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平成29年9月14日判決言渡し・同日原本領収裁判所書記官
平成28年(行ウ)第42号公文書非開示処分取消等請求事件
口頭弁論終結日平成29年6月8日
判決
主文
1処分行政庁が平成28年3月8日付けで原告に対してした公文書非公開決定
を取り消す。
2被告は,原告に対し,10万円及びこれに対する平成28年7月16日から
支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用は,これを3分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担
とする。
5この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主文1項と同旨
2被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成28年7月16日か
ら支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の要旨
三木市の市議会議員である原告は,平成28年2月23日付けで,処分行政
庁に対し,三木市情報公開条例(平成11年条例第1号。以下「本件条例」と
いう。)に基づき,三木市職員倫理審査会の議事録の公開を請求したところ,
処分行政庁は,同年3月8日付けで,同議事録の公開を行わない旨の決定をし
た。
本件は,原告が,上記決定には理由付記等の違法があり,これによって,市
議会議員としての原告の職務を妨害されて精神的苦痛を被ったと主張して,同
決定の取消しを求める(以下「本件取消しの訴え」という。)とともに,被告
に対し,国家賠償法1条1項に基づく国家賠償として,慰謝料100万円及び
これに対する訴状送達の日の翌日である平成28年7月16日から支払済みま
で民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2本件条例の定め(甲1)
1条(目的)
この条例は,地方自治の本旨にのっとり,市民の知る権利を尊重し,公文
書の公開を請求する権利を明らかにすることにより,市の保有する情報の一
層の公開を図り,もって市の諸活動を市民に説明する責務が全うされるよう
にするとともに,市民の市政に対する理解と信頼を深め,市民の参加による
公正で開かれた市政の推進に資することを目的とする。
2条(定義)
この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に
定めるところによる。
1号公文書実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及
び電磁的記録(括弧内省略)であって,当該実施機関の職員が組織的に用
いるものとして,当該実施機関が保有しているものをいう。(ただし書略)
2号実施機関市長,教育委員会,選挙管理委員会,監査委員,公平委員
会,農業委員会,固定資産評価審査委員会,消防長及び議会をいう。
3条(実施機関の責務)
実施機関は,市民の公文書の公開を請求する権利が十分に保障されるよう
この条例を解釈,運用するとともに,個人に関する情報をみだりに公にする
ことのないよう最大限の配慮をしなければならない。
4条(利用者の責務)
公文書の公開により情報を得たものは,これによって得た情報を濫用し,
第三者の利益を不当に侵害することのないよう,この条例の目的に即して適
正に用いなければならない。
5条(公文書の公開を請求できるもの)
次の各号に掲げるものは,実施機関に対して,公文書の公開(第3号に掲
げるものにあっては,当該利害関係に係る公文書の公開に限る。)の請求(以
下「公開請求」という。)をすることができる。
1号市内に住所を有する者
2号市内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体
3号前2号に掲げるもののほか,実施機関が行う事務事業に利害関係を有
するもの
6条(公文書の公開の請求方法)
1項前条の規定により,公文書の公開を請求しようとするものは,当該請
求に係る公文書を管理している実施機関に対して,次の各号に掲げる事項
を記載した請求書(括弧内一部略。以下「請求書」という。)を提出しな
ければならない。
(各号及び2項略)
7条(公文書の公開決定等)
1項実施機関は,前条の規定による請求書の提出があったときは,当該請
求書を受理した日から起算して15日以内に,当該請求に係る公文書の公
開を行うか否かの決定(以下「公開決定等」という。)を行い,その決定
の内容を,速やかに,請求者に書面により通知しなければならない。
(ただし書,2項及び3項略)
4項実施機関は,第1項の通知をする場合において,公文書の公開を行わ
ない旨(第9条1項の規定により公文書の一部の公開を行わないことを含
む。)の決定を行ったときは,その理由を明らかにしなければならない。
(後段以下略)
8条(公文書の公開)
実施機関は,公文書に次の各号のいずれかに該当する内容が記録されてい
る情報(以下「非公開情報」という。)を除き,公開請求に対し,当該公文
書を公開しなければならない。
1号個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)
であって,特定の個人が識別されるもの(他の情報と照合することにより,
特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)のうち,通
常他人に知られたくないと認められるもの又は特定の個人を識別すること
はできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれ
があるもの。(ただし書略)
(2号略)
3号公にすることにより,人の生命,身体,財産等の保護又は犯罪の予防
その他の公共の安全と秩序と維持に支障を生じると認められる情報
(4号以下略)
9条(公文書の部分公開及び非公開の時限性)
1項実施機関は,公開の請求に係る公文書に非公開情報が記録されている
部分がある情報において,当該部分とそれ以外の部分とが容易に,かつ,
公文書の公開の請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは,その部
分を除いて,当該公文書の公開を行わなければならない。
2項実施機関は,非公開情報が記録されている公文書であっても,時の経
過等により,当該公文書を非公開とする理由がなくなったときは,これを
公開しなければならない。
10条(公文書の存否に関する情報)
公開請求に対し,当該公開請求に係る公文書が存在しているか否かを答え
るだけで,非公開情報を公開することとなるときは,実施機関は,当該公文
書の存否を明らかにしないで,当該公開請求を拒否することができる。
3前提事実(当事者間に争いがないか,括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨
から容易に認定できる事実)
当事者等
ア被告は,普通地方公共団体であり,原告は,平成27年11月以前から
現在まで,被告の市議会議員の地位にある者である。
イAは,平成27年11月当時から平成29年5月に辞職するまでの間,
普通地方公共団体である被告の市長だった者である。
Bは,平成28年1月1日以降,被告の副市長(最高情報セキュリティ
責任者)となり,平成29年5月にAが市長を辞職した後から同年7月2
日まで,市長の職務を代理し,被告の代表者たる地位にあった者である(地
方自治法152条1項本文参照)。
(被告代表者B及び弁論の全趣旨。以下,肩書等は,断りのない限り当時の
ものを用いる。)
三木市職員倫理審査会の開催及びその概要
ア被告の市長(A),副市長,教育長及び部長級の幹部職員らは,平成2
7年11月18日に開催された被告の幹部慰労会の2次会(以下「本件慰
労会」という。)に参加した(甲13,乙3)。
イ被告は,平成28年1月,三木市職員倫理条例に基づき,三木市職員倫
理審査会(以下「本件審査会」という。)を組織した。本件審査会は,被
告の幹部職員が被告から公共工事を受注していた建設工事会社社長ら2名
と本件慰労会で飲食を共にしたこと(以下「本件飲食行為」という。)が,
同条例に抵触するか否かを審議・調査することを目的とし,同月6日(第
1回),同月16日(第2回),同月28日(第3回)及び同年2月3日
(第4回)に開催され,本件慰労会の前に,被告の幹部職員らに対し,本
件慰労会の参加者を知らせるメール(以下「本件メール」という。)があっ
たかどうかなどが審議された。(甲8ないし13,乙1,3の1ないし4)
本件公開請求
原告は,平成28年2月23日付けで,三木市長に対し,本件条例5条に
基づき,本件審査会の議事録(以下「本件議事録」という。)の公開を請求
(本件公開請求)した(甲2及び弁論の全趣旨)。
本件決定
ア処分行政庁は,平成28年3月8日付け公文書非公開決定通知書(以下
「本件通知書」という。)により,本件公開請求について,本件議事録の
公開を行わない旨の決定(以下「本件決定」という。)をし,その頃,原
告に通知した(甲2及び弁論の全趣旨。なお,本件通知書の作成名義は,
三木市職員倫理審査会委員長となっているが,公開決定等を行う権限は実
施機関である市長が有する(本件条例7条1項,2条2号)ので,本件決
定の主体は処分行政庁と認める。)。
イ本件通知書には,「公文書の公開を行わない理由」欄に「公文書の公開
を行わない理由そのものが情報公開できない項目に該当するため」との記
載があり,「上記の理由が消滅する時期」欄に斜線が引かれている(甲2)。
被告の議事録の送付
被告は,平成28年5月18日頃,原告に対し,本件各議事録のうち,本
件審査会が関係人に対して意見聴取を行った部分並びに三木市の職員の氏名
及び民間企業に属する者の役職及び個人名に係る部分等をマスキングした上,
その写しを情報提供として交付(以下「本件任意交付」という。)した(乙
3の1~4,乙4,5,13及び被告代表者B)。
原告の訴えの提起
原告は,平成28年6月21日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な
事実)。
4争点
本件取消しの訴えについて
ア本案前の争点(本件任意交付による訴えの利益の消長)
イ本案の争点1(理由付記の違法の有無)
ウ本案の争点2(本件条例8条3号該当性)
本案の争点3(本件国家賠償請求の是非)
5争点に関する当事者の主張
本案前の争点(本件任意交付による訴えの利益の消長)について
(被告の主張)
前提事実本件議
事録を公開した。したがって,本件取消しの訴えに係る訴えの利益は,これ
によって消滅したというべきである。
(原告の主張)
原告が本件公開請求により公開を求めた対象は,本件議事録の全部である
のに対し,本件任意交付がされた対象は,本件議事録の一部がマスキングさ
れたものであって,部分公開に過ぎない。
したがって,訴えの利益は消滅していないというべきである。
本案の争点1(理由付記の違法の有無)について
(被告の主張)
処分行政庁が本件決定の理由を明示しなかったことは,次に述べるとおり,
適法というべきである。
本件公開請求当時,被告の庁内において,一部の職員が公用パソコン
を使用して他の職員の庁内メールシステムに不正にアクセスし,他の職
員のメール(本件メールを含む。)を閲覧するなどしていた可能性(以
下「本件不正アクセス」という。)が発覚し,警察による捜査が行われ
ていた。このような状況で本件議事録を公開すれば,後日,本件飲食行
為や本件メールに関する情報が第三者に知れた場合,その情報が本件不
正アクセスによって得られた情報なのか,本件公開請求によって得られ
た情報なのか,流出源が特定できなくなるなどのおそれがあった。
したがって,本件議事録を公開することは,捜査に支障が生じるおそ
れがあるから,本件公開請求に係る公文書には,本件条例8条3号の「公
にすることにより,人の生命,身体,財産等の保護又は犯罪の予防その
他公共の安全と秩序と維持に支障を生じると認められる情報」に該当す
る内容が記録されているというべきである。
ところで,本件決定において,本件議事録の公開を行わない理由とし
て,本件条例8条3号に当たることを付記すると,被告において警察に
よる捜査が行われていたことが原告に知れてしまうことになる。しかし,
捜査が行われていることが明らかになれば,そのこと自体によって,捜
査に支障が生じてしまう。
したがって,本件議事録の公開を行わない理由として,本件条例8条
3号に当たることを付記することはできず,「公文書の公開を行わない
理由そのものが情報公開できない項目に該当するため」とせざるを得な
かったものである。
なお,本件条例10条が,公文書の存在を明らかにしないで公開請求
を拒否することができる場合もあると定めていることからすれば,本件
決定のように,不開示の理由を明らかにしないで公開請求を拒否するこ
とも認められるというべきである。
イよって,本件決定の理由が,公文書の公開を行わない理由そのものが情
報公開できない項目に該当するためとされていることについて,手続法上
の違法はないというべきである。
(原告の主張)
処分行政庁が,本件通知書の「公文書の公開を行わない理由」欄に「公文
書の公開を行わない理由そのものが情報公開できない項目に該当するため」
とのみ記載したことは,本件条例7条4項に反して違法と
いうべきであり,また,情報公開請求者の手続保障に対する重大な侵害があ
るというべきである。
本案の争点2(本件条例8条3号該当性)について
(被告の主張)
ア本件条例8条3号は,当該公文書に記録された情報が公にされることに
より,人の生命,身体,財産等の保護又は犯罪の予防その他の公共の安全
と秩序の維持に支障を生じると認められる場合には,非公開とする旨を定
めており,上記のような事態が生じるか否かの判断について,行政庁の裁
量を認めているものと解すべきである。
イのとおり,本件公開請求当時,
被告の庁内において,本件不正アクセスが発覚し,警察による捜査が行わ
れていたのであり,本件議事録を公開すれば,後日,本件飲食行為及び本
件メールに関する情報が第三者に知れた場合,その情報が本件不正アクセ
スによって得られた情報なのか,本件公開請求によって得られた情報なの
か,流出源が特定できなくなるおそれがあった。
ウ上記イの状況を踏まえれば,本件議事録は,公にすることにより,犯罪
の予防その他の公共の安全と秩序の維持に支障を生じると認められる情報
が記録されているから,これを公開しないこととした本件決定は,適法と
いうべきである。
エなお,本件公開請求前に,本件メールに関する情報が報道されており,
また,原告以外の者による本件議事録の公開請求に対する開示がされてい
たことは認める。しかし,行政庁は,公開請求に係る文書の内容に係る情
報が公にされているものであるか否かについては関知するところではない
し,また,そのような細かな判断を行政庁に求めることも適当とはいえな
いから,行政庁としては,それまでの報道の状況や開示請求者が開示を求
める情報の既知性に関わらず,行政庁において支障が生じると考えられる
事態が生じた以上,漫然と公開を認めるわけにはいかないのはいうまでも
ないというべきである。
(原告の主張)
ア被告の主張ア,ウ,エは争い,同イは不知ないし否認する。
本件条例8条3号により非公開とすることが認められるのは,公文書を
公開することにより,公共の安全と秩序の維持への支障が現実に生じる場
合でなければならず,そのおそれでは足らないというべきである。
イ本件飲食行為は,本件決定より前の平成27年12月4日以降,各種新
聞による報道,被告による冊子の配布やウェブページへの掲載によって公
知の事実となっていた。また,本件飲食行為及び本件メール並びにこれら
に関する本件審議会の審議状況等は,当時,三木市において高い関心が寄
せられ,各種新聞において報道されていたものである。
このように,原告が本件公開請求をした平成28年2月23日の時点で,
本件飲食行為及び本件メールに関する情報は,全国紙を通じて広く世間に
公開されていたのであり,本件議事録を公開したところで,新たに,本件
不正アクセスの捜査に影響が生じるようなおそれはなく,本件議事録に記
載された情報を公にすることにより,公共の安全と秩序の維持に支障を生
ずるおそれがあったということもない。被告は,本件議事録が開示される
ことによって生じる支障を具体的に明らかにしておらず,本件において,
本件不正アクセスの捜査に支障が生じるおそれすらなかったことは明らか
である。
本案の争点3(国家賠償請求の是非)
(原告の主張)
ア本案の争点1及び2の原告の主張によれば,処分行政庁が本件決定をし
たことについて,過失及び国家賠償法上の違法性が認められるというべき
である。
イ市政に関する調査・責任追及は,議員の正当な職務活動というべきと
ころ,原告は,被告の市議会議員として,本件飲食行為に関する調査を
行うために本件公開請求をし,市議会で一般質問をして責任追及を行う
予定であった。すなわち,原告は,本件議事録を入手し,本件審査会に
おける本件メールに関する審議の内容を調査した上で,被告の市議会の
一般質問において,本件慰労会の参加者を被告の幹部職員が知らなかっ
たとの被告の当初の説明が虚偽と判明した経緯を追及しようとしていた
ものである。
したがって,原告は,本件飲食行為の調査及びその責任の追及という
市議会議員の正当な職務として,本件議事録を閲読し,本件メールの内
容,作成経緯,これが発見された経緯等の詳細な事実関係を調査しよう
としたのに,本件決定により,これを妨害されたというべきである。
被告は,平成28年5月18日に被告が本件任意交付をしたことから,
原告に精神的苦痛が生じたとは認められないと主張する。しかし,上記
の責任追及は,同年2月に示された本件審査会の結論を踏まえ,同年3
月の定例議会ですることが適切であったから,本被告の主張は当を得な
いものというべきである。
このように,処分行政庁が本件非開示決定をしたことは,原告の市議
会議員としての職務を妨害するものであり,不法行為法上も違法と評価
されるべきものである。
ウ原告が本件決定により被った精神的苦痛を慰謝するための金銭は,10
0万円を下らない。
(被告の主張)
ア原告の主張アは争う。本案の争点1及び2の被告の主張のとおり,本件
決定は適法であるから,処分行政庁が本件決定をしたことについて,過失
及び国家賠償法上の違法は認められない。
処分行政庁が本件決定をしたのは,職員による本件不正アクセスについ
て警察による捜査が行われるという異例の状況下において,僅かでも捜査
に支障が生じないよう,捜査活動に配慮する必要があったからである。そ
して,被告は,強制捜査が行われた後,市民の情報取得への配慮の観点か
ら,速やかに,原告に対し,本件任意交付をした。このように,処分行政
庁は,捜査への配慮と市民の情報取得への配慮という対立する利害を調整
して行動したものであり,処分行政庁が本件決定をしたことについて,職
務上の注意義務違反はないというべきである。
イ原告の主張イ,ウは否認ないし争う。
本件議事録の写しを交付しているから,原告に精神的苦痛が生じたとは認
められないというべきである。
第3当裁判所の判断
1認定事実
掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
本件飲食行為及びその後の被告の対応等の概要
ア本件飲食行為の翌日である平成27年11月19日午前1時20分頃,
本件慰労会の出席者であった被告の理事が,酒気帯び運転の被疑事実で逮
捕された。
イAは,平成27年12月4日,神戸新聞社の取材に対し,本件飲食行為
につき,自身と副市長以外の職員は知らずにたまたま利害関係者と同席し
ただけであり,三木市職員倫理条例等の規則には違反しないと述べ,同月
8日,記者会見を開いて同様の説明をした。
ウ被告は,平成28年1月3日,三木市内約3万世帯に,本件飲食行為等
に関する説明文書(甲13)を配布した。同文書には,本件慰労会に参加
した被告の部長等は,民間の利害関係者が参加することを知らされていな
かったから,三木市職員倫理条例等に抵触するものではない旨の説明と,
市長・副市長・教育長の三者についても,本件慰労会において,市長等の
権限・地位を利用した不当な金品の授受や,特定の者のみに対する有利・
不利な取り扱いをしなかったことから,三木市市長等倫理条例には違反し
ない旨の見解が記載されている。
エ平成28年1月6日,第1回本件審査会が開催された。
オ平成28年1月16日までに,被告の秘書課が,本件慰労会の出席予定
者の姓を記載したメール(本件メール)を,本件飲食行為の7日前に被告
の部長らに送信していたことが判明し,同月28日開催の第3回本件審査
会において,同部長らに対する意見聴取が行われた。
カ本件審査会は,平成28年2月3日の第4回審査会において,本件飲食
行為が三木市職員倫理条例施行規則に抵触すると判断した。
キAは,平成28年2月9日,本件飲食行為について,自身に責任がある
ことを認める記者会見をした。
ク平成28年2月19日,処分行政庁は,神戸新聞社が同月5日にした本
件議事録に係る情報公開請求について,個人情報部分をマスキングした上
で公開する決定をし,同月19日,その写しを交付した。その後,処分行
政庁が原告を含む市議2名に対しては本件議事録を公開しない旨の決定(本
件決定を含む。)をしたことについて,Bは,「神戸新聞社に公開後1週
間ぐらいしてから,情報公開条例に基づき,公開できない事情が発生した。」
と説明した。
ケAは,平成29年5月15日開催の被告市議会において謝罪し,市長の
職を辞することを表明した。
(甲3,7ないし24,26,乙1,2,3の1ないし4及び弁論の全趣旨)
本件不正アクセスに係る事情
アBは,副市長(最高情報セキュリティ責任者)であった平成28年1月,
被告の庁内において,不正アクセスを疑わせる記録が発見され,また,読
売新聞社の記者から,外部の者が入手できないはずである本件メールに関
する質問を受けるなどしたことから,同年2月22日,本件不正アクセス
について,三木警察署に被害届を提出した(乙13及び被告代表者B)。
イBは,上記アの1日後か2日後,当時警察との連絡調整を担当していた
C副市長から,不正アクセスに関する情報公開はできるだけ控えるよう警
察官から要請されていると聞いた(乙13及び被告代表者B)。
ウ三木警察署の警察官は,平成28年5月17日,本件不正アクセスに関
し,被告の三木市総合保健福祉センターにおいて捜索差押えを行い,被告
職員の職員証,ノートパソコン等を押収した(乙4)。
2本件取消しの訴えについて
本案前の争点(本件任意交付による訴えの利益の消長)について
ア処分の取消しの訴え(行政事件訴訟法3条2項)は,行政庁の処分その
他公権力の行使に当たる行為について,その効果の排除を求める訴えであ
ると解される。
イ被告は,本件任意交付により,原告に対して本件議事録の一部が公開さ
れたことから,訴えの利益が消滅したと主張する。しかし,本件任意交付
は,情報提供として事実上されたものに過ぎず,権限のある行政庁による
撤回等によって本件決定の法律上の効果が失効したとは認められない。
ウしたがって,原告は,本件訴えにより,本件決定を取り消し,その効果
の排除を求める利益を有するというべきである。
本案の争点1(理由付記の違法の有無)について
ア一般に,法令が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に,ど
の程度の記載をすべきかは,処分の性質と理由付記を命じた各規律の規定
の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである(最高裁昭和38年5月
31日第2小法廷判決・民集17巻4号617頁)。
本件条例7条4項前段が,実施機関が公文書の公開を行わない旨の決定
を行ったときは,その理由を明らかにしなければならないと規定し,公文
書の非開示決定通知書にその理由を付記すべきものとしているのは,同条
例に基づく公文書の開示請求制度が,市民と市政との信頼関係を強化し,
地方自治の本旨に即した市政を推進することを目的とするものであって,
実施機関においては,公文書の開示を請求する市民の権利を十分に尊重す
べきものとされていること(本件条例1条,3条参照)にかんがみ,非開
示理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してそのし
意を抑制するとともに,非開示の理由を開示請求者に知らせることによっ
て,その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものというべきである。こ
のような理由付記制度の趣旨にかんがみれば,公文書の非開示決定通知書
に付記すべき理由としては,開示請求者において,本件条例8条各号所定
の非開示事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るもので
なければならず,たとえば,非開示の根拠規定を示したとしても,当該公
文書の種類,性質等とあいまって開示請求者がそれらを当然知り得るよう
な場合は別として,本件条例7条4項の要求する理由付記としては十分で
はないといわなければならない(最高裁平成4年12月10日第1小法廷
判決・裁判集民事166号773頁参照)。
イ本件通知書には,「公文書の公開を行わない理
由」欄に「公文書の公開を行わない理由そのものが情報公開できない項目
に該当するため」との記載があり,「上記の理由が消滅する時期」欄に斜
線が引かれている。しかし,このような記載のみでは,開示請求者である
原告にとって,本件決定が,本件条例8条各号所定の非開示事由のどれに
該当するのかをその根拠とともに了知することはおよそ不可能というほか
なく,本件通知書の上記記載は,本件条例7条4項の要求する理由付記と
して,不十分なものといわざるをえない。
ウ被告は,本件条例10条が,公文書の存否を明らかにしないで公開請求
を拒否することができる場合もあると定めていることからすれば,不開示
の理由を明らかにしないで公開請求を拒否することが許されると主張する。
しかし,上記アで述べたことからすれば,本件条例10条のように,公
文書の存否を明らかにしないで公開請求を拒否(いわゆるグローマー拒否)
できる場合であっても,当該決定書には,必要かつ十分な拒否理由を付記
すべきと解するのが相当である。本件条例10条があるから不開示の理由
を明らかにしないことが許される場合があるとの被告の主張は,独自の見
解といわざるを得ず,採用することができない。
エしたがって,本件決定の通知書(本件通知書)は,本件条例7条4項の
定める理由付記の要件を欠くものというほかはない。
本案の争点2(本件条例8条3号該当性)について
ア本件条例8条3号は,公にすることにより,人の生命,身体,財産等の
保護又は犯罪の予防その他の公共の安全と秩序の維持に支障を生じると認
められる情報を,非公開情報として,公文書公開請求の対象から除外する
旨規定する。同条1号本文が「おそれがある」と規定するのに対し,同条
3号が「生じると認められる」と規定し,文言を使い分けていることから
すれば,同条3号は,公開により,所定の事由が現実に生じると認められ
る場合を指し,そのおそれがあるのみでは足りないというべきである。
イ被告は,本件公開請求当時,被告の庁内において,本件不正アクセスが
発覚し,警察による捜査が行われていたのであり,本件議事録を公開すれ
ば,後日,本件飲食行為に関する情報が第三者に知れた場合,その情報が
本件不正アクセスによって得られた情報なのか,本件公開請求によって得
られた情報なのか,流出源が特定できなくなるおそれがあったと主張する。
しかし,そのようなおそれがあるのみでは本条3号に該当するとはいえ
ないし,本件議事録を原告に公開することにより,本件議事録に係る情報
の流出源が特定できなくなって警察による捜査が混乱する事態が,現実に
生じると認めるに足りる証拠はない。
ウしたがって,本件議事録を公開することにより,本件条例8条3号所定
の事由が生じると認められるとはいえないから,本件議事録に含まれる情
報が同号に該当するとは認められない。
本件取消しの訴えについての結論
以上によれば,本件決定は,理由付記の要件を欠く違法があり,また,本
件決定の実質的な理由も本件条例8条3号に該当するものとは認められない
違法がある。
よって,これらを理由として本件決定の取消しを求める原告の本件取消し
の訴えは,理由があるので,認容すべきである。
3本案の争点3(国家賠償請求の是非)について
本件条例3条が,市民の公文書の公開を請求する権利が十分に保障される
ようこの条例を解釈,運用するとともに,個人に関する情報をみだりに公に
することのないよう最大限の配慮をしなければならないと規定すること,上
アで述べた本件条例の理由付記の要件の趣旨からすれば,実施機関で
ある処分行政庁には,公文書の公開を行わない旨の決定をする場合には,市
民の公文書の公開を請求する権利が十分保障されるよう,本件条例所定の非
公開情報への該当性及びその程度並びにより制限的でない他に選びうる手段
の存否を検討した上で,同決定を行うべき職務上の注意義務を負うと解する
のが相当である。
しかし,上記2
また,本件決定の実質的な理由も,条例所定の事由に該当するものとは認め
られない。また,処分行政庁が,本件決定をするに当たり,被告が主張する
警察による捜査の混乱の具体的な程度及びこれを防止し得るより制限的でな
い措置の存否ついて検討した形跡は,見当たらない。
そして,原告は,地方公共団体である被告の市議会議員として,地方自治
の本旨に基づいて,被告における民主的にして能率的な行政の確保を図ると
ともに,被告の健全な発達に寄与すべく,市政に関する調査をし,問題があ
ればこれを正すよう政務活動をすべき権利と責務を負う(地方自治法1条,
100条参照)ところ,本件決定により,被告市民としての知る権利ないし
公文書の公開を請求する権利のみならず,市議会議員としての上記調査・政
務活動をする権利をも侵害されたものというべきである。
したがって,処分行政庁は,上記職務上の注意義務を怠り,本件決定をし,
原告の上記各権利を侵害したというべきであるから,本件決定は,国家賠償
法上,違法というべきところ,本件決定によって原告が被った精神的苦痛を
慰謝するためには,10万円が相当というべきである。
よって,原告は,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づく国家賠償とし
て,慰謝料10万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年
7月16日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支
払を求めることができる。
4結論
以上の次第で,原告の本件取消しの訴えは,理由があるので,認容すべきで
あり,本件国家賠償請求は,10万円及びこれに対する平成28年7月16日
から支払済みまで民法所定の年5%の割合による金員の支払を求める限度で理
由があるので,その限度で認容することとし,その余の本件国家賠償請求は理
由がないので棄却することとして,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官山口浩司
裁判官武村重樹
裁判官毛受裕介

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