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平成17年(行ケ)第10526号 審決取消請求事件
平成17年11月9日口頭弁論終結
            判       決
      原      告     株式会社インディアンモトサイクルカン
パニージャパン
    訴訟代理人弁護士     佐藤雅巳
同       古木睦美
      被      告     有限会社フレックスアイ
            主       文
       1 原告の請求を棄却する。
    2 訴訟費用は原告の負担とする。
        事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が取消2004-30485号事件について平成17年5月10日
にした審決を取り消す。
  (2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文第1,2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
  原告は,別紙商標目録(1)に示すとおりの構成よりなり,指定商品を第14類
「時計」とする,登録第2641863号の登録商標(平成2年6月28日出願,
第23類「時計,その部品及び附属品」を指定商品として,同6年3月31日に設
定登録。その後,同15年12月9日に商標権存続期間の更新登録がされ,同16
年3月24日に指定商品を第14類「時計」とする指定商品の書換登録がされた。
以下,「本件商標」という。)の商標権者である。
  被告は,本件商標の商標登録を取り消すことについて審判を請求し,平成1
6年4月26日,同審判請求につき予告登録(以下「本件予告登録」という。)が
された。
  特許庁は,上記審判請求を取消2004-30485号事件として審理し,
その結果,平成17年5月10日に「登録第2641863号商標の商標登録は取
り消す。」との審決をし,その謄本は同月20日に原告に送達された。
 2 審決の概要
審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。その概要は,原告(被請求
人)において,本件商標の通常使用権者である株式会社リベルタ(以下「リベルタ
社」という。)が時計の文字盤,バンド,金具に使用するものと主張する別紙商標
目録(2)に示すとおりの構成よりなる商標(以下「使用商標1」という。)及びリベ
ルタ社が時計本体の裏面及び時計の包装に使用するものと主張する別紙商標目録(3)
に示すとおりの構成よりなる商標(以下「使用商標2」という。)は,いずれも本
件商標と社会通念上同一のものとは認められない,というものである。
第3 原告主張の審決の取消事由の要点
   使用商標2は,本件商標と社会通念上同一のものであるから,これを社会通
念上同一のものでないとした審決の認定判断は誤りであって,この誤りが結論に影
響を及ぼすことは明らかであるから,審決は違法として取り消されるべきである。
1 商標の同一性の意義
(1) 商標は,登録したものと同一の態様で使用し続けることは稀であり,デザ
イン上の理由などから,様々に変更を加えて使用するものである。
(2) そうであればこそ,パリ条約5条C(2)は,「商標の所有者が一の同盟国
において登録された際の形態における商標の識別性に影響を与えることなく構成部
分に変更を加えてその商標を使用する場合には,その商標の登録の効果は,失われ
ず,また,その商標に対して与えられる保護は,縮減されない。」と規定している
ものであるから,商標法50条1項にいう「当該登録商標と社会通念上同一と認め
られる商標」とは,「商標の識別性に影響を与えることなく構成部分に変更を加え
た商標」を意味すると解さなければならない。
(3) 商標の本質的機能は出所識別機能である。商標の構成が変更されても,変
更された商標を付した商品の出所が登録された態様での商標を付した商品と同一の
出所から生じたものと需要者に認識されるときは,当該変更された商標は登録され
た商標と同一性の範囲内にある,すなわち「社会通念上同一と認められる」と解さ
なければならない。
(4) そして,この場合において,需要者が同一の出所から生じたものと認識す
るか否かを判断するに当たっては,取引の実情を考慮に入れなければならない。
2 本件における取引の実情
 使用商標1と同一態様の特徴のある筆記体の「Indian」(以下「In
dianロゴ」という。)を中心とする「Indian」ブランドは,ヴィンテー
ジ・バイカー系のアメリカンカジュアルのファッションブランドであり,その顧客
層は,ファッションに関心を有する若年男性層である。
 Indianロゴは,遅くとも,本件予告登録の日(平成16年4月26
日)の相当前である平成15年中ころには,若年男性向けのいわゆるアメリカン・
バイカー系のブランドファッション市場において,衣類及び時計その他のアクセサ
リーについての原告の商品等表示として需要者の間に広く認識され,「India
n Motocycle」「インディアンモトサイクル」は,原告の略称として,
需要者の間に広く認識された。
3 使用商標2と本件商標との同一性
 使用商標2は,次のとおり,本件商標と同一のものである。
(1)構成要素の同一
 本件商標は,特徴ある筆記体の「Indian」と羽根飾りを冠した右向
きのインディアンの酋長の図形からなるもので,上記の「Indian」の文字の
一部は,同図形と図形の右上部で重なっている。「Indian」の文字は,四角
の図形の中に配されているが,同図形は格別目立つ特徴を備えたものではなく,出
所の識別において意味のあるものではない。
  使用商標2は,羽根飾りを冠した右向きのインディアンの酋長の図形(以
下「インディアン図形」という。)の中に「Indianロゴ」を配したもの(以
下「ヘッドドレスロゴ」という。)とその下に配した「Indian Motoc
ycle Co.,Inc.」の一連の横書き文字(以下「モトサイクルロゴ」とい
う。)よりなる。ただし,「モトサイクルロゴ」は,「ヘッドドレスロゴ」と可分
であり,「ヘッドドレスロゴ」の下にそれよりも小書してあり,かつ「ヘッドドレ
スロゴ」の中に配した「Indianロゴ」よりも小さな活字で書してなるのであ
り,見る者の注意をひくものではない。したがって,使用商標2において,識別の
中心をなすのは,「Indianロゴ」と「インディアン図形」である。
 上記のとおり,本件商標と使用商標2とは,基本的構成要素が同一であ
る。なお,商標の同一性の判断においては,登録商標に付加文字を付した商標の使
用は登録商標の使用と扱われるのであるから,使用商標2において「ヘッドドレス
ロゴ」の下に「モトサイクルロゴ」が付加されていても,本件商標と使用商標2の
同一性の判断には影響しない。
(2)構成の類似
 本件商標において,特徴ある筆記体の「Indian」は,羽根飾りを冠
した右向きのインディアンの酋長の図形の右上部に一部重なるように配してなると
ころ,使用商標2においては,「Indianロゴ」が「インディアン図形」の中
に配されている。両者の相違は,「Indian」の文字がインディアンの図形と
一部重なるか,全部重なるかの相違であって,大きな相違ではない。
  本件商標における「Indian」の文字と使用商標2における「Ind
ianロゴ」は酷似している。
  本件商標におけるインディアンの酋長の図形と使用商標2における「イン
ディアン図形」とを比較すると,両者は,①羽根飾りをしている点,②右向きであ
る点,において共通であり,両者の相違はデザイン上の相違という程度のものであ
る。
(3)称呼,観念の同一
  本件商標における「Indian」及びインディアンの酋長の図形と,使
用商標2における「Indianロゴ」及び「インディアン図形」は,いずれも,
「インディアン」の称呼及び「北米原住民」の観念を生ずる。
(4)同一の出所を示す
本件商標は,特徴ある筆記体の「Indian」を含むが,これは「In
dianロゴ」に酷似している。そして,「Indianロゴ」は,衣服や時計を
含むアクセサリーについて,原告を出所とする商標として,本件予告登録時の相当
前には周知であった。したがって,本件商標を付した商品に接した者は,当該商品
の出所を原告と認識する。
  本件商標中のインディアンの図形も使用商標2中の「インディアン図形」
と近似する。したがって,本件商標中のインディアンの図形は使用商標2中の「イ
ンディアン図形」と全く同一ではないが,そのことは本件商標を付した商品に接し
た者がその出所を原告と認識することを妨げるものではない。
(5)よって,本件商標を付した商品(時計)も使用商標2を付した商品(時
計)も等しく原告を出所とするものと認識されるのであり,使用商標2は「本件商
標の識別性に影響を与えることなく構成部分に変更を加えたもの」であり,「本件
商標と社会通念上同一と認められるもの」である。
なお,「モトサイクルロゴ」も,原告を示すものとして需要者に認識され
るから,使用商標2を付した商品の出所が原告であることを示すことを妨げず,し
たがって,使用商標2が本件商標と同一のものであると認定する妨げとなるもので
はない。
第4 被告の反論の骨子
   審決の認定判断に誤りはなく,審決を取り消すべき理由はない。
 使用商標2における右向きのインディアンの図形部分と本件商標における右
向きのインディアンの図形部分とは,その形態が顕著に異なるから,仮に文字部分
が共通するとしても,使用商標2と本件商標とを社会通念上同一の商標ということ
はできない。
第5 当裁判所の判断
1 使用商標2と本件商標との同一性について
  原告は,使用商標2は本件商標と社会通念上同一のものであり,これを社会
通念上同一のものでないとした審決の認定判断は誤りであると主張するので,この
点について判断する。
(1)使用商標2と本件商標の構成
  (ア)使用商標2は,別紙商標目録(3)に示すように,髪飾りを付けた右向きの
インディアンの図形(「インディアン図形」)の髪飾りの部分に特徴ある筆記体の
欧文字「Indian」(「Indianロゴ」)を配した図形(「ヘッドドレス
ロゴ」)の下部に,Indianロゴよりも小さな筆記体の欧文字で横一列に書し
た「Indian Motocycle Co.,Inc.」(「モトサイクルロ
ゴ」)を配してなるものである。
  (イ)本件商標は,別紙商標目録(1)に示すように,羽根飾りを付けた右向きの
インディアンの横顔の図形(以下「本件図形」という。)の右上部に筆記体で書し
た欧文字「Indian」を配してなるものである。
(2)使用商標2と本件商標との比較
そこで,使用商標2と本件商標とを比較すると,①使用商標2のインディ
アン図形は,縦横比がほぼ縦1対横3の割合で構成されているのに対して,本件商
標の本件図形においては,ほぼ1対1の割合で構成されている,②使用商標2にお
ける髪飾りは,7本の羽根が羽根の先端が横一線になるように左後方に大きく伸び
たものであり,線書きで描かれているのに対して,本件商標の本件図形において
は,上向きから左向きまで弧を描くように放射状に広がった多くの羽根により構成
されたもので,羽根の中央部,先端部を白く表すなどして描かれている,③ 使用
商標2のインディアン図形は,インディアンの髪の部分を除き,全体を線書きで平
面的に表したものであるのに対して,本件商標の本件図形は,インディアンの横顔
を,髪飾りを含めて,目,鼻,口などを陰影を付けて立体感を持たせて写実的に描
いたものである,という点で相違するものであり,両者は,髪飾り部が著しく異な
るほか,顔を含めた全体の形状,描写方法,縦横の構成比において,大きく異なる
ものといわざるを得ない。
(3)使用商標2と本件商標との同一性
   上記において検討したところによれば,使用商標2の図形部分(インディ
アン図形)と本件商標の図形部分(本件図形)とは,その形態が顕著に異なるもの
である。そうすると,使用商標2と本件商標とは,両商標を構成する主要な部分で
ある図形部分において顕著な差異が存在するものであるから,社会通念上同一の商
標と認めることはできない。
2 原告の主張について
  原告は,商標法50条1項にいう「当該登録商標と社会通念上同一と認めら
れる商標」は,パリ条約5条C(2)の趣旨に照らして解釈すれば,「商標の識別性に
影響を与えることなく構成部分に変更を加えた商標」を意味すると解さなければな
らないとした上で,本件においては,取引の実情を考慮すれば,本件商標を付した
商品(時計)も使用商標2を付した商品(時計)も等しく原告を出所とするものと
認識されるから,使用商標2は「本件商標の識別性に影響を与えることなく構成部
分に変更を加えたもの」であり,「本件商標と社会通念上同一の商標と認められる
もの」である旨主張する。
  確かに,商標法50条の解釈に際しては,パリ条約5条C(2)の趣旨をも考慮
するのが適切であり,使用に係る商標が登録商標と社会通念上同一のものといえる
かどうかは,登録商標に係る指定商品の属する産業分野における取引の実情をも考
慮して判断するのが相当であるが,商標法50条1項は,「商標権者,専用使用権
者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書
体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びローマ字の文
字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標,外観に
おいて同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認め
られる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないとき」と規定
するものであり,上記文言に照らせば,その形態が顕著に異なる図形よりなる商標
を「社会通念上同一」と認めることはできない。
  また,本件においては,使用商標2は,上記のとおり,これを構成する主要
な部分である図形部分において本件商標と顕著な差異が存するものであるところ,
原告の提出する甲号各証によっては,使用商標1及び使用商標2が,衣料品等の分
野において,原告の出所を示す識別表示として取引者ないし需要者の間で,ある程
度知られるに至っていたことは認められるものの,使用商標2が,本件商標の指定
商品である「時計」の分野において,取引者ないし需要者の間で本件商標と同一性
を有するものとして認識され,通用していたことをうかがわせる事情を認めるには
足りないから,結局のところ,使用商標2をもって,本件商標と社会通念上同一の
商標ということはできない。
3 結論
 以上に検討したところによれば,使用商標2は本件商標と社会通念上同一の
ものとは認められないとした審決の認定判断に誤りはないのであって(なお,使用
商標1が本件商標と社会通念上同一のものといえないとした審決の認定判断につい
ては,原告も争っていない。),原告の主張する取消事由には理由がなく,その
他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の請求を棄
却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条
を適用して,主文のとおり判決する。
   知的財産高等裁判所第3部
        裁判長裁判官   佐  藤  久  夫
           裁判官     三  村  量  一
           裁判官    古  閑  裕  二
(別紙省略)

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