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判決言渡平成19年10月11日
平成18年(行ケ)第10509号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年9月27日
判決
原告ザプロクターアンドギャンブル
カンパニー
訴訟代理人弁護士吉武賢次
同宮嶋学
同高田泰彦
訴訟代理人弁理士中村行孝
同紺野昭男
同横田修孝
被告特許庁長官
肥塚雅博
指定代理人原健司
同西川和子
同徳永英男
同内山進
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2001−10354号事件について平成18年7月5日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が後記発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたの
で,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受け
たので,その取消しを求めた事案である。
本件においては,本願における特許を受けようとする発明が発明の詳細な説
明に記載したものといえるかどうか(特許法36条6項1号参照)が,主たる
争点となっている。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成9年4月16日に発明の名称を「中間鎖分岐界面活性剤」と
する発明について国際特許出願(優先権主張:平成8年〔1996年〕4月
16日米国,平成8年〔1996年〕4月16日米国,平成8年〔199
6年〕11月26日米国。特願平9−537385号,特表2000−5
03700号。以下「本願」という。甲1)をしたが,拒絶理由通知を受け
たので平成12年9月19日付けで特許請求の範囲の変更等を内容とする手
続補正(請求項の数10。以下「第1次補正」という。甲2)をしたが,平
成13年3月12日付けで拒絶査定を受けた。
そこで原告は,平成13年6月19日付けで不服の審判請求をしたので,
特許庁は同請求を不服2001−10354号事件として審理することとし
たが,その手続の中で原告は再び拒絶理由通知を受けたので,平成18年1
(。月5日付けで特許請求の範囲の変更等を内容とする手続補正請求項の数9
第1次補正の請求項4を削除し,以下の請求項を繰り上げたもの。以下「第
2次補正」という。甲3)をしたが,特許庁は,平成18年7月5日「本,
件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,その謄本は平成18年7月
18日原告に送達された。
(2)発明の内容
第2次補正後の特許請求の範囲は,前記のとおり請求項1ないし9から成
るが,その請求項1に記載された発明は,次のとおりである(以下,請求項
1∼9に記載された発明を「本願発明1」∼「本願発明9」といい,それら
をまとめて「本願発明」という。。)
「請求項1】下記式のアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物を少な【
くとも5重量%で含んだ洗剤界面活性剤組成物:
A−X−Bb
〔上記式中:
(a)Aは,全炭素としてC−Cの疎水性中間鎖分枝アルキル部分b922
であり,(1)8∼21炭素原子の範囲にある,−X−B部分に結合さ
1れた最長炭素直鎖;(2)この最長炭素直鎖から分岐する1以上のC
−Cアルキル部分を有して;(3)少くとも1つの分岐アルキル部分3
が,2位炭素(−X−B部分に結合された炭素#1から数える)から
ω−2炭素(末端炭素−2炭素)までの範囲内の位置で,最長炭素直
鎖の炭素に直接結合されている;および(4)界面活性剤組成物は,上
記式中のA−X部分に,14.5より大きくて17.5までの範囲b
内で炭素原子の平均総数を有する;
,,,(b)Bはスルホネートアミンオキシドアルコキシル化サルフェート
ポリヒドロキシ部分,ホスフェートエステル,グリセロールスルホネ
,,,,ートポリグルコネートポリホスフェートエステルホスホネート
スルホサクシネート,スルホサクカミネート,ポリアルコキシル化カ
ルボキシレート,グルカミド,タウリネート,サルコシネート,グリ
シネート,イセチオネート,ジアルカノールアミド,モノアルカノー
ルアミド,モノアルカノールアミドサルフェート,ジグリコールアミ
ド,ジグリコールアミドサルフェート,グリセロールエステル,グリ
セロールエステルサルフェート,グリセロールエーテル,グリセロー
ルエーテルサルフェート,ポリグリセロールエーテル,ポリグリセロ
ールエーテルサルフェート,ソルビタンエステル,ポリアルコキシル
化ソルビタンエステル,アンモニオアルカンスルホネート,アミドプ
ロピルベタイン,アルキル化クアット,アルキル化/ポリヒドロキシ
アルキル化クアット,アルキル化クアット,アルキル化/ポリヒドロ
キシル化オキシプロピルクアット,イミダゾリン類,2−イル−サク
シネート,スルホン化アルキルエステルおよびスルホン化脂肪酸から
選択される親水性部分である;
(c)Xは−CH−および−C(O)−から選択される;および2
(d)Aは実質的にジェミナル置換炭素原子を含まない」b〕。
(3)審決の内容
審決の詳細は,別添審決写しのとおりである。
その要点は,本願発明1及びこれを引用した本願発明2∼9は本願発明の
明細書中に記載又は示唆されていないから,特許請求の範囲の記載が特許法
36条6項1号(判決注,平成11年法律第160号による改正前特許法の
36条(以下「旧36条」という)6項1号をいうものと解される)に規。。
定する要件を満たしていないので,本願は特許を受けることができない,
というものである。
〔判決注,旧36条の内容は以下のとおり。

第三十六条特許を受けようとする者は,次に掲げる事項を記載した願書
を特許庁長官に提出しなければならない。
一特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二発明の名称
三発明者の氏名及び住所又は居所
,,。2願書には明細書必要な図面及び要約書を添付しなければならない
3前項の明細書には,次に掲げる事項を記載しなければならない。
一発明の名称
二図面の簡単な説明
三発明の詳細な説明
四特許請求の範囲
4前項第三号の発明の詳細な説明は,通商産業省令で定めるところによ
り,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその
実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならな
い。
5第三項第四号の特許請求の範囲には,請求項に区分して,各請求項ご
とに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認
める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において,一の
請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となるこ
とを妨げない。
6第三項第四号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するもので
なければならない。
一特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであ
ること。
二特許を受けようとする発明が明確であること。
三請求項ごとの記載が簡潔であること。
四その他通商産業省令で定めるところにより記載されていること。
7第二項の要約書には,明細書又は図面に記載した発明の概要その他通
商産業省令で定める事項を記載しなければならない〕。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べるとおり,本願について特許請求の
範囲の記載が旧36条6項1号に規定する要件を満たしていないと判断した
誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア旧36条6項1号の解釈についての判断の誤り
(ア)旧36条6項1号は,請求項に係る発明が,発明の詳細な説明に記載
した範囲を超えるものであってはならないことから設けられている規定
であり,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,
特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発
明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決で
きると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がな
くとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる
と認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであ
る。つまり,発明の詳細な説明には当業者が特許請求の範囲に記載され
た発明が当該発明の課題を解決できるものであると認識できる程度の記
載がなされていれば足りるのである。
したがって,本願が旧36条6項1号に規定する要件を満たしている
というためには,洗剤界面活性剤としての性能が定性的にでも記載され
てさえいれば足りると解すべきである。
(イ)これに対し審決は「…一般的に配合成分の化学構造とその配合割合,
から洗剤界面活性剤組成物としての性能を正確に予測することは困難で
あるから,発明の詳細な説明には,当該組成物について,その洗剤界面
活性剤としての性能を裏付けるデータ又はそれと同視すべき程度の記載
をすることによって,その効果を十分に開示する必要があり(6頁1」
8行∼22行,本願が旧36条6項1号に規定する要件を満たしてい)
,「,,るというためには…本願明細書にはこの洗剤界面活性剤組成物が
(),低い水温洗浄条件を使う洗濯プロセスに用いられること記載事項1
及び生分解性であること(記載事項2)が記載されているから,明細書
にはこれらの点についてデータ又はそれと同視すべき程度の記載をする
ことによって,本願発明の組成物が洗剤界面活性剤としての性能を有し
ていることを客観的に開示する必要がある(6頁26行∼31行)と。」
する。
しかし,性能を裏付けるデータ又はそれと同視すべき程度の記載がな
くても,洗剤界面活性剤としての性能が定性的にでも記載されてさえい
れば,当業者はその化学構造等と洗剤界面活性剤組成物としての性能と
の対応関係を理解することができる。当業者にとっては,洗剤界面活性
剤としての性能が具体的な実験データの集合として記載されていよう
が,その性能が実験の結論として定性的に記載されているだけであろう
が,大きな違いはないといえる。したがって,審決の上記判断は誤りで
ある。
イ置換基Bがアルコキシル化サルフェートである洗剤界面活性剤について
の判断の誤り
(ア)組成物につき
審決は,本願発明1におけるアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合
物の置換基Bがアルコキシル化サルフェートである洗剤界面活性剤の組
成物に関し,本願明細書の実施例には,例23を除いては配合例が記載
されているだけで,その試験結果は記載されておらず,例23について
も,中間鎖分岐一級アルキルエトキシレートサルフェート,ナトリウム
塩については「MBAES」と記載されているだけで,置換基Aの全,b
炭素数,C1∼C3アルキル基の分岐位置,分岐したアルキル基の炭素
数及びエトキシ基の数についてはいずれも記載がないから,この化合物
がどのような化学構造を有するものであるのか不明であって,本願請求
項1記載の式で示されたアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物に該
当するものであるか否かも不明であるとする(6頁下6行∼7頁29
行。)
しかし,本願明細書(甲1)の例5(139∼141頁)及び例15
(153∼154頁)には,界面活性剤化合物の製造に用いられる分岐
アルコールの総炭素数,平均分岐数,平均分岐位置及び分岐のタイプが
開示されている。加えて,本願明細書には,本願発明における好ましい
化合物が洗剤分野の当業者であればその製造法と枝分かれ位置が理解で
きるような表現で記載されているとともに,多数の具体的な物質名が例
示されている18∼44頁さらに本願明細書の例Ⅰから例Ⅶ4()。,(
4∼56頁)において,いくつかの具体的な分岐界面活性剤化合物の製
造について記載されている。
したがって,当業者は,本願明細書全体の記載を読めば,各実施例に
おいて「MBAES」と省略されて記載されている物質が本願明細書に
記載されている特定の分岐界面活性剤化合物の中から選択されたもので
あることを容易に理解することができる。
なお,洗剤分岐界面活性剤化合物は単一の化合物ではなく,様々な化
合物の混合物として製造されるのが通常であり,そのため,実施例にお
いては分岐界面活性剤化合物を「MBAES」等と表現している。
(イ)低水温洗浄性及び生分解性につき
審決は,本願発明の各実施例において,その洗剤界面活性剤として,
低水温洗浄性及び生分解性についてどの程度の性能を有しているか不明
であるし,実施例以外の部分についても中間鎖分岐一級アルキルエトキ
シサルフェート化合物が低水温洗浄性及び生分解性についてどの程度の
性能を有しているのかについて具体的な記載はないとする(6頁下6行
∼7頁下5行。)
しかし,本願明細書(甲1)の〔発明の背景〕の項における「以下の
開示からわかるように,中間鎖分岐を含んだある比較的長鎖のアルキル
サルフェート界面活性剤組成物は,特に冷却または冷水洗浄条件下(例
えば,20∼5℃)で,洗濯製品用に好ましいことが,意外にもわかっ
たのである(10頁4行∼6行)などの記載からも分かるとおり,本。」
願明細書において具体的に開示されている物質は,低水温洗浄性及び生
分解性等に優れたものであることが当然の前提となっており,各実施例
においても,低水温洗浄性及び生分解性に優れていることは,具体的な
データを示すまでもなく当然の前提となっている。
したがって,本願発明1の式で表されるアルキル長鎖中間鎖分岐界面
活性剤化合物であって,置換基Bがアルコキシル化サルフェート基であ
る化合物を含有する洗剤界面活性剤について,当業者は当該発明の課題
を解決できるものであると認識できる。
ウ置換基Bがアルコキシル化サルフェート以外の置換基である洗剤界面活
性剤についての判断の誤り
審決は,本願発明1におけるアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物
の置換基Bがアルコキシル化サルフェート以外の置換基である洗剤界面活
性剤の組成物に関し「一般に化合物は,それぞれの化合物の極性,嵩高,
さ等によって,物性が異なるものであり,本願発明1についてみれば,疎
水性中間鎖分岐アルキル部分が特定のアルキル基であっても置換基Bの極
性,嵩高さが異なれば,それを含む洗剤界面活性剤組成物について低水温
洗浄性及び生分解性の性能は異なるものと認められるから,本願発明1に
ついては,式で示される化合物を含有する洗剤界面活性剤組成物の全てに
渡って,所定の性能を発揮することが認められる程度に各化合物を含有す
る洗剤界面活性剤組成物に関して低水温洗浄性及び生分解性についてのデ
ータ等を開示する必要があるが,本願明細書には,上記の如く,これを裏
付けるデータ等は,何も開示されていない(8頁16行∼25行)とす。」
る。
しかし,本願発明の特徴は,本願明細書(甲1)に「分岐は主にモノメ
チルであるが,一部ジメチルおよび一部エチルの分岐が存在してもよい。
有利には,このようなプロセスではほとんど(1%以下)gem−分岐を,
即ち,あるにしても,ほとんど“四級”炭素置換を起こさない(11頁。」
1行∼4行)と記載されているとおり,Aが実質的にジェミナル炭素原b
子を含まない,すなわち,2個の置換基が同一の炭素に存在するものを実
質的に含まないことにある。このような本願発明の洗剤界面活性剤組成物
は,本願明細書(甲1)10∼11頁にも記載のように,低温,高硬度の
水条件などでの洗浄性向上効果が大きく,脂肪汚れ除去に優れ,酵素適合
性,生分解性に優れ,処方も容易という優れた特徴を有している。
そして,このような様々な効果,特に生分解性の改善と処方性の改善効
果に対しては,置換基Bはあまり重要ではなく,置換基Bが本願発明記載
のどのようなものであっても得られるものである。
したがって,本願請求項1の式で表されるアルキル長鎖中間鎖分岐界面
活性剤化合物であって,置換基Bがアルコキシル化サルフェート基以外の
置換基である化合物を含有する洗剤界面活性剤についても,当業者は当該
発明の課題を解決できるものであると認識できる。
エ本願発明のアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤の性能についての判断の
誤り
審決は「…本願発明1については,式で示される化合物を含有する洗,
剤界面活性剤組成物の全てに渡って,所定の性能を発揮することが認めら
れる程度に各化合物を含有する洗剤界面活性剤組成物に関して低水温洗浄
性及び生分解性についてのデータ等を開示する必要があるところ,アルコ
ールサルフェート化合物は本願発明1の式で表されるアルキル長鎖中間鎖
分岐界面活性剤化合物には該当しない化合物であるから,本願発明1の式
で表される特定の化合物を含有する洗剤界面活性剤組成物について洗剤界
面活性剤としての性能を裏付けるものではなく,この実験成績証明書の記
載をもって,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された
ものであるとすることはできないから,請求人の主張を採用することはで
きない(9頁下10行∼下1行)とする。。」
しかし,イ(ア)で述べたとおり,低水温洗浄性及び生分解性等の改善効
果において置換基Bはあまり重要ではなく,その改善効果は置換基Bが本
願記載のどのようなものであっても得られるものである。
そのため,アルコールサルフェート化合物が本願発明1の式で表される
アルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤化合物には該当しない化合物であった
としても,本願発明の式で表される特定の化合物を含有する洗剤界面活性
剤組成物について洗剤界面活性剤としての性能を裏付けるものと評価する
ことができる。
オその他
審決に取消事由があるとする原告の主張は,以上のとおりであるが,補
足として以下のとおり主張する。
(ア)低温洗浄性について
被告は,本願発明は,低い水温洗浄条件を使う洗濯プロセスに用いる
こと及び生分解性に優れた洗剤界面活性剤組成物を提供することを目的
とするものであると主張するところ,この主張から明らかなとおり,被
告は,低温といえるある特定の温度を想定して,その温度において本願
発明の洗剤界面活性剤組成物が水に溶解し,洗浄性能を発揮することを
もって課題を解決した(効果がある)と把握するものである。
しかし,本願発明の課題は,飽くまでも従来技術との対比の視点から
。,,把握される相対的なものであるすなわち低温溶解性に関していえば
対比されるべき従来の組成物より低温で溶解するものであれば,その温
度が例えば50℃等低温とはいえないものであっても,課題を解決した
と把握するものである。つまり,従来溶解温度が20℃であったものが
10℃になった場合のみならず,60℃であったものが50℃になった
場合も,さらに100℃であったものが95℃になった場合でさえも,
より低温で溶解するようになった点を捉えて本願発明の課題を解決した
と把握するものである。
さらに,本願発明の本来の解決課題の把握に当たっての対比の対象に
ついては,ある特定のB基を有するものを想定し,例えば,B基がスル
ホネートであってA基が本願発明の要件を充足しないものと,B基がb
,スルホネートであってA基が本願発明の要件を充足するものを対比しb
後者の溶解温度ないしクラフト点が低ければ,本願発明の効果があると
把握するものである。つまり,特定のB基を採ることは所与の前提ない
し従来技術であり,B基が特許請求の範囲に記載のいずれであっても,
A基等を本願発明の要件を充足するものとすることで溶解温度を低下b
できる相対的な低温溶解性が得られるのである。この意味で,置換基B
,。の選択は対比すべき従来技術として何を選択するかの問題にすぎない
そして,本願明細書に基づき当業者が本願発明の解決課題を,上記の
ように対比されるべき従来の組成物(特定のB基を採るもの)より低温
,()で溶解するものを提供することと理解し得ることは本願明細書甲1
に95℃の洗浄水の温度を想定する記載(127頁17行)があること
からも明らかである。
したがって,当業者は本願明細書に基づき本願発明の解決課題を,B
基が様々な場合でもあっても,A基等を本願発明の要件を充足するもb
のとすることで溶解温度を低下できる相対的な低温溶解性を得ることと
理解するといえる。
また,界面活性剤の疎水部分(本願発明におけるA基)は水に溶けb
にくく,親水性基(本願発明におけるB基)と比べて分子中でより大き
い部分を占めることから,低温洗浄性などの洗浄性能に関しては,界面
活性剤の疎水部分の影響が大きいと考えるのが洗剤分野の常識的な考え
方である。そうすると,当業者であれば,界面活性剤が同じ疎水部分を
有するが分子の先頭の親水性基のみ互いに異なる界面活性剤は,低温洗
浄性などの洗浄性能に関しては同様の傾向を示すと理解する。そして,
当業者であれば,ある親水性基を有する界面活性剤に関する記載(たと
えそれが特許請求の範囲から削除された親水性基であっても)を参考に
すれば,界面活性剤の低温洗浄性などの洗浄性能に関し,他の親水基に
置き換えて容易に理解し,また容易に試験・確認することもできる。
このように,当業者であれば,本願発明の特定のA基とB基を含むb
界面活性剤を含む洗剤界面活性剤組成物が,本願発明以外のA基とこb
の本願発明の界面活性剤に対応するB基を含む界面活性剤を含む従来の
洗剤界面活性剤組成物と比較して,低温洗浄性(低温溶解性)を有し,
本願発明の課題が解決できることを認識できる。
(イ)生分解性について
低温洗浄性は,本願発明の解決課題の選択肢の1つにすぎないから,
仮に本願明細書に低温洗浄性についての記載がなくても,生分解性につ
いての記載があれば本願発明の課題は解決するというべきである。
本願明細書(甲1)には「…界面活性剤の複合混合物の存在下におけ
る性能,低い洗浄温度の傾向,ビルダー,酵素およびブリーチを含めた
処方の違い,消費者の癖および習慣の様々な違い,および生分解性の必
要性を含めた様々な基準のうち1以上で全体的改善を行えるように奮闘
しなければならない(9頁下4行∼下1行)と記載され,低い洗浄温。」
度や生分解性等の「様々な基準のうち1以上」が達成すればよいことが
記載されている。また,本願明細書には「本発明のもう1つの目的は,
低い使用温度で大きな界面活性力,水硬度への抵抗性の増加,界面活性
剤系で大きな効力,布帛から脂肪または体汚れの改善された除去性,洗
剤酵素との改善された適合性などを含めて,1以上の利点を有するクリ
ーニング組成物を提供するために,他の界面活性剤と処方しうる中間鎖
分岐一級アルキル界面活性剤の混合物を提供することである(11頁。」
18行∼22行)と記載され「1以上の利点」を有しさえすれば,最,
低限本願発明の課題は解決したといえるのである。
(ウ)本願に対応する出願が米国・欧州で特許されていること
なお,本願のパテントファミリーの出願に関して,諸外国において特
許となったこと(甲6,7参照)は,当業者であれば当然なすべき本願
発明の効果の正当な把握を行った結果であって,諸外国において特許と
なった事実は,本願が旧36条6項1号所定の要件を充足するものであ
ることを間接的に示すものである。
(エ)出願日後の実験成績証明書について
被告は,実験成績証明書(甲4。本願発明の欧州特許出願の際,欧州
特許庁に対し,本願発明の進歩性を裏付ける資料として提出されたもの
の翻訳文。甲8,9参照。以下「甲4実験成績証明書」という)は,。
本件出願後に提出されたものであり,中間鎖分岐一級アルキルサルフェ
ート等を含有する洗剤界面活性剤組成物について,試験をしていない段
階で特許出願をした後にその試験を行い,試験結果を後に提出した可能
性もあり,原則として採用できないものであると主張する。この点,審
決は,甲4実験成績証明書の採用の可否について全く問題にすることな
く,その内容を検討していることから,旧36条6項1号所定の要件の
充足性判断の場面において,これを採用できるとの前提で判断している
ことは明らかである。そして原告は,旧36条6項1号の要件の充足性
判断の場面において,甲4実験成績証明書を採用できるとの審決の判断
については,何ら争うものではないから,この採用の可否は,本件審決
取消訴訟において問題にならず,これを採用できることを前提に,本件
審決の結論に影響する誤りが存在するか否かが検討されるべきである。
したがって,被告の上記主張は本件訴訟において意味のない主張という
べきである。
なお,念のため付言するに,被告の上記主張は,パラメータ発明に関
する知的財産高等裁判所平成17年11月11日判決を念頭に置いたも
のと思われるところ,上記判決は,特許法の目的実現等の観点から,実
験成績証明書により実質的に全く新たな発明が追加される可能性や,発
明の類型毎の性質を考慮のうえ,禁止した場合と許容した場合との比較
衡量を行い,禁止することの利益が大きい類型の特許出願については禁
止し,許容することの利益が大きい類型の特許出願については許容する
との法理を背景とするものと考えられる。
そして,本件のような化学構造によって記載された発明について,特
許出願後に実験成績証明書を提出し,旧36条6項1号のいわゆるサポ
ート要件充足の判断に用いることを許容した場合の弊害は,出願時の明
細書における開示を十分に行うことのインセンティブが低下すること
と,公衆の自由利用の利益を奪うことが考えられる。しかし,化学構造
によって記載された発明に関しては課題解決のための具体的手段がや,(
),や広範な記載である場合があるにせよ特許請求の範囲などに開示され
その開示された具体的手段の範囲内で発明内容の補充ができるにすぎ
ず,その範囲は限定され,公開へのインセンティブの低下は特に大きい
とはいえない。
他方,これを禁止した場合の弊害についてみると,実験成績証明書の
提出を禁止すると,その内容については基本的に公開の機会が失われる
ことになるし,実験成績証明書に記載の内容を別出願とすることで,こ
れを介して公開することを検討しても,具体的手段が既に公開され,特
許取得が困難である以上,別出願自体が期待できない。そうすると,発
明公開が阻害されるという弊害は大きい。また,禁止した場合の弊害と
して,早期出願を阻害する弊害,独創的発明の保護に欠ける弊害,真実
発見を害する弊害,武器対等を害する弊害も認められ(パラメータ発,
明と異なり)これらの弊害を緩和できるような事情もない。
以上のように,化学構造によって記載された発明は,許容した場合の
弊害が小さく,禁止した場合の弊害が大きい。また,類型的に手段の具
体性が高い発明であるため,効果記載が抽象的でも(例えば定性的な記
載「実施者としての当業者」による効果把握は容易であるから産業の),
発達の阻害とはあまりならない類型の発明である。
したがって,化学構造によって記載された発明については,特許出願
後の実験成績証明書の提出が許容されるべきであり,化学構造によって
記載された発明である本願発明においても,甲4実験成績証明書には,
実質的に全く新たな発明が付け加えられている等の事情がないことを併
せ考慮すれば,これをサポート要件充足の判断に用いることは許される
というべきである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
本願の特許請求の範囲の記載は旧36条6項1号に規定する要件を満たして
いない旨の審決の判断は正当であって,原告主張の違法はない。
(1)取消事由の主張アに対し
原告は,洗剤界面活性剤としての性能が定性的にでも記載されてさえいれ
ば,当業者はその化学構造等と洗剤界面活性剤組成物としての性能との対応
,。関係を理解することができると主張するが以下に述べるとおり誤りである
ア本願発明は,低い水温洗浄条件を使う洗濯プロセスに用いること及び生
分解性に優れた洗剤界面活性剤組成物を提供することを目的とするもので
ある。界面活性剤の溶解温度の指標としてクラフト点(界面活性剤は,冷
水ではほとんど溶けないが,一定以上の温度になるとミセルを形成して溶
。。),解度が急激に増大するこの温度をクラフト点という乙1の1があり
良好に洗浄を行うためにはクラフト点以上の温度で行う必要があるから,
低い水温洗浄条件を使う洗濯プロセスでは,クラフト点が低い界面活性剤
が求められる。界面活性剤は,アルキル基等の親油性基とアルコキシル化
サルフェート等の親水性基とからなるが,アルキル基は親油性(疎水性)
基であり,一般的には,アルキル基の炭素数の多いものは,親水性基に比
べて親油性基の比率が高くなるから,水に溶解しにくくなり,クラフト点
は上昇する。逆に親水性の強い置換基を有するものは水には溶解しやすい
から,クラフト点は低くなる傾向がある。直鎖アルキル基を有する界面活
性剤では,炭素数が多くなれば,親油性基の部分が増大するから,クラフ
ト点は上昇する。親水性基であるオキシエチレン基の数が増加すると,親
水性は増大するから,クラフト点は低下する(乙1の3。)
イそして,平成15年(2003年)10月発行の藤本武彦著「全訂版
新・界面活性剤入門(三洋化成工業株式会社発行)23頁(乙2の1)」
には「界面活性剤の洗浄作用は,もっとも重要なものである反面,あま,
りにも複雑な総合作用なので,実際には現在でもまだまだ十分な研究が完
成しておらずと記載されており本願明細書甲1にもK.R.Wormuthand」,()「
S.Zushma,Langmuir,Vol.7,(1991),pp.2048-2053では,Exxonにより作ら
れる高度分岐"Exxal"アルコールから誘導された,特に“分岐Guerbet”
タイプの,いくつかの分岐アルキルサルフェートに関する専門的な研究を
記載している。フェイス研究では,次の高度分岐二重テイル>メチル分»
岐>直鎖のような親油性ランキング,即ち疎水性ランキングを確立した。
その記載によると,分岐界面活性剤は直鎖界面活性剤ほど有効には油およ
»び水を混ぜない。効力ランキングは,直鎖>二重テイル>>メチル分岐
高度分岐である。これらの結果から,分岐アルキルサルフェートで更に改
善させる開発においてどの方向に向かうべきかが直ちにはわからない」。
(9頁10行∼18行)と記載されている。
ウ以上の記載からすれば,中間鎖分岐一級アルキルサルフェート化合物に
,,ついてもその化学構造から洗浄性能は予測できないというべきであるし
そうである以上,置換基Bがアルキルサルフェート化合物以外のものであ
ればなおさらその洗浄性能は予測できないというべきである。たとえ中間
鎖分岐一級アルキルエトキシサルフェート化合物は直鎖状の化合物に比し
てクラフト点が低下するとしても,複雑な界面活性剤の洗浄作用において
は,低温での洗浄効果がどの程度になるかは不明である。
したがって,洗剤界面活性剤としての性能が定性的にでも記載されてさ
えいれば,当業者はその化学構造等と洗剤界面活性剤組成物としての性能
との対応関係を理解することができるという主張は,単なる推測であって
説得力を有するものではない。
エなお,原告は,審判手続において平成18年1月5日に提出した甲4実
験成績証明書において,C16,17中鎖メチル分岐アルコールサルフェ
ート,C17中鎖メチル分岐アルコールサルフェート及び,C18中鎖メ
チル分岐アルコールサルフェートがC18(T)ゲルベアルコールサルフ
ェートに比べて洗浄温度70°F(約21.1℃)で染み除去性が高い旨
のデータを提出しているが,このデータは,置換基Bがアルキルサルフェ
ートである化合物同士を比較したデータであるほか,比較対象がゲルベア
,,ルコールに限られており直鎖アルキルサルフェートの比較データもなく
また,甲4実験成績証明書の「結晶性を乱すための,親水性基から遠い位
置における分岐の不可欠性」の欄(1頁)に記載されたナトリウムx−メ
チルオクタデシルサルフェート(総炭素数19)とアルキル基の炭素数も
異なるものであるから,この試験結果を本願発明の効果として参酌するこ
とはできない。
オまた,甲4実験成績証明書の「結晶性を乱すための,親水性基から遠い
位置における分岐の不可欠性」の欄(1頁)には,ナトリウムx−メチル
オクタデシルサルフェートの親油性基におけるメチル置換基が,水溶液中
でのクラフト点を低下させるデータが提示されている。そこには,メチル
位置が0(メチル基無し)の化合物のクラフト温度が65℃であるのに対
して,メチル位置が2のものが53℃,4のものが28℃,6のものが4
℃であることが示されている。しかし,置換基Bがサルフェート以外の場
合,例えば,アルコキシル化サルフェートの場合,親水基の構造が異なる
から,ミセルの構造も異なる可能性があり,分岐アルキル基の置換位置を
変更することがクラフト点にどのような影響を与えるかは不明である。エ
チレンオキサイド基を3個有するCHO(EO)SONaは,ク183733
183ラフト点が49℃であり,プロピレンオキサイド基を3個有するCH
O(PO)SONaは,クラフト点が41℃であって(吉田時行外3733
名編「新版界面活性剤ハンドブック」工学図書株式会社,昭和62年10
月1日初版発行,45頁〔乙1の3,クラフト点はかなり高温度である〕)
から,分岐アルキル基の置換位置を変更してもクラフト点が余り変化しな
い場合は,低温洗浄条件では,十分な洗浄はできない。
(2)取消事由の主張イに対し
ア組成物につき
原告は,当業者は,本願明細書の記載を読めば,各実施例において「M
BAES」が明細書において記載されている特定の分岐界面活性剤化合物
の中から選択されたものであることを容易に理解することができると主張
する。しかし,直鎖アルキルアルコキシル化サルフェートであってもアル
キル基の炭素数,エトキシ基又はプロポキシ基の数によってクラフト点が
大きく異なるものであり(乙1の3,中間鎖分岐アルキルアルコキシル)
化サルフェートであってもアルキル基の炭素数,エトキシ基又はプロポキ
シ基の数の違いにより,クラフト点その他の性状が大きく異なるものと考
えられ,MBAESがどのような化合物であるか具体的に特定する必要が
あるところ,本願明細書の記載からは「MBAES」としてどのような化
合物を選択したか不明である。
また原告は,洗剤分岐界面活性剤化合物は,単一の化合物ではなく,様
々な化合物の混合物として製造されるのが通常であり,そのため,実施例
においては分岐界面活性剤化合物を「MBAES」等と表現していると主
張するが,たとえ様々な化合物の混合物であるとしても,個々の化合物の
洗浄性能が異なると考えられるのであるから,それら混合物の洗浄性能が
特定できる程度に各化合物の混合割合を提示する必要があり,分岐界面活
性剤化合物の組成が不明である中で「MBAES」を容易に理解できると
の原告の主張は失当である。
さらに原告は,審決が,本願明細書(甲1)の例23(170∼171
頁)について,本件発明1記載の式で示されたアルキル長鎖中間鎖分岐界
面活性剤化合物に該当するか否か不明であるし,同例に記載された洗剤界
面活性剤が,低水温洗浄性及び生分解性についてどの程度の性能を有して
いるか確認できない旨判断したことが誤りであると主張する。しかし,例
23には,使用した中間鎖分岐アルキルエトキシサルフェートとして「M
BAES」と記載されているが,アルキル基の炭素数,置換位置,エトキ
シ基の数によって,界面活性剤としての性質が大きく異なるのであって,
「MBAES」との記載のみでは,どのような中間鎖分岐アルキルエトキ
シサルフェート化合物又は組成物を使用したか特定できないから,実施例
の記載として不適当である。
なお原告は,本願明細書の例5及び例15には,分岐アルコールの総炭
素数,平均分岐数,平均分岐位置及び分岐のタイプが開示されており,ま
た,本願明細書には,本願発明における好ましい化合物がその製造法と枝
分かれ位置が理解できるような表現で記載されるとともに,多数の具体的
な物質名が例示されている旨主張する。しかし,例5には,これらアルコ
ールから製造された中間鎖分岐アルキルサルフェートが配合された洗濯プ
ロトタイプ処方が,例15には,これらアルコールから製造された中間鎖
分岐アルキルアルコキシル化サルフェートが配合された洗濯プロトタイプ
処方が記載されているだけであって,それらの洗浄性能については記載さ
れていないから,原告の主張は当を得ない。
同様に,原告は,本願の例Iから例Ⅶにおいて,いくつかの具体的な分
岐界面活性剤化合物の製造について記載されており,当業者は各実施例に
おいて「MBAES」が明細書において記載されている特定の分岐界面活
性剤化合物の中から選択されたものであることを容易に理解することがで
きるとも主張するが,各例で製造された特定の分岐界面活性剤化合物を実
際に洗剤として使用し,その洗浄性能が示された実施例はないから,上記
主張も当を得ない。
イ低水温洗浄性及び生分解性につき
原告は,本願明細書の発明の背景の項における記載を引用して,本願明
細書において具体的に開示されている物質が低水温洗浄性及び生分解性等
に優れたものであることは,具体的なデータを示すまでもなく当然の前提
となっていると主張する。
しかし,原告が引用する本願明細書の記載は,アルキルサルフェート界
面活性剤組成物に関するものであって,アルキルアルコキシル化サルフェ
ート界面活性剤組成物やその他の本願の請求項1に置換基Bとして記載さ
れた置換基を有する化合物に関するものではない。そして,アルキルアル
コキシル化サルフェート界面活性剤組成物に関する低水温洗浄性の評価
は,上記(1)ウのとおり不明であるし,それ以外の置換基を有する界面活
性剤についても後記(3)のとおり不明である。
また,生分解性についての具体的な試験結果は本願明細書に記載されて
おらず,甲4実験成績証明書においても「生物分解性に対する分岐構造,
の不可欠性」の欄に「本発明の分岐したアルキルサルフェートは,生物,
分解性の必要条件に適合し,世界中で使用できる」と記載されているだ。
けで,本件請求項1に記載された界面活性剤の具体的な試験結果も,置換
基Bを有する直鎖状の界面活性剤等,比較対象となる界面活性剤の具体的
な試験結果も示されていない。したがって,冷却または冷水洗浄条件下で
洗濯製品用に好ましいとの原告の主張は根拠に欠け,具体的に開示されて
いる物質が低水温洗浄性及び生分解性等に優れたものであることは具体的
なデータを示すまでもなく当然の前提となっているとの主張は失当であ
る。
なお,例23に挙げられた洗剤の成分(液相)には,NaC直鎖アル12
キルベンゼンスルホネート(LAS,CEO5アルコールエトキ)12−14
シレート等の界面活性剤が含まれており,これらは程度の差はあっても洗
濯洗剤として洗浄能力を有するものと考えられるから,本願発明の洗浄性
能という観点からは,少なくとも本願発明に係る中間鎖分岐アルキルエト
キシサルフェート化合物又は組成物を含有させた場合と,含有させなかっ
た場合の比較試験結果が必要とされるというべきである。それにもかかわ
らず,例23には「得られた組成物は,標準布帛洗濯操作で用いられた,
ときに,優れたしみおよび汚れ除去性能を発揮する,安定な無水重質液体
洗濯洗剤である(171頁1行∼2行)と記載されているだけであり,。」
この程度の作用効果の記載では本願発明の作用効果を何も開示していない
に等しい。
(3)原告の主張ウに対し
原告は,本願発明の洗剤界面活性剤組成物は,低温,高硬度の水条件など
での洗浄性向上効果が大きく,脂肪汚れ除去に優れ,酵素適合性,生分解性
,,,に優れ処方も容易という優れた特徴を有しておりこのような様々な効果
特に生分解性の改善と処方性の改善効果に対しては,置換基Bはあまり重要
ではなく,置換基Bが本願記載のどのようなものであっても得られるもので
ある旨主張する。
しかし,置換基Bがアルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤の低温その他の洗
浄性能に具体的にどのような影響を及ぼすかは明らかでないが,置換基Bを
変更することによって,アルキル長鎖中間鎖分岐界面活性剤の洗浄性能に影
響を与えることは明らかである。例えば,本願請求項1に記載された置換基
Bがスルホネート(SO)である界面活性剤の場合,同置換基がサルフェ3

ート(OSO)である界面活性剤よりも親水性基がより疎水性であり,ク3

ラフト点は上昇する。直鎖状ヘキサデシル基の場合には,サルフェート界面
活性剤(CHOSONa)では,クラフト点は45℃であるのに対16333
し,スルホネート界面活性剤(CHSON)では,クラフト点は516333
7℃である(乙1の2及び3。炭素数を等しくして中間鎖分岐アルキル基)
とした場合,分岐アルキル基の影響がどの程度のものか明らかではないが,
当該異性体を用いた場合には,クラフト点が上昇する可能性もあり,低温で
の洗浄性能に影響を及ぼす可能性もある。
また,置換基Bがイミダゾリン類の場合,この置換基を有する界面活性剤
(),,は陽イオン系活性剤に分類される乙2の2ところ陽イオン系活性剤は
洗浄力は強くなく,また陰イオン系の界面活性剤とは不溶性の複塩を生成し
(「」て界面活性能力を失うので併用できないなど問題もある辻薦洗浄と洗剤
,,〔〕)。株式会社地人書館1992年10月1日初版第1刷発行45頁乙3
したがって,これらの置換基を有する化合物についても本願発明が作用効果
を有することを示す試験結果又はそれと同視すべき程度の記載が必要である
が,そのような試験結果等は本願明細書には記載されていない。
さらに,本願請求項1には,その他にも置換基Bとして数多くの置換基が
挙げられているが,それらすべてが本願発明において課題とされる洗浄性能
を有すると認められる最低限の試験結果が必要とされるところ,本願明細書
には,請求項1に記載された界面活性剤についての試験結果が記載されてい
ないに等しい。
したがって,置換基Bはあまり重要ではなく,置換基Bが本願記載のどの
ようなものであっても得られるものであるということはできないから,原告
の上記主張は失当である。
(4)原告の主張エに対し
前記(1)ないし(3)で述べたとおりであるが,原告の主張エ(エ)について次
のとおり付加的に反論する。
甲4実験成績証明書は,本件出願後に提出されたものであり,中間鎖分岐
一級アルキルサルフェート等を含有する洗剤界面活性剤組成物について,試
験を実施していない段階で特許出願をした後にその試験を行い,試験結果を
後に提出した可能性もあり,原則として採用できないものである。
特に,本件についていえば,明細書に実施例として,例1∼例25が記載
,,されているが例23を除いて洗剤の配合例が記載されているだけであって
その試験結果は示されていない。そして,例23にしても,分岐界面活性剤
化合物は「MBAES」と記載されているだけであって,界面活性剤の化合
物又は組成物として特定できないものであり,その試験結果は「得られた,
組成物は,標準布帛洗濯操作で用いられたときに,優れたしみおよび汚れ除
去性能を発揮する,安定な無水重質液体洗濯洗剤である」と記載されてい。
るのみである。このような記載に基づいて,数値データが記載された新たな
試験結果を認めるとすれば,未完成発明に対して特許を付与することにもな
りかねないものであるから到底受け入れられるものではない。
しかも,甲4実験成績証明書に試験結果が記載された界面活性剤はすべて
アルキルサルフェート化合物又はカルボン酸化合物であって,サルフェート
基又はカルボキシル基は,本願特許請求の範囲に記載された置換基Bには,
,。該当しない置換基であるから本願発明が特許性を有する根拠とはならない
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審決))
の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2旧36条6項1号の要件充足性について
,,,審決は本願発明は旧36条6項1号の要件を充足しないと判断し原告は
審決の上記判断が誤りであると主張するので,この点について検討する。
(1)本願における特許請求の範囲の請求項1(第1次補正及び第2次補正後の
もの)は,前記第3,1,(2)のとおりである(当事者間に争いがない。)
(2)一方,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本願明細書(甲1)には以下の記
載があることが認められる。
ア発明の分野
「…本発明は洗濯およびクリーニング組成物,特に顆粒および液体洗剤
組成物に有用な中間鎖分岐界面活性剤の混合物に関する。これらのアルキ
ル長鎖界面活性剤混合物は,改善された界面活性剤系を供する目的で,特
に低い水温洗浄条件を使う洗濯プロセスに用いられる洗剤組成物向けで,
他の界面活性剤との処方にも適している(1頁9行∼13行)。」
イ発明の背景
(ア)「慣用的な洗浄界面活性剤は,水溶性置換基(親水基)と親油性置換
()。,基疎水基とを有する分子からできているこのような界面活性剤は
典型的には,約10∼約20の炭素原子を通常含むアルキル,アルケニ
ルまたはアルカリール疎水性部分に結合された,カルボキシレート,サ
ルフェート,スルホネート,アミンオキシド,ポリオキシエチレンなど
のような親水基からできている。したがって,このような界面活性剤の
製造業者は,望ましい親水性部分が化学的手段により結合されうる,疎
。」()水性部分基の供給源を入手しなければならない1頁15行∼21行
(イ)「…疎水性物質の炭素鎖の中心の方で分岐を有する界面活性剤は,か
なり低いクラフト温度を有することが,更にわかった。"TheAqueous
PhaseBehaviorofSurfactants",R.G.Laughlin,AcademicPress,N.Y.
(1994),p.347参照。したがって,このような界面活性剤は,特に冷却ま
たは冷水洗浄条件下(例えば,20∼5℃)で使用上好ましいことがわ
かった(2頁9行∼14行)。」
(ウ)「通常,アルキルサルフェートは洗浄界面活性剤の当業者に周知であ
る。アルキルサルフェートは伝統的な石鹸界面活性剤に対する機能的改
善として開発され,改善された溶解度および界面活性剤特徴を有するこ
とがわかった。直鎖アルキルサルフェートはアルキルサルフェート界面
活性剤の中で最も汎用され,最も入手しやすい。例えば,タローアルキ
ルサルフェートのような長直鎖アルキルサルフェートが洗濯洗剤に用い
。,,,られてきたしかしながらこれらは特に低い洗浄温度傾向のために
。」()重大なクリーニング性能面の制限を有している2頁15行∼21行
(エ)更にR.G.Laughlin,"TheAqueousPhaseBehaviorofSurfactants",「,
AcademicPress,N.Y.(1994),p.347では,分岐がアルキル疎水性部分の
中心の方に2‐アルキル位から移動すると(15%溶液で)クラフト,
温度が低下する,という観察を記載しているが,このような溶解度観察
ではこれら化合物の界面活性力または洗剤組成物中への配合に関するそ
れらの利用性について何も開示していない。実際に,慣例および公開文
献の双方によると,中間鎖領域における分岐の望ましさについてあいま
いである(8頁18行∼下2行)。」
(オ)「…K.R.WormuthandS.Zushma,Langmuir,Vol.7,(1991),pp.2048-2053
,,ではExxonにより作られる高度分岐"Exxal"アルコールから誘導された
特に“分岐Guerbet”タイプの,いくつかの分岐アルキルサルフェート
に関する専門的な研究を記載している。フェイス研究では,次の高度分
岐二重テイル>メチル分岐>直鎖のような親油性ランキング,即ち疎»
水性ランキングを確立した。その記載によると,分岐界面活性剤は直鎖
界面活性剤ほど有効には油および水を混ぜない。効力ランキングは,直
鎖>二重テイル>>メチル分岐高度分岐である。これらの結果から,»
分岐アルキルサルフェートで更に改善させる開発においてどの方向に向
かうべきかが直ちにはわからない(9頁10行∼18行)。」
(カ)「…他に対して1つの純粋な界面活性剤化合物のクリーニング優越性
をどのように発揮させるかという単純な技術的理論からはずれて,洗濯
洗剤用界面活性剤の開発および処方業者は制限された(ときには矛盾し
た)情報から様々な可能性を考え,界面活性剤の複合混合物の存在下に
おける性能,低い洗浄温度の傾向,ビルダー,酵素およびブリーチを含
めた処方の違い,消費者の癖および習慣の様々な違い,および生分解性
の必要性を含めた様々な基準のうち1以上で全体的改善を行えるように
奮闘しなければならない。これらの前置きで示された関係から,洗濯洗
剤およびクリーニング製品向けの改善されたアルキルサルフェートの開
発は明らかに複雑な挑戦である。本発明は,このようなアルキルサルフ
ェート界面活性剤組成物の改善に関する(9頁下7行∼10頁3行)。」
(キ)「以下の開示からわかるように,中間鎖分岐を含んだある比較的長鎖
のアルキルサルフェート界面活性剤組成物は,特に冷却または冷水洗浄
条件下(例えば,20∼5℃)で,洗濯製品用に好ましいことが,意外
にもわかったのである。いかなる単一分岐アルキルサルフェートよりも
界面活性力が高くて,一段と良好な低温水溶性を有した界面活性剤混合
物を供する,これら中間鎖分岐一級アルキルサルフェート界面活性剤の
2種以上の組み合わせが好ましい。製造される混合物は本発明の界面活
性剤混合物で使用上望ましい中間鎖分岐を含むか,または本明細書に開
示された界面活性剤混合物は望ましい量の個別的中間鎖分岐界面活性剤
を混合することにより処方できる。このように優れた混合物は他の中間
鎖分岐界面活性剤との組合せに限定されず(好ましくは)それらは1,
種以上の他の伝統的な洗剤界面活性剤(例えば,他の一級アルキルサル
フェート,直鎖アルキルベンゼンスルホネート,アルキルエトキシル化
サルフェート,ノニオン性界面活性剤など)と適切に組み合わせて,改
善された界面活性剤系を提供してもよい(10頁4行∼16行)。」
(ク)「したがって,本発明の目的は,クリーニング組成物で有用な14.
5より多い炭素原子を有した中間鎖分岐一級アルキルサルフェート界面
活性剤を提供することである。本発明のもう1つの目的は,低い使用温
度で大きな界面活性力,水硬度への抵抗性の増加,界面活性剤系で大き
な効力,布帛から脂肪または体汚れの改善された除去性,洗剤酵素との
改善された適合性などを含めて,1以上の利点を有するクリーニング組
成物を提供するために,他の界面活性剤と処方しうる中間鎖分岐一級ア
ルキル界面活性剤の混合物を提供することである(11頁16行∼2。」
2行)
ウ背景技術
「前記のように,R.G.Laugh1in,"TheAqueousPhaseBehaviorof
Surfactants"界面活性剤の水相挙動,AcademicPress,N.Y.(1994),p.347()
では,分岐が2‐アルキル位からアルキル疎水性部分の中心方向に移動す
るほど,クラフト温度が低下する,という観察について記載している。
Fingeretal.,"Detergentalcohols‐theeffectofalcoholstructure
andmolecularweightonsurfactantproperties"(洗剤アルコール‐界面
活性剤の性質に対するアルコール構造および分子量の効果),J.Amer.Oil
Chemists'Society,Vol.44,p.525(1967)およびTechnicalBulletin,Shell
ChemicalCo.,SC:364-80も参照(12頁下11行∼下4行)」
エ発明の具体的な説明
発明の具体的な説明(18頁1行∼)には「本発明は前記のような中,
間鎖分岐界面活性剤化合物を含んだ界面活性剤混合物に関する。…本発明
によるクリーニング組成物で有用な好ましい分岐界面活性剤組成物は,以
下で更に詳細に記載されている18頁2行∼下3行としてその(1)。」(),
〔18∼27頁〕に「中間鎖分岐一級アルキルサルフェート界面活性剤」
の組成が,その(2)〔27∼33頁〕に「中間鎖分岐一級アルキルポリオ
キシアルキレン界面活性剤の組成がその(3)33頁∼40頁に中」,〔〕「
」,間鎖分岐一級アルキルアルコキシル化サルフェート界面活性剤の組成が
それぞれ記載されているが,いずれの記載においても,その組成が低水温
洗浄性及び生分解性に及ぼす効果についての言及は見当たらない。
オ中間鎖分岐界面活性剤の製造
中間鎖分岐界面活性剤の製造(40頁下4行∼)には「下記例は本発,
明の組成物で有用な様々な化合物の合成方法を示している(44頁下6。」
行)として,例Ⅰ∼例Ⅶの具体的製造例が記載されている。このうち,中
間鎖分岐一級アルキルエトキシレートサルフェート界面活性剤の具体的製
(),造例が例I∼例Ⅳとして記載されている44頁下5行∼53頁末行が
いずれの記載においても,これらが低水温洗浄性及び生分解性に及ぼす効
果についての言及は見当たらない。
カ産業上の利用可能性
産業上の利用可能性(56頁下6行∼)には「本タイプの分岐鎖一級,
アルキル界面活性剤は,あらゆる種類のクリーニング組成物に用いること
ができる。そのため本発明の洗剤組成物は追加洗剤成分を含有していても
よい。これら追加成分の正確な性質およびその配合レベルは,組成物の物
,。理的形態とそれが用いられるクリーニング操作の正確な性質に依存する
長鎖誘導体ほど予想より可溶性であり,短鎖誘導体ほど予想より良くきれ
いにする。クリーニング組成物には,顆粒,固形および液体洗濯洗剤;液
体手皿洗い組成物;液体,ゲルおよび固形パーソナルクレンジング製品;
シャンプー;歯磨剤;硬質表面クリーナーなどがあるが,それらに限定さ
れない。このような組成物は様々な慣用的洗浄成分を含有することができ
る(56頁下5行∼57頁4行)との記載とともに,追加成分として,。」
漂白剤,酵素,酵素安定化系等に関する記載があるが,いずれの記載にお
いても,本願発明の組成が低水温洗浄性及び生分解性に及ぼす効果につい
ての言及は見当たらない。
キ組成物の形態,中間鎖分岐一級アルキル界面活性剤凝集粒子
組成物の形態(124頁下8行∼,中間鎖分岐一級アルキル界面活性)
剤凝集粒子(125頁下6行∼)には「本発明による組成物は,顆粒,,
錠剤,固形物および液体形態を含めた様々な物理的形態をとることができ
る。その組成物は,汚れた洗濯物の入った機械ドラムに置かれた分配装置
により洗濯機に加えられるように調整された,特にいわゆる濃縮顆粒洗剤
組成物である(124頁下7行∼下4行)など,組成物の形態に関する。」
記載があるが,いずれの記載においても,本願発明の組成が低水温洗浄性
及び生分解性に及ぼす効果についての言及は見当たらない。
ク洗濯洗浄法
洗濯洗浄法(126頁14行∼)には,以下のような記載がある。
「記載されたように,中間鎖分岐一級アルキル界面活性剤は,クリーニ
ング性能について少くとも指向的な改善を行うために有効なレベルで,好
ましくは他の洗浄界面活性剤と組み合わせて,洗剤組成物で用いられる。
布帛洗濯組成物の関係で,このような“使用レベル”は,汚れおよびしみ
のタイプおよび程度だけでなく,洗浄水温度,洗浄水の容量および洗濯機
のタイプにも依存して変動する(126頁下6行∼下2行)。」
「例えば,洗浄浴中で約45∼83ℓの水,約10∼約14分間の洗浄
サイクルおよび約10∼約50℃の洗浄水温度を用いたトップローディン
グ(top-loading)垂直軸U.S.タイプ自動洗濯機において,洗浄液中に
約2∼約625ppm,好ましくは約2∼約550ppm,更に好ましく
は約10∼約235ppmの中間鎖分岐一級アルキル界面活性剤を含有さ
せることが好ましい。…(126頁末行∼127頁4行)」
「例えば,洗浄浴中で約8∼15ℓの水,約10∼約60分間の洗浄サ
イクルおよび約30∼約95℃の洗浄水温度を用いたトップローディング
垂直軸ヨーロッパタイプ自動洗濯機において,洗浄液中に約3∼約14,
000ppm,好ましくは約3∼約10,000ppm,更に好ましくは
約15∼約4200ppmの中間鎖分岐一級アルキル界面活性剤を含有さ
せることが好ましい。…(127頁16行∼20行)」
「例えば,洗浄浴中で約26∼52ℓの水,約8∼約15分間の洗浄サ
イクルおよび約5∼約25℃の洗浄水温度を用いたトップローディング垂
直軸日本タイプ自動洗濯機において,洗浄液中に約0.67∼約270p
pm,好ましくは約0.67∼約236ppm,更に好ましくは約3.4
∼約100ppmの中間鎖分岐一級アルキル界面活性剤を含有させること
が好ましい。…(128頁7行∼11行)」
「前記からわかるように,機械洗浄洗濯関係で用いられる中間鎖分岐一
級アルキル界面活性剤の量は,ユーザーの癖および習慣,洗濯機のタイプ
などに応じて変動する。しかしながら,この関係において,中間鎖分岐一
級アルキル界面活性剤のこれまで知られていなかった1つの利点は,最終
組成物で他の界面活性剤(通常,アニオン系またはアニオン系/ノニオン
系混合物)に対して比較的低いレベルで用いられたときでも,広範囲の汚
れおよびしみにわたり性能上少くとも指向的な改善を行えるそれらの能力
である(128頁下3行∼129頁4行)。」
以上のように洗浄水温度に関係する記載があるが,いずれの記載におい
ても,本願発明の組成が低水温洗浄性及び生分解性に及ぼす効果について
の言及は見当たらない。
ケ機械皿洗い法,組成物のパッケージング
130頁以下の「機械皿洗い法,131頁以下の「組成物のパッケー」
ジング」のいずれの記載においても,本願発明の組成が低水温洗浄性及び
生分解性に及ぼす効果についての言及は見当たらない。
コ実施例
(ア)本願明細書131∼134頁には実施例に用いられる略語の説明があ
り「MBASx」は中間鎖分岐一級アルキル(平均総炭素=x)サル,
フェートの略「MBAE」は中間鎖分岐一級アルキルエトキシレート,
(E=9,平均総アルキル炭素=15)の略「MBAExSz」は中,
間鎖分岐一級アルキル(平均総炭素=z)エトキシレート(平均EO=
x)サルフェート,ナトリウム塩の略である旨が記載されている。
なお,実施例1∼22は水分を含有した洗剤組成物に関するものであ
り,実施例23∼25は非水性洗剤組成物に関するものである。
(イ)例1∼例8(134頁下2行∼145頁)としては「MBAS」すな
わち中間鎖分岐一級アルキルサルフェートを配合した実施例が記載され
ている(なお,例5〔139∼141頁〕は洗濯プロトタイプ処方の溶
液の製造に関する実施例。)
(ウ)例17∼例22(155頁下2行∼161頁下4行)には「MBA,
E」すなわち中間鎖分岐一級アルキルエトキシレートを配合した実施例
が記載されている。
(エ)例9∼例16(146頁1行∼155頁下3行)には,実施例9ない
し12については「MBAE0.5S(平均総炭素=16.5,実施)」
例13及び14については「MBAExS(x=1.8−2.5;アル
キル基の平均総炭素14.5−15.5,実施例15及び16につい)」
ては「C16∼18分岐エトキシレート(E2)サルフェート,ナトリ
」,ウム塩すなわち中間鎖分岐一級アルキルエトキシレートサルフェート
ナトリウム塩を配合した実施例が記載されている(なお,例15,例1
6〔153頁∼155下3行〕は洗濯プロトタイプ処方の溶液の製造に
関する実施例。いずれの実施例においても,配合例が記載されるだけ)
で試験結果は記載されておらず,その組成が低水温洗浄性及び生分解性
に及ぼす効果についての言及は見当たらない。
(オ)例23(170頁5行∼171頁2行)には「MBAES」すなわち
中間鎖分岐一級アルキルエトキシレートサルフェート,ナトリウム塩を
配合した実施例が記載されているほか「得られた組成物は,標準布帛,
洗濯操作で用いられたときに,優れたしみおよび汚れ除去性能を発揮す
る,安定な無水重質液体洗濯洗剤である(171頁1行∼2行)との。」
記載がある。
(カ)例24,例25(171頁3行∼172頁末行)には「MBAES」
すなわち中間鎖分岐一級アルキルエトキシレートサルフェート,ナトリ
。,ウム塩を配合した実施例が記載されているいずれの実施例においても
配合例が記載されるのみで試験結果は記載されておらず,その組成が低
水温洗浄性及び生分解性に及ぼす効果についての言及は見当たらない。
(3)上記(2)認定の本願明細書の記載によれば,本願発明は,洗濯及びクリー
ニング組成物,特に顆粒および液体洗剤組成物に有用な中間鎖分岐界面活性
剤の混合物に関するもので,特に低い水温洗浄条件を使う洗濯プロセスに用
いられる洗剤組成物向けで,他の界面活性剤との処方にも適するものを提供
しようというものであること(上記(2)ア,本願発明の背景には,慣用的な)
洗浄界面活性剤は,典型的には,約10∼約20の炭素原子を通常含むアル
キル,アルケニルまたはアルカリール疎水性部分に結合された,カルボキシ
レート,サルフェート,スルホネート,アミンオキシド,ポリオキシエチレ
ンなどの親水基からできているところ(同イ(ア),疎水性物質の炭素鎖の中)
心の方で分岐を有する界面活性剤は,かなり低いクラフト温度を有すること
が明らかとなっており,このような界面活性剤は,特に冷却または冷水洗浄
条件下例えば5℃∼20℃で使用上好ましいことが判明していたが同(,)(
(イ),他方,直鎖アルキルサルフェートは,アルキルサルフェート界面活性)
剤の中で最も汎用され,最も入手しやすいものの,特に低い洗浄温度傾向の
ために重大なクリーニング性能面の制限を有していること(同(ウ),また,)
分岐がアルキル疎水性部分の中心の方に2‐アルキル位から移動すると,ク
ラフト温度が低下するという観察があるものの,慣例および公開文献の双方
によると,中間鎖領域における分岐の望ましさについてあいまいであること
(同(エ))といった事情があるなどからして,分岐アルキルサルフェートで
更に改善させる開発においてどの方向に向かうべきかが直ちにはわからない
(同(オ))といった背景があったこと,そのため,洗濯洗剤用界面活性剤の
開発および処方業者は制限された(ときには矛盾した)情報から様々な可能
性を考え,界面活性剤の複合混合物の存在下における性能,低い洗浄温度の
傾向,ビルダー,酵素およびブリーチを含めた処方の違い,消費者の癖およ
び習慣の様々な違い,および生分解性の必要性を含めた様々な基準のうち1
以上で全体的改善を行えるように奮闘しなければならないとの状況下にあっ
たこと(同(カ),これらを踏まえて,本願発明の目的とされたものは,低い)
使用温度で大きな界面活性力,水硬度への抵抗性の増加,界面活性剤系で大
きな効力,布帛から脂肪または体汚れの改善された除去性,洗剤酵素との改
善された適合性などを含めて,1以上の利点を有するクリーニング組成物を
提供すること(同(ク))であると認められるが,本願明細書上,本願発明の
低水温洗浄性及び生分解性に及ぼす効果についての言及は実施例23に得,「
られた組成物は,標準布帛洗濯操作で用いられたときに,優れたしみおよび
汚れ除去性能を発揮する,安定な無水重質液体洗濯洗剤である」との記載。
(上記(2)コ(オ))があるのを除き,見当たらない。
(4)ところで,旧36条6項は「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は,,
次の各号に適合するものでなければならない」と規定し,その1号におい。
て「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである,
こと」と規定している(以下「明細書のサポート要件」という。。。)
,,,特許制度は発明を公開させることを前提に当該発明に特許を付与して
一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もっ
て,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そ
して,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書
は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成
立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにすると
いう役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特
許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決
できることを当業者において認識できるように記載しなければならないとい
うべきである。旧36条6項1号の規定する明細書のサポート要件が,特許
請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記
載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明に
ついて独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由
利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特
許制度の趣旨に反することになるからである。
そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否
かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請
求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明
の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識でき
る範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願
時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの
であるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで,上記の観点に立って,以下,本件について検討する。
(5)本願発明の目的は,上記(2)及び(3)に述べたとおり,低い使用温度で大き
な界面活性力,水硬度への抵抗性の増加,界面活性剤系で大きな効力,布帛
から脂肪または体汚れの改善された除去性,洗剤酵素との改善された適合性
などを含めて,1以上の利点を有するクリーニング組成物を提供する点にあ
ると認められ,これに生分解性に関する上記(2)イ(カ)の記載を併せ考慮すれ
ば,本願発明の解決すべき課題に低水温洗浄性及び生分解性が含まれること
は明らかであるから,発明の詳細な説明には,本願発明がこれらの性能にお
いて有効であることが客観的に開示される必要があるというべきである。
この点,上記(2)のとおり,本願明細書上,具体例として例Ⅰ∼例Ⅶ,例
1∼例25が挙げられているところ,このうち例1∼例8(上記(2)コ(イ))
は置換基Bがサルフェートである化合物の実施例であり例17∼例22同,(
(ウ))は置換基Bがエトキシレートである化合物の実施例であるから,いず
れも本願発明1における置換基Bの要件を満たさず,本願発明1の実施例と
いうことはできない。他方,例Ⅰ∼例Ⅳは,置換基Bがサルフェート及びア
ルコキシル化サルフェートである化合物の合成方法が記載されており,置換
基Bの要件は満たすものの,それを洗剤界面活性剤組成物として使用した場
合の性能については何も記載されていない(上記(2)オ。また,例9∼例1)
6,例23∼例25は,いずれも置換基Bがアルコキシル化サルフェートで
ある化合物の実施例であり,置換基Bの要件は満たすものの,例23を除い
ては成分の配合例が記載されるだけであって,低水温洗浄性及び生分解性に
及ぼす効果についての言及がない(上記(2)コ(エ),(カ)。)
さらに,例23については,その非水性液体洗剤の組成としては「MBA
ES」と記載されているだけである(同上。この「MBAES」は,中間)
鎖分岐一級アルキル(平均総炭素=z)エトキシレート(平均EO=x)サ
ルフェート,ナトリウム塩の略である「MBAExSz(上記(2)コ(ア))」
を指すものと解されるが,本願明細書(甲1)には「3)中間鎖分岐一級,(
アルキルアルコキシル化サルフェート(33∼40頁)において多数の化」
合物が例示され「中間鎖分岐界面活性剤の製造(40∼56頁)の例Ⅰ∼,」
例Ⅳにおいて「中間鎖分岐一級アルキルアルコキシル化サルフェート」に該
,「」当する具体的な化合物の製造方法が記載されており例23のMBAES
の記載だけでは,例示された上記の化合物のいずれに該当するのか不明であ
,,,ってその構成元素化学構造式などの具体的な技術的事項が不明であるし
ひいてはこれが本願発明1の化合物の要件に合致する化学構造を有するもの
であるのかも不明といわざるを得ない。また,例23の洗剤界面活性剤組成
物の性能については「得られた組成物は,標準布帛洗濯操作で用いられた,
ときに,優れたしみおよび汚れ除去性能を発揮する,安定な無水重質液体洗
濯洗剤である(上記(2)コ(オ))との記載があるものの,この記載からは低。」
水温洗浄性及び生分解性に関する具体的な評価を導くことはできない。
(6)以上述べたところに照らせば,本願発明の詳細な説明には,当業者(その
発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が本願発明1の組
成物が発明の課題である低水温洗浄性及び生分解性を解決できるものである
と認識できるに足る記載(旧36条4項参照)を欠いているといわざるを得
ない。
そうすると,本願発明1の特許請求の範囲の記載を引用して成る本願発明
2ないし4及びこれらを更に引用して成る本願発明5ないし9についても,
本願発明1と同様に解すべきことになる。
したがって,本願発明に係る本願明細書の特許請求の範囲の記載は,旧3
6条6項1号の規定に違反するというべきであるから,これと同旨の審決の
判断に誤りはない。
3原告の主張についての補足的説明
(1)原告は,本願が旧36条6項1号に規定する要件を満たしているというた
めには,洗剤界面活性剤としての性能が定性的にでも記載されていれば足り
ると主張する(上記第3の1(4)ア。)
しかし,上記2(2)及び(3)に認定したとおり,本願発明の背景として,分
岐がアルキル疎水性部分の中心の方に2‐アルキル位から移動すると,クラ
フト温度が低下するという観察があるものの,慣例および公開文献の双方に
よると,中間鎖領域における分岐の望ましさについてあいまいであり(上記
2(2)イ(エ),分岐アルキルサルフェートで更に改善させる開発においてど)
の方向に向かうべきかが直ちにはわからない状況にあった(同(オ))という
のであり,これらの事情にかんがみれば,本願発明に係る洗剤界面活性剤の
組成等を定性的に記載するのみでは,当業者が低水温洗浄性能等の本願発明
の課題の解決について具体的に認識することは困難といわざるを得ない。し
たがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2)原告は,実施例23における「MBAES」との記載に関し,本願明細書
の例5及び例15には,界面活性剤化合物の製造に用いられる分岐アルコー
ルの総炭素数,平均分岐数,平均分岐位置及び分岐のタイプが開示されてい
るし,本願明細書には,本願発明における好ましい化合物が洗剤分野の当業
者であればその製造法と枝分かれ位置が理解できるような表現で記載されて
いるとともに,多数の具体的な物質名が例示されている上,本願明細書の例
Ⅰから例Ⅶにおいて,いくつかの具体的な分岐界面活性剤化合物の製造につ
いて記載されているから,当業者は,本願明細書全体の記載を読めば,各実
施例において「MBAES」と省略されて記載されている物質が本願明細書
に記載されている特定の分岐界面活性剤化合物の中から選択されたものであ
()。ることを容易に理解することができると主張する上記第3の1(4)イ(ア)
しかし,前記第3の1(4)イ(ア)の原告の主張によれば「MBAES」に,
該当する洗剤分岐界面活性剤化合物は単一の化合物ではなく,様々な化合物
の混合物として製造されるのが通常というのであるから,実施例23の「M
BAES」について具体的な製造条件が開示されなければ,当業者は本願発
明1の化合物であることを理解することは困難というべきであって,このこ
とは,実施例23とは異なる実施例についてその製造法と枝分かれ位置が理
解できるような表現で開示されていたとしても同様といわざるを得ない。し
たがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3)原告は,本願明細書において具体的に開示されている物質は,低水温洗浄
性及び生分解性等に優れたものであることが当然の前提となっており,各実
施例においても,低水温洗浄性及び生分解性に優れていることは,具体的な
データを示すまでもなく当然の前提となっていると主張する(上記第3の1
(4)イ(イ)。)
しかし,上記(1)に述べたとおり,本願発明の背景にかんがみれば,本願
発明に係る洗剤界面活性剤の組成等を定性的に記載するのみでは,当業者が
低水温洗浄性能等の本願発明の課題の解決について具体的に認識することは
困難といわざるを得ないのであって,これを当然の前提として記載を省略す
ることは許されないというべきである。したがって,原告の上記主張は採用
することができない。
,,(4)原告は本願発明の置換基Aは実質的にジェミナル炭素原子を含まないb
すなわち,2個の置換基が同一の炭素に存在するものを実質的に含まないも
のであり,このような本願発明の洗剤界面活性剤組成物は,低温,高硬度の
,,,水条件などでの洗浄性向上効果が大きく脂肪汚れ除去に優れ酵素適合性
生分解性に優れ,処方も容易という優れた特徴を有しており,このような様
々な効果,特に生分解性の改善と処方性の改善効果に対しては,置換基Bは
あまり重要ではなく,置換基Bが本願発明記載のどのようなものであっても
得られるものであると主張する(上記第3の1(4)ウ,エ。)
,,,しかし本願発明1は置換基Bの存在を構成要素とするものである以上
これが本願発明の課題の解決に全く影響を与えないとは考え難いところであ
,,,るしまた置換基Bの重要性について原告の主張のように解したとしても
それからなる洗剤界面活性剤組成物の低水温洗浄性及び生分解性につき本願
明細書は何ら開示するところがないことは上記2で述べたとおりである。し
たがって,原告の上記主張は採用することができない。
(5)原告は,本願発明の課題は,飽くまでも従来技術との対比の視点から把握
される相対的なものであるから,低温溶解性に関していえば,対比されるべ
き従来の組成物より低温で溶解するものであれば,その温度が例えば50℃
,,等低温とはいえないものであっても課題を解決したと把握するものであり
当業者であれば,本願発明の特定のA基とB基を含む界面活性剤を含む洗b
剤界面活性剤組成物が,本願発明以外のA基とこの本願発明の界面活性剤b
に対応するB基を含む界面活性剤を含む従来の洗剤界面活性剤組成物と比較
して,低温洗浄性(低温溶解性)を有し,本願発明の課題が解決できること
を認識できると主張する(上記第3の1(4)オ(ア)。)
しかし,上記2(2)イ(キ)に「以下の開示からわかるように,中間鎖分岐を
含んだある比較的長鎖のアルキルサルフェート界面活性剤組成物は,特に冷
却または冷水洗浄条件下(例えば,20∼5℃)で,洗濯製品用に好ましい
ことが意外にもわかったのであると認定したとおり本願明細書は冷,。」,「
却または冷水洗浄条件」の例として5℃∼20℃を挙げていることからすれ
ば,本願発明の課題である低水温洗浄性は,一定の低水温を指向しているも
のとみるのがむしろ自然であって,単に従来の洗剤界面活性剤組成物と比較
して相対的に低温洗浄性(低温溶解性)を有することで足りると理解するこ
とは困難である。
この点,原告は,本願明細書における「例えば,洗浄浴中で約8∼15ℓ
の水,約10∼約60分間の洗浄サイクルおよび約30∼約95℃の洗浄水
温度を用いたトップローディング垂直軸ヨーロッパタイプ自動洗濯機におい
て…(上記2(2)ク)との記載における「約95℃」との記載を根拠として」
挙げるが,上記「約30∼約95℃」との温度は,ヨーロッパタイプの自動
洗濯機における通常の洗浄水温度を例示したものにすぎないというべきであ
って(ちなみに,上記2(2)クにおいて,U.S.タイプ自動洗濯機の洗浄
水温度は「約10∼約50℃,日本タイプ自動洗濯機の洗浄水温度は「約」
5∼約25℃」とされている,本願発明の課題である低水温洗浄性という。)
意味では,むしろ下限である「約30℃」付近を指すものと理解することが
できる。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(6)原告は,低温洗浄性は,本願発明の解決課題の選択肢の1つにすぎないか
ら,仮に本願明細書に低温洗浄性についての記載がなくても,生分解性につ
いての記載があれば本願発明の課題は解決するというべきであるとして,生
分解性に関する本願明細書の記載を挙げる(上記第3の1(4)オ(イ)。)
しかし,原告が挙げる本願明細書の記載に加えて,上記2(1)ア,イ(イ)∼
(エ),(キ),ウの記載を併せ考慮すれば,本願発明の組成物が主に低水温洗浄
性に力点を置いているのは明らかであるし,他方,本願明細書(甲1)にお
ける「分岐は主にモノメチルであるが,一部ジメチルおよび一部エチルの,
分岐が存在してもよい。有利には,このようなプロセスではほとんど(1%
以下)gem-分岐を,即ち,あるにしても,ほとんど“四級”炭素置換を起こ
さない。更に,ほとんど(約20%以下)vic-分岐も起きない。もちろん,
後のオキソプロセスに用いられる全原料のうち一部(約20%)は未分岐の
ままでよい。典型的には,好ましくは,クリーニング性能および生分解性の
観点から,このプロセスでは平均分岐数(最長鎖ベース)で0.4∼2.5
範囲のα‐オレフィンを提供するが,分岐物質のなかで,分岐物質の最長鎖
の炭素1,2または末端(オメガ)炭素に分岐は本質的に存在しない(1。」
1頁1行∼10行)との生分解性に関する記載からすれば,生分解性につい
ては好ましい性能として付加されたものと認められ,さらに,本願明細書の
記載上,生分解性についての実験データ等について具体的な記載がないこと
は上記2で述べたとおりであるから,いずれにせよ,当業者が生分解性につ
いての課題の解決について認識できるものではない。したがって,原告の主
張は採用することができない。
(7)原告は,甲4実験成績証明書は本件出願後に提出されたものであるが,被
告の対応等にかんがみれば,旧36条6項1号の要件充足性判断の場面にお
いては,これを採用できることを前提に,本件審決の結論に影響する誤りが
存在するか否かを検討すべきであると主張する(上記第3の1(4)オ(エ)。)
しかし,甲4実験成績証明書には,①「結晶性を乱すための,親水性基か
ら遠い位置における分岐の不可欠性」として,クラフト温度,脂肪酸融点,
硬度寛容点に関する測定結果が記載され1頁12行∼2頁下1行②効(),「
果的な表面活性を維持するために分岐中に必要な炭素を制限することの不可
欠性」として,臨界ミセル濃度に関する測定結果が記載され(3頁1行∼5
頁1行,③「性能に対する分岐の種類および位置の不可欠性」として,染)
み除去性能に関する測定結果が記載され(5頁2行∼7頁下8行,④「生)
物分解性に対する分岐構造の不可欠性」として,従来技術が記載されている
(7頁下7行∼下1行)ものの,そこで本願発明の化合物として用いられた
化合物はいずれも置換基Bがサルフェートである化合物であって,本願発明
における置換基Bには該当しない。
そうすると,甲4実験成績証明書によっては本願発明の効果を確認するに
足りる試験データとなり得ないことは明らかであるから,特許出願後に提出
された甲4実験成績証明書の採否について論ずるまでもなく,原告の上記主
張は採用することができない。
4結論
以上のとおりであるから,その余について判断するまでもなく,原告主張の
取消事由は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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