弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
 埼玉県知事が原告に対してした平成五年三月三一日付け建指第二五三六号の不許
可処分を取り消す。
第二 事案の概要等
一 事案の概要
 本件は、原告が別紙記載の各土地(以下「本件土地」という。)上に産業廃棄物
処理施設(焼却炉)を設営することを企図し、被告に対し、建築基準法(以下、単
に「法」という。)五一条ただし書による許可の申請(以下「本件申請」とい
う。)をしたところ、被告が右産業廃棄物処理施設の敷地の位置は都市計画上支障
があるとして不許可処分(以下「本件処分」という。)をしたので、原告が右処分
の取消しを求める事案である。
二 当事者間争いのない事実
1 本件申請
 原告は、本件土地上に廃棄物処理施設を設営する企画を立案し、平成四年九月こ
ろから、被告との間で事前審査手続を開始し、平成五年二月一八日、被告に対し、
法五一条ただし書の許可を求める申請書を提出した。
 右計画の概要は別紙のとおりであり、産業廃棄物処理業(中間処分業)を行うた
めに設置が予定されている産業廃棄物処理施設(焼却炉。以下「本件施設」とい
う。)の概要は、焼却炉が煙突の高さが一八メートル、一時間当たりの処理能力は
二トン、一日当たりの処理量は二〇トンの規模で、焼却する産業廃棄物の種類は、
汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類、紙くず、木くず、繊維くず、
動植物性残渣、ゴムくず、金属くず、ガラスくず及び陶磁器くずの一二品目であ
る。また、焼却炉に付随する施設として管理棟、産業廃棄物の保管倉庫棟があり、
本件施設に付設して燃えがら及びばいじんを埋め立てる最終処分場がある。
 右のような産業廃棄物処理施設は、法五一条に定める施設に該当し、都市計画に
おいてその敷地の位置の決定がなされていない場合には、原則として新築又は増築
ができず、例外的に、同条ただし書に基づき、特定行政庁が都市計画地方審議会の
議を経てその敷地の位置が都市計画上支障がないと認めて許可した場合に限って新
築又は増築することが許される。
2 本件土地及び周辺の状況
(一) 本件土地は、秩父市内に所在する。秩父市は、埼玉県西部の秩父盆地の中
央部に位置する一市五町四村からなる秩父地方の中心都市であって、市街地が市の
中心部を貫流する荒川東岸沿いに広がり、秩父鉄道秩父線、西武鉄道西武秩父線が
乗り入れ、国道一四〇号、同二九九号が交差する交通の要衝である。
(二) 本件土地は、秩父市内の秩父郡荒川村との境界付近、秩父市中心部に拡が
る市街地の西南部に位置し、都市計画区域内であるが、都市計画上の用途地域とし
ては無指定である。また、本件土地は、西側で荒川に面し、東側で県営住宅つばき
の森団地(中層耐火三階建て二棟、三六戸)に隣接し、北側には国有水路(通称湯
之沢)を挟んで影森グラウンドがある。
3 本件施設の設置についての地元地方公共団体等の意見
(一) 被告は、本件申請の事前審査及び本件申請の審査において、本件施設の敷
地の位置が都市計画上の支障があるか否かについての判断の参考とするために、秩
父市及び荒川村に対して意見照会を行った。
(二) 事前協議時の秩父市の意見
 本件申請の事前審査手続において、平成五年一月一四日付けで被告に提出された
秩父市建設部長の意見は、(1)本件土地の約三・一キロメートル下流の荒川に存
する市の上水道取水場への影響を十分考慮する必要がある、(2)本件土地の隣接
地に市が設置を計画している(仮称)影森総合スポーツセンターへの影響を十分配
慮する必要がある、(3)事業計画には本件土地内での五〇年間にわたる焼却残渣
の埋立計画があるが、埋立てによる荒川の水質汚染、地下水汚染が懸念され、荒川
に隣接する本件土地上での計画は位置的に適切でない、(4)秩父地域の観光、秩
父リゾート地域整備構想に対するイメージを十分考慮する必要がある、(5)本件
焼却施設は大気汚染防止法の規定する「ばい煙発生施設」であるが、計画煙突高で
は拡散効果が低減され、盆地のため大気が滞留することを考えると、大気汚染物質
を排出する施設の設置は検討を要する、(6)産業廃棄物の処理施設の立地につい
ては、地域住民の合意形成を図ることが必要であると同時に、秩父地域・秩父市の
地域振興の方向性とも整合せず、観光都市秩父にとってマイナス面が多大である、
との理由で本件施設の設置は支障があるとするものであった。
(三) 本件申請時の秩父市の意見
 本件申請の審査手続において、平成五年三月二二日付けで被告に提出された秩父
市長の意見は、秩父市の施設に対する影響及び将来の都市計画を考慮し、また、市
民の反対の状況から、本件施設の設置には都市計画上の支障があるとするものであ
り、その理由の概略は、(1)本件土地は都市計画法に基づく用途地域は無指定で
あるが、平成四年三月に埼玉県により策定された秩父市周辺幹線道路網計画によれ
ば国道一四〇号及び同二九九号のバイパスが交差する計画となっており、この計画
の実施によりこの地域は商業地及び住宅地としての土地利用が図られることが見込
まれる、(2)本件土地の北側隣接地には秩父市総合振興計画基本計画に基づく影
森総合グラウンドの整備が計画されており、この施設の市民の利用上の影響が懸念
される、(3)本件土地から荒川下流約三・一キロメートルには上水道の水源であ
る取水口(秩父市別所浄水場)があり、この施設への影響が懸念される、(4)平
成四年一二月の秩父市議会定例会において本件施設に対する建設反対請願が採択さ
れている、(5)平成五年三月尾田蒔町会長協議会から、本件施設に対する建設反
対の陳情がなされている、というものであった。なお、右の秩父市長の意見書に
は、前記(二)の事前審査時における秩父市建設部長の意見及び秩父市建設委員協
議会の次の意見が添付されていた。秩父市建設委員協議会の意見は、(1)平成四
年三月に策定された秩父市周辺幹線道路網計画によれば、事業計画予定地周辺にお
いて、国道一四〇号・二九九号バイパスが交差するなどの計画がある。今後、国道
一四〇号線の拡幅、線形の変更が考えられ、この周辺での立地は不適である、
(2)本件土地周辺は、後期基本計画、秩父市周辺幹線道路網計画によれば、幹線
道路網の完成により商業地若しくは住宅地として土地利用が図られることが予想さ
れ、また、北側隣接地には市の都市計画公園の設置を予定しており、これらへの悪
影響が懸念される、(3)上水道・大気汚染が懸念される、(4)対岸の秩父リゾ
ート地域への影響から、立地は不適当である、(5)平成四年一二月の秩父市議会
定例会において本件施設に関する建設反対決議が採択されている、(6)結論とし
て、法五一条に基づく建設許可に係る事前の意見としては、将来の都市計画上の問
題を含め支障有りと判断する、というものであった。
(四) 荒川村の意見(事前審査時及び本件申請時)
 本件申請の審査手続において、平成五年三月二六日付けで被告に提出された荒川
村長の意見は、同村建設課長が事前審査時の平成五年一月二一日付けで提出した意
見書に変更はないというものであり、右意見書の内容は、(1)本件土地は荒川に
近接しているため、安全な水資源供給への影響が懸念される、(2)有害物質を含
む排水・排気ガス・悪臭が発生する、(3)処理前の廃棄物の飛散及び有害物質の
流出の問題がある、(4)医療廃棄物からの二次感染の問題がある、(5)本件土
地に隣接する荒川村久那地区から、建設反対の要望書が提出されているとともに、
村議会においても建設反対の意見書が議決されている、との理由で本件施設の設置
には支障があるので、被告に対して特段の配慮を求めるというものであった。
(五) 住民の意見
 本件施設の設置に対しては、地元秩父市、隣接する荒川村の住民等から反対意見
が出されている。主なものとしては、(1)平成四年一二月招集の秩父市議会定例
会において、秩父市民四三七一名による本件施設の設置に対する建設反対の請願が
提出され、同年一二月一七日賛成多数で採択されたこと、(2)荒川村議会議員か
ら荒川村村長宛に反対意見書が提出されたこと、(3)荒川村議会議長から被告あ
てに地方自治法九九条二項に基づく平成四年一二月一八日付け反対意見書が提出さ
れたことが挙げられる。
4 本件処分
(一) 被告は、原告の本件申請に対し、平成五年三月三一日付けで不許可とする
本件処分を行い、原告は、同年四月七日、右処分を知った。処分理由の概要は、次
のとおりである。
 法五一条ただし書の適用においては、関係市町村及び一般住民などの地元の意見
を尊重することが重要であり、都市計画上の支障の有無の判断についても住民の意
見を十分に考慮する必要がある。また、法律上議会の関与は不要とされているが、
市町村議会の議決事項も考慮する必要がある。
 しかるところ、本件における計画については、平成五年三月二二日付けで秩父市
から本計画に対する回答があり、①市施設への影響及び将来の都市計画を考慮し、
また市民の当該施設設置に対する反対の状況からみて本計画に支障があるとしてい
る。また、荒川村からも同年三月二五日付けで回答があり、本計画には支障がある
としている。②秩父市の平成四年一二月市議会において、四三七二名の当該施設の
建設反対の請願を賛成多数で採択されている。③秩父市では都市計画審議会に代わ
る秩父市建設委員協議会において、将来の都市計画上の問題を含め支障があると判
断している。
(二) なお、被告は、本件申請について、都市計画地方審議会の議に図っていな
い。
5 審査請求
(一) 原告は、本件処分を不服として、平成五年五月三一日、埼玉県建築審議会
に審査請求をしたが、平成六年二月一六日付けで、右審査請求は棄却された。
(二) 原告は、平成六年三月一八日、建設大臣に対し再審査請求を行ったが、こ
れに対する裁決は現在に至るまでない。
三 争点
1 被告が、都市計画地方審議会の議を経ずに本件処分をしたことは違法か。
2 本件申請について、特定行政庁は、法六条三項に定める迅速に処理をする義務
を負うか。
3 本件処分当時の処分理由の内容及び本訴において他の処分理由を追加すること
の可否
4 法五一条ただし書の審査基準及び本件処分が違法であるかどうか。
5 本件処分は平等原則に違反するか。
四 原告の主張
1 争点1について
 被告は、本件処分について都市計画地方審議会の議を経ていないが、これは法五
一条ただし書の趣旨に反して違法である。
2 争点2について
 法五一条ただし書の許可においては、事前審査において既に許可に耐える資料が
調っていると認められる場合は、法六条三項に規定する迅速処理の要請に準じた処
理義務があるというべきところ、本件においてはその場合に当たるから、本件申請
から平成五年三月三一日まで経過してなされた本件処分は違法である。
3 争点3について
(一)(1) 都市計画決定権者と特定行政庁の判断の関係
① 法五一条ただし書の趣旨は、特定行政庁が、特殊建築物の敷。ャの位置につい
て、都市計画決定に対して支障があるか否か及び都市計画の目的(法一条)、及び
基本理念に反するか否かを判断することにある。建築主事が置かれている市町村に
おいては、特定行政庁は都市計画決定主体と実質的に一致するから、法五一条ただ
し書における都市計画上の支障の有無について客観的な事実を正確に吟味して判断
すべきであるのは当然であるが、このことは、特定行政庁が都道府県知事とされて
いる本件のような場合でも同様である。特定行政庁たる知事が、地元の都市計画の
具体的内容や理念を知るために地元の意見を徴求し、それに配慮することは認めら
れるとしても、それは法五一条ただし書所定の都市計画上の支障の有無を判断する
ための材料にすぎず、その判断は特定行政庁が独自の権限と責任においてしなけれ
ばならない。
 また、法五一条ただし書の許可は、新たな都市計画決定をするのではないから、
改めて地元市町村の議会の意見を聞くことに論理必然性はないし、地元住民の意見
や合意形成の状況などが改めて必要となるものでもない。法五一条ただし書が「特
定行政庁が‥‥都市計画上支障がないと認めて」と、わざわざ都市計画との関係を
具体的に掲げていることからすれば、地元の反対意見の存在から直ちに不許可の決
定を出すことは、法の予定するところではないと解すべきである。
 法五一条に定める建築物の敷地の位置と都市計画との関係をよく判断しうるのが
地元であるということは、一般論としてはそのとおりであり、原告も地元の意見を
無視することを主張するものではない。しかし、特定行政庁は、地元の意見の結論
をそのまま受け入れることによってその責任を果たしたということはできず、地元
の意見が真実に合致しているかどうかを検討することは不可欠であり、また、施設
の公益性、財産権保障の観点から都市計画との関係などを吟味して、許可不許可の
判断をしなければならず、地元の意見の結論そのものに特定行政庁が拘束される必
然性はない。
 以上のように、地元の反対意見の存在は、許可不許可の考慮要素になることは否
定できないとしても、特定行政庁が都市計画との関係で支障があるかどうかを判断
する際の資料として意味があるにとどまるというべきである。
② 被告の本件処分の理由は、単に地元に反対意見が存在するということにすぎな
い。
 被告は、本訴が提起された当初は、本件処分の根拠は地元の反対意見の存在にあ
ると主張していたのであって、被告の本件処分の理由は、その後本件訴訟の進行に
伴って付加されてきたものである。影森総合スポーツセンター整備計画や国道の交
差計画等については、これを都市計画上の支障の根拠としてではなく、地元意見の
内容として挙げていたにすぎない。また、隣接河川がバーベキューなどの市民の憩
いの河原になっているなどの指摘は、訴訟が終結に近い段階になってなされたもの
で、地元意見の中にも直接的には見受けられない。
 この点は、被告の主張する法五一条ただし書の判断基準についても同様である。
被告は、都市計画マニュアル等を示しながら、法五一条ただし書について都市計画
上の支障の有無を判断する基準があり、その判断基準に照らして本件処分を行った
かのごとく主張するが、これは事実に反する。そもそも、本件処分当時、被告には
法五一条ただし書の審査基準として明確なものはなかった。
 また、仮に、被告の主張する建設省の二通の通達が存在し、それに基づいて「計
画標準(案)」及び「都市計画マニュアル」が作成され、これらに被告主張の各点
が記載されているとしても、そこから被告が本訴で主張する基準が論理的に導かれ
て、審査基準として存在するものではなく、被告が審査基準として挙げる各項目
は、要するに、従前の主張について、あたかも確立された審査基準が存在するかの
ように装ったにすぎない。すなわち、被告は本件処分を行った際に、被告が本訴で
主張する審査基準を用いたことはなく、これは本訴のために独自に策定されたもの
である。
③ 被告が本件処分の理由とした地元の意見は、既に策定されている秩父市の都市
計画の具体的な内容との関連で意見を述べたものは全くないばかりか、事実認定を
誤っており、特に本件施設の環境に対する影響について事実に基づかない抽象的な
危険を前提しているものが多いうえ、本件施設と関係のない地域の意見が含まれて
いる。
 被告が処分理由として挙げる地元の意見に理由がないことは以下のとおりであ
る。
a 最終処分場に対する意見について
 焼却炉に附属する施設として、保管倉庫の外に最終処分場を挙げているが、これ
については、法五一条ただし書の許可が必要な施設ではなく、平成四年六月三〇日
付けで既に設置届が受理されている。最終処分場に対する意見は、最終処分場の設
置についての反対意見であるならば意味を持つが、本件施設に関する意見としては
意味を持たない。
b 秩父地域の観光、秩父リゾート地域整備構想に対するイメージについての意見
について
 秩父市建設部長の秩父市の観光、秩父リゾート整備構想に対するイメージについ
ての意見は、あまりに漠然とした感覚的なものである。観光都市秩父といっても、
それ以外の多くの工業施設が秩父地域に存するし、本件施設に近接して別業者によ
る産業廃棄物処理施設が存在している。
 秩父地域における観光や秩父リゾート整備構想が、同地域の都市計画構想におい
て考慮されていることは想像できるが、観光と無関係な施設を認めないという方針
をとっているわけではなく、この意見は、法五一条が求める土地の合理的利用と都
市計画との適正な調和という理念に合致しない。
c 煙突高とばい煙拡散効果に関する意見について
 本件施設は、大気汚染防止法による規制に適合する施設である。また、盆地のた
めに大気が滞留することを懸念するとの意見は、その科学的根拠が不明である。
d 秩父市議会の反対採択について
 平成四年一二月の秩父市議会定例会において本件施設の建設反対の請願が採択さ
れているが、その理由は、主としてばい煙や水質汚染を問題とするものである。し
かし、本件施設は廃棄物処理法、大気汚染防止法による規制に適合する施設であ
り、また、本件施設からは排水はない。
e 町会長協議会からの反対意見について
 尾田蒔町会長協議会からの反対意見も、本件施設の内容についての客観的、科学
的分析がされずに出された意見であることは、その理由から明らかである。
 なお、本件施設に隣接する影森町の町会連合会は、本件施設の設置についての原
告の説明に対し、平成四年五月二二日付けで、「県並びに市等関係諸官庁の適正な
指導を受け一般住民に対して、些かも環境的諸被害を及ぼさないよう万全の措置を
講じて計画を進められたい。」との意見書を原告に提出している。
 また、原告は、平成三年一〇月から平成四年四月までに、本件施設から三〇〇メ
ートル以内に居住する地元住民四一軒中三一軒から産業廃棄物処理場施設の操業の
同意書を得ている。右同意書は、住民との真摯な交渉の結果得られたものである。
f 荒川村の意見について
 都市計画に対する支障を判断するために意見を徴するのであれば、その対象は当
該都市計画の策定者である秩父市に限られるはずである。ところが、被告は荒川村
の意見も徴しているところ、被告が荒川村の意見を求めた理由は明らかでない。
 被告は、本訴において、被告自身は秩父市の都市計画に直接かかわっていないか
ら秩父市の意見を尊重する旨主張しているが、荒川村も秩父市の都市計画に関して
は直接関与しているわけではない。
g 上水道施設への影響及び有害物質を含む排水、排気ガス、悪臭の発生、処理前
の廃棄物の飛散の懸念、有害物質の流出について
 前記のとおり、中間処理施設たる本件施設において、排水の問題は生じないし、
排気ガス対策は十分講じられている。また、高温焼却により悪臭は発生せず、廃棄
物の飛散の懸念や有害物質の流出の危険はあり得ない。これらの事実は、本件施設
の計画書により明らかである。
h 医療廃棄物からの二次感染について
 本件施設では、医療系の産業廃棄物(特別管理産業廃棄物 廃棄物処理法二条五
項)を扱うことを計画しているが、これらの廃棄物については、同法の平成三年改
正により厳重な施策が設けられ、本件施設は右基準に合致する厳格な配慮がなされ
ている。
 すなわち、医療系廃棄物については、施設において一回しか積替えが許されず、
その積替え及び焼却は容器ごと行われる。したがって、細菌等の感染物質は外気に
さらされることはなく、二次感染の危険性はない。
④ 被告は、地元意見の内容が適切かどうかの調査は全くしていない。被告が現地
を確認したのは一回のみであるし、地元意見に列挙された諸々の懸念される事実に
ついても、特別に確認するなどの作業を行っていない。設置される焼却炉の種類、
他の部局での議論の内容、公害防止の観点からの申請者の認識など、地元意見を徴
求する一方で行うことができる調査はいくらでもあるにもかかわらず、被告の担当
者はこれら調査を全く行っていない。
 被告は、事前審査において、既に本件施設の科学的、客観的内容を熟知していた
から、地元の意見が単なる感覚的なものにすぎず、根拠を欠くものであることは容
易に判断できたはずである。それにもかかわらず、本件不許可処分をしたのは、最
初から原告の申請書の形式が調った後は地元意見の内容によって結論を決めればよ
いと決めてかかっていたものと考えざるを得ない。
⑤ 自己所有地にどのような財産を建設するかは、本来、各所有者の自由に委ねら
れるべき事柄であり、この自由は、憲法二二条、二九条で保障されている。もっと
も、財産権も公共の福祉に合致しなければならないので、一定の合理的制限は受け
るから、法五一条ただし書はこのような趣旨として理解すべきである。したがっ
て、右規定の判断が処分庁の裁量に委ねられるとしても、それは自ずと一定の限界
がある。ところが、以上のように、被告は、単に地元の意見が反対であるというこ
とだけを理由にして本件処分を行ったのであるから、本件処分は著しく裁量権を逸
脱した違法があるものとして取消しを免れない。
4 争点4について
(一) 本件施設の有用性
 本件施設は産業廃棄物の中間処理施設であって、廃棄予定の廃棄物を焼却するな
どして形状を変えたり、有害性を取り除いたりして処分する施設である。
 現在、最終処分場の場所が不足して不法投棄などの問題が生じている。中間処分
により廃棄物の分量を軽減化し、より多くの廃棄物の最終処分を可能とするこのよ
うな施設は、ごみが増える一方、最終処分場の立地がますます困難となる現在、急
速に必要性が高まっている。
 本件施設は、右のような要請に合致するものであり、また、燃焼温度の最低を八
〇〇度としたことにより、医療廃棄物などの特別管理産業廃棄物も燃焼処理が可能
であり、かつ、ダイオキシンなどの排出の心配もない優良なごみ処理施設である。
そして、高温燃焼により異臭もなくなり、さらに、排ガス対策としてスクラバー集
塵機二機、電気集塵機一機を特別に配置して有毒ガスの発生を除去するなど、大気
汚染に対する配慮も万全なものとなっている。加えて、本件施設で使用した水を放
流する必要は、全くない。
 本件施設は厚生省の当面の指針によりよく合致しており、社会的有用性が高く、
しかも医療廃棄物の処理施設が現状では県内に乏しいことからも、待ち望まれてい
る施設である。
(二) 都市計画構想と本件施設との関係
 被告が主張する都市計画構想と本件施設の関係は、その全てはまだ具体化してい
ない。そもそも本件土地は秩父市の中長期的な都市計画基本構想に基づいて、都市
計画上、無指定地域とされており、少なくとも、現在の都市計画上は、この地域を
どのような地域として発展させるかについて構想がない地域である。それを、あた
かも間もなく住居地域又は商業地域として発展するかのように述べたり、観光地化
するかのように述べたりすることは許されない。
 法五一条ただし書の法意からすれば、都市計画上の支障を理由とする場合には、
ある程度、具体的、客観的に支障が生じるおそれが明らかになっている必要がある
というべきである。ところが、本件土地が無指定地域であることは、本件施設の敷
地の位置が、将来の都市計画上支障がない蓋然性が高いことを表しており、実際に
も、本件土地は河岸によって他の地域と画然と分離された場所であり、そもそも秩
父市内の他の様々な場所と比べても、他への影響が考えにくい所である。
(三) ウォーターフロントゾーン計画との関係について
 本件施設は関係法令の規制の要件に適合していること、本件施設からの排水がな
いことは前記のとおりであり、ウォーターフロントゾーン計画との関係においても
都市計画上の支障が生じるとの被告の主張の要点は、主として眺望の点にあるとい
える。しかし、本件土地上には既に原告が営む大きな砕石プラントが存在し、現
在、これが河川敷側から丸見えの状態にある。しかも周囲は草木が刈り取られ、あ
るいは不要の土砂が山積みされており、非常に無機質な景観を呈している。もし、
河川の反対側からの景観を保持しようとすれば、施設の河川側に土堰堤を築き、そ
こに植林をすることで施設は見えなくなり、かつ、緑を満たすことも可能となる。
 また、本件施設の北側には最終処分場が設置されているし、砂利の関係ではある
が、同じく北側に有限会社孔明(以下「孔明」という。)が最近になって産業廃棄
物処理施設を建設して操業している。これらは嫌忌施設としては本件施設と同様の
意味を有しているはずである。
 被告の主張は、本件施設の建設とその主張する環境との間の関連性が極めて漠然
としている。
(四) 国道交差の問題について
(1) 国道一四〇号と同二九九号の交差計画は、用地買収などには全く着手され
ておらず、現在のところ用地買収計画もない、単なる方針にすぎない。しかも、こ
の道路計画は、秩父市の策定ではなく、埼玉県の策定である。
 平成四年三月策定の秩父市周辺道路網計画の策定者である埼玉県土木部道路建設
課の説明によれば、右道路網を整備する必要はあるが、現在では何らの調査も行っ
ておらず、本件土地周辺で右道路が交差するとはいえないし、道路位置は今後の調
査によるとしている。右計画には、そもそもいくつもの交差方法が例示されてお
り、その中から一定の結論を導いてはいるが、それも両道路の位置についての考え
方が示されたにすぎないのであって、交差点の候補地が決められたものではない。
(2) 被告は、国道一四〇号と同二九九号の交差により、周辺の発展が見込まれ
るとするが、本件土地は、被告の主張によっても交差予定地点から一キロメートル
離れており、また、本件土地は現在の国道の場所よりも相当低い位置にある。仮
に、交差点付近に町並みができるとしても、その部分と河川の下の部分とは大きな
崖によって明確に区切られているから、本件施設の設けられる下の部分に町並みが
できるはずがない。そして、国道一四〇号の拡幅、線形の変更による影響も不明で
ある。
 また、本件土地が現状とは別の開発を要することになれば、買収協議になるので
あって、本件土地には既に砕石プラントが存することからすると、立ち退きの対象
が砕石プラントか、中間処分場かで買収協議に大きな差はないと考えられる。
(五) 影森総合スポーツセンター整備計画との関係について
(1) 影森総合スポーツセンター整備計画という名称の構想が秩父市にあること
は事実であるが、その場所が、本件土地の隣接地であることは未だ決定されていな
い。
 また、右整備計画について、被告の主張する都市計画上の支障は、具体的、科学
的ではないといわざるを得ない。そもそも本件施設については、有害物質等による
公害の懸念はないことは前記のとおりである。
(2) しかも、右計画地内には、平成七年七月二五日付けで、孔明の申請に基づ
き、産業廃棄物中間処理施設の設置許可がされている。この施設の扱う廃棄物の内
容は、コンクリート、金属くず、建築廃材の破砕であり、処理能力は一日三二〇ト
ンで、保管する廃棄物の高さは三メートルである。これは、影森総合スポーツセン
ター整備計画地の中に設置されたものであり、右計画がいかに流動的かを示すもの
である。
 また、設置許可について、本件施設と孔明の施設とは根拠法条が異なるとはいっ
ても、市民にとって迷惑施設であることに何ら差はない。むしろ、眺望等ここでく
つろぐ市民に対する影響という意味では、孔明の施設の方が影森総合スポーツセン
ターを利用する者に位置的に接近しているし、右施設では、破砕したくずを野ざら
しの状態で保管している。周囲は広大な敷地であるから、風雨による散逸などの影
響はむしろ孔明の施設の方が顕著である。また、この施設ができることとなった結
果、本件土地周辺は産業廃棄物処理施設が集まる地帯となった。埼玉三興株式会社
(以下「埼玉三興」という。)の処分場や孔明の右施設が認められるのに、本件施
設についてだけ地域の将来の都市構想の関係が問題にされなければならない理由は
ない。
 さらに、土堰堤による影響低減の努力は、ここでも活用ができるのであって、こ
れを検討せずしては、正しく都市計画への影響を論じたことにならない。
(3) 本件施設の物理的影響による危惧について
 被告が主張する物理的影響は、要するに、本件施設が故障した場合の危惧を述べ
ているにすぎない。
 故障して害悪をまき散らすような事態に至った場合、周辺に対して多大な被害を
与えうることは、グラウンドが近くにある場合に限らない。したがって、本件施設
について、まず故障がないように極力配慮されているかどうか、次に何らかの故障
が発生しても種々の害悪を拡散しないようになっているかどうかが検討されるべき
である。
 被告は、本件施設内に設置を予定されているのと同一機種の焼却炉を使用してい
る施設の例を挙げて環境への悪影響を懸念するが、右事例は循環器を設置しないで
稼働させており、排水の問題についても、原告の予定と異なるものである。
 本件施設は集塵の点についても、スクラバー集塵機を二機設置し、更に、補足率
の高い湿式の電気集塵機を取り付ける予定であって、少なくとも当時においては、
最高水準のものであった。
(六) 県営住宅つばきの森団地
 本件土地は、東側で県営住宅つばきの森団地に隣接しているが、これは事前審査
の中で、接道要件を十分に満たすために申請区域を広げるようにとの被告の指導に
従ったためである。もともと、県営住宅つばきの森団地に接する部分は、申請地に
は含まれていなかったのであり、原告の事業にとって必ずしも必要な土地ではな
い。
5 争点5について
 秩父市が設置する秩父環境衛生センターというごみ焼却場(最終処分場)は、秩
父聖地公園に隣接して設けられている。同公園は、単なる墓地ではなく、周辺の景
観屋外レクリエーションの場として整備するものとされており、同公園の中には市
民プール、グラウンド、民族博物館が設置されていて、プールと右ごみ焼却場の距
離はわずか二〇〇メートル程度である。加えて右ごみ焼却場のすぐ近くには、秩父
札所三番常泉寺がある。
 秩父環境衛生センターがこのような立地で認められていることからすれば、少な
くとも、秩父市が公園との距離等により本件施設の敷地の立地について判断したこ
とは誤りであるし、また、本件処分は著しく平等原則に反するといわなければなら
ない。
 さらに、前記のとおり、影森総合スポーツセンター計画地内には孔明の設置する
産業廃棄物の中間処分場の設置が許可されており、本件施設から荒川の上流方向に
は、埼玉三興の最終処分場が設置されている。埼玉三興の最終処分場は、秩父市の
別所浄水場取水場と本件施設の間に立地するが、被告は、この施設については放出
水による河川汚水を防止するために、排水を迂回して別河川に放水させる行政指導
を行ったうえで右会社の営業を許可している。そうすると、河川汚染が、この種の
施設の許可不許可の処分をするにつき直接の影響を及ぼすものでないことは明らか
である。
 しかも、埼玉三興の処分場は、秩父ミューズパークとの関係でも本件施設より近
接している。
 したがって、本件処分は、別の業者が既に設けている廃棄物処理施設及び市が設
置しているごみ処理場など本件施設に類似する施設との関係で、平等原則に違反し
ている。
五 被告の主張
1 争点1について
 法五一条本文に定める建築物の敷地の位置は、原則として都市計画において定め
るべきであり(都市計画法一一条一項三号、七号)、同条ただし書の許可は、建築
物の敷地の位置が都市計画決定を行いがたい場合などに限り、あくまで例外的にな
されるものであって、建築基準法上で特殊建築物の敷地の位置について許可する場
合にも、都市計画上の観点を重視するため、すなわち建築物の敷地の位置について
都市計画上支障をもたらすかどうかを慎重に判断するために設けられたものであ
る。したがって、都市計画地方審議会の議を経ることは、当該申請を許可する場合
の要件というべきであって、特定行政庁が明らかに都市計画上の支障があると認め
る場合には、都市計画地方審議会に付議することなく不許可処分を行うことができ
る。
 本件では、後記のとおり、明らかに都市計画上の支障があると認められ、また、
原告の強行的態度及びこれに反対する地元の強固な態度に変化はなく、結局のとこ
ろ、同審議会に図るだけの機が熟しているといえない状況にあった。
 したがって、都市計画地方審議会の審議を経なくても、本件不許可処分に何ら違
法な点はない。
2 争点2について
 法六条三項に規定する処理義務が適用になるのは、同条一項の建築確認申請であ
り、法五一条ただし書の許可申請においても適用されるとする規定はない。建築確
認申請と法五一条ただし書の許可申請とは、その趣旨を異にするから、特定行政庁
の法五一条ただし書の許可に対する判断は、法六条三項に拘束されない。そして、
少なくとも平成五年二月一八日の本件申請までの間は、被告の行政指導による事前
審査が行われ、原告はこれに応じていたのであるから、原告の主張は理由がない。
3 争点3及び4について
 本件処分の理由は、以下のとおりであって、何ら違法事由はない。
(一)(1) 法五一条は、卸売市場、火葬場又はと畜場、汚物処理場、ごみ焼却
場その他の処理施設の用途に供する建築物は、都市計画でその敷地の位置が決定し
ているものでなければ新築又は増築をすることができないことを原則とし、右の建
築物の敷地の位置が都市計画決定を行い難い場合などに限り、例外的に、法五一条
ただし書に基づいて、特定行政庁が敷地の位置が都市計画上支障がないと認めて許
可したものに限って、新築又は増築を許すものとしている。
 都市計画は、農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都市生活及び
機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の
合理的な利用を図られるべきことを基本理念として定めるものである(都市計画法
二条)。この都市計画を定めるにあたっては、現在及び将来における都市の機能を
確保し、発展の方向を定め、また、土地利用の規制、事業の実施等を通じて都市計
画の内容を効率的に実現する必要がある。
 したがって、その決定においては、都市行政上の基礎的な単位である市町村の立
場が十分に尊重されなければならず、原則的には市町村が決定権者ないしは原案作
成者となる。
(2) そして、法五一条が適用される建築物のような都市施設についての都市計
画は、市町村が定めるものとされているが(都市計画法一五条)、これは、これら
の処理供給施設が都市生活上必要不可欠な施設である反面、周辺の環境に大きな影
響を及ぼすおそれがあり、また、一度設置されればみだりに変更するわけにもいか
ず、施設設置の費用も多額に上るからである。すなわち、都市内におけるこれらの
施設については、現在ばかりでなく将来も見据え、都市計画上の観点から十分慎重
に検討されたものでなければならない。それ故、例外的に法五一条ただし書の許可
をする場合には、慎重に判断しなければならないことは、前記のとおりである。
(3) 市町村が定める都市計画は、議会の議決を経て定められた基本構想に即
し、かつ、都道府県知事が定めた都市計画に適合したものでなければならない(都
市計画法一五条三項)ことからすると、市町村が都市計画を定める場合には、法律
上、議会の関与は明文では必要とされていないものの、議会の意思が反映されるべ
きものである。
 また、都市計画は、一般住民に対する影響が大きいことから、市町村が都市計画
決定を行うに当たっては、公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措
置を講ずる手続(都市計画法一六条一項)、計画案の閲覧、関係市町村の住民及び
利害関係人の意見書提出の手続(都市計画法一七条一項、二項)等が定められてい
ることに加え、基本構想の策定において、住民の意見が議会を通じて反映される仕
組みとなっている。
 したがって、法五一条ただし書の許可においても、これらの地元市町村、議会、
地元住民の意見が尊重されるべきことは当然である。
(4) 以上のことは、都市計画上、用途地域が定められていない無指定地域にお
いても同様である。無指定地域においては、まだ用途地域などの都市計画が定めら
れていない状況であるから、法五一条ただし書の許可については、その建築物の立
地を許すことによって都市計画を進めるうえで妨げとなることがないかどうかをよ
り一層慎重に見極めることが必要となり、当該敷地の位置が地元自治体の施策の基
本であるとともに都市計画の母体ともなるべき基本構想における基本的な土地利用
計画に反するものでないこと、あるいは当該施設の立地について地元における合意
形成が図られていることがとりわけ必要となる。法五一条ただし書が、特定行政庁
に対して、同条に定める各種建築物の立地について都市計画法上の支障の有無では
なく、都市計画上の支障の有無について判断することを要求していることからすれ
ば、既に決定済みの都市計画に適合するかどうかを検討すれば足りるものではな
い。
(5) 法五一条ただし書の特定行政庁とは、建築主事を置く市町村の区域につい
ては当該市町村の長をいい、その他の市町村の区域については都道府県知事をいう
(法二条三二号)。すなわち、建築主事を置かない市町村にあっては、都市計画の
決定権者ではない都道府県知事が特定行政庁となるという変則的な法律構造となっ
ている。本件においては、秩父市には建築主事が置かれていないから、被告が特定
行政庁となり、法五一条ただし書に基づく許可権限を有する場合も、右に述べた都
市計画法及び法五一条の立法趣旨に照らすと、都市施設についての都市計画決定権
者である秩父市の都市計画上の構想や考え方、地元住民の意見が極めて重視される
べきである。
(二) 都市計画上の支障の有無についての判断の基準
(1) 法五一条の運用及び判断指針については、建設省から発出された昭和三五
年一月二五日建設計発第二九号の通達において、ごみ焼却場等の設置については原
則として都市計画の施設として決定するものとし、法五一条ただし書の規定により
特定行政庁が取り扱う範囲を、①市街化の傾向のない場所に位置し、若しくは比較
的小規模である等周囲に影響を及ぼす影響の少ない場合、②将来の情勢の推移によ
って移転すること等が予想される暫定的なものである場合、③設置しようとする都
市に、用途地域、街路網、公園等の既定都市計画がない場合又はそれらの構想が確
定していない場合、④その関係部局が公益上やむを得ないと認める場合に限定して
いる。なお、この場合においても、その実施に当たってはあらかじめ関係部局と協
議しておくことを求めている。
(2) さらに、都市施設の設置のため都市計画決定を行う場合の具体的な指針と
しては、建設省策定の計画標準(案)がある。この計画標準(案)のポイントを挙
げると、①都市計画区域内に設けることを原則とする、②風致地区内、景勝地内、
優良な住宅地(住居専用地域等)には設けないこと、③ごみの搬入及び焼却後の残
滓の処理に便利な場所を選ぶこと、④卸売市場、火葬場、と畜場との隣接・併置は
避けること、⑤恒風の方向に対して市街地の風上を避けること、⑥人の近接しない
場所を選ぶこと、⑦市街地及び将来の市街地(予想区域)から五〇〇メートル以上
離れた場所を選ぶこと、⑧三〇〇メートル以内に学校、病院、住宅群又は公園がな
いこと、とされている。
 また、埼玉県では、県内の市町村が都市施設の設置について都市計画決定を行う
際の実務上の参考資料として、前記計画標準(案)に基づき編集した「都市建設マ
ニュアル」を作成し、市町村に配布している。
 この計画標準(案)や「都市施設マニュアル」は、都市施設の位置を都市計画決
定する際の原則であるが、法五一条ただし書に基づく許可も都市施設の設置を目的
とすることでは同様であるから、右の許可・不許可を判断するに当たっても原則た
るこのような都市計画決定の標準を考慮し、さらに、ただし書が例外許可である観
点から、より厳格な審査がなされるべきである。
(3) したがって、法五一条ただし書について、特定行政庁が都市計画上の支障
の有無を判断するに当たっては、立地しようとする施設の位置、施設の種類・規
模・構造等、都市計画決定権者である地元市町村の意見、地元市町村・住民の合意
形成の状況、地元市町村の定めた総合的計画に基づく土地利用計画や施設整備計画
との関係、道路・公園等の公共施設等に及ぼす影響、これらの公共施設等の整備計
画への影響、用途地域等の地域地区との関係等を、都市計画上の観点から総合的に
考慮すべきものである。埼玉県では、右の都市施設を設置する際の基準に照らした
うえで、法五一条ただし書の許可については、次のような観点から判断している。
① 都市計画、振興計画、構想などとの整合性
 当該施設の敷地の位置が既定の都市計画のみならず、市町村のマスタープラン、
既定の市町村総合計画、構想など(振興計画)に支障がないこと
② 市町村の意見
 当該施設のような用途に供する建築物は、都市計画法一一条、一五条により都市
計画決定は市町村が行うものとされている。よって、都市計画上の支障の有無に関
する市町村の意見が重要である。
③ 周辺との合意形成
 周辺住民、利害関係者、地元自治会等との合意が図られ、円滑な事業の遂行が期
待できること
④ 公害対策
 当該施設による騒音、振動、臭気、粉塵、有毒ガス、大気汚染、水質汚濁等の公
害が発生しないこと
⑤ 交通対策
 当該施設周辺の交通を著しく阻害したり、学童等公衆の通行に危険をもたらさな
いこと
⑥ オープンスペースの確保
 駐車スペース、防災安全上の空き地があること
⑦ 敷地内の緑化、景観への配慮
 当該敷地周辺の環境への悪影響を緩和するように配置されていること
⑧ 地域への貢献度
 当該地域における社会経済上、有用な施設であること
⑨ 学校、病院、公園等との位置関係
 これらの施設に近接しないこと
(三)被告の判断
(1) 前記(二)(3)の観点からみると、以下に述べるように、本件において
は、国道一四〇号及び同二九九号バイパスが本件土地に近接した影森地区で交差す
る計画があり、本件土地の隣接地に影森グラウンドが整備される計画があり、本件
施設は秩父市の土地利用計画に適合しないこと、用途地域の指定のない区域であっ
ても周辺環境に多大な影響を与える施設が立地することによって秩父市が今後の都
市計画を策定する上で重大な制約をもたらすこと、周辺の合意形成が十分なされて
いないことなどの点から、前記(二)(3)の①②③⑨の各点について都市計画上
の支障があると判断し、不許可処分をした。
(2)① 国道の交差
 埼玉県が平成四年三月に策定した秩父市周辺幹線道路網計画調査報告書によれ
ば、国道一四〇号及び同二九九号バイパスが、本件土地に近い影森地区で交差する
ことが計画されている。同報告書は将来幹線道路網を整備する際にはどのルートを
とるべきかを策定することを目的として行われた調査の報告書であり、これにより
右各国道バイパスの整備計画が細部に至るまで正式決定されたものではないが、以
後、これを基本として詳細な調査検討を加えられ、道路位置が具体的に定められる
ことになる。したがって、被告としては、当時正式決定ではないとしても、本件土
地に近い影森地区で交差することが同報告書に基づいて計画されていると理解する
ものであった。
 この計画場所は、本件土地からおよそ一キロメートルほど離れているが、本件土
地を含む影森地区周辺地域は、秩父市の基本構想の中で、土地区画整理事業等の導
入により、住宅、商業、工業地域として調和のとれた計画的な土地利用を図ること
が予定されており、このバイパスの交差計画により住居系、商業系の一層の土地利
用を図ることが望まれる。また、この国道交差計画の結果として、本件土地周辺で
国道一四〇号の拡幅、線形の変形等が十分予想される。
 したがって、本件土地に本件施設のような焼却施設が立地することは、秩父市の
総合的な土地利用計画に適合せず、また、今後の都市計画の妨げとなるから、不適
当と判断したものである。
② 影森総合スポーツセンター整備計画
a 本件土地は北側(下流側)で秩父市の影森グラウンドに近接する。
 影森グラウンドは荒川に面して、昭和五三年に設置された市営体育施設であり、
昭和五〇年代から六〇年代にかけて、秩父市の同種地域としては最大の年間約五万
人から六万人の市民に利用されていた。
 第二次秩父市総合振興計画基本構想(以下「本件基本構想」という。)、同後期
基本計画(以下「本件後期基本計画」という。)においては、約一〇万平方メート
ルの広さをもつ影森グラウンドを市民総合スポーツセンターとしての機能を満たせ
るように整備することが計画されている。この計画における施設の機能としては、
社会体育と学校体育(小・中・高代表選手)を兼ねた競技ができる総合スポーツセ
ンターとし、競技施設は、総合運動場として多目的広場、アーチェリー場、テニス
場、水泳場、馬術練習場、ジョギングコースを配置し、競技種目は、野球、サッカ
ー、ホッケー、ラグビー、陸上競技、テニス、馬術、ソフトボール、ハンドボー
ル、水泳等とすることとされている。
 また、主要施設の概要は、陸上競技場は種別第三種の円形四〇〇メートルトラッ
ク及び三、五〇〇人程度収容可能なスタンドを有し、野球場はプロ野球二軍戦程度
のできる公認球場で四、〇〇〇人程度収容可能なスタンドを有し、多目的広場はソ
フトボール一面が使用できる広さとし、アーチェリー場は競技用の男子九〇メート
ル、女子七〇メートルの固定発射場を有し、テニス場は全天候型コート四面を有
し、水泳場は五〇メートル競技用プール、飛び込み用プールを有するものとされて
いる。
 このように、影森グラウンドは、市民総合スポーツセンターとしての整備が予定
されている。
b もっとも、影森グラウンドのうちの市有地部分は、昭和六〇年一二月二三日付
けで水資源開発公団に貸与され、浦山ダム建設事業に伴う残土の捨場として利用さ
れていたが、当該借地に係る協定書及び覚書、確認書によれば、借地期間満了によ
り土地を返還するときは、右公団が影森総合スポーツセンター整備計画に合わせた
整地をすることが条件とされている。この借地期間は平成一〇年三月末で満了する
ため、影森グラウンド機能回復分の計画に沿って、右公団により大規模な盛土、整
地がなされている。そこで、平成一〇年三月末までに、本件土地からわずか幅三メ
ートル足らずの水路を隔てて隣接する位置に影森グラウンドが完成することにな
る。また、秩父市は、今後さらに影森グラウンドを整備していくことを計画してお
り、影森総合スポーツセンター計画は完成へ向けて着々と進行している。
c このように、影森グラウンドは、市民総合スポーツセンター、総合レクリエー
ション施設として、体育活動による市民の健康の増進、余暇の活用を目的とした影
森総合スポーツセンターとして整備されることが計画されている施設であり、その
立地については、特に周辺環境が良好であることが必要である。本件施設のような
産業廃棄物の焼却炉からは、操業によって「ばい煙」が排出され、「燃えがら」及
び「ばいじん」を生じることとなるが、煙突から排出されるばい煙には、硫黄酸化
物、ばいじん、有害物質が含まれる。影森グラウンドは、市民の健康増進や余暇の
活用を目的とする施設であるから、良好な環境のもとにあってこそ、その効用を全
うすることができるのであり、近接地に本件施設のような大規模な産業廃棄物の中
間処分施設(焼却炉)が建設されることは好ましくない。特に、本件施設は、前記
のとおり大規模なものであり、実際に操業を開始した後、計画とおりで機能しない
時は、排出基準を超えるばいじんや有害物質のみならず、悪臭等の発生による影響
も大きくなる。悪臭は風向によっても変わり、また、人の感覚は個人差もあって直
ちに規制や是正の措置を講ずることが難しいことから、影森グラウンドの利用上障
害となることが考えられる。このように、影森グラウンドの近接地に本件施設が立
地することにより、グラウンド利用者が気持ちよく施設を利用することの妨げとな
ったり、苦情が寄せられたりすることが考えられ、本件施設の効用を損なうことに
なる。
d 孔明は影森総合スポーツセンター計画地内である秩父市<以下略>及び同<以
下略>の計二筆の土地(合計地積は公簿一、〇〇四平方メートル、実測一、一八九
平方メートル)において、平成七年三月二七日付けで、被告から、産業廃棄物処理
法一四条四項に基づく産業廃棄物中間処分業の許可(許可内容は金属くず・建設廃
材の破砕であり、この施設はいわゆるコンクリート・クラッシャー・プラントであ
る。)を受けた。しかし、これによって、影森総合スポーツセンター整備計画が流
動的であるということはできない。
 孔明が許可を受けた右土地は、影森総合スポーツセンター計画地の北東の一部
で、民有地である。秩父市の影森総合グラウンド計画は、前記のように約一〇万平
方メートルの広さを持つ影森グラウンドを市民総合スポーツセンターとして整備す
る計画であるところ、孔明が許可を受けた土地の地積は影森総合スポーツセンター
整備計画地の地積のうち約一・一パーセントであるから、同計画地の片隅のごく一
部を占めるにすぎない。しかも、秩父市が昭和六一年に作成した同計画案によれ
ば、右計画地内の国有地及び民有地の合計四万五〇一七平方メートルは将来用地買
収を行うことによって確保し、そのうえで整備するという構想であって、現に右計
画後、一万九〇七三平方メートルが買収されている。残る民有地等について用地買
収が成功しなければ、計画に部分的な変更が加えられることもあり得るであろう
が、法的には、都市計画事業として民有地の土地収用を行うことも可能である。し
たがって、影森総合スポーツセンター整備計画が具体的でないとはいえないし、孔
明に対する許可によって同計画が不可能になることはないから、同計画の根幹には
何ら影響がない。
e したがって、本件施設が影森グラウンドの近接地に立地することは、都市計画
上看過し得ない、右のような具体的支障があるから、本件施設が本件土地上に立地
することは、都市計画上、不適切である。
③ ウォーターフロントゾーン構想について
 本件土地周辺は、水と緑に囲まれた景観に優れた地域であり、本件土地の対岸
は、埼玉県の秩父リゾート地域整備構想の長尾根重点整備地区に属し、また、本件
土地周辺の河川敷部分は、ウォーターフロントゾーンとして、整備が進められてい
る。現在でも、この河川敷には、バンガローが建ち並び、行楽時期には、水とのふ
れあいを求めて多くの県民がこの河川敷を訪れ、オートキャンプなどを楽しんでい
る。このように多くの県民が憩う場所の目の前に産業廃棄物の中間処理場があるこ
とは好ましくない。
④ 住居地域の接近について
 本件土地の東側の河岸段丘の上には、秩父鉄道影森駅を中心とする住居地域が拡
がっている。この影森駅付近の住居地域においては、秩父鉄道と国道一四〇号とに
挟まれた地域を中心に、住宅が比較的密集した市街地となっており、本件土地の東
側に隣接して県営住宅秩父つばきの森住宅(三六戸)がある。
 本件土地の当該住居地域との距離は最短で約一〇〇メートルにすぎず、本件施設
の立地は不適当である。
⑤ 地元秩父市の意見
 秩父市は、原告提出の資料をもとに原告、設置予定の焼却炉のメーカー及び販売
会社から説明を受けて、庁内の関係各課(一三課)から意見を求め、また、建設委
員協議会に付議して数回に及び審議を行い、本件施設と同機種の焼却炉を使用して
いる他県の施設を視察するなどして、施設の実態や状況の把握に努めた上、都市計
画上の支障について慎重に検討し、意見をまとめた。この結果、前記のとおり、秩
父市は、事前審査時においては、秩父リゾート地域整備への影響、市水道取水場へ
の影響、排気ガスの滞留、影森総合スポーツセンター計画への影響などを理由とし
て、また本件申請時においても、市施設への影響、将来の都市計画と整合しないこ
と及び市民の反対を理由に支障がある旨の回答をしている。
 なお、秩父市が本件と同一機種の焼却炉が稼働する山梨県内の施設を視察した
際、同施設の周辺で洗濯物が黄ばむなどの被害があったことを聞き、秩父盆地に立
地する本件施設では、排気ガスが滞留し、周辺に被害が出ることをかなり危惧して
いた。この視察した施設は、現在でも大量の白煙を煙突から排出しており、また、
屋外の鉄製コンテナの中で焼却残渣物の熱を冷ましている。
⑥ 周辺住民等の意見
 前記のとおり、隣接する荒川村などからも、本件施設に対する反対意見が提出さ
れた。被告が荒川村に対して意見聴取をしたのは、本件土地が荒川村との境界付近
に位置し、しかも本件施設に公道から出入りする搬入路の接続する国道一四〇号は
荒川村に位置しており、荒川村にも本件施設の稼働により直接の影響が及ぶことが
明らかであることによる。また、荒川村においては、都市計画法に基づく都市計画
は現在のところ定められていないが、都市計画は、都市の将来像を踏まえるもので
あるから、都市計画が定められていないからといって、直ちに荒川村に都市計画上
の問題がないこということではない。したがって、被告が審査の過程において荒川
村に意見を求めたことは、法の趣旨に何ら反するものではない。
 また、平成四年一二月の秩父市議会定例会において、秩父市議会議長あてに四、
三七二名にものぼる本件施設の建設反対の請願が提出され、右請願は、同市議会に
おいて、平成四年一二月一七日に賛成多数で採択され、荒川村でも、ダイオキシン
の排出などを理由として、建設反対の要望書が同村長あてに提出された。これによ
れば、本件施設の建築につき周辺との十分な合意が形成されたということはできな
い。
 ところで、原告は、本件申請書に本件施設から半径三〇〇メートル以内に居住す
る四一軒のうち三一軒の同意書を添付しており、右同意書には県営住宅つばきの森
団地三六軒のうち二七軒の同意書が含まれている。しかし、原告が右同意書を取得
したのは、原告が当該県営住宅の居住者と締結していた原告所有地についての駐車
場使用契約の破棄を示唆したからであって、原告がその有利な立場を利用し、直近
の住民を威圧して当該同意書を取得したことが窺える。そうすると、そもそも直近
の住民である当該住民が本心から同意しているのかは、疑問がある。
⑦ なお、原告は、本件施設の公害防止設備等が所定の基準を充たすことを強調す
るけれども、都市計画とは都市のあるべき姿についての政策論であり、当該設備等
が公害防止法令の個々の基準に適合するかどうかということは、都市計画とは本来
次元の異なる問題である。そもそも法五一条に該当する建築物の敷地の位置につい
ての都市計画の支障の有無は、当該施設が公害防止法令に適合していることを前提
として、判断しなければならない。このように、都市計画の性質に照らすと、設備
が個々の技術水準に適合するかどうかという観点だけから立地の適否を論ずるの
は、不適当である。
(四) 本件では、前述のとおり地元自治体である秩父市は、道路計画や土地利用
など都市計画上の支障を理由として強い反対意見を提出し、本件施設に隣接する荒
川村も反対意見を表明している。また、地元の住民団体からも強い反対があった。
 被告は、このような都市計画上の支障ありとする地元意見を尊重し、平成四年七
月に現地を直接調査したうえで、前記(三)に述べたように国道一四〇号と二九九
号バイパスの立体交差計画、秩父市の土地利用計画との不適合、周辺との合意形成
が十分なされていないこと、本件予定地の隣接地に影森グラウンド(影森総合スポ
ーツセンター)が市民の余暇の利用のためにスポーツ施設として整備される計画が
あるなどの点からみて、本件施設の立地は、都市計画上の支障があると判断された
ので、本件処分を行った。
4 争点5について
 本件施設の周辺には埼玉三興の処分場及び孔明の処分施設が立地しているが、こ
れらの施設に対する許可と本件許可とではその根拠法が異なっており、したがっ
て、審査事項も異なっている。
 すなわち、本件処分は法五一条ただし書に基づくもので、都市計画上の支障の有
無が審査されたのに対し、埼玉三興及び孔明の各施設は、もともと法五一条ただし
書の許可の対象とはされておらず、産業廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下
「廃棄物処理法」という。)一四条の許可に基づいて設置されたものである(埼玉
三興は産業廃棄物処理業のうちの最終処分業、孔明は同じく中間処分業であ
る。)。右許可は産業廃棄物の処理を業として行う場合に必要なもので、その基準
は産業廃棄物を適正に処理するために必要な技術基準を定めたものであって、そも
そも都市計画上の支障があるか否かということは、法令の要求する審査事項ではな
い。
 したがって、本件施設についてだけ将来の都市構想との関係が問題にされたとい
う原告の主張には法的な根拠がない。
第三 争点に対する判断
一 争点1について
 法五一条は、その本文において、一定の特殊建築物は、都市計画においてその敷
地の位置が決定しているものでなければ新築又は増築してはならないと定め、その
ただし書において、特定行政庁が都市計画地方審議会の議を経てその敷地の位置が
都市計画上支障がないと認めて許可した場合に新築又は増築する場合においては、
この限りでないと定めている。すなわち、右法文によれば、本文において、都市計
画においてその敷地の位置が決定していない右のような特殊建築物は新築又は増築
が許されないものとされ、ただし書において、特定行政庁が例外的に右特殊建築物
の新築又は増築を許可する場合に、その要件として、都市計画地方審議会の議を経
ることが定められているのであるから、特定行政庁が許可の要件が備わらないと判
断して不許可とする場合には、都市計画地方審議会の議を経る必要がないものと解
される。ちなみに、同条がこのような構成を採った理由を検討すると、同条に定め
る施設は、本来都市計画において定められるべき都市施設であり(都市計画法一一
条一項三号、七号)、その施設の性質が周辺環境等に大きな影響を与えうるもので
あって、都市計画全体の観点から敷地の位置を決定すべきものであることから、同
条ただし書に基づいて特定行政庁が当該敷地にその建設を許可しようとする場合に
は、都市計画地方審議会にあらかじめその影響を調査審議させることとしたものと
解される。したがって、同条のこのような趣旨からも、特定行政庁が、当該敷地に
右施設を建築することは都市計画上支障があると判断してこれを不許可とする場合
には、当該地域の都市計画に影響を与えることはないから、都市計画地方審議会の
議を経るまでもないということができる。
 よって、都市計画地方審議会の議を経ていないことをもって本件処分が違法であ
るとする原告の主張は失当である。
二 争点2について
 法六条三項は、建築主事が、同条一項の建築確認申請書を受理した場合において
は、同項一号から三号までに係るものは二一日以内に、同項四号に係るものは七日
以内に、申請にかかる建築物の計画が当該建築物の敷地、構造及び建築整備に関す
る法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合するかを審査して申請者に通
知しなければならないと規定している。しかし、右期間についての定めが法六条一
項に係る建築確認申請に関するものであることは条文の文言上明らかであって、右
条項を法五一条ただし書の許可についても準用する旨の規定はない。また、法五一
条ただし書の許可は、申請のあった当該敷地の位置が都市計画上支障がないかどう
かを判断するものであって、都市計画全体を考慮して総合的に判断すべきものであ
るうえ、右許可をする場合には、都市計画地方審議会の議を経ることが要求されて
いるから、その審査の内容・対象及び手続が法六条一項の申請と異なることは明ら
かである。
 したがって、法五一条ただし書の審査において、特定行政庁には法六条三項に定
める義務に準じた義務があるとする原告の主張は失当である。
三 争点3について
1 甲五号証によれば、被告は、原告に対し、「建築基準法第五一条の規定に基づ
く建築許可について(通知)」と題する文書で本件処分を通知し、右文書に本件処
分の理由を記載しているところ、その内容は、前記第二の二4(一)のとおりであ
ること、すなわち、法五一条の趣旨及び同条ただし書が特例的許可であること、都
市計画決定手続においては関係市町村及び住民の意見を反映させる手続がとられて
いること、市町村議会の議決は住民総意の意見であることから、法五一条ただし書
の許可においてもこれらの意見を尊重しなければならないとしたうえで、本件にお
ける計画については、平成五年三月二二日付けで秩父市から本計画に対する回答が
あり、①市施設への影響及び将来の都市計画を考慮し、また市民の当該施設設置に
対する反対の状況からみて本計画に支障があるとしている、また、荒川村からも同
年三月二五日付けで回答があり、本計画には支障があるとしている、②秩父市の平
成四年一二月市議会において、四三七二名の当該施設の建設反対の請願を賛成多数
で採択されている、③秩父市では都市計画審議会に代わる秩父市建設委員協議会に
おいて、将来の都市計画上の問題を含め支障があると判断していることを挙げてい
ることが認められる。
 そうすると、右文書によれば、地元市町村及び住民の意見の内容としても、本件
施設について如何なる都市計画上の支障があるかは何ら具体的に記載されていない
から、たとえ事前審査及び本件申請の審査において前記第二の二の3のように地元
市町村からはその意見の理由が提出されていたとしても、右文書から看取される被
告の本件処分の理由は、地元市町村及び住民に反対意見が存在するということにあ
るといわざるを得ない。
2 法五一条ただし書に基づく不許可の理由は、後記のように当該施設の敷地の位
置が都市計画上支障があることであるから、特定行政庁は、このような都市計画上
の支障の有無を調査・確認する方法として地元市町村及び住民の意見を照会するこ
とは差し支えなく、あるいはむしろこのような意見照会を行うことが適当である場
合もあろうけれども、自ら都市計画上の支障の有無を判断せずに、地元市町村及び
住民の意見の結論だけに基づいて右の許可・不許可を決定することは許されない。
 しかし、法五一条ただし書に基づく不許可処分について、本件処分当時において
は、これに理由を付記すべきものとする規定もなく、また、特別の手続的な保護規
定もおかれていない。したがって、被告が不許可通知書に処分理由を記載した場合
においても、右記載に法的拘束力があると解すべき根拠はないから、右不許可処分
の取消訴訟が提起された場合、当該訴訟において、被告が右処分が適法である理由
として、処分通知書に記載した以外の処分理由を主張することも妨げないものと解
される。
 そこで、本件においても、被告は、本訴において、右通知書における処分理由が
地元市町村及び住民に反対意見が存在するということであったとしても、その他の
処分理由を主張することも許されるといわなければならない。なお、被告に右のよ
うな主張を許しても、被処分者である原告に格別の不利益を与えるものとはいえな
い。
 したがって、本件処分につきこれを取り消すべき違法があるかどうかは、被告が
本訴において主張する処分理由を判断して決定すべきであるから、本件処分の理由
は単に地元に反対意見が存在するということだけであり、しかも右意見は事実の誤
解等に基づくとして、被告の本件処分は裁量権を逸脱して違法であるとの原告の主
張は採用することができない。
四 争点4について
1 法五一条は、前記のように、本文において、卸売市場、火葬場又はと畜場、汚
物処理場、ごみ焼却場その他の処理施設の用途に供する建築物は、都市計画におい
てその敷地が決定されているものでなければ、新築し、又は増築してはならないと
規定し、ただし書において、特定行政庁が、都市地方審議会の議を経てその敷地の
位置が都市計画上支障がないものと認めて許可した場合には、この建築を許すこと
としている。
 ところで、法五一条本文に定める特殊建築物は、都市計画法上、原則として都市
施設として都市計画において定めるものとされているから(同法一一条一項三号、
七号)、法五一条本文は、都市計画法の右規定と符節を合わせるものである。そこ
で、法五一条本文の趣旨を検討すると、右規定の趣旨は、これらの施設が都市に必
要不可欠なものであると同時に、いわゆる嫌忌施設であって周辺の環境に大きな影
響を及ぼすおそれがあることに鑑み、都市における供給処理計画、周辺地域の環境
維持等の面についても配慮しつつ、都市全体の中で最適の位置が選択されるよう
に、その配置について都市計画上の観点から十分検討し、また、都市計画決定手続
を経ることによって周辺住民の意見も十分に反映させようとすることにあると解す
るのが相当である。
 そして、法五一条ただし書は、右のような建築物が都市施設としての位置決定が
遅れたり、あるいは、都市計画で決定された敷地の取得が困難となるなどの事情に
より、決定された位置に設置しがたい場合等もありうることから、例外として、特
定行政庁が都市計画地方審議会の議を経てその敷地の位置が都市計画上支障がない
と認めて許可した場合という要件を付して、この建築を認めることとしたものとい
うことができる。
 そうすると、特定行政庁が法五一条ただし書の許可をするかどうかを決定するに
当たっては、当該建築物を都市計画において決定する場合と同様に、都市における
供給処理計画、周辺環境の維持など、都市計画全体の趣旨を十分検討し、また、周
辺住民等の意向も配慮しつつ、当該都市内における右施設の配置についての都市計
画上の支障の有無を判断することが予定されているというべきである。
 また、法五一条に定める建築物は、その性質上、長期間に渡って使用されること
が予定され、設置の費用も多額に上ると考えられるから、一度設置されるとその敷
地の位置を容易に変更することができないものであるということができる。したが
って、同条ただし書において都市計画上の支障の有無を判断する際には、既に正式
に決定された都市計画のみならず、当該市町村の基本構想、基本計画等から看取さ
れる将来の発展の動向等に鑑みて、都市計画の全体の趣旨から合理的に予測される
支障も考慮の対象に含まれると解すべきである。
2 ところで、法五一条ただし書をみると、これによる許可をするについて、都市
計画地方審議会の議を経ること及び特定行政庁が都市計画上支障がないと認めるこ
とを要件とするのみで、その具体的な判断基準については規定していない。そこ
で、特定行政庁が法五一条ただし書に基づく許可の可否を判断するに際しては、右
に述べた法の趣旨を総合的に検討して都市計画上の支障の有無を判断すべきである
が、その判断には広範な裁量権が認められていると解される。
 したがって、法五一条ただし書に基づく処分については、特定行政庁の判断が、
当該裁量権の行使を逸脱したり、これが濫用にわたると認められる等の特段の事情
がない限り、違法の問題は生じないというべきである。
3 なお、乙第二〇号証によれば、埼玉県住宅都市部が平成四年九月に作成した都
市施設マニュアルにおいて、都市計画法一一条に基づき、汚物処理場、ごみ焼却場
及びその他の供給施設又は処理施設、市場、と畜場、及び火葬場の処理供給施設に
ついて、都市施設としてその位置を決定する際の指針が示されており、これによれ
ば、都市計画区域内に設けることを原則とし、風致地区内、景勝地内、第一種住居
専用地域、第二種住居専用地域等優良な住宅地には設けないこと、「ごみ焼却場・
汚物処理施設」、火葬場、と畜場との隣接併置は避ける、主搬出入路は、原則とし
て繁華街又は住宅街を通らないこと、半径五〇〇メートル以内の住民等に同意が得
られること、接続させる道路については、幅員一二メートル程度が望ましいこと、
各施設についての個別事項によりがたい場合は、周辺の住民の生活環境、地域全体
の環境保全等について十分留意し、位置選定をすることとされ、また、ごみ焼却場
についての個別事項として、ごみの搬入及び焼却後の残滓の処理に便利な場所を選
ぶこと、恒風の方向に対して市街地の風上を避けること、市街地及び将来の市街地
から原則として五〇〇メートル以上離れた場所を選ぶこと、付近三〇〇メートル以
内に学校、病院、住宅街又は公園(都市計画公園第二場第二項五号、六号)がない
こととされていることが認められる。
 右の基準は、都市計画が農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都
市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のも
とに土地の合理的な利用が図られるべきことを基本理念として定めるべきとされて
いること(都市計画法二条)、また、前記1で述べたような右の各処理供給施設の
特質からすれば、その設置する敷地の位置についての指針として合理性を有するも
のということができる。
4 都市計画上の支障について
 そこで、被告の主張する本件処分理由について判断する。
(一) 本件土地は、都市計画区域内にあるが、用途地域としては無指定であるこ
とは、前記のとおりである。
 乙第二号証及び第七号証によれば、本件土地は、秩父市の都市計画における中央
地域の最南端の外に位置し、一般市街地(中央地区、影森地区)には含まれておら
ず、右影森地区のうち本件土地に隣接する部分については住居地域と指定されてい
ること、本件後期基本計画において、中心市街地を取り巻く中央地域は、住宅・商
業・工業地域が入り組んでいるため、面的整備を進めながら、良好な環境の保全と
用途の純化を図ること、また、都市基盤整備の遅れている影森地区については、土
地区画整理事業等の導入により住宅・商業・工業地域として調和のとれた計画的な
土地利用を図ることが計画されていることが認められる。
 そうすると、本件土地自体は、将来の土地利用について明確には計画されていな
いが、本件土地に近接する影森地域は、土地区画整理事業等によって、将来的には
住宅地域あるいは商業地域等として利用されることが予定されているということが
できる。
(二) 国道一四〇号及び同二九九号の交差計画について
(1) 乙第一号証及び第二号証によれば、秩父市基本構想における施策の大綱と
して、幹線道路である国道一四〇号及び同二九九号の整備計画が挙げられているこ
と、秩父市後期基本計画において、国・県への要望事項として、バイパスの建設を
含め国道一四〇号及び同二九九号の早期道路改良整備を要望することが計画されて
いることが認められる。
(2)① 次に、乙第八号証によれば、平成四年三月に埼玉県によって作成された
秩父市周辺幹線道路網計画調査報告書(以下「調査報告書」という。)において、
秩父市周辺幹線道路網計画調査委員会により国道一四〇号及び同二九九号の整備に
関し、概要次のような調査報告がされたことが認められる。
a 右調査は、秩父市周辺地域において、国道一四〇号と同二九九号との交差部分
周辺における交通混雑等の道路交通状況を改善することとともに、地域の振興・活
性化に寄与し、かつ将来の地域整備や沿道土地利用との調和のとれた幹線道路網計
画を策定することを目的とする。
b 幹線道路網体系整備の方針として、国道一四〇号バイパス及び同二九九号バイ
パスについて、考えられる導入パターンを検討のうえ、当該地域における主要交通
流動との対応、主要拠点へのアクセス性、路線の機能と位置づけ、市街地における
計画的担保と土木技術などの視点から検討すると、国道一四〇号バイパスについて
は荒川西岸に高規格タイプを導入するのが、国道二九九号バイパスについては市街
地の北側、あるいは南側を迂回する市街地迂回バイパスタイプを導入するのが合理
的である。
c 両国道バイパスの交差に関する計画案としては、市街地の南西部で交差させる
案及び市街地北西部で交差させる案が考えられ、これを交通処理、拠点へのアクセ
ス、交通特性、都市構造、一般道との取付け、事業規模等を比較検討して総合評価
すると、市街地南西部で交差させる案が優れている。
② 右のような調査報告の結果によれば、国道一四〇号バイパス及び国道二九九号
バイパスにつき広域幹線道路の整備方針としては、市街地南西部で両バイパスを交
差させるのが最も合理的な結論とされていることとなる。
 もっとも、前掲乙第八号証によれば、右計画は、将来整備する場合の最良の手段
を検討したものにすぎず、右報告書を子細に検討してみても、両バイパスの整備の
具体的計画が看取される記載はなく、また、右計画における、最終的な計画図面に
おいても、両バイパスの大まかな位置として、本件土地から約一キロメートル北側
の地点で交差する模式図が記載されているのみであることが認められるから、右報
告書によって最終的に両国道の交差する位置が正確に決定されたということはでき
ない。
 しかし、右①で認定したとおり、秩父市基本構想、秩父市後期基本計画において
も、国道一四〇号及び同二九九号の整備、早期改良工事は懸案となっており、埼玉
県によっても右のような具体的な調査結果報告がなされていること、道路の整備に
ついては既存の道路、橋等の合理的な利用がされるのが通常であるところ、乙第八
号証の模式図に示された計画は、国道二九九号について、荒川にかかる巴川橋及び
県道小鹿野・影森停車場線が利用される予定のものであることが認められることか
らすれば、将来的には、右各国道がバイパス化され、本件土地の北側約一キロメー
トルの地点で交差することは、合理的に予想されるものということができるのであ
って、その場合には、本件土地に近接する地域の利用状況に変化が生じることも、
経験則上、推測されることである。
(三) 影森総合スポーツセンター整備計画について
(1) 前記第二の二2(二)のとおり、本件土地の北側には国有水路(通称湯之
沢)を挟んで影森グラウンドがあるところ、乙第二号証及び第二二号証によれば、
秩父市においては、広域公園、総合公園、住区基幹公園等の整備、充実を図り、約
一〇万平方メートルの広さをもつ荒川河川隣接地の影森グラウンドを計画的に整備
し、市民総合スポーツセンターとしての機能を果たせるように事業を推進するこ
と、また、影森グラウンドを運動公園に指定し、都市計画公園として整備する方針
であることが認められる。
(2)次に、乙一〇号証によれば、次の事実が認められる。
 秩父市は、本件基本構想の計画体系に位置づけられた施策として、秩父市影森総
合スポーツセンター(仮称)計画を立案し、荒川の河川敷の影森グランドを改良整
備して、レクリエーション施設としても活用される、面積一〇万五四九六平方メー
トルの市民総合スポーツセンターを設置することを計画している。
 右施設の計画は、社会体育と学校体育(小・中・高代表選手)を兼ねた競技がで
きる総合スポーツセンターとし、競技施設としては、①収容観客数三、五〇〇人程
度の陸上競技場兼球技場、②約四、〇〇〇人が収容可能な公認野球場、③五〇メー
トル競技用プール及び飛び込み用プール、④ソフトボール一面程度の多目的スポー
ツ広場、⑤馬術練習場、⑥男子九〇メートル五席、女子七〇メートル四席の規模の
競技用アーチェリー場、⑦全天候型テニスコート四面、⑧一周約一・二キロメート
ルのジョギングコース、⑧ローラースケート、サイクリングロードを設置し、競技
種目は、野球、サッカー、ホッケー、ラグビー、陸上競技、テニス、馬術、ソフト
ボール、ハンドボール、水泳等とする。
 また、主要施設の管理棟として、陸上競技場管理棟(鉄筋コンクリート三階建
て、二、二〇〇平方メートル)、野球場管理棟(鉄筋コンクリート三階建て、一、
〇〇〇平方メートル)、プール場・テニス場管理棟(鉄筋コンクリート二階建て、
一、六〇〇平方メートル)の建築が予定されている。
(3) そして、乙第二九号証及び第三三号証並びに証人Aの証言によれば、影森
グラウンドは、浦山ダム建設工事の残土処理場として水資源開発公団に貸与されて
いたが、平成九年一二月までに埋め戻され、同公団によって、影森総合スポーツセ
ンター整備計画に沿って、フェンス、バックネット、側溝、水道、路盤工、トイ
レ、浄化槽、倉庫、サッカーゴールの設置等の工事が行われる予定であり、その
後、全体をスポーツ公園として整備する計画であることが認められる。
(4) なお、甲第一一号証及び乙第一五号証の一、二によれば、右影森総合スポ
ーツセンター計画地内の北東部分の一画に、孔明が産業廃棄物処理場を設置してい
ること、右施設の地積は合計一、一八九平方メートルであることが認められる。
 しかし、右の孔明の設置する産業廃棄物処理場の敷地の地積は、影森総合スポー
ツセンター計画地全体の地積の一・一パーセント程度にすぎず、また、右(3)で
認定したとおり、影森総合スポーツセンター整備計画に沿って影森グラウンドが整
備されてきていることからすれば、孔明が影森総合スポーツセンター計画地内に産
業廃棄物処理施設を設置したことをもって、右計画が流動的なものということはで
きない。
(5) そうすると、本件土地の北側に近接して、将来的には大規模な総合スポー
ツセンターが設置され、都市計画公園として指定されることが予定されているとい
うことができる。
(四) ウォーターフロント計画について
(1) 乙第二号証によれば、本件後期基本計画において、地形的に数多い大小の
河川に恵まれているため、この地の利を有効適切に活用し、水辺に親しむ観光資源
として河川整備を推進していくことが計画されていることが認められ、また、乙第
二一号証、第二六号証及び証人B、同Aの各証言によれば、埼玉県の長期構想であ
る秩父リゾート基本計画において、長尾根重点整備地区は総面積が二、五〇〇ヘク
タールで、複合リゾートとして、緑と水に囲まれた自然環境の中で、スポーツ・芸
術・文化活動等を通じて、多くの人々と出会い、楽しく語り合うことができるリゾ
ート空間を形成すること、長尾根重点地区のうち、本件土地の荒川対岸に面積三四
〇ヘクタールのウォーターフロントゾーンを設定し、荒川とその川岸の自然を活用
してオートキャンプ場、釣りセンターやバードサンクチュアリ等の施設を整備する
計画であることが認められる。
(2) また、乙第三〇号証によれば、本件土地に近接する荒川の河川敷では、現
在においても、行楽時には川遊びの場として、多数の人出があることが認められ
る。
(五) 以上認定の事実によれば、本件土地の周辺は、秩父市において従前決定さ
れた用途地域と、本件基本構想、本件基本計画等における周辺地域の将来の計画を
総合すると、影森地域を土地区画整理事業等により市街地として整備し、また、将
来的に国道一四〇号及び同二九九号のバイパスを改良整備し、さらに影森総合スポ
ーツセンターを整備して都市計画公園として指定し、本件土地に近接する河川敷に
ウォーターフロントゾーンを設定してオートキャンプ場、釣りセンターなどを整備
すること等を総合的に推進することにより、住居地域、商業地域として活用するば
かりでなく、総合スポーツセンターを含む公園及び複合リゾート地域としても発展
することが予定されているということができる。
5 原告は、本件土地には既に砕石プラントが設置されていることから無機質な景
観を呈しており、また、本件施設を設置するに当たっては景観に配慮できること、
本件施設が廃棄物処理法、大気汚染防止法等の公害防止についての規制に適合する
ものであり、また、本件土地は国道一四〇号線よりもかなり低い位置にあり、国道
交差計画による影響を受け得ず、住居地域として発展する可能性もないから、右の
ような施設が隣接したとしても、都市計画上の支障があるとはいえないと主張す
る。
 しかし、都市計画は、都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることを目的とし
(都市計画法一条)、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保し、土
地の合理的な利用を図ることを基本理念として定められるべきもの(同法二条)で
あり、本件施設のような処理供給施設は都市施設として定めるのが原則であること
から(同法一一条)、法五一条ただし書における建築の許可については、都市の発
展の動向を担うべき都市計画の総合的観点から前記3で述べたような要素を考慮し
て決定すべきものである。換言すれば、法五一条ただし書の許可の判断に当たって
は、当該特殊建築物が公害防止の規制に適合することはいわば当然の前提であり、
そのような施設がその設置を計画する当該地域の都市計画にまさしく支障がないか
どうかが問われるものである。したがって、単に公害防止についての規制に適合
し、また、景観に配慮がなされうることのみをもっては、都市計画上支障がないと
いうことはできず、さらに、本件土地自体が住居地域として発展する可能性がない
としても、その周辺地域が住居地域として発展することが予測され、あるいは処理
供給施設とは異なる大規模な公共的施設が設置され、並びに複合リゾート地域とし
て整備される等の構想があることは、都市計画上の観点からは看過し得ないもので
ある。そして、前記のように本件土地の周辺は、住居地域あるいは商業地域として
活用され、総合スポーツセンターを含む大規模公園及び複合リゾート地域としても
発展することが予定あるいは構想されているのであるから、本件土地に大規模な産
業廃棄物処理場を建設することにはその敷地の位置に都市計画上の支障があるとし
た被告の判断は、未だその裁量権の行使に濫用ないし逸脱があったと認めることは
できない。
五 争点5について
1 原告は、本件土地の周辺に孔明及び埼玉三興が設置する産業廃棄物処理施設が
存在することをもって、本件処分が平等原則に違反すると主張するけれども、仮に
右業者らがたとえ廃棄物処理法所定の許可を受けているとしても、これと法五一条
ただし書の許可を受けることは、法的に全く別のことであるところ、原告は、右業
者らが右各施設の敷地について法五一条ただし書の許可を受けたものであることを
何ら主張・立証しないから、原告の右主張は、その前提を欠くものであって、採用
することができない。
2 次に、乙第七号証によれば、都市計画法一一条一項三号に定めるごみ焼却場で
ある秩父市環境衛生センターが、同項二号に定める公園である秩父聖地公園に隣接
して設置されていることが認められる。
 しかし、乙第二号証、第七号証、第八号証、第二二号証及び第二六号証によれ
ば、前認定のような本件土地を含む地域の都市計画及び本件基本計画等と秩父市環
境衛生センター周辺のそれとは全く同じではないことが認められるから、秩父市環
境衛生センターが設置されていることをもって、直ちに本件処分が平等原則に違反
するということはできない。
六 よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用
の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり
判決する。
浦和地方裁判所第四民事部
裁判長裁判官 大喜多啓光
裁判官 小島浩
裁判官 水上周
別紙
一 場所
所在 埼玉県秩父市<以下略>
総面積 三万九八〇一・一七平方メートル
二 計画建物
管理棟 建築面積(延床面積)一一〇・二五平方メートル
保管倉庫(廃プラスティック) 建築面積(延床面積) 五一・〇〇平方メートル
保管倉庫(廃酸、アルカリ) 建築面積(延床面積) 三二・六七平方メートル
三 建築目的
産業廃棄物の中間処理施設の建設

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