弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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           主        文
 1 被告らは,原告に対し,連帯して2228万3638円及びうち1205万
0940円に対する平成9年5月8日から,うち313万2144円に対する同年
8月28日から,うち710万0554円に対する平成10年8月14日から,各
支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。
 2 訴訟費用は被告らの負担とする。
 3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
   ただし,被告Aが800万円の担保を供するときは,同被告はその仮執行を
免れることができ,被告国が800万円の担保を供するときは,同被告はその仮執
行を免れることができる。
           事実及び理由
第1 請求
   主文第1,2項同旨
第2 事案の概要
   本件は,別紙簡易生命保険目録記載の各保険契約の満期保険金受取人ないし
保険金受取人の各名義人である原告が,同居の妹である被告Aが原告に無断で各保
険金の支払請求をしてこれを受領したとして,同被告に対し,不法行為(民法70
9条)に基づき,各保険金額相当の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めるととも
に,それに対応する被告国(郵便局)の各担当者の支払手続において,被告Aの代
理権限の確認を怠るなどの過失があったとして,被告国に対し,使用者責任(同法
715条)に基づき,各保険金額相当の損害賠償及び遅延損害金の支払(被告Aと
連帯)を求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
  原告及び被告Aは,訴外B・同Cの子で,被告Aは原告の妹である。なお,B
は,昭和20年6月に死亡した。
(2) 保険金受取人の名義
  別紙簡易生命保険目録記載1及び2の各保険契約の満期保険金受取人の名義,
並びに,同目録記載3の保険契約の保険金受取人の名義はいずれも原告であった
(以下,各保険契約を「保険1」,「保険2」,「保険3」といい,併せて「本件
各保険」という。)。
(3) 被告Aによる保険金の受領
  被告Aは,郵便局の職員に対し,本件各保険の保険証書を提出するなどの手続
を行い,以下のとおり保険金を受領した。
 ア 保険1
   被告Aは,平成9年5月7日,原告方において,D郵便局の外務職員Eか
ら,保険1の満期保険金1205万0940円を受領した。
 イ 保険2
   被告Aは,平成9年8月27日,D郵便局窓口において,同局の内務職員F
から,保険2の満期保険金313万2144円を受領した。
 ウ 保険3
Cは平成10年8月13日に死亡したところ,被告Aは,同日,D郵便局窓口にお
いて,同局の内務職員Gから,保険3の死亡保険金710万0554円を受領し
た。
 2 争点及び当事者の主張
  (1) 被告Aの原告に対する不法行為責任(民法709条)の有無
(原告の主張)
 原告は,平成4年4月2日に本件各保険の保険証書をCに預けていたところ,C
と同じ部屋に住んでいた被告Aは,Cが保管していた同各保険証書と原告の印鑑を
窃取し,原告に無断で本件各保険の保険金を受領した。したがって,被告Aは,原
告に対し,不法行為に基づき,原告が被った各保険金相当額の損害賠償義務を負
う。
(被告Aの主張)
本件各保険はいずれも,Cが,自己の財産の蓄財方法として形式上原告名義を使
用したにすぎず,契約の締結,保険料の支払及び保険証書の管理はいずれもCが行
っていたものであって,原告名義で受領した各保険金は実質的に全てCの財産であ
る。Cは,病気の具合が悪くなった平成8年ころから,同人と同居してその面倒を
見ていた被告Aに預貯金通帳や保険証書等を預け,必要な手続を同被告に委任し,
同被告がこれを行ってきた。保険1及び2の各満期保険金の受領も,被告AがCに
委任されてしたものであって,何ら原告の財産を侵害するものではない。
 また,Cは,当時居住していた家の維持管理等のため,遅くとも平成8年秋ころ
までに,保険3に基づく権利を被告Aに死因贈与した。仮にそうでないとしても,
Cは,被告Aに対し,保険3に基づく権利を,家の維持管理等の費用として使用す
るよう委任したものであって,被告Aによる死亡保険金の受領は,何ら原告の財産
を侵害するものではない。
  (2) 被告国の原告に対する不法行為責任(民法715条)の有無
ア 保険1について
 (原告の主張)
Eは,保険1の契約者,被保険者及び満期保険金受取人がその保険証書にいずれ
も原告と表示されているにもかかわらず,正当な権利者である原告に何ら確認する
ことなく,漫然と満期保険金を被告Aに交付した。したがって,Eは,原告に対
し,不法行為に基づき,原告が被った同満期保険金相当額の損害を賠償すべき義務
があり,Eの使用者である被告国は,使用者責任を負う。
 (被告国の主張)
(ア) 被告Aが正当な権利者であった場合
被告Aへの支払により保険金請求権は消滅し,何ら原告の財産を侵害するものでは
ない。
(イ) 原告が正当な権利者であった場合
Eは,保険1の満期保険金の支払手続のため,同保険金の支払事由発生日である平
成9年5月7日の数日前に原告宅を訪問したところ,原告はどこにいたのか分から
ないが,対応した被告Aは,原告の保険の管理は任されていると述べて,直ちに当
該保険証書を提示した。そこで,Eは,被告Aが原告の使者であると信じ,被告A
から当該保険証書の提出を受けるとともに,保険金等受領証の受領者欄に原告の住
所・氏名を記入してもらい,これを提出させた。Eは,これらの書類に基づき内部
手続を行い,平成9年5月7日,満期保険金を原告宅に持参したところ,被告Aが
対応したが,同人が原告の使者であると信じていたため,同人から保険金等受領証
に押印をもらい,同保険金を交付した。
以上によれば,被告Aは,①通常は正当な権利者しか知り得ないはずの保険契約の
内容(満期による支払事由の発生)を知っており,②正当な権利者が保管している
はずの当該保険証書を直ちに提示し,③原告の自宅における対応であることなどの
情況から,原告の使者であると信じさせるに足りる外観を備えていた上,簡易生命
保険法及び養老保険約款所定の必要書類を提出して満期保険金の請求手続をしたの
であるから,これに応じたEに過失はなく,その支払は民法478条により有効で
あって,原告に対する不法行為は成立しない。
イ 保険2及び3について
(原告の主張)
 F及びGは,保険金等受領証の字体と委任状又は委任欄の字体が同一又は同一と
疑われる場合であるにもかかわらず,正当な権利者である原告に何ら確認すること
なく,被告Aが偽造した委任状に基づき,Fは保険2の満期保険金を,Gは保険3
の死亡保険金を,いずれも漫然と被告Aに交付した。したがって,F及びGは,原
告に対し,不法行為に基づき,それぞれ原告が被った各保険金相当額の損害を賠償
すべき義務があり,F及びGの使用者である被告国は,使用者責任を負う。
(被告国の主張)
(ア) 被告Aが正当な権利者であった場合
  被告Aへの支払により各保険金請求権は消滅し,何ら原告の財産を侵害するも
のではない。
(イ) 原告が正当な権利者であった場合
F及びGは,郵便局窓口において,簡易生命保険法及び保険約款(保険2につい
ては養老保険約款,保険3については終身保険約款)所定の各保険証書,原告名義
の被告A宛委任状,保険金等受領証等の必要書類の提出を受け,保険金等受領証の
字体と委任状又は委任欄の字体が異なる場合であると判断されたため,被告Aの代
理権限について原告に電話確認等をする必要はなかった。
 したがって,F及びGの各保険金の支払手続は,いずれも簡易生命保険法及び各
保険約款に従ってされたものであるから,同法83条により有効であって,原告に
対する不法行為は成立しない。
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)(被告Aの不法行為責任)について
  (1) 前記争いのない事実,証拠(甲1の1・2,2,3,4の1ないし3,8
ないし12,乙ロ7,原告本人,被告A本人《以下の認定に反する部分を除
く。》)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
   ア Cによる本件各保険の契約締結等
     原告及び被告Aの母C(明治○○年○月○日生まれ)は,夫のBが昭和
20年6月に広島県で死亡した後,北九州市H区に移り住み,衣料品の小売業や不
動産賃貸等を手掛けて,一代で相当の財産を保有するようになった。
     Cは,税金対策等の理由から,その財産のすべてを自己名義とすること
はせずに,その子である原告,被告Aらや孫名義を利用して,自ら準備した印鑑を
用いて通帳を作り,毎年贈与税の非課税限度額をそれぞれの通帳に入金するなど
し,その通帳と印鑑を管理して,そこから生活費を支出するなど自由に入出金を行
い,子らの名義で有価証券や保険等にも資産運用していた。
     保険1及び2の各養老保険は,Cが自ら管理する印鑑を用いて原告名義
で契約したもので,その保険料もCが負担したものであり,保険3の終身保険は,
CがC名義で契約し,保険金受取人を原告と指定したものである。なお,終身保険
約款(平成3年3月4日旧郵政省告示第143号)36条によると,保険契約者に
は,原則として保険金受取人の指定,変更権が留保されている。
   イ 保険1及び2の贈与
     原告(昭和○年○月○○日生まれ)は,自らも衣料品店を経営していた
が,赤字が続いていたため,原告が60歳を迎える平成4年ころ,Cから,定年退
職と思って店を辞めるように諭され,その経営を辞めた。
     ところが,その後,原告がこれを不満として当たり散らす態度を示した
ため,Cは,原告をなだめるために,平成4年4月2日,Cが保有・管理していた
銀行の定期預金や証券会社の金融資産等に保険1及び2を含め,合計8000万円
を超える金融資産を原告に贈与し,その内容を個別に特定して自書した「原告分覚
書」(甲3)を原告に交付した。
     しかし,これら資産管理に係る印鑑はもともとCのものであったし,保
険1の満期は平成9年5月6日,保険2の満期は同年8月24日であったので,各
保険証書や印鑑はそのままCが保管していた。
   ウ 被告Aによる同人名義の保険等の無断解約
     Cは,被告Aらに対し,日ごろから,子の名義で行っている保険等の金
融資産の内容を述べていたが,その保険証書や印鑑等はC自ら管理し,家族にもそ
の管理を委ねることはなかった。
     ところが,被告A及びその弟であるIは,Cが,前記イのとおり原告に
のみ8000万円を超える金融資産を贈与したことを不満として,平成6年ころ,
Cに無断で,Cから聞き知っていた被告A及びI名義の金融資産のある保険会社等
に対し,保険証書を紛失したなどと虚偽の申立てを行い,その再発行を得た上でこ
れを解約するなどの方法により,被告Aにおいて約3000万円を領得した。
     なお,I及び被告Aは,平成8年ころ,共同してIの住所地を本店所在
地とする有限会社J企画を設立した。
   エ Cの病状悪化等
     Cは,平成8年9月ころ(当時86歳)から,痴呆症状が出現するなど
し,平成9年3月5日までK病院に入退院を繰り返した。その後約1年間は,自宅
に戻って同病院等に通院していたが,平成10年2月に再び入院し,同年8月13
日に死亡した。なお,Cは,自己の相続財産の内容や分配等についての覚書をノー
トに記しており,同覚書は被告Aが保管しているところ,被告Aは,それをI及び
妹には示したものの,原告には示していない。
     被告Aは,平成9年2月ころから平成10年7月ころまでの間に,C名
義の通帳と印鑑を用いて,Cの銀行口座から預金総額1億1000万円余りを被告
A,J企画等に振込入金し,そのほとんどをL株式会社における相場取引に費消し
た。
   オ 被告Aによる本件各保険の保険金の受領等
     被告Aは,原告に無断で,Cが保管していた保険証書及び印鑑を用い
て,保険1及び2の各満期保険金の請求手続を行い,平成9年5月7日に保険1の
満期保険金1205万0940円を,同年8月27日に保険2の満期保険金313
万2144円をそれぞれ受領し,後に費消した。
     ところが,これら各満期保険金の受取人名義は原告であったため,原告
が,平成10年3月ころ,H税務署に平成9年度の所得税確定申告を行ったとこ
ろ,上記各満期保険金の受領について申告漏れを指摘され,その税額として約10
万円が課税された。
     そこで,原告は,その旨を被告Aに話したところ,被告Aから,Cが原
告名義で保有していた資産である旨告げられ,税額約10万円は被告Aが用意する
と申し出たので,これらの保険が平成4年4月2日にCから原告に贈与されたもの
であることを失念していた原告は,それを受け取って済ませた。
     また,被告Aは,Cが死亡した平成10年8月13日,原告に無断で,
Cが保管していた保険証書及び印鑑を用いて保険3の死亡保険金の請求手続を行
い,同日,保険3の死亡保険金710万0554円を受領し,後に費消した。
  (2) 上記認定事実によれば,保険1及び2は,Cが,自己の金融資産の運用方
法の1つとして,形式上,満期保険金受取人名義を原告として契約したものである
が,Cは,平成4年4月2日,その資産を原告に贈与したことが認められる。ま
た,保険3の死亡保険金は,その契約の効力として,被保険者であるCの死亡によ
って,保険金受取人に指定された原告が当然に取得するものと解するのが相当であ
る(商法675条2項参照)。
    そうすると,本件各保険の正当な保険金請求権者はいずれも原告であるに
もかかわらず,被告Aは,原告に無断で,各保険金の請求手続を行い,これを受領
して費消したものであるから,原告に対する不法行為責任(民法709条)を免れ
ない。
    したがって,被告Aは,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,
各保険金相当額及び各不法行為時である各保険金受領日から民法所定の年5分の割
合による遅延損害金を支払うべき義務を負う。
  (3) なお,被告Aは,本件各保険はいずれも実質的にCの財産であり,保険1
及び2についてはCから保険金請求手続を委任され,保険3については死因贈与さ
れたなどと主張し,これに沿う陳述(乙イ1)及び供述をしているところである。
    しかしながら,Cは,①夫死亡後,衣料品の小売業や不動産賃貸等を手掛
けて,一代で相当の財産を築いたものであること,②生前,子らの名義の保険証書
や印鑑等は自ら管理していたこと,③保険1及び2を原告に贈与した際には,その
内容を個別に特定して自書した覚書を交付していること,④自己の相続財産の内容
や分配等についても覚書をノートに記していたことからすると,自己の財産管理を
比較的厳密に行っていたとうかがわれ,このようなCが,原告に贈与した保険1及
び2の各満期保険金の請求手続を一転して被告Aに委任するとは容易に想定しがた
いし,保険3について何らかの処分を行っていたとすれば,その処分に関し何らの
書面も作成しないとは想定しがたいというべきであって,これらの事情に加え,被
告Aは,Iと共同し
てCに無断で保険等を解約していることや,Cの病状悪化後に,同人の銀行口座か
ら預金総額1億1000万円余りを被告A,Iと共同して設立したJ企画等に振込
入金しているところ,これがCの委任によるものであることを裏付ける客観的証拠
もないこと,自己が保管するC作成の相続財産の内容や分配等に関する覚書をI等
にのみ示し,原告には示していないことなどの諸事情を併せ考慮すれば,上記陳述
及び供述部分は採用することができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
    したがって,被告Aの主張は,採用することができない。
 2 争点(2)被告国の不法行為責任)について
  (1) 前記争いのない事実,証拠(乙ロ2ないし29,証人E)及び弁論の全趣
旨によれば,以下の事実が認められる。
   ア 簡易生命保険の取扱いについて
    (ア) 簡易生命保険法7条によると,簡易生命保険に係る保険契約は,同法
及び同法に基づく命令に定めるもののほか,簡易生命保険約款(以下「保険約款」
という。)によるものとされ,同法83条によると,保険金等を同法及び保険約款
に定める手続によって支払ったときは,その支払は有効なものとされている。
    (イ) 保険金の支払請求について,養老保険約款(平成3年3月4日旧郵政
省告示第145号)65条によると,満期保険金の支払請求をするには,旧郵政省
所定の請求書又は受領証,被保険者の性別及び生年月日を証明するに足りる書類,
保険証書,保険料領収帳等を提出すべきものとされ,また,終身保険約款58条に
よると,死亡保険金の支払請求をするには,旧郵政省所定の請求書又は受領証,被
保険者の性別及び生年月日を証明するに足りる書類,市区町村長に提出した死亡診
断書又は死体検案書等,保険証書,保険料領収帳等を提出すべきものとされてい
る。〔乙ロ4,7〕
    (ウ) 簡易生命保険の取扱手続を定めた簡易生命保険取扱約款(平成3年3
月4日旧郵政省告示第161号,以下「取扱約款」という。)32条によると,保
険金受取人は,郵便局に提出書類を提出して,保険金の即時払の請求をすることが
できるものとされ(同条1項,2項),郵便局における具体的な取扱手続は,平成
3年3月20日付け保業第54号簡易保険局長・大臣官房資材部長通達「簡易生命
保険取扱手続の制定について」の別本「簡易生命保険取扱手続」(以下「取扱手続
通達」という。),平成2年12月19日付け局保一業第1725号保険部長・貯
金部長・経理部長通達「局外における保険契約に関する各種請求等の取扱いについ
て」(以下「局外通達」という。)等によって定められている。〔乙ロ2,3,
8〕
    (エ) 保険金の支払請求等に係る正当権利者の確認について,取扱手続通達
19条によると,提出書類に関連した事柄又は請求等を受理したときの状況等に応
じて適切な質問をして確認することを原則とし,その質問によっても正当権利者で
あることを確認できない場合に,運転免許証,国民健康保険被保険者証等の正当権
利者であることを証明するに足りる書類の提示を求めることとされていたが,平成
9年3月14日付け保業第469号簡易保険局長・大臣官房財務部長通達により,
平成9年6月1日以降は,運転免許証,国民健康保険被保険者証等の正当権利者で
あることを証明するに足りる書類の提示を求めることを原則とし,これら正当権利
者の確認に係る証明書類の提示を受けても正当権利者であることを確認できない場
合に,提出書類に関
連した事柄又は請求等を受理したときの状況等に応じて適切な質問をして確認する
ことと改められた。〔乙ロ5,6〕
    (オ) 保険金の支払請求等を委任による代理人が行う場合の代理権限の確認
について,取扱手続通達30条1項によると,原則として委任状を提出すべきもの
とされ,同条2項によると,この場合において,各種請求書等の字体と委任状の字
体が異なる場合は,請求人に対して,同人が代理権限を有する者であることを確認
すれば足りるが,各種請求書等の字体と委任状の字体が同一又は同一と疑われる場
合は,委任者に対する電話確認等により,請求人が代理権限を有する者であること
及び委任者の指示により請求人が委任状を代書したものであることを確認すること
とされている。〔乙ロ3〕
    (カ) 局外で保険金の支払請求等を受けた場合の取扱いについて,局外通達
によると,請求の受理に当たっては,一般の例により請求の要件を満たしているこ
とを確認するとともに,保険証書,保険金等受領証等を提出させて保険証書等受領
証を請求人に交付し,内部手続を経た後,保険金等受領証に押印させて,保険金を
受取人に交付することとされている。また,保険金支払の際,受取人が不在等のた
め,委任による代理人が保険金等を受領する場合には,委任者の委任状を提出さ
せ,代理人に保険金等受領証に代理人である旨の肩書及びその氏名を記載させ,押
印させることとされている。〔乙ロ8〕
イ 保険1ないし3の各支払手続について
    (ア) 保険1
      D郵便局の外務職員であるEは,平成9年4月18日,原告に同年5
月6日に満期となる保険1の満期保険金の請求手続をさせるとともに再度の保険契
約を勧誘するため,事前に連絡することなく,原告宅を訪問した。
      Eが,応対に出た被告Aに対し,訪問の趣旨を告げたところ,被告A
は,直ちにその趣旨を理解し,Eを応接間に通した上,原告の妹であり,簡易保険
は母から任されているなどと告げて,Eの目の前で,サイドボードの引き出しから
保険1の保険証書(乙ロ10)をすぐに選んで取り出した。そのため,Eは,被告
Aが原告から保険1の満期保険金の請求手続をすべて任されている原告の使者であ
ると判断し,被告Aをして,保険金等受領証に原告の氏名を記載させるなどして支
払請求を受け付け,保険金1205万0940円を同年5月7日に持参する旨書き
添えた受付証を被告Aに交付した。その際,Eは,被告Aに対し,原告の在宅や原
告との連絡方法を確認することなく,原告の委任状の提出も求めなかった。
      Eは,同年5月7日,原告宅に保険1の満期保険金1205万094
0円を持参し,被告Aをして,先に原告の氏名を記載させていた保険金等受領証に
押印させ,被告Aに上記満期保険金を交付した。Eは,その際も,原告の在宅の確
認や,原告の委任状の提出を求めなかった。
      なお,Eは,それまでに2回程,原告宅を訪問したことがあり,その
際の応対で被告Aの顔は知っていたが,その名前は知らず,被告Aを代理人として
原告名義の保険金の支払手続を行ったこともなかった。〔乙ロ9,11,12,2
7〕
    (イ) 保険2
      被告Aは,平成9年8月27日午前10時ころ,D郵便局窓口におい
て,内務職員であるFに対し,原告が保険金の受領を被告Aに委任する旨の同郵便
局所定の同日付け委任状(乙ロ13,以下「委任状1」という。),保険金等受領
証(乙ロ14,以下「保険金等受領証1」という。)及び同控え(乙ロ18),被
保険者の性別及び生年月日を証明するに足りる書類として原告の国民健康保険被保
険者証(乙ロ16),保険証書(乙ロ15)及び請求人が正当権利者であることの
確認に係る証明書類として被告Aの国民健康保険被保険者証(乙ロ17)を提出し
て,保険2の満期保険金の支払請求をした。
      Fは,原告及び被告Aの姓が同じである上,提出された同人らの各国
民健康保険被保険者証の住所地も同じであったため,被告Aに対し,原告との間柄
や代理人となったいきさつなどについては質問せず,委任状1に疑問な点もないと
判断して,被告Aの代理権限について,電話確認等により,原告に委任の有無や委
任状の代書の指示の有無を確認することなく,被告Aに対し,保険2の満期保険金
313万2144円を交付した。
      なお,Fは,被告A及び原告と面識はなかった。〔乙ロ13ないし1
9,28〕
    (ウ) 保険3
      被告Aは,平成10年8月13日午後2時50分ころ,D郵便局窓口
において,内務職員であるGに対し,原告が保険金の受領を被告Aに委任する旨の
同郵便局所定の同日付け委任状(乙ロ20,ただし,委任事項を特定する記載はな
い。以下「委任状2」という。),保険金等受領証(乙ロ21,以下「保険金等受
領証2」という。)及び同控え(乙ロ25),被告Aが,同日,北九州市H区役所
に提出したCの死亡届及び死亡診断書の写し(乙ロ23),保険証書(乙ロ22)
及び請求人が正当権利者であることの確認に係る証明書類として被告Aの国民健康
保険被保険者証(乙ロ24)を提出して,保険3の死亡保険金の支払請求をした。
      Gは,委任状2に疑問な点はないと判断して,被告Aの代理権限につ
いて,電話確認等により,原告に委任の有無や委任状の代書の指示の有無を確認す
ることなく,被告Aに対し,保険3の死亡保険金710万0554円を交付した。
      なお,Gは,C及び被告Aが以前から同郵便局を利用していたため,
同人らの顔は知っていたが,特別な関係にはなかった。〔乙ロ21ないし26,2
9〕
  (2) 上記認定事実に基づき,本件各保険の支払手続における各郵便局職員の不
法行為の成否及び被告国の使用者責任の成否について検討する。
   ア E(保険1)
     上記認定事実によれば,Eは,被告Aが原告から保険1の満期保険金の
請求手続をすべて任されている原告の使者であると判断して,原告の委任状の提出
を求めることなく,被告Aに満期保険金を交付したものであるところ,局外通達に
よると,局外での請求の受理に当たっては,一般の例により請求の要件を確認する
こととされているとともに,委任による代理人が保険金等を受領する場合には,委
任者の委任状を提出させることとされている。
     ところで,保険金受取人からその請求手続の委任を受けた者が使者であ
るか代理人であるかは,専ら保険金受取人の権限授与の仕方にかかり,その請求を
受理する郵便局の職員から見れば,保険金受取人以外の者が請求手続を行って,そ
の保険金を受領することに変わりはないのであるから,保険金の不正請求等を防止
するために,局外通達により,委任による代理人が保険金等を受領する場合には委
任者の委任状を提出させることとされているのと同じく,使者が保険金等を受領す
る場合にも,その権限を証する委任状等の書面を提出させることが必要であるとい
うべきである。
     ところが,Eは,被告Aから,その権限を証する委任状等を求めること
さえしなかったのであるから,Eの保険金支払手続には,被告Aの権限の確認を怠
った過失があるといわざるを得ず,その結果として,権限のない被告Aに保険1の
満期保険金1205万0940円を交付し,正当権利者である原告に同額相当の損
害を与えたものであるから,Eは不法行為責任(民法709条)を免れず,その使
用者である被告国は使用者責任(民法715条)を免れない。
   イ F(保険2)
     上記認定事実によれば,Fは,原告及び被告Aの姓及び住所地が同じで
あったことや,委任状1に疑問な点もないと判断して,被告Aの代理権限につい
て,電話確認等により,原告に委任の有無や委任状の代書の指示の有無を確認する
ことなく,被告Aに満期保険金を交付したものであるところ,取扱手続通達による
と,各種請求書等の字体と委任状の字体が異なる場合は,請求人に対して,同人が
代理の権限を有する者であることを確認すれば足りるが,各種請求書等の字体と委
任状の字体が同一又は同一と疑われる場合は,請求人が代理権限を有する者である
こと及び委任者の指示により請求人が委任状を代書したものであることを,委任者
に対する電話確認等により確認すべきものとされている。
     ところで,委任状1及び保険金等受領証1を対比すれば,一般の観察に
おいても,その字体は同一又は同一と疑われる場合であるといわざるを得ない。
     ところが,Fは,被告Aの代理権限について,電話確認等により,委任
者である原告に確認しなかったのであるから,Fの保険金支払手続は,取扱約款及
びそれを具体化した取扱手続通達に定める手続に従ったものとはいえず,被告Aの
代理権限の確認を怠った過失があるといわざるを得ない。そして,Fは,その結果
として,代理権限のない被告Aに保険2の満期保険金313万2144円を交付
し,正当権利者である原告に同額相当の損害を与えたものであるから,Fは不法行
為責任(民法709条)を免れず,その使用者である被告国は使用者責任(同法7
15条)を免れない。
   ウ G(保険3)
     上記認定事実によれば,Gは,委任状2に疑問な点はないと判断して,
被告Aの代理権限について,電話確認等により,原告に委任の有無や委任状の代書
の指示の有無を確認することなく,被告Aに死亡保険金を交付したものであるとこ
ろ,取扱手続通達の定める代理権限の確認行為は,前記イのとおりである。
     ところで,委任状2及び保険金等受領証2を対比すれば,一般の観察に
おいても,その字体は同一又は同一と疑われる場合であるといわざるを得ない。
     ところが,Gは,被告Aの代理権限について,電話確認等により,委任
者である原告に確認しなかったのであるから,Gの保険金支払手続は,取扱約款及
びそれを具体化した取扱手続通達に定める手続に従ったものとはいえず,被告Aの
代理権限の確認を怠った過失があるといわざるを得ない。そして,Gは,その結果
として,代理権限のない被告Aに保険3の死亡保険金710万0554円を交付
し,正当権利者である原告に同額相当の損害を与えたものであるから,Gは不法行
為責任(民法709条)を免れず,その使用者である被告国は使用者責任(同法7
15条)を免れない。
  (3) 以上によれば,被告国は,原告に対し,使用者責任に基づく損害賠償とし
て,各保険金相当額及び各不法行為時である各保険金支払日から民法所定の年5分
の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負い,この義務は,前記1で判断した
被告Aの不法行為に基づく損害賠償義務と不真正連帯の関係にある。
 3 結論
   以上のとおり,被告A及び被告国は,原告に対し,連帯して各保険金相当額
合計2228万3638円及びうち保険1の満期保険金相当額1205万0940
円については不法行為時である平成9年5月7日から,うち保険2の満期保険金相
当額313万2144円については不法行為時である同年8月27日から,うち保
険3の死亡保険金相当額710万0554円については不法行為時である平成10
年8月13日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支
払うべき義務を負う。
   よって,保険金相当額及び不法行為の日の翌日からの各遅延損害金の支払を
求める原告の請求は,その全部について理由があるから認容し,主文のとおり判決
する。
  (口頭弁論終結日 平成13年10月9日)
      福岡地方裁判所小倉支部第2民事部
          裁判長裁判官  古  賀     寛
             裁判官  村  田  文  也
             裁判官  大  山     徹
 
   (別紙)  簡易生命保険目録
 1保険証書記号番号   ○○○○-○○○○○○○ 
保険種類全期間払込15年満期養老保険
保険金額1000万円
   保険契約者  原告
   保険契約の効力発生年月日 昭和57年5月7日
   保険期間の終期    昭和72年5月6日(注:平成9年5月6日)
被保険者  原告
保険金受取人
   満期保険金     原告
   死亡保険金    C
2保険証書記号番号○○○○-○○○○○○○○○○○
保険種類全期間払込10年満期養老保険
保険金額300万円
   保険契約者原告
   保険契約の効力発生年月日 昭和62年8月25日
   保険期間の終期    昭和72年8月24日(注:平成9年8月24日)
被保険者原告
保険金受取人
   満期保険金原告
    死亡保険金 第1   C
第2   M
 3 保険証書記号番号  ○○○○-○○○○○○○
保険種類10年払込特別終身保険
保険金額300万円
保険契約者  C
   保険契約の効力発生年月日 昭和47年9月27日
被保険者  C
   保険金受取人原告

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