弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却する、と
の判決を求めた。 当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は控訴代
理人において甲第三号証の一、二の成立を認めると訂正陳述した外、原判決の事実
摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
         理    由
 東京都大田区ab丁目c番のd宅地七二坪一合八勺が、もと控訴人Aの所有であ
つたこと、同控訴人が右宅地の北側四〇坪八合三勺の地上に家屋番号同町e番の
f、木造セメント瓦トタン交葺平家一棟建坪一四坪七合(実測二一坪七合余)を所
有し、この家屋に控訴人両名が居住していること、右宅地七二坪一合八勺は控訴人
Aの税金滞納のため公売処分に付され被控訴人は昭和三十三年十二月十五日競落に
よりこれが所有権を取得し、同月二十日その取得登記を経由したこと、以上の事実
は当事者間に争のないところであつて、なお右公売処分の当時右宅地及び家屋のい
ずれにも抵当権の設定がなされていなかつたことは控訴人らの自ら認めるところで
ある。
 そこでまず控訴人ら主張の地上権取得の抗弁について考える。
 昭和三十四年四月二十日法律第一四七号を以て公布され、昭和三十五年一月一日
から施行された国税徴収法(以下改正法という)第百二十七条第一項は、「土地及
びその上にある建物又は立木が滞納者の所有に属する場合において、その土地又は
建物等の差押があり、その換価によりこれらの所有者を異にするに至つたときは、
その建物等につき、地上権が設定されたものとみなす」と規定し、滞納処分による
売却の場合にも民法第三百八十八条に規定する場合と同様、建物所有者のために地
上権が発生することを明らかにした。そして右改正法条は差押の目的たる土地又は
建物につき抵当権が設定されていると否とにかかわらず適用されるものと解し得ら
れる。従つて右改正法施行後に行われた公売処分については地上権発生の有無につ
き多く論議する余地はなくなつたわけであるが、本件のように改正国税徴収法施行
前に行われた公売処分については、当時の国税徴収法(旧法)その他に前示法条の
ような明文がみられない関係上疑義の存するところである。問題は要するに改正国
税徴収法の施行前の公売処分についても民法第三八八条の規定を準用して前示改正
法第一二七条第一項と同様の結論を導くことが至当であるか否かに帰着する。
 <要旨>いうまでもなく民法第三八八条は、土地及びその地上に存する建物が同一
の所有者に属する場合において、その土地または建物のみを抵当としたと
き、抵当権設定者は競売の場合につき地上権を設定したものとみなす旨を規定した
のであつて、同条にいわゆる「競売の場合」とは土地または建物に抵当権の存する
限り単に競売法による抵当権実行のための競売のみならず、民事訴訟法による強制
競売の場合、あるいは国税徴収法による公売の場合をも含むものと解し得られなく
はない。しかし本件の場合のように、同一の所有者に属する土地及び建物のいずれ
にも抵当権の設定がなくして、土地(もしくは建物)のみが公売処分に付された結
果、土地と建物との所有者を異にするようになつた場合にも民法第三八八条の法意
に鑑み法定地上権が設定されたものとみなすべきかどうかについては異論の余地な
しとしない。
 思うに建物は土地の利用関係を伴はずしては存立し得ないものであるから、建物
につき、いやしくも建物としての効用を有する独立の不動産たる価値を認めんがた
めには、土地の利用関係は建物に対し不可欠の附随関係にあるものとみなければな
らない。されば建物の取引については通常その敷地たる土地の利用関係を伴うもの
とみるべきであり、また建物のある土地が取引せられるときはその土地は原則とし
て建物のための利用関係によつて制限されたものとみるべきである。もちろん土地
とその地上の建物とが同一の所有者に属する場合には建物存置のための土地利用関
係は潜在的なものでこれを現実化する必要はない。また所有者の意思によつて土地
または建物のいずれか一方を他え譲渡するときは、当事者は賃借権もしくは地上権
などの設定によつて建物存置のための土地利用関係を現実化し得るのであるから特
に法律の干渉を必要としない。しかし同一所有者に属する土地または建物の一方に
抵当権を設定するときは将来抵当権の実行された場合土地と建物の所有者を異にす
る事態の生ずることは十分予測し得るけれども、土地または建物の競売前に予め建
物存置のための土地利用関係を現実化することは理論上不可能であるし、さればと
いつて競売の際に現実化することも事実上不能に近い。そこで右の利用関係を現実
化することが理論上可能となつたとき、すなわち競売の行われたときに右利用関係
が法律上当然現実化するものと擬制したのが前記民法第三八八条の規定である。要
するに右の規定は本来建物が土地を離れて存在し得ないものである関係上、できる
だけ建物としての存立を完うせしめんとする国民経済上の必要に根ざした公益上の
理由によるものであつて、当事者の意思によつても右規定の適用を排除し得ないも
のと解し得るのである。そして以上説明した民法第三八八条の趣旨から考えると、
本件の場合のように、同一の所有者に属する土地及びその地上の建物のうち土地だ
けが税金滞納による公売処分に付された結果、土地と建物との所有者が異なるに至
つたときは、右土地及び建物のいずれにも抵当権の設定がなく、従つて公売処分が
抵当権に関係なくして行われたものである場合でも、民法第三八八条の趣旨を類推
して滞納処分としての土地換価のとき換価の目的たる土地の所有者において建物存
置のために地上権を設定したものとみなすのを相当とする。土地または建物が公売
に付された場合には、買受申出者は通常、地上に建物が存在する現実を十分考慮し
て競買もしくは入札め申出をするものと認められるから、右のように解しても競落
人(落札者)に不測の損害を与えるものとは認めがたい。改正国税徴収法が前示の
ような規定を設けるにいたつたのも、右のように解することを至当としこれを明文
化して疑義を一掃しようとする考慮に出たものとみることができなくはない。そう
すると控訴人Aは前記宅地が公売処分により被控訴人の所有に帰したときその地上
に存する前記建物の敷地部分について法定地上権を取得するに至つたものというべ
きである。
 被控訴人は、仮に借地権(地上権を含む趣旨と解し得られる)が設定されたとし
ても控訴人Aは昭和三十四年二月十五日被控訴人に対し前記建物の敷地を借り受け
る意思はないと表明したと主張するが、右法定地上権が解消された事実を認めるに
足る証拠はない。
 果して然らば控訴人Aは、本件宅地の所有者たる被控訴人に対し、前記家屋の敷
地について生じた法定地上権に基ずいてこれを占有し得るものといえるから同控訴
人の無権原占有を前提とする被控訴人の同控訴人に対する本訴家屋収去土地明渡の
請求及び賃料相当の損害金の請求はすべて失当であるとしなければならない。
 また控訴人Aにおいてその所有にかかる前記建物をその敷地上に存置し得る正当
な権原を有する以上、控訴人B(控訴人Aの弟)が右建物に居住しているからとい
つて、不法に右建物の敷地を占有しているものとはいえないからして、被控訴人の
控訴人Bに対する本訴請求もすべて理由がないものというべきである。
 以上の次第であるから被控訴人の本訴請求は全部失当として棄却すべく、これと
反対の趣旨に出でた原判決は失当であるから取消を免れない。本件控訴は理由があ
る。
 よつて民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条を適用して主文のとおり
判決する。
 (裁判長判事 谷本仙一郎 判事 堀田繁勝 判事 野本泰)

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