弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     当審並びに原審における訴訟費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告理由第一点について。
 行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴は、他の法律に特別の定めのない
場合は、処分をした行政庁を被告として提起すべきものであることは、行政事件特
例法第一条、第二条の規定するところである。従つて本件のごとく知事のした農地
買収処分並びに売渡処分の効力について、処分をした行政庁との間に争がある場合
においては、右規定の趣旨に従いその処分をした行政庁たる知事を被告として右処
分の無効確認の訴を提起することを得るものと解するを相当とする。論旨は理由が
ない。
 同第二点について。
 原判決の確定するところによれば、本件物件(第一審判決添付物件目録記載の第
一乃至第四号物件)は、もと被上告人の養父Dの所有であつたが同人は、昭和二〇
年一月一九日死亡し被上告人は家督相続に因り、その所有権を取得した、しかるに、
上告人(熊本県知事)は、それぞれ判示の日に、判示農地委員会の買収計画に基き、
死亡者たるDを名宛人として自作農創設特別措置法による買収処分をし、かつ同法
一六条、二九条による売渡処分をしたというのである。とすれば本件買収計画及び
買収処分は、買収当時における所有者に対して為されず、既に死亡せるその前主(
所有者の被相続人にして買収当時の登記名義人)に対して為された点において、違
法あるものと云わなければならない。(昭和二五年(オ)第四一六号、同二八年二
月一八日大法廷判決参照)
 かくのごとき場合おいては農地の所有者は、同法第七条に基いて農地委員会に対
して買収計画に対する異議を申立てることができ、その異議に対する農地委員会の
決定に対して不服ある場合は、都道府県農地委員会に訴願することができる。右訴
願に対する同委員会の裁決に対して不服ある者は、さらに、同法四七条の二に定め
る期間内に右裁決の取消変更を求める訴を提起することができる。右の如き買収計
画に対する訴を提起しなかつた場合においても農地の所有者は、右のごとき違法な
買収計画に基いてなされた知事の買収処分に対しては、別に同一違法を理由として
同条所定の期間内に該処分取消の訴を提起することができるのである。(昭和二四
年(オ)第四二号、同二五年九月一五日言渡第二小法廷判決)
 しかして、本件買収計画については適法に同法所定の公告がなされたこと、また
本件買収令書は各判示の日に上告人から訴外E(被上告人の先代の長女で、本件第
三物件の居住者)を被上告人の代人として同人に交付せられ、さらに、昭和二四年
四月一八日、同月二〇日頃右Eから被上告人に送付されたこと(被上告人は右Eの
代理権を争い、且右令書はこれを返送したのではあるが)も、また、原判決の確定
するところである。であるから被上告人は、その頃本件物件に対して、自創法に基
く買収計画が立てられ、かつ買収処分がなされたことを知り得べき状態におかれた
ものと解すべきであるにかかわらず被上告人はこれ等に対して、前叙のごとき、異
議、訴願、出訴等一切の不服申立の方法を採らなかつたことはまた原判決の確定し
た事実関係から推知せられるところである。そもそも、自創法が右処分に対する不
服について異議、訴願を出訴に前置し、かつ同法四七条の二が同法による行政処分
の取消変更を求める訴において比較的短期間の出訴期間を定めたのは、右処分に関
する争訟をなるべく速かに解決し、いわゆる農地改革を急速に実現しようとする意
図に出でたものであることは疑のないところであつて、右出訴期間を徒過した後に
おいては本件のごとき事由にもとづいて買収計画若しくは買収処分の違法はもはや
これを主張することをゆるさない趣旨と解するを相当とする。即ち、かかる訴の提
起のない以上、かりに買収手続に以上のごとき瑕疵があつても買収処分はその効力
を失わず、農地は、適法に国の所有に帰属するものと解するを相当とする。(昭和
二四年(オ)第一七七号、同二五年九月一九日第三小法廷判決参照)
 従つて右のごとき違法を理由として、本件買収処分並びに売渡処分の無効を主張
する被上告人の本訴請求は、これを棄却すべきであるにかかわらず、原審が右被上
告人の請求を容れて本件買収処分並びに売渡処分の無効を確認する旨の判決をした
のは自作農創設特別措置法に関する法令の解釈を誤つたもので、論旨は理由あり、
原判決は破棄を免れない。
 よつて、民訴四〇八条、三八四条、九六条、八九条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は、霜山裁判官、谷村裁判官を除く全裁判官一致の意見によるものであ
る。
 谷村裁判官の少数意見は次のとおりである。
 多数意見が、本件買収計画及び買収処分は買収当時における所有者である被上告
人に対してなされず、既に死亡せるその前所有者で登記簿上の名義人であるDに対
してなされたことを違法とする点は、引用にかゝる大法廷判決の判旨に従つたもの
であり、もとより私も同意見である。
 然るに多数意見は、この違法を認めながら、所有者は自作農創設特別措置法(以
下自創法と略称す)に基き買収計画に対し異議の申立、訴願の提起ができ、訴願裁
決に不服ある者は自創法四七条の二に定める期間内に裁決の取消変更を求める訴を
提起することができ、また買収計画に対する訴を提起しなかつた場合においても違
法な買収計画に基いてなされた府県知事の買収処分に対して、処分取消の訴を提起
することもできるのである。そして本件買収計画については、同法所定の公告がな
され、また買収令書は上告人から訴外Eを被上告人の代人として交付され、さらに
右Eから被上告人に送付されたのであるから、被上告人は当時本件物件に対して買
収計画が立てられ、かつ買収処分がなされたことを知り得べき状態にあつたものと
解すべきにかゝわらず、被上告人はこれに対し異議、訴願、出訴等一切の不服申立
の方法を採らなかつたのであるから、たとえ買収手続に瑕疵があつても買収処分は
有効であつて、出訴期間を経過した後においては、その違法を主張することは許さ
れないというのである。
 しかしながら多数意見はその前提において、本件買収計画及び買収処分は其の所
有者に対して行はれなかつたが故に違法であるとの見解に立ちながら、この違法は
単に買収手続に瑕疵があるに過ぎないとなし、そして自創法に定めた不服申立の手
続を採らなかつた以上本件買収処分は有効であるとの見解を採つているが、この見
解は自創法に定めた不服申立期間の経過というだけの理由で、本来無効である買収
計画や買収処分に対し法律上の効力を附与する不合理な結果を生じ、当然無効な行
政処分の本質を無視した見解であるといわねばならない。いうまでもなく自創法に
よる農地の買収は、その農地が不在地主の所有地であるかどうか、もしくは在村地
主の保有限度外の農地であるかどうか等買収の要件に該当するかどうかを調査判断
して行われるものであるから、もしこれ等の調査判断が所有者でないものを対象と
してなされたときは、真実の所有者に対する関係においては買収計画の要素をなす
条件の調査判断を欠如し、その買収計画は違法であり無効であることは多言を要し
ないのである。従つてかゝる無効の買収計画に基いてなされた買収処分もまた無効
であつて、かような当然無効の行為が自創法の定める出訴期間が経過したという一
事によつて有効になるという解釈は到底許されないのである。
 多数意見が自創法四七条の二が訴の提起につき短い出訴期間を定めたのは農地買
収に関する争訟を速かに解決し、自創法の目的とする農地改革を実現しようとする
意図に出たものであるといつていることは首肯できるが、その故を以て本件のよう
な行政処分が当然無効である場合にあつてもなお出訴期間内に訴訟を提起しなけれ
ばその処分が有効化し真実の所有者が所有権を喪失するに至るというような解釈は
法理上到底許されないのである。しかるに自創法が急速広汎に行われる使命を持つ
という政策的の理由があるからといつて自創法四七条の二の規定が、行政庁が誤つ
てなしたしかも当然無効である行政処分についても、出訴期間が経過したとの理由
でこれを有効とし行政処分の対象とならなかつた所有者の所有権を喪わしめる見解
を採ることは、多数意見が余りに政策的考慮に捉われ無効な行政処分の本質を忘れ
て本来存在しない虚無の行政処分に法律上の効果を認め――無から有を生ずるよう
な――その結果国民の財産権を侵害する事態を招来することになるのであり、かよ
うな見解には到底左袒することはできないのである。
 本件につき原審の認定した事実によれば、本件買収計画書、縦覧に供した書類及
び買収令書には所有者として死亡者であるDを表示しあり、控訴人(被上告人)は
右Dの養子ではあるが以前から東京都に居住し、本件物件の所在地であるa村b村
のいずれにも住所を有していないことは当事者間に争がなく控訴人(被上告人)に
おいて、本件物件の所有者をDとしてなされた買収計画並びに買収処分がいずれも
自己を目指してなされたものであることを、その当時知り、又は知り得べかりしこ
とについてはこれを認めるに足る証拠がない、また買収令書は処分後相当期間を経
て訴外人Eを控訴人(被上告人)の代人として同人に交付されたが、控訴人(被上
告人)は右訴外人に本件買収令書の交付を受けるについての権限を委託したことが
なかつたので、これを右Eに返還し、その後現在に至るまで控訴人(被上告人)に
対し正式に買収令書の交付された事実を認めるに足る証拠はないと判示している、
かような事実が原審において認定されているにもかゝわらず多数意見は「被上告人
はその頃本件物件に対して自創法に基く買収計画が立てられかつ買収処分がされた
ことを知り得べき状態におかれたものと解すべきである」といつているのは、単な
る推定によつて、証拠に基いて原判決の認定した事実に反する判断を示したことに
なり、独断の譏を免れないであらう、そして原判決認定のような事実関係にある本
件の場合において、出訴期間経過のため行政処分の無効を主張して救済を求めるこ
とができないとする多数意見に従えば実質上の所有者はその不知の間に自創法上与
えられた異議、訴願、訴訟等による救済手段を奪われたうえ更に権利救済の途を断
たれ行政庁の違法な処分によつて所有権を喪うという重大な結果を押し付けられる
こととなり、憲法二九条の精神にも反することとなるのである。
 以上の理由により私は多数意見に賛同することはできないのである、よつて本件
に対する原判決は正当であり本件上告は理由なきものとして棄却すべきである。
 霜山裁判官の少数意見は次のとおりである。
 谷村裁判官の少数意見に同調するものである。なお無権利者に対する農地買収処
分の無効であることについては昭和二五年(オ)第二八〇号事件の判決における私
の少数意見と同趣旨である。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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