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平成17年(行ケ)第10628号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成18年5月24日
判決
原告有限会社サンロイヤル
訴訟代理人弁護士木下洋平
訴訟代理人弁理士中村政美
被告株式会社クレストワン
訴訟代理人弁護士狐塚鉄世
同成田茂
同戸谷博史
同前山暁子
訴訟代理人弁理士奈良武
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2004ー80015号事件について平成17年7月4日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が有する後記特許につき,被告が無効審判請求をしたところ,
特許庁が特許を無効とする旨の審決をしたことから,原告が,その取消しを求
めた事案である。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成5年2月25日,名称を「スッポン卵を使用した栄養食品
の製造方法及びその製造に使用するスッポン卵粉砕機」とする発明について
特許出願をし(公開特許公報は特開平6ー245738,甲2),平成9年
3月24日付け手続補正書による補正(全文と図面の変更。その中で名
称を「スッポン卵を使用した栄養食品の製造方法」に変更。甲14。以下
「本件補正」という。)をした上,平成9年7月4日,特許第2668
629号として設定登録を受けた(以下「本件特許」という。)。
ところが,第三者から本件特許について特許異議の申立てがなされ,
その審理手続において原告は,平成10年9月22日付けで明細書の訂
正請求を行った(その内容は甲20参照)。特許庁は,平成10年10
月16日付けの異議決定(甲20)において,「訂正を認める。特許第
2668629号の特許を維持する」旨の決定をした。
そして平成16年4月14日付けで被告から本件特許につき無効審判
請求がなされたので(乙2),特許庁は,これを無効2004ー800
15号事件として審理し,平成17年7月4日,「特許第266862
9号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は,
被請求人の負担とする」旨の審決を行い,その審決謄本は平成17年7
月14日原告に送達された。
(2)発明の内容
ア当初明細書記載のもの
本件補正前の明細書(出願時のもの。以下「当初明細書」という。
甲2)に記載された特許請求の範囲は,請求項1ないし2から成り,
その内容は,次のとおりである。
「【請求項1】予め産出されたスッポンの卵をその生産地で殺菌冷
凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕機の場所まで搬送し
てその粉砕機により粉砕し,その後その粉砕されたスッポンの卵を
冷凍乾燥させた後に,サイクロヂニン末と混合し,サフラワーオイ
ルを配合してゲル化せしめたことを特徴とするスッポン卵を使用し
た栄養食品の製造方法。
【請求項2】スッポンの卵を冷凍のまま投入する投入口と,その投
入口から投入された冷凍スッポン卵を,そのままダイヤモンド砥石
による擦り合わせによって粉砕する粉砕部とを有したことを特徴と
するスッポン卵を使用した栄養食品の製造に使用するスッポン卵粉
砕機。」
(以下,上記請求項1,2の発明を,それぞれ「当初発明1」,「当
初発明2」といい,両者を併せて「当初発明」という。)
イ本件補正後のもの
平成9年3月24日付けの上記補正後の特許請求の範囲は請求項1
のみなら成り,その内容は,次のとおりである(平成9年7月4日の
設定登録時も同じ。甲14,19。下線部は補正部分)。
「【請求項1】予め産出されたスッポンの卵をその生産地で殺菌冷
凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕機の場所まで搬送
し,冷凍スッポンの卵をそのままダイヤモンド砥石による擦り合わ
せにより,約50メッシュの粒度まで粉砕する第一次粉砕と,約8
0メッシュの粒度まで粉砕する第二次粉砕とを経て粉砕し,その粉
砕されたスッポンの卵を真空冷凍乾燥して粉末化した後に,サフラ
ワーオイルを配合してゲル化せしめたことを特徴とするスッポン卵
を使用した栄養食品の製造方法。」
ウ平成10年10月16日付け特許異議決定により訂正が認められた発明
(以下「本件発明」という。下線部は訂正部分)
上記訂正後の特許請求の範囲は,請求項1のみから成り,その内容
は,次のとおりである
「【請求項1】予め産出されたスッポンの卵をその生産地で殺菌冷
凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕機の場所まで搬送
し,冷凍スッポンの卵を殻ごとダイヤモンド砥石による擦り合わせ
により,約50メッシュの粒度まで粉砕する第一次粉砕と,約80
メッシュの粒度まで粉砕する第二次粉砕とを経て粉砕し,その粉砕
されたスッポンの卵を真空冷凍乾燥して粉末化した後に,サフラワ
ーオイルを配合してゲル化せしめ,このゲル化製品をカプセル内に
収納したことを特徴とするスッポン卵を使用した栄養食品の製造方
法。」
(3)審決の内容
審決の内容は,別紙審決写しのとおりであり,その理由の要点は,次
のとおりである。
ア本件補正は,当初明細書に記載されていた「サイクロヂニン末」の
記載を削除したことにより,当初明細書の要旨を変更するものである
から,その出願日は,本件補正のされた日とみなされるところ,本件
発明は,本件補正のされた日より前に公開された本件特許の公報(甲
2。以下「甲2公報」という。)に記載された発明に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許
を受けることができない。
イ本件発明は,特開平1ー277472号公報(甲1。以下「甲1公
報」といい,この公報に記載されている発明を「甲1発明」とい
う。),特開昭60ー105472号公報(甲4。以下「甲4公報」
という。),特開平1ー242156号公報(甲6。以下「甲6公
報」という。)及び特開平3ー123649号公報(甲7。以下「甲
7公報」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を
受けることができない。
(4)審決の取消事由
しかしながら,本件補正は,当初明細書の要旨を変更するものでな
く,また,本件発明は,甲1公報,甲4公報,甲6公報及び甲7公報に
記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの
ではないから,審決は違法として取り消されるべきである。
なお,仮に補正が要旨変更に当たるとされた場合は,審決にいう無効
理由(1)についての判断における相違点認定と容易相当性の判断は争わな
い。
ア取消事由1(本件補正が当初明細書の要旨を変更するものであると
判断したことの誤り)
本件補正は,当初明細書に記載されていた「サイクロヂニン末」の
記載を削除したものであるところ,この補正は,当初明細書に開示さ
れていた技術的事項の範囲内の補正であって,実質的に発明の本質な
いし実体を変更するものではないから,明細書の要旨を変更するもの
ではない。その理由は,次のとおりである。
(ア)当初明細書の「発明が解決しようとする課題」及び「発明の効
果」には,当初発明1についても当初発明2についても,「サイク
ロヂニン末」に言及する記載はない。また,当初発明2について
は,当初明細書の「特許請求の範囲」,「作用」,「課題を解決す
るための手段」及び「実施例」にも,「サイクロヂニン末」に言及
する記載はないから,当初明細書には,当初発明2について,「サ
イクロヂニン末」に言及する記載はない。本件補正は,当初発明1
と当初発明2という二つの発明を一つの発明に補正したもので,そ
の際に,「発明が解決しようとする課題」,「発明の効果」及び当
初発明1と当初発明2に共通する実施例に言及されていない「サイ
クロヂニン末」の記載を削除したものである。
(イ)本件発明は,甲1発明の改良発明であるから,甲1発明の「サイク
ロヂニン末」をそのまま転載しているが,当初明細書の全体が示す技
術思想は,「サイクロヂニン末」を混合する前のスッポン卵粉砕技
術の改良に関するものである。「サイクロヂニン末」は,改良前の
栄養食品の1例を示したにすぎない。
(ウ)「サイクロヂニン末」は,不明な成分であり,これを削除するこ
とで明確になるという審査段階の判断に従って,原告は,本件補正
により,「サイクロヂニン末」の記載を削除した。審判段階に至っ
て,当初明細書には,「サイクロヂニン末」が必要不可欠な有効成
分として記載されていたとされる合理的な理由はない。
イ取消事由2(本件発明は甲1公報等に記載された発明に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたと判断したことの誤り)
本件発明は,甲1公報,甲4公報,甲6公報及び甲7公報に記載さ
れた発明から容易に発明することができたものではない。その理由
は,次のとおりである。
(ア)従来の技術では,冷凍したスッポン卵を解凍し粉砕する工程で
雑菌が混入するという問題点があった。本件発明の発明者は,冷凍
したスッポン卵を,解凍することなく,低温のまま粉砕すれば,雑
菌が混入するという問題点は解消されると想定した。しかし,スッ
ポン卵は,繊維状の組織が束ねられた特殊な殻構造を有しているこ
とから,殻を構成する繊維状の組織を粉砕するまでに長い時間がか
かると,温度が上昇して,雑菌が混入するという問題点は解消され
ない。そこで,本件発明の発明者は,研究の末,冷凍したスッポン
卵を,雑菌混入のおそれがない低温を維持しながら粉砕をする方法
を発明した。それが本件発明である。
(イ)本件発明の粉砕工程は,幾多の実験によって初めて実用可能に
なった独自技術である。
(ウ)甲1公報,甲4公報,甲6公報及び甲7公報に記載された発明
をどのように組み合わせても,本件発明を実現することは不可能で
ある。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1に対し
当初明細書に記載されていた「サイクロヂニン末」の記載を削除した
本件補正は,当初明細書に開示されていた技術的事項の範囲内の補正で
はなく,明細書の要旨を変更するものである。その理由は,次のとおり
である。
ア当初発明1についての当初明細書の「特許請求の範囲」,「発明が
解決しようとする課題」,「課題を解決するための手段」,「作
用」,「実施例」及び「発明の効果」には,「サイクロヂニン末と混
合し,サフラワーオイルを配合してゲル化せしめたことを特徴とする
スッポンの卵を利用した栄養食品の製造方法」が記載されているのみ
で,「サイクロヂニン末」と混合せずに,サフラワーオイルのみを配
合してゲル化せしめる製造方法については何も記載されていない。し
かも,「サイクロヂニン末」は必要に応じて使用する任意成分である
ことを明示する記載もない。
イ当初発明2は,当初発明1に使用する「スッポン卵粉砕機」の発明
であって,「サイクロジニン末」の混合工程を必須の構成要件とする
第1発明とは別異の発明であるから,「サイクロジニン末」を要件と
しない発明しか当初明細書に記載されていないのは当然である。
ウ本件補正は,当初発明1についての補正であり,当初発明2は削除
され,取り下げられたものである。本件補正は,二つの発明を一つの
発明に補正したものではない。
エ本件発明は,甲1発明の課題を解決したものである。甲1発明が
「サイクロヂニン末」を必須の成分とするものである以上,本件発明
は,「サイクロジニン末」を必須の成分とするものである。
(2)取消事由2に対し
本件発明は,審決が判断しているとおり,甲1公報,甲4公報,甲6
公報及び甲7公報に記載された発明から容易に想到し得るものである。
また,本件発明は,甲1発明に比較して格別の効果を奏するものではな
い。
第4当裁判所の判断
1請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)
(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2取消事由1(本件補正が当初明細書の要旨を変更するものであると判断
したことの誤り)について
(1)当初明細書(甲2)には,「特許請求の範囲」に前記のとおり当初発
明1及び2が記載されているほか,次のような記載がある。
ア産業上の利用分野(段落【0001】)
この発明は,主にスッポンの卵中に含まれる各種の栄養分を損なわ
ずに保存し,滋養に富んだ栄養食品として利用すると共に,雑菌の混
入をなくしたスッポン卵を使用した栄養食品の製造方法及びその製造
に使用するスッポン卵粉砕機に関する。
イ従来の技術(段落【0002】~【0005】)
従来,スッポンが有する滋養分を利用するために,種々の方法が提
案されている。
例えば,特開昭53-52695号公報には,生きたままのスッポ
ンを焼酎の中に浸漬し,更にこの焼酎内に朝鮮人参や蜂蜜等を入れた
スッポン酒の製造方法が記載されている。
また,特開昭53-32199号公報には,スッポンの肉,皮,甲
羅等を截断して,細片化し,これを火気にかけて炒り上げた,すっぽ
ん酒の原料となる,所謂すっぽんの精の造り方が記載されている。
更に,成長したスッポンと同様に養殖され,スッポンの滋養分に勝
るとも劣らない滋養を有するスッポンの卵も多くの料理等に使用され
ている。
ウ発明が解決しようとする課題(段落【0006】~【0010】)
ところが,これら従来の方法では,スッポンの滋養分を焼酎内に滲
出せしめるものであるから,この滲出した滋養分を得るには,焼酎を
飲用し得るものに限られる不都合がある。また,いずれも成長したス
ッポンを丸ごと使用するにも拘らず,得られる滋養分は焼酎内に滲出
した僅かな量となる。しかも,その滲出にいたるまでに長期間の時間
を費やさなければならない。
一方,スッポンの産卵時期は,およそ半年間に限られるから,成長
したスッポンの如く,一年中安定した供給は困難なものであった。し
かしながら,スッポンの卵は他の鶏卵等と比較して,特に鉄分やカリ
ウム,あるいはビタミンE等の栄養に富んだものとして知られてお
り,このスッポンの卵の滋養を常時供給し得る食品の提供が望まれて
いた。
そのため,本願出願人が特願昭63-105271号として特許出
願し,特開平1-277472号公報として特許出願公開された栄養
食品の製造方法がある。
この栄養食品の製造方法は,スッポンの卵中に含まれる各種の栄養
分を損なわずに保存し,滋養に富んだ栄養食品として利用する製造方
法として優れたものと好評を博してはいるものの,生産地で殺菌冷凍
して搬送した後解凍して粗砕し,その後常温で減圧乾燥させる関係
で,解凍した段階で雑菌等の混入が発生してしまうので,生産地では
雑菌の混入はなくとも最終の段階での材料には雑菌が存在してしまう
ことがあるという大きな問題点を持っていた。
そこで,この発明は,上述した問題点等に鑑み,スッポンの産卵時
期に影響を受けずに,常に安定した供給が可能になり,しかも,スッ
ポンの卵の滋養を損なわず,各種栄養食品の原料となる外,栄養剤と
しても利用可能で,更には,製造段階での雑菌の混入をなくすように
したスッポン卵を使用した栄養食品の製造方法及びその製造に使用す
るスッポン卵粉砕機の提供を目的とする。
エ課題を解決するための手段(段落【0011】,【0012】)
上述の目的を達成すべくこの発明は,予め産出されたスッポンの卵
をその生産地で殺菌冷凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕
機の場所まで搬送してその粉砕機により粉砕し,その後その粉砕され
たスッポンの卵を冷凍乾燥させた後に,サイクロヂニン末と混合し,
サフラワーオイルを配合してゲル化せしめたことにより,上述した課
題を解決するものである。
又,スッポン卵を使用した栄養食品の製造に使用するスッポン卵粉
砕機としては,卵を冷凍のまま投入する投入口と,その投入口から投
入された冷凍スッポン卵を,そのままダイヤモンド砥石による擦り合
わせによって粉砕する粉砕部とを有したことを特徴とするスッポン卵
を使用しことにより,上述した課題を解決するものである。
オ作用(段落【0013】~【0016】)
この発明に係るスッポン卵を使用した栄養食品の製造方法及びその
製造に使用するスッポン卵粉砕機は,予め産出されたスッポンの卵を
その生産地で殺菌冷凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕機
の場所まで搬送してその粉砕機により粉砕する。
そうすると,冷凍のまま搬送されてそのまま粉砕されるので雑菌の
発生混入はない。
そして,その後その粉砕されたスッポンの卵を冷凍乾燥させた後
に,サイクロヂニン末と混合し,サフラワーオイルを配合してゲル化
せしめるものである。
又,その際に,冷凍のスッポンの卵は,殻ごと冷凍されているのが
一般的であって鶏卵と比較して各段に硬く通常の酸化アルミナや炭化
珪素の砥石を使用しても磨耗が激しく確実に粉砕されないが,スッポ
ン卵を使用した栄養食品の製造に使用するスッポン卵粉砕機を,卵を
冷凍のまま投入する投入口と,その投入口から投入された冷凍スッポ
ン卵を,そのままダイヤモンド砥石による擦り合わせによって粉砕す
る粉砕部とを有すべく形成してあるから,その投入口に投入された冷
凍のスッポンの卵は,ダイヤモンド砥石という非常に硬度の高い砥石
による擦り合わせで粉砕されるので確実な粉砕を行って微粉末となる
ものである。
カ実施例(段落【0017】~【0033】)
図1に示すように,予め産出されたスッポンの卵をその生産地で殺
菌冷凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕機の場所まで搬送
してその粉砕機により,第一次粉砕と第二次粉砕とを経て粉砕する。
この場合に,第一次粉砕によって,例えば50メッシュの粒度まで粉砕
し,第二次粉砕によって,例えば80メッシュの粒度となるように粉砕
する。この場合に,冷凍状態のスッポンの卵をそのまま粉砕すると,
全体ではドロ状の粘性液体となる。
そして,その後その粉砕されたスッポンの卵の粉末をトレーに盛付
け真空冷凍乾燥させた後に,金属探知によって異物の混入を検査し,
更に雑菌の混入を菌検査によって検査する。
その検査が完了したスッポンの卵の粉末サイクロヂニン末と混合
し,サフラワーオイル及び乳化剤を配合してゲル化せしめ製品を形成
する。
尚,このゲル化製品は,チューブ内に収納しておき,このチューブ
内から注出したゲル化製品を種々の栄養食品に使用する。或いは,こ
のゲル化製品をカプセル内に収納することで,そのまま服用して栄養
剤とするものである。
ちなみに,このとき,300㎎のゲル化製品を収納したカプセル1
個内の成分配合率を以下に示すと,
成分%㎎
卵1545
サイクロヂニン1133
サフラワーオイル64192
乳化剤1030
計100300
とした配分が適正である。
次に,前記粉砕機は,図2に示される構造となっている。
すなわち,この粉砕機1は,冷凍スッポン卵を投入する投入口とし
てのホッパー2が最上部に設けてある。
そして,このホッパー2に投入された冷凍スッポン卵は,フレーム
18によって囲まれた粉砕機1内部の粉砕部3に投入される。
この粉砕部3は,固定ダイヤモンド砥石4と回転ダイヤモンド砥石
5との2つのダイヤモンド砥石によって形成され,これらの固定ダイ
ヤモンド砥石4と回転ダイヤモンド砥石5とは,共に断面が略半円形
状の環状砥石であり,上に固定ダイヤモンド砥石4を,下に回転ダイ
ヤモンド砥石5を配してほぼ接触する状態で,図示のように,その砥
石によって略そろばん球形状の粉砕室12が形成される。
そうすると,回転ダイヤモンド砥石5を回転させれば,粉砕室12
に存在する冷凍スッポン卵は,略そろばん球形状の側円周側に移動
し,そこで固定ダイヤモンド砥石4と回転ダイヤモンド砥石5との接
触部分で粉砕され,粉砕された冷凍スッポン卵の粉末は粉砕室12か
ら側方へ押し出され,粉砕物排出室13に落下し,そこで,排出翼1
0によって回転攪拌されながら排出口…から外部に排出されるもので
ある。
このときの,回転ダイヤモンド砥石5の回転は,次のようにして駆
動されている。
すなわち,下部に配したモーター6の駆動軸7にジョイント8を介
して回転ダイヤモンド砥石5の回転軸9を連結する。そして,この回
転軸9には,前記排出翼10と,その上に回転板11とが取付けら
れ,この回転板11の上に回転ダイヤモンド砥石5を載置して砥石抑
え5aによって固定されている。
又,回転軸9及び排出翼10及び回転板11及び回転ダイヤモンド
砥石5は,ジョイント8の外側に遊嵌されている昇降調節体14を調
節ハンドル15によって回転させることで上下移動できるように形成
され,それによって,固定ダイヤモンド砥石4と回転ダイヤモンド砥
石5との接触度合を調節して粉砕される材料の粒度を設定できるよう
にしてある。そして,この上下動調節が完了したらロックハンドル1
6を回転させてフレーム18に対して昇降調節体14を固定するよう
にも形成されている。
このように形成した粉砕機1は,その起動,停止等は全て側面に配
した操作盤17によって行われるものである。
尚,ここで使用する冷凍のスッポンの卵は,産出されたスッポンの
卵をその生産地で酒類につけてアルコール殺菌しその状態で冷凍した
ものを用いている。
又,この発明は,前述した実施例の数値等に限定されることがない
ことはいうまでもない。
キ発明の効果(段落【0034】~【0039】)
上述の如く構成したこの発明は,予め産出されたスッポンの卵をそ
の生産地で殺菌冷凍し,その冷凍した状態のスッポンの卵を粉砕機の
場所まで搬送してその粉砕機により粉砕する。
そうすると,冷凍のまま搬送されてそのまま粉砕されるので雑菌の
発生混入はない。しかも,冷凍状態ということは,長時間の保存も可
能であるから,スッポンの産卵時期に影響を受けずに,雑菌の混入の
ない優れたスッポン卵の常に安定した供給が可能になるものである。
そして,その後その粉砕されたスッポンの卵を冷凍乾燥させた後
に,サイクロヂニン末と混合し,サフラワーオイルを配合してゲル化
せしめたことで,チューブ内やカプセル内への収納が容易になる。従
って,各種栄養食品の原料として利用しやすいものになる外,そのま
ま服用して栄養剤としても利用できる。
その結果,粉砕時にも冷凍の状態であるから,雑菌の入り込む余地
はなく,又,その粉砕に際して,予め産出されたスッポンの卵をその
生産地で殺菌冷凍した新鮮なものをそのまま粉砕し冷凍乾燥するの
で,解凍の手間も省くことができ,雑菌の混入もなく衛生的な面とコ
スト的な面においても極めて優れているものである。
又,その際に,冷凍のスッポンの卵は,殻ごと冷凍されているのが
一般的であって鶏卵と比較して各段に硬く通常の酸化アルミナや炭化
珪素の砥石を使用しても磨耗が激しく確実に粉砕されないが,スッポ
ン卵を使用した栄養食品の製造に使用するスッポン卵粉砕機を,卵を
冷凍のまま投入する投入口と,その投入口から投入された冷凍スッポ
ン卵を,そのままダイヤモンド砥石4,5による擦り合わせによって
粉砕する粉砕部3とを有すべく形成してあるから,その投入口に投入
された冷凍のスッポンの卵は,ダイヤモンド砥石4,5という非常に
硬度の高い砥石による擦り合わせで粉砕されるので確実な粉砕を行っ
て微粉末とすることができるものである。
このように本発明によれば,スッポンの産卵時期に影響を受けず
に,常に安定した供給が可能になり,しかも,スッポンの卵の滋養を
損なわず,各種栄養食品の原料となる外,栄養剤としても利用でき,
更には,この種の栄養食品にあって最も大事な衛生面,つまり,製造
段階での雑菌の混入をなくすできる等の種々の優れた効果を奏するも
のである。
(2)上記(1)の当初明細書の記載から,次のようにいうことができる。
ア特許請求の範囲は,発明の構成に欠くことができない事項のみが記
載される(平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5
項)ところ,当初明細書の当初発明1の「特許請求の範囲」には,
「サイクロヂニン末と混合」することが記載されている。
イ上記(1)イの「従来の技術」及びウの「発明が解決しようとする課
題」の記載によれば,当初明細書には,スッポンが有する滋養分の従
来の利用法の諸問題を解決するために,甲1発明がされたこと,甲1
発明をもってしても,なお回避することができない問題点として,雑
菌の混入という問題があること,当初発明は,この雑菌の混入という
問題を解決するために発明されたものであることが記載されている。
ところで,甲1公報によると,その特許請求の範囲は,「スッポン
の卵を粗砕し,この卵を減圧乾燥した後に,サイクロヂニン末と混合
し,サフラワーオイルを配合してゲル化せしめたことを特徴とする栄
養食品の製造方法。」というものであるから,甲1発明は,「スッポ
ンの卵を粗砕し,この卵を減圧乾燥した」ものを「サイクロヂニン
末」と混合する工程を含む「栄養食品の製造方法」の発明であるとい
うことができるところ,上記のとおり,当初明細書には,当初発明
は,この甲1発明の問題点を解決するためにされた発明であることが
記載されている。
ウ上記(1)エの「課題を解決するための手段」の記載によれば,当初明細
書には,当初発明1は,「粉砕されたスッポンの卵を冷凍乾燥させた」
ものを「サイクロヂニン末」と混合する工程を含む製造方法を採用す
ることによって,従来の技術の課題を解決するものであることが記載
されている。
エ上記(1)オの「作用」及びキの「発明の効果」の記載によれば,当初
明細書には,当初発明1の製造工程に「サイクロヂニン末と混合」する
工程が含まれることを前提として,製造された物を各種栄養食品の原
料や栄養剤として利用することができることが記載されている。
オ上記(1)カの「実施例」の記載によれば,当初明細書には,実施例とし
て,「粉砕されたスッポンの卵の粉末をトレーに盛付け真空冷凍乾燥
させた後に,金属探知によって異物の混入を検査し,更に雑菌の混入
を菌検査によって検査」した後,「その検査が完了したスッポンの
卵」を「サイクロヂニン末」と混合することや「サイクロヂニン末」
を含む成分の配合率が記載されている。
カ当初明細書には,「サイクロヂニン末」と混合する工程が必須では
ない技術であることを示す記載は全くない。
(3)以上によれば,当初明細書には,スッポン卵を使用した栄養食品の製
造方法について,「サイクロヂニン末」と混合する工程を含む技術のみ
が記載されているというべきである。
(4)原告は,当初明細書の「発明が解決しようとする課題」及び「発明の
効果」には「サイクロヂニン末」に言及する記載はないと主張する。
しかし,上記のとおり,当初明細書の「発明が解決しようとする課
題」には,「サイクロヂニン末」と混合する工程を含む「栄養食品の製
造方法」の発明である甲1発明の問題を解決するべく当初発明がされた
ことが記載されている。また,上記のとおり,当初明細書の「発明の効
果」は,当初発明1の製造工程に「サイクロヂニン末」と混合する工程
が含まれることを前提として,その効果が記載されている。したがっ
て,当初明細書の「発明が解決しようとする課題」及び「発明の効果」
の記載は,当初明細書には,スッポン卵を使用した栄養食品の製造方法
について,「サイクロヂニン末」と混合する工程を含む技術のみが記載
されているという上記認定を根拠づけるものであって,その認定を妨げ
るものではない。
また,原告は,当初明細書には,当初発明2について,「サイクロヂ
ニン末」に言及する記載はないと主張するが,当初発明2は,スッポン卵
を使用した栄養食品の製造方法において,「サイクロヂニン末」と混合す
る工程の前の工程に当たるスッポン卵を粉砕する工程に使用されるスッポ
ン卵粉砕機に関する発明であるから,当初発明2に関する当初明細書の記載
に「サイクロヂニン末」と混合する工程に関する記載が含まれていない
のは当然であり,当初発明2に関する当初明細書の記載に「サイクロヂニ
ン末」と混合する工程に関する記載がないからといって,当初明細書に,
スッポン卵を使用した栄養食品の製造方法について,「サイクロヂニン
末」と混合する工程を含まない技術が記載されていたということができ
ないことは明らかである。
さらに,原告は,当初明細書の全体が示す技術思想は,サイクロヂニ
ン末を混合する前のスッポン卵粉砕技術の改良に関するものであって,
サイクロヂニン末は,改良前の栄養食品の1例にすぎないと主張する
が,上記のとおり,当初明細書には,「サイクロヂニン末」と混合する
工程を含む技術のみが記載されているのであって,「サイクロヂニン
末」を栄養食品の1例として示したにすぎないというべき根拠はない。
(5)甲15,16によれば,特許庁における手続において,原告は,次の
ような書面の提出をしたことが認められ,これらの事実は,前記(3)の認
定を裏付けるものであるということができる。
ア平成8年6月26日付けで原告が特許庁に提出した「早期審査に関
する事情説明書」(甲15)の3頁~5頁には,「A.スッポン卵を
使用した栄養食品の製造方法について」として,当初発明1に関する
説明の項があり,「本願発明の製造方法における特徴的な手段は,…
乾燥した卵の粉末に,サイクロジニン末,サフラワーオイルを配合し
てゲル化することにある。」(4頁18~23行)と記載されてい
る。
イ平成8年10月15日付けで原告が特許庁に提出した上申書(甲1
6)には,「(1)本発明の明細書に記載した語句をより明らかにして,
本発明の内容を明確にすべく上申するものです。(2)本発明の明細書中
に記載された「サイクロヂニン末」とは,次の通りの成分を示すもの
です。[サイクロヂニン]*ニンニクを無臭にした後に得られる成分
をいう(特公平5-49265号公報)。*より詳細には,ニンニク
から分解酵素であるアリイナーゼを抜き出した後に残る成分,サチヴ
ァミン複合体の成分である。…*「サイクロヂニン末」とは,このサ
チヴァミン複合体を粉末状にしたものをいう。(3)以上のとおり上申す
ることで,本発明の内容がより明らかになったものと確信します。」
と記載されている(1頁19行~2頁)。
(6)また,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有
する者)にとって,当初明細書記載のスッポン卵を使用した栄養食品の
製造方法において,「サイクロヂニン末と混合」する工程が必須の工程
ではないことが自明であるというべき事情も認められない。このこと
は,当業者が,当初明細書記載のスッポン卵を使用した栄養食品の製造
方法について,「サイクロヂニン末と混合」する工程がない場合でも一
定の技術的な効果が得られることを認識することができたとしても,変
わるものではない。
(7)しかるところ,本件補正後の本件発明は,「サイクロヂニン末と混
合」する工程を含まない栄養食品の製造方法の発明であるから,本件補
正は,当初明細書に記載した技術的事項の範囲内のものではないという
べきである。したがって,本件補正は,要旨の変更に当たる旨の審決の
判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。
なお,原告は,審判段階に至って,審査段階の判断と異なって,当初
明細書には,「サイクロヂニン末」が必要不可欠な有効成分として記載
されていたとされる合理的な理由はないと主張するが,以上述べたとお
り,審決の判断には誤りはなく,特許庁の審査段階の判断によって,審
決の判断が左右されるべき理由はない。
3(1)本件補正は,以上のとおり当初明細書の要旨を変更するものであるか
ら,平成5年法律第26号による改正前の特許法40条により,その出
願日は,本件補正のされた日(甲14の手続補正書の受付日たる平成9
年3月25日)とみなされる。
(2)原告は,本件発明が,本件補正のされた日より前に公開された甲2公
報(本件特許の公開公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものであるとの審決の判断を争わない(平成1
7年11月30日の第1回弁論準備手続調書)。
(3)したがって,本件特許は,特許法29条2項により特許を受けること
ができないものであるから,取消事由2(本件発明は甲1発明等に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたと判断したことの誤り)に
ついて判断するまでもなく,本件特許を無効とする旨の審決の判断を是
認することができる。
4よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官田中孝一

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