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平成22年5月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第36851号意匠権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成22年2月24日
判決
東京都台東区<以下略>
原告株式会社コージー本舗
同訴訟代理人弁護士高橋早百合
同土井隆
群馬県桐生市<以下略>
被告株式会社ビー・エヌ
同訴訟代理人弁護士高橋勇雄
同後藤充隆
同中村聡子
同訴訟代理人弁理士羽鳥亘
同補佐人弁理士中村希望
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告物品目録記載の模造まつげセットを製造し,販売し,販売
のために展示してはならない。
2被告は,前項記載の物品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,638万4000円及びこれに対する平成20年12
月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,原告が,被告に対し,①被告の製造・販売する商品が原告の有する
後記2(2)の意匠権を侵害する,②被告が上記商品を販売することは不正競争
(「」。),防止法以下不競法という2条1項1号の不正競争に該当するとして
,,,,意匠法37条1項2項又は不競法3条1項2項に基づき上記商品の製造
販売,販売のための展示の差止め及び廃棄を求めるとともに,民法709条,
意匠法39条2項又は不競法4条,5条2項に基づき,損害賠償金638万4
000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年12月27日
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事
案である。
①に基づく請求と②に基づく請求は選択的併合の関係にある。
2前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き,当事者間に争いがない)。
()当事者1
ア原告は,化粧品,化粧用雑貨品等の製造・販売等を目的とする株式会社
である。(弁論の全趣旨)
イ被告は,化粧品・装飾品の製造・販売等を目的とする株式会社である。
(弁論の全趣旨)
()原告の意匠権2
原告は,次の登録意匠(以下「本件登録意匠」といい,その意匠権を「本
件意匠権」という)の意匠権者である(甲1,2)。。
ア登録意匠番号第1262161号
イ出願年月日平成17年8月18日
ウ出願番号2005−023882
エ登録年月日平成17年12月16日
オ意匠に係る物品模造まつげケース
カ意匠に係る物品の説明
「1.材質は合成樹脂材であり,透明なものである。2.ハート形の外形
を成したケースの内部に二つの弧形突条と台形溝を配置して,弧形突条の
丸い外面には模造まつげを付着させて,台形溝には接着剤チューブを収納
保管するものである。本願模造まつげケースはその外形がハート形状を成
して,内部の片側にまつげが付着される二つの弧形突条がずらして配置さ
れて,その片側の突出部には接着チューブを収納する台形溝が形成された
デザインを持っていて,同一のハート形状の上部カバーを被せた模造まつ
げケースとして新しい意匠的美感が感じられるようにしたことを意匠創作
内容の要旨とする」。
キ願書に添付した図面別紙意匠図面のとおり
()原告商品の製造・販売3
原告は,別紙原告商品目録1記載の商品(以下「原告商品1」という)。
を平成17年7月から,別紙原告商品目録2記載の商品(以下「原告商品,
」,「」。)2といい原告商品1及び2を総称して原告商品ということがある
を平成21年1月から製造,販売している。
()被告商品の製造・販売4
被告は,業として,平成20年5月ころから,別紙被告物品目録記載の商
品(以下「被告商品」という)を製造,販売し,販売のために展示してい。
る。なお,被告商品には,その内部ケース及び内部カバーの直線部分に折り
返し部分があるものとないものがあるが,その外観に大きな影響を与えるも
のではないため(乙17の2,特に区別しない限り同様に扱う。)
()各部の名称5
本件登録意匠,原告商品及び被告商品の各部の名称は,別紙名称説明書記
載のとおりである。
3争点
()本件登録意匠と被告商品の意匠との類否(争点1)1
()不競法2条1項1号該当の有無(争点2)2
()被告の故意・過失(争点3)3
()原告が被った損害の額(争点4)4
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(本件登録意匠と被告商品の意匠との類否)
〔原告の主張〕
()本件登録意匠の構成態様1
ア本件登録意匠の基本的構成態様は以下のとおりである。
①材質は合成樹脂材であり,透明なケースと透明な上部カバーから成る。
②ケースも上部カバーも正面から見ると左右対称のハート型をしており,
側面から見ると均一の高さを有する立体形状をしている。
③ケースの内部は,2つの弧状突起と台形溝が配置され,弧状突起には模
造まつげを付着させ,台形溝には接着チューブを収納して使用する。
イ本件登録意匠の具体的構成態様は以下のとおりである。
①ケースの左上部に形成される2個の弧状突起は,正面から見て,中央位
置の上部側とやや左側位置の中央側に形成され,互いに角度を変えて配
置されている。
②ケースの右下部は接着チューブを収納するため,ケース内部の正面右下
におおむね45度の角度において,2個の弧状突起が形成されている面
,。から5ミリメートル隆起しその隆起部に台形型の溝が形成されている
③上部カバーはケースの蓋となるものであり,ケースに丁度嵌合する形状
を有している。
()本件登録意匠と対比すべき被告商品の意匠2
本件登録意匠は,透明なケースに透明な上部カバーを嵌合させた形状であ
り,外部パッケージ,台紙,模造まつげ及び接着チューブは含まれない。
これに対し,被告商品は,外部パッケージが透明であり,かつ,その中心
部分が立体形状を有しているため,需要者は,外部パッケージの立体形状が
その中に収容されている内部ケースに内部カバーを嵌合させた形状と同一で
あると推認することになる。
本件登録意匠には台紙,模造まつげ及び接着チューブは含まれていないこ
とから,本件登録意匠と比較対象すべきは,被告商品のうち,内部ケースと
内部カバーを外部パッケージに嵌合させたもの(被告商品から台紙,模造ま
つげ,接着チューブを除いたもの)である。。
()被告商品の意匠の構成態様3
ア被告商品の意匠の基本的構成態様は以下のとおりである。
①材質は合成樹脂材であり,内部ケース,内部カバー及び外部パッケージ
から構成される。
②内部ケース,内部カバー及び外部パッケージはいずれも透明である。
③内部ケース及び内部カバーは,正面から見てハート型で均一の高さのあ
る立体形状から右下側を斜めに約4分の1程度切り取った形状である。
,,その内部ケースには上方に突出する2個の弧状突起が形成されており
その位置に模造まつげを着装する。
④内部カバーは,内部ケースの蓋となるもので,内部ケースに丁度嵌合す
る形状をしている。
⑤外部パッケージは,左肩に3つの弧線を有する略四角形の基台部と,そ
の基台部とヒンジ状に連結された蓋部とから成る。
イ被告商品の意匠の具体的構成態様は以下のとおりである。
①内部ケースの弧状突起はほぼ平行して形成されている。
②外部パッケージの蓋部の中央には,正面から見て左右対称のハート型を
基本とする立体的な隆起部が形成されている。その隆起部は,内部ケー
ス及び内部カバーが丁度嵌合する形状の左隆起部(ケース収容隆起部)
と,その左隆起部と連絡するものであって左隆起部より一段低い右隆起
部(チューブ収容隆起部)とで構成されている。左隆起部内の空間には
内部カバーを取り付けた状態の内部ケースが収納されている。隆起部に
は,内部ケースの切り取られた右下部分にチューブ型の空間(凸部)が
形成され,その空間には接着チューブが収納される。また,隆起部の下
部の中心位置には内部にへこむくぼみ部分が形成され,中心位置付近に
は相対的に低い突出部と,その突出部から更に低いテーパ状部が小さく
形成されている。
③被告商品が実際に流通過程に置かれて取引の対象となる際には,内部ケ
ースの弧状突起に2個の模造まつげを装着して内部カバーを嵌合し,1
個の接着チューブとともに外部パッケージの内部に収納されたものとな
。,,,るこの形状が流通過程における被告商品の意匠でありかつ取引者
需要者が店舗等で商品を選択購入する際に目にする形状である。
()本件登録意匠の要部4
一般的に流通している「模造まつげセット」商品のうち本件登録意匠に関
する先行周辺意匠(甲10の1∼8)は,いずれもパッケージの全体又は一
部が透明となっており,中身である模造まつげの形状を外部から視認できる
点においてすべて共通している。しかし,本件登録意匠のようにハート型の
立体形状を有するものは皆無であり,接着チューブを収納するものもない。
先行周辺意匠を踏まえると,本件登録意匠におけるハート型の立体形状こ
そが,商品である模造まつげの用途及びそれと連関する観念に照らし,看者
の美感に訴える機能をより一層高め,さらに,その内部に2個の模造まつげ
と1個の接着チューブがバランスよく配置されていることにより看者の注意
を強くひくことになるのである。したがって,本件登録意匠の要部は,ハー
ト型の立体形状をしたケース内部に2個の模造まつげと1個の接着チューブ
がバランスよく配置されていることにあるということができる。
需要者が,特定の商品(模造まつげ)を購入しようとする際,当該商品の
範ちゅうに属する商品及びその容器にのみ着目して商品を選別し,当該商品
の範ちゅうに属しない商品及び容器の形状等については念頭にないのが通常
であり,模造まつげという商品においてハート型の立体形状をした容器を使
用した商品は原告商品以外にはないのであるから,本件登録意匠におけるハ
ート形の立体形状は新規な態様といえ,本件登録意匠の要部に含まれる。
()本件登録意匠と被告商品の意匠との類否5
ア本件登録意匠と被告商品の意匠との共通点は,以下のとおりである。
①両意匠は,ケースにカバーを嵌合させるものである。
,,②両意匠のケースカバー及び被告商品の意匠における外部パッケージは
合成樹脂材で,すべて透明である。
③両意匠のケースは,その内部に2個の弧状突起が形成されている。
④本件登録意匠はハート型の立体形状であるところ,被告商品が流通過程
に置かれ取引の対象とされる際の意匠は,透明な内部ケースと内部カバ
ーが透明な外部パッケージに形成された隆起部の内部に包含され一体化
することにより,その隆起部内に2個の模造まつげと1個の接着チュー
ブを備えたハート型の立体形状を構成している。
イ両意匠は,ケースにカバーを嵌合させるものであること,ケース,カバ
ー及び外部パッケージがすべて透明であること,ハート型の立体形状をし
ていること,その内部の中央から左側には2個の模造まつげを備え,その
右側には1個の接着チューブを備えていることが認識できる点で一致して
いる。
したがって,被告商品の意匠は,要部において本件登録意匠と一致して
おり,本件登録意匠と被告商品の意匠は類似している。
ウ本件登録意匠と被告商品の意匠には以下のような相違があるが,特段顕
著な相違とはいえず類否の判断には全く影響しない。
(ア)本件登録意匠は,ケースと上部カバーから構成され,いずれも正面か
ら見ると左右対称のハート型をしているのに対して,被告商品の内部ケ
ース及び内部カバーは,正面から見てハート型で均一の高さのある立体
形状から右下側を斜めに約4分の1程度切り取った形状をしている点で
相違する。しかし,被告商品の外部パッケージの蓋部の中央にはハート
型を基本とする立体的な隆起部が形成されており,内部ケースと内部カ
バーの形状を明確に判別することはできず,需要者は外部パッケージの
形状しか認識できない。被告商品の外部パッケージの形状は正面から見
てハート型をしているため,内部ケース及び内部カバーがハート型形状
の一部が切り取られた形状であっても,その相違は特段顕著なものでは
ない。
(イ)本件登録意匠はケース内部の右側に溝が形成されているのに対し,被
告商品の内部ケースには溝が存在しないが,被告商品では外部パッケー
ジの形状に着目すべきであり,その形状は正面から見てハート型の立体
形状の印象が強く,取引者,需要者は,その立体形状の中に接着チュー
ブが収納されていると認識することになるから,本件登録意匠と同様の
印象を与えるものであり,両意匠における溝の存否は特段顕著な相違で
はない。
(ウ)本件登録意匠では,ケース内部に形成された2個の弧状突起が互いに
角度を変え,かつ,ずらして配置されているのに対し,被告商品の内部
ケースに形成された2個の弧状突起は平行にずらして配置されている
が,本件登録意匠の要部は,ハート型の立体形状及びその立体形状の中
に模造まつげと接着チューブをバランスよく配置しているところにあ
り,模造まつげを付着させる弧状突起の多少の角度の違いは特段顕著な
相違とはいえない。
(エ)本件登録意匠はほぼ完全なハート型の立体形状であるのに対し,被告
商品の外部パッケージの基台部は左肩に3つの弧線を有する略四角形で
あるが,本件登録意匠の要部及び被告商品の外部パッケージは基台部の
形状よりも隆起部が取引者,需要者の注意をひく部分であることに照ら
すと,当該基台部の形状は特段顕著な相違ではない。
(オ)被告商品の外部パッケージの蓋部に形成されたハート型の隆起部の上
部の中心位置あたりには,相対的に低い突出部とその突出部から更に低
,,いテーパ状部が形成されているのに対し本件登録意匠には存しないが
被告商品の外部パッケージの隆起部の低い部分は,隆起部の高い部分と
比較してその面積は極めて小さく,しかも,その高さが低いことから隆
起部がハート型の立体形状を有することに影響も及ぼすものではない。
(カ)被告商品の外部パッケージの隆起部の下側先端部分には内部にへこむ
くぼみ部が形成されているのに対し,本件登録意匠には存しないが,被
告商品のくぼみ部は,隆起部の下側先端部にあること及び隆起部全体の
面積からみて極めて小さいことに照らすと,隆起部がハート型の立体形
状を有することに影響を及ぼすものではない。
()被告の主張に対する反論6
,,,仮に本件登録意匠と対比する被告商品の意匠を被告が主張するように
被告商品が流通する際の意匠(内部ケースに模造まつげを収容し内部カバー
を被せ,接着チューブ,台紙と共に外部パッケージで包装した状態〔別紙被
告物品目録のB1,B2)と解した場合であっても,以下のとおり,被告〕
商品の意匠は本件登録意匠に類似するというべきである。相異点はいずれも
類似性の判断に影響を与えるものではない。
ア上記()の本件登録意匠の要部からすると,本件登録意匠は,透明なケ4
ースにおいてハート型を浮き立たせることによりハートのイメージを強調
し,かつ,ケース内に模造まつげを正面から見て左側に2個配置し,その
,。右側に接着チューブを1個配置することにより全体の美感を高めている
被告商品も,透明な外部パッケージにおいてハート型の立体形状が形成
され,内部ケースの中に2個の模造まつげを装着し,内部ケースと内部カ
バーを外部パッケージで覆う際に接着チューブ1個を装填しているとこ
ろ,これを正面から見ると,ハート型の立体形状の部分において,その左
側に2個の模造まつげが配置され,その右側に接着チューブ1個が配置さ
れている点において,本件登録意匠と同一である。
イ被告商品の台紙の「」という文字は模造まつげを意味する普通Eyelash
名詞であり,本件登録意匠に係る物品に装着される台紙や他の模造まつげ
の商品にも使用されているため,本件登録意匠と被告商品の意匠との類似
性を判断する対象にはならない。
ウ被告商品の台紙の「」という文字は,文字の大きさ及び色彩かPrettyEye
ら,台紙において占める比率が極めて小さく台紙全体から見て目立つもの
ではないため,当該文字の有無という差異は微差であり,類似性の判断に
影響を及ぼすものではない。
エ被告商品の台紙における両目及びまつげのイラストは,台紙全体からみ
て一応目立つものではあるものの,模造まつげ及び接着チューブを装着す
る外部パッケージの立体形状と比較すれば,その全体の大きさ及び形状か
ら比較対象とする要部とはなり得ず,その差異が類似性の有無の判断に影
響を与えるものとはいえない。
オ被告商品の台紙は,外部パッケージの立体形状に相応する部分が茶色に
着色されており,りんごの色は通常の観念では赤色であるから,被告商品
の外部パッケージの立体形状部分をりんご型と観念することはできず,類
否判断に影響を及ぼすものではない。
カ被告商品の台紙は,外部パッケージの立体形状のうち,正面から見て左
側上の茎と葉に相応する部分が茶色に着色されているが,その部分の台紙
には「気分に合わせてなりたい自分に」との文字が記載されており,葉,
の印象よりもむしろその文字の印象の方が強いため,この差異が類似性の
有無の判断に影響を与えるものとはいえない。
〔被告の主張〕
()本件登録意匠の構成態様1
ア本件登録意匠の基本的構成態様は以下のとおりである。
①まつげ収容隆起部と,接着チューブ収容部とを備えた透明なケースと,
②透明な上部カバーとから成り,
③ケースと上部カバーがそれぞれハート型の外形を有することを特徴とす
る。
イ本件登録意匠の具体的構成態様は以下のとおりである。
①ケースの左肩周縁と,まつげ収容隆起部が弧状に隆起しており,
②まつげ収容隆起部が2つの弧状突起で構成され,それらがアシンメトリ
ー(非対称)に配置されており,
③ケース右下におおむね45度の角度で隆起部が設けられ,その隆起部に
台形状の溝で接着チューブ収容部が配されている。
()本件登録意匠と対比すべき被告商品の意匠2
登録意匠と対比してその類否を検討すべき意匠については,需要者が認識
し得る状態での意匠を比較対象とすべきである。流通時に取引の対象となり
需要者が認識する被告商品の意匠は,被告商品の内部ケースに模造まつげを
収容し内部カバーを被せ,接着チューブと共に台紙と外部パッケージで包装
した状態(別紙被告物品目録のB1,B2)であるから,本件登録意匠と対
比すべき被告商品の意匠は,上記状態の意匠というべきである。
原告が本件登録意匠との比較対象とすべきと主張する被告商品の意匠(内
部ケース及び内部カバーを外部パッケージに嵌合した状態の意匠)は,被告
商品の市場流通時の形態でも,使用時に現れる形態でもなく,需要者が容易
に認識し得る状態の意匠ではないため,これを本件登録意匠と対比するのは
妥当でない。
需要者は被告商品の購入後,外部パッケージをその台紙と共にすぐに捨て
るため,被告商品の使用時に現れる形態は,内部ケース,内部カバー,その
内部に収容された模造まつげ,及び接着チューブのみとなる。仮に,使用時
に現れる被告商品の形態で本件登録意匠との類否を検討したとしても,後記
()のように,被告商品の内部ケースと内部カバーは直線と曲線で囲まれた3
幾何学的で斬新な形状であり,この模造まつげケースの意匠は本件登録意匠
とは非類似の意匠として意匠登録されているから(乙3,これに模造まつ)
げを装着した状態についても本件登録意匠と非類似であることは明白であ
る。
()被告商品の意匠の構成態様3
ア被告商品の意匠の基本的構成態様は以下のとおりである。
①模造まつげを内部に配置した内部ケース,これに嵌合する内部カバー,
接着チューブ,台紙を外部パッケージに収容して成る。
②外部パッケージと,内部ケースと,内部カバーは,透明に構成される。
③外部パッケージは,チューブ収容隆起部とケース収容隆起部とを備えた
蓋部と,その蓋部とヒンジ状に連結された基台部とから成る。
④外部パッケージの蓋部と基台部は左肩に3つの弧線を有する略四角形の
外形から成る。
⑤内部ケースはまつげ収容隆起部を備えている。
⑥台紙にはリンゴのイラストが描かれるとともに,外部パッケージの隆起
部がリンゴ型の外形を有する。
⑦内部ケースと内部カバーは,直線と曲線で囲まれた幾何学的形状をして
いる。
イ被告商品の意匠の具体的構成態様は以下のとおりである。
①外部パッケージの蓋部には下側4分の3にリンゴの外形を模した隆起部
を備えている。
②該隆起部の左側約4分の3には,内部ケース及び内部カバーを収容する
ためのケース収容隆起部を備えている。
③該隆起部の右側約4分の1は,ケース収容隆起部よりもやや低めに隆起
しており,その隆起部にチューブ型に隆起したチューブ収容隆起部を備
えている。
④該隆起部の上部先端には果梗と葉の形状の隆起部が形成されるととも
に,下部先端には萼窪を模した内側にへこむくぼみが形成されている。
⑤内部ケースは,その周縁全体とまつげ収容隆起部が隆起している。
⑥内部ケースのまつげ収容隆起部は2つの弧状突起で構成され,2つの突
起が略平行に配置されている。
⑦台紙は白地を基本とし,右側に黒と赤の帯が描かれ,赤よりも太めに描
かれた黒帯部には白色の飾り模様が描かれるとともに,左上には模造ま
つげを装着したかのごとき女性の目のイラストが描かれている。
()物品の類否4
本件登録意匠に係る物品は「模造まつげケース」であるが,被告商品の意
匠に係る物品は「模造まつげケース」に模造まつげを収容し,接着チュー,
ブとともに台紙と外部パッケージに包装されたものであるため,両者の物品
は異なっている。
物品の類否を検討するに当たり,その物品の用途及び機能が同一又は類似
であるか否かを検討する必要があるが,本件登録意匠に係る物品である「模
造まつげケース」は模造まつげを収容するために用いられるものであるのに
対し,被告商品の意匠に係る物品は「模造まつげケース」とその内部の模造
まつげ,接着チューブ等をセットにしたものであるから,両者は部品と完成
品の関係にあり,物品において非類似である。
()本件登録意匠と被告商品の意匠との対比5
ア本件登録意匠と被告商品の意匠とを比較すると,以下の点が共通する。
①模造まつげケースがカバーとケースから構成される点
②模造まつげケースのケースとカバーが透明である点
③まつげ収容隆起部が弧状の突起で構成される点
④接着チューブを収容するためのスペースが設けられている点
⑤模造まつげケースの左側が丸い曲線で構成される点
イ本件登録意匠と被告商品の意匠には,以下の点で差異がある。
①本件登録意匠は上部カバー,ケースから構成されるのに対し,被告商品
の意匠は外部パッケージ,内部ケース,内部カバー,模造まつげ,接着
チューブ,台紙から構成され,構成部材が異なる。
②本件登録意匠は外形がハート型であるのに対し,被告商品の意匠は台紙
にリンゴの形状が描かれており,それに対応するようにその外部パッケ
ージ部分がリンゴ型に隆起し,隆起部の上部先端が果梗と葉の形状に隆
起しているとともに,隆起部の下部先端に萼窪を模した内側にへこむく
ぼみが形成されることにより,リンゴ型として把握される。さらに,外
部パッケージの外形は3つの弧線を有する略四角形である。また,被告
商品の模造まつげケースは直線と曲線で囲まれた幾何学的形状をしてい
る。
③本件登録意匠は台形の溝によって接着チューブを収容するが,被告商品
の意匠は外部パッケージに設けられたチューブ型の隆起部で接着チュー
ブを保持する。
④本件登録意匠はケース内にまつげ収容隆起部と接着チューブ収容部を有
するが,被告商品の内部ケースはケース内にまつげ収容隆起部しか有し
ない。
⑤本件登録意匠はケース左肩周縁の一部が弧状に隆起しているが,被告商
品の意匠は内部ケースの周縁全体が隆起している。
⑥本件登録意匠はまつげ収容隆起部がアシンメトリー(非対称)に設けら
れ,これがケース左肩周縁の隆起部とバランスよく組み合わされて美感
を生じているが,被告商品の意匠はまつげ収容隆起部が略平行に設けら
れているのみである。
⑦本件登録意匠は均一な高さの立体形状で構成されるが,被告商品の意匠
は外部パッケージの右側4分の1の隆起部が左側隆起部よりも低く隆起
している。
()本件登録意匠と被告商品の意匠との類否6
ア先行意匠について
本件登録意匠の出願前に出願登録された意匠登録第809949号(乙
),2の43頁の意匠には透明のハート型ケースが開示されているとともに
(),(),実公昭49−2685乙8の1実開昭52−13977乙8の2
実用新案登録第3043848号(乙8の3)では,まつげ収容部を弧状
突起で形成することが開示されている。
また,実公昭48−4711(乙4,甲10の1∼3,5∼8で示さ)
れたような現在市場で流通している商品の先行意匠には,まつげ収容隆起
部と接着チューブ収容部を備えた模造まつげケースが開示されている。先
行意匠に係る模造まつげケースの形状は,長方形のみならず,円形や楕円
筒形等,様々な形状で構成される。
,(,)そして現在市場で流通している商品甲10の1∼8乙9の1∼5
の模造まつげケースにおいては,まつげ収容隆起部の弧状突起を縦横に平
行に配置したり,位置を少しずらしつつも平行に配置したり,左右対称あ
るいは鏡面対称となるものが存在している。
イ本件登録意匠の要部
本件登録意匠と被告商品の意匠の共通点のうち,模造まつげケースがカ
バーとケースから構成される点,ケースとカバーが透明である点,まつげ
収容隆起部が弧状の突起で構成される点,接着チューブを収容するための
スペースが設けられている点については,既に先行意匠で開示されている
ものであるから,これらの点が本件登録意匠の要部となることはない。ケ
ースの左側が丸い曲線で構成される点が共通しているとしても,共通する
部分は全体の構成のうちのささいな一部分のみであるから,この部分が要
部となることはない。また,先行意匠で模造まつげケースが丸形,楕円形
等,曲線で構成されるものが開示されているから,曲線を用いることが斬
新というわけでもない。
本件登録意匠は,その外形を一般的に良く知られた形状であるハート型
とし,その内部にまつげ収容隆起部と接着チューブ収容部とを備えるとと
もに,2つの弧状突起をアシンメトリー(非対称)に配置し,それがケー
ス左肩周縁の隆起部とあいまってバランスよく配置されたデザインとした
,。ことが大きな特徴となっておりこれらの点が本件登録意匠の要部である
ウ類否の検討
本件登録意匠と被告商品の意匠を比較検討すると,上記()アの共通点5
はすべて先行意匠で開示されているため類否判断に及ぼす影響は小さい
が,下記の差異点は要部における差異であるため全体に及ぼす影響は大き
く,共通点を凌駕しているため非類似である。
(ア)被告商品の意匠と本件登録意匠は部材の構成点数が異なっており,基
本的構成態様が大きく異なっているため,全体的に観察しても類似する
とはいい難い。そもそも本件登録意匠はケース内にまつげ収容隆起部と
接着チューブ収容部を有するが,被告商品の意匠は内部ケース内にはま
つげ収容隆起部しか有しないため,その構造は全く異なっており,基本
的構成において相違している。
(イ)被告商品の意匠は,外形が3つの弧線を有する略四角形から成ってお
り,本件登録意匠のハート型の外形とは何の類似点もない。また,被告
商品の外部パッケージの隆起部からリンゴ型を想起することはあっても
ハート型を想起することはないため,本件登録意匠の特徴を備えていな
い。被告商品の意匠では外部パッケージの基台部と蓋部の間に台紙が挟
み込まれ,この台紙には蓋部の隆起部に合わせて金色のリンゴの形状の
イラストが記載されており,この台紙とあいまって被告商品の意匠の隆
起部はリンゴ型と認識されるため,ハート型と認識されることはない。
また,被告商品の外部パッケージは,隆起部の上部先端が果梗と葉の
形状に隆起しているとともに,隆起部の下部先端に萼窪を模した内側に
へこんだくぼみが形成されることによりリンゴ型が強調されており,隆
起部からリンゴの形状を認識するとみるのが自然であり,原告が主張す
るようにハート型と認識されることはない。
加えて,被告商品の模造まつげケースの形状は,垂直に切り立った崖
のような直線のラインと,2つの弧線とで形成される丸みを帯びたライ
ンとが組み合わさって,幾何学的で斬新な形状を構成している。この模
造まつげケースの意匠は本件登録意匠とは非類似の意匠として意匠登録
第1341210号(乙1の1,2)として登録を受けている。
本件登録意匠はケースの外形をハート型とすることが大きな特徴とな
っているためこの点での相違は大きいものである。また,本件登録意匠
は外形がありふれたハート型であって,デザイン的な創作が加えられて
いないのに対し,被告商品の意匠は新たな創作が加えられた今までにな
い斬新な形状から成るため,両者を類似とみることはできない。
(ウ)本件登録意匠のように,まつげ収容隆起部とともに,ケース自体に溝
を設けて接着チューブを収容する構造のものは先行意匠(乙4,乙5の
1∼8)にも存在するが,被告商品の意匠は外部パッケージに設けられ
たチューブ型の隆起部で接着チューブを保持するものであり,この構成
は斬新なものである。
(エ)本件登録意匠は,ケースの周縁では左肩だけが弧状に隆起しており,
この隆起部がまつげ収容隆起部とあいまって3つの弧状突起を構成し,
バランスよく配置されることとなる。しかし,被告商品の意匠は,内部
ケースの周縁全体が隆起しているため,まつげ収容隆起部の2つの突起
しか現れず,本件登録意匠のデザインとは異なるものとなる。
,,()特に本件登録意匠はまつげ収容隆起部がアシンメトリー非対称
に設けられていることが,ケース左肩周縁の隆起部とあいまって大きな
意匠的特徴となっている。まつげ収容隆起部が平行あるいは対称の先行
意匠しか存在しておらず現在流通している商品にもアシンメトリー非,(
対称)に配置されているものは存在しない。これに対し,被告商品では
まつげ収容隆起部は略平行に設けられており,従来からなされてきたも
のであるから,被告商品の意匠は本件登録意匠の特徴を有していない。
(オ)本件登録意匠は均一の高さの立体形状で構成され,模造まつげケース
内に接着チューブを収容できる構成であるのに対し,被告商品の意匠は
チューブ収容隆起部が模造まつげケースを収容する隆起部(ケース収容
隆起部)よりも低く構成され,外部から模造まつげケースの形状,ケー
ス内に接着チューブ収容スペースが設けられていないことを視認するこ
とができ,要部において相違する。
2争点2(不競法2条1項1号該当の有無)
〔原告の主張〕
()原告商品の容器・包装等の商品表示性1
ア原告商品の容器・包装等
(ア)原告商品1及び2において,模造まつげケースを構成するケース及び
上部カバーは,模造まつげ及び接着チューブという商品の入れ物である
から,不競法2条1項1号の「商品の容器」に該当する。
(イ)原告商品1及び2において,外部パッケージは,模造まつげ及び接着
チューブを着装させたケース及び上部カバーという商品の容器を包むも
のであるから,不競法2条1項1号の「商品の包装」に該当する。
(ウ)原告商品1及び2において,台紙は,商品である模造まつげ及び接着
チューブの入れ物ではなく,かつ,同商品を包むものでもないため,商
品の容器,包装には該当しない。しかし,台紙は,原告商品の流通過程
においては,外部パッケージに介装されて販売されるものであるから,
原告商品を表示するものといえ,原告商品1及び2の台紙は,不競法2
条1項1号の「その他の商品又は営業を表示するもの」に該当する。
イ原告商品の容器・包装等の特徴,商品表示性
(ア)原告商品の「容器」の特徴
原告商品の容器は,同種の模造まつげの容器の中でも,特にハート型
の立体形状を形成している点,正面から見てケース内に横方向に伸びる
2個の弧状突起が縦方向に間隔を開けて配置されている点において,需
要者である女性の注意をひく他の商品とは異なる顕著な特徴を備えてい
る。
「容器」又は「包装」は,本来,商品の出所を表示するものではない
が,特定の事業者に長期間継続的に使用されたり,短期間でも強力に宣
伝広告されるなどの事情から,特別顕著性を獲得し,特定の事業者の商
品の出所を表示する機能を備えた場合には,商品等表示に該当すること
になる。
原告商品1は,平成17年8月から平成20年9月までのほぼ3年間
に延べ12回にわたり,女性用ファッション雑誌に広告として掲載され
た(甲14の1∼11,甲25)ところ,原告商品1以外の代表的な模
造まつげの商品は,すべて長方形状のパッケージ内に模造まつげが収納
されている。また,原告商品1及び2以外の模造まつげの商品は,その
圧倒的多数が模造まつげを横に並列して装着している。
以上の事実からすると,原告商品の容器は,ハート型の立体形状であ
る点及び容器の正面視でケース内に模造まつげを装着する横方向に伸び
る2個の弧状突起が縦方向に間隔を開けて配置されている点において,
需要者である女性の注意をひく独自の特徴を有しておりまた下記(),,2
のような強力な宣伝広告をした事実及び販売実績からすると,需要者に
おいて,原告商品の容器は,原告の商品の出所を示す表示として機能し
ているというべきであり,商品表示性を有している。
(イ)原告商品の「包装」の特徴
原告商品の「包装」である外部パッケージは,透明で,正面視で蓋部
内面に原告商品の容器と丁度嵌合するハート型の隆起部が中央に形成さ
れている点に,独自の特徴がある。原告商品以外の模造まつげの商品に
おいて,包装にハート型の隆起部が形成されているものは皆無である。
そうすると,原告商品の包装である外部パッケージは,ハート型の隆
起部が形成されている点で,需要者である女性の注意をひく他の商品と
は異なる独自の特徴を有しており,また,下記()のような強力な宣伝2
広告をした事実及び販売実績からすると,需要者において,原告商品の
包装は,原告の商品の出所を示す表示として機能しているというべきで
あり,商品表示性を有している。
(ウ)原告商品の「その他商品又は営業を表示するもの(台紙)の特徴」
原告商品1及び2の台紙は,①その表面に,中央部がハート型に着色
され,その周囲はやや異なる色を呈し,小さなハート図形と十文字様の
図形が点綴状に表示されている点,②中央上部の吊り下げ用開口を挟ん
「」。で左側にの標章が表示されている点に独自の特徴があるSpringheart
上記①については,原告商品の包装である外部パッケージは透明であ
り,かつ,原告商品の容器も透明であるから,原告商品の台紙を透視す
ることができ,原告商品の包装及び容器と台紙があいまって,ハート型
の立体形状,ハート型の隆起部,この立体形状,隆起部に対応する台紙
中央部分が薄い無地のピンクに着色され,その周囲と色を異にしている
点,当該周囲に小さなハート型図形が点綴状に表示されている点の全体
をもって,原告商品の台紙は他の商品とは異なる独自の特徴を有してい
る。
,「」「」,上記②についてはははずむ心を意味するところSpringheart
この「」は,上記原告商品の容器及び包装の特徴であるハート型とheart
その観念において同一であるから,原告商品1及び2の台紙は容器及び
包装の特徴とあいまって独自の特徴を有している。
また,下記()のような強力な宣伝広告をした事実及び販売実績から2
すると,需要者において,原告商品の台紙は,原告の商品の出所を示す
表示として機能しているというべきであるから,商品表示性を有してい
る。
()原告商品の「商品等表示」の周知性2
ア原告商品1は,平成17年7月から販売を開始し,平成21年3月ま
での販売数量及び小売額合計は以下の表のとおりであり,3年6か月間の
販売数量合計は558万9138個,小売販売額合計は21億2387万
2440円(消費税別)に上る。
()()期間販売数量個小売価格(円。小売販売額合計円
消費税別)
H17.7H18.3418,139380158,892,820∼
H18.4H19.3868,656380330,089,280∼
H19.4H20.31,702,380380646,904,400∼
H20.4H21.32,599,963380987,985,940∼
5,589,1382,123,872,440合計
イ原告商品1及び2の販売店舗数は約2万店舗であり,地域的にも全国各
地のデパート,量販店,ドラッグストア,コンビニエンスストアで販売さ
れている。
原告商品1は,平成18年2月ころからは模造まつげの国内売上げ全体
の約4分の1以上のシェアを獲得し,特に,平成20年5月及び6月にお
ける原告の模造まつげの販売シェアは,それぞれ44.55パーセント,
47.37パーセントと,ほぼ5割の圧倒的な販売シェアを誇り,ほぼ独
占状態となっている。
ウ原告は,原告商品1等の宣伝用パンフレットを2年3か月間に合計20
万3500部作成して,全国の店舗を通じて顧客に配布した。
原告は,平成17年8月から平成20年9月までのほぼ3年間に延べ1
2回にわたり,女性用ファッション雑誌において広告をし(甲14の1∼
11,甲25,その発行部数は累計で少なくとも577万5000部に)
及ぶ。原告は,当該広告費用として,合計2900万円を支出した。
さらに,原告は,原告商品1及び2を含む商品の販売を促進するため,
平成21年3月7日及び8日の2日間,東京でステージショー及び商品宣
伝用ブース開設等のイベントを実施し,その協賛費用として,イベント業
者に合計で4500万円を支出した。
エ以上の事実によれば,原告は,相当程度,原告商品1の宣伝広告をし,
原告商品1を極めて多数販売したことにより,原告商品1の容器は,ハー
ト型の立体形状及びケース内に横方向に伸びる2個の弧状突起が縦方向に
間隔を開けて配置されているという特徴をもって,また,原告商品1の包
装は,ハート型の隆起部における形状の特徴をもって,さらに,原告商品
1の「その他の商品又は営業を表示するもの」である台紙は,それぞれ原
告商品1以外の商品と区別して識別する機能を有するに至り「商品等表,
示」としての周知性を有するものというべきである。
また,原告商品2の容器,包装及び「その他の商品又は営業を表示する
もの」である台紙の特徴は,原告商品1と同じものであるところ,原告商
品1の容器,包装及び台紙が「商品等表示」として周知性を有する以上,
原告商品2についても「商品等表示」として周知性を有するものといえ,
る。
()原告商品と被告商品の商品表示の類似性3
ア原告商品の「容器」と被告商品の「容器」の類否について
(ア)被告商品のうち,内部ケースと内部カバーは,商品である模造まつげ
の入れ物であるので「容器」に該当する。また,外部パッケージは,こ
の容器を包むものであるので「包装」に該当するとともに,商品である
接着チューブの入れ物として「容器」にも該当する。したがって,被告
「」,,。商品の容器は内部ケース内部カバー及び外部パッケージとなる
(イ)原告商品1及び2の「容器」の特徴は,ハート型の立体形状を形成し
ている点,正面から見てケース内に横方向に伸びる2個の弧状突起が縦
方向に間隔を開けて配置されている点にある。
他方,被告商品も,外部パッケージの中央にハート型の立体形状が形
成されており,外部パッケージの中央に形成された隆起部に内部ケース
及び内部カバーを嵌合させると,中央に形成された隆起部の内部に包含
されることにより一体化し,ハート型の立体形状を呈する。また,内部
ケース,内部カバー及び外部パッケージが透明であるので,当該隆起部
内に横方向に伸びる2個の弧状突起が縦方向に間隔を開けて配置されて
いることが透視できる。
そうすると,原告商品の「容器」と被告商品の「容器」は,その独自
の特徴であるハート型の立体形状を有している点,隆起部内に横方向に
伸びる2個の弧状突起が縦方向に間隔を開けて配置されるという外観が
類似しているといえる。
また,ハートという概念は,需要者にとって「可愛らしさ「優し,」,
さ」の観念を与えるものであるところ,ハート型の立体形状である点で
原告商品の「容器」と被告商品の「容器」は同一であるから,観念にお
いて同一である。
,「」「」,,したがって原告商品の容器と被告商品の容器はその外観
観念に基づく印象,記憶,連想から全体的に類似する。
イ原告商品の「包装」と被告商品の「包装」の類否について
原告商品における包装である外部パッケージの特徴は上記()イ(イ)「」,1
のとおり,透明でその中央部の隆起部がハート型をしていることにある。
他方,被告商品の「包装」でもある外部パッケージは,透明でその中央
部の隆起部がハート型と認識できる。
したがって,原告商品の「包装」と被告商品の「包装」は,その外観に
基づく印象,記憶,連想から全体的に類似するものといえる。
ウ原告商品の台紙と被告商品の台紙の類否について
(ア)原告商品1の台紙と被告商品の台紙の類否
a原告商品1の台紙は,紙製で外部パッケージの略円形の基台部上に
介装され,その表面は,中央部がハート型の薄い無地のピンクに着色
され,その周囲はやや濃い目のピンクを呈し,小さなハート図形と十
文字様の図形が点綴状に表示され,中央上部の吊り下げ用開口を挟ん
で左側に「」の文字が,右側に「美まつげ革命」の文字がSpringheart
表示されている。
そして,原告商品1の台紙の独自の特徴は,その表面は,中央部が
ハート型に着色され,その周囲はハート型とはやや異なる色を呈し,
その周囲に小さなハート図形と十文字様の図形が点綴状に表示されて
いる点,中央上部の吊り下げ用開口を挟んで左側に「」のSpringheart
,。標章が表示されている点にあることは上記()イ(ウ)のとおりである1
b他方,被告商品の台紙は,紙製で,外部パッケージの基台部上に介
装され,その表面は,略中央部がやや左に傾いたハート型の図が表示
され,薄茶色に着色されている。そして,このハート型の底部頂点に
くぼみ部分が表示され,ハート型形状の上部には斜め右に傾斜する小
枝状の茶色の着色と,斜め左側に傾斜する半楕円形状の茶色の着色が
なされている。また,中央上部の吊り下げ用開口を挟んで左側に「印
象に残る瞳マジック」の文字と2つの瞳のイラスト図が,右側に
「「」の文字が表示されている。PrettyEyeEyelash」,
c原告商品1の台紙と被告商品の台紙は,共に紙製で,外部パッケー
ジの基台部上に介装されるものである点,その表面の中央部にハート
型の図が表示・着色され,ハート型の部分に着色された色とその周囲
の色とが異なる点という外観において同一である。
また,原告商品1の台紙に表示された「美まつげ革命」の文字は,
この模造まつげを着装すると劇的に美しくなる,目が非常に美しく見
Prettyえるという意味であり,他方,被告商品の台紙に表示された「
」は可愛い目を「」は付けまつげをそれぞれ意味するもEyeEyelash,
のであって目に魅力を与えるという観念が類似しておりまたま,,,「
つげ」という文字が共通であり称呼が類似する。
したがって,原告商品1の台紙と被告商品の台紙は,その外観,称
呼及び観念に基づき,全体的に観察すると類似している。
(イ)原告商品2の台紙と被告商品の台紙の類否
原告商品1及び2の台紙は,原告商品1の台紙は中央上部吊り下げ用
開口の右側に「美まつげ革命」の文字が表示されているのに対し,原告
商品2の台紙では「速効デカ目」の文字が表示されている点,原告商品
1の台紙は表面の中央部がハート型の薄い無地のピンクに着色され,そ
の周囲はやや濃い目のピンクを呈しているのに対し,原告商品2の台紙
では,表面中央部のハート型の周囲の左側約3分の2がやや濃い目のピ
,。ンクを呈し右側約3分の1が黒色を呈している点において差異がある
しかし,原告商品1及び2の台紙の特徴は,表面中央部がハート型に
着色され,その周囲はハート型とはやや異なる色を呈し,その周囲に小
さなハート図形と十文字様の図形が点綴状に表示されている点,中央上
部の吊り下げ用開口を挟んで左側に「」の文字が表示されてSpringheart
いる点にあり,この点においては原告商品1の台紙と原告商品2の台紙
とは一致しており,上記差異点は被告商品の台紙との類否を判断するに
当たり考慮すべきものではない。
,,したがって原告商品1の台紙と被告商品の台紙が類似している以上
原告商品2の台紙と被告商品の台紙も類似しているというべきである。
エ原告商品1及び2における模造まつげ,接着チューブの配置と被告商品
のそれとの類否について
原告商品1及び2における模造まつげは,正面視で左下部に横方向に間
隔を開けて2個配置され,また,接着チューブは正面視で右下部分におお
むね45度の角度において配置されている。他方,被告商品の外部パッケ
ージの隆起部はやや左側に傾いているものの,模造まつげは正面視で横方
向に間隔を開けて2個配置され,また,接着チューブは外部パッケージの
隆起部右下部分に配置され,模造まつげとの位置関係からはおおむね45
度の角度において配置されている。
したがって,原告商品1及び2と被告商品においては,模造まつげと接
着チューブの配置がほぼ同一である。
オ原告商品と被告商品の商品表示の類似性
以上のとおり,原告商品1及び2と被告商品は,商品の「容器」につい
てはその外観及び観念が「包装」についてはその外観が「台紙」につ,,
いてはその外観,称呼及び観念がそれぞれ類似するものであり,さらに,
模造まつげと接着チューブの配置もほぼ同一であるから,これを全体的に
観察すれば,原告商品と被告商品の商品表示は類似する。
原告は,被告の不正競争行為により,営業上の利益を侵害され,又は侵
害されるおそれがある。
〔被告の主張〕
()原告商品の商品等表示性1
ア原告商品の容器の特徴
原告商品の容器(ケース及び上部カバー)においては,まつげ収容隆起
部と接着チューブ収容部が大きな面積を占める。したがって,原告商品の
容器の特徴は,①透明なハート型形状である点,②ケース内部にまつげ収
容隆起部と接着チューブ収容部とを備える点,③まつげ収容隆起部がアシ
ンメトリー(非対称)に配置される2個の弧状突起で構成される点,④ケ
ース左肩周縁が隆起している点にある。
イ原告商品の包装の特徴
原告商品の包装(外部パッケージ及び台紙)においては,①外部パッケ
ージが透明な蓋部とヒンジ状に連結された基台部とから成る点,②全体形
状が丸形で,前記蓋部にハート型を基調としつつもスタンドディスプレイ
が可能なように支持脚が設けられた隆起部を有する点,③台紙の中央部の
吊り下げ用開口を挟んで左側に「」の文字が付される点,④吊Springheart
り下げ用開口を挟んで右側に,原告商品1には「美まつげ革命!!」の文
,「」,字が原告商品2には速効デカ目の文字がそれぞれ記載されている点
⑤台紙の色調は原告商品1及び2共にピンクを基調としており,原告商品
2では外縁の一部に黒色の帯が記載されている点,⑥台紙の中央部がハー
ト型に着色され,その周囲はやや異なる色を示し,小さなハート図形と十
文字様の図形が点綴状に表示されており,原告商品2では中央部ハート型
の着色部分の周縁が銀色で縁取られている点に特徴がある。
なお「包装」の「装」には「表面や外面を飾ること」の概念が含まれ,
るから,台紙は「包装」に含まれるといえる。
ウ原告商品の商品等表示及びその周知性について
(ア)原告は,原告商品の販売数量から原告商品の容器・包装等に周知性が
認められると主張するが,原告商品の広告宣伝は少なく,商品の品質,
表示等において斬新さがあるわけでもないので,原告商品がこの種の商
品において殊に周知性を獲得している商品であるとはいい難い。
また,容器や包装のみが「商品等表示」に該当するためには,その容
器や包装が長年にわたって特定の商品の容器や包装として使用され,あ
るいは強力な宣伝広告によって需要者に広く知られることによって,そ
の容器や包装のみをもって出所表示機能を発揮している必要があるが,
原告商品の容器や包装の使用が開始されたのは平成17年7月であり,
長年にわたって使用されてきたとはいい難く,また,周知性を獲得した
といえるほどの強力な宣伝広告を行ったともいえないから,原告商品の
容器や包装(外部パッケージ)のみでは原告の商品であることを需要者
が認識するほどの識別力はなく,商品表示とはいえない。
もっとも,原告商品の包装(台紙部分)は文字や図形等が記載されて
おり,商品表示となり得る部分を備えている。すなわち,原告商品の包
装のうちの台紙部分には「「」と記載され,原告商,」,SpringheartKOJI
品1には「美まつげ革命!!」の文字が,原告商品2には台紙外縁の一
部に黒い帯模様に白抜きで「速効デカ目」の文字が記載されていること
により,原告から出所した商品であることを需要者が認識することがで
き,この部分が識別力を発揮し,商品表示の主たる部分に該当し得るも
のである。
原告商品の包装(台紙部分)の周知性に関しては,上述のとおり,原
告商品の広告宣伝は少なく,商品の品質,表示等において斬新さがある
わけでもないので,原告商品の包装が周知性を獲得しているともいえな
い。
(イ)原告は原告商品1の売上げが模造まつげの国内売上げ全体の約4分の
1以上のシェアである旨主張するが,根拠とする甲12の1,2,甲1
5,16はと呼ばれるシステムを採用する小売店(合計6Mscapepos
00店舗)のシェアを表すものであり,日本全国の売上げに占める原告
商品の割合を示すものではない。
また,原告商品1と原告商品2は台紙の記載に相違があり商品表示が
異なっているため,原告商品1の販売数量をもって,原告商品2の商品
表示の周知性を立証することはできない。
()被告商品の商品等表示2
ア被告商品の容器の特徴
被告商品の容器は内部ケースと内部カバーである。外部パッケージは台
紙とともに購入後保管されないため容器ではない。
被告商品の容器の特徴は,①透明で直線と曲線で囲まれた幾何学的形状
をしている点,②まつげ収容隆起部を備えている点,③まつげ収容隆起部
が略平行に配置される点,④内部ケースの周縁全体が隆起している点にあ
る。
イ被告商品の包装の特徴
被告商品の包装(外部パッケージ及び台紙)の特徴は,①外部パッケー
ジが,チューブ収容隆起部とケース収容隆起部とを備えた蓋部と,その蓋
部とヒンジ状に連結された基台部から成る点,②外部パッケージの蓋部と
基台部は左肩に3つの弧線を有する略四角形の外形から成る点,③台紙に
はリンゴのイラストを有し,外部パッケージはリンゴ型の隆起部を有する
点,④台紙には,白を基調とした右側に黒と赤の帯が描かれ,赤よりも太
めに描かれた黒帯部には白色の飾り模様が描かれるとともに,目のイラス
トと「「「肌にやさしい専用接着剤付「印象に残PrettyEyeEyelash」,」,」,
る瞳マジック「気分に合わせてなりたい自分に…」の文字が記載され」,
ている点にある。
ウ被告商品の商品等表示
需要者が被告商品の商品等表示の主たる部分として認識するのは,識別
力を有する部分である,白を基調とした台紙に描かれた黒と赤の帯,当該
,「」黒帯部上に描かれた白色の飾り模様更には目のイラストやPrettyEye
の文字である。
()原告商品の容器と被告商品の容器の類否3
ア原告商品の容器と被告商品の容器は,①透明のカバーとケースから構成
される点,②まつげ収容隆起部が弧状の突起で構成される点,③左側が丸
い曲線で構成される点において一致する。
イしかしながら,①原告商品の容器はハート型であるのに対し,被告商品
の容器は直線と曲線で囲まれた幾何学形状をしている点,②原告商品の容
器は接着チューブ収容部を備えるが,被告商品の容器は備えていない点,
③原告商品の容器はケース左側の一部が弧状に隆起しているが,被告商品
の容器は内部ケースの周縁全体が隆起している点,④原告商品の容器は,
弧状突起がアシンメトリー(非対称)に配置されるが,被告商品の容器の
弧状突起は略平行に配置される点において相違がある。
ウ容器同士を比較するとその形状における相違が大きく,また,被告商品
の容器には接着チューブ収容部がないため,両者が混同を生じさせること
はない。さらに,原告商品の容器は弧状突起と左肩周縁の突起が独特の美
感を生じさせるが,被告商品の容器の弧状突起は略平行に配置されている
とともに,内部ケースの周縁全体が隆起しているため,原告商品の容器と
は異なる美感を生じさせる。
これらの相違は需要者の目に留まりやすく,一見して別の商品であるこ
とが明白であり,両者が類似しているとはいえない。
()原告商品の包装と被告商品の包装の類否4
ア原告商品の包装と被告商品の包装は,①透明な外部パッケージと台紙と
から構成される点,②外部パッケージの蓋部と基台部がヒンジ結合されて
いる点において共通する。
イしかしながら,原告商品の包装と被告商品の包装は,①原告商品の台紙
はピンクを基調としているが,被告商品の台紙は白を基調としている点,
②原告商品の包装はハート型を想起するようにかたどられているが,被告
商品の包装はリンゴ型を想起するようにかたどられている点,③原告商品
の包装はハングディスプレイのみならずスタンドディスプレイも可能であ
るが,被告商品の包装はハングディスプレイのみが可能である点,④原告
商品の台紙には「「美まつげ革命!!「速効デカ目」などSpringheart」,」,
,「」,「」,の文字が記載されているが被告商品の台紙にはPrettyEyeEyelash
「肌にやさしい専用接着剤付「印象に残る瞳マジック「気分に合わ」,」,
せてなりたい自分に…」の文字が記載され,目のイラスト,赤と黒の帯と
白の飾り模様が描かれている点において相違がある。
ウ原告商品の包装と被告商品の包装は全く異なる外形であり,その隆起部
においてかたどっているものも異なっている。台紙に記載された文字も全
く異なっており,その外形,色調,イラストも全く異なっている。また,
ディスプレイの仕方も異なっており,両者は,外観において顕著な相違を
持つため,両者を混同することはなく,類似しない。
原告商品及び被告商品の商品等表示の主たる部分はその台紙にあるもの
と考えられるが,その商品等表示において外形,色調,文字が異なってお
,,,り共通する部分はないから一見して別個の商品であることが把握でき
両者は非類似というほかない。
()原告商品の容器と被告商品の容器,原告商品の包装と被告商品の包装をそ5
れぞれ比較すると非類似であり,また,両者の商品等表示の主たる部分であ
る台紙においても全く共通する部分がないから,被告商品は原告商品とは全
く異なる商品と認識される。原告商品の商品等表示が周知性を獲得している
ことも認められない。
3争点3(被告の故意・過失)
〔原告の主張〕
被告は,遅くとも平成20年5月1日から被告商品を販売している。被告商
品は,本件登録意匠及び原告商品を当初から意識して製造,販売されたことが
明らかであるから,原告が多大な資金と労力を投下した結果,周知となった原
告商品が有する顧客吸引力に,本来行うべき営業上の努力を払うことなくただ
。,乗りして利益を得ようとする被告の意図が強く推認できるものである被告は
実際の市場における模造まつげの取引形態等にかんがみると他の選択肢がある
にもかかわらず,あえて「ハート」型の立体形状をイメージさせる形態を採用
しており,意図的に本件意匠権を侵害し,又は原告の周知な商品等表示と誤認
混同させようとするものである。したがって,被告は故意に原告の本件意匠権
を侵害し,又は原告の周知な商品等表示と類似の被告商品を製造,販売し,原
告に損害を被らせた。
仮に,被告が故意に本件意匠権を侵害したと認められないとしても,被告は
原告の本件意匠権を侵害しているので過失がある(意匠法40条。)
〔被告の主張〕
否認ないし争う。
4争点4(原告が被った損害の額)
〔原告の主張〕
被告商品1個の販売価格は380円(消費税抜き)であり,被告は1か月に
少なくとも被告商品を2万4000個販売していると推定されるため,平成2
0年5月1日から同年11月30日までの7か月間の売上個数は16万800
0個,売上高は6384万円を下らない。
被告の利益率は10パーセントであると推定されるので,上記7か月間の被
告商品に係る被告の利益額は金638万4000円を下らない。
したがって,原告は,被告に対し,意匠法39条2項又は不競法5条2項に
基づき,損害賠償金638万4000円の支払を求める。
〔被告の主張〕
否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(本件登録意匠と被告商品の意匠との類否)について
意匠の類否の判断をするに当たっては,意匠を全体として観察することを要
するが,その際,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,流通過程,公知意
匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,当該意匠に係る物品の看者とな
る需要者において,視覚を通じて最も注意をひかれる部分である要部を対象と
なる意匠から抽出して登録意匠と対象意匠とを対比し,要部における共通点及
び差異点を中心に検討した上で,全体として,美感を共通にするか否かを基本
として意匠の類否を判断すべきである。
上記観点に立って,以下,順に検討する。
()本件登録意匠の構成1
本件登録意匠の構成は,次のとおりである(甲1)。
ア基本的構成態様
①透明なケースと透明な上部カバーから成る透明な容器であり,上部カバ
ーはケースに丁度嵌合する。
②ケース及び上部カバーは平面視で左右対称のハート型の形状を有してお
り,上部カバーを被せた状態では側面から見ると均一の高さを有する立
体形状を成す。
③ケースの上面には,平面視ハート型の右上円弧状部から下部先端部の左
方に至る段差が設けられており,右側は隆起平坦面を形成し,左側は一
段低い平坦面を形成している。
④ケース上面の左側の一段低い平坦面には,模造まつげを付着させるため
の凹弧状の2つの弧状突起(まつげ収容隆起部)が,右側の隆起平坦面
には,接着チューブを収容するための凹陥溝(接着チューブ収容部)が
形成されている。
イ具体的構成態様
①ケース上面の左側の一段低い平坦面は,右側隆起平坦面との段差線の上
下両端部が丸く形成されており,左側平坦面の平面視ハート型の左上円
弧状部の端縁部が凸弧状に隆起して突壁を形成している。
②ケース上面の左側平坦面に形成される2つの弧状突起(まつげ収容隆起
部)は,1つは中央上部に左下降する斜状に,1つは左側平坦面の中央
部に右下降する斜状に,互いに角度を変えた形状で配置されている。
③ケース上面の右側隆起平坦面に形成される接着チューブ収納部は,略倒
立細長台形型の凹陥溝であり,隆起平坦面の右下部に配置されている。
()公知意匠2
ア証拠によれば,本件登録意匠の出願日時点において公知であった包装用
容器の意匠として,意匠登録第809949号の意匠(乙2の43頁)が
ある。この意匠は,透明な蓋と透明な本体から成る透明な包装用容器であ
り,蓋は本体に丁度嵌合し,蓋及び本体は平面視で左右対称のハート型の
形状を有しており,側面から見ると端部を除き均一な高さを有する立体形
状を成している(本件登録意匠に係る物品である模造まつげケースも包装
用容器である。。)
イまた,本件登録意匠の出願日時点において公知であった模造まつげケー
スとして,①実公昭49−2685(乙8の1,②実用新案登録第30)
43848号(乙8の3,③実公昭48−4711(乙4)があり,①)
及び②には,模造まつげケース内に模造まつげを付着させるための凹弧状
の複数の弧状突起が形成された意匠が,③には,模造まつげケース内に模
造まつげ及び接着チューブを収容する部分が形成された意匠が,それぞれ
記載されている。
()本件登録意匠の要部3
本件登録意匠は,その意匠に係る物件が模造まつげケースであり,模造ま
つげ及び接着チューブを収容して商品として店舗等において展示,販売する
際には,需要者は,収容された商品である模造まつげをケースの正面から観
察するのが通常であることからすると,平面視でケース正面から観察される
外観が看者である需要者の注意を最も強くひくものといえ,本件登録意匠の
要部を構成すると認められる。
そうすると,上記()の本件登録意匠の出願日時点における公知意匠にか2
んがみると,上記()において認定した本件登録意匠の構成態様のうち,以1
下の構成態様が需要者の注意をひき付ける特徴的な構成態様であり,本件登
録意匠の要部であると認められる。
①ケース上面の,平面視でハート型の右上円弧状部から下部先端部の左方
に至る段差の左側の一段低い平坦面に形成される2つの凹弧状の弧状突
起(まつげ収容隆起部)が,1つは左下降する斜状に,1つは右下降す
る斜状に,互いに角度を変えた形状で配置されていること。
②ケース上面の右側隆起平坦面に接着チューブを収納する略倒立細長台形
型の凹陥溝が形成されていること。
()本件登録意匠と対比すべき被告商品の意匠4
登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を
通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法24条2項。そ)
して,本件登録意匠は,意匠に係る物品を「模造まつげケース」とするもの
であり,ここに「ケース」とは「箱。入れ物。…(広辞苑第6版)を意味」
するものと認められる。他方,被告商品は,内部ケースに模造まつげを収容
し内部カバーを被せ,接着チューブと共に台紙と外部パッケージで包装した
状態(別紙被告物品目録のB1,B2)で市場に流通しており,需要者は被
告商品を上記状態においても認識するものであるから,本件登録意匠との類
否判断においては,()ケースとしての被告商品の意匠のほか,()市場にAB
おいて流通している状態における被告商品の意匠をも対象として検討するの
が相当である。
しかしながら,原告が本件登録意匠と対比すべきと主張する被告商品の意
(),匠内部ケース及び内部カバーを外部パッケージに嵌合した状態の意匠は
被告商品が市場において流通する際にも,収容された模造まつげを使用,保
管,携帯する際にも認識することができないものであって,需要者において
通常認識することがない意匠であるため,これを本件登録意匠と対比して類
否を判断すべきとする原告の主張は,採用することができない。
ア上記()の状態における被告商品の意匠A
(ア)被告商品を購入した需要者は,外部パッケージから内部ケースと内部
カバーを取り出し,これを模造まつげケースとして使用するものと認め
,,るのが相当であるからケースとして使用する状態の被告商品の意匠は
内部ケースに模造まつげを収容して内部カバーを被せた状態(別紙被告
,)(「」。),物品目録のB5B6の意匠以下被告意匠①というであり
これを本件登録意匠と対比する。
(イ)被告意匠①の構成
証拠(甲31の1∼11,乙6の2,17の1,2,検証の結果)に
よれば,被告意匠①の構成は,次のとおりであると認められる。
a基本的構成態様
①模造まつげを付着させた内部ケース,内部カバーから構成される。
②内部ケース,内部カバーはいずれも透明である。
③内部ケースの上面には,模造まつげを付着させるための凹弧状の2
つの弧状突起(まつげ収容隆起部)が配置されている。
④内部ケースと内部カバーは,平面視で,ハート型から,ハート型の
右上円弧状部から下部先端部の左方に至る直線の右側部分を切り落
とした形状を有しており,側面から見ると均一の高さを有する立体
形状を成す。
b具体的構成態様
①内部ケースの上面は,その端縁部全体が隆起している。
()②内部ケースの上面に形成される2つの弧状突起まつげ収容隆起部
は,1つはケース中央上部に左下降する斜状に,1つはケース中央
部に左下降する斜状に,略平行に配置されている。
イ上記()の状態における被告商品の意匠B
(ア)被告商品は,内部ケースに模造まつげを収容して内部カバーを被せ,
接着チューブとともに台紙と外部パッケージで包装した状態(別紙被告
物品目録のB1,B2)で販売されており,需要者は,この状態の意匠
を被告商品の意匠と認識するものである。
したがって,市場において流通している状態における被告商品の意匠
は,内部ケースに模造まつげを収容して内部カバーを被せ,接着チュー
ブと共に台紙と外部パッケージで包装した状態(別紙被告物品目録のB
1,B2)の被告商品の意匠(以下「被告意匠②」という)であり,。
これを本件登録意匠と対比する。
(イ)被告意匠②の構成
証拠(甲31の1∼11,乙6の2,17の1,2,検証の結果)に
よれば,被告意匠②の構成は,次のとおりであると認められる。
a基本的構成態様
①模造まつげを付着させた内部ケース,内部カバー,接着チューブ,
台紙,外部パッケージから構成され,模造まつげを付着させた内部
ケース,内部ケースに嵌合した内部カバー,接着チューブ,台紙が
外部パッケージに収容されている。
②外部パッケージ,内部ケース,内部カバーはいずれも透明である。
③外部パッケージは,隆起部を備えた蓋部と,その蓋部とヒンジ状に
連結された基台部とから成る。
④外部パッケージの蓋部には,平面視で下部先端部にくぼみが形成さ
れた略ハート型が左側に略45度傾斜した形状の隆起部が形成され
ており,略ハート型の右上円弧状部から下部先端部のくぼみ左方に
至る段差が設けられており,左側は隆起平坦面を形成し,右側は一
段低い平坦面を形成している。
⑤外部パッケージの蓋部に形成された隆起部の左側の隆起平坦面は,
内部ケース及び内部カバーを収容するケース収容隆起部を形成し,
右側の一段低い平坦面には,接着チューブを収容するための隆起部
(チューブ収容隆起部)が形成されている。
⑥外部パッケージの蓋部と基台部は左上部に3つの弧線を有する略四
角形の外形から成り,台紙も外部パッケージの外形と同様の形状で
ある。
⑦内部ケースの上面には,模造まつげを付着させるための凹弧状の2
つの弧状突起(まつげ収容隆起部)が配置されている。
⑧内部ケースと内部カバーは,平面視で,ハート型から,ハート型の
右上円弧状部から下部先端部の左方に至る直線の右側部分を切り落
とした形状を有しており,側面から見ると均一の高さを有する立体
形状を成す。
b具体的構成態様
①外部パッケージの蓋部に形成された隆起部の右側の一段低い平坦面
に形成されるチューブ収容隆起部は,接着チューブの形状に隆起し
ており,その内部に接着チューブを収納している。
②外部パッケージに形成された下部先端部にくぼみが形成された略ハ
,,ート型の隆起部の上部先端には果梗と葉のような形状の隆起部が
左側の隆起平坦面より一段低く形成されている。
③内部ケースの上面は,その端縁部全体が隆起している。
()④内部ケースの上面に形成される2つの弧状突起まつげ収容隆起部
は,1つはケース中央上部に左下降する斜状に,1つはケース中央
部に左下降する斜状に,略平行に配置されている。
⑤台紙は白地を基調とし,外部パッケージの隆起部の形状に対応する
部分は外部パッケージとほぼ同じ形状で金色に着色され,平面視で
右側に黒と赤の帯が描かれ,赤帯よりも太めに描かれた黒帯部には
白色の飾り模様が描かれるとともに,左上には模造まつげを装着し
たかのごとき女性の目のイラストが描かれている。
()本件登録意匠と被告意匠①の類否5
本件登録意匠と被告意匠①は,透明なケースとカバーとから構成され,ケ
ース上面に模造まつげを付着させるための凹弧状の2つの弧状突起(まつげ
収容隆起部)が形成されている点において共通するものの,基本的構成態様
において,()本件登録意匠のケース及び上部カバーは左右対称のハート型a
の形状としているのに対し,被告意匠①の内部ケース及び内部カバーは,ハ
ート型から,ハート型の右上円弧状部から下部先端部の左方に至る直線の右
側部分を切り落とした形状をしている点,()本件登録意匠のケース上面にb
は段差が設けられているのに対し,被告意匠①の内部ケースには設けられて
いない点,()本件登録意匠のケースには接着チューブ収容部が形成されてc
いるのに対し,被告意匠①の内部ケースには形成されていない点が異なって
おり,基本的構成態様の相違が顕著であるため,全体として看者に対し異な
る美感を与えることは明らかであるから,被告意匠①は本件登録意匠に類似
しない。
()本件登録意匠と被告意匠②の類否6
ア本件登録意匠と被告意匠②との共通点
本件登録意匠と被告意匠②を対比した本件登録意匠の要部を含む全体の
共通点は,次のとおりである。
(ア)基本的構成態様
①透明なケースと透明なカバーからなる透明な容器であり,カバーとケ
ースは丁度嵌合し,側面から見ると均一の高さを有する立体形状を有
する点
②ケース上面の平坦面に,模造まつげを付着させるための凹弧状の2つ
の弧状突起(まつげ収容隆起部)が形成されている点
③接着チューブの収容部が平面視で容器又は包装の右下部分に形成され
ている点
(イ)具体的構成態様
共通点は認められない。
イ本件登録意匠と被告意匠②との差異点
他方,本件登録意匠と被告意匠②を対比した本件登録意匠の要部を含む
全体の差異点は,次のとおりである。
(ア)基本的構成態様
①構成部材につき,本件登録意匠は,ケースと上部カバーの2点から成
るのに対し,被告意匠②は,内部ケースと内部カバーによる容器と,
模造まつげ,接着チューブ,隆起部を備えた蓋部と基台部がヒンジ状
に連結された外部パッケージの6点から成る点
②各構成部材及び容器全体の形状について,本件登録意匠は,ケース及
び上部カバーが平面視で左右対称のハート型の形状を有しており,ケ
ース上面には,平面視ハート型の右上円弧状部から下部先端部の左方
に至る段差が設けられており,右側は隆起平坦面を形成し接着チュー
ブを収容するための凹陥溝(接着チューブ収容部)が形成され,左側
は一段低い平坦面を形成しているのに対し,被告意匠②は,内部ケー
スと内部カバーが,平面視で,ハート型から,ハート型の右上円弧状
部から下部先端部の左方に至る直線の右側部分を切り落とした形状を
有しており,外部パッケージ及び台紙は,平面視左上部に3つの弧線
を有する略四角形の形状であり,外部パッケージの蓋部には,平面視
で下部先端部にくぼみが形成された略ハート型が左側に略45度傾斜
した形状の隆起部が形成され,略ハート型の右上円弧状部から下部先
端部のくぼみ左方に至る段差が設けられており,左側の隆起平坦面に
は内部ケース及び内部カバーを収容するケース収容隆起部が形成さ
れ,右側の一段低い平坦面には接着チューブを収容するチューブ収容
隆起部が形成されている点
(イ)具体的構成態様
①2つのまつげ収容隆起部について,本件登録意匠では,1つはケース
上面の中央上部に左下降する斜状に,1つはケース上面の左側平坦面
の中央部に右下降する斜状に,互いに角度を変えた形状で配置されて
いるのに対し,被告意匠②では,1つは内部ケースの中央上部に左下
降する斜状に,1つは内部ケースの中央部に左下降する斜状に,略平
行に配置されている点
②接着チューブの収容部について,本件登録意匠では,ケース上面の右
側隆起平坦面の平面視で右下部に略倒立細長台形型の凹陥溝が形成さ
れ接着チューブ収納部とされるのに対し,被告意匠②では,外部パッ
ケージの蓋部に形成された隆起部の平面視で右側の一段低い平坦面の
一部が,接着チューブの形状に隆起しその内部に接着チューブを収納
する態様のチューブ収容隆起部が形成されている点
ウ本件登録意匠と被告意匠②の類比
上記イのとおり,本件登録意匠と被告意匠②とは,本件登録意匠におい
て需要者の注意をひき付ける要部において明らかな差異がある。
すなわち,()本件登録意匠では,ケース上面に形成される2つの弧状a
突起(まつげ収容隆起部)が,1つは左下降する斜状に,1つは右下降す
る斜状に,互いに角度を変えた形状で配置されており,この点が需要者の
注意をひき付ける要部の1つと認められるのに対し,被告意匠②において
ケース上面に形成される2つの弧状突起は,いずれも左下降する斜状で略
平行に配置されており,看者に対して本件登録意匠と異なる美感を与える
ものといえる。また,()本件登録意匠では,ケース上面の右側隆起平坦b
面に接着チューブを収納する略倒立細長台形型の凹陥溝が形成されてお
,,りこの点が需要者の注意をひき付ける要部の1つと認められるのに対し
被告意匠②においては,内部ケースには接着チューブの収容部が形成され
ておらず,外部パッケージの蓋部に形成された隆起部の一部が接着チュー
ブの形状に隆起し,その内部に接着チューブを収納する態様のチューブ収
容隆起部が形成されており,需要者の注意をひき付ける基本的な構成態様
において本件登録意匠と異なる形状を有しているため,看者に対して本件
登録意匠と異なる美感を与えることは明らかというべきである。
,,そして上記アで認定した本件登録意匠と被告意匠②との共通点のうち
透明なケースと透明なカバーからなる容器であり,側面から見ると均一の
高さを有する立体形状を有する点,ケース上面の平坦面に模造まつげを付
着させるための凹弧状の2つの弧状突起(まつげ収容隆起部)が形成され
ている点,接着チューブの収容部が容器又は包装に形成されている点は,
上記()で認定した先行意匠においても認められる形状であることに照ら2
すと,これらの共通点は,上記の差異点を凌駕するほどの影響を看者に及
ぼすものということはできない。また,その余の共通点についても,上記
の差異点を凌駕するに足りるものということはできない。
よって,被告意匠②は,本件登録意匠に類似しているとはいえない。
エ原告の主張について
,,(ア)原告は本件登録意匠の出願日時点の模造まつげ商品の容器において
本件登録意匠のケースのようにハート形の形状を有するものは皆無であ
るとして,ケースがハート形の立体形状を有する点も本件登録意匠の要
部であると主張する。
しかし,模造まつげケースも模造まつげという商品を収容・包装する
,,,容器であることは明らかであり上記()アのように先行意匠として2
透明な包装用容器において左右対称のハート型の形状を有する立体形状
のものが認められることからすると,原告主張の点は需要者の注意をひ
き付ける特徴的な構成態様とはいえず,本件登録意匠の要部と認めるこ
とはできない。
(イ)また,仮に,原告が主張するように,ケースがハート形の形状を有す
る点が本件登録意匠の要部であるとしても,本件登録意匠では,ケース
及び上部カバーが左右対称のハート型の形状を有しており,この点が需
要者の注意をひき付ける要部の1つと認められるのに対し,被告意匠②
においては,内部ケースと内部カバーは,ハート型から,平面視でハー
ト型の右上円弧状部から下部先端部の左方に至る直線の右側部分を切り
落とした形状を有しており,需要者の注意をひき付ける構成態様におい
て本件登録意匠と異なる形状を有していることになるため,被告意匠②
が本件登録意匠と類似しないという上記判断を左右することはない。
この点,原告は,被告商品は外部パッケージが透明であり,かつ,そ
の中心部分が立体形状を有しているため,需要者は外部パッケージの立
体形状がその中に収容されている内部ケース及び内部カバーの形状と同
一であると推認することになると主張するが,被告商品を商品である模
造まつげに注視して観察すれば,需要者は,外部パッケージの中に収容
された内部ケース及び内部カバーの形状が,ハート型ではなくハート型
の一部を直線上に切り落とした形状のものであることを容易に認識する
ことができるため,内部ケース及び内部カバーの形状が外部パッケージ
の隆起部の略ハート型の形状と同一ということはできず,原告の主張を
採用することはできない。
()小括7
したがって,被告商品が本件意匠権を侵害するということはできない。
2争点2(不競法2条1項1号該当の有無)について
()原告商品の容器・包装の商品等表示性1
原告は,原告商品1及び2のケース及び上部カバーが「商品の容器」とし
て,外部パッケージが「商品の包装」として,台紙が「その他の商品又は営
業を表示するもの」として,不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当す
ると主張する。
「」原告が主張する商品の容器や包装等が不競法2条1項1号の商品等表示
に該当するためには,長期間にわたり使用,広告,宣伝等がされたり,短期
間でも強力に宣伝広告されたりすること等の事情により,特定人の商品の出
所を示す表示として需要者の間に広く認識され,自他識別機能ないし出所表
示機能を獲得するに至っていることが必要というべきである。
そして,原告商品の台紙は,外部パッケージと共に商品である模造まつげ
を収容した容器を包むものであるから「商品の包装」に当たると認められ,
る。
()原告商品の容器・包装の特徴2
証拠(甲29の1∼9,30の1∼9,乙2,6の1,検証の結果)によ
れば,以下の事実が認められる。
ア原告商品のケース及び上部カバーの特徴
原告商品のケース及び上部カバーは,①ケース内部に形成される2つの
凹弧状の弧状突起(まつげ収容隆起部)が互いに角度を変えた形状で配置
されている点,②ケース右側に接着チューブを収納する略倒立細長台形型
の凹陥溝が形成されている点に独自の特徴があると認められる。
原告は,ハート形の立体形状をなしている点も独自の特徴であると主張
するが,上記1()で説示したようにハート形の包装用容器は公知の意匠2
であるから原告商品の容器の独自の特徴ということはできない。
イ原告商品の外部パッケージの特徴
原告商品の外部パッケージは,透明な蓋部と基台部とから成る全体が略
円形の形状で蓋部に略ハート型の隆起部を有しており,他にこのような形
状の包装があることを示す証拠はないから,略円形の形状で蓋部に略ハー
ト形の隆起部を有する点に独自の特徴があると認められる。
ウ原告商品の台紙の特徴
原告商品の台紙は,①中央部がハート型に着色され,中心部とは異なる
色の周辺部に小さなハート図形と十文字様の図形が点綴状に表示されてい
る点,②上部左側に「」の文字が記載されている点,③上部右Springheart
側に原告商品1には美まつげ革命!!の文字が原告商品2には速,「」,「
効デカ目」の文字がそれぞれ記載されている点に独自の特徴があると認め
られる。
()原告商品の容器・包装の自他識別機能ないし出所識別機能3
ア原告商品の販売数量等
原告は,平成17年7月から平成21年3月までの原告商品1の販売数
量は合計558万9138個,小売販売額は合計21億2387万244
0円であると主張するが,この点につき何ら証拠を提出しておらず(原告
が平成21年9月11日付け原告第3準備書面第4の1で引用する甲26
は雑誌の発行部数を示すものにすぎない,原告主張の事実を認めるこ。)
とはできない。
また,原告商品2の販売数量,小売販売額についての主張立証はない。
イ原告商品の販売店舗数等
原告は,原告商品1及び2の販売店舗数は約2万店舗であり,全国各地
のデパート,量販店,ドラックストア等で販売されていると主張するが,
原告が証拠とする甲11は,原告の特約小売店が約2万店舗である旨記載
されているのみであって,このことから直ちに,原告商品が約2万の店舗
で販売されていると認めることはできない。
もっとも,ほぼ全国各地のドラックストアにおいて原告商品が販売され
ていることは認められるが,販売時期,販売数量等は不明である(甲17
∼20。)
また,原告は,原告商品1は,平成18年2月から模造まつげの国内売
上全体の約4分の1以上のシェアを獲得し,平成20年5月及び6月には
約5割の圧倒的な販売シェアを有していたと主張する。
しかし,原告がその主張の根拠とする甲12の1,2は,全国の薬局,
薬粧600店舗の販売データに基づくものであるが(甲12の1,15,
16,乙11,全国のドラックストアの総店舗数は,平成17年度で1)
万4725店,平成18年度で1万5014店であり(乙12,また,)
原告商品のような模造まつげは,薬局のみではなく,百貨店,スーパー,
コンビニエンスストア等においても販売されていること(平成16年の全
国の百貨店,スーパー,コンビニエンスストアは13万店舗以上認められ
る。乙12)からすると,甲12の1,2の統計資料はごく一部の店舗の
データに基づく資料にすぎないから,この統計資料をもって模造まつげの
国内販売シェアを表すものと認めることはできず,他に原告主張の上記事
実を認めるに足りる証拠はない。
ウ原告商品の広告宣伝
原告は,甲13の1∼3のような原告商品1等の宣伝用パンフレットを
平成18年11月から2年3か月の間に合計20万3500部作成し,全
国の店舗を通じて顧客に配布したと主張する。しかし,原告が平成18年
から20年にかけて原告商品1が掲載された甲13の1∼3の商品カタロ
グを作成したことは認められるものの,その他の点については何ら立証が
なく,原告主張の事実を認めることはできない。
また,原告は,平成17年8月から平成20年9月までのほぼ3年間に
延べ12回にわたり女性用ファッション雑誌に原告商品1の広告をし甲,(
14の1∼11,25,その発行部数は累計で少なくとも577万50)
00部に及び,広告費用として合計2900万円を支出したと主張する。
証拠(甲14の1∼11,25)によれば,平成17年に2回,平成1
8年に2回,平成19年に3回,平成20年に4回「「ヘア&ビ,」,ViVi
ューティ「「「「「「小」,」,」,」,」,」,teengirlJELLYSCawaii!CanCamspring
悪魔「」の雑誌に原告商品1を紹介する記事が,平成20年にagehaJJ」,
1回「」に原告商品1の広告が,それぞれ掲載されたことが認め,Popteen
られるが,その発行部数を認めるに足りる証拠はなく(甲26ではいつの
時点の発行部数か不明である,また,原告がその広告費用として合計。)
2900万円を支出した点に関する証拠もないから,発行部数,広告費用
についての原告の主張は認めることができない。
,,,さらに原告は原告商品1及び2を含めた商品の販売を促進するため
平成21年3月7日及び8日の2日間,東京でステージショー及び商品宣
伝用ブース開設等のイベントを実施し,その協賛費用として合計4500
万円を支出したと主張するが,この点に関する証拠もなく,原告の主張を
認めることはできない。
()以上検討したところによれば,原告が原告商品の容器・包装が不競法24
条1項1号の商品等表示に該当するとして主張する事実については(ア)「」,
①原告商品のケース及び上部カバーは,ケース内部に形成される2つの凹弧
状の弧状突起(まつげ収容隆起部)が互いに角度を変えた形状で配置されて
いる点,ケース右側に接着チューブを収納する略倒立細長台形型の凹陥溝が
形成されている点に独自の特徴があり,②原告商品の外部パッケージは,略
円形の形状で蓋部に略ハート形の隆起部を有する点に独自の特徴があり,③
原告商品の台紙は,中央部がハート型に着色され,中心部とは異なる色の周
辺部に小さなハート図形と十文字様の図形が点綴状に表示されている点,上
部左側に「」の文字が記載されている点,上部右側に,原告商品Springheart
1には「美まつげ革命!!」の文字が,原告商品2には「速効デカ目」の文
字がそれぞれ記載されている点に,独自の特徴があること,(イ)①原告は,
原告商品1を平成17年7月から,原告商品2を平成21年1月からそれぞ
れ販売し(前提となる事実,原告商品はほぼ全国各地のドラックストア等)
で販売されていること,②平成18年から平成20年にかけて原告商品1が
掲載されたカタログが作成されたこと,③平成17年に2回,平成18年に
,,,「」,「」2回平成19年に3回平成20年に4回ヘア&ビューティViVi
等の雑誌に原告商品1を紹介する記事が,平成20年に1回「」に,Popteen
原告商品1の広告がそれぞれ掲載されたことが認められるにとどまる。
そうすると,原告商品は,商品の容器・包装に独自の特徴があると認めら
れるものの,その販売・広告期間が平成17年7月からの数年と比較的短期
間であり,原告商品の販売数量,小売販売総額,宣伝広告費用の額,カタロ
グの流通状況等が不明であること,原告商品の写真が掲載された雑誌も年間
数冊発行された程度であることからすると,原告が主張する原告商品の容器
・包装は,被告商品の販売が開始された平成20年5月ころから本件口頭弁
論終結時までの間において,原告商品を表示するものとして需要者に広く認
識され,自他識別機能ないし出所表示機能を獲得するに至っていたとまで認
めることは困難である。
()小括5
したがって,原告が主張する原告商品の容器・包装が不競法2条1項1号
の「商品等表示」に該当すると認めることはできないから,その余の点につ
いて検討するまでもなく,被告による被告商品の販売が不競法2条1項1号
の不正競争に該当するということはできない。
3結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は,い
ずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
岡本岳
裁判官
坂本康博
裁判官中村恭は,転任のため署名押印することができない。
裁判長裁判官
岡本岳

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