弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     一 原判決を取り消す。
     二 被控訴人の請求を棄却する。
     三 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
         事実及び理由
 第一 当事者の求めた裁判
 一 控訴人
 主文と同旨
 二 被控訴人
 1 本件控訴を棄却する。
 2 控訴費用は控訴人の負担とする。
 第二 事案の概要
 事案の概要は、次に記載するほかは、原判決と同じである。
 一 原判決三枚目裏一行目から同七行目までを次のとおり改める。
 「6 被告は、千葉地方裁判所松戸支部に対し執行力ある公正証書に基づき、A
のクボタに対する本件建物の平成三年七月分以降の賃料債権の差押えの申立てをし
(平成三年(ル)第一九九号)、同裁判所は、平成三年六月三日、右賃料債権を金
二億一九三九万七二六〇円に満つるまで差し押さえた(乙第二号証)。
 7 右差押命令は、債務者兼所有者であるAに対し平成三年六月一三日に、第三
債務者であるクボタに対し同年六月五日送達された(乙第一号証)。」
 二 争点に関する当事者の主張
 本件の争点は、控訴人が本件建物の賃料債権について差押命令を得た後に、同建
物について根抵当権の設定を受けた被控訴人が根抵当権に基づく物上代位として右
賃料債権を差し押さえた場合、供託された賃料の配当手続において、物上代位権者
である被控訴人に優先権があるか否かであり、この点に関する双方の主張は次のと
おりである。
 1 控訴人
 被控訴人が本件建物につき根抵当権設定登記をしたのは、控訴人の債権差押命令
が債務者及び第三債務者に送達された後の平成三年七月一九日である。
 債権差押命令は、債務者に対し、差押えに係る債権について取立てその他の処分
を禁じるものであり、これに違反した処分行為は、差押債権者に対する関係では無
効となる。
 そうすると、右差し押さえ後に差押えに係る賃料債権か発生する基礎となる本件
建物について、根抵当権設定という処分行為をしても、その処分行為は、賃料債権
自体についての処分行為と同様に、差押債権者に対し、その効力を主張しえないこ
とになる。
 したがって、被控訴人は控訴人に対し、本件建物についての根抵当権設定自体を
主張しえず、その結果、根抵当権の物上代位による賃料債権の差押えも控訴人に対
しては主張しえないことになる。
 2 被控訴人
 根抵当権の目的不動産から生ずる賃料債権について、先に債権差押命令が発せら
れていたとしても、右賃料の債権者で不動産の所有者である貸主が、他の債務を担
保するために、抵当権や根抵当権を設定することは妨げられるものではない。賃料
債権の差押命令により貸主が制限を受けるのは、不動産の借主である第三債務者か
ら賃料の取り立てができなくなるだけであり、そのほかの権利の行使については何
らの制限を受けない。
 したがって、被控訴人とAとの間の根抵当権の設定契約は有効であり、それに基
づき本件建物の賃料債権につき物上代位権を行使できることも当然である。そし
て、配当手続において一般債権者による差押えの権利よりも物上代位による差押え
の権利が優先することは、原判決説示のとおりである。
 第三 当裁判所の判断
 一 当裁判所は、被控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次
のとおりである。
 本件では、控訴人が、執行力ある公正証書に基づき、債務者Aの第三債務者クボ
タに対する本件建物の賃料債権の差押命令を取得し、同命令が平成三年六月一三日
債務者に、同月五日に第三債務者に送達されたところ、その後、被控訴人は、平成
三年七月一九日、債務者Aとの間で本件建物に根抵当権を設定し、同日その登記を
経由していることが明らかである。
 <要旨>ところで、賃貸借の目的建物の所有者が当該建物に抵当権を設定する行為
は、建物所有権との関係ではこれを対象とする換価権及び優先弁済権の設定
の効力を生じるとともに、抵当権の効力として賃料に対する物上代位が許されるこ
とから(民法三七二条、三〇四条)、賃料債権との関係ではこれを対象とする換価
権及び優先弁済権の設定の効力をも生じるものである。賃貸建物について抵当権の
設定をする前に建物所有者が有する賃料債権について差押命令が発せられていると
きには、建物所有者は、差し押さえられた賃料債権を処分することが禁じられてい
るのであるが(民事執行法一四五条一項)、禁止される処分行為には、目的物の違
いから建物所有権を対象とする換価権及び優先弁済権の設定は含まれないが、目的
としての権利が同一である賃料債権を対象とする換価権及び優先弁済権の設定は含
まれる。したがって、賃貸建物について抵当権を設定し対抗要件としての登記を経
由しても、その登記前に賃料の差押命令が第三債務者に送達されていたときは、差
押えの処分禁止効により、当該賃料債権に対する執行手続では、建物抵当権による
賃料債権に対する物上代位の権利はないものとして取り扱うべきであり、第三債務
者が供託した賃料は、先行する差押えの対象となっているものである限り、上記の
物上代位により差押えをした抵当権者に配当してはならないものである。このこと
は、先行する差押命令が一般債権者によるものであるかどうかによって異なるとこ
ろはない。
 本件において、被控訴人は、前記のとおり、控訴人の申立てによる賃料債権の差
押命令が第三債務者に送達された後に、建物抵当権の設定登記を経由したものであ
る。したがって、本件において供託された賃料は、控訴人と被控訴人との間では、
控訴人の請求債権の限度で控訴人に配当し、被控訴人には配当するべきではなかっ
たのである。
 そうすると、被控訴人が供託された賃料全額の配当を受けるべきであったことを
前提として、控訴人が配当を受けた金員を不当利得として返還を求める被控訴人の
請求は、理由がなくこれを棄却するべきものである。
 二 よって、被控訴人の請求を認容した原判決は、不当であるから、これを取り
消し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 淺生重機 裁判官 杉山正士)

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