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裁判例


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       主   文
一 控訴人(附帯被控訴人)の本件控訴を棄却する。
二 原判決主文1項を次の括孤内のとおり変更する。
「1 控訴人(附帯被控訴人)は別紙目録(一)記載のロツカーを販売してはなら
ない。
2 控訴人(附帯被控訴人)は同ロツカーに用いられる同目録表示の図形及び文字
が印刷されたビニール製シートを廃棄せよ。
3 控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)ナシヨナル・フツトボー
ル・リーグ・プロパテイーズ・インコーポレーテツドに対し金一五〇万円を支払
え。
4 控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)ソニー企業株式会社に対し
金七一万四五六五円及びこれに対する昭和五三年一一月八日から支払ずみに至るま
で年五分の割合による金員を支払え。
5 被控訴人(附帯控訴人)らのその余の請求を棄却する。」
三 控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、附帯控訴費用はこれを三分
し、その二を控訴人(附帯被控訴人)の、その余を被控訴人(附帯控訴人)らの負
担とする。
四 この判決の第二項括孤内は被控訴人(附帯控訴人)ら勝訴部分に限り仮に執行
することができる。原判決主文4項を右の限度で変更する。
       事   実
第一 申立
一 控訴人(附帯被控訴人、「控訴人」という。)
(控訴事件につき)
 原判決中控訴人敗訴部分を取消す。
 被控訴人らの本訴請求を棄却する。
 被控訴人らは、連帯して、控訴人に対し金五〇〇万円及びこれに対する昭和五五
年一月三〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする。
 第三項につき仮執行の宣言。
(附帯控訴事件につき)
 本件附帯控訴を棄却する。
 附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とする。
二 被控訴人(附帯控訴人、「被控訴人」という。)ら
(控訴事件につき)
 本件控訴を棄却する。
(附帯控訴事件につき)
 原判決を次のとおり変更する。
 控訴人は別紙目録(一)記載のロツカーを販売してはならない。
 控訴人は同ロツカーに用いられる同目録表示の図形及び文字が印刷されたビニー
ル製シートを廃棄せよ。
 控訴人は被控訴人ナシヨナル・フツトボール・リーグ・プロパテイーズ・インコ
ーポレーテツドに対し金二〇〇万円を支払え。
 控訴人は被控訴人ソニー企業株式会社に対し金七一万四五六五円及びこれに対す
る昭和五三年一一月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
 仮執行の宣言。
第二 主張、証拠
 当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加、訂正するほかは、原判決事実摘
示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決六枚目表五行目「提掲」を
「提携」と、同二五枚目裏一一行目「誰れ」を「誰」と、同二七枚目表一行目「馴
染れ」を「馴染まれ」と、同二八枚目裏一一行目「誰れ」を「誰」と、同三三枚目
表八行目「行」を「行き」と、同三七枚目表七行目「漸新」を「斬新」と、同四五
枚目表五行目「乱用」を「濫用」と、同四六枚目表三行目「仮分」を「仮処分」と
それぞれ改める。)。
一 被控訴人ら
1 原判決主文1項において認容された別紙目録(一)記載のロツカーの販売禁止
請求の目的を確実に達成するためには、同ロツカーに用いられるビニール製シート
から同シート上に印刷ずみの同目録表示の図形及び文字を抹消させるか、又は同シ
ートそのものを廃棄させる必要があるが、同シート上から右印刷部分を抹消させる
ことは不可能であり、廃棄させるより外はない。そこで、被控訴人らは、附帯控訴
により、当審における新たな請求として、控訴人に対し同ロツカーに用いられる同
目録表示の図形及び文字を印刷したビニール製シートの廃棄を求める。不正競争防
止法には物の廃棄について明文の規定はないけれども、不正競争行為の差止請求に
随伴する効果としてかかる請求が許されることは疑いない(東京高裁昭和五三年一
〇月二五日判決、判例時報九一四号六〇頁、【A】「註解不正競争防止法」六九頁
参照)。
2 被控訴人らと控訴人との間には、本件紛争に関し、(1) 控訴人が被控訴人
ソニー企業株式会社(以下「被控訴人ソニー企業」という。)を相手方として申立
てた営業妨害行為禁止仮処分事件(大阪地方裁判所昭和五〇年(ヨ)第四〇二〇号
事件)、(2)被控訴人らが控訴人を相手方として申立てた不正競争行為禁止仮処
分事件(大阪地方裁判所昭和五一年(ヨ)第一一八七号事件)、(3)控訴人が被
控訴人ソニー企業を被告として提起した製造販売差止請求権不存在確認等請求事件
(大阪地方裁判所昭和五一年(ワ)第四七九号事件)、(4) 右(3)事件の第
一審判決に対する控訴人からの控訴事件(大阪高等裁判所昭和五三年(ネ)第一三
〇九号事件)、(5) 被控訴人らが控訴人を被告として提起した不正競争行為差
止等請求事件(原審訴訟)、(6)本件控訴事件があり、右(1)ないし(5)の
全事件につきすべて被控訴人らの申立が認容され、控訴人はすべて敗訴した。
 被控訴人ソニー企業と被控訴人ナシヨナル・フツトボール・リーグ・プロパテイ
ーズ(以下「被控訴人NFLP」という。)との間において、原判決添付別紙目録
(二)の一及び二記載のマーク(以下、本件表示という。)の使用に関する日本国
における紛争に要した弁護士費用は被控訴人NFLPが負担する旨の約定があるの
で、右各事件に要した弁護士費用は被控訴人NFLPの負担となつた。被控訴人N
FLPは原審において右(3)及び(4)の訴訟事件について支出せざるをえなか
つた弁護士費用合計三〇〇万円を控訴人の不当な訴訟提起によつて蒙つた損害とし
て、(5)の訴訟事件の弁護士費用一〇〇万円を不正競争行為という違法行為によ
り蒙つた損害として請求したが、原判決は(3)及び(4)の訴訟事件について弁
護士費用請求をすべて棄却し、(5)の訴訟事件について弁護士費用一〇〇万円の
みを認容し、その余の弁護士費用の請求を棄却した。
 そこで、被控訴人NFLPは、附帯控訴により、原判決中弁護士費用に関する部
分を変更し、(3)及び(4)の訴訟事件についてはこれに要した弁護士費用合計
三〇〇万円のうち五〇万円、(5)の訴訟事件についてはこれに要した弁護士費用
のうち一〇〇万円(原判決認容額)の支払を求め、かつ、当審における新たな請求
として、本件控訴事件に要した弁護士費用一〇〇万のうち五〇万円の支払を求め
る。
 なお、被控訴人NFLPは、従前右各弁護士費用について昭和五三年一一月八日
又は昭和五五年一一月一四日から各完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金
を付加して請求していたが、右遅延損害金の請求はすべてこれを取下げる。
 ちなみに、被控訴人らの調査によれば、控訴人は昭和五三年末既に倒産してお
り、その後は同五四年二月一四日設立された丸竹織ネーム株式会社(代表取締役は
控訴人代表者の子)が控訴人の営業を引継いでおり、他方控訴人はその所有の土地
建物を昭和五四年九月に売却しているのであつて、控訴人の会社としての実体は遅
くとも昭和五四年末までには消滅している。このような状況のため被控訴人らは仮
執行宣言付の原審判決を得たものの、その執行を断念せざるをえなかつた。しかる
に、控訴人は本件控訴を提起し、そのため被控訴人らはまたしても回収のあてのな
い訴訟費用の出捐を強いられることになつた。現実には何らの実体を有していない
控訴人のこのような訴訟行為は、その当事者能力が否定されるべきであると考える
が、少くとも控訴権の濫用に当る。
3 原判決添付別紙目録(二)の一及び二記載の本件表示は、遅くとも昭和五〇年
初めころには、被控訴人らの表示として日本国において広く認識されるに至つた。
二 控訴人
1 被控訴人ら主張1、2の附帯控訴の理由中、控訴人と被控訴人らとの間に被控
訴人ら主張のような仮処分事件及び本案訴訟事件があること、本件において原審が
被控訴人らの請求の一部を棄却したことは認め、被控訴人ソニー企業と同NFLP
との間において被控訴人ら主張のような弁護士費用負担に関する約定があることは
知らず、その余の点は争う。
2 被控訴人らはその主張にかかる本件表示が遅くとも昭和五〇年初めころには日
本国において広く認識されるに至つた旨主張するが、本件表示(三〇種類の各図
柄)は在米のアメリカンフツトボール・プロチームが一チーム一種類の割合で使用
してきた図柄であつて、一九の再使用権者(原判決添付別紙目録(三)記載の一九
社)が自己の商品と結びつけて使用した図柄ではない。再使用権者らが現実に自己
の商品に結びつけて使用した図柄は甲第四六号証の一ないし四記載のもの以外には
絶対にないのである。被控訴人らの右主張は著しい虚構である。
3 原判決は、控訴人が原審繋属中の昭和五三年九月二〇日に取得した登録第四九
〇二九七号意匠権(別紙目録(一)記載のとおり。)に基づいてした不正競争防止
法第六条に基づく抗弁を、権利の濫用として排斥したが、右判断は、第一に原判決
が被控訴人ソニー企業の控訴人に対する警告状の趣旨を誤解し、この重大な誤解が
基礎となつている点において、第二に控訴人の右登録意匠の取得について無効原因
となるような違法性はもちろん、被控訴人ソニー企業から警告を受けた事情をも含
めて何らの不正違法がないのに、これを不正行為と速断した点において、第三に権
利濫用の観念を誤つた点において、重大明白な誤りを犯している。その理由は次に
述べるとおりである。
 意匠権の行使には、(イ)意匠権者自身が意匠の実施(製造、販売)をするとい
う内面的、消極的な面と、(ロ)他人に対して当該実施行為の禁止をするという外
面的、積極的な面とがあるが、本件で問題となるのは(イ)の面であつて、(ロ)
ではない。一私人たる被控訴人ソニー企業の警告行為があつたがために、意匠権者
である控訴人がその登録意匠を自ら実施することさえ許されないことになるという
原判決の権利濫用理論を是認すると、他人の実施行為に対する禁止権どころか、意
匠権者自身が実施することさえできない奇妙な意匠権が存在することを認めること
になるが、このような結論は登録意匠の法制に明らかに矛盾するから、この一点か
ら考えても原判決の権利濫用論の誤りは明白である。そもそも特許権、実用新案
権、意匠権等の侵害訴訟の審理過程において、原告の有する特許登録に明白な無効
原因が存することが明らかになつた場合でも、一旦特許権が設定登録された以上、
特許庁においてその特許の無効審決が確定しないかぎり、その特許は有効なものと
して被告に対し差止、損害賠償等を命ずる判決をしなければならないとするのが大
正四年四月三〇日大審院判決(大正三年(ワコ)第一三二号)以来一貫した判例で
ある。如何に明白な無効原因を包蔵した特許権であつても、無効審決が確定しない
かぎり、これによつて第三者に対する権利行使も適法可能であるとしたこの確立さ
れた判例の考え方と比較して、出願前に一私人から不正競争行為として抗議を受け
たとの一事によつて、不正競争防止法六条に基づく意匠権者の抗弁権を根底から否
定し、ひいては意匠権者自身の実施さえ禁止されるとした原判決の権利濫用論は、
余りにも正反対の極論であつて、到底承認することができない。不正競争防止法六
条に不正競争行為の除外例として意匠権の行使が規定されている以上、すべての意
匠権がその除外例規定の適用を受けることになるのは、絶対権としての意匠権の効
力上当然である。同じ意匠権のうちにこの法条の適用を受けるものと受けえられな
いものとの二種があるとした原判決の判断は、意匠権の絶対性と不正競争防止法六
条の解釈適用を全く誤つたものである。
 原判決七七枚目表「被告の本件登録意匠は、裁判所においてこれを当然無効とし
て扱うことはできないにしても……」なる説示は、控訴人の意匠登録取得行為を罪
悪視したもので、控訴人の人格にもかかわる重大な意思表示であるが、控訴人の意
匠登録取得行為のどこにそのような不正、不法があるとされるのか心外である。
 思うに、原審は同意匠の登録出願日たる昭和五一年四月一日より前の同五〇年一
一月中に、控訴人が同意匠の実施品であるロツカーをダイエーに販売し、それを知
つた被控訴人ソニー企業が控訴人に対し甲第一一二号証の警告をした点を捉えて、
「出願前控訴人自身が販売して公知にし、新規性を喪失した意匠であることを知り
つつ、特許庁を欺いて獲得した登録詐獲罪の所産である。」と考えたのではなかろ
うか。しかしそれは余りにも軽卒な速断である。控訴人の同意匠登録の取得にはそ
の創作性の点においても、新規性の点においても、また創作者からの出願権の承継
関係においても、何らの違法性、不法性がないのはもちろん、その登録取得の目的
が、被控訴人らからの不正競争防止法による追及を回避するためというようなケチ
なものではなく、唯工業所有権を獲得することによつて営業上の独占利益追求の地
位を確立し、ひいては私的財産形成の一助とすること以外になかつたことは、一般
の場合と異なるところはないのである。
 被控訴人ソニー企業の警告状(甲第一一二号証)は、「アメリカに所在する某々
フツトボール・プロチームが個々に使用しつつある当該マーク(以下、「A者のA
表示」と略称する。)ないし「同被控訴人が主張する商品化権又は独占的使用権の
対象とされる表示(以下、「B者のB表示」と略称する。)を根拠とするものであ
つて、「同被控訴人から使用許諾を受けた再使用権者がそれぞれ自己の商品に使用
しつつある表示(以下、「C者のC表示」と略称する。)を法律上の根拠としたも
のではなかつた。本訴において被控訴人らが不正競争防止法によつて保護されるべ
きであると主張しているのはC者のC表示なのであるから、右警告は別の事実を根
拠とした別種の警告であつたのに、原判決はこれをC者のC表示を根拠とする警告
であると誤解し、この警告を根拠に控訴人の意匠権取得行為を非難攻撃した点にお
いて重大な誤りを犯している。この警告状について特に留意すべき点は、同被控訴
人のいう「独占的使用権」なるものの本質が何であつたかということである。前記
A者のA表示自体はそれについて著作権があるわけではなく、フツトボール競技と
いう興業に使用する単なるサービスマークである。したがつて、その独占権として
の効力も同種のサービス業の範囲に限られるのであつて、物品販売業の領域、それ
もこの世に存在するあらゆる商品についての使用の独占を効力範囲とするものでは
本来ない。
本源の使用者たるA者の有する独占権の効力範囲がこのように特定された極めて狭
小なものである以上この本源の使用者たるA者からのリレー的契約によつて使用権
を取得したに過ぎない被控訴人ソニー企業の独占権が右本源者の有するそれよりも
強大広範囲のものでないことは事理の当然である。こうした詮議の上に立つて被控
訴人ソニー企業が警告書でいう独占使用権なるものを考察すると、それは第三者を
も拘束する法律用語としての「独占的使用権」ではなくして、実は単なる一手許諾
契約、すなわち、一方当事者たる被控訴人NFLPが他方当事者たる被控訴人ソニ
ー企業に対し、「この契約が存続する限り、これと同一の使用許諾はソニー企業以
外の者には与えない」という被控訴人NFLPの一方的な義務を伴つた使用権でし
かないのである。したがつて、被控訴人ソニー企業が実質独占的使用権でないもの
を独占的使用権と詐称して、控訴人を初め甲第六七ないし第七七号証、第八〇ない
しい八二号証の各名宛人を含む多数の第三者に対して使用停止を強要したのは、ま
さに詐欺脅迫行為以外の何ものでもなく、かかる被控訴人ソニー企業の不法行為に
屈するわけにはゆかないとして妨害排除の仮処分申請、本訴提起等の法的手段に訴
えたのは控訴人として当然の措置である。警告状の趣旨が何であれ、これに承服せ
ず、その追及から逃れる手段として意匠の登録を受けたのだから、その意匠登録取
得は罪悪行為であり、かかる罪悪行為によつて取得した意匠権を不正競争防止法六
条の抗弁理由に使用することは権利の濫用であつて許されないとしたのが原判決で
あるが、善悪正邪の逆倒も甚だしいといわねばならない。
 原判決は権利濫用論の理由付けの一つとして、意匠権の先願商標権に対する牴触
関係を規定した意匠法二六条の法理を引用している。しかし、前記A者のA表示
(在米フツトボールチームの使用するマーク)については、その本源の使用主たる
A者といえども日本国において商標権を取得していないし、また、同条において登
録意匠が商標権に牴触するとは商標と商品の両面において両者間に同一又は類似の
関係がある場合であつて、商標が互に同一又は類似であつても商品が同一でも類似
でもない場合は商標権との牴触の問題は生じないのであるから、以上何れの点から
みても権利濫用論の理由付けとして意匠法二六条の法理を引用したのは失当も甚だ
しい。
4 原判決は、原判決添付別紙目録(二)の一及び二記載の在米アメリカンフツト
ボール・プロチームの使用するシンボルマーク自体であるところの本件表示なるも
のが、被控訴人らを軸とする再使用権者グループの商品及び営業たることを示す表
示として、控訴人の本件ロツカー発売当時既に広く認識されていたとの事実を認定
した。しかし、原判決にいう本件表示なるものは、原判決自らがいつているよう
に、それ自体は在米のアメリカンフツトボール・プロチームの使用しているマーク
であつて、被控訴人らの主張する再使用権者らが使用している表示そのものではな
い。在米のアメリカンフツトボール・プロチームが使用しているマークと、再使用
権者らが現実に自己の商品に使用している表示とは、全く別物である。控訴人の本
件ロツカーが、それの表示(図柄)の上から再使用権者グループの使用する商品の
表示と混同を生ぜしめるものであるとするには、再使用権者グループが商品の上に
現実に使用している具体的な表示そのものと直接比較して決定すべきであり、再使
用権者らが現実に使用している表示ではない在米のアメリカンフツトボール・プロ
チームの使用マークと比較しても全く無意味である。これは至極当然の論理である
が、原判決は控訴人の本件ロツカーが比較されるべき対照物を取り違えて事件を処
断した驚くべき違法を犯していると同時に、当然判決理由の齟齬ともなる。なお、
再使用権者らが現実に商品の上に使用した図柄がどんなもので、どんな商品の、ど
こに、どのような態様で表示されたものであつたかという具体的事実については、
甲第四六号証の一ないし四以外に被控訴人らの主張、立証はないのである。
 次に、控訴人の本件ロツカー(それに表示された全面柄模様が商品の出所識別標
識としてのマークに当るかどうかの議論は暫く措く。)が被控訴人主張の再使用権
者らが現実に自己の商品に使用している表示と同一又は類似であるということを理
由に、控訴人の本件ロツカー販売行為が不正競争防止法一条一項一号又は二号に該
当すると結論するためには、再使用権らの使用表示の著名性(広く認識せられた他
人の表示)をその使用実績の上から確定する必要がある。その確定のためには、
(1) 各再使用権者が現実に商品に使用した表示(図柄)、(2) その表示を
現実に使用した商品、(3) その表示の使用態様、等の基本事項をまず明確にし
た上で、少くとも、(4) その各使用年数、(5) その各商品の販売量、販売
地域を数字的に確定することが絶対に必要である。しかるに、原判決は数千言を費
して問題の核心に関係のない、単なる図柄使用の動機等、商品表示の著名性の認定
に全く無用無関係の事項を認定しただけで、本件表示なるものが、再使用権者らの
商品の表示として、控訴人の本件ロツカー発売当時既に周知性を取得していたもの
と速断した。原判決中右の点に関して僅かに意味があると思われる認定は、「原告
ソニー企業及び再使用権者による本件表示を付した商品の販売及びその大々的な広
告宣伝等があいまつて、……昭和五〇年度の再使用権者の本件表示を付した商品の
売上合計額は八〇億円にも達し、……」という部分のみであるが、右認定は、再使
用権者の販売した商品が具体的には何であつたか、その商品のどこに、どのような
態様で、どの図柄が表示されていたかという肝腎な基本的事項に何一つ考慮を払う
ことなく莫然と売上金額のみを認定したものであるから、右事実をもつて再使用権
者らの使用している表示の著名性(周知性)を認定することは許されない。
5 仮に、控訴人の本件ロツカー販売行為が、被控訴人ら主張の再使用権者ら販売
の商品との間に混同が生じるため、不正競争防止法一条一項一号又は二号に該当す
るとしても、控訴人の右行為によつて直接損害を受けたり、損害を受けるおそれの
ある者は再使用権者らであり、競合商品の販売をしていない被控訴人らではないこ
とは明白である。したがつて、控訴人の右行為については、被控訴人らは不正競争
防止法一条一項にいう「営業上ノ利益ヲ害セラルル虞アル者」に該当しないから、
本訴請求につき原告適格を有しない。
三 証拠(省略)
       理   由
第一 原審における被控訴人らの本訴請求及び控訴人の反訴請求について
 当裁判所は、原審における被控訴人らの本訴請求を原判決が認容した限度におい
て正当として認容すべく、右認容された分以外の被控訴人NFLPの原審における
損害賠償請求を失当として棄却すべく、控訴人の反訴請求を失当として棄却すべき
ものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決の理由と同
一であるから、その記載を引用する。
 なお、被控訴人らは、控訴人は当事者能力がなく、また、本件控訴は控訴権の濫
用である旨主張するが、右主張は理由がなく、採用することができない。
一 原判決四九枚目裏一行目「という」を「と主張する」と改め、同五〇枚目裏七
行目から八行目「第三号証の二、」を削除し、一〇行目「甲第三号証の一、」を
「甲第三号証の一、二」と改め、一一行目「第一一号証」の次に「第二〇号証、」
を挿入し、同五三枚目表一一行目「前掲甲」の次に「第四号証の一ないし三、」を
挿入し、同裏七行目「第九四号証」の次に「、第九六号証」を挿入し、七行目から
八行目にかけての「第四七号証の一、二」を「第六〇ないし第六三号証」と改め、
同七五枚目表六行目「原告ら」から七行目「みなす。」までを「成立に争いのない
乙第二、三号証によつてこれを認めることができる。」と改め、同裏八行目「前記
擬制自白」を「前項冒頭認定の」と改め、同一一行目「争いのない」の次に「甲第
一一二号証、前掲」を挿入し、同七六枚目表九行目「本件表示と同一の」を「本件
表示のうちの七種と同一ないし酷似の図柄を用いた別紙目録(一)記載の」と改
め、同裏六行目「相手方とする」の次に「本訴請求原因(B)2(二)(1)記
載」を挿入し、同七七枚目表一二行目から末行にかけての「本件表示と同一であ
り」を「本件表示のうちの七種と同一であるか又は酷似しており」と改め、同七九
枚目表八行目「1参照」を「1ないし3参照」と改め、同裏四行目「また、」から
六行目「いうまでもない。」までを「したがつて、控訴人は同被控訴人に対し控訴
人の本件ロツカー販売行為により同被控訴人に生じた営業上の損害を賠償する責に
任じなければならない。」と改め、末行「四法(」の次に「特許法一〇二条一項、
実用新案法二九条一項、」を挿入し、同八〇枚目裏末行頁「第一一七号証」を「第
一〇六号証、第一〇八号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一一六号証の
一」と改め、同八二枚目裏末行及び同八三枚目表九行目各「相応に」をいずれも
「かなり」と改め、同八三枚目表二行目「争い甲」を「争いのない甲」と改め、同
八四枚目裏一一行目「前掲」を「成立に争いのない」と改め、末行「迎ぐ」を「求
める」と改める。
二 控訴人は、不正競争防止法六条に不正競争行為の除外例として意匠権の行使が
規定されている以上、すべての意匠権がその除外例規定の適用を受けることになる
のは絶対権としての意匠権の効力上当然であり、同じ意匠権のうちにこの法条の適
用を受けるものと受け得られないものとの二種があるとした原判決の判断は、意匠
権の絶対性と不正競争防止法六条の解釈適用を全く誤つたものである旨主張する。
しかし、権利の行使及び義務の履行は信義に従い誠実にこれをなすことを要し、権
利の濫用が許されないことは、民法一条に明定されているところである。したがつ
て、絶対権としての所有権の行使においてもその濫用が許されないのと同様に、意
匠権の行使においてもそれが濫用にわたる場合にはその行使が否定されることにな
ることは当然である。そして、原本の存在及び成立に争いのない甲第一〇六ないし
第一〇八号証、成立に争いのない甲第一一二号証、同乙第二、三号証、右甲第一〇
七号証により真正に成立したものと認める甲第四八号証によると、原判決理由第一
〔二〕(A)四1ないし3の各事実、すなわち、控訴人は、本件表示(原判決添付
別紙目録(二)の一、二記載のシンボルマーク)が我が国において被控訴人らを中
核とする再使用権者グループの商品又は営業の表示として広く認識されるに至つた
昭和五〇年初め頃の後である昭和五〇年八月以降において、本件表示のもつ強い顧
客吸引力を利用する意図のもとに本件ロツカーのデザインの作成を依頼して完成さ
せ、同年一一月中旬本件ロツカーの販売を開始したこと、したがつて本件ロツカー
の販売当初から被控訴人らは控訴人に対し不正競争防止法に基づきその販売の差止
を請求し得る地位を取得していたこと、被控訴人ソニー企業は控訴人に対し同年一
一月末頃本件ロツカーの販売が被控訴人らに対する関係で不正競争防止法一条一項
一号、二号に該当する旨を警告するとともにその販売をとりやめるよう要求したこ
と、これに対し、控訴人は同被控訴人の警告及び要求を無視するかたわら、当然予
期される同被控訴人らの不正競争防止法に基づく差止請求等を免れるための対抗措
置として、同五一年四月一日本件ロツカーにかかる形状、模様の結合意匠について
意匠登録出願をして意匠権を取得したことが認められるのであつて、このような事
情下における控訴人の本件ロツカー販売行為は、形式的には登録意匠権の行使に該
当するけれども、右意匠権の取得が被控訴人らに対する関係で信義に反するものと
いわざるをえないから、不正競争防止法六条にいう意匠権の正当な行使と認めるこ
とができず、控訴人が同条の適用を主張することは権利の濫用として許されないと
解するのが相当である。したがつて、控訴人の右主張は採用することができない。
 控訴人は、被控訴人ソニー企業の警告状(甲第一一二号証)は、米国のアメリカ
ンフツトボール・プロチームが個々に使用しつつあるシンボルマークないし同被控
訴人が主張する商品化権又は独占的使用権の対象とされる表示を根拠とするもので
あつて、同被控訴人から使用許諾を受けた再使用権者がそれぞれ自己の商品に使用
しつつある表示を根拠としたものではない旨主張する。しかし、原判決理由第一
〔二〕(A)二2冒頭掲記の各証拠によれば、被控訴人ソニー企業はすべての宣伝
広告を通じて当初から本件表示(原判決添付別紙目録(二)の一、二記載のシンボ
ルマーク)全部を常にNFLマークとして一体的に同被控訴人を中核とする再使用
権者グループの販売商品の宣伝広告に使用してきており(バツフアロービルズのマ
ークについては当初原判決添付別紙目録(二)の一最上段記載のものであり、後に
同二下段記載のものに変更されたけれども、両マークは類似範囲内のものであると
認められる。)、同被控訴人が再使用権者と再使用許諾契約を締結する際にも、販
売商品は特定制限するが、使用する表示には制限がなく再使用権者は本件表示全部
を使用できることになつていること、再使用権者らは青少年向きアウトウエア、ス
ポーツシヤツ、トレーナー、Tシヤツ、帽子、スポーツバツグ、レジヤーバツグ、
文房具、鞄、靴下、ガラスコツプ等の商品に本件表示のうちの任意の一つを直接付
して販売しているが、本件表示の全部でも一部でも任意に使用できる契約になつて
いるため、各再使用権者が各種新聞、雑誌、パンフレツト等に商品の宣伝広告をす
る際には、その時点で現実に商品に付している個々のマークにはこだわらず、NF
Lマーク付きないしアメリカンフツトボール・プロチームのマーク付き商品という
特徴を強調し、本件表示全部を自己の販売商品の表示として宣伝広告に使用する例
が多いこと、このような本件表示の使用態様、本件表示がすべてアメリカンフツト
ボールのヘルメツトを型どつた簡単な基本型で統一されており、いずれもアメリカ
ンフツトボール・プロチームのイメージを彷彿させるものであること等から、各種
新聞雑誌の報道も本件表示の個々のマークのチーム名等にはとらわれず、本件表示
を一体的なものと観念して「アメラグフアツシヨン」、「NFLマーク商品」等と
称呼するのが一般であり、取引業界及び顧客層の間においても、被控訴人らを中核
とする再使用権者らのグループの商品(本件表示のうちの一つが付されている。)
を一括して、統一的に把握し、「アメリカンフツトボール・フアツシヨン」、「N
FLマーク商品」、「ナシヨナルフツトボールリーグ・マーク付き商品」、「アメ
リカンフツトボール・バツグ」等と称呼、観念されていること、その結果本件表示
全部が一つのまとまつた関連表示として、昭和五〇年初め頃、主として青少年向き
衣料、身の廻り品、文房具等の商品分野において、被控訴人らを中核とする再使用
権者グループの商品及び営業の表示として、広く認識されるに至つたと認めるのが
相当であるから、被控訴人ソニー企業が右警告状において本件表示を法的根拠とし
たことは正当であり、控訴人の右主張は採用することができない。
三 控訴人は、本件表示は被控訴人らの主張する再使用権者らが現実に使用してい
る表示とは全く別物である旨主張するが、再使用権者らが現実に本件表示を使用し
ていることは前記二のとおりであるから、控訴人の右主張は採用することができな
い。
 控訴人は、本件表示は在来のアメリカンフツトボール・プロチームが一チーム一
種類の割合で使用している図柄であつて、一九の再使用権者が自己の商品と結びつ
けて使用した図柄ではなく、再使用権者らが現実に自己の商品に結びつけて使用し
た図柄は甲第四六号証の一ないし四記載のもの以外には絶対にない旨主張するが、
控訴人の指摘する甲第四六号証の一ないし四に記載の図柄は本件表示そのものにほ
かならず(ただし、バツフアロービルズのマークについては変更後のもの。控訴人
の使用したのもこの変更後のもの。)、したがつて、控訴人の右主張は理由がな
い。
 控訴人は、本件ロツカー販売行為が不正競争防止法一条一項一号又は二号に該当
すると結論するためには、本件表示の著名性をその使用実績の上から確定する必要
があり、その確定のためには、各再使用権者が現実に商品に使用した表示、その表
示を現実に使用した商品、その表示の使用態様等の基本事実をまず明確にした上
で、少なくとも、その使用年数、その各商品の販売量、販売地域を数字的に確定す
ることが絶対に必要である旨主張する。表示の著名性(周知性)確立の有無の判断
に際しては、右控訴人主張の諸点も考慮の対象となりうるが、その判断の基礎とさ
れるべき事実は右の諸点のみに限られるものではなく、広く当該表示の特質及び印
象の強さ、伝播力の速さ及び強さ、使用した広告媒体の質及び量、商品及び表示に
対する購買者層の評価ないし人気(反応)、マスコミ報道の姿勢、他の流行との相
乗作用、取引の実情等諸般の事情を総合考慮してその判断をすべきものである。そ
して、右の諸事実を総合判断した結果本件表示が昭和五〇年初めごろ我が国におい
て被控訴人らを中核とする再使用権者グループの商品又は営業の表示として広く認
識されるに至つたものと認めることができることは、前記二及び原判決理由第一
(二)(A)二2、3記載のとおりであり、右認定に際し各商品の販売量、販売地
域を数字的に確定することが絶対に必要であると解すべき合理的理由はないから、
控訴人の右主張は採用することができない。
四 控訴人は、本件ロツカー販売行為が不正競争防止法一条一項一号又は二号に該
当するとしても、右行為によつて直接損害を受けたり、損害を受けるおそれのある
ものは再使用権者であり、被控訴人らは同項柱書所定の「営業上ノ利益ヲ害セラル
ル虞アル者」には該当しないから、本訴請求につき原告適格を有しない旨主張す
る。しかし、前記のとおり、被控訴人NFLPは、米国のNFLに加盟するプロフ
ツトボールチームが平等の持分を有し本件表示の商業上の利用を管理する目的をも
つて一九六三年に設立された会社、被控訴人ソニー企業は、昭和四八年一〇月二日
被控訴人NFLPと本件表示に関する使用許諾契約を締結し、右契約上日本におけ
る唯一の使用権者として特に指定された商品に付して商品化して事業を営む権利及
びこれを第三者に有償で再使用せしめる権利を取得した者であり、本件表示は昭和
五〇年初め頃には我が国において被控訴人らを中核とする再使用権者グループの商
品及び営業たることを示す表示として広く認識されるに至つたのであつて、被控訴
人らは、控訴人の本件ロツカー販売行為により再使用権者に対する統制、商品の出
所識別機能、品質保障機能及び顧客吸引力を害されその結果営業上の利益を害され
たと主張して不正競争防止法に基づき右販売の差止、損害賠償等を請求している本
件訴訟において正当な当事者であることは、明らかである。そして、前記事実によ
れば、被控訴人らは控訴人の本件ロツカー販売行為により被控訴人ら主張のような
理由でその営業上の利益を害されたものと認めるのが相当である。よつて、控訴人
の右主張は採用することができない。
第二 被控訴人らの当審における新たな請求について
一 不正競争防止法一条一項に基づく請求として、特許法一〇〇条、商標法三六条
などの規定と同様に、当該不正競争行為そのものの停止のほかに、その予防的措置
を求めることができるものと解するのが相当であるから、控訴人に対し本件ロツカ
ーに用いられる別紙目録(一)表示の図形及び文字が印刷されたビニール製シート
の廃棄を求める被控訴人らの当審における新たな請求は理由があり、正当として認
容すべきである。
二 さらに、被控訴人NFLPは本件控訴事件及び附帯控訴事件に要した弁護士費
用五〇万円を請求しているので、検討する。
 不法行為の被害者が、自己の権利擁護のため訴訟を提起し又は相手方の控訴に対
して応訴することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁
護士費用は、事案の難易、認容された請求の内容、金額その他諸般の事情を斟酌し
て相当と認められる金額の範囲内のものにかぎり右不法行為と相当因果関係に立つ
損害としてその賠償を請求しうるものと解されるところ、原審証人【B】の証言、
同証言により真正に成立したものと認める甲第一一四、一一五号証及び弁論の全趣
旨によると、被控訴人NFLPは、本件控訴事件及び附帯控訴事件につき本件被控
訴代理人弁護士に対し弁護士費用(報酬及び実費等)として少くとも五〇万円を支
払わなければならないと認められること、本件訴訟が高度かつ専門的知識を要する
ものであること、その他本件訴訟の審理経過等諸般の事情を総合考慮すると、被控
訴人NFLPは控訴人に対し本件不正競争行為と相当因果関係に立つ損害として右
弁護士費用相当額五〇万円の支払を請求しうるものというべきである。したがつ
て、その支払を求める同被控訴人の当審における新たな請求は理由があり、正当と
して認容すべきである。
第三 結語
 よつて、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人の附帯控訴
は右ビニール製シートの廃棄及び本件控訴審の弁護士費用相当額五〇万円の支払を
求める当審における新たな請求について理由があり、その余は失当であるから(な
お、被控訴人NFLPは前記のとおり年五分の割合による遅延損害金の請求を取下
げた。)、原判決主文1項を主文二項括弧内のとおり変更し、控訴費用及び附帯控
訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九二条、九三条を適用し、同法一
九六条により本判決主文第二項括弧内は被控訴人ら勝訴部分に限り仮に執行するこ
とができるものとし、原判決主文4項を右の限度で変更し、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 川添萬夫 露木靖郎 庵前重和)
別紙目録(一)(省略。一二巻二号三八三頁及び三八四頁参照)

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