弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
一 控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が中労委昭和五三年(不再)第一号不
当労働行為再審査申立事件について昭和五四年一二月一九日付でした命令を取消
す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴
人は、控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、次の主張を付加するほか、原判決事実摘示のとおりであ
るから、これを引用する。
1 控訴人の主張
(一) 分会の実体は、支部の下部組織としての単なる職場組織にすぎない。した
がつて、
(1) 分会の組織活動は全面的に上部機構たる支部の統制に服するものであり、
分会の団体交渉の申入れは、実質上職場交渉の申入れであるから、組合の明示又は
黙示の指示に反することができず、また、支部が職場事項を吸い上げ、交渉する段
階にあるときには、同一事項について重ねて分会が交渉の申入れをすることはでき
ないものであり、本件組合事務所設置の問題については、控訴人と支部との間にお
いて長期間の交渉が行われ、貸借につき一応の合意がなされたこともあるのである
から、分会が団体交渉の申入れをすることはできないというべきである。
(2) 職場交渉事項は、当該職場限りの労働条件に関する事項に限定されるとこ
ろ、組合事務所の設置は、控訴人にとつては設備計画の一環として行われるもの
で、予算とも関連する全社的な問題であり、組合側にとつても、土浦事業所の組合
事務所を実際に使用するのは支部であつて、支部組合全体の問題であるから、控訴
人と支部とがこれについての団体交渉の主体となるべきものである。
(3) 実際上も、分会の執行委員の内の二名は、支部の執行委員を兼務し、控訴
人と支部との団体交渉にも出席して、発言し交渉しており、しかも、分会の組合員
数は現在右執行委員二名を含め五名程度にすぎず、支部と分会との関係は常に緊密
一体であつて、控訴人と支部との団体交渉において、分会の意思は十分に反映され
てきたものである。
 以上のとおり、分会の本件団体交渉の申入れは、その権利を欠くか又は権利の濫
用というべきものである。
(二) 控訴人は、支部との間に、現在に至るまで団体交渉を継続し、交渉ルール
を作り上げ、それなりの交渉の実績を重ね、労働関係秩序を形成してきた。そし
て、土浦事業所における組合事務所設置問題については、控訴人と支部との間で十
分に団体交渉を重ねたが、結局話合いがつかず決裂となつたものであり、これにつ
いて、支部との関係で独立の労働組合とはいえない分会が、団体交渉の申入れをし
て、控訴人と支部との労働関係秩序の中に入り込むことは、正常な労使関係を乱す
もととなるのであつて、権利の濫用である。
(三)(1) 控訴人は、裁判所の緊急命令に従い、昭和五七年三月一八日、分会
との間で、組合事務所貸与の問題についての団体交渉を行つた。その席上、まず、
控訴人側は、分会事務所貸与に関する控訴人の回答書を読み上げ、この団体交渉が
実質的には支部との間で行つてきた団体交渉の継続であり、組合事務所貸与問題は
従来支部との交渉の中で十分話合いがなされた結果白紙還元になつていること、会
社側としては、社屋のスペースが業務上も不足し、事務所建物の拡張計画を検討中
で、敷地にも余裕がないこと、組合事務所の貸与は組合活動に対する便宜供与に属
するものであるから、組合が自主的に解決されたいこととの考えを表明した。これ
に対し、分会側は、昭和五〇年五月に控訴人と支部との間で組合事務所の貸与が約
束され、その場所と広さとがきまつていないだけであり、したがつて、場所と広さ
についてのみ分会と交渉すべきであると主張し、双方の主張は平行線のままで話合
いは決裂した。控訴人が組合事務所を貸与できない理由については、控訴人と支部
との交渉において十分に説明し、分会組合員も承知していたことであり、控訴人が
これを変更する意思も可能性もない以上、場所と広さとの交渉に応ずることは全く
無意味であつた。
(2) 控訴人と分会とは、昭和六一年七月四日、分会の組合事務所問題について
団体交渉を行つた。右交渉において、まず控訴人側が回答書を読み上げたが、分会
側は、本来の議題とは無関係な、土浦事業所の窓口の問題(同事業所所長を交渉の
窓口とすること)、控訴人発行文書の名義人の問題(支部の役員は了承ずみの事
項)等を持ち出し、本来の議題についての交渉の進行を妨げ、そのため、同日も、
本来の議題に入ることができずに、団体交渉は終了した。それまで、分会は、数年
間一〇回にわたり控訴人に団体交渉を申入れながら、いざ団体交渉が開始される
と、解決ずみであるか、あるいは全くの言掛かりとしか思えない些細な事項を持ち
出してこれに固執し、本来の議題に入ろうとしないのが実情であり、これは、分会
自身が組合事務所問題についての結論が出ていることを承知の上で、行き掛かり
上、裁判のための形式体裁をとり繕う目的でしていることであり、これ以上の団体
交渉が無意味であることを自ら肯定しているものといえる。
2 控訴人の右主張に対する参加人の反論
(一)(1) 分会は、分会自体の規約と、執行機関、代表者、議決機関を有し、
自ら意思決定を行い、独自の予算を有し、独自の活動を行つているものであり、労
働委員会においても、労組法二条、五条二項所定の要件を充足しているものと認め
られて、資格審査決定を得ているのであるから、社団たる実体を有することは明ら
かであり、したがつて、独自の団体交渉権を有することにも疑問の余地はない。労
働組合が上下関係を有しつつ重畳的にそれぞれ独立した組織として存在すること
は、法制上も認められていることである。
(2) 分会は、右のような実体を有するものであつて、単なる職場組織であると
はいえないばかりでなく、支部は、土浦事業所の組合事務所の件についての団体交
渉を明示的に分会に委ねており、右の件が分会の交渉の対象となるべき職場限りの
事項であることは明らかである(職場限りの問題であるか否かは、使用者側の事情
によつてではなく、職場交渉を認めると上部組合の団体交渉権が侵害されることに
ならないか否かによつてきまることである。)。したがつて、分会の団体交渉の申
入れを控訴人が拒否する正当な理由はない。
(二) 控訴人は、昭和五〇年五月一五日、同年六月一〇日及び同年七月二四日に
支部との間に行つた団体交渉において、土浦の組合事務所の件についても触れた
が、その後は僅かな回数の形式的な団体交渉を行つたのみであつて、控訴人主張の
ような労働関係秩序が形成されていたものとは到底いえない。他方、支部は、同年
七月二四日の団体交渉において、具体的事項についての交渉を分会に委ねる方針を
控訴人に伝えていたのであるから、分会の団体交渉申入れが労使関係を乱すという
こともあり得ない。
(三)(1) 昭和五七年三月一八日の団体交渉は、控訴人が、緊急命令が発せら
れた後も、分会の度重なる団体交渉の申入れを拒否し続けた上、裁判所の和解期日
における強い要請によつて漸く開催に応じたものであるが、右交渉の席上、控訴人
側は、用意した回答書を読み上げ、支部との団体交渉において組合事務所の問題は
白紙還元となつた旨及び現在組合事務所貸与の意思は全くない旨を告げ、それ以上
に具体的な話合いもなく交渉を打ち切つたもので、これが形式的な団体交渉にすぎ
なかつたことは明らかである。
(2) その後も控訴人は分会の団体交渉申入れを拒否するばかりか、土浦事業所
所長は、分会の団体交渉申入れ書の受領を拒み、あるいはいつたん受領した申入れ
書を突き返すなどして、組合以外の文書についてしているのと同様に文書を本社へ
取次ぐことすら拒む態度に出ていた。そして、昭和六一年七月四日に漸く行われた
控訴人と分会との団体交渉においても、最初に、控訴人側が、組合事務所は貸与し
ない旨の文書を読み上げ、その理由等は何ら説明しようとせず、次いで、分会が文
書受取の件、回答書等の作成名義人の問題、控訴人側の団体交渉メンバーの問題等
を提起したが(これらの交渉ルールに属する事項については、事前に窓口折衝が行
われていないため、団体交渉にあたつてこれを持ち出すことは、当然のことであ
る。)、これについては控訴人側は何ら応答をせず、僅か一三分間で退席して、団
体交渉を終了させた。したがつて、控訴人が団体交渉の義務を尽くしていないこと
は明らかである。
三 証拠(省略)
       理   由
一 当裁判所も、本件命令に違法はなく、その取消を求める本訴請求は理由がない
と判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原
判決理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 (原判決の訂正等)
(一) 原判決一二枚目裏三行目の「参加人との」から同七行目の「間では」まで
を「原審における証人Aの証言(第一回)から真正に成立したものと認められる甲
第一一ないし第一三号証、同第一五ないし第一七号証、同第一九ないし第二一号
証、」と改め、同八行目の「甲第二号証」の次に「同第三号証の一」を加え、同九
行目の「同第二一号証」から同一一行目の「二〇号」までを「弁論の全趣旨から原
本の存在及び成立の認められる甲第二九号」と改める。
(二) 同一三枚目表一行目の「証人B」の前に「原審」を加え、同二行目の「証
人A」から同四行目の「同C」までを「原審及び当審証人A(原審は第一、二
回)、同C、原審証人B、当審証人Dの各証言(ただし、右証人A、同C、同D」
と改める。
(三) 同一五枚目裏八行目の「事務所折衝」を「事務折衝」と改める。
(四) 同一六枚目裏九行目の「二月二三日」を「二月二四日」と改め、同行の
「三月五日」の次に「(ただし、同日付申入れの議題は『労使間懸案事項』)」を
加える。
(五) 同一七枚目裏四行目の「同年五月一一日」を「同年五月六日」と改め、同
五行目の「申し入れ」を「申し入れて、同月一一日団体交渉を行い」と改める。
(六) 同一八枚目表六行目の「通知をした。」の次に「もつとも分会がその名称
を総評全国金属労働組合千葉地方本部オリエンタル支部土浦分会から総評全国金属
労働組合茨城地方本部オリエンタル土浦分会と変更した旨控訴人に正式に通知した
のは昭和五一年一〇月四日付文書によるものであつた。」を加え、同七行目の「分
会は、」の次に「支部との連名で、」を加え、同行の「同年」を「昭和五〇年」と
改め、同八行目の「『組合事務所の件について』」を「土浦事業所の従業員を最も
近い事業所に配置転換すること」と改める。
(七) 同二〇枚目裏八行目の「反する」の次に「前掲」を加え、同行から同九行
目にかけての「(第一回)」を削り、同行の「同C」の次に「及び同D」を加え
る。
(八) 同二一枚目裏四行目の「分会自体」から同五行目の「なかつたこと」まで
を「分会の客観的行動自体も必ずしも支部から独立した組織体のそれであることが
明確でなかつたこと」と改める。
(九) 同二二枚目表八行目の「支部からある程度独立した」を「支部とは別個独
立の」と改める。
2 (当審における主張に対する判断の付加)
(一) 控訴人は、分会の実体が単なる職場組織であることを理由に、分会の団体
交渉権を争い、又は、その要求を権利濫用であると主張する。しかし、右に引用し
た原判決の認定事実によれば、分会は、支部の下部組織ではあるが、事業所を単位
とする別個独立の労働組合であり、支部が、事業所単位の問題については事業所ご
との交渉に委ねる旨を控訴人側に明らかにした後、従来の控訴人と支部との交渉で
進展を見ていなかつた本件の議題について、分会が団体交渉を申入れたものであつ
て、もとより分会の要求内容が従前の支部の要求と矛盾するものとは認められず、
分会が支部の統制に反すると疑うべき事情も全く存在しなかつたものである。そし
て、支部及び分会側が、土浦事業所における分会組合事務所の件を同事業所単位の
問題として提起しているのであり、控訴人側にとつて予算等の面で全社的な影響が
あることであつても、その点の理解を求めることをも含めて、分会の組合事務所を
設置し得るか否かについて、分会との間で具体的、実質的な交渉をする意義は十分
にあつたと考えられる。したがつて、本件議題について分会に団体交渉権があるこ
とは否定しがたいとともに、分会の本件団体交渉申入れが、控訴人を徒らに混乱に
陥れるもので権利の濫用であると認めることもできず、控訴人の右主張は理由がな
い。
(二) 控訴人は,本件団体交渉の申入れが、控訴人と支部との間に形成された労
働関係秩序を乱すものである旨主張するが、そもそも支部との間に正常な労使関係
が形成されていたといえるか否かが疑問であるばかりでなく、右(一)に判断した
とおり、分会の要求が支部の要求と矛盾したり、労使関係を混乱させるものであつ
たとは認められないから、右主張は理由がない。
(三) 控訴人は、昭和五七年三月一八日及び同六一年七月四日に団体交渉を行つ
たが、分会側の態度のために交渉が打切られた旨を主張し、これは、本件命令の違
法性判断の基準時である本件命令発令の日より後の事実であるが、右基準時におい
て分会の団体交渉申入れが権利の濫用であつたこと又は控訴人に不当労働行為意思
がなかつたことを推認させる事情として、主張しているものと解される。
(1) 成立に争いのない甲第二三号証、前掲甲第二九号証、丙第五九号証、同第
六三号証、同第六九ないし第七一号証、原審及び当審証人A(原審は第二回)、同
C、原審証人B並びに当審証人Dの各証言によれば、控訴人は、昭和五七年一月二
〇日付緊急命令を受けた後、「決定に基づく仮団交であるから、会社勝訴の場合
は、遡つてなかつたものとなる」旨を文書で表明したうえで、同年三月一八日の団
体交渉に臨み、その席上、控訴人側は、組合事務所については、控訴人と支部との
交渉で白紙還元になつており、控訴人としては組合事務所を貸与する意思はないと
の趣旨の回答書を読み上げ、以後その趣旨を繰り返すのみで、途中五分間の休憩を
含め四五分間で交渉を終えたことが認められ、この認定に反する証拠はない。
(2) 原本の存在及び成立に争いのない丙第一七二ないし第一八三号証、当審に
おける証人Aの証言から真正に成立したものと認められる甲第五九号証、弁論の全
趣旨から真正に成立したものと認められる丙第一八五号証、当審における証人C及
び同Aの各証言によれば、右(1)の団体交渉の後、分会の再三の要求にかかわら
ず団体交渉は行われないで四年余を経過したが、昭和六一年七月四日、漸く組合事
務所の件を議題とする控訴人と分会との団体交渉が行われたこと、その席上、控訴
人側は、前回と同様、組合事務所を貸与する意思は全くない旨の回答書を読み上げ
たのみであり、これに対し、分会側は、交渉窓口の問題、すなわち、分会が土浦事
業所所長に会社宛文書を交付することを認めるべきであるとの問題、そのほか、会
社側文書の名義人の問題、会社側の団体交渉担当者の問題等を持ち出したが、控訴
人は、これらについては本日の議題に関係がないとして協議を拒み、そのため組合
事務所の件については全く話合いがなく、僅か一三分間で交渉が打切られたこと、
ところで、右の交渉窓口の問題は、当日予定された議題ではなかつたが、当時、分
会と控訴人との間では団体交渉に先立つ事務折衝等は全く行われていず、分会の控
訴人宛要求書等の文書を土浦事業所所長に交付しようとしても受領を拒絶されると
いつた状態が続いていたため、分会が団体交渉に関連しこれに先立つ問題として右
の窓口の件を持ち出す理由があつたこと、以上の事実が認められ、これに反する証
拠はない。
 以上の認定によれば、右の交渉窓口の問題等を分会が持ち出したことが単なる言
い掛りであつて、分会に真摯な交渉の意思がなかつたと認められるものではなく、
また、右二回の団体交渉によつて控訴人が誠実に団体交渉応諾義務を尽くしたと認
め得ないことも明らかであつて、右二回の団体交渉が行われた事実は、不当労働行
為の認定を些かも妨げ得ないものというほかはない。
二 以上の次第で、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴
は理由がないからこれを棄却し、控訴費用(参加に関する費用を含む。)の負担に
つき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条、九四条を適用して、主文のとお
り判決する。
(裁判官 高野耕一 野田宏 成田喜達)

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