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平成30年12月20日判決言渡
平成30年(行コ)第10001号手続却下処分取消請求控訴事件(原審:東京
地方裁判所平成29年(行ウ)第363号)
口頭弁論終結日平成30年10月23日
判決
控訴人(一審原告)ジボダンエスエー
特許管理人岡﨑紳吾
補佐人弁理士葛和清司
被控訴人(一審被告)国
処分行政庁特許庁長官
指定代理人川端裕子
茂泉尚子
近野智香子
小野和実
小野隆史
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め
る。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2特許庁長官が特願2014-559111号について平成27年8月6日付
けでした,平成26年8月29日付け提出の国内書面に係る手続の却下の処分
を取り消す。
3特許庁長官が特願2014-559111号について平成29年4月27日
付けでした,平成27年7月24日付け提出の出願審査請求書に係る手続の却
下の処分を取り消す。
4特許庁長官が特願2014-559111号について平成29年4月27日
付けでした,平成27年7月24日付け提出の手続補正書に係る手続の却下の
処分を取り消す。
第2事案の概要(以下,略称は原判決に従う。)
1本件は,控訴人が,「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特
許協力条約」(特許協力条約〔PCT〕)に基づいて行った国際特許出願(本
件国際特許出願)について,特許庁長官に対し,特許法184条の5第1項に
規定する書面並びに同書面に添付して特許法184条の4第1項に規定する明
細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文(明細書等翻訳文)を
提出し(本件翻訳文提出手続),また,本件国際特許出願について手続補正書
及び出願審査請求書を提出したところ(本件手続補正書提出手続及び本件出願
審査請求書提出手続),特許庁長官から上記各書面に係る手続の却下処分(本
件却下処分1ないし3)を受けたことから,各処分の取消しを求める事案であ
る。
各処分の理由の要点は,①控訴人が特許法184条の4第1項が定める国内
書面提出期間内に明細書等翻訳文(本件翻訳文)を提出することができなかっ
たことについて正当な理由があるとはいえず,特許法184条の4第4項(平
成27年法律第55号による改正前のもの。以下同じ。)に規定する要件を満
たさないから,同書面に係る手続は却下すべきであり(本件却下処分1),②
本件国際特許出願は,本件翻訳文の回復理由が認められなかったことにより取
り下げられたものとみなされることになり,したがって,本件手続補正書提出
手続及び本件出願審査請求書提出手続は,客体のない出願について提出された
不適法な手続であるから,却下すべきである(本件却下処分2及び3)という
ものである。
原審において,控訴人は,①国内書面提出期間内に明細書等翻訳文の提出が
なかった場合の効果として取下擬制を定める特許法184条の4第3項の規定
と,同期間内に国内書面が提出されなかった場合を補正命令の対象としている
同法184条の5第2項の規定は,補正命令を受ける機会の付与について,形
式上は言語によって異なる取扱いをしているが,実質的には外国国民が受ける
利益と日本国民が受ける利益との間に大きな不平等を生じさせている(日本語
で出願された国際特許出願の出願人は,国内書面を国内書面提出期間内に提出
しなくても補正命令を受ける機会が与えられるのに対し,外国語特許出願の出
願人は,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなければ当該出願を取
り下げたものと擬制され,補正命令が受けられない。)が,上記取扱いの差異
は,パリ条約2条及びTRIPS協定3条が定める内国民待遇の原則に違反す
るものであって効力を有しない,②控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻
訳文を提出しなかったことについては,特許法184条の4第4項所定の「正
当な理由」があると認められるべきである,などと主張して,本件却下処分1
ないし3の取消しを求めたが,原判決が控訴人の請求を全部棄却したことから,
これを不服として控訴人が控訴した。
2特許法の定め(特許法184条の4及び同条の5)の摘記及び前提事実(当
事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
は,原判決「事実及び理由」の第2の1及び2(原判決2頁19行目から6頁
8行目まで)に記載のとおりであるから(ただし,原判決3頁12行目の「経
済産業省令で定める期間内」を「その理由がなくなった日から2月以内で国内
書面提出期間の経過後1年以内」に,原判決4頁24行目の「翻文」を「翻訳
文」に改める。),これを引用する。
3争点及び争点に関する当事者の主張
次項のとおり,当審における控訴人の主張を補充するほかは,原判決「事実
及び理由」の第2の3及び4(原判決6頁9行目から17頁4行目まで)に記
載のとおりであるから(ただし,原判決7頁18行目の「付与ついて」を「付
与について」に,原判決13頁11行目の「送信」を「受信」に改める。),
これを引用する。
4当審における控訴人の主張
(1)争点(1)(特許法184条の4第3項及び同法184条の5第2項の規定が
内国民待遇の原則に違反するか)に関し
原判決は,次のとおり,上記各規定について形式的な解釈をするにとどま
り,控訴人が主張立証した実際の運用における内外人不平等の実態を考慮し
ないばかりか,その形式的な解釈を正当化するためにおよそ非現実的な想定
をして判断しているから,理由不備ないし判断遺脱があるものとして是正さ
れるべきである。
ア原判決は,「法184条の5第2項は,国際特許出願について,国内書
面を国内書面提出期間内に提出しないときに補正を命じることができる旨
を定めているのであって,ここに国籍又は言語による取扱いの差異は存在
しない。」と判示する。
しかし,特許法184条の5第2項の規定自体は日本語特許出願であろ
うと外国語特許出願であろうと補正命令の対象とする規定振りになってい
るものの,外国語特許出願に対しては,特許法184条の4第3項の規定
によりみなし取下げとなるため,事実上,特許法184条の5第2項1号
の適用はない。日本国特許庁による特許法184条の5第2項の規定の運
用においては,日本語特許出願の出願人が日本国特許庁に対する手続を全
く行っていない場合であっても同項の規定に基づいて補正命令をするのに
対し,外国語特許出願の出願人が日本国特許庁に対する手続を全く行って
いない場合,明細書等翻訳文不提出による取下擬制を理由に同項の規定に
基づく補正命令をしないものとされている。
このように,特許法184条の5第2項の文言上は,国籍又は言語によ
る取扱いの差異が存在しないとしても,少なくとも言語による取扱いの差
異はその規定振りに基づき現実に存在するのであり,かかる差異を考慮し
ない原判決は誤っている。
イ原判決は,「国籍による取扱いの差異は存在しない」とする理由として,
「国際特許出願のうち,外国語特許出願については,内国民であっても外
国語特許出願を行えば,当然に明細書等翻訳文の提出が必要となるのであ
り,他方,外国国民であっても日本語で国際特許出願を行えば,明細書等
翻訳文の提出は不要であり,特許法184条の4第3項において国籍によ
る取扱いの差異はない。」と判示する。
しかし,かかる判示は,外国国民にとっての日本語選択と内国民にとっ
ての外国語(特に英語)選択とに圧倒的な難易度の差がある(出願に際し
て日本国民が外国語を用いるよりも,外国国民が日本語を用いる方が困難
を伴う)という事実を無視するものであり,現実的でない。原判決は,日
本国民が外国語で国際特許出願を行うことができることと同様に,外国国
民が日本語で国際特許出願を行うことができるという非現実的な前提に立
つものであって,日本国特許庁に日本語特許出願又は外国語特許出願とし
て国内移行されるPCT出願の出願人国籍と同出願で用いられる言語の実
態を全く無視した失当のものである。
また,このことは,特許法184条の4第3項の規定についてのみでな
く,特許法184条の5第2項の規定における言語による取扱いの差異に
ついても同様に当てはまるから,手続補正命令についての日本語特許出願
の出願人と外国語特許出願の出願人との間での事実上の異なる取扱いは,
実質的には内国民と外国国民との間での異なる取扱いに該当するというべ
きである。
ウ原判決は,「明細書等翻訳文の提出が必要とされる理由と国内書面の提
出が必要とされる理由は異なり,明細書等翻訳文提出手続と国内書面提出
手続は別個に行うことができる異なる趣旨の別個の手続である。外国語特
許出願の出願人も,期間内に明細書等翻訳文を提出したが,別個の趣旨に
基づく別個の手続に関する国内書面を提出しなかった場合には,補正命令
を受ける機会がある。」などと判示する。
しかし,原判決が指摘する「機会」は,期間内,すなわち,優先日から
30月以内に明細書等翻訳文を,国内書面を伴わずに提出した場合のみに
与えられる機会であるところ,最大32月の明細書等翻訳文提出期間を享
受できる現行特許法の体系の中で,なぜ,30月を境に,国内書面の有無
のみによって補正命令かみなし取下げかの違いを設けなければならないの
か,その反射的な効果として,国内移行の手続をしなかった内国民と外国
国民との間で,前者に対しては補正命令,後者に対してはみなし取下げと
いう,明らかな内外人差別の扱いが許容されるのかという点について,何
ら説明がない。
また,国内書面は,特許法184条の4第1項ただし書において,明細
書等翻訳文よりも前に提出することが想定されているところ,実務におい
ても,明細書等翻訳文と同時に提出するかその前に提出するのが一般的で
あって,明細書等翻訳文を国内書面よりも前に提出することはおよそ想定
され得ないにもかかわらず,原判決は,国内書面提出手続と明細書等翻訳
文提出手続との前後関係についてあえて非現実的な想定をした上で内外人
に対する取扱いを正当化するものである。
本件は,PCTの手続上内外人のいずれもが通過しなければならない手
続である国内移行手続の懈怠に対し,外国語特許出願の出願人(実質的に
は外国国民)であるということのみをもって,日本語特許出願の出願人(実
質的には内国民)にはない,特許法184条の4第3項の規定に基づくみ
なし取下げの扱いを受けたものであり,しかも,その後の特許法184条
の4第4項の規定に基づく運用としても,その権利の回復が認められなか
ったという事例である。日本語特許出願の出願人であれば,国内移行手続
を懈怠したとしても手続補正命令を受けることができ,その時点で国内書
面を提出すれば出願の権利を失うことはないのであるから,ここに,日本
語特許出願の出願人と外国語特許出願の出願人との間に大きな取扱い上の
差が存在しているといわざるを得ない。
エさらにいえば,平成6年の特許法一部改正において,外国語特許出願の
審査について,国際出願日における明細書等に記載されていない事項が翻
訳文で追加されている場合にはこれを拒絶できるように改正し,いわゆる
「翻訳文原本主義」から「原文原本主義」に変化したともいえるから,現
行特許法においては,そもそも外国語特許出願について翻訳文が提出され
て初めて出願としての地位が与えられるなどといった旧態然とした考え方
に拘泥する理由はなく,現行特許法の体系の中で,優先日から30月を経
過した時点において翻訳文が提出されていないとしても外国語特許出願を
取下擬制する必然性はない。内外人にかかわらず,国内移行の期限が優先
日から30月であることを知りながら,意図しない懈怠によりこれを行わ
ない場合が等しく想定される中で,日本語特許出願の出願人のみ手続補正
命令により簡単に救われるのに対し,外国語特許出願の出願人には特許法
184条の4第4項所定の「正当な理由」が証明されない限り,権利が消
滅してしまうという取扱いは,内外人不平等の取扱い以外の何物でもない。
国内移行の手続において内外人の扱いを平等にするためには,上記の手続
補正命令を外国語特許出願の出願人を含め一律に発することのできる制度
運用にすべきことは明らかである。
また,仮にそのような制度運用を実施するに当たって特許庁に負担と困
難が生じるとしても,内外人平等の原則に反する状態を放置しておくこと
は正当化できないから,特許法184条の4第4項の運用(同項が定める
「正当な理由」の解釈適用)でその不平等を是正すべきである。
以上のとおり,明細書等翻訳文提出手続及び国内書面提出手続はいずれ
も,優先日から原則30月以内に行うべき国内移行手続であって,少なく
ともその意図しない懈怠に対する扱いにおいても,権利の維持消滅に重大
な影響を及ぼす以上内外人不平等の扱いがあってはならず,また,特許法
184条の4第4項における「正当な理由」の解釈及び適用においても内
外人平等の原則を踏まえるべきであるところ,原判決は,これに反して明
細書等翻訳文提出手続と国内書面提出手続とが別個の手続であるとの形式
的な理由により,実態として生じている内外人不平等を黙認するものであ
るから,その判断には誤りがある。
(2)争点(2)(控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかった
ことについて,特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるか)
に関し
原判決は,①前記のとおり,特許法184条の4第4項所定の「正当な理
由」の解釈適用において内外人不平等の実態を踏まえておらず,②メールの
誤送信があったという事実のみをもって「正当な理由」がなかったと断じる
に等しく,出願人による手続の過誤に対して救済を与えることをその趣旨と
する特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」の解釈適用としては不
当であり,③PCTにおける国際的なハーモナイゼーションの要請に反して
「正当な理由」を過度に厳格に解釈適用するものであるから,理由不備ない
し判断の遺脱があるものとして,是正されるべきである。
上記③に関し,欧州特許庁の審決例(甲29の1・2)は,特許法184
条の4第4項所定の「正当な理由」として採用された「duecare」の解釈に
ついて,期間徒過後に権利の回復が認められるべき「isolatedmistake」(単
発的な過誤)を認めた例であるが,かかる欧州における「duecare」の解釈
が,日本国における特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」の解釈
においても採用されるべきことは,控訴人が原審で主張したとおりであり,
PCT規則においても同様に規定されるPLT12条所定の「duecare」(相
当な注意)については,国際調和のもと各国で同じ基準が採用されるべきで
あるところ,原判決は,欧州特許庁における「duecare」の解釈を踏まえず
に,特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」を過度に厳格に解釈し
て本件に適用するものであるから,理由不備ないし判断の遺脱がある。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,本件却下処分1ないし3に控訴人主張の違法があるとは認めら
れず,控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。
その理由は,次項のとおり原判決を補正し,第3項のとおり当審における控
訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第3の1
ないし3(原判決17頁6行目から24頁1行目まで)に記載のとおりである
から,これを引用する。
2原判決の補正
(1)原判決20頁9行目に「本件プライベートメール」とあるのを,「本件プ
ライベートアドレス」に改める。
(2)原判決22頁7行目に「受信の有等を」とあるのを,「受信の有無を」に
改める。
(3)原判決23頁18行目から19行目にかけて「翻訳文等翻訳文」とあるの
を,「明細書等翻訳文」に改める。
3控訴人の主張について
(1)争点(1)(特許法184条の4第3項及び同法184条の5第2項の規定が
内国民待遇の原則に違反するか)に関し
控訴人は,るる事情を述べて,特許法184条の4第3項及び同法184
条の5第2項の規定が内国民待遇の原則に違反すると認めなかった原判決の
判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,原判決が指摘するとおり,明細書等翻訳文提出手続と国内
書面提出手続とは,飽くまで異なる趣旨に基づく別個の手続なのであるから,
これらの異なる手続の比較を前提とした控訴人の主張には,根本的な誤りが
ある。控訴人は,実態を踏まえた実質的な比較をすべきだとして種々主張す
るけれども,比較の対象とはならないものを比較するという誤った前提に立
っている以上,その主張を採用する余地はない。
なお,控訴人の主張を特許法184条の4第3項の規定それ自体の合理性
ないし条約適合性を問題とするものと解したとしても,その主張を採用する
ことはできない。すなわち,外国語特許出願の出願人に対し明細書等翻訳文
の提出を義務付ける特許法184条の4第1項の規定や,所定の期間内に明
細書等翻訳文の提出がなかった場合,その国際特許出願は取り下げられたも
のと擬制する特許法184条の4第3項の規定は,それぞれ,特許協力条約
22条(1)及び24条(1)(ⅲ)に基づくものである(同条約22条(1)は,国際
出願の出願人に対し優先日から30か月を経過する時までに「所定の翻訳文」
を提出することを義務付けており,同条約24条(1)(ⅲ)は,出願人が当該翻
訳文の提出を期間内にしなかった場合,指定国において,当該指定国におけ
る国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅するものと定めている。)。
そして,同条約24条(2)は,同条(1)の規定にかかわらず,指定官庁は国際
出願の効果を維持することができる旨定めているが,これは,同条約の締結
国が,翻訳文の提出がない場合の国際出願の効果について,同条約24条(2)
を採用するか否かを各締結国に委ねる趣旨であることが明らかである。この
ように,特許法184条の4第3項は,特許協力条約の定めに従って規定が
されたものであり,それ自体としては何ら同条約に違反するものではない。
また,外国語特許出願の出願人に対し明細書等翻訳文の提出を義務付ける
特許法184条の4第1項の規定は,内国民と外国国民を区別しておらず(内
国民であろうと外国国民であろうと,外国語特許出願を行えば,当然に明細
書等翻訳文の提出が必要となる。),所定の提出期間内に明細書等翻訳文の
提出がなかった場合,その国際特許出願は取り下げられたものと擬制する特
許法184条の4第3項の規定も,何ら内国民と外国国民との間でその取扱
いを異にするものではなく,内国民と外国国民とを同列に扱っているといえ
るから,それ自体が,内国民待遇の原則に反するということもできない。
以上によれば,争点(1)に関する控訴人の主張は理由がない。
(2)争点(2)(控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかった
ことについて,特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるか)
に関し
控訴人は,特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」に関する原判
決の解釈適用が誤っていると主張し,その理由として,原判決の判示は,①
内外人不平等の実態を踏まえていない,②メールの誤送信があったという事
実のみをもって「正当な理由」がなかったと断じるに等しい,③PCTにお
ける国際的なハーモナイゼーションの要請に反する,などと主張する。
しかしながら,上記①について,そもそも異なる手続を同列に扱って内外
人による手続の差異がある(内外人不平等の実態がある)と指摘する控訴人
の主張自体失当であるから,控訴人が主張する上記①の点は理由がない。
また,上記②について,控訴人は,本件代表アドレスと本件プライベート
アドレスの二つのメールアドレスを認識していたが,そのうちの一つは連絡
の際に使用してはならないものであったというのであるから,控訴人として
は,そもそもそのようなアドレスが使われないよう配慮すべきであったし,
仮に何らかの事情から上記アドレスも使用可能にしておく必要があったので
あれば,本件控訴人補助者に対し,宛先として正しいメールアドレスを選択
するよう,適切に管理,監督する必要があったにもかかわらず,そのような
管理,監督をしていたとは認められないこと等の事情に照らしてみれば,控
訴人は,本件の誤送信防止について,相当な注意を尽くしていたとはいい難
い。原判決も,このような観点から,「正当な理由」があったとはいえない
と結論付けているのであって,メールの誤送信があったという事実のみをも
って「正当な理由」がなかったと即断している訳ではない。したがって,控
訴人が主張する上記②の点も理由がない。
さらに,上記③の点,すなわち,PCTにおける国際的なハーモナイゼー
ションの要請に反するとの控訴人の主張に関しても,①PLT12条は,飽
くまで「DueCare」(相当な注意)又は「Unintentional」(故意ではない)
のいずれかを選択することを認めているのみであって,各要件について特に
基準を設けてはおらず,その解釈及び適用については,各締結国に委ねられ
ているものと解されるところ,②平成23年改正法で新設された特許法18
4条の4第4項は,国際調和の観点のみならず,ユーザーの利便性や第三者
の監視負担にも配慮しつつ,「DueCare」(相当な注意)を採用したものと
解されること(甲18)からすれば,特許法184条の4第4項所定の「正
当な理由」について,欧州特許庁などと全く同一の基準を採用しなければな
らないとする理由はない。したがって,原判決が,これらの立法に関する経
緯や制度趣旨を踏まえて,同項における「正当な理由があるとき」を,「特
段の事情のない限り,国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。)として,
相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内書面提出期間
内に明細書等翻訳文を提出することができなかったとき」をいうものと解し
たのは,正当である。
そして,控訴人が上記の意味での相当な注意を尽くしたとはいい難いこと
は,既に説示したとおりなのであるから,結局,控訴人が主張する上記③の
点も理由がない。
以上によれば,争点(2)に関する控訴人の主張も理由がない。
第4結論
以上の次第であるから,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であ
り,控訴人の本件控訴は理由がない。
よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
寺田利彦
裁判官
間明宏充

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