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判決 平成14年4月12日 神戸地方裁判所 平成13年(わ)第1125号 道
路交通法違反事件
           主      文
     被告人を罰金8万円に処する。
     その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算
した期間被告人を労役場に留置する。
     訴訟費用は全部被告人の負担とする。
(罪となるべき事実)
被告人は,平成12年3月20日午前8時12分ころ,道路標識によりその最高
速度が50キロメートル毎時と指定されている神戸市a区b町c丁目d番付近道路
において,その最高速度を41キロメートル超える91キロメートル毎時の速度で
普通貨物自動車を運転して進行したものである。
(証拠の標目)
(省略)
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,被告人が本件当時走行していた速度は91キロメートル毎時ではな
いとして,本件速度測定の正確性を争っているので,当裁判所が前示のとおり認定
した理由について,以下補足して説明する。
2 前掲各証拠によれば,以下の事実が間違いのないものとして認められる。
 ① 兵庫県A警察署の警察官Bらは,平成12年3月20日午前6時11分ころ
から,神戸市a区b町c丁目d番付近道路において,H RS‐720DR形レー
ダスピードメータ(以下「本件速度測定装置」という。)を使用して,東方から西
方に向け進行してくる自動車について,速度違反の取締りを行っていたこと
 ② 本件速度測定装置は,ドップラー効果を応用して,送信した電波ビーム内を
走行する自動車に反射した電波を受信し,その周波数の変化から自動車の速度を測
定する装置であること
 ③ 本件速度測定装置については,本件前の平成11年11月29日と本件後の
平成12年6月5日に株式会社C関西支社の担当者により定期点検が行われ,精度
が保持され正常に作動することが確認されており,また,本件当日の速度違反の取
締りの前後においても,マニュアルどおり,道路に対して電波の投射角度が25度
になるように設置した場合の音叉試験を行い正常に作動することが確認されていた
こと
 ④ 被告人は,本件当日の午前8時12分ころ,普通貨物自動車を運転して,本
件現場付近道路を東方から西方に向け進行し,本件速度測定装置による速度測定の
結果,91キロメートル毎時の速度であったとして検挙されたこと
 以上の事実が認められる。
3 上記認定の事実によれば,何らかの誤測定があったとの合理的な疑いを容れる
余地のない限り,被告人が本件速度違反の罪を犯したことは間違いがないというべ
きであるから,そのような誤測定の可能性について,次に検討する。
(1) 送受信装置(レーダアンテナ)の設置角度について
 本件当日の速度違反の取締りにおいては,本件速度測定装置の送受信装置の
電波の投射角度を25度として速度測定を行っていたのであるから,電波の投射角
度が実際に25度になるように送受信装置が設置されていなければ,正確な速度が
測定できないことは明らかである。
 弁護人は,証人Bの当公判廷における供述(以下「B証言」という。)中
の,検察官からの,「(実況見分調書の図面の)橋脚と書かれている部分を狙って
送受信装置を設置したということですね。」との趣旨の質問に対し,「はい。」と
答えている部分や,弁護人からの,「なぜ,(照準を)のぞかなかったんです
か。」との質問に対し,「まあ,そう言われればそのとおりなんですけど。」と答
えている部分を指摘して,本件当日の速度違反の取締りにおいて,Bは,本件速度
測定装置の送受信装置の電波の投射方向をD高速道路の橋脚(e648)を狙って
設定しており,視準器(B証言等では「照準機」と表現されているが,E株式会社
作成のRS‐720D/DR形レーダスピードメータ説明書写し(甲16)によれ
ば,「視準器」が正しい。
)を用いて投射角度が25度になるように設定していないことが認められるという
のである。
 しかしながら,B証言は,送受信装置の設置の際に,照準棒を使用し,それ
に角度を0度に合わせ,道路の中央よりに25度でセットした旨いい,弁護人から
の,「照準機はのぞいて見ていないんでしょう。」との質問に対し,「照準機は当
然のぞきます。」と答えているのであって,弁護人の指摘するB証言の前記各部分
についても,その前後やこれに関連する部分をみれば,この橋脚は投射角度を25
度と設定するときのおよその目安であって,投射角度を25度と設置する場合の中
心から西側にずれていると思うが,どの程度ずれているかは視準器をのぞいてみな
いと分からないし,本件当日はその点を視準器によって確認していない旨をいうも
のと理解できるのであって,弁護人のように理解すべきものではないことが明らか
であるから,本件当日の速度違反の取締りに際し,Bが本件速度測定装置の送受信
装置の電波の投射角度が25度になるように視準器を用いて設定していたことは,
間違いがないものと認められる。
(2) 多重反射による誤測定の可能性について
 本件速度測定装置の送受信装置が投射した電波が,その投射方向に存在する
建物等に反射して,対向車両や遠くを走行する車両との間で多重に反射して受信さ
れると,対向車両や遠くの車両の速度を測定してしまうなどの誤測定の可能性があ
ることを原理的には否定できない。
 弁護人は,本件速度測定装置の送受信装置が投射した電波が,その投射方向
に存在するD高速道路の橋脚(e648)に反射して,上記のような誤測定がなさ
れた可能性がある旨いうのである。
 しかし,Fの検察官調書(甲19),警察官作成の捜査復命書(甲18,2
1)及びE株式会社G製作所ITシステム部品質管理課課長補佐F作成の「捜査関
係事項照会書に対する回答」と題する書面(甲17)によれば,なるほど本件速度
測定装置の送受信装置の電波の投射方向にD高速道路の前記橋脚が存在することが
認められるけれども,前記橋脚は,送受信装置の電波の投射角度を25度になるよ
うに設定した場合の中心線上にないのはもちろんその左右5度ずつのビーム巾の範
囲内にもないことが認められる上,電波は距離の2乗分の1の割合で減衰するとと
もに反射の際の拡散によっても減衰するものであるため,多重反射の電波は直接反
射の電波に比べてそのエネルギー量は著しく小さくなるところ,本件速度測定装置
はこの著しく小さい多重反射の電波を無視して直接反射の電波のみで速度を測定す
る仕組みになっていること,そして,本件現場において,本来測定すべき地点にさ
しかかる車両が全くないときに本件速度測定装置が反応するかないかを調べ,多重
反射による誤測定の可能性が実際にあるかどうかを調査したところ,そのような兆
候は全くなかったことが認められるのであるから,前記橋脚によって多重反射が生
じて対向車両や遠くの車両の速度を測定してしまうような誤測定の可能性はなかっ
たと認めるのが相当である。
 なお,弁護人は,前記橋脚によって多重反射が生じて,被告人車両の前方を
走行していた軽トラックの速度を測定した可能性や被告人車両の速度を誤測定した
可能性があるともいうのであるが,仮に被告人車両の前方を軽トラックが走行して
いたとしても,前記橋脚に反射した電波が軽トラックや被告人車両の後方から投射
され反射することになった場合には,警察官作成の現認状況報告書(甲1)によれ
ば,本件当日の速度違反の取締りにおいて,本件速度測定装置は測定方向切替えス
イッチを「接近」とされていたのであるから,「遠去」していく軽トラックや被告
人車両の速度を後方から測定することはあり得ないし,また,前記橋脚に反射した
電波が軽トラックや被告人車両の前方から投射され反射して測定された場合には,
本来測定すべき地点にさしかかるずっと手前で本件速度測定装置が反応することに
なり,取締警察官にもなんらかの誤測定が生じたことが容易に分かるはずであるか
ら,いずれにしても,弁護人主張のように軽トラックや被告人車両の速度を誤測定
した可能性もないと考えるのが合理的である。
 以上のとおりであるから,多重反射による誤測定の可能性はなかったと認め
られる。
(3) 他車両の速度測定の可能性について
 本件速度測定装置は,発信した電波が走行する自動車のうちどれに反射した
ものを受信したのか識別する機能を有するものではないから,複数の自動車が前後
や左右等に接近して走行している場合には,他車両の速度を測定する可能性のある
ことを否定できない。
 しかしながら,B証言及びBの検察官調書(甲14)は,電波照射範囲内に
複数の車両がある場合にはどの車両の速度を測定したのか分からないから取締りの
対象としないため,被告人車両の前に車両が走行しているかどうかということは現
認係としては大切なポイントであるが,被告人車両の前後に他の車両はなかった旨
いい,また,速度取締用通報記録紙(甲8の原本)は,違反車両を現認した直後に
その車種や塗色,登録番号,走行状況,走行車線,測定速度等について現認したと
ころをそのままに記載したものである旨いうところ,速度取締用通報記録紙謄本
(甲8)中の,被告人車両の現認状況についての記載である番号29には,その他
車両の特徴欄に「1台」,走行車線欄に「2」,備考欄に「天井荷物 青もようラ
イトバン ③へ」と書かれているだけであって,先行車両や後続車両の存在を窺わ
せるような記載は全くなされていないのであるから,被告人車両の速度が測定され
た際,被告人車両は第2車線を単独で走行していて,近くに他車両がなかったこと
は間違いがないものと認めるのが相当である。
 被告人の当公判廷における供述(以下「被告人の公判供述」という。)は,
被告人車両は第2車線を走行していたが,被告人車両の右前方の第3車線を暗い色
系のセダンが走行し,その右前方の第4車線を軽トラックが走行していて,また,
被告人車両の右後方の第3車線を白っぽい車両が走行していたところ,警察官が旗
を持って出てきて停止の合図をしたので,先行の軽トラックかセダンが停止を求め
られていると思い,その車両が第2車線の方に車線を変更してくると考え,それを
避けるために被告人車両は後方車両をサイドミラーで見て第2車線から第3車線に
車線を変更した旨いうのである。しかし,被告人の検察官調書(乙2)では,当初
は被告人車両は第1車線を走行していたと供述していたが,最終的にはひょっとし
たら第2車線を走行していたのではないかと思うと訂正しているものの,第2車線
から第3車線に車線を変更したことはない旨述べていて,その供述は一貫性に欠け
ている。そして,もし,先行の軽トラックかセダンが警察官に停止を求められてい
ると思い,その車両が第2車線の方に車線を変更してくるのを避けるために第2車
線から第3車線に車線を変更したというのであれば,警察官が違反車両を取り違え
たのではないかとの主張がなされていてもよいと思われるが,被告人の検察官調書
(乙2)及び警察官調書(乙1)にはそのような部分は見当たらない。また,その
ような理由があったというのであれば,第2車線から第3車線に車線を変更したこ
とを忘れていたというのも納得できないところである。しかも,被告人の公判供述
によれば,それらの車両も被告人車両と大体変わらない速度であったというのであ
るから,そのような車両が走行していて,本件速度測定がそれらのうちどれかの車
両の速度を測定したものであったとしても,91キロメートル毎時の速度が測定さ
れたことを合理的に説明することは困難である。被告人の公判供述は,前記のよう
なB証言等や速度取締用通報記録紙謄本(甲8)の記載に比して信用性が乏しいと
いわざるを得ない。
 以上のとおりであるから,本件速度測定装置が被告人車両以外のその近くを
走行していた他車両の速度を測定した可能性はなかったと認められる。
(4) コサインエラーによるプラス誤差発生の可能性について
 本件速度測定装置は,電波の投射角度が25度になるように設置されている
ものの,電波のビーム巾を考慮し,投射角度が20度になっても実際よりもマイナ
スとなるよう速度を算出するものであるが,被告人車両が左側に斜行するなどし
て,電波の投射角度が16度よりも小さくなってしまった場合には,プラス誤差が
生じる可能性があるけれども,本件速度違反の取締りが行われた場所は直線道路で
あり,また被告人車両が車線変更などのため左側に斜行したような形跡は窺えない
から,コサインエラーによるプラス誤差発生の可能性もなかったと考えられる。
(5) これまでみてきたところによれば,被告人車両の本件速度測定に際し,何ら
かの誤測定があったとの合理的な疑いを容れる余地は存しない。
4 被告人の公判供述並びにその検察官調書(乙2)及び警察官調書(乙1)は,
被告人は91キロメートル毎時もの速度は出しておらず,75キロメートル毎時く
らいの速度で走行していたといい,その理由として,出勤時に反対車線を走行中,
本件速度違反取締りが行われているのを見て知っていたし,車の流れに従っていた
からであるというのである。
 しかしながら,本件速度違反取締りが行われているのを知っていたといいなが
ら,指定最高速度を約25キロメートル毎時も超過する75キロメートル毎時くら
いの速度で走行すること自体が納得できないし,被告人の供述によっても,被告人
車両の走行していた第2車線には,被告人車両の前後の近いところを他の車両が走
行していたわけではないのであるから,車の流れに従って走行していたということ
が,そのような速度で走行したことを合理的に説明する理由になるとは思われな
い。被告人の上記の供述をそのままに信用するわけにはいかない。
 被告人の上記の供述から,本件速度測定に何らかの誤測定があったとの疑いを
容れるには至らない。
5 以上のとおりであるから,被告人が,判示のとおり,本件速度違反の罪を犯し
たことは間違いがないと認めることができる。
(法令の適用)
被告人の判示所為は道路交通法118条1項2号,22条1項に該当するとこ
ろ,所定刑中罰金刑を選択し,その所定金額の範囲内で,被告人を罰金8万円に処
し,その罰金を完納することができないときは,刑法18条により金5000円を
1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1
項本文によりこれを全部被告人に負担させることとする。
(量刑の事情)
被告人は,一般道路において普通貨物自動車を運転中,何ら緊急性がないにもか
かわらず,指定最高速度を約40キロメートル毎時も超過する速度で進行したもの
であって,その行為の危険性は低くないから,被告人の刑事責任を軽視することは
できない。
 しかしながら,本件速度違反によって事故等の実害は生じていないこと,被告人
にはこれまで前科がないことなどの,被告人のために酌むべき事情もある。
(検察官の科刑意見 罰金8万円)
 よって,主文のとおり判決する。
平成14年4月12日
神戸地方裁判所第12刑事係甲
裁 判 官   森   岡   安   廣

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