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平成22年5月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10250号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年5月12日
判決
原告ジャマルトエスアー
同訴訟代理人弁理士松田真
慶田晴彦
被告特許庁長官
同指定代理人山崎達也
岩崎伸二
豊田純一
清木泰
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのた
めの付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2006−17023号事件について平成21年4月7日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,補正後の特許請求の範囲(請
求項1)の記載を下記2とする原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求
について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決
(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,
その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)ジャンプリュエス.セ.ア.は,平成8年12月2日,発明の名称を「マ
イクロコンピュータ用のICカード読取器を形成するプラグイン・リムーバブル
・カード」とする発明について,特許出願(国際出願。優先権主張日平成7年1
1月30日。平成9年特許願第520241号)をした(甲5)。
(2)同社は,平成14年5月31日,ジェムプリュスに名称を変更した。
(3)特許庁は,平成17年8月3日付けで拒絶理由を通知し,ジェムプリュス
は,同年11月9日付けで,手続補正書(以下「本件補正」という。甲6)を提
出したが,平成18年4月19日に拒絶査定を受けた。
(4)ジェムプリュスは,同年8月7日,これに対する不服の審判を請求した(不
服2006−17023号事件)。
(5)同社は,平成20年10月1日,アグザルトエスアーに吸収合併され,
ジェマルトエスアーに名称を変更した。
(6)特許庁は,平成21年4月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との本件審決をし,その謄本は同月24日,原告に送達された。
2本願発明の要旨
本件審決が対象とした,本件補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,以下
のとおりである。以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」という。また,
本件出願に係る本件補正後の明細書(特許請求の範囲につき甲6,その余につき
甲5,8)を「本願明細書」という。なお,文中の「/」は,原文の改行部分を
示す(以下同じ)。
外部プラグイン形式の第1コネクタ(11)と,ICカード(22)のフラッ
シュ・コンタクト(26)への電気接続を形成し得るフラッシュ・コンタクトを
備えた第2コネクタ(16)と,を備えることによりICカード読取器を形成す
るマイクロコンピュータ用リムーバブル・プラグイン・カード(10)において,
/該カード(10)は,上記第2コネクタ(16)に関するICカード(22)
の正確な位置決めを確実に行うべくICカード(22)の形状と組み合う形状の
機械的案内機構(15,17,21)を含み,/前記案内機構(15,17,2
1)は,ICカードの端部に対し,ICカードの挿入方向に対して直交する方向
の側方案内を提供し,/前記案内機構は,プラグイン・リムーバブル・カード(1
0)上で又は該カード(10)内でICカードの位置決めを行う間に該ICカー
ドの少なくとも一個の角隅部と協働し得るように外部コネクタ(11)側に位置
せしめられた少なくとも一個のストッパ(15;15A,15B;17A,17
B;21)を備え,/カード(10)の外部コネクタ(11)側に配設された部
分(19)を,該カード(10)の残りの部分により形成される薄寸部分(18)
から分離する縁部(20)を更に備え,/前記案内機構(15,17,21)は,
1個または2個のストッパ(15;15A,15B;17A,17B;21)を
含み,該ストッパは,外部コネクタ(11)側であって,厚寸部分(19),縁
部(20)および薄寸部(18)の間に配置されたカード(10)の角隅部に位
置することを特徴とする,リムーバブル・プラグイン・カード
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,特開平7−93490号公報
(甲1。以下「引用例」という。)に記載された発明であり,また,上記発明に
基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条
1項3号及び同条2項の規定により特許を受けることができない,というもので
ある。
(2)なお,本件審決は,その判断の前提として,引用例に記載された発明(以
下「引用発明」という。)を,以下のとおり認定した。
ICカードを挿入するカード挿入口を有するとともにコンピュータ機器のメモ
リカード用スロットに挿入できる外形形状を有する装置本体と,/この装置本体
内に設けられ前記カード挿入口から挿入されたICカードの先端角部と接触する
位置決め部を有し前記ICカードの位置決めを行うカ―ド位置決め部材と,/前
記位置決めされたICカ―ドとの間で情報の処理を行う情報処理手段と,/を具
備してなるICカードの情報処理装置であって,/該ICカードの情報処理装置
はカードの情報の読取りを行い,かつ,携帯型パソコン等の拡張スロットに挿入
して使用するものであり,/かつ,前記メモリカード用スロットに挿入すること
により,その先端部に設けられたコネクタが前記コンピュータ機器内のコネクタ
に電気的に接続されるようになっており,/前記メモリカード用スロットに内蔵
される部分の両側部には側面開口部が形成されており,/前記カード位置決め部
材は,前記カード挿入口に繋るICカード挿入路の奥行き方向に設けられており,
/前記情報処理手段は接触端子が前記ICカードの位置決め完了時点においてI
CカードのICモジュールのコンタクト部に接触するように構成されており,/
前記位置決め部に,前記ICカードの円弧状を呈する先端角部が当接することで
前記ICカードが挿入方向に対し直角の方向に位置決めされるものであり,/前
記カード挿入口は,前記コネクタとは反対の側に設けられ,/前記位置決め部は
2つ設けられている,/ICカードの情報処理装置
4取消事由
(1)新規性の認定判断の誤り(取消事由1)
(2)進歩性の判断の誤り(取消事由2)
第3当事者の主張
1取消事由1(新規性の認定判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本願発明に係る「ストッパ」について
請求項1において「ストッパ」の位置に関する記載として「角隅部に位置する」
という記載があり,本願発明における「角隅部に位置する」とは,「角隅部から
動かない」という意味であることが,請求項1の記載から自明である。
ア「∼から動かない」という意味は「∼に位置する」という用語が有する通
常の意味として解釈できる(甲7)。ストッパという「物」が,角隅部に「ある」
のであるから,「角隅部から動かない」という解釈は,「角隅部に位置する」と
いう用語が有する通常の意味として解釈できるものである。
イ本願発明における「ストッパ」とは,請求項1に明示されているように「I
Cカードの正確な位置決めを確実に行う」ために設けられている部材である。仮
にストッパが動くものであると仮定すると,ICカードの正確な位置決めを行う
には,どのような手段によってどのような位置に「ストッパ」自体を静止させる
のかについても検討が必要であって,ストッパ自体を静止させる構造についての
明示的な言及が必要となる。つまり,「ストッパを静止させる構造」についての
明示的記載が全くない状態においての「ストッパが角隅部に位置する」とは,「ス
トッパが角隅部から動かない」という意味であることが自明である。請求項1に
は,「ストッパ自体を静止させる構造」について記載がないので,本願発明にお
ける「角隅部に位置する」とは,「角隅部から動かない」という意味であること
が,請求項1の記載から自明である。
(2)相違点の看過について
ア本願発明におけるストッパは,前記(1)のとおり,「外部コネクタ(11)
側であって,厚寸部分(19),縁部(20)および薄寸部(18)の間に配置
されたカード(10)の角隅部に位置する(角隅部から動かない)」ものである。
イ引用例には,引用発明の位置決め部が「外部コネクタ(11)側であって,
厚寸部分(19),縁部(20)および薄寸部(18)の間に配置されたカード
(10)の角隅部に位置する(角隅部から動かない)」ことを示す事項が全く記
載されておらず,これを認定することができない。この点において本願発明と引
用発明とは相違する。
(3)新規性の判断の誤りについて
以上のとおり,引用発明の位置決め部は,本願発明の「外部コネクタ(11)
側であって,厚寸部分(19),縁部(20)および薄寸部(18)の間に配置
されたカード(10)の角隅部に位置する(角隅部から動かない)」ストッパと
は相違する。よって,本件審決には,本願発明におけるストッパと,引用発明に
おける,カード位置決め部材に含まれる位置決め部との対比,判断を誤った違法
がある。本願発明は,その出願前に日本国内において,頒布された刊行物に記
載された発明ではないから,特許法29条1項3号に該当しない。
〔被告の主張〕
(1)本願発明に係る「ストッパ」について
ア甲7には,「∼に位置する」が「∼から動かない」という意味であること
の記載も示唆もないので,原告の上記用語の解釈には根拠がない。また,「位置
する」という用語について,引用例の【0016】には「そして,カード位置決
め部材15を移動領域Lの手前側位置P1に位置するように常時付勢している」
と記載されており,このように,引用例において移動可能である「カード位置決
め部材15」についても「位置する」という表現が用いられているのであるから,
「位置(スル)」とは,固定されて動かない物についてのみ用いられる用語では
ない。
イストッパ自体を静止させる構造が請求項1に記載も示唆もない以上,請求
項1が特定するストッパは,動く態様及び動かない態様の双方とも包含し,また,
仮に当該ストッパが動くとしても,どのような手段によってどのような位置にス
トッパ自体を静止させるのかを,請求項1は不問にしていると解釈すべきである
から,原告が必要と主張する検討や明示的な言及は不要である。
また,原告は,「ストッパを静止させる構造」についての明示的記載が全くな
いから「ストッパが角隅部に位置する」とは「ストッパが角隅部から動かない」
という意味であることが自明である旨を主張するが,請求項1に記載も示唆もな
い以上,ストッパは動く態様及び動かない態様の双方とも包含すると解釈すべき
ものであり,明示的な記載がないから動かないことが自明であるとは到底いえな
い。
そして,請求項1には,ストッパが移動することを排除する旨の記載も示唆も
ない。
以上のことから,「ストッパを静止させる構造」が請求項1に明示的記載が全
くないことを根拠としてストッパが動かないものに限定される旨の原告の主張は
理由がない。
(2)相違点の看過について
ア請求項1には,「角隅部から動かない」ことについては記載も示唆もない
から,原告の主張は,請求項1の記載に基づかない主張であり,失当である。
イしたがって,「角隅部から動かない」ことが本件審決に記載されていない
ことには,何ら違法はない。
また,引用発明の位置決め部が「外部コネクタ(11)側であって,厚寸部分
(19),縁部(20)および薄寸部(18)の間に配置されたカード(10)
の角隅部に位置する」ことについては,本件審決に全く記載がないわけではない。
なお,本件審決は,本願発明の「前記案内機構は,プラグイン・リムーバブル
・カード(10)上で又は該カード(10)内でICカードの位置決めを行う間
に該ICカードの少なくとも一個の角隅部と協働し得るように外部コネクタ(1
1)側に位置せしめられた少なくとも一個のストッパ(15;15A,15B;
17A,17B;21)を備え」の構成と対比して,引用発明がその構成を充足
するものであると判断している。また,本件審決は,引用発明の位置決め部材が
外部コネクタ側にある点の判断及び引用発明も本願発明と同様に「カードの外部
コネクタ側に配設された部分を,該カードの残りの部分により形成される薄寸部
分から分離する縁部」を備えている点を踏まえて,引用発明における位置決め部
の数及び位置決め部とICカードとの配置関係(接触する位置)に基づいて,本
願発明の「前記案内機構(15,17,21)は,1個または2個のストッパ(1
5;15A,15B;17A,17B;21)を含み,該ストッパは,外部コネ
クタ(11)側であって,厚寸部分(19),縁部(20)および薄寸部(18)
の間に配置されたカード(10)の角隅部に位置する」の構成と対比して,引用
発明がその構成を充足するものであると判断したものであり,原告が主張するよ
うな違法はない。
ウ引用例には,「カード位置決め部材15が」「奥行側の位置P2に保持さ
れる」と記載されている(【0018】)。そして,ここでいう「保持」とは,
カード位置決め部材15に突設されたフック23が第1ラッチ25と「係合する」
ことによって行われるから(【図3】,【0019】),カード位置決め部材1
5が動かないことを意味する。
したがって,仮に,本願発明のストッパが,原告が主張するような「角隅部か
ら動かない」というものであると仮定しても,引用例の「カード位置決め部材1
5」はICカードの使用時には「保持され」て動かないものであるから,この点
においても相違はなく,本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(3)新規性の判断の誤りについて
以上のとおり,本件審決の対比判断に誤りはない。
2取消事由2(進歩性の判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本願発明と引用発明との用途の違いについて
ア引用発明は,コンピュータ機器と一体で使用するだけでなく,コンピュー
タ機器と一体で「運搬」が行われることも意図して用いられるものであり(【0
005】),そのため,引用発明においては,ICカードが完全に挿入されると,
位置決め部材保持手段がカード位置決め部材を奥行側の所定の位置に保持し(【0
018】),外部ケースに設けられたカード保持手段がICカードを保持する(【0
020】)構成となっている。
イ本願明細書の記載によると,本願発明は情報処理装置への「一時的な」挿
入を意図したものであり,当該「一時的な」挿入において,マイクロコンピュー
タまたは他の情報処理装置がPCMCIA基準により課せられた寸法を遵守して
いなかったとしても,また,スロット幅に関する実際の許容範囲が製品ごとにあ
るいは製品の種類ごとに異なっていたとしても,プラグイン・リムーバブル・カ
ード上にICカードを正確に位置決めできるようにすることを意図して発明され
たものである。
ウよって,本願発明と引用発明とは,用途も,発明の着想に到った背景も,
全く異なる。
(2)本願発明と引用発明との作用効果の相違について
ア本願発明においては,ストッパを「外部コネクタ(11)側であって,厚
寸部分(19),縁部(20)および薄寸部(18)の間に配置されたカード(1
0)の角隅部に位置する(角隅部から動かない)」という構成を採用したことに
より,「PCMCIAカードの寸法を変更すること無く」,ICカードをPCM
CIAカードに正確に案内かつ位置決めさせるという本願発明の課題が解決でき
るようになったのに対し,引用発明においては,「PCMCIAカードの寸法を
変更すること無く」,ICカードをPCMCIAカードに正確に案内かつ位置決
めさせ得る手段について,全く検討がなされていない。
被告は,「寸法」とは「幅」のことであると主張するが,カードの「寸法」は
「幅」と「長さ」の両方を意味し,本願発明の課題は「長さ」についても変更し
ないものである。
イ引用例の「カード位置決め部材」は,スライドバーを通すため,また,引
張りばね(付勢手段)21による復元力とフック23とに対する機械的耐性を保
持するために,かなりの厚みを有していなければならない。
ウ引用発明のカード位置決め部材15は,メインフレーム10又はメインフ
レーム10に一対設けられた支持片部10aに対して余分な厚みを有している。
エ引用発明の構成は,複雑なものであり,必然的にPCMCIAカードの長
さはより長いものとなり,本願発明の課題を解決できない。
(3)進歩性の判断の誤りについて
本願発明と引用発明との間には,用途や作用効果の相違もあり,引用例には,
そもそも,「位置決め部を,外部コネクタ(11)側であって,厚寸部分(19),
縁部(20)および薄寸部(18)の間に配置されたカード(10)の角隅部に
位置する(角隅部から動かない)ように構成しよう」とする動機付けや示唆がな
い。よって,本願発明は,その出願前に日本国内において頒布された刊行物に
記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでは
なく,特許法29条2項の規定に該当しない。
〔被告の主張〕
(1)本願発明と引用発明との用途の違いについて
ア引用例の【0018】【0020】に記載されている構成は,「ICカー
ドの情報処理装置」に対し「ICカード」を固定するための構成であるが,「コ
ンピュータ機器」に対して「ICカードの情報処理装置」を固定するための構成
ではない。
一方,引用例の【0005】には,「ICカードの情報処理装置」を「コンピ
ュータ機器」と一体で運搬が行える旨が記載されている。すなわち,ここで一体
で運搬が行えるのは,「コンピュータ機器」と「ICカードの情報処理装置」で
あり,「ICカード」と一体で運搬が行えることは,【0005】には記載され
ていない。
このように,【0005】において一体で運搬が行える対象物(「コンピュー
タ機器」と「ICカードの情報処理装置」)と,【0018】【0020】記載
の構成によって固定される対象物(「ICカードの情報処理装置」と「ICカー
ド」)とは一致しない。よって,【0005】の「一体で運搬」を行うために【0
018】【0020】に記載の構成が設けられている旨の原告の主張は失当であ
る。
イ本願発明は情報処理装置への「一時的な」挿入を意図しているものである
との原告の主張が,情報処理装置に「ICカード」が一時的に挿入されるという
趣旨であると仮定したとしても,本願明細書には「ICカード」の挿入が「一時
的」なものである趣旨の記載や示唆はないから,原告の主張は本願明細書に基づ
かない主張である。
仮に,本願発明において「ICカード」の挿入が「一時的」であると仮定して
も,引用例においても,ICカードは「排出」されるものであるから(【003
7】),引用発明におけるICカードの挿入も一時的なものであることは明白で
あり,したがって,本願発明と引用発明との間に原告が主張するような用途の相
違はない。
また,原告の上記主張が,情報処理装置に「プラグイン・リムーバブル・カー
ド」が一時的に挿入されるという趣旨であると仮定した場合,本願発明において
「一時的な挿入」が「リムーバブル」という意味であることは,本願明細書の記
載から明白である。一方,引用発明の「ICカードの情報処理装置」は,「コネ
クタ」を用いてコンピュータ機器と接続されているから,当該「ICカードの情
報処理装置」もリムーバブルであることは明らかである。
したがって,リムーバブルすなわち挿入が一時的であるという用途は,本願発
明も引用発明も同じであり,相違しない。なお,仮に,本願発明において「一時
的な挿入」が「リムーバブル」という意味ではないと仮定すると,請求項1には
挿入が一時的であるという用途を特定する記載は存在しないから,当該用途が相
違する旨の原告の主張は,そもそも根拠がないこととなる。
ウ引用例の【0028】【0033】の記載のとおり,引用発明においても,
コンピュータ機器のメモリカード用スロットの寸法が基準を遵守していない場合
や,該スロットの幅に関する実際の許容範囲が製品や製品の種類ごとに異なって
いる場合であっても,「ICカードの情報処理装置」に対して「ICカード」を
正確に位置決めできているから,同様の意図に基づき発明されたものである。
(2)本願発明と引用発明との作用効果の相違について
ア本願発明におけるストッパが「角隅部から動かない」という構成を採用し
ていることは,請求項1に記載も示唆もない。
また,原告は,本願発明では「PCMCIAカードの寸法を変更すること無く」,
ICカードをPCMCIAカードに正確に案内かつ位置決めさせるという課題が
解決できるようになったと主張するが,請求項1には何ら「PCMCIAカード」
を特定する記載も示唆もない。
なお,原告が主張する「PCMCIAカード」が「リムーバブル・プラグイン
・カード」の誤記であると仮定しても,同様の課題は引用発明においても解決さ
れているので,前記主張が失当であることに変わりはない。すなわち,引用発明
は,「コンピュータ機器のメモリカード用スロットに挿入できる外形形状を有す
る」から,既存の「メモリカード」と同等の寸法を有している必要があることは
当然であり,したがって,引用発明においても「ICカードの情報処理装置」の
寸法を変更する必要がないことは明らかである。また,引用発明は,ICカード
を「ICカードの情報処理装置」に正確に案内かつ位置決めできている。
イ仮に,「ICカードの情報処理装置」の「カード位置決め部材」が,原告
主張のように「かなりの厚み」を有していると仮定しても,引用発明は,「コン
ピュータ機器のメモリカード用スロットに挿入できる外形形状を有する」もので
あるから,「ICカードの情報処理装置」の寸法を変更する必要はない。
ウ引用例のカード位置決め部材15は「メインフレーム10又はメインフレ
ーム10に一対設けられた支持片部10aに対して余分な厚みを有している」こ
とは引用例には記載も示唆もない。
また,仮に,原告が主張するように,引用例のカード位置決め部材15が「メ
インフレーム10又はメインフレーム10に一対設けられた支持片部10aに対
して余分な厚み」を有していると仮定しても,引用発明は,「コンピュータ機器
のメモリカード用スロットに挿入できる外形形状を有する」ものであるから,「I
Cカードの情報処理装置」の寸法を変更する必要がないことは明らかである。
エ引用発明の構成は,複雑なものであり,必然的にPCMCIAカードの長
さはより長いものとなり,本願発明の課題を解決できないとの原告の主張は,以
下のとおり誤りである。
(ア)本願明細書に,「もしリムーバブル・プラグイン・カードの幅を変更す
ると,その寸法は」とあるように,本願明細書の文脈において「寸法」とは「幅」
のことであり,「長さ」のことでないことは明らかである。すなわち,本願明細
書にはリムーバブル・カードの「幅」を変更しないという課題を解決することは
記載されているが,リムーバブル・カードの「長さ」については一切検討が行わ
れていない。したがって,本願発明の「上述の課題」が「長さ」を変更しないも
のを含む趣旨の原告の主張は失当である。なお,本願明細書の文脈に基づき,本
願明細書の前記「寸法」が「幅」を意味するものと正しく解釈したとしても,引
用発明においても「幅」を変更しないという課題が解決済みであることは,上記
のとおりである。
(イ)請求項1には,リムーバブル・プラグイン・カードの長さを特定するこ
とは記載も示唆もないので,請求項1の記載は,長いリムーバブル・プラグイン
・カードを含むことも排除していない趣旨であることは明らかである。
(ウ)そもそも,請求項1には,何ら「PCMCIAカード」を特定する記載
も示唆もない。
(エ)構成が複雑であるからといって,「必然的」に長さが長くなるとは限ら
ない。
(3)進歩性の判断の誤りについて
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて容易に発明することができる。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(新規性の認定判断の誤り)について
(1)本願発明に係る「ストッパ」について
ア原告は,本願発明のストッパは「角隅部に位置する」ものであり,これは,
「角隅部から動かない」という意味である旨主張する。
イ「位置する」との用語は,必ずしも固定されて動かない物にのみ用いられ
る用語ではなく,「角隅部に位置する」との記載のみをもって,ストッパが動か
ないものであると判断することはできない。また,請求項1には「ストッパ自体
を静止させる構造」について記載されていないところ,特定の構造が特許請求の
範囲に記載されていないことは,一般に,請求項に係る発明が当該構造を有する
場合も有しない場合も含むと解すべきであるから,特許請求の範囲の記載からは,
本願発明における「角隅部に位置する」とは「角隅部から動かない」という意味
であると一義的に解釈することはできない。
よって,本願発明のストッパの「角隅部に位置する」とは,特許請求の範囲の
記載からは,ストッパが動く態様及び動かない態様の双方とも包含すると解釈す
る余地があり,その技術的意義を一義的に明確に理解することができない。そこ
で,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することとする。
ウ本願明細書(甲5)には,「各ストッパは,…厚寸部分19,縁部20お
よび薄寸部分18の間に位置せしめられたカードの角隅部のひとつに位置せしめ
られ」と記載されている(8頁11∼13行)。また,実施例においては,スト
ッパ15は,例えば,接着,鋳造成形により,又は分離可能な要素としてカード
10の「主要面14に固定」されることが記載されている。さらに,図3におけ
るストッパ21もまた,「リムーバブル・カード10の厚寸部分19,縁部20
および薄寸部分18との間に位置せしめられた角部」において,例えば接着など
により「固着」されていることが記載されている。
他方,発明の詳細な説明の記載全体を参照しても,ストッパは「固定されてい
る」ものとして説明されており,ストッパを移動可能なものとすることの記載も
示唆もない。
よって,ストッパは,ICカードの挿入の最終段階で正確な位置決めを行うこ
とができるようカードの角隅部に位置し,分離可能な要素としての態様を含むと
しても,少なくとも,カードの使用時においてはカードの主要面に固定又は固着
されているといえるから,本願発明のストッパは,「角隅部から動かない」もの
であると認定することができる。
エそうすると,本願発明のストッパの「角隅部に位置する」とは,ストッパ
が固定又は固着されて「角隅部から動かない」という意味であると解される。
(2)引用発明の位置決め部について
ア本件審決は,引用例(甲1)には,前記第2の3(2)のとおりの引用発明が
記載され,引用発明の「コネクタ」の「カード挿入口」側には「薄寸部」(「メ
インフレーム10」,「カバー11」,「回路基板38」によって構成される部
分)が形成されており,当該「コネクタ」の「カード挿入口」側の面は「カード
の外部コネクタ側に配設された部分を,該カードの残りの部分により形成される
薄寸部分から分離する縁部」といえると認定した(7頁23∼28行)。そして,
引用発明における「前記位置決め部」は「2つ設けられて」いるとともに,「前
記カード挿入口から挿入されたICカードの先端角部と接触する」ものであり,
しかも,当該「位置決め部」は「装置本体内に設けられ」た「カ―ド位置決め部
材」が有しているものであるとの認定に基づいて,引用発明も本願発明と同様に
「前記案内機構は,1個または2個のストッパを含み,該ストッパは,外部コネ
クタ側であって,厚寸部分,縁部および薄寸部の間に配置されたカードの角隅部
に位置する」ものであると認定した(8頁21∼29行)。
イしかしながら,引用例(甲1)の記載によれば,引用例の「位置決め部1
6」は,カ―ド位置決め部材15のICカード6の先端角部6a,6aと接触す
る傾斜面のことであり(【0014】),カード位置決め部材15は,2本のス
ライドバー20,20により,ICカード6の挿入方向に沿って移動可能に支持
されるものであるから(【0015】),「位置決め部16」も移動可能に形成
されている。
そして,ICカ―ド6が完全に挿入された状態において,カード位置決め部材
15に突設されたフック23が第1ラッチ25と係合し(【0019】),カー
ド位置決め部材15が奥行側の位置P2に保持される(【0018】)としても,
当該保持された状態は,ICカ―ド6が完全に挿入されてフック23と第1ラッ
チ25とが係合しているときの一時的なものにすぎないから,「位置決め部16」
が,ICカードの情報処理装置のメインフレーム10に対して,固定又は固着さ
れて動かないものであるということはできない。
(3)本願発明と引用発明との一致点の認定について
ア前記(1)のとおり,本願発明のストッパの「角隅部に位置する」とは,スト
ッパが固定又は固着されて「角隅部から動かない」という意味であるのに対し,
前記(2)のとおり,引用発明の「位置決め部」は,カード位置決め部材が奥行側の
位置に保持された状態において,「外部コネクタ側であって,厚寸部分,縁部お
よび薄寸部の間に配置されたカードの角隅部」に一時的に保持されるといえると
しても,「位置決め部」は,ICカードの情報処理装置のメインフレームに対し
て,固定又は固着されるものではない。
イしたがって,引用発明の位置決め部は,本願発明における「角隅部に位置
する」(角隅部から動かない)ものではないから,本願発明と引用発明との一致
点として,「該ストッパは,外部コネクタ側であって,厚寸部分,縁部および薄
寸部の間に配置されたカードの角隅部に位置する」ことを認定することはできな
い。
ウよって,本願発明と引用発明との一致点についての本件審決の認定は,誤
りであり,原告主張の取消事由1は理由がある。
2取消事由2(進歩性の判断の誤り)について
(1)相違点に係る構成の容易想到性
ア前記1(3)のとおり,本願発明と引用発明との相違点は,要するに,本願発
明は,「該ストッパは,外部コネクタ側であって,厚寸部分,縁部および薄寸部
の間に配置されたカードの角隅部に位置する」のに対して,引用発明は,ストッ
パに相当する位置決め部が,「角隅部に位置する(角隅部から動かない)」もの
ではない点である。以下,当該相違点について検討する。
イ引用例には,以下の記載がある(甲1)。
引用例記載の装置は,ICカード6を押込むと,カード位置決め部材15の傾
斜面からなる位置決め部16,16に,ICカード6の円弧状を呈する先端角部
6a,6aが当接し(【0028】),この当接(接触)することによってIC
カード6の左右で生じる接触力により,ICカード6が完全に挿入された状態,
すなわちカード位置決め部材15が奥行側の位置P2に到達した状態において,
ICカード6は正しく位置決めされる(【0029】)。また,正しく位置決め
された時点で,接触端子35とICカード6のICモジュール39のコンタクト
部とが正しい位置関係にて接触し(【0033】),情報の処理がなされる。
ウしたがって,引用例記載の装置においては,位置決め部16は,ICカー
ド6が完全に挿入された状態において,ICカードを正しく位置決めするという
機能を果たすことが求められるから,ICカード6を一番奥に差し込んだ状態で,
ICカード6の円弧状の先端角部6a,6aが位置決め部16と当接するような
配置,すなわち,カード位置決め部材15が奥行側の位置P2に到達した状態に
おける位置決め部16の位置に,最終的に存在することが必要であり,少なくと
も,ICカード6の位置決めを行ってコンピュータ機器2がICカ―ド6内の情
報を処理する間は,位置決め部16が動かない状態にあることがその目的から当
然に求められることである。そして,引用例にも,ICカード6が完全に挿入さ
れた状態において,カード位置決め部材15は位置決め部材保持手段22(フッ
ク23と第1のラッチ25)によって奥行側の位置P2に保持されること(【0
018】【0019】)が開示されている。
そして,引用例記載の装置は,リリース釦30を押すと,ICカード6がカー
ド挿入口14に排出されるように,カード位置決め部材15が引張りばね21の
付勢力により手前側位置P1に戻る構造を備えている。他方,実願平4−566
77号(実開平6−19052号)のCD−ROM(甲2)に記載の「メモリカ
ード用アダプタ」や,米国特許第5375037号明細書(甲3)に記載の「M
EMORYCARD」のように,メモリカードやクレジットカード等のカード
情報の読み取り装置であって,カードの排出機構を備えていないものは,従来か
ら周知である。そうすると,このようなICカードを排出する機構を不要とする
ことは,装置構造の単純化と装置の利便性との兼ね合いを考慮しつつ,当業者が
適宜選択し得ることにすぎないと解される。そして,ICカードの位置決め機能
のみを有し,排出機能を不要とする場合は,カード位置決め部材15を移動可能
とすることは不要となるから,カード位置決め部材15を奥行側の位置P2にお
いて常に保持された状態のままとすること,すなわち,位置決め部16を,IC
カード6が完全に挿入された状態でICカード6の先端角部6a,6aが当接す
る位置に固定的に保持することも,当業者が必要に応じて適宜なし得ることと解
される。
そして,固定のための手段として,接着,鋳造成形等は,いずれも周知慣用の
技術であって,これらの手段を採用して位置決め部16を固定することに格別の
困難性もない。
エよって,引用例記載の装置において,カード位置決め部材15が奥行側の
位置P2にあるときの位置決め部16の位置は,本願発明の「外部コネクタ側で
あって,厚寸部分,縁部および薄寸部の間に配置されたカードの角隅部」に相当
すると解されるから,引用発明において,位置決め部16を固定し,「ストッパ
は,外部コネクタ側であって,厚寸部分,縁部および薄寸部の間に配置されたカ
ードの角隅部に位置する(角隅部から動かない)」ようにすることは,当業者が
容易に発明することができるものというべきである。
(2)本願発明と引用発明との用途の違いについて
ア原告は,引用発明は,コンピュータ機器と一体で使用するだけでなく,コ
ンピュータ機器と一体で「運搬」を行うことも意図して用いられるものであり,
そのため,ICカードが完全に挿入されると,位置決め部材保持手段がカード位
置決め部材を奥行側の所定の位置に保持し,外部ケースに設けられたカード保持
手段がICカードを保持する構成となっているのに対し,本願発明は,情報処理
装置への「一時的な」挿入を意図したものであり,当該「一時的な」挿入におい
て,プラグイン・リムーバブル・カード上にICカードを正確に位置決めできる
ようにすることを意図して発明がなされたものであると主張する。
イしかしながら,原告が主張する引用例の「位置決め部材保持手段22」(【0
018】)及び「カード保持手段26」(【0020】)の構成は,「ICカー
ドの情報処理装置」に対し「ICカード」を保持するための構成であって,「コ
ンピュータ機器」に対して「ICカードの情報処理装置」を保持したり固定した
りするための構成ではない。また,引用例の【0005】には,「ICカードの
情報処理装置」を「コンピュータ機器」と一体で運搬が行えることが記載されて
いるが,「コンピュータ機器」と「ICカード」とを一体で運搬することは記載
されていない。
したがって,引用例の【0005】において一体で運搬することを意図した対
象物(「コンピュータ機器」と「ICカードの情報処理装置」)と,【0018】
及び【0020】記載の構成によって固定される対象物(「ICカードの情報処
理装置」と「ICカード」)とは一致しないから,引用発明の構成に関する原告
の上記主張は,失当である。
ウまた,本願発明が情報処理装置への「一時的な」挿入を意図したものであ
るとしても,本願明細書(甲5)の「本発明は,マイクロコンピュータ(すなわ
ち,パーソナル・コンピュータもしくはPC)への,または一般的な情報処理装
置への一時的な挿入を意図したプラグイン・リムーバブル・カードに関する。」
(1頁4∼7行)との記載によれば,本願発明において,「一時的な」挿入とは,
「リムーバブル」であることを意味しているにすぎないと解される。そして,「プ
ラグイン・リムーバブル・カード」である点については,引用発明も同様である
から,情報処理装置への「一時的な」挿入を意図したという用途は,本願発明も
引用発明も同様である。
そして,プラグイン・リムーバブル・カード上にICカードを正確に位置決め
できるようにすることについては,引用例にも,「このICカード6の左右で生
じる接触力により,ICカード6が完全に挿入された状態,換言すればカード位
置決め部材15が奥行側の位置P2に到達した状態においては,ICカード6は
正しく位置決めされる。」(【0029】)及び「ICカード6は,カード位置
決め部材15に対して位置決めされており,また接触端子35もカード位置決め
部材15に固定されているので,接触端子35とICカード6のICモジュール
39のコンタクト部とが正しい位置関係にて接触することができる。」(【00
33】)との記載があるから,引用発明においても,コンピュータ機器のメモリ
カード用スロットが基準により課せられた寸法を遵守していない場合や,該スロ
ットの幅に関する実際の許容範囲が製品あるいは製品の種類ごとに異なっている
場合であっても,カード位置決め部材の作用により,「ICカードの情報処理装
置」に対して「ICカード」を正確に位置決めできると解される。
よって,引用発明も本願発明と同様の用途を意図する発明であるということが
できる。
したがって,本願発明と引用発明の用途に違いはなく,原告の主張は採用する
ことができない。
(3)本願発明と引用発明との作用効果の相違について
ア原告は,本願発明においては,ストッパを,カードの角隅部に位置する(角
隅部から動かない)構成とすることにより,「PCMCIAカードの寸法を変更
すること無く」,ICカードをPCMCIAカードに正確に案内かつ位置決めさ
せることができるのに対して,引用発明においては,「PCMCIAカードの寸
法を変更すること無く」,ICカードをPCMCIAカードに正確に案内かつ位
置決めさせ得る手段について,全く検討がなされていないと主張する。
イしかしながら,本願明細書には,発明の課題として,「PCMCIAカー
ドの寸法を変更すること無く,ICカードをPCMCIAカードに正確に案内か
つ位置決めさせ得る手段を探求することである。」(4頁15∼17行)との記
載はあるものの,特許請求の範囲には,本願発明の「リムーバブル・プラグイン
・カード」はPCMCIAカードの寸法であることが特定されていないから,原
告の指摘する点をもって,本願発明と引用発明との相違点と解することはできな
い。
なお,本願明細書において,プラグイン・リムーバブル・カードに関し,「こ
れらのカードは一般的にPCMCIAカードとして知られており」(1頁8行)
と記載されているが,上記記載は,本願発明のカード形状がPCMCIA基準で
あることを定義付ける記載とはいえない。本願明細書には,「もしリムーバブル
・プラグイン・カードの幅を変更すると,その寸法はPCMCIA基準の要件に
もはや適合しなくなる。」(4頁13∼14行)と,リムーバブル・プラグイン
・カードの幅の変更の可能性についても言及されているから,「リムーバブル・
プラグイン・カード(プラグイン・リムーバブル・カード)」の一般的・代表的
なものがPCMCIAカードであるとしても,それがPCMCIA基準の要件に
適合するもののみを意味する用語であるということはできない。よって,原告の
上記主張は採用できない。
ウもっとも,本願発明は,「マイクロコンピュータ用リムーバブル・プラグ
イン・カード」であるから,マイクロコンピュータのスロットに挿入するために
適した形状を有するものと解することはできるが,この点については,引用発明
も「コンピュータ機器のメモリカード用スロットに挿入できる外形形状を有する」
(請求項1)ものであって,「コンピュータ機器の規格化されたメモリカード用
スロットに挿入接続が可能」(【0005】)であるから,本願発明と同様に,
従来のメモリカードの規格(PCMCIA規格)の幅,厚みを変更することなく,
ICカードを「ICカードの情報処理装置」に正確に案内かつ位置決めさせ得る
との課題を解決するものである。
したがって,本願発明と引用発明の課題及び作用・効果に格別の差異はなく,
本願発明は,予測し得ない作用・効果を奏するものとはいえない。
エなお,原告は,カードの「寸法」は「幅」と「長さ」の両方を意味し,本
願発明の課題が「長さ」についても変更しないものである旨主張するが,本願明
細書には,「通常,PCMCIA基準に準拠するカード10の寸法は,約5.4
cm×8.5cmであり,厚さは約3mm乃至5mmである。」(5頁24∼2
6行)との一般的な記載と,単に,「PCMCIAカードの寸法を変更すること
無く」との記載(4頁15∼16行)があるのみであって,「長さ」を変更しな
いことの明示的な記載や作用・効果に関する記述はない。むしろ,その従来技術
に関して,「リムーバブル・カードの幅を変更せずにICカードを沿わせるのは
不可能である。この点,もしリムーバブル・プラグイン・カードの幅を変更する
と,その寸法はPCMCIA基準の要件にもはや適合しなくなる。」(4頁11
∼14行)という記載のとおり,リムーバブル・カードの「幅」についてのみ言
及されていることに鑑みれば,本願発明における「寸法」とは,特に「幅」を意
味し,「長さ」は考慮されていないというべきである。
(4)原告の主張について
ア原告は,引用例にはそもそも,「位置決め部を,外部コネクタ(11)側
であって,厚寸部分(19),縁部(20)および薄寸部(18)の間に配置さ
れたカード(10)の角隅部に位置する(角隅部から動かない)ように構成しよ
う」とする動機付けや示唆が全くない旨主張する。
イしかしながら,前記(2)のとおり,引用例記載の装置は,ICカードが完全
に挿入された状態,換言すればカード位置決め部材が奥行側の位置に到達した状
態において,ICカードは正しく位置決めされ,接触端子とICカードのICモ
ジュールのコンタクト部とが正しい位置関係にて接触し,コンピュータ機器がI
Cカ―ド内の情報を処理するものであるから,位置決め部はカード位置決め部材
が奥行側の位置に到達した状態における位置に保持されることが,ICカードの
正確な位置決めの観点から不可欠である。
そして,引用例には,位置決め部が,上記カード位置決め部材が奥行側の位置
に到達した状態における位置から移動しないように,ラッチとフックにより保持
することが開示されている。そうすると,引用発明は,位置決め部をその場に持
続的に留める態様も内在しているということができ,この態様は,位置決め部を
動かないようにする示唆ということができる。したがって,引用発明には,「角
隅部に位置する(角隅部から動かない)」ようにすることの示唆が存在するとい
うことができる。
(5)小括
以上のとおり,本願発明は引用発明に基づいて容易に発明をすることができた
ものである。よって,取消事由2は理由がない。
3結論
以上の次第であるから,本願発明は,引用発明と同一とはいえないが,引用発
明に基づいて容易に発明することができたものであって,原告主張の取消事由2
は理由がなく,原告主張の取消事由1に関する本件審決の誤りはその結論に影響
しないので,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官高部眞規子
裁判官井上泰人

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