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令和3年3月30日判決言渡
令和2年(行ケ)第10016号審決取消請求事件
口頭弁論終結日令和3年2月18日
判決
原告エシコンエルエルシー
同訴訟代理人弁理士加藤公延
押野宏
福川晋矢10
太田司
被告特許庁長官
同指定代理人莊司英史
内藤真徳15
千壽哲郎
樋口宗彦
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。20
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と
定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2018-8295号事件について令和元年9月27日にし25
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
⑴原告は,発明の名称を「組織の通過を容易にし保持強度を高める凹凸とげ
を有するとげ付き縫合糸」とする発明について,2013年(平成25年)
9月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年(平成24年)5
9月17日,アメリカ合衆国)に国際特許出願(日本国における出願番号は
特願2015-532118号。請求項の数20。以下「本願」という。)を
した。
⑵原告は,本願につき,平成29年6月26日付けで拒絶理由通知(甲4)
を受けたので,同年10月2日,特許請求の範囲について甲第6号証(以下,10
書証については単に「甲6」などと略記し,特記しない限り枝番を含む。)記
載のとおり手続補正(以下「第1次補正」という。)をするとともに,意見書
を提出したが,本願は,平成30年2月28日付けで拒絶査定を受けた。
⑶原告は,平成30年6月18日,拒絶査定不服審判を請求するとともに,
特許請求の範囲について甲2記載のとおり手続補正(以下「本件補正」とい15
う。)をした。
特許庁は令和元年9月27日,本件補正を却下した上で,上記審判請求(不
服2018-8295号事件)につき,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年10月15日,
原告に送達された。20
⑷原告は,令和2年2月10日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2特許請求の範囲の記載
⑴本件補正前(第1次補正後)
第1次補正後の特許請求の範囲の記載は,請求項1ないし12からなり,25
その請求項1の記載は,次のとおりである(甲6。以下,請求項1に係る発
明を「本願発明」という。)。
【請求項1】
創傷閉鎖装置であって,
近位端と遠位端とを有するフィラメント状要素と,
前記フィラメント状要素から外方に延出している複数のとげと,を備え,5
前記とげのそれぞれは,前記フィラメント状要素と接続された基底部と,
前記基底部から離間配置された先端部と,前記基底部と前記先端部との間
に延在しフィラメント状要素から離れる方を向いている外縁と,を有し,
前記外縁は,前記基底部と前記とげの遷移点との間に延在する凹面を有す
る第1部分と,前記とげの前記遷移点と前記とげの前記先端部との間に延10
在する凸面を有する第2部分と,を含み,
前記外縁が,前記とげの前記遷移点で,前記第1部分の前記凹面から,
前記第2部分の前記凸面に移行し,
前記とげの前記第1部分の前記凹面が,約0.19~0.64センチメ
ートル(0.075~0.25インチ)の半径を有し,前記とげの前記第15
2部分の前記凸面が,約0.13~0.25センチメートル(0.05~
0.1インチ)の半径を有する,創傷閉鎖装置。
⑵本件補正後
本件補正後の特許請求の範囲の記載は,請求項1ないし11からなり,そ
の請求項1の記載は,次のとおりである(甲2。以下,請求項1に係る発明20
を「補正発明」という。下線部は本件補正に係る補正箇所である。)。
【請求項1】
創傷閉鎖装置であって,
近位端と遠位端とを有するフィラメント状要素と,
前記フィラメント状要素から外方に延出している複数のとげと,を備え,25
前記とげのそれぞれは,前記フィラメント状要素と接続された基底部と,
前記基底部から離間配置された先端部と,前記基底部と前記先端部との間
に延在し前記フィラメント状要素から離れる方を向いている外縁と,を有
し,前記外縁は,前記基底部と前記とげの遷移点との間に延在する凹面を
有する第1部分と,前記とげの前記遷移点と前記とげの前記先端部との間
に延在する凸面を有する第2部分と,を含み,5
前記外縁が,前記とげの前記遷移点で,前記第1部分の前記凹面から,
前記第2部分の前記凸面に移行し,
前記とげの前記第1部分の前記凹面が,約0.19~0.64センチメ
ートル(0.075~0.25インチ)の半径を有し,前記とげの前記第
2部分の前記凸面が,約0.13~0.25センチメートル(0.05~10
0.1インチ)の半径を有し,
前記とげが,前記フィラメント状要素の長手方向軸と約10~49度の
鋭角を画定する長手方向軸に沿って延在する,創傷閉鎖装置。
3本件審決の理由の要旨
⑴本件審決の理由の要旨は,補正発明は,本願の優先日前に頒布された刊行15
物である米国特許出願公開第2008/0281357号明細書(甲1。以
下「引用文献」という。)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明
をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願
の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,同
法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するの20
で,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の
規定により却下すべきものであり,本願発明は,本願発明の発明特定事項の
全てを包含し,更に本件補正に係る構成を付加したものに相当する補正発明
と同様に,引用文献に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をす
ることができたものであり,同法29条2項の規定により特許を受けること25
ができないから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,
本願は拒絶すべきものであるというものである。
⑵本件審決が認定した引用文献に記載された発明(以下「引用発明」という。),
補正発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明
糸318から外方に組織把持要素328が複数延出し,前記組織把持要5
素328は,前記糸318と接続される接続部と,前記接続部から離間配
置された先端部と,前記接続部と前記先端部との間に延在し,前記糸31
8より離れる方を向いている外縁を有し,組織把持要素328の前縁33
7の徐々に傾斜するフィレット336には,凹状部が形成され,前記凹状
部より前記先端部側の前縁337には,凸状部が形成されている組織把持10
装置310。
イ補正発明と引用発明の一致点及び相違点
(ア)一致点
「創傷閉鎖装置であって,
近位端と遠位端とを有するフィラメント状要素と,15
前記フィラメント状要素から外方に延出している複数のとげと,を
備え,前記とげのそれぞれは,前記フィラメント状要素と接続された
基底部と,前記基底部から離間配置された先端部と,前記基底部と前
記先端部との間に延在しフィラメント状要素から離れる方を向いてい
る外縁と,を有し,前記外縁は,凹面を有する第1部分と,凸面を有20
する第2部分とを有する,創傷閉鎖装置。」
(イ)相違点
a相違点1
補正発明の「外縁」は「遷移点」を備え,「凹面を有する第1部分」
が「前記基底部と前記とげの遷移点との間に延在」し,「凸面を有する25
第2部分」が「前記とげの前記遷移点と前記とげの前記先端部との間
に延在」しているのに対して,引用発明は「遷移点」を備えているか
一見不明であり,「凹状部」が「接続部」と「遷移点」との間に延在し,
「凸状部」が「遷移点」と「先端部」との間に延在しているか不明で
ある点。
b相違点25
補正発明は,「凹面が,約0.19~0.64センチメートル(0.
075~0.25インチ)の半径を有し,前記とげの前記第2部分の
前記凸面が,約0.13~0.25センチメートル(0.05~0.
1インチ)の半径を有」しているのに対して,引用発明は「凸状部」
及び「凹状部」の大きさが特定されていない点。10
c相違点3
補正発明は,「前記とげが,前記フィラメント状要素の長手方向軸と
約10~49度の鋭角を画定する長手方向軸に沿って延在」している
のに対して,引用発明は,「糸318」から「組織把持要素328」が
どのように延在しているか特定されていない点。15
⑶相違点の容易想到性についての本件審決の判断は以下のとおりである。
ア相違点1
引用発明は,「凹状部」が「接続部」と「遷移領域」との間に延在し,「凸
状部」が「遷移領域」と「先端部」との間に延在しており,遷移領域の大
きさは,組織把持要素328,凹状部及び凸状部のそれぞれの形状等を考20
慮して当業者が必要に応じて設定し得る設計事項にすぎず,遷移領域を遷
移点とすることにより,相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは,
当業者が容易に想到し得たことである。
イ相違点2
「フィレット336は,低プロファイルを有する組織把持要素328を25
提供し,縫合中の組織把持要素328に加えられる挿入力を減少させる。
組織把持部材328はまた,細長の空間340に大量の組織を捕捉するこ
とにより,高い組織保持強度を維持する。」([0059])という引用発明
の目的を達成するために,「凸状部」及び「凹状部」の大きさをどの程度に
するかは,当業者が適宜設定し得る設計事項にすぎず,補正発明の凹面や
凸面の半径に格別な効果は認められない。5
ウ相違点3
引用文献のFIG.5によれば,「フィレット336」は,「糸318」
に対して鋭角であると認められるところ,前記イで指摘した引用発明の目
的及び把持力を考慮し,「フィレット336」を「糸318」の長手方向軸
と「約10~49度の鋭角」を画定する長手方向軸に沿って延在するよう10
に構成することは,当業者であれば容易になし得たことである。
エ本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明の奏する作用効果から予測
される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
4取消事由
独立特許要件(進歩性欠如)の判断の誤り15
第3当事者の主張
1原告の主張
⑴引用発明の認定に誤りがあることについて
ア本件審決は,引用発明について,「前記凹状部より前記先端部側の前縁3
37には,凸状部が形成されている」と認定している。20
しかし,この認定は,補正発明において,組織把持要素の外縁(以下単
に「外縁」という。)に凸部があればよいとの誤った解釈を採ったため,引
用発明の凸部の認定も誤ったものである。
イ補正発明において,発明特定事項である「外縁は,前記基底部と前記と
げの遷移点との間に延在する凹面を有する第1部分と,前記とげの前記遷25
移点と前記とげの前記先端部との間に延在する凸面を有する第2部分と,
を含み」との記載(以下「本件記載」という。)は,外縁が,基底部から遷
移点までの間は凹面のみで,遷移点と先端部との間は凸面のみで構成され
ることを意味する。
(ア)「特許技術用語集-3版-」(乙1)によれば,「延在する」との用
語は,「延びて存在する」との意味合いを有し,単に「存在する」ことを5
意味するのではない。
(イ)補正発明の特許請求の範囲には,「前記基底部と前記先端部との間
に延在し・・・外縁」との記載がある。この記載は,明らかに,「外縁
が,基底部と先端部との間の全領域にわたって存在すること」を意味し
ているおり,その後の「前記基底部と前記とげの遷移点との間に延在す10
る凹面を有する第1部分」及び「前記とげの前記遷移点と前記とげの前
記先端部との間に延在する凸面を有する第2部分」との記載も,上記記
載と同様の記載形式を有するのであるから,統一的に解釈されるべきで
ある。
ウ引用文献のFIG.4及びFIG.5から把握できるように,引用発明15
の外縁は,基底部と第1の遷移点との間に延在する凹面を有するフィレッ
ト(336)(第1面),第1の遷移点と第2の遷移点との間に位置し,非
常に短い長さを有する凸面(第2面)及び第2の遷移点と先端部との間に
位置しており,ストランド(318)の長手方向軸と平行に延在する直線
部(第3面)を備えており,凸面より先端部側に第2の遷移点と直線部が20
あり,凸面(第2面)は,先端部まで達していない。
エしたがって,引用発明について,「前記凹状部より前記先端部側の前縁3
37には,凸状部が形成されている」との本件審決の認定は誤りである。
⑵補正発明と引用発明の一致点,相違点の認定に誤りがあることについて
ア一致点の認定について25
本件審決は,補正発明と引用発明の一致点として,「・・・前記基底部と
前記先端部との間に延在しフィラメント状要素から離れる方を向いてい
る外縁と,を有し,前記外縁は,・・・凸面を有する第2部分とを有する」
ことを挙げているが,前記⑴ウのとおり,引用発明において,外縁におけ
る凸面(第2面)は,先端部まで達しておらず,本件審決の認定は誤りで
ある。5
イ相違点1の認定について
引用発明は,凸面より先端部側に第2の遷移点と直線部があり,複数の
「遷移点」を備えており,「凸状部」が「先端部」まで延在していない点に
おいて補正発明と異なる。
ウ相違点2の認定について10
引用発明の外縁の中だかく盛りあがる形状を呈している部分を凸部と
して把握した場合,この凸部は,所定数値範囲の半径を有する凸曲面では
ないことは明らかであり,この点でも補正発明と引用発明には相違点があ
る。
エ相違点3の認定について15
補正発明は,引用発明に対し,単に「とげが,フィラメント状要素の長
手方向軸に対して延在する角度」で相違するのみではなく,補正発明のと
げの形状は,引用発明のとげの形状と全く相違している。
⑶相違点の容易想到性の判断に誤りがあることについて
ア相違点1について20
引用発明の外縁が複数の遷移点を備え,また,「凸状部」が「先端部」ま
で延在していないことは前記⑴ウのとおりであり,本件審決は,相違点1
の容易想到性について,誤った前提のもとに判断をしている。
イ相違点2について
引用発明において,外縁に関して,高い組織保持強度を維持する旨の課25
題は全く認識されていない。
引用文献の「組織把持部材328はまた,細長の空間340に大量の組
織を捕捉することにより,高い組織保持強度を維持する。」との記載([0
059])は,組織把持部材(328)の後縁(339)に関するものであ
り,組織把持部材(328)の外縁に関するものではない。
したがって,引用文献に接した当業者が,上記課題を解決するため,補5
正発明における「前記とげ(204)の前記第1部分(242)の前記凹
面が,約0.19~0.64センチメートル(0.075~0.25イン
チ)の半径を有し,」との数値範囲を採用することはない。
ウ相違点3について
(ア)補正発明の外縁は,所定数値範囲の半径の曲面である凹面と所定数10
値範囲の半径の曲面である凸面を備え,フィラメント状要素の長手方向
軸と約10~49度の鋭角をなすとげを有する装置であり,とげの外縁
は,徐々に外側に広がりつつ,凹曲面から凸曲面に変移しているのに対
し,引用発明の外縁は,前記⑴ウのとおりであり,両者の構成は全く異
なり,また,引用発明の外縁において,高い組織保持強度を維持する旨15
の課題は全く認識されていないことは前記イのとおりであるから,当業
者において相違点3に係る補正発明の構成を容易に想到することはで
きない。
(イ)被告は,後記2⑶のとおり,①補正発明における「とげが,前記フ
ィラメント状要素の長手方向軸と約10~49度の鋭角を画定する長20
手方向軸に沿って延在する」との構成は,全体的にみて,とげがフィラ
メント状要素の長手方向に対して,約10~49度の鋭角を画定する長
手方向軸に沿って延在していればよいものであり,引用発明のとげは,
FIG.5を全体的にみて,糸の長手方向軸と約10~49度の鋭角の
範囲にあるから,引用文献は,補正発明に係る上記構成を開示している,25
②とげの外縁を徐々に広がるように構成することはごく普通の構成で
あるから,そのような構成とした点に進歩性を見出すことはできないと
主張する。
しかし,①については,補正発明においては,とげ(204)は,外
縁が凹曲面及び凸曲面を有するため,とげ(204)の中心軸の角度に
おいて,必ずしも長手方向軸(A2)の角度と同一ではない。補正発明5
は,「前記とげ(204)が,長手方向軸(A2)に沿って延在する」と
記載しており,「前記とげ(204)の中心軸が,長手方向軸(A2)で
ある」とは記載していないのであり,「とげの外縁は,徐々に外側に広が
りつつ,所定数値範囲の半径を有する曲面である凹曲面から所定数値範
囲の半径を有する曲面である凸曲面に変移している」との構成が読み取10
れるのであるから,引用発明の開示内容とは異なるものであって,被告
の主張は失当である。
また,②については,引用発明の外縁における「糸318と平行な直
線部分」を,糸318から徐々に外側に広がる直線部分に変更しても,
引用発明の変更後の外縁は,補正発明における「徐々に外側に広がり,15
所定数値範囲の半径を有する凸曲面」とはならず,補正発明と相違する。
エ顕著な作用効果について
補正発明の創傷閉鎖装置では,引用発明の組織把持装置に比べて,とげ
を有するフィラメント状要素を,配備する位置に向かう方向(本願の願書
に添付した明細書(以下,図面を含めて「本願明細書等」という。甲3)20
の図12Bにおける第1方向DIR#1に組織を通して移動させる際に,
容易に挿入されることができる。引用発明では,直線部(第3面)は,装
置(310)の輪郭の増加に貢献しておらず,組織把持要素(328)の
外縁のフィレット(第1面)(336)のみによって,ほぼ装置(310)
の所定外径に達しているため,組織把持要素(328)の外縁のフィレッ25
ト(第1面)(336)が急に外側に広がっており,装置(310)を挿入
する際の周囲の組織からのより大きな抵抗につながる。
また,補正発明の創傷閉鎖装置では,引用発明の組織把持装置に比べて,
引き抜き方向の力(本願明細書等図12Bの第2方向DIR#2)へのフ
ィラメント状要素の移動に対する抵抗が大きくなる。したがって,補正発
明の創傷閉鎖装置は,一旦組織に配備されると,引用発明の組織把持装置5
に比べて抜け難い。
補正発明は,上記数値範囲に臨界的意義がないとしても,引用発明と比
較して,顕著な作用効果を奏する。
⑷小括
以上によれば,本件審決は補正発明の進歩性の判断を誤ったものであるか10
ら,取り消されるべきである。
2被告の主張
⑴引用発明の認定に誤りがないことについて
ア原告は,補正発明において,外縁が,基底部から遷移点までの間は凹面
のみで,遷移点と先端部との間は凸面のみで構成されることを意味すると15
主張する。
しかし,補正発明における本件記載は,「第1部分と第2部分とのみから
なり」とは特定していない。また,「特許技術用語集-3版-」(乙1)に
よれば,「延在」なる用語は,単に「延びて存在すること。」程度の意味で
用いられるものであり,存在する箇所が一定の長さや面積範囲を有すれば20
足りるといえるし,仮に,「延在」の語が,補正発明においては,対象とな
る範囲の端から端までを覆うことのみを指すと解釈されるとしても,本件
記載が「延在」するとしているのは,①第1部分が有する「凹面」や第2
部分が有する「凸面」ではなく,②「第1部分」及び「第2部分」と解す
べきである。なぜなら,①のような解釈では,「第1部分」や「第2部分」25
の存在する箇所が不定となり,相互の位置関係についてもまた不定となっ
てしまうからである。
イ引用発明において,第1の遷移点から先端部までが凸面と直線部とから
なり,両者の境界に第2の遷移点が定義できるとしても,「凸面」の字義は
「凸起した面」,凸起の字義は「中だかく盛りあがること」であり(広辞苑
第三版,乙2),第1の遷移点と先端部との間には凸面と直線部とのみが存5
在して凹面は存在しないところ,別紙3図1のとおり,引用文献のFIG.
5において第1の遷移点と先端部とを結ぶ平面(別紙3図1の青色の線)
に対し第1の遷移点と先端部にかけての部分が,凹部を含まず,フィラメ
ント(ストランド)と反対側に中だかく盛りあがる形状を呈していること
は明らかである。したがって,本件審決が,原告がいう第1の遷移点と先10
端部との間を全体として凸部と認定したことに誤りはない。
⑵補正発明と引用発明の一致点,相違点の認定に誤りがないことについて
本件審決の認定に誤りはない。
⑶相違点の容易想到性の判断に誤りがないことについて
ア相違点1について15
本件審決が,引用発明について,「前記凹状部より前記先端部側の前縁3
37には,凸状部が形成されている」と認定したことについて誤りがない
ことは前記⑴のとおりであって,同認定を前提に相違点1の容易想到性を
判断した本件審決に誤りはない。
イ相違点2について20
とげつき縫合糸として本件優先日前に公知の米国特許出願公開201
0/0146770号明細書(乙3)の[0037]には,標準的な縫合糸
の幅及び厚さが約0.00004から約0.0530インチ(約0.00
0102から約0.1346cm)とされ,特開2010-184109
号公報(乙4)の【0025】には,とげ付き縫合糸の直径に関して,約25
0.001mmから約1mmまで,典型的な直径は約0.01mmから約
0.5mmまでの範囲にあるとの記載がある。直径(D)0.1cmのフ
ィラメントを想定した場合,別紙3図2(引用文献のFIG.5の糸31
8の直径と,凹面および凸面の大きさの関係の説明図)に示す被告作成の
図面のスケールからは,凹面の曲率半径は5.9Dとなるから接円半径L
(=)には0.59cmとなり,凸面の曲率半径は1.6Dとなるから接5
円半径Sは0.16cmとなることを読み取ることができる。そして,こ
れらは,補正発明の「前記凹面が,約0.19~0.64センチメートル
(0.075~0.25インチ)の半径を有し,前記とげの前記第2部分
の前記凸面が,約0.13~0.25センチメートル(0.05~0.1
インチ)の半径」なる数値限定と比較しても,その数値範囲に含まれてい10
る。
よって,仮に,補正発明の凹面及び凸面の各曲率半径について臨界的意
義が本願明細書等からある程度読み取ることができるとしても,補正発明
で特定された凹面および凸面の各曲率半径は,引用文献のFIG.5及び
とげつき縫合糸の一般的なフィラメント径から導き出せる程度の設計事15
項であり,当業者にとって,引用文献に基づいて当該曲率半径の数値範囲
を想到することが容易であることに変わりはない。
ウ相違点3について
補正発明は,「とげが,前記フィラメント状要素の長手方向軸と約10~
49度の鋭角を画定する長手方向軸に沿って延在する」と特定されている20
が,本願明細書等には,外縁がフィラメントと接する基底部から先端部へ
向けて凹面を経て凸面に蛇行することに伴い軸線も蛇行する(少なくとも
基底部から先端部に向けて,とげの中心軸は直線ではない)ところ,とげ
のどの部分がフィラメント長手方向軸に対して「約10~49度の鋭角」
となるのか特定されていないから,全体的にみて,とげがフィラメント状25
要素の長手方向に対して,「約10~49度の鋭角」を画定する長手方向軸
に沿って延在していればよいものであると解さざるを得ない。そうすると,
引用発明のとげは,FIG.5を全体的にみて,糸の長手方向軸と「約1
0~49度の鋭角」の範囲にあることは明らかである(本願明細書等の図
12Bと引用文献のFIG.5に基づいた参考図である別紙3図3参照)
から,引用文献は,補正発明に係る「とげが,前記フィラメント状要素の5
長手方向軸と約10~49度の鋭角を画定する長手方向軸に沿って延在
する」との構成を開示している。
また,とげの外縁について,仮に,原告が主張するとおり,補正発明の
外縁は徐々に外側に広がりつつ凹曲面から凸曲面に変移するものである
のに対して,引用発明の外縁は糸318と平行な直線部分を含むものであ10
ったとしても,引用文献のFIG.8及びFIG.9,並びに乙3のFI
G.1D,1F及び1G(乙3に係る図面は別紙4参照。)にも示されてい
るとおり,当該技術分野において,とげの外縁を徐々に広がるように構成
することはごく普通の構成であるから,そのような構成とした点に進歩性
を見出すことはできない。15
エ顕著な作用効果について
補正発明は,公知技術である引用発明の外縁形状に対し数値限定を加え
たものであるが,当該数値限定に臨界的意義があることも,原告主張の効
果に係る技術的意義も明細書に記載されていないのであるから,当該数値
範囲の選択が当業者にとって容易でないということはできず,当該発明が20
進歩性を有するということはできない。
縫合糸によって縫合される人体組織も,神経のような軟弱な組織から腱
や靱帯のような大きく硬い組織まで幅広く分布しているところ(乙4の
【0021】参照),補正発明においては対象組織の範囲が特許請求の範囲
及び明細書の記載を通じ特段特定されていないし,とげの外縁についての25
数値限定が幅広い大きさおよび硬度を有する人体組織に対し普遍的に効
果を発揮するとも考え難い。
⑷小括
以上によれば,本件審決における補正発明の進歩性の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1明細書等の記載事項について5
⑴本願明細書等の発明の詳細な説明には,別紙1のような記載がある。
⑵前記⑴の記載事項によれば,本願明細書等には,次のような開示があるこ
とが認められる。
ア「本発明」は,第1方向に引かれたときに組織を容易に通過することが
でき,その反対の第2方向に引かれたときに最大保持強度を呈するように10
特別に設計されたとげを有する,とげ付き縫合糸に関する(【0002】)。
イとげ付き縫合糸と呼ばれる外科用縫合糸は,中心コア又はフィラメント
から外方に延出している一連のとげを有するように構成されるが,それら
のとげは,縫合糸の保持強度を高めるように及び/又は糸結びの必要性を
排除するように機能するものであるところ,とげの大きさ及び形状は,外15
科的設定においては実用上の制限を有し,より高い保持強度が望まれる場
合であっても,単純に寸法を大きくすることはできないという問題があっ
た。そこで,「本発明」は,挿入力,縫合糸の剛性,又は装置の触知性を有
意に増加させずに改善された保持強度を有し,縫合糸が第1方向に引かれ
たときには縫合糸が組織を容易に通過できるように設計されているが,縫20
合糸が反対の第2方向に引かれたときには縫合糸を保持するための最大
保持強度を呈するとげを提供することを課題とする(【0003】,【000
5】)。
ウ「本発明」は,とげの第1部分242の凹面が,組織に埋め込まれた後
にとげ204が後方に曲がる可能性を最小限に抑え(【0046】),第1部25
分242の凸面は,組織を通過中のとげの可とう性を制御するのを助け,
とげ及び創傷閉鎖装置200が組織を通過するのを促進し(【0047】),
凹面を有する第1部分242と凸面を有する第2部分244とを有する
各とげ204の外縁234の独特の形状が,縫合糸が第1方向DIR#1
に組織を通じて引っ張られる際にとげ付き縫合糸によりもたらされる抵
抗レベルを最小にし(【0048】),凹面が,縫合糸が第2方向DIR#25
に引っ張られたときに,とげがフィラメント状要素202から離れる方向
により容易に撓む(後方に曲がる)のを可能にすることにより,第2方向
DIR#2への縫合糸の移動に対する抵抗を大きくするという効果を奏
する(【0049】)。
2引用発明について10
⑴引用文献の記載事項について
引用文献(甲1)には,別紙2のような記載がある。
⑵前記⑴によれば,引用文献には,次のような開示があることが認められる。
ア「本発明」は,ループ状縫合糸を含む組織把持装置に関するものである
([0001])。15
イ縫合は,ほとんどの外科的処置の,特に縫合糸を適切に操作するのに十
分な空間がない顕微鏡手術及び内視鏡手術において,時間のかかる部分で
あるが,縫合することや結ぶことの利点を提供する許容可能な代替物は見
出されていない([0003],[0007])。
そのため,効率的であり,外科的処置を促進し,縫合糸の近位固定およ20
び遠位固定の両方を行うために使用される材料の質量及び大きさを最小
限にする,外科的適用及び創傷修復において組織を接合するための創傷閉
鎖装置が必要とされている([0010])。
ウそこで,「本発明」は,針と,その針に取付けた,針と反対側の閉じられ
た端部と,その閉じられた端部と針との間に延びる第1及び第2のストラ25
ンドとを有しているループ状縫合糸を含んでおり,第1及び第2のストラ
ンドのうちの少なくとも1つは,1つ又はそれ以上の組織把持要素をその
上に備えており,FIG.5に示すように,組織把持要素328の各々は,
その前縁337上に緩やかに傾斜したフィレット336と,その後縁33
9上に拡大された(つまり,広がった)半径338とを含み,半径338
は,応力集中を低減するように湾曲し,各後縁339とストランド3185
との間には,細長い空間340が設けられている構成を採用した([001
1]ないし[0013],[0056]ないし[0058])。
エフィレット336は,組織把持要素328に低い輪郭を提供し,縫合中
に組織把持要素328に加えられる挿入力を低減する。また,組織把持要
素328は,細長い空間340内に大量の組織を捕捉することによって高10
い組織保持強度を維持する([0059])。
⑶前記⑵において認定したところによれば,引用文献から,本件審決が認定
したとおりの引用発明を認定することができる。
3取消事由(独立特許要件(進歩性欠如)の判断の誤り)について
⑴引用発明の認定の誤りについて15
ア原告は,前記第3の1⑴のとおり,補正発明における本件記載は,外縁
が,基底部から遷移点までの間は凹面のみで,遷移点と先端部との間は凸
面のみで構成されることを意味するところ,引用文献の凸面(第2面)は,
先端部まで達していないから,本件審決の認定は誤りである旨主張する。
イしかし,凸面は「凸起した面」であり,凸起の字義は「中だかく盛りあ20
がること」(広辞苑第三版,乙2)であるところ,引用文献のFig.4及
びFig.5において,凹状部より先端部側の前縁337は中だかく盛り
あがる形状を呈しており,また,当該部分には凹部も存在しない。そうす
ると,引用文献の組織把持要素の外縁部の凹状部より先端部側の前縁33
7に,凸状部が形成されているといえることは明らかであるから,引用発25
明の認定自体にはいずれにしても誤りはない。また,仮に,補正発明にお
ける本件記載について原告の解釈に従うとしても,引用発明の凸状部の有
無については,引用文献のFIG.4及びFIG.5からは,原告主張の
凸面(第2面)より先端部側に,第2の遷移点と直線部があるかどうかは
明らかとはいえないから,凹状部より先端部側の前縁337全体を凸状部
と認定した本件審決の判断に誤りはない。5
⑵補正発明と引用発明の一致点及び相違点の認定の誤りについて
ア一致点の認定について
原告は,前記第3の1⑵アのとおり,引用発明における凸面(第2面)
が,先端部まで達していないことを前提に,補正発明と引用発明の一致点
として,「・・・前記基底部と前記先端部との間に延在しフィラメント状要10
素から離れる方を向いている外縁と,を有し,前記外縁は,・・・凸面を有
する第2部分とを有する」とした本件審決の認定が誤りであると主張する。
しかし,引用文献において外縁に凸面が存在することは,原告も認める
ところであって,補正発明と引用発明のいずれについても,とげに凸面を
有する第2部分があることは明らかであるから,本件審決の認定に誤りは15
ない。なお,引用文献において,凸状部が先端まで達していないという原
告の前提が採用できないことは前記⑴イのとおりである。
イ相違点1の認定について
「延在」の語は,「延びて存在すること。」(特許技術用語集-3版-,日
刊工業新聞社,平成18年8月31日発行。乙1)との意味を有するが,20
本件記載は,凹面を有する第1部分が「前記基底部と前記とげの遷移点」
の間に延在し,凸面を有する第2部分が「前記とげの前記遷移点と前記と
げの前記先端部」の間に「延在する」として,延在の場所を特定しており,
補正発明の特許請求の範囲には,「前記外縁が,前記とげの前記遷移点で,
前記第1部分の前記凹面から,前記第2部分の前記凸面に移行し,」との記25
載もあるところからすれば,凹面が基底部から遷移点まで延在して第1部
分を構成し,当該遷移点から先端部まで凸面が延在して第2部分を構成す
ると理解するのが自然である。そして,本件審決は,相違点1について,
「本願補正発明の「外縁」は「遷移点」を備え,「凹面を有する第1部分」
が「前記基底部と前記とげの遷移点との間に延在」し,「凸面を有する第2
部分」が「前記とげの前記遷移点と前記とげの前記先端部との間に延在」5
しているのに対して,引用発明は「遷移点」を備えているか一見不明であ
り,「凹状部」が「接続部」と「遷移点」との間に延在し,「凸状部」が「遷
移点」と「先端部」との間に延在しているか不明である点。」と認定してい
るのであるから,これは,本件記載についての上記解釈や,引用文献のF
IG.4,FIG.5の形態と何ら矛盾するものではない。10
原告は,前記第3の1⑵イのとおり,引用発明は複数の「遷移点」を備
えており,「凸状部」が「先端部」まで延在していない点において補正発明
と異なると主張するが,原告の主張する前提が採用できないことは前記⑴
イのとおりである。
ウ相違点2の認定について15
原告は,前記第3の1⑵ウのとおり,引用発明の外縁の中だかく盛りあ
がる形状を呈している部分を凸部として把握した場合,この凸部は,所定
数値範囲の半径を有する凸曲面ではないことは明らかである旨主張する
ところ,確かに,引用発明における凸状部は,引用文献のFIG.4及び
FIG.5の中だかく盛りあがる形状を呈している部分であるが,同FI20
G.5及び別紙3第2図に照らしても,この凸状部には,円弧状でない部
分が含まれ,引用発明における凸状部が,所定数値範囲の半径を有する凸
曲面であるとは認められない。
したがって,補正発明と引用発明の相違点2としては,「補正発明は,凹
面が,約0.19~0.64センチメートル(0.075~0.25イン25
チ)の半径を有し,前記とげの前記第2部分の前記凸面が,約0.13~
0.25センチメートル(0.05~0.1インチ)の半径を有している
のに対して,引用発明は「凸状部」及び「凹状部」の大きさが特定されず,
凸状部については,所定数値範囲の半径を有する凸面でもない点」とされ
るべきであり,この点において本件審決の相違点2の認定には誤りがある。
エ相違点3の認定について5
原告は,前記第3の1⑵エのとおり,補正発明は,引用発明に対し,単
に「とげが,フィラメント状要素の長手方向軸に対して延在する角度」で
相違するのみではなく,補正発明のとげの形状は,引用発明のとげの形状
と全く相違している旨主張する。
しかし,引用文献の[0058]には,「組織把持要素328は,「サメ10
のひれ」形状で細長い本体312上に形成される。より詳細には,図5に
示すように,組織把持要素328の各々は,その前縁337上に緩やかに
傾斜したフィレット336と,その後縁339上に拡大された(つまり,
広がった)半径338とを含む。半径338は,応力集中を低減するよう
に湾曲している。各後縁339とストランド318との間には,細長い空15
間340が設けられている。」と記載されているが,フィレット336の傾
斜の具体的な角度,半径338の具体的な大きさ,細長い空間340の具
体的な形状は記載されていないから,補正発明のとげの形状は,引用発明
のとげの形状と全く相違しているとはいえず,本件審決の認定に誤りはな
い。20
⑶相違点の判断の誤りについて
ア相違点1について
引用発明では,遷移点を備えているか一見不明であり,凹状部が接続部
と遷移点との間に延在し,凸状部が遷移点と先端部との間に延在している
か不明であるが,少なくとも,凹状部から凸状部に移行する領域に,曲が25
り方向が変わる遷移領域は存在する。凹面から凸面に移行する形状として,
遷移領域で移行するか,遷移点で移行するかは,当業者が採用する選択肢
の一つであると解することができるから,引用発明の外縁の遷移領域で凹
状部から凸状部に移行する形状を,遷移点で移行する形状として,相違点
1に係る補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことで
ある。5
したがって,本件審決の相違点1の容易想到性の判断に誤りはない。
イ相違点2について
(ア)原告は,前記第3の1⑶イのとおり,引用発明において,外縁に関
して,高い組織保持強度を維持する旨の課題は全く認識されておらず,
引用文献に接した当業者が,上記課題を解決するため,補正発明におけ10
る数値範囲を採用することはない旨主張する。
(イ)しかし,引用文献の「・・・組織把持要素28,28’は,針26
が組織を通過するのと同じ方向にループ状縫合糸14が組織を通って
移動できるように,また針26の移動とは反対の方向にループ状縫合糸
14が滑ったり移動したりするのを防ぐように,細長い本体12上に配15
向されている。・・・」([0033]),「ここで組織把持要素に目を向け
ると,それらの物理的特性(すなわち,大きさ,形状など)および全体
的な設計は,本発明の装置の性能を決定する際に重要な役割を果たす。
具体的には,組織把持要素の物理的特性および設計は,挿入力,組織牽
引,曲げ抵抗,組織把持要素の組織係合および保持強度,ならびに縫合20
糸の引張強度を含む,縫合プロセスに関連する多くの要因に影響を及ぼ
す。」([0055]),「フィレット336は,組織把持要素328に低い
輪郭を提供し,縫合中に組織把持要素328に加えられる挿入力を低減
する。また,組織把持要素328は,細長い空間340内に大量の組織
を捕捉することによって高い組織保持強度を維持する。フィレット3325
6は,組織把持要素328の曲げ抵抗を増加させる追加材料を含む。」
([0059])との記載からは,組織把持要素328全体に関して,高
い組織保持強度を維持するという物理的特性(大きさ,形状など)を備
えるように構成されるという課題を読み取ることができる。
また,とげ付き縫合糸の技術分野において,とげの先端部まで凸面が
延在する外縁の構成は,引用文献のFIG.8や乙3のFIG.1F及5
び1Gにもみられるように,周知であるものと認められる。そうすると,
引用発明の組織把持要素の先端部側の凸状部の形状に,一般的な凸状部
の形状である「所定数値範囲の半径を有する凸面」を採用することは,
当業者が通常採用する選択肢の一つであると解することができる。
さらに,とげつき縫合糸として本件優先日前に公知の乙3の【00310
7】(2頁右欄36ないし40行)には,「とげのある縫合糸は,ほとん
どいかなる幅および厚さで製造することができ,標準的な縫合糸として
利用可能な範囲である約0.00004から約0.0530インチの範
囲にほぼ対応する幅および厚さが含まれる。」との記載があり,乙4の
【0025】には,「以下に記載する発明した縫合糸に適した直径は,約15
0.001mmから約1mmまでの範囲とすることがあり,またもちろ
ん,この直径は約0.01mmから約0.9mmまでや,約0.015
mmから約0.8mmまでの範囲とすることもある。典型的な直径は約
0.01mmから約0.5mmまでの範囲にある。」との記載がある。
これらの標準的な縫合糸の直径と,引用文献のFIG.5にみられる20
縫合糸の直径ととげの大きさの比率からすると,とげ付き縫合糸のとげ
に所定数値範囲内の凹面及び凸面を設ける場合には,その半径は0.数
cmとなると解されるところ,補正発明のとげの第1部分の凹面の半径
である約0.19ないし0.64センチメートル(0.075ないし0.
25インチ)や,とげの第2部分の凸面の半径である約0.13ないし25
0.25センチメートル(0.05ないし0.1インチ)は,この範囲
内のものである。また,補正発明の数値範囲が当該数値範囲以外の半径
に比べて異なる技術的意義を有するものとは認められないし,引用発明
において当該数値範囲の半径の凹面及び凸面を選択することができない
とすべき事情はない。したがって,引用発明における凹状部,及び凸状
部(その形状は,上記のとおり「所定数値範囲の半径を有する凸面」)の5
それぞれの半径を,相違点2に係る所定数値範囲の半径とすることは,
当業者が容易に想到し得たことといえる。
(ウ)よって,原告の主張は採用できず,引用発明において,相違点2に
係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことと認められる。
なお,本件審決は,前記⑵ウのとおり,「引用発明は,凸状部について10
は,所定数値範囲の半径を有する凸面でもない点」を相違点2に含めて
いないが,相違点2についての容易相当性の検討において,引用発明の
凹面及び凸面が所定数値範囲の半径を有することに格別な効果は認め
られないと判断しており,引用発明の凸状部として所定数値範囲の半径
を有する凸面からなる形状を有する場合も含めて実質的に検討してい15
るといえるので,相違点2の認定の誤りは,審決の結論に影響を及ぼす
ものではない。
ウ相違点3について
(ア)原告は,前記第3の1⑶ウのとおり,補正発明の外縁は,所定数値
範囲の半径の曲面である凹面と所定数値範囲の半径の曲面である凸面20
を備え,フィラメント状要素の長手方向軸と「約10~49度の鋭角」
をなすとげを有する装置であり,とげの外縁は,徐々に外側に広がりつ
つ,凹曲面から凸曲面に変移しているのに対し,引用発明の外縁は,こ
れとは構成を全く異なるものであり,当業者において相違点3に係る補
正発明の構成を容易に想到することはできない旨主張する。25
(イ)原告の主張の前提に採用できない点があることは,既に前記イにお
いて判示したとおりであるので,以下,それ以外の点について検討する。
補正発明において,「前記とげが,前記フィラメント状要素の長手方向
軸と約10~49度の鋭角を画定する長手方向軸に沿って延在する」と
されているところ,本願明細書等には,フィラメント状要素の長手方向
軸に対してとげの長手方向軸の方向(本願明細書等の図12BのA2の5
方向)をどのように規定するのかについても,とげの長手方向軸とフィ
ラメント状要素の長手方向軸がなす角度(同図12Bの角度a1)をど
のように画定するのかについても記載されていないから,補正発明は,
全体的にみて,とげがフィラメント状要素の長手方向に対して,「約10
~49度の鋭角」を画定する長手方向軸に沿って延在していればよいこ10
とを開示するのにとどまるものと解されるし,とげをフィラメント状要
素の長手方向軸に対して全体的に徐々に広がるように構成することは,
引用文献のFIG.8及びFIG.9,乙3のFIG.1D,1F,1
Gにみられるように,ごく普通の構成である。そして,引用文献では「針
26が組織を通過するのと同じ方向にループ状縫合糸14が組織を通っ15
て移動できるように」([0033])せねばならず,「フィレット336
は,組織把持要素328に低い輪郭を提供し,縫合中に組織把持要素3
28に加えられる挿入力を低減する。」([0059])とされる以上,延
在する角度を90度に近い角度とすることができない一方,「針26の移
動とは反対の方向にループ状縫合糸14が滑ったり移動したりするのを20
防ぐように」([0033])するためには,延在する角度を0度に近い角
度とすることができないことは,当業者には明らかである。このことは,
引用文献のFIG.5から,組織把持要素が,全体的にみて,90度近
く,及び,0度近くの角度を除いた方向に延在している様子が看て取れ
るし,引用文献のFIG.8及びFIG.9,乙3のFIG.1D,125
F,1Gからも,同様の様子が看て取れることとも整合する。
そうすると,前述のとおり,補正発明においてとげが延在する角度(フ
ィラメント状要素の長手方向軸と「約10~49度の鋭角」を画定する
長手方向軸の角度)の範囲は,上記90度近く,及び,0度近くの角度
を除いて取り得る角度範囲と同様の角度範囲であるといえるところ,引
用文献には,上記補正発明における角度範囲と同様の角度で組織把持要5
素を延在させることが示唆されていたということができる。
よって,引用発明において,組織維持要素328を糸318の長手方
向軸と「約10~49度の鋭角」を画定する長手方向軸に沿って延在す
るようにして,相違点3に係る構成を得ることは,当業者であれば容易
になし得たことと認められる。10
なお,原告は,引用発明の外縁における「糸318と平行な直線部分」
を,糸318から徐々に外側に広がる直線部分に変更しても,引用発明
の変更後の外縁は,本件補正後の請求項1に係る発明における「徐々に
外側に広がり,所定数値範囲の半径を有する凸曲面」とはならず,補正
発明と相違すると主張するが,引用発明において凹状部より先端部側の15
前縁337に形成されているのは凸状部であって直線状ではないし,凸
状部を所定数値半径の凸面とすることは当業者が容易に想到し得たこと
であることは前記イのとおりであるから,原告の主張は採用することが
できない。
⑷顕著な作用効果について20
ア原告は,前記第3の1⑶エのとおり,補正発明は,数値範囲に臨界的意
義がないとしても,引用発明と比較して,顕著な作用効果を奏する旨主張
する。
しかし,補正発明の構成を備えることの臨界的意味をうかがわせる記載
は本願明細書等にはないし,前記⑶のとおり,引用発明において,相違点25
1ないし3に係る補正発明の構成を得ることは,当業者が容易に想到する
ことができたものであるから,これらの構成を備える補正発明による作用
効果は当業者が予想可能な範囲を超えるものとはいえず,顕著なものであ
るということはできない。
イなお,原告は,引用文献では,直線部(第3面)は,装置(310)の
輪郭の増加に貢献しておらず,組織把持要素(328)の外縁のフィレッ5
ト(第1面)(336)のみによって,ほぼ装置(310)の所定外径に達
しているから,組織把持要素(328)の外縁のフィレット(第1面)(3
36)が急に外側に広がっており,装置(310)を挿入する際の周囲の
組織からのより大きな抵抗につながると主張するが,引用文献の[005
8]には,「図5に示すように,組織把持要素328の各々は,その前縁310
37上に緩やかに傾斜したフィレット336と,その後縁339上に拡大
された(つまり,広がった)半径338とを含む。」と記載され,[005
9]には「フィレット336は,組織把持要素328に低い輪郭を提供し,
縫合中に組織把持要素328に加えられる挿入力を低減する。」と記載さ
れており,フィレット(第1面)(336)は緩やかに傾斜し,低い輪郭を15
提供しているのであるから,フィレット(第1面)(336)が急に外側に
広がっているということはできないし,引用発明の所定外径が補正発明の
外径よりも大きいかどうかも不明であるから,装置(310)を挿入する
際の周囲の組織からのより大きな抵抗につながるということもできない。
4結論20
以上によれば,補正発明は,引用発明に基づき当業者が容易に発明をするこ
とができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立し
て特許を受けることができないとした本件審決の判断に誤りはないから,原告
が主張する取消事由は,理由がない。
よって,原告の請求は,理由がないからこれを棄却することとして,主文の25
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
菅野雅之
裁判官
本吉弘行
裁判官
岡山忠広
(別紙1)
【技術分野】
【0002】
(発明の分野)
本発明は,広くは,医療装置の分野に関し,より具体的には,第1方向に引か5
れたときに組織を容易に通過することができ,その反対の第2方向に引かれたと
きに最大保持強度を呈するように特別に設計されたとげを有する,とげ付き縫合
糸に関する。
【背景技術】
【0003】10
創傷及び外科的切開の多くは,外科用縫合糸又は他の形態の外科用縫合装置を
用いて閉じられる。一般にとげ付き縫合糸と呼ばれる外科用縫合糸の1つのタイ
プは周知であり,最近では,様々な医療用途での使用のために注目を集めている。
典型的には,とげ付き構造体は,縫合糸の中心コア又はフィラメントから外方に
延出している一連の「とげ」又は「突起」(本明細書では互換的に使用される)を15
有するように構成される。それらのとげは,縫合糸の保持強度を高めるように及
び/又は糸結びの必要性を排除するように機能する。それらのとげの大きさ及び
形状は,外科的設定においては実用上の制限を有し,より高い保持強度が望まれ
る場合であっても,単純に寸法を大きくすることはできない。
【発明が解決しようとする課題】20
【0005】
上記の欠点を考慮すると,挿入力,縫合糸の剛性,又は装置の触知性を有意に
増加させずに改善された保持強度を有する外科用縫合糸の必要性が依然として
存在する。また,縫合糸が第1方向に引かれたときには縫合糸が組織を容易に通
過できるように設計されているが,縫合糸が反対の第2方向に引かれたときには25
縫合糸を保持するための最大保持強度を呈するとげを有する外科用縫合糸の必
要性も依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
一実施形態では,創傷閉鎖装置は,近位端と遠位端とを有するフィラメント状
要素と,フィラメント状要素から外方に延出している複数のとげと,を好ましく5
は含む。とげのそれぞれは,望ましくは,フィラメント状要素に接続された基底
部と,基底部から離間配置された先端部と,基底部と先端部との間に延在する外
縁と,を有する。
【0020】
一実施形態では,外縁は,望ましくは,基底部ととげの遷移点との間に延在す10
る凹面を有する第1部分と,とげの遷移点ととげの先端部との間に延在する凸面
を有する第2部分と,を有する。外縁は,とげの遷移点で,第1部分の凹面から,
第2部分の凸曲面に移行するのが好ましい。一実施形態では,とげの第1部分の
凹面は,約0.19〜0.64センチメートル(0.075〜0.25インチ)
の半径を有し,とげの第2部分の凸面は,約0.13〜0.25センチメートル15
(0.05〜0.1インチ)の半径を有する。
【0024】
一実施形態では,各とげは,フィラメント状要素から離れる方を向いている外
縁,及びフィラメント状要素から離間配置されてそれに面している内縁を有する。
一実施形態では,少なくとも1つのとげは,とげ基底部ととげ先端部との間に延20
在する内縁を有する。・・・
【0025】
一実施形態では,とげの少なくとも1つは,フィラメント状要素の長手方向軸
と約5~60度の鋭角を画定する長手方向軸に沿って延在する。
【0028】25
一実施形態では,創傷閉鎖装置は,近位端と,遠位端と,近位端と遠位端との
間に延在する長手方向軸と,を有するフィラメント状要素と,フィラメント状要
素から外方に延出している複数のとげと,を備える。一実施形態では,とげのそ
れぞれは,フィラメント状要素に接続された基底部と,基底部から離間配置され
た先端部と,基底部と先端部との間に延在する外縁と,を有する。とげの外縁は,
好ましくは,とげの基底部と遷移点との間に延在する,約0.19〜0.64セ5
ンチメートル(0.075〜0.25インチ)の半径を有する凹面を有する第1
部分と,とげの遷移点ととげの先端部との間に延在する,約0.13〜0.25
センチメートル(0.05〜0.1インチ)の半径を有する凸面を有する第2部
分と,を含む。・・・
【発明を実施するための形態】10
【0032】
図1は,本発明による創傷閉鎖装置100の代表的な実施形態を示す。図1及
び2を参照すると,創傷閉鎖装置100は,該装置から外方に延出している複数
のとげ104を好ましくは含む,任意の好適な外科用縫合糸材料(すなわち,吸
収性及び非吸収性の高分子材料,金属材料,又はセラミック材料)で構成された15
フィラメント状要素102を含む。縫合糸は,任意の好適な方法により形成され
得るが,好ましくは,参照によりその全内容が本明細書に組み込まれる米国特許
公開第2007/0257395号により詳細に説明されているやり方で予め
形成された材料から打ち抜かれた複合輪郭である。図1を参照すると,創傷閉鎖
装置の近位端106は,針又は他の挿入装置108を含み得る。図1〜5を参照20
すると,一実施形態では,創傷閉鎖装置の遠位端110は,定着タブ若しくは停
止要素112又は同様物を含む。・・・
【0039】
図10を参照すると,一実施形態では,創傷閉鎖装置200は,好ましくは,
フィラメント状要素202から外方に延出しているとげ204を有するフィラ25
メント状要素202を含む。フィラメント状要素202は,望ましくは,近位端
206と,フィラメント状要素202の近位端206に接続された挿入針208
と,フィラメント状要素202の近位端206から遠く離れている,フィラメン
ト状要素202の遠位端210と,フィラメント状要素202の遠位端210に
接続された停止部212と,を含む。停止要素212は,前縁の厚さ(図示せず)
及び前縁の幅W’を有する前縁214を有する。停止要素212は長さL’もま5
た有する。
【0040】
図11を参照すると,一実施形態では,フィラメント状要素202は,フィラ
メント状要素から外方に延出している複数のとげ204を有する。図12A及び
12Bを参照すると,一実施形態では,フィラメント状要素202のとげ20410
は,フィラメント状要素202の長さに沿って(すなわち,長手方向軸A1に沿
って)互いに等間隔に配置されている。一実施形態では,フィラメント状要素2
02は長手方向軸A1を有し,とげ204は,長手方向軸A1と角度α1を画定
する軸A2に沿って延出する。一実施形態では,角度α1は,約5〜60度であ
り,より好ましくは,約10〜49度である。角度α1の正確な大きさは,組織15
通過中のとげ204の可とう性を制御するように,かつまた,創傷閉鎖装置20
0が組織内に埋め込まれた後のとげ保持強度を確立するように選択されること
が望ましい。
【0041】
一実施形態では,とげは,フィラメント状要素202の両側で互いから離れる20
方向に延出する対をなして整列する。図12Aは,フィラメント状要素202の
長さに沿って互いに整列されている,第1のとげの対204A,204A’と,
第2のとげの対204B,204B’と,第3のとげの対204C,204C’
の3つの異なるとげの対を示す。図12Aにはフィラメント状要素202のごく
小さい一部のみが図示されているため,とげの対は3つだけ示されている。しか25
しながら,他の実施形態では,フィラメント状要素202は,フィラメント状要
素の長さに沿って互いに整列し,かつフィラメント状要素の両側で互いから離れ
る方向に延出する,50,100,150又はそれ以上のとげを含み得る。一実
施形態では,フィラメント状要素の両側から延出しているとげの少なくともいく
つかは,互い違いに配置される。
【0042】5
図12A及び12Bを参照すると,一実施形態では,各とげ204は,フィラ
メント状要素202に接続された基底部230と,基底部230から離間配置さ
れた先端部232と,基底部230と先端部232との間に延在する外縁234
と,基底部230と先端部232との間に延在する内縁236と,を含む。とげ
204の外縁234は,好ましくはフィラメント状要素202から離れる方を向10
いており,とげの内縁236は,好ましくはフィラメント状要素202に面して
いる。各とげ204はまた,とげ204の内縁236とフィラメント状要素20
2との間に延在する内曲面238もまた含むことが望ましい。
【0045】
図12A及び12Bを参照すると,一実施形態では,とげ204の先端部2315
2は,約0.0076〜0.015センチメートル(0.003〜0.006イ
ンチ),より好ましくは約0.01センチメートル(0.004インチ)の半径を
有する放射状凸面240を画定する。とげのそれぞれについて,先端部232の
放射状凸面240は,望ましくは,組織を通過中のとげ204の可とう性を制御
するのを助け,かつとげ204のモーメントアームを決定するのを助けることに20
よって,組織に埋め込まれた後にとげが後方に曲がる可能性を最小限に抑える。
【0046】
図12Bを参照すると,一実施形態では,各とげ204の外縁234は,凹面
を画定する第1部分242と,凸面を画定する第2部分244とを含む。凹面を
有する第1部分242は,とげ204の基底部230と遷移点246との間に延25
在する。凸面を有する第2部分は,とげ204の遷移点246と,とげ204の
先端部232との間に延在する。一実施形態では,第1部分242の凹面は,約
0.19〜0.64センチメートル(0.075〜0.25インチ),より好まし
くは約0.22〜0.5センチメートル(0.09〜0.2インチ)の半径を有
する。第1部分242の凹面は,好ましくは,とげ204の可とう性及び創傷閉
鎖装置による組織の通過を制御する。第1部分242の凹面は,とげ204のた5
めのモーメントアームを画定し,組織に埋め込まれた後にとげ204が後方に曲
がる可能性を望ましくは最小限に抑える。
【0047】
一実施形態では,とげの第2部分244の凸面は,約0.13〜0.25セン
チメートル(0.05〜0.1インチ),より好ましくは約0.18センチメート10
ル(0.07インチ)の半径を有する。第2部分244の凸面は,好ましくは,
とげのモーメントアームを画定し,とげの可とう性を制御するのを助け,とげ及
び創傷閉鎖装置200が組織を通過するのを促進する。
【0048】
図12Bを参照すると,一実施形態では,とげ204の1つ以上は,望ましく15
は,DIR#1と指定される第1方向にとげ付き縫合糸が組織を通じて引っ張ら
れたときに,とげがフィラメント状要素202に向かってより容易に内方に倒れ
るのを可能にし,それにより,組織を通じてとげ付き縫合糸を第1方向DIR#
1に引っ張るために必要な力の量を最小にする,独特の形状を有する。具体的に
は,凹面形を有するとげ204の外縁の第1部分242は,組織に対するとげの20
輪郭を最小にし,それにより組織を通じてとげ付き縫合糸を第1方向DIR#1
に引っ張るために必要な力の量が最小となる。更に,とげの遷移点246ととげ
の先端部232との間に位置するとげの第2部分244の凸曲面は,縫合糸が第
1方向DIR#1に引っ張られたときの,とげの内方への曲がりに対する抵抗レ
ベルを最小にするので,その抵抗レベルは,第2部分244が直線状又は凹面の25
場合に存在するであろうレベルよりも有意に小さくなる。このようにして,凹面
を有する第1部分242と凸面を有する第2部分244とを有する各とげ20
4の外縁234の独特の形状は,縫合糸が第1方向DIR#1に組織を通じて引
っ張られる際にとげ付き縫合糸によりもたらされる抵抗レベルを最小にし,とげ
がフィラメント状要素203に向かって内方により容易に倒れるのを可能にす
る。一実施形態では,とげのモーメントアームを変更するために,遷移点の場所5
を移動させ,半径を変えてもよく,これは,第1方向への通過の容易さを変更し,
第2方向への移動に対する抵抗もまた変更する。
【0049】
一実施形態では,とげ付き縫合糸は,望ましくは,DIR#2と指定される第
2方向にとげ付き縫合糸が組織を通じて引っ張られたときに,とげがフィラメン10
ト状要素202の近位端に向かって曲げられる(後方への曲げ)のにより容易に
抵抗するのを可能にする独特の形状を有する1つ以上のとげ204を含み,それ
により,組織を通じてとげ付き縫合糸を第2方向DIR#2に引っ張るために必
要な力の量を最大にする。一実施形態では,とげ204の外縁234上に位置す
る,とげの第1部分242の凹面は,縫合糸が第2方向DIR#2に引っ張られ15
たときに,とげがフィラメント状要素202から離れる方向により容易に撓む
(すなわち,後方に曲がる)のを可能にすることにより,とげの対204B,2
04B’のそれぞれの先端部232の間の先端から先端までの横方向の距離D2
(図12A)を大きくし,それにより第2方向DIR#2への縫合糸の移動に対
する抵抗が大きくなる。更に,とげ付き縫合糸の第2方向DIR#2への移動に20
対して更に抵抗するために,とげ付き縫合糸が方向DIR#2に引っ張られたと
きに周囲組織と接触するように,とげ204の先端部232の凸曲面240は,
該先端部により大きい面積をもたらす。凸面240を有する先端部232を提供
することは,組織と係合するためのより多くの表面積をもたらし,組織と係合す
るための表面積がより少ない鋭角の表面を有する先端部と比べて劇的な改善を25
もたらす。一実施形態では,凸面240を有する先端部232は尖った縁を有さ
ないので,かかる先端部232を提供することにより,とげが組織の損傷を引き
起こす可能性を最小にする。
【図1】
【図2】
【図10】10
【図11】
【図12A】
【図12B】
(別紙2)
[0001]本発明は,一般的には,組織把持装置に関し,より詳細には,ルー
プ状縫合糸を含むそのような装置に関する。
[0002]外科的または偶発的な創傷は,典型的には,その1つに取り付けら
れた鋭利な金属針によって組織内に導入される,一般に縫合糸と呼ばれる,ある5
長さのフィラメントで閉鎖される。縫合糸は,治癒および再成長のために組織を
一緒に保持することによって創傷を閉鎖するための縫合を行うために使用され
る。縫合糸は,創傷閉鎖のための外科的処置において,形成外科において皮膚を
閉鎖するために,損傷または切断された腱,筋肉または他の内部組織を固定する
ために,また,神経および血管に対する顕微鏡手術において,使用される。一般10
に,縫合針は,組織を貫通して通過し,組織を通して縫合糸を引っ張るために使
用される。次に,組織の対向する面を互いに接近させ,針を取り外し,縫合糸の
端部に結び目を作る。縫合糸は,結び目が作られるときにループを形成する。結
び目形成手順により,フィラメントへの張力が調節され,縫合されている特定の
組織に適応し,組織の接近,閉塞,付着,または他の状態を制御することができ15
る。張力を制御する能力は,実行されている外科的処置のタイプにかかわらず,
極めて重要である。
[0003]縫合は,ほとんどの外科的処置の,特に縫合糸を適切に操作するの
に十分な空間がない顕微鏡手術および内視鏡手術において,時間のかかる部分で
ある。いくつかの創傷の適切な閉鎖では,縫合材料は引張強度が高いものでなけ20
ればならず,複数のステッチを適用しなければならない。組織構造が弱い場合,
または閉鎖部が深層部にある場合,ステッチの安全性は特に重要である。
[0007]しかしながら,大部分の外科的処置において縫合することや結ぶこ
との利点を提供する許容可能な代替物は見出されていない。
[0010]前述の理由のために,効率的であり,外科的処置を促進し,縫合糸25
の近位固定および遠位固定の両方を行うために使用される材料の質量および大
きさを最小限にする,外科的適用および創傷修復において組織を接合するための
創傷閉鎖装置が必要とされている。また,縫合糸の強度を維持し,同時に結び目
を排除する縫合装置を開発する必要がある。理想的には,この新しい装置は,外
科医が,適切な張力および安全性で,そして最小限の材料で,組織を迅速に接近
させるために,効率的に縫合することを可能にする。使用時に,この新しい装置5
は,血流を維持し,創傷治癒強度を改善し,組織の歪みを防止し,瘢痕化を最小
限に抑えることができる。さらに,新しい装置は,チーズワイヤ効果をもたらす
ことなく脆弱な組織の創傷を閉鎖するためなど,様々なタイプの組織で,また,
従来の縫合方法の保持力を有する有棘縫合糸の自己保持の利点を組み込む方法
に関連して使用することができる(例えば,装置は,顕微鏡手術,内視鏡手術,10
または関節鏡手術など,空間が制限され,結び目の形成が制限されるか,または
より困難になる外科的適用で使用することができる)。
[0011]組織把持装置は,針と,その針に取付けたループ状縫合糸を含んで
いる。そのループ状縫合糸は,針と反対側の閉じられた端部と,その閉じられた
端部と針との間に延びる第1および第2のストランドとを有している。第1およ15
び第2のストランドのうちの少なくとも1つは,1つ又はそれ以上の組織把持要
素をその上に備えている。例えば,組織把持要素は,第1および第2のストラン
ドの,内側面,外側面,または内側面と外側面の両方に設けられてもよい。
[0012]組織把持装置の閉じられた端部には,いかなる組織把持要素も設け
られていない。第1のストランドは,針に近接する第1の部分と,閉じられた端20
部に近接した第2の部分とを含む。第1のストランドの,第1の部分と第2の部
分は,いずれも組織把持要素を有していない。同様に,第2のストランドは,針
に近接する第1の部分と,閉じられた端部に近接する第2の部分と,を有し,こ
れらは,いずれも組織把持要素を有していない。
[0013]組織把持要素は,それぞれ,針に近い前縁と,針の遠位における後25
縁を含む。前縁及び後縁は,ループ状縫合糸に合流する凹形状を有している。一
実施形態では,後縁の凹形状は,ループ状縫合糸へと横方向に延在する凹部を形
成する。組織把持要素は,別の実施形態では,実質的にサメのひれの形状をして
いる。さらに別の実施形態では,組織把持要素の後縁はその上に複数の鋸歯を備
える。
[0032]さらに図1を参照すると,細長い本体12は,閉じられた端部165
と,2本の脚部,すなわちストランド18及び20とを持つループ状縫合糸14
を形成するように構成され,ストランド18及び20は,それぞれ閉じられた端
部16から離れるようにほぼ軸方向に延在し,自由端22,24において終端を
なす。ストランド18,20の各々は,他方のストランドの遠位にある外側面と,
他方のストランドに近接する内側面を有している。ストランド18,20の自由10
端22,24は,互いに固定され,針26に取り付けられている。
[0033]ストランド18は,複数の組織把持要素28を含み,ストランド2
0は,複数の組織把持要素28’を含む。用語「組織把持要素」は,本明細書で
は,突起,棘,および他の突出部を含むと定義されるが,そのような構造体に限
定されない。組織把持要素28,28’は,針26が組織を通過するのと同じ方15
向にループ状縫合糸14が組織を通って移動できるように,また針26の移動と
は反対の方向にループ状縫合糸14が滑ったり移動したりするのを防ぐように,
細長い本体12上に配向されている。より詳細には,組織把持要素28,28’
は,それらの自由端が閉じられた端部16の近位にくるような方向に延びる。さ
らに,細長い本体12およびストランド18,20が実質的に軸方向に延在する20
場合,組織把持要素28は,ストランド18の側面の一方または両方から横方向
に延在し,組織把持要素28’は,ストランド20の側面の一方または両方から
横方向に延在する。組織把持要素28,28’はそれぞれ,図5に示される本発
明の代替的実施形態に関連して以下にさらに説明されるように,針26に近接す
る前縁および針26に対して遠位の後縁を含む。25
[0055]ここで組織把持要素に目を向けると,それらの物理的特性(すなわ
ち,大きさ,形状など)および全体的な設計は,本発明の装置の性能を決定する
際に重要な役割を果たす。具体的には,組織把持要素の物理的特性および設計は,
挿入力,組織牽引,曲げ抵抗,組織把持要素の組織係合および保持強度,ならび
に縫合糸の引張強度を含む,縫合プロセスに関連する多くの要因に影響を及ぼす。
[0056]組織把持要素を形成するためのいくつかの方法が従来技術において5
議論されているが,上述したように,プロファイル穿孔およびループ状縫合糸の
プレス成形の好ましい製造方法により,図4~9に示すように,組織把持要素を,
様々な設計特徴を含むように形成することが可能になる。これらの図は,異なる
修正された組織把持要素を有する実施形態を示すが,代替の実施形態および修正
も可能である。10
[0057]図4,図5および図6は,本発明のループ状組織把持装置のそのよう
な代替実施形態の一例を示す。なお,本実施形態では,図1の実施形態で説明し
た構成要素に対応する構成要素には,300を追加した対応する参照番号を付し
て示す。特に指定されない限り,図4,図5および図6の代替実施形態は,図1
の実施形態と同様に構成され,動作する。15
[0058]図4,図5および図6をさらに参照すると,ループ状組織把持装置
310は,二本のストランドを有するループが形成される細長い本体312を含
む。明確にするために,図4,図5および図6には,ストランド318のみが示
され,ストランド320は,図示されていないが,ストランド318と同様に構
成され,動作することを理解されたい。組織把持要素328は,「サメのひれ」形20
状で細長い本体312上に形成される。より詳細には,図5に示すように,組織
把持要素328の各々は,その前縁337上に緩やかに傾斜したフィレット33
6と,その後縁339上に拡大された(つまり,広がった)半径338とを含む。
半径338は,応力集中を低減するように湾曲している。各後縁339とストラ
ンド318との間には,細長い空間340が設けられている。25
[0059]フィレット336は,組織把持要素328に低い輪郭を提供し,縫
合中に組織把持要素328に加えられる挿入力を低減する。また,組織把持要素
328は,細長い空間340内に大量の組織を捕捉することによって高い組織保
持強度を維持する。フィレット336は,組織把持要素328の曲げ抵抗を増加
させる追加材料を含む。
[0063]ここで,改変された組織把持要素を有する本発明の別の実施形態を5
示す図8を参照する。この代替的実施形態を説明する際に,図1の実施形態に関
連して上述した要素に対応する要素は,500を加えた対応する参照符号によっ
て示される。特に明記しない限り,図8の代替的実施形態は,図1の実施形態と
同様に構成され,動作する。
[0064]サメのひれ形状の組織把持要素の前述の特徴に加えて,組織把持要10
素528の後縁539は,その組織把持特性を強化するように形成されてもよい。
より詳細には,図8に示すように,組織把持要素528の各々の後縁539に複
数の鋸歯548が設けられている。鋸歯548は,他の主要な縫合性能および組
織保持強度に影響を及ぼすことなく,組織把持要素528の組織把持能力を向上
させる。鋸歯548は,様々な形状および大きさで形成され得る。15
[0065]従来技術の縫合糸に関連する別の問題は,組織把持要素の基部での
機械的破損であり,これは,組織に縫合糸を縫い込む間に組織把持要素に及ぼさ
れる高い曲げ応力に応答して生じる。この剪断応力破壊メカニズムは,細長い本
体の長さに沿って平行な直線経路に材料の分子を整列させるように押出成形さ
れるか,または他の方法で製造される材料から作製される縫合糸にとって,特に20
危険である。これらの製造プロセスに関連する整列により,材料の直線経路が中
断される(すなわち,ストランドとの交点を形成する組織把持要素の半径に近接
する)ところで,外向きに延在する組織把持要素は機械的破損の影響をより受け
やすくなる。この交点は「ホットスポット」として知られている。前述の理由に
より,組織把持要素は,高い曲げ応力に応答してホットスポットで破損する傾向25
がある。
[0066]ここで,改変された組織把持要素を有する本発明の別の実施形態を
示す図9を参照する。この代替的実施形態を説明する際に,図1の実施形態に関
連して上述した要素に対応する要素は,600を加えた対応する参照符号によっ
て示される。特に明記しない限り,図9の代替的実施形態は,図1の実施形態と
同様に構成され,動作する。5
[0067]本発明によるループ状組織把持装置610は,前述の機械的破損を
回避するために改変されたものとして図9に示されている。より具体的には,後
縁639は,組織把持要素628の各々の半径638に近接して細長い本体61
2に凹部650を形成する。凹部650は,組織把持要素628の半径638か
らの大きな曲げ応力を,高い曲げ応力を吸収するための材料のより大きな領域を10
含む細長い本体612のより大きなコア652に再分配する。これにより,凹部
650は,ホットスポットを装置610のより機械的に安定した部分に移動させ
る。したがって,凹部650を含めることにより,高い曲げ応力の結果として組
織把持要素628が受ける機械的破損の発生率が低減される。
図1
図4
図5
図85
図9
(別紙3)
図1
図2
図3
(別紙4)
FIG.1D
Fig.1F
Fig.1G

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採用情報


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