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平成26年5月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成25年(ワ)第11508号特許権実施料等請求事件
口頭弁論終結日平成26年3月19日
判決
沖縄県宜野湾市<以下略>
原告Aⅰ
同訴訟代理人弁護士鮫島正洋
同栁下彰彦
福岡市中央区<以下略>
被告AURALSONIC株式会社
同訴訟代理人弁護士金川征司
主文
1被告は,原告に対し,376万円及びうち250万円に対する平成24年7
月1日から,うち90万円に対する平成24年9月2日から,うち35万円に
対する平成24年11月13日から,うち1万円に対する平成25年5月11
日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2当事者の主張
本件は,原告が,被告に対し,①原被告間の技術指導契約に基づく対価25
0万円及び遅延損害金,並びに②専用実施権者と被告との間の,原告を受益者
とする通常実施権許諾契約に基づく許諾の対価合計126万円及び遅延損害
金,の支払を求める事案である。
1請求原因
(1)当事者
被告は,調音材の製造・販売を行っている株式会社である。
(2)250万円の請求について
ア原告と被告は,平成24年5月1日以前,吸音材/遮音材の開発につ
き,原告が被告に対して有償で技術指導を行う契約を締結した((((以下以下以下以下「「「「本本本本
件技術指導契約件技術指導契約件技術指導契約件技術指導契約」」」」というというというという。)。)。)。)。
イ平成24年5月1日時点で,本件技術指導契約に基づき被告が原告に支
払うべき未払報酬は250万円(消費税別)であった。
ウ原告は,Aⅱを代理人として,被告との間で,平成24年5月1日,上
記250万円の弁済期を平成24年6月30日と合意した。
(3)126万円の請求について
ア本件特許権
原告は,吸音構造に係る発明に関して次の特許権((((以下以下以下以下「「「「本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権」」」」
というというというという。)。)。)。)を有している。
特許番号第4728331号
発明の名称吸音構造
登録日平成23年4月22日
イAⅱへの専用実施権設定
原告は,平成24年4月18日,Aⅱに本件特許権の専用実施権を設定
し,同月19日,特許庁に設定登録された。
ウ本件契約
Aⅱと被告は,平成24年5月1日,以下の内容の通常実施権許諾契約
(甲5。以下以下以下以下「「「「本本本本件件件件契約契約契約契約」」」」というというというという。。。。)を締結した。
(ア)実施許諾・実施権の範囲(2条)
Aⅱは,被告に対し,原告の承諾を得て,本件特許権の専用実施権に
基づき,日本国内において契約製品(本件特許権又は専用実施権に基づ
いて製造された製品をいう。)を製造し,また被告が代理店契約をし
た者に対して契約製品を販売し,さらにAⅱの求めに応じて,Aⅱ
の指示する者に,契約製品を販売することを内容とする通常実施権
を許諾する。
(イ)対価(5条)
被告は,通常実施権許諾の対価として,原告に対して,毎月以下の金
額を支払う(月末締め翌月末支払)。
180cm×90cmのサイズのものを基本として,1000枚ま
で,工場出荷価格の5%とし,それを超えた枚数の場合,その枚数を超
えた分から工場出荷価格の3%を,被告が原告に支払う。1か月間の総
支払額が30万円(税別)に満たない場合,被告は,原告に月額保証金
として30万円(税別)を支払う。
エ受益の意思表示
(ア)本件契約は,Aⅱを要約者,被告を諾約者,原告を受益者とする第
三者のためにする契約であるところ,原告は,平成24年5月~7月分
の対価(月額保証金)合計90万円につき,Aⅱを代理人として,平成
24年8月31日,被告に対し,「催告書兼解除予告通知書」(甲6の
1)により受益の意思表示を行い,同書面は同年9月1日被告に到達し
た。
(イ)原告は,平成24年8月分の対価(月額保証金)30万円及び本件
契約が解除された平成24年9月6日までの9月分の日割り対価のうち
9月1日~5日分の対価(月額保証金)5万円の合計35万円につき,
原告代理人弁護士を代理人として,平成24年11月8日,被告に対
し,通知書(甲7の1)により受益の意思表示を行い,同書面は同月1
2日被告に到達した。
(ウ)原告は,平成24年9月6日分の対価(月額保証金)1万円につ
き,本件訴状をもって受益の意思表示を行い,本件訴状は平成25年5
月10日被告に送達された。
(4)よって,原告は,被告に対し,
ア本件技術指導契約に基づく対価250万円及びこれに対する弁済期の翌
日である平成24年7月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合
による遅延損害金
イ本件契約に基づく実施権許諾の対価として,
(ア)平成24年5月~7月分の対価90万円及びこれに対する受益の意
思表示の翌日である平成24年9月2日から支払済みまで商事法定利率
年6分の割合による遅延損害金
(イ)平成24年8月分の対価30万円及び同年9月1日~5日分の対価
5万円の合計35万円及びこれに対する受益の意思表示の翌日である平
成24年11月13日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合によ
る遅延損害金
(ウ)平成24年9月6日分の対価1万円及びこれに対する受益の意思表
示の翌日である平成25年5月11日から支払済みまで商事法定利率年
6分の割合による遅延損害金
の支払を求める。
2請求原因に対する認否
(1)当事者
認める。
(2)250万円の請求について
本件契約締結以前に,被告が原告に対して,技術指導等のアドバイスを受
けていたこと,未払報酬が250万円であったこと,弁済期を平成24年6
月30日と合意したことは認めるが,上記250万円については,技術指導
の対価だけではなく,被告が本件特許権を利用することに対する対価も含ま
れていた。
(3)126万円の請求について
ア本件特許権
認める。
イAⅱへの専用実施権設定
認める。
ウ本件契約
認める。
エ受益の意思表示
本件契約が原告のためにAⅱとの間で締結された契約であること,それ
ぞれの書面が被告に到達したことは認める。
3抗弁
(1)錯誤
ア被告は,本件契約の前後を通じ,吸音材「AURALSONIC」
((((以下以下以下以下「「「「被告製品被告製品被告製品被告製品」」」」というというというという。)。)。)。)を販売している。
イ被告は,原告に対し,本件契約を締結する以前,原告からアドバイスを
受ける対価や,本件特許権を使用するライセンス料として,平成21年1
月31日から平成23年10月31日にかけて,計1375万円の支払を
行った。
その際,被告は,原告から,本件特許権について,世界特許であるか
ら,と言われたため,上記支払を行ってきた。
その後,被告は,Aⅱから,本件特許権は世界特許ではなく,被告製品
は,本件特許権では全く保護されないと告げられた。被告は,Aⅱの助言
を受け,支払を行わなくなった。
ウ被告は,平成23年4月8日,「吸音材積層構造」につき,特許協力条
約に基づく国際出願(PCT/JP2011/058944。以下以下以下以下「「「「被告被告被告被告
PCTPCTPCTPCT出願出願出願出願」」」」というというというという。。。。乙1)を行っているが,これは,Aⅱから,被告製
品が本件特許権により保護されないと告げられたため,被告製品につき国
外においても保護を受ける目的で出願したものである。
エAⅱは,被告に対し,平成24年3月になり,「やっぱりAⅰの特許で
御社の製品は守られるよ」と告げた。なお,Aⅱは,当時,被告のため
に,「AURALSONIC」の登録商標を代理人として行い,また,
被告PCT出願の補正についても助言を行っていた。
被告は,弁理士であるAⅱからこのように告げられたため,平成24年
5月1日,本件契約の締結に至った。
オ被告は,被告製品の販売を継続する中で,取引先等の弁理士などから,
本件特許権と被告製品の構造は別のものであり,本件特許権では被告製品
は保護されないのではないかとの指摘を受けるようになった。
被告は,上記指摘を受け,Aⅱに対し,本件特許権によって被告製品が
保護されるのか尋ねたところ,Aⅱは,そのような疑義を呈すること自体
が,本件契約条項に反するなどとして,本件契約の解除をするなどと申し
向けた。
被告は,このようなやり取りから,本件特許権では,被告製品の保護は
されないし,別物であることが分かった。
すなわち,本件特許権に係る「特許請求の範囲」には請求項1~6の発
明が記載されているが,いずれも,「音波の通る音道につき,その断面構
成が,その入り側で開口面積の減少率が徐々に小さくなり,その出側で逆
に開口面積の増大率が徐々に大きくなるように構成された狭窄部を有す
る」ことを特徴としている((((以下以下以下以下「「「「本件構造本件構造本件構造本件構造」」」」というというというという。。。。))))。
一方,被告製品は,多孔質の略板状体とされる複数の吸音材と,中間介
在物を,粘着材組成物をもって一体化することを特徴とする吸音材構造を
有しており,本件構造を有していない。したがって,被告製品は,本件特
許権に係る特許発明((((以下以下以下以下「「「「本件発明本件発明本件発明本件発明」」」」というというというという。)。)。)。)の技術的範囲に属しな
い。
カ被告は,本件契約について,被告製品が本件発明の技術的範囲に含まれ
ており,保護されると信じたため,本件契約を締結したのであり,本件特
許権が被告製品に関係のないものであるならば,本件契約を締結する必要
性がなかった。
以上のとおり,本件契約は,被告製品が本件発明の技術的範囲に含まれ
ることを前提として締結されたものであるため,要素の錯誤があり,無効
である。
キ本件契約締結の際,本件発明の技術的範囲に被告製品が属することは当
然に動機として表示されていた。
ク本件技術指導契約に基づく250万円も,被告製品が本件特許権により
保護されることを前提とするものであり,同様に要素の錯誤により無効で
ある。
ケ被告に重過失があるとの原告の主張は争う。
(2)詐欺
ア本件契約は,契約当事者であるAⅱが,真実は,本件特許権は被告製品
を保護するものではないにもかかわらず,被告に対し,本件特許権が被告
製品を保護するかのように欺き,被告をその旨錯誤に陥れて締結させたも
のである。
イ被告は,平成25年7月18日第1回弁論準備手続期日において陳述し
た被告準備書面1をもって,本件契約を取り消す旨の意思表示をした。
4抗弁に対する認否及び反論
(1)抗弁(1)(錯誤)について
ア従前の対価250万円について
本件技術指導契約に基づく従前の対価250万円は,技術指導に対する
対価であってライセンス料ではないから,錯誤の主張は失当である。
被告自身,従前の対価250万円は技術指導の対価でもあることを認め
ており,仮に,本件発明の技術的範囲につき誤信があったとしても,これ
は,本件特許権につきライセンスを受けるか否かに関する誤信であるか
ら,250万円全額の支払義務を否定するものとはならない。
イそもそも,被告は,平成23年4月8日に被告PCT出願を行ってお
り,被告の主張に基づけば,この時点において,被告は,被告製品が本件
特許権により保護されていないことを認識していたことになる。
本件契約が締結されたのはその後の平成24年5月1日であるから,被
告は,本件契約締結時点においては,被告製品が本件特許権により保護さ
れていないことを明確に認識していたのであり,錯誤は存在しない。
ウ月額保証金が本件発明の実施とは無関係に支払われる性質のものである
こと
本件契約5条1項(1)によれば,1か月間の総支払額が30万円(税
別)を充たない場合,被告は,原告に月額保証金として30万円(税別)
を支払うとされており,被告は,被告製品の製造・販売にかかわらず,原
告に対して月額保証金(30万円)を支払わなければならない。
これは,月額保証金が,本件発明の実施(本件発明に係る製品の製造・
販売)とは無関係に毎月支払われるものであることを示している。「月額
保証金」という名のとおり,毎月支払うべき30万円は原告が受け取るべ
き「保証金」という性質を有する。
すなわち,月額保証金は,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するこ
とを前提として支払われる性質のものではない。それゆえ,技術的範囲の
属否に錯誤があるため本件契約は無効であるとの被告の主張は失当である。
エ要素の錯誤でないこと
上記ウのとおり,月額保証金は,本件発明の実施に対する対価ではない。
すなわち,被告は,被告製品が実施品(特許発明の技術的範囲に属する製
品)であるか否かとは無関係に,月額保証金を支払うことを約束したので
ある。
そうすると,仮に,本件発明の技術的範囲に被告製品が属するか否かに
つき誤信があったとしても,この誤信は,月額保証金支払の要否とは関係
がないので,本件契約締結の際の意思表示の重要な部分に関する錯誤とは
ならない。すなわち,上記誤信をもって「法律行為の要素に錯誤があっ
た」ということはできない。
オ動機の表示がないこと
仮に,本件発明の技術的範囲への被告製品の属否に関する錯誤があった
としても,この錯誤は動機の錯誤である。したがって,被告は,上記動機
をAⅱに表示し,これを前提とし本件契約を締結する必要があった。
ところが,本件においては,被告が,例えば,「被告製品が本件発明の
技術的範囲に属するものであって,本件特許権なくして被告製品を製造・
販売することはできない」旨を本契約締結前にAⅱに表示したという事実
はない。
そうすると,上記前提に立っても,動機の表示がなかった以上,被告の
錯誤無効の主張は失当である。
カ被告に重過失があること
被告は調音材の製造・販売を業として行う株式会社であり,①被告製品
の内容・構造を熟知し,本件特許権の内容を把握しており,両者を対比し
て判断する能力があり,②こうした判断を行う時間的余裕(本件特許権に
係る特許公報の発行から9か月間)も十分にあり,また,③判断が難しい
場合は他の弁理士のセカンドオピニオンを取得することも可能であった。
これらの状況に鑑みれば,被告は,自らに課せられた「本件特許権の特許
公報等を確認し,被告製品と本件特許権との抵触関係(侵害するか否か)
を判断して,本件特許権につき実施許諾を受けるか否かを決定すべき義
務」を果たすことは十分可能であるだけでなく,非常に容易であった。そ
れにもかかわらず,被告は,こうした義務を一切果たすことなく本件契約
を締結したのである。そうすると,本件契約締結につき,仮に錯誤があっ
たとしても,被告に重過失があったことは明らかである。
(2)抗弁(2)(詐欺)について
ア詐欺の主張は,本件契約に基づく対価(月額保証金)126万円の請求
に対する反論にしかならない。
イAⅱと被告のやり取りについては原告の知るところではないが,上記
(1)アのとおり,本件契約締結時に被告に錯誤は存在しない。
ウ上記(1)カのような状況に鑑みれば,被告は,自らに課せられた「本件
特許権の特許公報等を確認し,被告製品と本件特許権との抵触関係(侵害
するか否か)を判断して,本件特許権につき実施許諾を受けるか否かを決
定すべき義務」を果たすことは十分可能であるだけでなく,非常に容易で
あった。それにもかかわらず,被告は,こうした義務を一切果たすことな
く本件契約を締結したのである。そうすると,本件契約締結につき,Aⅱ
が被告を欺罔したというような事情がないことは明らかである。
第3当裁判所の判断
1請求原因事実は争いがない。
2錯誤無効の主張について
(1)被告製品の構造について
被告は,被告製品は本件構造を有しておらず,本件発明の技術的範囲に属
しないと主張する。
しかし,甲9,13(枝番含む。),15,16,乙3などを見ても,被
告製品が本件構造を有していないとも,逆に本件構造を有しているとも,認
めるに足りる記載はなく,被告製品の構造を認めるに足りる的確な証拠はな
いから,被告製品が本件構造を有していないとは認めるに足りない(むし
ろ,甲9,15,16には,被告製品が原告の開発による旨の記載があり,
甲9には「その技術は特許を取得している。」との記載があることから,被
告製品は本件発明の実施品であり,本件構造を有しているように推認される
ところである。)。
被告は,被告製品は被告PCT出願(乙1)に係る発明の実施品であっ
て,本件発明(甲2)の実施品ではない旨主張するようである。しかし,仮
に被告製品が被告PCT出願に係る発明の実施品であったとしても,被告P
CT出願に係る発明であれば本件発明の実施品ではあり得ないといった排他
的な関係があると認めるに足りる証拠はないから,被告製品が本件構造を有
しないということにはならない(被告は,錯誤の立証として乙4,5を提出
し,当裁判所はこれを時機に後れた攻撃防御方法として却下したが,仮に乙
4,5が提出されていたとしても,被告製品が本件構造を有しないとは認め
るに足りない。)。
(2)被告の錯誤について
被告は,Aⅱから,被告製品は本件発明の技術的範囲に属する旨の説明を
受けて,そのような錯誤に陥った旨主張する。
しかし,Aⅱや被告代表者の供述は証拠として提出されておらず,Aⅱ
が,いつ,どのような内容を被告に告げたのか,認めるに足りる証拠がな
い。
のみならず,仮に被告製品が本件構造を有しておらず本件発明の技術的範
囲に属しないのであれば,被告は,被告PCT出願を行った平成23年4月
8日時点において,被告製品の構造及び被告製品が本件発明の技術的範囲に
属しない旨を認識していたはずであるから,その後,Aⅱから,被告製品が
本件特許権により保護される旨を告げられただけで,被告製品が本件発明の
技術的範囲に属する旨の錯誤に陥ったというのは,不自然,不合理であっ
て,にわかに了解し難い。
(3)動機の錯誤の表示について
仮に,真実は,被告製品は本件構造を有しておらず本件発明の技術的範囲
に属しないのに,被告においてこれが技術的範囲に属する旨誤信しており,
そのことを前提に本件契約を締結したとしても,それは動機の錯誤であるか
ら,その動機が相手方に明示又は黙示に表示されて意思表示の内容となって
いなければ,本件契約の要素の錯誤となることはない。
これを本件についてみると,本件契約の契約書(甲5)には,被告製品の
製品名は明示されておらず,「本件特許乃至専用実施権に基づいて製造され
た製品」が「契約製品」と定義され,実施許諾の対価は,契約製品の工場出
荷枚数に応じて算定されるが,1か月間の総支払額が30万円に満たない場
合には30万円の月額保証金を支払うものとされている(甲5・5条1項
(1))。
また,本件契約に基づき被告が原告に支払った対価は,いかなる事由によ
る場合にも返還されないものとされている(甲5・5条2項)。
以上によれば,少なくとも契約書からは,被告製品が本件発明の技術的範
囲に属することが本件契約の内容として表示されているとは認められない。
契約書外でAⅱと被告との間でいかなるやり取りがあったかについては,
これを認めるに足りる証拠がない。
したがって,「本件契約は,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するこ
とを前提とする」との動機がAⅱに表示され,本件契約の内容として表示さ
れていたとは認められない。
(4)被告の重過失について
ある製品を製造販売する事業を行おうとする事業者には、特許公報等の資
料を検討し、対象製品と対象特許権との抵触関係(侵害するか否か)を判断
して、特許権者や専用実施権者からの許諾を受けるか否かを決定することが
求められているというべきである。
被告は,調音材の製造・販売を行っている株式会社であり(争いがな
い。),被告製品の構造は当然に認識しているはずであり,現に,被告PC
T出願を行った平成23年4月8日までには被告製品の構造を認識していた
はずである。
そして,本件契約時点(平成24年5月1日)までには,本件特許権に係
る特許公報(甲2)の発行(平成23年7月20日)から9か月以上の期間
があったのであるから,本件発明の技術的範囲と被告製品の構造を対比し,
疑問があれば他の弁理士等に相談することも可能であった。
しかるに,被告は,いったん被告製品が本件発明の技術的範囲外であると
Aⅱから説明を受け,原告に対する支払を停止したり,自ら被告PCT出願
を行ったりした経緯があり,その際には被告製品が本件発明の技術的範囲外
であると認識していたにもかかわらず,本件特許権の専用実施権者であり本
件契約の当事者であるAⅱから,被告製品が本件発明の技術的範囲に属する
旨を告げられただけでその旨誤信し,毎月最低30万円(年間最低360万
円)の支払義務を負うことになる本件契約を締結したというのであるから,
被告には重大な過失があったことが明らかである。
(5)以上によれば,錯誤無効の主張は,いずれにせよ理由がない。
3詐欺取消しの主張について
(1)被告製品が本件構造を有しないとは認められないこと,Aⅱと被告との
やり取りを認めるに足りる証拠がないこと,被告が錯誤に陥ったとは認めら
れないことは,上記2で判示したとおりである。
(2)したがって,詐欺取消しの主張も理由がない。
4以上によれば,原告の請求はすべて認められる。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判官
西村康夫
裁判長裁判官大須賀滋及び裁判官小川雅敏は,転補のため署名押印すること
ができない。
裁判官
西村康夫

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