弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原判決中控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を取り消す。
被控訴人(附帯控訴人)の請求を棄却する。
本件附帯控訴を棄却する。
訴訟費用(附帯控訴費用を含む)は第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担
とする。
       事   実
 控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という。)指定代理人は、主文同旨の判決を
求め、被控訴人(附帯控訴人、以下被控訴人という。)代理人は、「本件控訴を棄
却する。原判決中被控訴人敗訴の部分を取り消す。控訴人が昭和四一年四月一四日
付をもつて被控訴人に対してなしたところの(一)被控訴人の昭和三九年一〇月一
日から昭和四〇年九月三〇日までの事業年度分法人税の所得金額を一五、七九四、
六九八円とする更正決定中七、七九一、六九八円をこえる部分、(二)過少申告加
算税額を一七三、一五〇円とする賦課決定中三八、〇五〇円をこえる部分は、いず
れもこれを取り消す。控訴人が昭和四一年四月一四日付をもつて被控訴人に対して
なしたところの(一)被控訴人の昭和四〇年分源泉徴収にかゝる所得税額を三、三
七二、一三〇円とする徴収処分中三、四八〇円をこえる部分、(二)不納付加算税
額を三三六、八〇〇円とする賦課決定は、いずれもこれを取り消す。訴訟費用は、
第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を、求めた。
 当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と
同一であるから、こゝにこれを引用する(ただし、原判決二二枚目裏下段七行目
「借地法第六五条の四」とあるを「同法第六五条の四」と訂正する。)。
 被控訴代理人は、次のとおり述べた。
一、昭和四〇年当時静岡市長沼町付近の土地の新規賃貸借の場合の年額賃料は、更
地価格の四%ないし五%であるところ、被控訴人が訴外Aから新たに賃貸借を受け
た土地の年額賃料は、更地価格の約三%であつて、二%の差額が生じたのは、被控
訴人の既得権を前提とした故にほかならない。従つて、被控訴人が右長沼町所在の
土地につき新たに賃貸借を受けたことにより本件土地の賃借権割合に影響する経済
的利益を受けている。
 そもそも本件土地の売却は、訴外静岡鉄道が新静岡センタービルの建設とバス発
着所の拡大のため数年前から訴外Aに売却方を求めていたのであるが、他方被控訴
人にとつては、本件土地は倉庫及び空ビン用地として不適当であり、近々のうちに
事業経営上有利な郊外地に移転する必要があつたので、被控訴人の代表者Aは、第
一に被控訴人の事業経営上の利便を考慮し、右訴外会社が長沼町の土地を提供する
ことを条件に本件土地の売却に応じたものであり、このため右訴外会社は、右長沼
町の土地を取得して訴外Aに売却したのである。即ち訴外Aとしては、被控訴人に
右長沼町の土地を代替地として使用させるため本件土地を右訴外会社に売却したの
である。
二、昭和四〇年相続税財産評価基準によれば、被控訴人が新たに賃貸借を受けた前
記長沼町の土地についてもすでに借地権の評価割合が四〇%と定められているか
ら、控訴人自らが右土地について借地権割合のあることを認めている。
 なお、右借地権評価額一二、六七三、九九四円と被控訴人が借地権の代価として
すでに取得した二二、三八九、〇〇〇円とを合計すれば、三五、〇六二、九九四円
となり、本件土地の売買代金の約四七%となる。
控訴人指定代理人は、次のとおり述べた。
一、1、国税通則法第二四条、第二六条に規定する調査とは、課税標準等または税
額等を認定するに至る一連の判断過程を意味するものである。即ち、当該処分に至
る一連の課税庁の証拠資料の収集及び評価、課税標準等または税額等の認定等を含
むものと解される。第三次更正が課税庁の一連の調査により行われている以上、同
法第二六条に違反することはない。
2、税務署長は、適正な課税を確保実現するため、更正に対して再更正権を行使す
べき権能と職責を有するのであつて、更正の瑕疵が実体関係に存すると手続関係に
存するとを問わず、又たまたま原更正が異議、審査に係属し、あるいは訴訟に係属
していると否とにより、右権利の行使に消長を来すものではないのであつて、本件
のように訴訟が係属している場合には、課税庁が敗訴を免れることになるとして
も、右再更正権の行使が権利の濫用とはならない。元来権利の濫用となるか否かの
判断については、相対立する利益の比較衡量を必要とする。本件についてこれをみ
るに、本件更正権の行使によつて更正の理由付記については被控訴人は敗訴を免れ
なくなるが、本件訴訟の中心的対象となつている課税標準額及び税額については第
三次更正について審理されるのであるから、被控訴人は、実体法上の不利益はほと
んど考えられない。他方第三次更正が違法として取り消された場合、被控訴人には
所得額が存在するにもかゝわらず、課税を免れることになり、課税の不公平を来す
ことになる。このように更正権を行使しえない場合の方が影響が大きいときには、
更正権の行使について権利濫用の法理を適用すべきではない。
二、本件土地に関する借地権の譲渡契約と被控訴人が主張する代替地の賃借契約
は、別個独立の契約であり、訴外Aが本件土地を静岡鉄道に売却する際、借地権割
合をきめるにあたつて、前記長沼町の土地を代替地として賃貸することは考慮して
いなかつたのである。
 右長沼町付近の土地について新規賃貸借でその年額賃料が更地価格の二%ないし
四%の例があり、従つて前記長沼町の土地の年額賃料割合が三%であるから、既得
権を前提とした賃料であるとの被控訴人の主張は理由がない。仮りに被控訴人の主
張のとおり昭和四〇年当時長沼町付近の土地の新規賃貸借における妥当年額賃料が
更地価格の四%ないし五%であるとしても、被控訴人は、係争年度終了後僅か三ヶ
月後において昭和四一年一月から月額七八、七八〇円より月額一五〇、〇〇〇円に
改訂しているのであつて、右割合は実に六%近くになる。従つて右三%であつた期
間は、僅か半年間であつた事実を勘案すれば、賃料比率を三%としたのは、暫定的
のものであつたことが容易に推認できる。
三、長沼町付近の土地を新たに賃貸する場合に、当事者間において権利金を授受す
る取引上の慣行がない以上、被控訴人が長沼町において土地を賃借するについて権
利金を出捐する必要がないことはいうまでもない。従つて被控訴人が本件土地につ
いて借地権の代価として取得した金員にその主張の長沼町の土地の借地権の評価額
を加算することの不当なことは明白である。
 なお、被控訴人は、控訴人が「権利金の授受がなければ借地権は発生しない。」
と主張したかの如く曲解しているが、借地権は権利金の授受とは関係がない。控訴
人は、被控訴人がその主張する代替地について権利金の授受をしていないから、代
替地を借受けたことにより本件土地の借地権割合に影響させる必要はないと主張し
ているのである。けだし、被控訴人は長沼町付近の土地であれば、権利金を支払う
ことなく第三者から賃借できるからである。
(証拠省略)
       理   由
一、更正処分等の経緯
 被控訴人のその主張の事業年度分法人税についての申告、更正処分及び過少申告
加算税賦課処分並びにその主張の年分の源泉徴収にかゝる所得税の徴収処分の経緯
に関する当事者間に争いのない事実は、原判決理由中の説示(二四枚目裏七行目か
ら二五枚目裏八行目まで)と同一であるから、こゝにこれを引用する。
二、第一次更正処分の取消しを求める訴えの利益の有無
 控訴人は、第一次更正処分は第二次更正処分により取り消されたのであるから、
そのとき以降第一次更正処分の取消しを求める訴えは、その利益を失うに至つたと
主張する。前記のとおり、控訴人は、第二次更正処分において、第一次更正処分を
取り消し、所得金額を被控訴人の確定申告額と同一額に減額する旨の決定をなし、
さらに更正の具体的根拠を明示して確定申告につき第一次更正処分とほゞ同額(所
得金額については同額、過少申告加算税額については五〇円減額)にする旨の第三
次更正処分をなしている。右事実関係のもとにおいては、第二次更正処分は、第三
次更正処分を行うための前提手続たる意味を有するにすぎず、また、第三次更正処
分も、実質的には、第一次更正処分の付記理由を追完したにとどまることは否定し
えないが、これらの行為も各々独立の行政処分であることはいうまでもなく、第一
次更正処分は、第二次更正処分によつて取り消され(その効力については後に判断
する。)、第三次更正処分は、第一次更正処分とは別個になされた新たな行政処分
であると解さざるを得ない。さらにまた、本件においては、前記のとおりその内容
においてほぼ同一の第三次更正処分の取消しも併せて求められているのであるか
ら、第一次更正処分の取消しを求める訴えは、第二次更正処分の行われた時以降、
その利益を失つたものというべきである。
三、第三次更正処分の取消事由の有無
(一) 被控訴人は、第二次更正処分の違法を理由として、第三次更正処分の違法
を主張するので、まず、この点について判断する。前記のとおり各更正処分の内容
及びそれに至るまでの経緯に徴すれば、第三次更正処分は、実質的には、第一次更
正処分の付記理由を追完する目的のみでなされ、第二次更正処分は、第三次更正処
分の前提手続としてなされたことは、明らかである。税務署長は、その更正をした
課税標準等又は税額等が過大であることを知つたときは、その調査により当該更正
に係る課税標準等又は税額等を再更正(減額更正)できるのであるが(国税通則法
第二六条)、本件における如く、手続上の瑕疵を理由に再更正することは、少くと
も法の予定しないところといわなければならない(更正処分に手続上の瑕疵が存し
ても、それ故に直ちに当該更正に係る課税標準等又は税額等が過大となるものでな
いことはいうまでもない。)。税務署長としては、第一次更正処分の付記理由につ
いて処分を違法ならしめる瑕疵を認めたときは、右更正処分の取消しをなしうるの
であつて、本件における如く、第一次更正処分に対する審査請求を棄却する旨の裁
決があつた後においても、右取消権の行使は妨げられないのである。成立に争いの
ない甲第九号証によれば、第二次更正処分は、更正の用紙を用い、更正処分の形式
をもつてなされているけれども、更正の理由として、「更正理由の付記に一部脱漏
があると認められますので取り消します。」と記載されていることが認められるの
で、第二次更正処分は、法人税法第一三〇条、国税通則法第二六条の予定する更正
処分にあたらないとしても、更正処分の取消しの方式について別段の規定のない現
行法のもとにおいては、少くとも第一次更正の取消処分の効力を有することは、明
らかである。してみれば、その余の点について判断するまでもなく、第二次更正処
分の違法を理由に、第三次更正処分が違法であるとする被控訴人の主張は理由がな
いものといわねばならない。
(二) 次に被控訴人は、控訴人の第三次更正処分をなした行為が更正権の濫用で
ある、と主張する。第一次更正処分と第三次更正処分との間には実質上の差異はな
く、第一次更正処分の取消訴訟係属中に第一次更正処分の付記理由を追完した第三
次更正処分をしたことは、前記のとおりである。一般に行政処分の取消訴訟係属中
においても、処分行政庁は、相手方当事者の主張する違法事由を全面的に認めて、
当該行政処分を取り消して、要件を充足すればあらためて行政処分をすることは、
何ら差支えがない。けだし、相手方当事者としては、あえて勝訴判決を受けなくと
も自己の主張が全面的に認められ、この面においては実質的には勝訴したと同様
で、なんら不利益を受けることがないからである。これに反して、処分行政庁が相
手方当事者の主張する違法事由の一部のみを認めて当該処分を取り消し、当該瑕疵
を追完して新たな行政処分をした場合においては、相手方当事者としては、行政庁
の取消しにより全面的に勝訴判決を受けたと同一の結果というわけにはいかず、残
余の違法事由に基づいて裁判上の救済をうるためには、訴えの変更あるいは新処分
取消請求の追加的併合等の手続をとらなければならなくなる。かゝる場合に処分行
政庁としては、判決の趣旨に従つてあらためて行政処分をなすにつき期間の制限等
の制約を受けないときは、訴訟係属中に当該処分を取り消すことなく、判決をまつ
ことが公正の見地からして相当である場合のあることも考えられるであろう。しか
しながら、本件の課税処分におけるが如く、税務署長が判決の趣旨に従つて瑕疵を
補正して新たな処分をしようとしても(しかも本件における如く、手続上と実体上
の違法事由が主張されている場合、判決において手続上の瑕疵が認められたとき
は、実体上の違法事由についての判断に至らない場合が多い。)、除斥期間の制約
を受けてもはや不可能となるおそれのある場合には、判決をまつことなく、一部違
法事由を認めて、処分を取り消し、瑕疵を補正して新たな処分をすることは、処分
の取消しと新たな処分とを繰り返すことにより訴訟手続上相手方当事者をして対応
措置をとるに苦しめよう等との特別の意図をもつてなされたものでないかぎり、課
税の公平の見地よりして当然の権限の行使として許されて然るべきものと考える。
けだし、相手方当事者に前記訴訟手続上の対応措置をとる煩を免れさせるために、
他方課税庁をして課税権行使の機会を失わせることは、両者の均衡を失する結果と
なるからである。
 なお、被控訴人は、もし、税務行政の運用において、控訴人の行為が認容される
ならば、第一次更正処分には法の要求を充たさない簡単な理由を付記し、訴訟に及
んだものに対してのみ法の要求を充たす程度の理由を示すという税務行政が行なわ
れても、これを否定できないと主張するが、これは被控訴人の単なる憶測にすぎ
ず、本件における控訴人の行為を認容した場合に、被控訴人の主張する如き税務行
政の運用が行なわれるおそれがあると認めることはできない。
 してみれば、前記特別の意図をもつて第二次更正処分及び第三次更正処分をなし
たものと認むべき証拠のない本件においては、控訴人の第三次更正処分をなした行
為をもつて更正権の濫用ということはできない。
(三)1、被控訴人は、訴外A(当時被控訴人の代表取締役)所有の本件土地を賃
借し、同地上に本件建物を所有して事業の用に供していたところ、静岡鉄道から右
物件について買入れの交渉があり、昭和四〇年三月三日、被控訴人は、本件建物及
び借地権を二二、三八九、〇〇〇円として、又訴外Aは、本件土地を五二、二四
一、〇〇〇円として、いずれも静岡鉄道に売渡したこと、被控訴人の譲渡価額は、
Aの譲渡価額との合計額七四、六三〇、〇〇〇円の三〇%にあたること、静岡鉄道
は、本件土地を更地として利用する目的であつたので、本件建物は、買受後直ちに
取り毀すべく、その買受代金の内訳については、被控訴人及びAの云い値どおりで
それぞれ買い受けたものであること、控訴人は、被控訴人、静岡鉄道間の本件建物
及び借地権の売買につき前記代金に八、〇〇三、〇〇〇円を加算した金額をもつて
売買が行なわれたものとして、被控訴人の所得計算上右金額を加算して更正処分を
したこと、はいずれも当事者間に争いがない。
 控訴人は、被控訴人は法人税法第二条第一〇号に定める同族会社であるところ、
被控訴会社の前記行為計算を容認した場合には、法人税の負担を不当に減少させる
結果となると認められるので、法人税法第一三二条に基づき、その行為計算を否認
したと主張するので、その当否につき検討する。
2、まず、被控訴人が法人税法第二条第一〇号に定める同族会社に該当することに
ついては、被控訴人の自認するところである。
3、次に、当裁判所も本件土地の借地権割合については、被控訴人の計上した三〇
%は、異常に低廉であつて、少くとも四〇%を下らないと判断するものであつて、
その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由中の説示(原判決二九枚目裏一
〇行目から三三枚目裏一行目まで)と同一であるから、こゝにこれを引用する(た
ゞし、原判決三二枚目裏六行目「原告」を「原本」と訂正する。)。
(1) 原判決三二枚目裏末行「支払つていることが認められる。」の次に、「さ
らに成立に争いのない乙第四四号証の一ないし三、当審における被控訴人代表者尋
問の結果によれば、右賃料は、昭和四一年一月から月額一五〇、〇〇〇円(取得価
額に対する年額賃料の割合は、五・六八%となる。)に改訂されたことが認められ
る。」を加える。
(2) 原判決三三枚目表末行「とうていできない。」の次に、「被控訴人は、右
長沼町付近の土地の新規賃貸借の場合の年額賃料は更地価格の四%ないし五%であ
るところ、被控訴人の借受けた土地の年額借料の更地価格に対する割合は三%であ
るから、右は既得権を前提としたものであり、右賃貸借により本件土地の賃借権割
合に影響する利益を受けていると主張し、前掲乙第三九号証中には、右長沼町付近
の土地の新規賃貸借の場合年額賃料の更地価格に対する割合につき右主張にそう記
載もあるが、右乙第三九号証及びいずれも成立に争いのない乙第四一ないし第四三
号証を総合すれば、同町付近の土地の新規賃貸借につき年額賃料の更地価格に対す
る割合が二%ないし四%である例も認められ、従つて、被控訴人の賃料も必ずしも
既得権を前提としたものとはいゝえないのみならず、前認定の如く、翌四一年一月
から五・六八%に改訂されているのであるから、被控訴人の右主張は理由がない。
さらにまた、被控訴人は、昭和四〇年相続税財産評価基準によれば、被控訴人が借
受けた長沼町の土地についてもすでに借地権の評価割合が四〇%と定められている
から、右土地の賃貸借により右評価割合に相当する経済的利益を受けているとも主
張するが、被控訴人が借受けた長沼町の土地につき借地権の評価割合が決定されて
いても、前認定のとおり同町付近の土地を新たに賃貸借する場合に権利金授受の取
引慣行がない以上、被控訴人が右土地を賃借するについて権利金を出捐する必要は
なく、従つて、右賃貸借により本件土地の借地権割合に影響を及ぼすべき経済的利
益を受けているものということはできない。」を加える。
4、してみれば、本件土地の正当な借地権割合、即ち静岡鉄道の総買受価額から後
記本件建物の価額を控除した残額の四〇%相当額二九、四九二、〇〇〇円と本件建
物価額九〇〇、〇〇〇円(いずれも成立に争いのない甲第八号証、乙第四〇号証、
原審証人Bの証言によつて妥当なものと認める。)の合計額三〇、三九二、〇〇〇
円は、本来被控訴人が取得すべきものであるが、それが被控訴人主張の如き低廉な
価額で売買されたのは、前記のとおり、静岡鉄道が、買受代金の内訳については被
控訴人とAの云い値どおりでそれぞれ買受けたからである。
 従つて被控訴人の行為計算を容認するときは、不当に法人税の負担を免れしめる
結果となることは明らかであるから、右行為計算を否認して正当な借地権価額と被
控訴人計上額との差額八、〇〇三、〇〇〇円を被控訴人の所得に加算してなした本
件更正処分には違法はない。それに伴う法人税額及び過少申告加算税額について
は、成立に争いのない甲第一〇号証及び弁論の全趣旨によりこれを認めることがで
きる。
(四) よつて本件第三次更正処分には、手続上も実体上も何ら違法の瑕疵はな
い。
四、本件徴収処分の取消事由の有無
(一) 前記認定のとおり本件土地の正当な借地権割合は四〇%であるから、土地
所有者であるAの取得金額は、本件土地の売買代金七三、七三〇、〇〇〇円の六〇
%相当額四四、二三八、〇〇〇円であるところ、現実には同人は、前記のとおり五
二、二四一、〇〇〇円を取得しており、右差額八、〇〇三、〇〇〇円は、本件土地
の売買代金の性質を有しない金員であつて、被控訴人の受け取るべき借地権価額を
不当に低廉に計算して、その差額を右訴外人に帰属せしめたものである。従つて右
差額金は、被控訴人よりその代表者であるAへ現金の授受があつたと同様な経済的
利益の供与があつたものとみなさるべきものであり、法人税法第三五条にいう役員
に対して支給した臨時的給与(賞与)であると認められるから、所得税法第六条に
定める源泉徴収義務者である被控訴人は、右賞与につき源泉所得税の納入義務があ
り、それに伴い本件においては不納付加算税をも納付する義務がある。その各数額
についてはいずれも成立に争いのない甲第二号証、同第四号証及び弁論の全趣旨に
よりこれを認めることができる。
(二) 被控訴人は、本件徴収処分は違法な第一次更正処分を前提としてなされて
いるから、違法であり、また、第一次更正処分が第二次更正処分により取り消され
たとするならば、第二次更正処分のなされた時点において、被控訴人のAに対する
臨時給与の支給は存在しないのであるから、右給与の支給を前提とする本件徴収処
分もまた取り消さるべきであり、取り消されないと一定時点において控訴人の相矛
盾する処分が並存することになる、と主張する。しかしながら、前認定のとおり、
本件徴収処分は、被控訴人からAに臨時的給与の支給があつたものとしてなされた
ものであつて、第一次更正処分を前提とし、法人税法上益金に加算されてはじめて
所得税法上課税できるものということはできないし、又その間に少しでも矛盾があ
つてはいけないとはいえない。むしろ、本件徴収処分の根拠となる法律は所得税法
であるのに対し、第一次更正処分の根拠となるのは法人税法であり、両者は税法を
異にすること及び源泉徴収にかゝる所得税を実質的に負担するのは、本件において
はAであるのに対し、第一次更正処分における法人税の納税義務者は、被控訴人で
あり、両者は実質的にみると納税の主体を異にしている等の事情からすれば、両者
は全く別個の処分であつて、第一次更正処分の違法は原則として、本件徴収処分に
はなんら影響を及ぼさないというべきである。
(三) よつて本件徴収処分には、手続的にも実体的にもなんらの違法はない。
五、以上の次第であるから、本訴請求中第一次更正処分の取消しを求める訴えは、
不適法として却下すべく、その余の請求は、理由がないから棄却すべきである。
 よつて右と判断を異にする原判決はその限度において不相当であつて、本件控訴
は理由があり、本件附帯控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八六条、第三八四
条第一項、第九六条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石田哲一 小林定人 関口文吉)

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