弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告論旨第一点及び上告代理人弁護士多田紀の上告論旨第一点について。
 しかし原判決挙示の証拠により本件売買契約においては被上告人の残代金支払義
務と上告人の登記手績完了の義務とが同時履行の関係に立つものであることを認定
できるのであるから所論は結局原審の自由裁量に属する証拠の判断及び事実の認定
を攻撃するに帰し上告適用の理由とならない。
 上告人の上告論旨第二点及び上告代理人弁護士和田珍頼の上告論旨第一点につい
て。
 しかし上告人は原審において本件契約の不履行解除を主張しているだけであつて
所論のように合意解除によつて本件契約が消滅したことを抗争した形迹はない。従
つて原判決が不履行解除の点についてのみ判断を下し合意解除の有無につき審究し
なかつたことは当然であつて所論のような違法なく論旨はいずれも理由がない。
 上告人の上告論旨第三点及び上告代理人弁護士多田紀、同和田珍頼の上告論旨各
第二点について。
 同時履行の関係に立つ債務については自己の債務の履行を提供しなければ相手方
を遅滞に付することはできないのであるから同時履行の関係に立つ本件売買契約に
おいて被上告人に遅滞があつたかどうかは上告人の催告附解除の意思表示が適法で
あるかどうか即ち提供を伴つているかどうかにかかつているのである。而して原判
決は上告人の右解除は提供を伴わぬものとしてその効力を否定しているのであるか
ら被上告人の遅滞の有無は本来問題にならぬのである。従つて原判決が被上告人は
本件残代金の積務につき口頭による弁済の提供が為されたのであるから不履行によ
つて生ずべき一切の責任を免れるに至つたと説明した部分は無用の判断であるから、
たとえその部分に所論のような違法があるとしてもそれは原判決の主文に影響を及
ぼすものではない。それゆえ論旨はいずれも採用できない。
 上告人の上告論旨第四点及び第五点並びに上告代理人弁護士和田珍頼の上告論旨
第三点について。
 しかし原判決は上告人主張の解除は弁済の提供を伴わぬものであるからその効力
なく従つて本件売買契約はなお有効に存続しているものと判断したのである。而し
て被上告人において昭和二一年五月一二日到達の書面で同月二〇日午前九時米子登
記所に出頭して本件建物の移転登記手績をすべき旨を催告したことは当事者間に争
がない事実であるが同日被上告人において弁済の提供をしたか上告人において弁済
の提供をしたかの問題は本訴の結果に関係がない。本訴の提起は昭和二一年五月二
三日で同年六月一四日の弁論で残代金引換の登記請求に改めているのであるからそ
の当時上告人は登記と同時に残代金の支払を受けることができたたに拘らず今日ま
で延びていることは上告人の責に帰すべき事由によるものというの外はない。従つ
て原判決には所論の如き違法なく、論旨はいずれも採用できない。
 上告代理人弁護士多田紀の上告論旨第三点について。
 原判決は本件残代金の支払と移転登記義務とが同時履行の関係に立つものである
ことを確定しているのである。論旨は残代金の支払が先給付たることを前提とする
議論であるから原判旨に副わない非難であつて採用するをえない。
 上告代理人弁護士多田紀の上告論旨第四点について。
 本件契約が解除せられなかつたことは原判決の判定しているところである。論旨
の(甲)は本件契約が解除されたことを前提とするものであるから固より採用の限
りではない。また論旨の(乙)はa町の家は保存登記も出来ていないことを履行遅
滞の事由としているというのであるが原判決にはかかる判断を示していないからこ
の点の論旨も理由がない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条により主文のとむり判決する。
 右は裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   垂
            裁判官    藤   田   八   郎

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