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平成30年12月20日判決言渡
平成30年(行ケ)第10102号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成30年10月23日
判決
原告エフシーツーインク
同訴訟代理人弁護士高橋淳
壇俊光
被告株式会社ドワンゴ
同訴訟代理人弁護士宮川美津子
波田野晴朗
高藤真人
同訴訟代理人弁理士稲葉良幸
右馬埜大地
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を
30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が取消2016-300709号事件について平成30年3月22日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等(後掲証拠及び弁論の全趣旨から認められる事
実)
(1)原告は,次の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲
2,7)。
登録番号第5621414号
登録出願日平成24年9月13日
設定登録日平成25年10月11日
登録商標
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第42類インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの
設計・作成又は保守,インターネット等の通信ネットワークにおけるホ
ームページの設計・作成又は保守に関するコンサルティング,インター
ネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保
守に関する情報の提供,インターネット等の通信ネットワークにおける
情報・サイト検索用の検索エンジンの提供,インターネット等の通信ネ
ットワークを利用するためのコンピュータシステムの設計・作成又は保
守に関するコンサルティング,インターネット等の通信ネットワークを
利用するプログラムの設計・作成又は保守,コンピュータにおけるウィ
ルスの検出・排除及び感染の防止・パスワードに基づくインターネット
情報及びオンライン情報の盗用の防止並びにコンピュータにおけるハッ
カーの侵入の防止等の安全確保のためのコンピュータプログラムによる
監視,インターネットサイトにおけるブログ検索用の検索エンジンの提
供,インターネットにおけるブログのためのサーバーの記憶領域の貸与,
ウェブログの運用管理のための電子計算機用プログラムの提供,ウェブ
ログ上の電子掲示板用サーバの記憶領域の貸与及びこれに関する情報の
提供,オンラインによるブログ作成用コンピュータプログラムの提供又
はこれに関する情報の提供,インターネットホームページを閲覧するた
めの電子計算機の貸与,インターネット上で利用者が交流するためのソ
ーシャルネットワーキング用サーバコンピュータの記憶領域の貸与,イ
ンターネット上の情報を閲覧するためのコンピュータプログラムの提供,
インターネット等の通信ネットワークにおいて利用可能な記憶装置の記
憶領域の貸与
(なお,平成28年7月11日に,上記指定役務中,「ウェブログの運
用管理のための電子計算機用プログラムの提供,オンラインによるブロ
グ作成用コンピュータプログラムの提供,インターネット上の情報を閲
覧するためのコンピュータプログラムの提供」についての登録を無効と
する旨の審決の確定登録がされた。)
(2)被告は,本件商標の登録取消審判請求をし,特許庁は,これを取消201
6-300709号事件として審理した。取消審判請求の登録日は平成28
年10月21日である。(甲7)
(3)特許庁は,平成30年3月22日,「登録第5621414号商標の指定
役務中,第42類「インターネットにおけるブログのためのサーバーの記憶
領域の貸与,ウェブログ上の電子掲示板用サーバの記憶領域の貸与及びこれ
に関する情報の提供,インターネットホームページを閲覧するための電子計
算機の貸与,インターネット上で利用者が交流するためのソーシャルネット
ワーキング用サーバコンピュータの記憶領域の貸与,インターネット等の通
信ネットワークにおいて利用可能な記憶装置の記憶領域の貸与」についての
商標登録を取り消す。」旨の審決(以下「本件審決」という。また,取消し
に係る役務を「取消対象役務」という。)をし,出訴期間として90日を附
加した。その謄本は,同月30日,原告に送達された。
(4)原告は,平成30年7月23日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提
起した。
2本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は別紙審決書(写し)記載のとおりであり,要するに,原告
の使用する,「ブロマガ」の文字からなる商標と「BlogMaga」の文字
からなる商標は,本件商標と社会通念上同一の商標とはいえず,商標法50条
に規定する「登録商標」に当たらないし,また,上記原告の使用する商標の使
用に係る役務は「電子掲示板の提供」であって取消対象役務に含まれないため,
原告が,登録に係る登録商標を取消審判請求の登録前3年以内(以下「要証期
間」という。)に取消対象役務について使用したことの証明がないから,本件
商標の取消対象役務に係る登録は商標法50条により取り消されるべきである
というものである。
3取消事由
(1)商標の同一性についての判断の誤り(取消事由1)
(2)商標の使用役務についての判断の誤り(取消事由2)
第3取消事由に関する当事者の主張
1商標の同一性についての判断の誤り(取消事由1)
(1)本件商標と,「ブロマガ」の文字からなる商標及び「BlogMag
a」の文字からなる商標が商標法50条1項所定の「社会通念上同一と認め
られる商標」に当たらないとした本件審決の判断は,次のとおり,誤りであ
る。
(2)「社会通念上同一と認められる商標」について判断するに際しては,特
定の発音に固執することなく,ある程度幅のある発音を念頭に,日本におけ
る一般的な認識や連想等を含めて総合的に判断すべきであるところ,本件審
決は,本件商標と原告の使用する商標との間に書体に変更を加える以上の違
いがあるかという問題のみにこだわり,称呼や観念等を全く検討していな
い。本件審決の考え方によれば,2段の商標については書体に変更を加える
程度でそのまま用いなければ社会通念上の同一性がないということになる
が,これは過去の裁判例の考え方に反するというだけでなく,これまでの2
段の商標についての実務を全く否定するものである。
(3)原告は,「ブロマガ」の文字からなる商標及び「BlogMaga」の
文字からなる商標を使用しているが,これらの各商標と本件商標は社会通念
上同一である。
ア本件商標と「ブロマガ」及び「BlogMaga」は称呼が同一である
こと
(ア)日本語では英語やフランス語を全て正確に発音できず,欧文字に接し
た一般人がどのように読むかはある程度の幅があるし,日本語独特の発
音や略音が存在するから,欧文字の称呼については,社会通念の範囲で
ある程度の幅をもって考えなければならない。
欧文字の一般的な読み方として,例えば「HongKong」を「ホ
ンコン」,「Ping-Pong」を「ピンポン」,「Sign」を「サ
イン」,「Foreign」を「フォーリン」と読むように,「g」を
発音しない例がしばしば存在する一方,「KINGKONG」はキン
グコングと,英語ではほとんど発音されないにもかかわらず「グ」と発
音する。このように,日本語において,「g」を「グ」と発音するかど
うかは,その後の音とも関連して,ケースバイケースであり,社会の一
般的な表音方法によって決すると言わざるを得ないが,「g」はしばし
ば発音の対象外となる。
また,「エアーコンディショナー」を「エアコン」,「パーソナルコ
ンピュータ」を「パソコン」,「ドラゴンクエスト」を「ドラクエ」,
「キムラタクヤ」を「キムタク」とするように,語呂の悪い語や冗長な
語等を略して使用するのは日本語の特徴の1つであり,このような略語
では,それぞれの語の語頭から二モーラ(二拍)ずつを取るのが基本的
なパターンである。
(イ)欧文字と片仮名の2段書きの商標は,欧文字とその表音を記載するこ
とが多く,本件商標も,「BlogMaga」が一般的にブロマガと呼
ばれていたことから,表音を示す2段書きの商標として登録された。
すなわち,「BlogMaga」において,「g」(グ)の濁音に続
けて「Ma」(マ)を発音するのは,後者を発音する際に一度口を閉じ
なくてはならないことから語呂が悪く,「ブロマガ」と発音する方が遙
かに簡単である。また,上記(ア)のとおり,「g」は脱落して発音される
傾向にあり,略語には「二モーラ+二モーラ」の4文字読みが多いこと
から,「グ」が脱落した表音を示したのである。
また,社会一般としても「BlogMaga」の表記を「ブロマガ」
と記載していることが多く,これをブログマガと表記していることは皆
無であり,このことは,需要者が「BlogMaga」を「ブロマガ」
と認識していることを端的に示すものである。
イ本件商標と「ブロマガ」及び「BlogMaga」は観念が同一である
こと
(ア)「BlogMaga」は造語であるが,「Blog」つまり特定の話
題について書き綴った文章や感想,画像などを時系列順に配置した日記
的なウェブサイトを意味する「Weblog」の略語である「Blog」
といろんなものを盛り込んだものを意味する雑誌の英語「Magazi
ne」の略語である「Maga」が結合され,いろいろなブログを配信
するサービスという観念が生じる。他方,「ブログ」「マガジン」の略
語が結合した「ブロマガ」からも,いろいろなブログを配信するサービ
スであるという観念が生じる。
(イ)商標の使用が社会的同一性から判断されるのであれば,その判断は需
要者の認識を基礎とするべきであるところ,原告のサービスは,広く「ブ
ロマガ」として認識されており,「ブログマガ」とは認識されていない。
すなわち,原告は,平成21年1月にFC2ブログを通じて有料コン
テンツの販売及び購入ができる有料配信サービス「ブロマガ」を開始し,
「ブロマガ」を紹介する書籍も多数発行されている。また,FC2ブロ
グのユーザーはユーザー数データによれば,平成24年12月の時点で
500万人弱(490万621人),FC2ブログは日本のブログ利用
に関するレポートで日本国内第1位となるなど,ブログの分野において
著名であり最大手の1つであるが,FC2ブログのユーザーが利用する
管理画面には常に「ブロマガ」の紹介がされている。「ブロマガ」は原
告の提供するブログの有料配信サービスとしてインターネット上で大き
く取り上げられている。
原告のサービスや「BlogMaga」の欧文字についていずれも「ブ
ロマガ」と称呼又は表示されているのであり,「ブログマガ」の称呼又
は表示がされていることはない。
ウ以上のとおり,称呼の同一性,観念の同一性,商標の利用実態や社会的
なサービスへの認識からすれば,本件商標と原告が使用する「ブロマガ」
の文字からなる商標及び「BlogMaga」の文字からなる商標は,「社
会通念上同一と認められる商標」(商標法50条1項)に当たる。
(4)「blomaga」の文字からなる商標の使用について
原告は,「blomaga」という文字からなる商標を,FC2ブロマガ
のURL(甲11,12)に用いている。仮に,「ブロマガ」から「Blo
gMaga」の欧文字が想起できないとすれば,需要者は,「blomag
a」の欧文字を想起することになる。また,「BlogMaga」と「bl
omaga」は,「g」の欠落という相違はあるが,文字数は一字違いに過
ぎず,その欠落の有無は一見したのみでは気付き難いから,両者の外観は酷
似するし,同一の観念が生じる。そうすると,「blomaga」と本件商
標は,称呼及び観点を共通にするものと認められるのであるから,全体とし
て観察すると社会通念上同一と認められる。したがって,この点からも原告
が本件商標を使用していたことが明らかである。
2商標の使用役務についての判断の誤り(取消事由2)
(1)原告が「ブロマガ」の文字からなる商標及び「BlogMaga」の文字
からなる商標を使用する役務が,取消対象役務に含まれないとした本件審決
の判断は,次のとおり,誤りである。
(2)原告が提供する役務は,ブログを有料で販売することを希望する者に対し
て,ブログ等のデータをサーバーの記録領域に格納した上で購入者の購入処
理に対応してそのデータを抽出して送信し,購入者の画面上に表示するもの
である。需要者はブログを販売することを希望する者であり,原告は上記の
一連の役務を提供する対価としてシステム利用料を収受している。以上によ
れば,原告は,取引の対象物の1つとして「インターネットにおけるブログ
のためのサーバー記憶領域の貸与」を捉えているといえる。
FC2ブログはホスティングサービス(サーバーの記憶領域の貸与)に位
置づけられているから,「インターネットにおけるブログのためのサーバー
記憶領域の貸与」に当たる。原告は,サーバースペースの提供及びサーバー
上に用意されたソフトウェアの提供等を含む原告サービスのうち,役務の中
核である「インターネットにおけるブログのためのサーバー記憶領域の貸与」
を指定役務として「ブロマガ」の文字からなる商標及び「BlogMaga」
の文字からなる商標を使用している。
(3)本件審決は,原告が提供するサービスについて,「ブログ等の販売(有料
での提供)を希望する者が作成したブログ等を,自社の管理するサーバーに
記憶し,これを購読することを希望する者に販売するというサービスを行っ
ている。」とし,FC2ブログを「電子掲示板」と認定しているが誤りであ
る。原告の提供するサービスについて,被告は「電子書籍の提供」と,原告
は「インターネットにおけるブログのためのサーバー記憶領域の貸与」と主
張していたにもかかわらず,本件審決は当事者の主張と異なる役務を認定し
ており,不当である。ブログと電子掲示板は主たる目的が異なっているし,
ブログに電子掲示板的な要素があるとしても,そのことによって,「インタ
ーネットにおけるブログのためのサーバー記憶領域の貸与」であることが否
定されるわけではない。特定のサービスがいかなる指定商品ないし指定役務
に該当するかについては,特定の1つの指定商品ないし指定役務に該当する
かを検討するのではなく,幅のある認定を行うべきである。FC2ブログは,
FC2利用規約及びFC2ブログ利用規約に基づいて契約処理されているか
ら,別途サーバーについての賃貸借契約書が存在しないという本件審決の指
摘は当たらない。
第4被告の反論
1商標の同一性についての判断の誤り(取消事由1)について
(1)本件商標の構成中の「ブロマガ」の片仮名は,特定の意味を理解させると
はいえない造語というべきものであって,これを欧文字で表す場合は,「b
romaga」ないし「blomaga」と表示するのが通常である。他方,
構成中の「BlogMaga」の欧文字も,特定の意味を有しない造語とい
えるものであって,これを片仮名で表す場合は,「ブログマガ」と表示する
のが一般的といえる。したがって,本件商標の「ブロマガ」の片仮名と,「B
logMaga」の欧文字とは同一の称呼及び観念を生ずるものということ
ができず,本件商標からは,その構成各文字に応じて「ブロマガ」部分から
は「ブロマガ」,「BlogMaga」部分からは「ブログマガ」の称呼を
生じ,特定の観念を生じない。
これに対し,原告の使用する「ブロマガ」からは「ブロマガ」の称呼を生
じ,特定の観念を生じないし,原告の使用する「BlogMaga」からは
「ブログマガ」の称呼を生じ,特定の観念を生じない。
したがって,原告の使用する商標は,いずれも,本件商標につき「平仮名,
片仮名及びローマ字の文字を相互に変更するものであって同一の称呼及び観
念を生ずる商標」ということができないので,本件商標と社会通念上同一の
商標ではないから,本件審決の判断は相当である。原告は,FC2ブログは
ブログの分野において著名であり,ブログのユーザーが利用する管理画面に
は常に「ブロマガ」の紹介がされていると主張するが,客観的な証拠はない。
また,仮にFC2ブログが著名であったとしても,FC2ブログは原告が「ブ
ロマガ」を用いて行っている役務とは異なるものであり,原告が「ブロマガ」
を用いて行っている役務について「ブロマガ」の周知性を立証するものでは
ない。
(2)「blomaga」の使用について
URLでの使用が商標の使用と認められるかという点は措くとしても,「b
lomaga」と「BlogMaga」は「g」の有無において外観上大き
な違いがあるし,称呼の観点からしても「g」が欠落する「blomaga」
からは「ブログマガ」の称呼は生じない。「blomaga」と「Blog
Maga」のいずれも造語であって特段の観念を生じない。そうすると「b
lomaga」と「BlogMaga」は「書体のみに変更を加えた同一の
文字からなる商標」ではないし,外観及び称呼が異なる点からしても社会通
念上同一とはいえない。
2商標の使用役務についての判断の誤り(取消事由2)について
(1)商標法にいう「役務」は,他人のためにする労務又は便益であって,付随
的ではなく独立して市場において取引の対象となり得るものをいう。
また,商標法施行規則別表において定められた商品又は役務の意義は,商
標法施行令別表の区分に付された名称,商標法施行規則別表において当該区
分に属するものとされた商品又は役務の内容や性質,国際分類を構成する類
別表注釈において示された商品又は役務についての説明,類似商品・役務審
査基準における類似群の同一性などを参酌して解釈するのが相当であり,こ
れによれば,「インターネットにおけるブログのためのサーバーの記憶領域
の貸与」は,「電子計算機用プログラムの提供」,「ウェブサーバーの貸与」,
「コンピュータの貸与」と同様に,技術的な専門事業者によって提供される
高度に技術的なサービスであって,需要者のネットワークやITシステムの
インフラとなる専用的な機器やプログラムを提供するような役務がこれに該
当する。「サーバーの記憶領域の貸与」として想定されているサービスとは,
日立キャピタル株式会社が法人向けに提供しているような事業者向け(いわ
ゆるBtoB)のサーバー機器(ハードウェア)の貸与サービスやGoog
leの提供するGoogleドライブのようなオンライン上でユーザーにデ
ータの記憶領域を貸与するサービスである。さらに,その範囲を限定した「イ
ンターネットにおけるブログのためのサーバーの記憶領域の貸与」の典型的
なサービスとしては,ブログ開設のためのサーバーのレンタルを行うさくら
のレンタルサーバー,minibird及びヘテムルといったサービスが存
在する。これらは,サーバーのレンタルそのものが取引の対象となっており,
サービスの一過程でサーバーの記憶領域への保存を伴っているものではない
(レンタルしたサーバーを利用してブログを開設するためにはWordPr
essといったブログ開設用のソフトウェア等が別途必要である。)。
そして,サーバーにおけるデータの蓄積プロセスはインターネットサービ
スを提供する上で当然に含まれる自明のプロセスであって,提供するサービ
スにかかるプロセスが含まれるからといって「インターネットにおけるブロ
グのためのサーバーの記憶領域の貸与」が商標法上の役務として提供されて
いることにはならない。
(2)原告の役務は,原告の説明によれば,ブログ記事を販売する者がサーバー
にアップロードしたデータをサーバーの記憶領域に格納した上で購入者の購
入状況に応じて送信し,購入者の画面上に表示可能にするというサービスで
あり,原告は,ブログ記事の購入者から購読料を徴収し,ブログ記事の作成
者へのFC2ポイントの形での支払分を差し引いた金銭を収受しているから,
原告の役務は,第三者が作成したブログ記事を有料配信するサービスである。
原告が提供する役務において,ブログ記事のデータが原告のサーバーに蓄
積される過程が存在するものと推測されるが,かかる蓄積過程は電子コンテ
ンツを提供するサービスであればごく一般的に付随する処理過程に過ぎず,
サーバーへの蓄積過程が独立した取引の対象として認識されるものではない
から,原告の役務は,「インターネットにおけるブログのためのサーバーの
記憶領域の貸与」には該当しない。
第5当裁判所の判断
1後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実を認めることができる。
(1)原告は,「FC2ブログ」という名称のブログサービスを提供している。
原告は,平成21年1月20日,FC2ブログにおいて,ユーザーがブログ
記事に課金設定をして投稿することで,月額購読ポイントを支払った読者だ
けが当該ブログ記事を閲覧できる「ブロマガ」というサービスの提供を開始
した。(甲17~20)
(2)原告のウェブサイトには次のとおりの記載がある。
ア平成28年4月7日当時,原告のウェブサイト(「FC2ヘルプ>FC
2ブログ>マニュアル>ブロマガ®(ブログマガジン)って何」のページ)
において,「FC2ブログマニュアル」の下に,「ブロマガ®(ブログマ
ガジン)って何?」,「ブロマガとは,雑誌の「袋とじ」のようにブログ
記事に価格を設定し,料金をお支払いいただいた訪問者だけが閲覧できる
機能です。」,「お支払いはFC2ポイントまたはクレジットカードで決
裁され,販売価格の内,システム手数料30%を差し引いて,販売者へ支
払われます。」と表示されていた。(甲10)
イ平成28年4月30日当時,原告のウェブサイト(「FC2ブログ>ブ
ロマガランキング」のページ)において,上部に,馬のようなマークの横
に太字のゴシック体風の文字で「FC2」,「ブロマガ」の文字が並べて
表示されていた。また,本文の最上部に「ブロマガランキング」と表示さ
れていた。このウェブサイトのURLには「blomaga」という文字
が含まれていた。(甲12)
ウ平成28年4月1日当時,原告のウェブサイト(「FC2Video
Adulto」のページ(ポルトガル語表記のページ))の下方の動画リ
スト部分には,動画の名称の前に「【ブロマガ限定】」の文字の表示,2
行目には長方形の背景の中に「BlogMaga」の文字の表示があった。
(甲14)
エ平成28年4月8日当時,原告のウェブサイト(「FC2ヘルプ>FC
2ブログ>Q&A>ブロマガの設定に関して」のページ)には,本文の上
に「ブロマガの設定に関して」と表示され,「ブロマガ」に関する質問,
質問と回答が記載されていた。(甲16)
オ原告は,平成28年4月当時,原告が運営するFC2ブログにおいて,
ブログ記事の閲覧に課金機能を設け,課金した利用者にのみブログ記事が
表示されるシステムにより,ブログ記事を有料で提供したい者がブログ記
事を有料で提供し,ブログ記事を有料で閲覧したい者がブログ記事を有料
で閲覧できるサービスを提供していた。
具体的には,ブログ記事の販売者は,FC2IDを取得してFC2ブロ
グを開設し,各ブログ記事の設定において課金機能の設定を行うことで,
ブログ記事を有料で提供することができ,ブログ記事の販売者はシステム
利用料として30%を差し引いたポイントをブロマガ販売の売上げとして
取得する。また,ブログ記事の購入者は,FC2IDを取得し,画面上で
購入を実行すると,購入したブログ記事を無期限に閲覧することができる。
ブログ販売者は,ブログ記事をアップロードした後も,その設定を変更す
ることにより,無償にしたり,有料にしたりすることができる。
ブログ購入者は,FC2IDウェブサーバーにアクセスして購入手続を
することにより決裁データがFC2IDデータべースに保存され,FC2
IDウェブサーバーからFC2ブログウェブサーバーに決済完了通知のコ
ールバックリクエストが実行され,FC2ブログウェブサーバーから購入
データがFC2ブログデータベースに保存される。ブログ購入者がFC2
ブログウェブサーバーにアクセスすると,購入したブログ記事の参照リク
エストが実行され,FC2ブログウェブサーバーからFC2ブログデータ
ベースに問い合わせ,購入データを照合し,購入したブログ記事が購入済
みであればブログ記事が表示される。(甲8,16,乙2)
2商標の使用について
上記1に認定した事実によれば,原告は,平成28年4月当時,電磁的方法
により行う映像面を介した役務の提供に当たり,その映像面に「ブロマガ」の
文字からなる商標(以下「本件使用商標1」という。)及び「BlogMag
a」の文字からなる商標(以下「本件使用商標2」という。)を表示して役務
を提供していたものであるから,原告は要証期間内に本件使用商標1及び本件
使用商標2を使用していたものと認められる。
3商標の同一性について
(1)ア本件商標は,前記第2の1(1)のとおり,ゴシック体風の「ブロマガ」
の片仮名とセンチュリー体風の「BlogMaga」の欧文字を上下2段
に配置した商標であり,上段と下段の間は文字の高さの半分程度の間隔が
あり,上段と下段のフォントの大きさは概ね同じで,上段より下段の方が
やや横幅が大きく構成されている。
上段の「ブロマガ」部分からは,「ブロマガ」という称呼が生じる。ま
た,下段の「BlogMaga」部分は,「Maga」が大文字の「M」
で始まること,「dog」,「frog」のような「og」の語尾を持つ
一般的な英語で「g」の発音を省略することはないこと,「Blog」は
ウェブログの省略語として浸透している「ブログ」を想起させることから,
全体として「ブログマガ」という称呼が生じるものと認められる。そうす
ると,本件商標からは,「ブロマガブログマガ」という称呼が生じるとい
える。
また,「ブロマガ」及び「BlogMaga」はいずれも造語であり,
特段の観念を生じるとは認め難く,本件商標からは特段の観念を生じない。
イ他方,本件使用商標1は「ブロマガ」の文字のみからなり,本件使用商
標2は「BlogMaga」の文字からなるものであるから,本件商標と
は使用する文字の一部が共通するものの,外観,観念及び称呼のいずれに
ついても同一とはいえない。
ウ以上に照らせば,本件使用商標1及び本件使用商標2について,本件商
標の「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名
及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び
観念を生ずる商標,外観において同視される図形からなる商標その他の当
該登録商標(本件商標)と社会通念上同一と認められる商標」ということ
はできない。
エまた,原告は,原告のウェブサイトのURL中の「blomaga」の
文字の使用について,本件商標と「社会通念上同一の商標」の「使用」に
当たると主張するが,仮にURLにおける「blomaga」の使用が商
標法50条1項所定の「商標」の「使用」に当たるとしても,「blom
aga」は本件商標と外観,観念及び称呼のいずれにおいても同一とはい
えないことは,本件使用商標1,2と同様であるから,本件商標と「bl
omaga」の文字からなる「商標」が「社会通念上同一」であるとは認
められない。
(2)原告の主張について
ア原告は,欧文字の称呼については,特定の発音に固執せず,ある程度幅
のある発音を念頭に,日本における一般的な認識や連想等を含めて,総合
的に判断すべきであるとして,「HongKong」,「Ping-Pon
g」,「Sign」,「Foreign」のように「g」を発音しない例
がしばしば存在する一方,「KINGKONG」では「G」を発音する
という風に日本で欧文字を読む際に「g」を発音する場合と発音しない場
合があること,2語からなる外来語や固有名詞等の略語の生成において各
語の冒頭の二拍ずつ取るのが基本であることから,本件商標の下段の「B
logMaga」部分は「ブロマガ」の称呼を生じると主張する。
しかし,原告が指摘する「g」を発音しない例は「ng」,「gn」と
いう語尾を有するから本件商標の欧文字部分には妥当しないし,造語の欧
文字である「BlogMaga」から原告主張の略語が生じるとも認めら
れない。
さらに,原告は,社会一般では「BlogMaga」の表記を「ブロマ
ガ」と記載していることが多いと主張するが,原告がその立証のために提
出した証拠(甲42~44)から,社会一般において「BlogMaga」
を「ブロマガ」と表記していることは認められない。また,上記(1)アのと
おりの本件商標の構成からは「ブロマガ」が「BlogMaga」の表音
であるとは認め難い。
イ原告は,「BlogMaga」は,「Weblog」の略語である「B
log」と雑誌を意味する「Magazine」の略語である「Maga」
が結合された造語であり,いろいろなブログを配信するサービスという観
念が生じ,「ブログ」と「マガジン」の略語が結合した「ブロマガ」から
も,いろいろなブログを配信するサービスという観念が生じるから,「B
logMaga」と「ブロマガ」から生じる観念は同一であると主張する。
しかし,本件商標の「ブロマガ」は4文字の造語で,同種同大のフォン
トが均等の間隔で配置されていることからすれば,「ブロ」の部分を分離
して観念を想起し得るかは疑問であり,「ブロマガ」からブログとマガジ
ンの略語の結合を想起するとはいえない。したがって,「BlogMag
a」と「ブロマガ」がブログとマガジンの略語が結合したものとして理解
され,同一の観念を生じさせるとは認められない。
原告は,「ブロマガ」と「BlogMaga」がいずれも原告のサービ
スを示すものとして,同一の観念を生じさせるとも主張するが,原告のサ
ービスが「BlogMaga」と認識されていたことを示す的確な証拠は
ないし,原告が需要者の間で原告のサービスは「ブログマガ」とは認識さ
れていなかったと主張していることからしても,原告の上記主張は採用で
きない。なお,原告は,「ブロマガ」は原告のサービスを示すものとして
周知であったとも主張するが,このことから,「BlogMaga」と「ブ
ロマガ」から同一の称呼及び観念を生じることにはならない。
(3)よって,その余の点を判断するまでもなく,原告が,要証期間中に,本
件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していたとは認められな
い。
4以上のとおり,取消対象役務について本件商標の商標登録を取り消すべきで
あるとした本件審決に誤りはなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却
することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
高橋彩
裁判官
寺田利彦

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激動の時代に
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