弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人と控訴人との間の名古屋地方裁判所昭和二十七年(ヨ)第四六
八号不動産仮差押申請事件に付き同裁判所が昭和二十七年七月二十四日為した仮差
押決定は之れを取消す。
     被控訴人の右事件の仮差押申請は却下する。
     訴訟費用は第一、二審共に被控訴人の負担とする。
     本判決主文第一、二項は仮に執行することが出来る。
         事    実
 控訴代理人は主文第一乃至第四項同旨の判決及仮執行の宣言を求め被控訴代理人
は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の供述は控訴代理人に於て原判決は其の理由に於て「仮差押
の目的物を特定することは其の執行のためには必要であるが命令自体にとつては理
論上原則として不必要である」と判示して居るが右は不当である、即ち不動産の仮
差押に於ては裁判所の管轄を定める上からも仮差押の執行を為す面から考えても不
動産を特定して置く必要あるのであつて仮差押申請に当つては差押ふべき不動産が
債務者の所有に属することを疏明すべきものである、而して本件仮差押は債務者で
ある控訴人の所有に非らざる第三者所有の不動産に対して仮に差押える旨決定した
ので控訴人は之に異議を述べ第三者の権利に対する侵害を除去せんとするもので之
れは控訴人の義務である、法律の明文に於ても異議の理由に付き何等の制限を加え
て居ないと述べた外は原判決摘示事実(尤も原判決には別紙目録を付けてないが右
は本判決に付けてある目録を脱漏したものであること原判決を通読すれば極めて明
白である)と同一であるから茲に之れを引用する。
 証拠として
 被控訴代理人は疏甲第一号乃至第九号証(第一号乃至八号証の写は昭和二十七年
(ヨ)第四六八号事件記録に編綴しあり)を提出し原審証人Aの証言を援用し疏乙
第一号証同第五、六号証の成立を認め同第七号証の一及四の公印の部分の成立を認
め其の余の部分は不知である、尚爾余の乙号証は全部不知であると述べ、
 控訴代理人は疏乙第一号乃至第六号証疏乙第七号証の一乃至四を提出し原審証人
B同C同D同Eの各証言竝に当審に於ける控訴本人の訊問の結果を援用し甲号各証
の成立を認めた。
         理    由
 案ずるに被控訴人主張の仮差押申請の理由中仮差押の目的物が控訴人の所有に属
するとの点を除き尓余の事実は控訴人の明かに争わないところで自白したものと看
做すべきである。仍て控訴人の異議の理由を審究するに原審は控訴人の異議は其の
主張自体失当であると判示して居るので此の点を考えて見なければならない。仮差
押決定は一般的に云つて必ずしも目的物を特定する必要はないこと原判示の通であ
るけれども、それだからと云つて目的物に何等の限定を与える必要ないと結論する
ことは出来ないのであつて動産仮差押の如きは目的物を具体的に特定しないで為さ
れるけれども、然し目的物が債務者の所有に属すべきであると云う最少限度の限定
を附して決定されるのが普通である。蓋し仮差押の本質に付いて学説は種々あるで
あろうが要するに実務上重要な仮差押の本質的目的と云えば本執行を保全するのが
唯一の目的であるから差押の目的物は本執行を為し得べきものであること換言すれ
ば原則的には債務者の所有に属するものであることが最も重要な契点であるからで
ある。原則論はともかく本件不服を申立てられて居る具体的の仮差押決定は別紙目
録記載の三棟の建物を特定して之れを唯一の対象として仮に差押える旨決定して居
るのであつて其の意味は要するに被控訴人(即ち債権者)の手形債権の弁済に充て
る為競売に付する準備として売買入質等の処分を禁示する(尠くも債権者に対する
関係に於て)と謂うに在るのであつて従つて若し右不動産が債務者の所有に属せず
本来手形債権の弁済に充てること不可能なものであるならば斯様な仮差押は保全処
分本来の目標を失つた違法なものであり取消<要旨>さるべきものであることは多言
を要しない。次に第三者の財産を対象とした仮差押が違法であつても右は第三 旨>者のみが主張し得るもので債務者より主張することは許されないと解すべきであ
るかの問題があるが次の二点から考えて債務者の異議を許すべきものと解するので
ある。
 (一) 元来取消すべき違法を包含している裁判は早く取消されるのが望ましい
のであつて斯る裁判を受けた者は裁判に包含される一切の違法を主張して取消を求
め得るのが原則で民事訴訟法も異議の理由に付何等明文上の制限をして居ない。他
面から考えて債務者にとつて第三者の所有物が仮差押されることに利害関係を有し
ないのが普通で従つて斯る異議を許すことが濫訴を認める結果となることは考えら
れない。第三者の所有物が仮差押の対象となるのは其の物が債務者の賃借保管使用
中等の原因に因るか又は上記の様な占有状態に基き公簿上債務者名義に登載されて
居る様な場合が普通であつて従つて債務者は真所有者の為めに善良な管理者の注意
義務を負う場合が寧ろ普通で尠くも信義則上当該物件の保全に努力すべき義務があ
る場合が普通であること控訴代理人の主張する通であるからである。又公務員の錯
誤に因り他人の所有名義に公簿に登載された場合(後記の通り本件も此の錯誤の場
合なり)には債務者と真所有者間に上記の関係が無いときには債務者も亦自己の所
有でないことは判るが真所有者の住所を知らない場合が屡々起るべく斯るときは真
所有者は仮差押の為されたことを知る機会なく若し債務者に異議を許さねば遂には
競売手続迄も執行さるるに至ることも絶無ではなく然らば全く無用にして而かも無
効な競売手続が執行され債務者は他人の財産により自己の債権の消滅を来たした様
な外観だけは呈するけれども真の事実と云うことは出来ず法律関係の混乱を来すの
みであろう。
 (二) 仮差押の申請の理由として基本債権の存在竝びに本執行保全の必要性及
可能性の二つは最も主要な二大眼目である。特定の不動産の仮差押申請を受けた裁
判所は先づ該不動産に付本執行の可能なこと即ち債務者の所有に属することを確め
るのであつて口頭弁論を開かない場合でも申請人に疏明方法の提出を許し之れを取
調べるのは勿論である。本件仮差押は別紙の如く不動産をその地番で特定すると共
に更らに「債務者所有の」と云う限定をも附加して居る。此の限定は地番で特定し
た以上物件の特定と云う点からは無用であるが而かも執行保全と云う仮差押の主目
的の上から所有権の所在を審理したことを明示して居ると云うべきである。さて仮
差押の申請に於て手続を鄭重にして口頭弁論を開始した場合には相手方たる債務者
に於て申請人提出の疏明方法が虚偽であり不実であると思うときは之れを争い反対
の証拠を許すべきは当然で、寧ろ此の反証と対比して取調べ以て違法な仮差押を防
止することが口頭弁論を開くことの主たる目的なのである。即ち仮差押の申請理由
の総べてに対し抗争することが出来るのであり此れが「双方を聞いて裁判する」と
謂う口頭弁論の本質である。仮差押は急速を要するとき債権者の便宜を図り口頭弁
論を開かないで発することがある代りに債務者の利益も考えて異議と云う制度を設
けたのであるから異議の申立に因りて必要的に開始される口頭弁論は前記の裁判所
が職権で開く任意的口頭弁論を省略した場合の債務者側の立場を考えた再調査の手
続で彼此其の本質に於て毫も異らないことを考えれば債務者は右二個の口頭弁論に
於て同様の立場で仮差押の眼目たる本執行の可能性(所有権の所在)を争い得るこ
と多言を要しないであろう。
 上来説示の理由に依り控訴人主張の異議事由の存否に付審理を進めなければなら
ない。
 原審証人D同Eの各証言と之に依つて成立の真正なことを認め得る疏乙第七号証
の一乃至四同第二乃至四号証及成立に争のない同第一号証を綜合すればFは本件建
物の敷地をGより買受け該地上に本件建物を建設して之れをHに譲渡し同人は之れ
をEに譲渡したことを推認するに十分である。而して成立に争のない疏乙第五、六
号証原審証人B同Cの各証言及当審に於ける控訴本人の供述を綜合すれば控訴人は
Eより本件建物の使用の許諾を得て之に居住中家屋台帳の作成に当り係官の調査不
十分で居住者である控訴人を誤つて所有者として台帳に登載したが控訴人は納税の
ことから之れを発見し台帳訂正方を昭和二十五年十月頃から(本件仮差押の数年
前)既に申請して居たが手続上の点から訂正未完の内に仮差押決定の為されたこと
を推認出来るのである。従つて本件不動産は被控訴人主張の債権の弁済の為に強制
執行を為すことの出来ないものであるから其の結果として該債権の執行保全の為仮
差押を為すことも出来ないものである。仍て之れに対する仮差押決定は違法として
取消すべきもので之れを認可した原判決は不当であるから本件控訴は理由ありと謂
うべく民事訴訟法第三百八十六条第七百四十五条第八十九条第九十六条を適用して
主文の通り判決した次第である。
 (裁判長判事 北野孝一 判事 伊藤淳吉 判事 小沢三朗)
 (別紙目録省略)

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