製品1の販売総額から被告製品2の販売総額を推計すると,
被告が平成8年9月1日から平成12年9月末日までの間に販売した被告製品2の
販売総額は,36億7500万円であると推認でき,実施料率は4パーセントが相
当であるから,その実施料相当額は1億4700万円である。
     したがって,被告製品2の販売行為について,原告の被告に対する請求
額は,1億4700万円である。
その他の主張は上記ア(イ)及びア(ウ)と同じである。
(被告の反論)
ア 被告製品1の製造,販売による損害額等について
(ア)被告が平成7年8月9日から平成11年3月末日までの間に販売し
た被告製品1の販売総額は,32億9782万1600円であることは認める。
      実施料率は,3パーセントが相当である。
 被告が本件実用新案権を侵害したことにより原告が被った損害額等
(実施料相当額)の算定に当たっては,連結構造を構成する部分の販売額を基礎と
すべきであり,連棟式車庫全体の販売額を基礎とすべきではない。本件実用新案権
を侵害しているのは,被告製品1全体ではなく,被告製品1のうち,別紙被告製品
1目録中の5,6及び41の各部材であり,これらの販売総額は6942万873
4円である。
イ 被告製品2の製造,販売による損害額について
原告の主張は争う。
  (5) 本件実用新案登録には無効理由のあることが明らかであるか。
(被告の主張)
ア 本件考案の容易推考性について
(ア) 本件考案の先行技術についての公知文献として,三協アルミニウム
工業株式会社作成の「エクステリア設計施工手引書」と題する資料(乙3),被告
作成の「’87総合カタログ」と題する資料(乙17),被告作成の「製品マニュ
アル カーポート・テラス編」と題する資料(乙18),被告作成の「TOTAL
 EXTERIOR ’89-’90」と題する資料(乙19),特許庁作成の
「特許庁公報 周知・慣用技術集(戸・窓等開口部閉鎖部材)」と題する資料(乙
20),実開昭61-157607号公報(乙21),実開昭55-162602
号公報(乙22),被告作成の「フリーポート 取付説明書」と題する資料(乙2
3),実開平1-153022号公報(乙24),トーヨーサッシ株式会社作成の
「’87/’88基本図・納まり図集 玄関・外まわり製品編」と題する資料(乙
26),実開昭54-183943号公報(乙37)等が存在する。本件考案は,
これらの文献に基づいて,当業者がきわめて容易に考案をすることができたという
べきである。
(イ)すなわち,乙3,乙17,乙18,乙19,乙23,乙26には,
合掌材と合掌材取付金具により一対の車庫を連結する構成が記載されているが,本
件考案とこれらの公知技術との相違点は,本件考案が前枠の外側面を略半円形状と
した点及び前枠の外側面と裏板の前枠当接部とを同一の形状とした点である。乙1
7,乙18,乙19,乙24には,前枠の外側面を略半円形状とする構成が,乙2
0,乙21,乙22,乙26,乙37には,前枠の外側面と裏板の前枠当接部とを
同一の形状とする構成が,それぞれ記載されている。
したがって,本件考案は,上記各文献に基づいて,当業者がきわめて
容易に考案をすることができたというべきである。
イ したがって,本件実用新案登録には,無効理由が存することは明らかで
あるから,本件実用新案権に基づく請求は権利の濫用に当たり,許されない。
(原告の反論)
 乙17には,車庫全体の写真が掲載されているだけであり,略半円形状の
前枠は示されていない。乙18の商品名「エルポート」に関する7頁「2.柱と桁
の取付け」の項には,側桁が略半円形状を呈した図が示されているが,これを合掌
構造(3頁中段の図)とする場合には,9頁左中段4項の図に示されるように,側
桁の代わりに別の中間桁を使用し,略半円形状の側桁とはわざわざ別の構成を採用
して合掌部分を形成しているのであって,枠材を略半円形状のまま合掌構造とする
ことが技術的に思い至らなかったことをむしろ裏付けている。つまり,枠材が略半
円形状をした単体のカーポートが存在したとしても,それを合掌する場合に,略半
円形状の枠材の特性を活かして合掌することが容易に推考し得るとはいえない。
乙19に示される商品名「パラポート」等や,乙24も,それ自体合掌構
造を開示しておらず,本件考案に対する公知資料としての価値はない。
 乙20,乙21,乙22,乙26に記載されたものは,いずれもカーポー
トとは全く関係のない物件である。
したがって,被告が挙げた上記各文献に基づいて,当業者が本件考案を考
案することが極めて容易であったということはできない。
第3 当裁判所の判断
〔被告製品1について〕
1被告製品1は本件考案の構成要件を充足するか。
 以下のとおり,被告製品1は本件考案の構成要件のすべてを充足する。
(1) 構成要件Aの充足性について
証拠(乙13)によれば,片流れ屋根とは,「一方のみに傾斜した屋根」
であることが認められるところ,被告製品1の構成A′の起り屋根は,別紙物件目
録1にあるとおり,一方のみに傾斜した屋根であるから,本件考案における構成要
件Aの「片流れ屋根」に当たるというべきである。
これに対し,被告は,被告製品1は,「起り屋根」,すなわち「上方に対
し凸形になった曲線形の屋根」であって,片流れ屋根に当たらない旨主張する。し
かし,片流れ屋根と起り屋根とは何ら矛盾する概念ではなく,被告主張のような形
状の屋根であっても,一方のみに傾斜していれば,構成要件Aにおける「片流れ屋
根」ということができるから,被告の上記主張は理由がない。
    したがって,被告製品1は本件考案の構成要件Aを充足する。
  (2) 構成要件B③の充足性について
 被告製品1の構成B′③は前記「争いのない事実」記載のとおりである。
被告製品1における前枠の外側面の曲率半径は約31ミリメートルであり,前枠当
接部の曲率半径も約31ミリメートルであるから,前枠の外側面と前枠当接部は同
一形状である。また,被告製品1においては,ビス65を締結片52に締め付けて
いるのであるから,前枠当接部は前枠の外側面下部に押しつけていることは明らか
である。したがって,被告製品1の構成B′③は本件考案の構成要件B③を充足す
る。
これに対し,被告は,本件考案の構成要件は,構成要件B③で「押しつ
け」とし,次いで,構成要件Cで「締め付けて」としており,この2つの動作が区
別されて時間の順序に沿って記載されているとして,本件考案の構成要件B③の
「押しつけ」とは,ビスの締着に先行して前枠に裏板を押し付けることを意味すべ
きであると主張する。しかし,本件考案の構成要件B③及び同Cの記載からする
と,「押しつけ」という動作と「締め付けて」という動作には,時間的な前後関係
はないものと解釈するのが自然であり,また,考案の詳細な説明欄にも,上記各動
作を経時的に解釈すべきことを示唆する記載はないことから,構成要件B③の「押
しつけ」を制限的に解釈すべき理由はない。被告の上記主張は理由がない。
  (3) 構成要件Cの充足性について
ア挟持の意義について
 構成要件Cにおける,「挟持」とは,以下のとおり,前枠が揺動変位す
る可能性があることを前提として,前枠が揺動変位しても,前枠連結カバーと裏板
とで,裏板の前枠当接部が前枠の外側面に密接した状態を維持して挟持することを
指すと解すべきである。
 すなわち,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄には,「課題を解決す
るための手段及び作用」として,「屋根端部を構成する前枠の外側面を略半円形状
とし,一対の屋根の前枠における外側面上部に前枠連結カバーを配設し,前記前枠
における外側面下部に裏板における前枠外側面と同一形状の一側前枠当接部,他側
前枠当接部を当接し,この裏板より前記前枠連結カバーにビスを締め付けて一対の
前枠を前枠連結カバーと裏板で挟持して連結したものであり,これによって,前枠
連結カバーと裏板とに対して前枠で若干揺動変位できるから,屋根勾配の異なる屋
根の屋根端部を連結できる。」と,また「裏板25における前枠当接部26,27
が,前枠10の略半円形状の外側面と同一形状であるため,前枠の揺動変位を許容
しながらも,前枠の外側面と密接して屋根端部相互を安定して保持することがで
き,この裏板25と前記連結カバー22とにより一対の前枠10,10を強固に挟
持することができる。」と記載されていることから,前枠が揺動変位し得ることは
当然の前提であると解すべきである。したがって,「挟持」とは,前枠が揺動変位
することを前提として,揺動変位しても,前枠連結カバーと裏板とで,裏板の前枠
当接部が前枠の外側面に密接した状態を維持させて挟持することを指すものと解さ
れる。
 これに対し,被告は,上記「揺動変位」を合掌連結時に上下方向に揺れ
動く可能性があることを前提とすべきであると主張する。しかし,本件明細書の
「考案の詳細な説明」欄等を参酌してもなお,前枠が合掌連結時に上下方向に揺動
可能であることを前提とする記載,前枠が合掌連結時に上下方向に揺動しても,同
一の部材において屋根勾配の異なる屋根を連結できることを示唆する記載はない。
被告の上記主張は理由がない。
イ 対比
 一方,被告製品1の構成C′は,前記「争いのない事実」記載のとおり
である。被告製品1においては,前枠の外側面は略半円形状をしていること,前枠
当接部は前枠の外側面と同一形状であること,及び上り連結金具のボルト挿通用の
孔は,別紙物件目録1のとおり,ハ字形の形状を呈した長孔のものであって,上り
の位置を調整し得ることに照らすならば,被告製品1において,前枠は揺動変位が
可能であり,前枠が揺動変位しても,合掌材と合掌材取付金具とで,合掌材取付金
具の前枠当接部が前枠の外側面に密接した状態で前枠を挟持するものであるから,
被告製品1の構成C′は本件考案の構成要件Cを充足する。
 2 被告の行為は,本件実用新案権の侵害行為か。
 本件考案は,後記3のとおり,連棟式車庫全体を対象とするものではなく,
連棟式車庫のうちの屋根端部連結構造のみを対象とするものと解すべきである。こ
れを前提として判断する。
証拠(甲3,4,5,8,9,13の1ないし6,14の1ないし3,乙
1,2の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,屋根端部連結構造部分を
含む連棟式車庫(被告製品)を構成する各部材について,個別に価格を設定した
上,部材ごとの販売をしている。しかし,同証拠によれば,被告は被告製品を構成
する部材についてのすべてを製造し,販売していること,被告製品の組立て後の写
真及び被告製品の各種形態のセット価格を記載したパンフレット及びチラシを作成
及び頒布していること,被告製品1の組立ての方法を説明した「取扱説明書」と題
する資料を作成及び頒布していること,被告は,被告製品の品質,性能及び機能に
ついて保証をしていること,及び上記各部材のうち,各連結構造部分は被告製品以
外の商品には使用されないこと等の事実が認められ,これに反する証拠はない。上
記認定した販売態様に照らすならば,被告の製造販売行為は,本件実用新案権の実
施行為と解して差し支えない。したがって,被告の行為は本件実用新案権を侵害す
る行為ということができる(なお,仮に,被告から被告製品を購入して,顧客から
の注文に応じて,被告製品全体を施工,完成,引き渡す代理店ないし販売店の行為
こそが,いわゆる直接侵害行為とみた場合には,被告の行為は,いわゆる間接侵害
行為と評価することができるのであるから,いずれにせよ,被告の行為が本件実用
新案権の侵害行為に当たるという結論に消長を来すものではない。)。
 3 原告の被った損害額はいくらか。
(1)まず,本件実用新案権を侵害したことによって原告が受けた損害額を算定
するに当たり考慮すべき点について検討する。
ア 本件考案は,以下の理由から,連棟式車庫全体を対象とするものではな
く,屋根端部連結構造部分のみを対象とするものと解すべきである。すなわち,前
記のとおり,「本件考案の名称」が「連棟式車庫の屋根端部連結構造」とされてい
ること,本件明細書の「実用新案登録請求の範囲」が,従来技術からなる連棟式車
庫において,構成要件B,Cを特徴とする「連棟式車庫の屋根端部連結構造」とさ
れていること,考案の課題解決のための本質的な特徴部分が専ら屋根端部連結構造
を構成する部分にあることに照らすならば,本件考案が屋根端部連結構造を対象と
していることは明らかである。
 他方,本件考案は,①連棟式車庫を設置するに際して,同一の連結部材
及び屋根板保持部材を使用して,屋根勾配の異なる屋根を,前枠の外側面と前枠当
接部とを密接させて,連結できるようにすること,②屋根端部の連結作業を容易に
することをその特徴とし,本件考案のこのような特徴によって,同一の連結部材
で,車庫の屋根勾配をある程度自由に設定できることから,需要者の多様なニーズ
への対応の幅が広がり,販売量の増大が期待でき,また,車庫の組立作業が容易に
なり,組立時間を短縮できることから,経費の削減が期待できるといえる。
 このような点に鑑みると,本件実用新案権を侵害したことによって原告
が受けた損害額は,屋根端部連結構造部分に係る販売金額,被告製品1の販売金額
及び上記連結構造部分が被告製品1の全体の販売に寄与している程度等を総合的に
考慮して算定するのが相当である。
イ 証拠及び争いない事実によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 被告が平成7年8月9日から平成11年3月末日までの間に販売し
た被告製品1の販売総額は,32億9782万1600円である(争いがない)。
(イ) 屋根端部連結構造を構成する部分は,被告製品1のうち,M合掌
材,M合掌部品(M合掌材取付金具,M合掌キャップ,上り連結金具,上り連結金
具取付ボルト,上り連結金具取付袋ナット,上り連結金具取付平座金,上り連結金
具固定ネジ,M合掌材取付ネジ,M合掌キャップ取付ネジ)及び前枠の外側面の部
分であると解される。
 平成7年8月9日から平成11年3月末日までの間における被告製品
1のうちのM合掌材及びM合掌部品の販売総額は6942万8734円である(こ
れらの被告製品1全体の総販売額の約2.1パーセントに当たる。争いがな
い。)。また,前枠の外側面の上記期間における販売総額については,前枠の外側
面は前枠と一体となっているため,これを正確に算出することはできないが,前枠
の外側面の価格は少なくともM合掌材の価格の約1.5倍に相当すると推測でき,
M合掌材の販売総額は4599万1563円であることは争いがないから,前枠の
外側面の販売総額は少なくとも約6898万7345円である(甲3,弁論の全趣
旨)。
 そうすると,M合掌材,M合掌部品及び前枠の外側面の販売総額は少
なくとも約1億3842万円である(なお,被告製品1全体の総販売額に占める割
合は少なくとも約4.2パーセントである。)
ウ 以上認定した屋根端部連結構造部分の販売金額,被告製品1の販売金額
及び上記連結構造部分が被告製品1の全体の販売に寄与している程度等を総合的に
考慮すると,被告製品1の販売総額の20パーセントに相当する金額である6億5
956万4320円を基礎として算定するのが相当である。
(2) 次に,損害額を算定するに際しての相当実施料について検討する。
ア 証拠によれば,以下のとおりの事実が認められる。
(ア) 社団法人発明協会発行の「実施料率(第4版)」(甲22)によれ
ば,被告製品1のようなアルミ製品が属する鉄鋼及び非鉄金属の分野において,実
施料率昭和63年から平成3年までの間における,イニシャルペイメントがない場
合の実施料率は,10件の契約例で,平均値が5.30パーセント,最頻値が3パ
ーセントであり,イニシャルペイメントがある場合の実施料率は,18件の契約例
で,平均値が3.39パーセント,最頻値が1.4パーセントである。
(イ) 証拠(甲21の1ないし6)及び弁論の全趣旨によると,原告の関
連会社であるYKKAPエクステリア株式会社(以下「YKKAP」という。)
は,平成10年12月11日,被告との間で,YKKAPが過去にカーポートを販
売し,同カーポートが被告の意匠権を侵害したとの紛争について,被告に対して,
同カーポートの販売総額の約5パーセントに相当する解決金を支払う旨の和解契約
を締結した。
   イ 上記認定した事実を考慮すれば,本件考案を実施する際の実施料率は,
5パーセントが相当というべきである(原告は,連棟式車庫全体の販売金額の4パ
ーセントが相当である旨を主張するが,当裁判所の認定額が原告主張額より低額で
ある以上,原告主張に係る実施料率に拘束されるものではないというべきであ
る。)。
(3) 以上のとおり,本件実用新案権を侵害したことによって原告が受けた損害
額は,被告製品1の販売総額である32億9782万1600円に20パーセント
を乗じた金額である6億5956万4320円を基礎として,これに実施料率であ
る5パーセントを乗じた3300万円が相当と考える(10万円未満を四捨五入し
た。)。
4 本件実用新案登録には無効理由のあることが明らかであるか。
(1)本件全証拠によっても,本件考案が先行技術に基づき当業者がきわめて容
易に考案ができたことが明らかであるとはいえない。その理由は,以下のとおりで
ある。
ア 乙3には,片流れ屋根を備えた一対の車庫を,その屋根の端部相互を対
向して配設し,その屋根端部を連結したいわゆる合掌タイプの車庫において,片流
れ屋根の端部を構成する前枠の外側面を略湾曲形状とし,相対向する一対の前枠の
外側面上部間に跨って,横片に締結片を設けてなる合掌材の横片を載置し,前記一
対の前枠の外側面下部に,前枠合掌金具における前記前枠の下端に対接する一側前
枠当接部と他側前枠当接部をそれぞれ押しつけ,この前枠合掌金具よりビスを前記
締結片に締め付けて前記合掌材と前枠合掌金具で一対の前枠を挟持した連棟式車庫
の屋根端部連結構造が記載されている。本件考案と乙3に記載された技術とを対比
すると,本件考案は,屋根の端部を構成する前枠の外側面を略半円形状とし,裏板
の前枠当接部を前枠の外側面と同一形状としているのに対し,乙3では,前枠の外
側面は略湾曲形状としており,前枠の外側面と裏板前枠当接部は同一形状ではない
点が相違する。なお,被告は,本件考案と乙3との相違点を,①本件考案は,屋根
の端部を構成する前枠の外側面を略半円形状としているのに対し,乙3では略湾曲
形状としている点,②本件考案は,前枠の外側面と裏板前枠当接部は同一形状であ
るのに対し,乙3では同一形状でない点の2点に分けて主張しているが,上記相違
点②における本件考案の構成である「同一形状」とは,本件考案の作用効果からみ
て,「略半円形状」と「同一形状」であることを要することが明らかであるから,
上記相違点②は,裏板の前枠当接部を略半円形状である前枠の外側面と同一形状と
した点であると解すべきであり,結局,本件考案と乙3との相違点は上記のように
なる。
イ 前記アの相違点について検討する。
まず,乙20,乙22及び乙37は,いずれも連棟式屋根端部の連結構
造についての文献ではなく,その記載は本件考案の構造とは異なる技術についての
ものである。次に,乙17,乙18,乙19,乙24には,屋根の端部を構成する
前枠の外側面を略半円形状とし,裏板の前枠当接部を前枠の外側面と同一形状とし
ている構成が記載されていない(なお,乙24は,組立建物の屋根における雨水排
出装置に関する考案についての文献であり,垂木の軒先側端部を略半円形状とした
構成が記載されているが,本件明細書の実用新案登録請求の範囲の文言及び本件考
案の前記作用効果に照らすと,前枠とは,屋根の端部のうち,柱に支持される側と
は反対側の端部の枠を意味すると解すべきであるから,乙24には,前枠の外側面
を略半円形状とした構成が記載されているとはいえない。)。また,乙26も,連
棟式屋根端部の連結構造について記載した部分は,前枠の外側面を略半円形状と
し,裏板の前枠当接部を前枠外側面と同一形状としている構成が記載されていな
い。乙21は,建物の出隅又は入隅を構成する一対の壁に沿って設けられる,サン
ルームのような建造物のための片流れ屋根に関する考案についての文献であり,軒
材の端部を構成する凹面部を略半円形状とし,垂木本体の下部円弧面は上記凹面部
と同一形状とした構成が記載されているが,本件考案の前枠連結カバーに相当する
ものが存在せず,この存在を前提とする乙3に乙21の技術を適用することは困難
である。
 以上のとおりであって,本件考案は,被告の引用する各文献に基づい
て,当業者がきわめて容易に考案をすることができたということができないのみな
らず,この点が明らかであったということもできない。
(2) したがって,本件実用新案権に基づく権利行使は権利の濫用に当たらな
い。
〔被告製品2について〕
5 被告製品2は本件考案の構成要件を充足するか。
  (1) 構成要件B③の充足性について
ア被告製品2における前枠の外側面は,曲率半径60ミリメートルにして
約65度の角度幅の上部円弧面と,曲率半径10ミリメートルにして約60度の角
度幅の下部円弧面を上下に連続したものであり(争いのない事実),前枠当接部
は,連続した円弧の形状をしたものであると認められる(弁論の全趣旨)。
 したがって,被告製品2においては,前枠の外側面と前枠当接部とは同
一の形状をしておらず,被告製品2の構成B″③は本件考案の構成要件B③を充足
しない。
イ これに対して,原告は,本件考案の構成要件B③において同一形状であ
ることが要求される部分は,前枠当接部と前枠の外側面とが相互に当接する面のみ
であり,被告製品2においても,合掌材取付金具の前枠当接部と当接することにな
る前枠の外側面の下部円弧面は,上記前枠当接部と同一形状であるから,被告製品
2は本件考案の構成要件B③を充足する旨主張する。
しかし,本件考案の作用効果の1つは,前枠の揺動変位を可能とし,そ
れにより,同一の連結部材においても,屋根勾配の異なる屋根を,前枠の外側面と
前枠当接部とを密接させて連結できることであるが,こうような作用効果を生じさ
せるには,前枠の外側面及び前枠当接部が同一形状で,かつ,円弧形状あることが
必要である(前枠の外側面と前枠当接部とが同一形状の円弧であれば,前枠が上記
両円弧の中心点を中心として揺動変位しても,前枠の外側面と前枠当接部とは密接
した状態を保持できる。)。本件考案の構成要件B③において,前枠の外側面と前
枠当接部とが同一形状であることを要求したのは,前枠が揺動変位しても,裏板と
前枠連結カバーとにより,前枠を安定して挟持できるようにするため,すなわち,
前枠当接部が前枠の外側面に密接した状態で裏板及び前枠連結カバーが前枠を挟持
することができるようにするためである。この観点から検討すると,本件考案の構
成要件B③における,前枠の外側面のうち,前枠当接部と同一の形状であることが
求められる範囲とは,前枠が揺動変位することにより前枠当接部と当接する可能性
のある範囲全体であると解するのが相当である。そして,被告製品2の前枠の外側
面の下部円弧面の形状は曲率半径が10ミリメートル,角度幅が約60度である
(したがって,円弧面の長さは,約15.7ミリメートルとなる。)ところ,前枠
当接部の形状は,角度幅が上記下部円弧面よりも若干小さいが,上記下部円弧面と
ほぼ同一の形状であると推測されこと(甲4),上り連結金具のボルト挿通用の孔
は長孔であること,同長孔の幅は10ミリメートル近くあるものと推測されること
(甲4)から,被告製品2においては,前枠が揺動変位することにより前枠の外側
面が前枠当接部に接する可能性のある範囲は,前枠の外側面の下部円弧面に限られ
ないことになる(したがって,被告製品2においては,前枠が揺動変位することに
より,裏板の前枠当接部が前枠の外側面の上部円弧面に当接するようになった場合
には,前枠の外側面と前枠当接部とが密接しなくなり,裏板と合掌材とにより前枠
を「挟持」することができなくなる。)。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2) 以上のとおりであるから,その余の点を検討するまでもなく,被告製品2
は本件考案の構成要件を充足しない。
〔結論〕
6原告の本訴請求は,被告に対して3300万円及びこれに対する平成11年
4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合の遅延損害金の支払を求める限
度で理由があるので,主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第29部
        裁判長裁判官 飯   村   敏   明
           裁判官 谷       有   恒
           裁判官 佐   野       信
(別紙)
物件目録1 第1図 第2図 第3図
物件目録2 第1図 第2図 第3図 第4図

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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