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         主    文
     原判決中被上告人勝訴部分を破棄し、本件を福岡高等裁判所宮崎支部に
差し戻す。
         理    由
 上告代理人小倉一之の上告理由について
 一 原判決の認定判断の要旨は、
 上告人は訴外Dに対し第一各手形(原判決添付第一手形目録記載の各手形)を振
り出し、Dは上告人に対し第二各手形(原判決添付第二手形目録記載の各手形)を
振り出した。第一各手形は、昭和四五年二月から三月までの間にDからE相互銀行
に裏書譲渡され、昭和四八年六月五日同銀行からDに再び裏書譲渡された。Dが第
一各手形を再取得した右日時より以前である昭和四八年五月二八日上告人のDに対
する第二各手形債権は時効消滅していたから、第二各手形債権が時効消滅前に第一
各手形債権と相殺適状にあつたとはいえず、上告人はその後民法五〇八条により第
二各手形債権をもつて第一各手形債権と相殺することはできない、というにある。
 二 一般に、手形の裏書譲渡により手形債権者となつた者は、右譲渡を受けた時
に手形債権を取得し、それ以前に手形債権を取得するものではないから、右手形債
権と右手形債権者に対する反対債権とが手形の裏書譲渡の時より以前に相殺適状と
なることはなく、したがつて反対債権が右裏書譲渡の時すでに時効消滅している場
合には、その後、民法五〇八条により反対債権をもつて手形債権と相殺することが
できないことは、いうまでもない。
 しかしながら、手形の所有者が債権担保のため手形を銀行に裏書譲渡したのち被
担保債権が消滅した等の事由により実質的に手形上の権利が旧所有者に復帰したが、
ただ旧所有者の所在不明のため銀行において手形を所持していたところ、その後旧
所有者の債権者が旧所有者に代位して銀行から旧所有者宛にその手形を裏書譲渡さ
せたような場合旧所有者が右のように銀行から裏書譲渡を受けるより以前すでに実
質的に手形債権を取得しているときは、右手形債権者に対し反対債権を有する者は、
手形債権者が実質的に手形債権を取得した時以後反対債権をもつて右手形債権と相
殺することが許されるのであり、したがつてその時よりのちに反対債権が時効消滅
しても民法五〇八条により反対債権をもつて手形債権と相殺することができると解
すべきである。けだし、右のような実質的な手形債権者は、手形を所持していない
ので、みずから相殺することはできないが、反対債権を有する者が手形の受戻しを
受ける利益を放棄して反対債権をもつて右手形債権と相殺することは許されると解
されるのであり、対立債権について実質的な公平を図る民法五〇八条を類推適用し
て、反対債権による相殺が右のように許されるときその後右債権が時効消滅しても
その相殺ができると解するのが相当であるからである。
 三 ところで、原判決及び記録によると、第一各手形がいずれも満期前にDから
E相互銀行に裏書譲渡されたのち、昭和四五年四月二一日ころDは倒産し所在不明
となり、右各手形は右銀行においてこれを所持していたが、昭和四八年六月五日に
なつて被上告人がDに対する債権に基づきDに代位して右各手形の第二裏書欄に昭
和四八年六月五日付でD宛の裏書を記載させ右各手形を被上告人に交付させたもの
であり、右裏書欄には右日付のほか「昭和四五年五月六日買戻し」の記載があるの
であつて、これらの事実によると、Dが実質的にはすでに右昭和四五年五月六日に
右手形債権を取得していた疑いがあり、もしDが実質的に昭和四五年五月六日に手
形債権を取得したとすると、前述したところにより、上告人の第二各手形債権がそ
の後時効消滅しても右債権による第一各手形債権との相殺は許されることになるの
である。そして、上告人は原審において第二各手形債権は時効消滅前に第一各手形
債権と相殺適状にあつたからその時効消滅後も相殺が許されると主張しているので
あり、前記のような疑いのあることが明らかである以上、原審は釈明権を行使して
相殺適状の時すなわちDが第一各手形債権を実質的に取得した時等について主張、
立証を尽くさせ十分な審理をしたうえ上告人の右主張について適切な判断をすべき
であつたところ、原審はこれをすることなく上告人の右主張を斥けたものであり、
原判決には釈明権不行使、審理不尽の違法があり、右違法は原判決の結論に影響を
及ぼすことが明らかである。右のとおりであるから、原判決は破棄を免れず、更に
前述の点につき審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すのを相当とする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官藤林益三の反対意見、裁判官岸上康
夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官藤林益三の反対意見は、次のとおりである。
 私は、本件上告を棄却して原判決を維持すべきものと思う。その理由は次ぎのと
おりである。
 一 上告人は、上告理由書第一の一、(二)、(三)及び第二に記載しているような
主張とそれに沿う証拠説明とを、原審においてしたことが認められない。おそらく、
第一審判決で勝訴したことに安心して、原審での訴訟活動が十分でなかつたことに
よるものかとも推察されるが、上告理由書記載の右のような主張は、原審において
十分できたはずである。けだし、第一審以来、被上告人は第二各手形債権がいずれ
も時効消滅以前において第一各手形債権と相殺適状にあつたことを争い、民法五〇
八条は適用されないと繰り返し主張していたからである。
 多数意見は、上告人の右の上告理由にかんがみ、原審での釈明義務の履行が不十
分であり、ひいて審理不尽の違法を招いたものとし、これを理由に原判決を破棄し
て原審に差し戻すとの結論に至つたものと思われる。しかし、第一審以来上告人は、
同一訴訟代理人によつて訴訟行為を遂行しているのであるから、原審において全く
主張していない前記理由を取り上げてまで、当審は、原審の審理に立ち入る必要は
ないものと思われる。
 私は、三ケ月教授とともに、「釈明権は裁判所の不可欠の後見的機能であること
を如何に強調しても、それは遂に後見的機能に止まつて事案解明の責任を裁判所が
背負いこむことを意味するものではないのであるから、当事者が裁判所に依存しな
がらそのことを棚に上げて釈明権(釈明義務)不行使の違法を主張すれば、常に上
告理由となるというのは不当である。釈明義務不履行として上告審が破棄しうる限
度は、具体的事案に照して不行使のまま裁判することが公平を欠き、訴訟制度の理
念に反すると認められる場合に限らるべきは当然である。」(法律学全集民事訴訟
法一六四頁)と考えるものである。もとより、いわゆる古典的弁論主義への反省は
されなければならないが、本件事案の如きにおいては、弁論主義本来の意味におい
て、訴訟代理人の努力にまつべきものがあつたのであるから、私は、裁判所がそこ
まで介入する義務を負担すべきものとは思わないのである。訴訟代理人は、裁判所
によりかかるべきものではない。けだし、訴訟代理人の受任事件に対する熱意と研
究努力とが裁判の結果に現われてこそ、在野法曹の訴訟活動の進歩に伴う裁判本来
の姿の出現が期待できるかである。
 二 次に、多数意見と直接関係はないかもしれないが、前項釈明義務に関連する
ことがらであるから、一言述べておきたい。
 上告人は、上告理由書第一の一、(一)において、第一各手形、第二各手形が融通
手形であつたことを理由に、両各手形について相殺が認められなければならないと
いうような主張をしているが、融通手形であつた事実は原審の認定していないとこ
ろである。しかし、仮にそうであるとしても、融通手形なるものは、真実の商業手
形であるかのように作為され、その振出人は、それが金融機関又は金融業者におい
て割引かれることを前提として振出すものである。また、融通手形を交換する場合
にあつては、双方が別々に割引を受け又は一方だけが割引を受ける違いはあつても、
一旦振出した融通手形が、双方の手中に存することは殆どありえないことがらであ
る。したがつて、一旦その一方が経済的に破綻した場合には、経済的にいくらかで
もまさつている片方が迷惑することは当初から予想されるところであつて、何の不
思議もない。これに同情すべき点はいささかもないと、私は思うのである。
 たまたま本件事案においては、訴外Dの割引先であるE相互銀行に、同訴外人の
預金が第一各手形金に見合う程度の金額において残存したため、銀行による差引計
算の結果、同銀行の手中にあつた第一各手形が浮かびあがり、被上告人の代位によ
る入手という事態に至つたのであるが、これは全く偶然の事実によるものである。
すなわち、訴外人の預金がなければ、上告人は当然、銀行から第一各手形金の支払
を請求された筋合である。
 また、上告人は第一各手形が融通手形であつたと主張している以上、訴外Dの右
手形の割引先がE相互銀行であることを知つていたのであるから、訴外人が所在不
明になつたという危険な状態が発生したからには、同銀行について調査をしさえす
れば、訴外人の預金と第一各手形金との差額一三万七八四九円の支払をすませて、
銀行から第一各手形を受け戻すか、または被上告人のしたように、第二各手形の債
権者として、被上告人に先んじて代位により第一各手形を受け取ることができたの
ではないかと思われる。また、その際既に当該手形が被上告人の入手するところと
なつたことが判明した場合には、上告人において第二各手形金請求の訴を提起して
おきさえすれば、第二各手形債権の消滅期間の経過を待つて被上告人が提起したで
あろうと窺える本訴の係属後に、あわてて公示の方法による相殺の意思表示をする
というような、訴提起に伴う公示送達とその手数において殆ど異ならない方法をと
るまでもなく(しかもそれは時機おくれであつた)、上告人は本件訴訟において成
功したと思われるのである。
 三 以上諸種の事情を考慮すると、心情的には上告人に同情すべきものがあると
しても、上告人の自ら振出した第一各手形の運命に関する無関心、第二各手形金の
保全管理についての不注意、及び訴訟手続上の失態を、裁判所の責任においてカバ
ーすべきものであるとは、私には、とうてい考えられない。よつて、本件は上告棄
却をもつて処理して差支えない事案であると思料する次第である。
 裁判官岸上康夫の補足意見は、次のとおりである。
 わたくしは、本判決の結論及び理由に賛成するものであるが、藤林裁判官の反対
意見があるのでそれに関連して若干補足意見を申し述べたい。
 弁論主義を基調とする現在の民事訴訟制度の下において釈明権は裁判所の後見的
機能に過ぎないものであり、当事者が裁判所に依存しながらそのことを棚に上げて
釈明権(釈明義務)不行使の違法を主張すれば、常に上告理由となるというのは不
当である、釈明義務不履行として上告審が原判決を破棄しうる限度は、具体的事案
に照らして不行使のまま裁判することが公平を欠き、訴訟制度の理念に反すると認
められる場合に限られるべきである、とされる同裁判官の一般的見解にはわたくし
も異論を唱えるものではない。しかしながら、本件事案について原審に釈明義務不
履行の違法はなく原判決はこれを維持すべきであるとの同裁判官の意見には、わた
くしは左袒することができない。すなわち、本判決理由中に説示されているとおり、
上告人は、原審において、被上告人の請求原因に対する抗弁として、上告人は訴外
Dが上告人宛に振り出した第二各手形債権を自働債権とし、上告人がD宛に振り出
した第一各手形債権を受働債権として両者を相殺する旨の意思表示をしたこと、右
相殺の意思表示をした当時自働債権が既に時効により消滅していたとしても、その
消滅以前において右両債権は相殺適状にあつたから、民法五〇八条により相殺は有
効である旨を各主張し、これに関し原審は、第一各手形がいずれもその満期前に受
取人Dから株式会社E相互銀行に裏書譲渡されたのち、Dは昭和四五年四月中に倒
産して所在不明となつたこと、同銀行はその後第一各手形を所持していたが、Dの
債権者である被上告人の要求に基づき同手形の第二裏書欄にそれぞれ昭和四八年六
月五日付でD宛の裏書をしたうえ、これを被上告人に交付したこと、を各認定して
いるのであり、また、被上告人が原審に提出した甲第五号証の一ないし七(その成
立について争いのないことは記録上明らかである)によれば、右第一各手形の第二
裏書欄には右日付のほか「昭和四五年五月六日買戻し」との記載のあることが看取
できるのであつて、これらの事実関係からすると、Dは実質的には既に右昭和四五
年五月六日に第一各手形債権を取得していたことを疑うべき相当の理由があるので
あり、もしDの右手形債権の取得が認められるとすれば民法五〇八条による上告人
主張の相殺の抗弁は理由があることとなる筋合であるから、このような本件訴訟の
経過に照らすときは、原審としてはすべからく釈明権を行使し、上告人をして右D
の第一各手形債権取得の時期等に関する主張、立証を尽くさせたうえ十分な審理を
することこそ本件争訟を事案に即し公平に解決するために必要かつ適切な措置であ
つたというべきである。藤林裁判官の指摘されるように、上告人側に、訴訟活動上
不十分な点があつたり、また、上告人の自ら振り出した第一各手形の運命に関する
無関心や上告人自身の所持する第二各手形債権の保全管理についての不注意があつ
たとしても、そのことのために原審裁判所の前記釈明義務を否定することは相当で
ないとわたくしは思うのである。かくして、わたくしは、原判決には釈明権不行使、
審理不尽の違法があるからこれを破棄すべきであるとする多数意見に同調するもの
である。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光

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