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平成17年(行ケ)第10491号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成17年11月8日
          判           決
      原      告    サン・グリーン・リバー株式会社
      訴訟代理人弁理士    佐々木功
      同           川村恭子
      被      告    特許庁長官 中嶋誠
      指定代理人       小川有三
      同           富田領一郎
      同           伊藤三男
          主           文
    1 原告の請求を棄却する。
    2 訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が不服2002-12122号事件について平成17年4月12日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,原告が後記商標の出願をしたものの特許庁から拒絶査定を受けたた
め,これを不服として審判請求をしたところ,同庁から審判請求不成立の審決を受
けたため,その取消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
 1 請求原因
  (1)特許庁における手続の経緯
   原告は,平成13年6月21日,後記本願商標につき商標登録出願(以下
「本願」という。)をしたが,特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不
服審判を請求した。
 特許庁は,同請求を不服2002-12122号事件として審理した上,
平成17年4月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,そ
の謄本は平成17年4月25日原告に送達された。
(2)本願の内容
(商標)
       
 (指定商品)第21類とする下記のもの
                 記
「ガラス基礎製品(建築用のものを除く。),なべ類,コーヒー沸かし
(電気式又は貴金属製のものを除く。),鉄瓶,やかん,食器類(貴金属製のもの
を除く。),アイスペール,泡立て器,魚ぐし,携帯用アイスボックス,こし器,
こしょう入れ・砂糖入れ及び塩振り出し容器(貴金属製のものを除く。),卵立て
(貴金属製のものを除く。),ナプキンホルダー及びナプキンリング(貴金属製の
ものを除く。),盆(貴金属製のものを除く。),ようじ入れ(貴金属製のものを
除く。),米びつ,ざる,シェーカー,しゃもじ,手動式のコーヒー豆ひき器及び
こしょうひき,じょうご,食品保存用ガラス瓶,水筒,すりこぎ,すりばち,ぜ
ん,栓抜,大根卸し,タルト取り分け用へら,なべ敷き,はし,はし箱,ひしゃ
く,ふるい,まな板,魔法瓶,麺棒,焼き網,ようじ,レモン絞り器,ワッフル焼
き型(電気式のものを除く。),清掃用具及び洗濯用具,家事用手袋,化粧用具,
デンタルフロス,おけ用ブラシ,金ブラシ,管用ブラシ,工業用はけ,船舶ブラ
シ,ブラシ用豚毛,洋服ブラシ,靴ブラシ,靴べら,靴磨き布,軽便靴クリーナ
ー,シューツリー,ガラス製又は陶磁製の包装用容器,かいばおけ,家禽用リン
グ,アイロン台,愛玩動物用食器,愛玩動物用ブラシ,犬のおしゃぶり,植木鉢,
家庭園芸用の水耕式植物栽培器,家庭用燃え殻ふるい,紙タオル取り出し用金属製
箱,霧吹き,靴脱ぎ器,こて台,小鳥かご,小鳥用水盤,じょうろ,寝室用簡易便
器,石炭入れ,せっけん用ディスペンサー,貯金箱(金属製のものを除く。),ト
イレットペーパーホルダー,ねずみ取り器,はえたたき,ヘら台,湯かき棒,浴室
用腰掛け,浴室用手おけ,ろうそく消し及びろうそく立て(貴金属製のものを除
く。),花瓶(貴金属製のものを除く。),ガラス製又は陶器製の立て看板,香
炉,コッフェル,水盤(貴金属製のものを除く。),風鈴」
  (3)審決の内容
   審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。その要旨とするところ
は,本願商標は,これを指定商品について使用するときは,その商品があたかも著
名なデザイナーであるValentionoGaravani/ヴァレンティノ・ガラヴァーニあるい
は同人と何らかの関係にある者の業務に係る商品であるかの如く,その商品の出所
について混同を生じさせるおそれがあり,商標法4条1項15号に該当するという
ものである。
  (4)審決の取消事由
  しかしながら,審決は,以下に述べる理由により,違法として取り消され
るべきである。
 ア 取消事由1(本願商標に関する認定判断の誤り)
(ア)審決は,「「VALENTINO」の著名性の程度,商品の関連性及び取引者及
び需要者の共通性に照らすと,本願商標がその指定商品に使用されたとき
は,「VALENTINO」の部分がこれに接する取引者・需要者の注意を特に強く引くもの
といえる」(審決9頁第4段落)と認定判断したが,本願商標については誤まった
判断である。
  すなわち,本願商標は,常に「フェミオバレンチノ」の一連の称呼が
生ずるような使用態様をもって使用しているのであり,「フェミオバレンチノ」の
称呼が冗長であるとはとてもいえるものではなく,かつ,「VALENTINO」,「バレン
チノ」のみを表示することはないので,「VALENTINO」の部分が取引者,需要者の注
意を殊更に引くということはなく,「バレンチノ」のみを称呼されることもな
い。「FEMMIOVALENTINO」又は「フェミオバレンチノ」の表示をもって使用してい
る商標に対して,「VALENTINO」の部分のみを抽出することはできない。
  また,本願商標は,文字部分と図形部分が常に一体不可分のものとし
て構成されているものではないが,図形は,縦長の楕円形の中に,「f」と「v」
をモノグラム化した特徴的なもので,本願商標の文字部分の上段に,あるいは商品
によっては,文字部分の前頭部分に必ず使用しているものであり,自他商品の識別
性を有する商標として取引者,需要者の注意を惹起するものとなっている。したが
って,本願商標の認定において,図形部分を無視あるいは除外して判断すべきでは
ない。本願商標は,上記形状の図形商標も常に同時に使用しているところから,本
願商標全体として,取引者,需要者の注意を惹起する商標となっているものであ
る。
(イ)審決は,「引用商標は・・・被服等に使用されているものであり,そ
の使用商品は,ファッション関連の商品であって,デザイン性が重要視される商品
といえる」(審決8頁下第3段落)と認定し,「他方,本願指定商品は日用品では
あるが,デザイン性が求められる商品であり,また,ファッション業界において著
名な標章(ブランド名)であるクリスチャンディオール,ティフアニー,エルメス
等が,日用品である食器等に使用している事実があることから,両者はともに,フ
ァッション関連の商品であるといえる」(同下第2段落)と認定したが,誤りであ
る。
  両者は,同じく「デザイン性」といっても,被服等と日用品である本
願指定商品とは比較するレベルが全く異なっている。すなわち,被服,バッグ類,
靴類など流行に敏感な商品は,今年の流行,来年の流行などと常に形状,型,色
彩,模様など時々の流行に左右されており,「最新流行の何々」の新しいデザイン
を紹介するキャッチフレーズが消費者を引き付け,常に,「ファッション性」,
「デザイン性」が求められるといえる。しかし,本願商標の指定商品である食器類
に,陶芸家の個性が反映した作品が展示会を飾ることがあっても,食器という用途
がある以上,洋服等と異なり,流行に左右される「ファッション性」や「デザイン
性」は求められないし,求める必要もない商品が大半である。
  また,上記のような著名ブランドは,大手デパートに入っている専門
店等を直ちに想起するのであり,一般の消費者が足繁く行ける店ではなく,ブラン
ド品に関心が高い人であればともかく,店舗の構えからして敷居が高い店であると
いうことを印象付けている。そのため,たとえクリスチャンディオール,ティファ
ニー,エルメス等の著名ブランドを使用した食器であっても,高級品であり高価格
であるとの認識から,人々が日常的に購入し,消費するものではない。これに対し
て,本願商標の指定商品は,なべ類,やかん,食器類,はし,まな板など,毎日の
生活に欠かせない用具を始め,日用雑貨品が含まれており,デパートで販売されて
はいるが,地域密着のスーパーや金物店,現在では,本願商標を使用した「ランチ
用品」が販売されている「100円ショップ」などで手軽に種々の商品を安価に購
入することができる。これら商品の中には度々買い求める消耗品もあり,被服等と
は異なりファッション性が求められる商品ではない。食器をはじめ,本願商標に係
る指定商品は,極めて日常性が高く,子供から高齢者まで男女の差なく,すべての
人々に必要な商品であり,食卓や台所での使い勝手のよさ,あるいは商品の耐久性
が求められるものであり,ファッション性には関係がない。
(ウ)審決は,「商品の需要者もともに主として一般消費者であって,本件
商標の指定商品が日常的に消費される性質の商品であり,殊にその需要者は特別な
専門的知識経験を有しない一般大衆であって,これを購入するに際して払われる注
意はさほど綿密なものではないといえることから,両者はその需要者を共通にする
ものである」(審決8頁最終段落~9頁第1段落)と認定したが,ブランド品に対
する需要者の高い認識や嗜好,日用品に対する消費者の需要などが考慮されていな
い。すなわち,上記著名ブランドを使用した商品は,例えば,商品としては日常使
用する食器であっても,我が国の消費者の中にはブランドに対する専門知識が高
く,嗜好もそれぞれであり,これら高級品を購入する際に払われる注意は相当に綿
密なものであり,特別な専門的知識を有しない一般大衆というレベルではない。こ
れに対して,本願商標を使用した商品は,現在,幼稚園児や小学生等の子供を対象
とした「ランチシリーズ」商品として,全国約1500店舗以上の100円ショッ
プで販売されており,商品を購入するのは大半がそれら子供達の母親であり,この
一事をもってしても,著名ブランドを使用した商品とは,商品そのものが異なるの
はもちろん,需要者・消費者,販売経路のいずれにおいても共通するところはな
く,著名ブランドが使用される商品とは余りにもかけ離れているといわざるを得な
い。
 イ 取消事由2(引用商標に関する認定判断の誤り)
(ア)審決は,「同氏の名前は,「VALENTINOGARAVANI」(Valentino
Garavani)「ヴァレンティノ ガラヴァーニ」とフルネームで表示され,このフル
ネームをもって紹介される・・・「VALENTINO」(Valentino)「ヴァレンティノ」
といえば同氏を指すものと広く認識されるに至っているというべきである」(審決
8頁第2段落)と認定したが,現在のファッション界においてその著名性が継続し
ているかは疑問であり,この認定は誤まっている。
  「VALENTINOGARAVANI」(ValentinoGaravani),「ヴァレンティノ
 ガラヴァーニ」のフルネームが著名であることは争わない
が,「VALENTINO」(Valentino)は,イタリアにおけるごくありふれた氏姓であり
(甲1),そのことから「VALENTINO」,「Valentino」,「ヴァレンティノ」を含
む,いわゆるブランドが数多く存在しているが(甲2),我が国の取引者,需要者
はブランドに対する関心は高く,ブランドの違いを見分ける確かな目や意識を持っ
ているので,数多くの「VALENTINO」の文字を含むブランドが存在していても,デザ
インの相違,商品の相違,商標の相違などによって明確に識別することができ,単
に「VALENTINO」(Valentino)のみの表示から直ちに「VALENTINO
GARAVANI」(ValentinoGaravani)を認識することはない。その上,我が国では,
平成7年から「VALENTINOGARAVANI」のブランドマーケティングが行われておらず
(甲16~19),このことは,「VALENTINOGARAVANI」の標章が市場で取引者,
需要者,特にブランドに関心が高く,ファッション性のある商品の購買層を占める
女性の目にふれることがなくなっていることを示すものである。したがって,「そ
の略称として「VALENTINO」(Valentino)「ヴァレンティノ」の商標・・・をもっ
て我が国の取引者,需要者の間に広く知られていたというべきであり,このこと
は,少なくとも本願商標の登録出願時である平成13年6月21日前においてすで
に我が国の取引者,需要者間に広く認識せられていたものであり,また,その状況
は現在に至るまでも引き続き同様とみて差し支えないものである」(審決8頁第2
段落)とした審決の認定判断は,取引の実情を顧みない誤ったものである。
 ウ 取消事由3(出所混同のおそれに関する認定判断の誤り)
 (ア)審決は,「本願商標は,著名なデザイナーである「VALENTINO
GARAVANI」の著名な略称「VALENTINO」を含む商標であり,その指定商品も引用商標
の使用商品とは,ともにファッション関連の商品であって,両者はその需要者を共
通にするものであるから,本願商標をその指定商品に使用した場合,これに接する
取引者・需要者は,引用商標と綴り字を同じくする「VALENTINO」の文字部分に着目
し,容易に引用商標を連想・想起し,その商品の出所について混同を生ずるおそれ
があるといわなければならない」(審決9頁最終段落)と認定判断したが,誤りで
ある。
   まず,「VALENTINO」の文字は,「VALENTINOGARAVANI」の著名な略称
であるということはできない。「VALENTINO」は,イタリアにおけるごくありふれた
氏姓であり,かつ,「VALENTINO」の文字を含むブランドは数多く存在しているとこ
ろから,ブランドに対する高い認識をもっている我が国の取引者,需要者
が,「VALENTINO」のみに接する時,直ちに「VALENTINOGARAVANI」を想起するとは
到底考えられない。
 (イ)仮に,略称として著名であっても,本願商標に係る商品と出所の混同
を生ずることはない。すなわち,審決は,「指定商品も引用商標の使用商品とは,
ともにファッション関連の商品であって,両者はその需要者を共通にするものであ
る」(審決9頁最終段落)と認定したが,本願商標に係る指定商品はファッション
性が求められる「被服」とは異なる。本願商標の指定商品の中で,例えば「食器」
にファッション性が取り入れられることがあっても,それは著名ブランドに求めら
れる一部の商品であって,その他のほとんどの商品は,日用品であり,台所用品で
あり,ファッション性が求められる商品ではない。すなわち,老若男女,すべての
人々が必要としている極めて日常性が高い商品ばかりであるので,ファッション性
よりも使い心地,使い勝手の良さ,あるいは耐久性が求められるのである。さら
に,現在,本願商標を使用して既に市場に受け入れられている商品は,幼稚園児及
び小学生などの子供を対象とした「おべんとう箱」を始めとする「ランチ用品」で
あり,全国約1500店舗以上のダイソーの100円ショップにおいて販売されて
いるから,引用商標に係るファッション性が高い分野の高級品と比較するまでもな
く,商品の性質,用途,目的からみても関連性は全くなく,商品の取引者,需要者
も異なり,これらの取引の実情を総合的に判断すれば,両者における商品に関して
出所の混同を生ずる余地は全くないものである。そして,現在,本願商標を使用し
ている商品,すなわち,トリ,ウサギ,ネコ,などの動物のかわいらしい模様が付
いている「ランチ用品」に接する子供達やその両親などが,本願商標をみ
て「VALENTINOGARAVANI」との関係で,容易に引用商標を連想・想起し,引用商標
と何らかの関係があるかのごとく,その商品の出所について混同を生ずることは考
えられるはずもない。
(ウ)本願商標に係る「ランチ用品」は,注目ブランド,キャラクターを内
外にプロデュースして市場に送り出している株式会社イングラムに業務委託をして
いるが,甲3~5に係る登録商標(いずれも「FEMMIOVALENTINO」とする文字商
標。登録第4217667号商標,同第4217668号商標,同第427272
8号商標。以下,順に「甲3商標」,「甲4商標」,「甲5商標」という。)のラ
イセンス事業から拡大したもので,「ランチ用品」は,全国のダイソー全店のう
ち,1500店舗以上において商品展開され,その結果,市場に認知され受け入れ
られており,本願商標には独自の信用,顧客吸引力が生じているのである(甲2
9)。また,原告の甲3商標ないし甲5商標は,本願商標の出願前,わずか2年な
いし3年前に商標登録されたものであり,本願商標に対して正反対の判断をしなけ
ればならない事情の変化があったとは到底考えられない。
 2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)ないし(3)の事実はいずれも認め,同(4)は争う。
 3 被告の反論
  審決の認定判断は正当であり,以下に述べるとおり原告主張の取消事由はい
ずれも理由がない。
(1)取消事由1(本願商標に関する認定判断の誤り)に対し
ア 本願商標は,前記のとおり,上段に縦長の楕円形内にデザイン化した欧
文字らしき文字を配した図形部分と,下段に「FEMMIOVALENTINO」を横書きした文
字部分の構成からなり,図形部分と文字部分は,視覚上分離した構成となってい
る。また,文字部分は,「FEMMIO」と「VALENTINO」が半文字程度間隔を空けて表示
されていること,全体として15文字からなり称呼も冗長といえること,全体とし
て特定人名や成語として世上一般に知られているものとはいえないことを考慮する
と,本願商標は,その外観及び称呼のいずれの点においても,「FEMMIO」
と「VALENTINO」と二分して認識され得るものであり,後半部分は引用商標
の「VALENTINO」表示と同一の文字構成からなるものである。そうすると,本願商標
は,「FEMMIOVALENTINO」全体が常に一体不可分のものとして,取引者,需要者に把
握され,認識されるものとはいい難く,むしろ,「VALENTINO」表示の著名性の程度
を考慮すると,その構成中の「VALENTINO」の部分が,「VALENTINOGARAVANI」に係
る「VALENTINO」表示を表したものと把握され,認識されることによって取引者,需
要者の注意を特に強く引くものといえるものである。そうすると,本願商標に接す
る取引者,需要者は,本願構成中の「VALENTINO」の文字部分をとらえ,これより生
ずる「バレンチノ」の称呼,ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザイナーブランド
である「バレンチノ」の観念をもって取引に当たる場合が少なくないというべきで
ある。原告は,本願商標は,特徴的な図形部分を無視あるいは除外して判断すべき
ではないと主張するが,図形部分と文字部分が視覚上分離する構成になっているば
かりでなく,当該図形部分が,「VALENTINO」表示の著名性を無視し得るほどの著名
性を有しているとは認められない。また,一般に,商標を使用するに当たって,自
己の取扱う商品の全体に,統一的に使用されるいわゆるハウスマークとともに,そ
の取扱う同種商品のうち他の商品と区別するために,商品ごとにそれぞれの別のマ
ークを併記して使用する傾向があるのが実情である。そうすると,「VALENTINO」表
示の著名性に照らせば,たとえ,本願商標の構成中の図形部分に注意が注がれると
しても,それは,「VALENTINO」表示の関連する商品のうちの個別商品(シリーズ商
品)であると認識するにとどまるものというべきであって,その図形部分によっ
て,本願商標中の「VALENTINO」が,ヴァレンティノ・ガラヴァーニに係
る「VALENTINO」表示を表し,取引者,需要者の注意を特に強く引くことを減殺する
ものではない。
イ 「VALENTINO」表示に係る「婦人服,紳士服,靴,ネクタイ,ベルト,カ
バン」等は,身にまとい,また履いて装いを整え,着飾る等に用いられるファッシ
ョン関連商品であって,デザイン性が求められる商品であるといえる。他方,本願
商標の指定商品は,日用品ではあるものの,デザイン性も求められる商品といえ
る。例えば,指定商品中の「化粧用具,洋服ブラシ,靴ブラシ,靴べら,靴磨き
布,軽便靴クリーナー」は,美感,装いを整える,着飾る等に用いられる商品であ
る。そうすると,本願商標の指定商品中「化粧用具,洋服ブラシ,靴ブラシ,靴べ
ら,靴磨き布,軽便靴クリーナー」と「VALENTINO」表示に係る「婦人服,紳士服,
靴,ネクタイ,ベルト,カバン」等とは,共に,美感,装いを整える,着飾る一連
の用途に関わる商品であり,デザイン性やファッション性も求められている商品で
あるから,関連性の深い商品といえる。さらに,本願商標の指定商品
も「VALENTINO」表示に係る「婦人服,紳士服,靴,ネクタイ,ベルト,カバン」も
日常的に使用されるものであって,機能性を重視するというよりは,見た目,デザ
イン性を重視するものであり,殊にその需要者は特別な専門的な知識経験を有しな

一般大衆(消費者)であって,これを購入する際に払われる注意はさほど綿密なも
のでないから,両者はその需要者を共通にし,かつ,その商品や商標に払われる注
意力も同等であるといえる。
ウ また,著名商標である「VALENTINO」を含む本願商標は,デパートで販売
しようが「100円ショップ」で販売しようが,それはその企業の事業展開の一つ
にすぎないものである。そして,事業展開は企業の販売戦略によって,しばしば変
化することは日常よく見られることであって,現在の販売方法が今後も継続し,固
定していくこともない。現に,ジャスコ等の大手スーパーにおいても「100円シ
ョップ」が,進出しているのであり,「100円ショップ」だからといって,著名
ブランドを扱わないとは必ずしもいえない。また,「100円ショップ」といって
も300円等の他の価格帯の商品が現実に売られている。このように,現代におけ
る企業の事業展開は,「100円ショップ」も含めて,様々な事業展開が考えられ
るものである。さらに,ある業者が,「100円ショップ」で事業展開している商
品を別な事業展開,例えば,大手スーパー,デパートで事業を行っていても,それ
は単に事業展開の戦略の方法であって,本願商標の商品と「VALENTINO」表示に係る
商品は,共に日常的に使用されるもので,かつ,一般消費者を相手に販売している
ことに何ら変わりはない。
(2)取消事由2(引用商標に関する認定判断の誤り)に対し
ア 「VALENTINO」表示は,ファッション関連商品におけるデザイナーである
ヴァレンティノ・ガラヴァーニを示す略称として,また,同氏のデザイナーブラン
ドである「VALENTINOGARAVANI」,「ヴァレンティノ ガラヴァーニ」を示す表示
として,昭和51年以来,読売新聞,朝日新聞,日本経済新聞の全国紙や地方紙等
の新聞,各種ファッション関連雑誌や書籍に繰り返し掲載され,また,商
標「VALENTINOGARAVANI」,「ヴァレンティノ ガラヴァーニ」の使用者自身も
「ヴァレンティノ」,「VALENTINO」,「バレンチノ」を使用していることか
ら,「VALENTINO」表示は,「VALENTINOGARAVANI」,「ヴァレンティノ ガラヴァ
ーニ」を示すものとして,優に,わが国の取引者,需要者間に広く認識され周知・
著名なものとなっていたものである。そして,「VALENTINO」表示は,ヴァレンティ
ノ・ガラヴァーニがデザインした婦人服,紳士服,靴,ネクタイ,ベルト,バッグ
等のファッション関連商品におけるデザイナーブランドとして,少なくとも本願商
標の登録出願時である平成13年6月21日前において,既にわが国の取引者,需
要者間に広く認識され周知・著名なものとなっていたものであり,かつ,その状態
が本願商標の判断時期である審決時(平成17年4月12日)まで継続している。
イ 原告は,「VALENTINO」はイタリアにおけるごくありふれた氏姓であり,
かつ,「VALENTINO」の文字を含むブランドは数多く存在しているところから,ブラ
ンドに対する高い認識をもっている我が国の取引者,需要者が,「VALENTINO」の
みから直ちに「VALENTINOGARAVANI」を想起するとは到底考えられないと主張す
る。しかし,「VALENTINO」は,我が国においてはありふれた氏姓ないし名前である
とは認め難いものであり,イタリアにおいてありふれた氏姓ないし名前であるとし
ても,そのことが,我が国において商標として機能することを否定することにはな
らない。さらに,本願商標中の「FEMMIOVALENTINO」の文字は,全体として特定人
名や成語として一般的に知られているものとはいえないし,「FEMMIOVALENTINO」全
体が一体不可分のものとして,取引者,需要者に把握され,認識されるものとはい
い難く,むしろ,上述した「VALENTINO」表示の著名性を考慮すると,その構成中
の「VALENTINO」の部分が,「VALENTINOGARAVANI」に係る「VALENTINO」表示を表
したものと把握され,認識されることによって取引者,需要者の注意を特に強く引
くものといえるものであり,この点は,「VALENTINO」等を含む商標が他に存在する
かにかかわらないというべきである。
(3)取消事由3(出所混同のおそれに関する認定判断の誤り)に対し
 「VALENTINO」表示は,上述したとおり,ヴァレンティノ・ガラヴァーニが
デザインした婦人服,紳士服,靴,ネクタイ,ベルト,バッグ等のファッション関
連商品におけるデザイナーブランドとして,少なくとも本願商標の登録出願時であ
る平成13年6月21日前において,既に,わが国の取引者,需要者間に広く認識
され周知・著名なものとなっていたものであり,かつ,その状態が本願商標の判断
時期である審決時(平成17年4月12日)まで継続している。そし
て,「VALENTINO」表示は,少なくとも我が国においては一定程度の独創性を備えた
ものである。
 また,本願商標は,文字部分が,「FEMMIO」と「VALENTINO」が半文字程度
間隔を空けて表示されていること,全体として15文字からなり称呼も冗長といえ
ること,全体として特定人名や成語として世上一般に知られているものとはいえな
いことを考慮すると,外観及び称呼のいずれの点において,「FEMMIO」
と「VALENTINO」と二分して認識されうるものであり,後半部分は「VALENTINO」表
示と同一の文字構成からなるものである。そうすると,本願商標は,その構成
中,「FEMMIOVALENTINO」の文字部分がその全体を常に一体不可分のものとして,取
引者,需要者に把握され,認識されるものとはいい難く,むしろ,「VALENTINO」表
示の周知・著名性の程度を考慮すると,その構成中の「VALENTINO」の部分
が,「VALENTINOGARAVANI」に係る「VALENTINO」表示を表したものと把握され,認
識され,取引者,需要者の注意を特に強く引くものといえるものであり,これより
生ずる「バレンチノ」の称呼,ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザイナーブラン
ドである「バレンチノ」の観念をもって取引に当たる場合が少なくないものであ
る。そして,本願商標は,その構成中に図形を配した構成であるとしても,当該図
形部分が
「VALENTINO」表示の著名性を無視し得るほどの著名性が認められない以上,図形部
分によって,本願商標中の「VALENTINO」部分が「VALENTINOGARAVANI」に係
る「VALENTINO」表示を表わすことの識別性に影響するものではない。
 さらに,上述したとおり,本願商標の指定商品中「化粧用具,洋服ブラ
シ,靴ブラシ,靴べら,靴磨き布,軽便靴クリーナー」と「VALENTINO」表示に係る
「婦人服,紳士服,靴,ネクタイ,ベルト,カバン」等とは,共に,美感,装いを
整える,着飾る一連の用途に関わる商品であり,デザイン性やファッション性も求
められている商品であるから,関連性の深い商品である。また,本願商標の指定商
品も「VALENTINO」表示に係る「婦人服,紳士服,靴,ネクタイ,ベルト,カバン」
も日常的に使用されるものであって,機能性を重視するというよりは,見た目,デ
ザイン性を重視するものであり,殊にその需要者は特別な専門的な知識経験を有し
ない一般大衆(消費者)であって,これを購入する際に払われる注意はさほど綿密
なものでないから,両者はその需要者を共通にし,かつ,その商品や商標に払われ
る注意力も同等であるといえる。
 したがって,以上の点を総合的に判断すれば,本願商標をその指定商品に
ついて使用するときは,その取引者,需要者において,「VALENTINO」表示を連想,
想起し,その商品がヴァレンティノ・ガラヴァーニ又は同人と営業上の関係又
は「VALENTINO」表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の
業務に係る商品であると誤信し,その商品の出所について混同を生じるおそれがあ
るというべきである。
第4 当裁判所の判断
 1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本願の内容)及び(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
   そこで,以下において,原告の主張する取消事由ごとに審決の当否を判断す
ることとする。
 2 取消事由1(本願商標に関する認定判断の誤り)について
  (1)原告は,審決の「「VALENTINO」の著名性の程度,商品の関連性及び取引者
及び需要者の共通性に照らすと,本願商標がその指定商品に使用されたとき
は,「VALENTINO」の部分がこれに接する取引者・需要者の注意を特に強く引くもの
といえる」(審決9頁第4段落)とした判断に対し,本願商標は,常に「フェミオ
バレンチノ」の一連の称呼が生ずるような使用態様をもって使用しているのであ
り,「フェミオバレンチノ」の称呼が冗長であるとはとてもいえるものではない等
を理由に,「VALENTINO」の部分のみを抽出することはできないと主張する。
    本願商標は,前記のとおり,縦長楕円形の中に「f」と「v」の欧文字を
一字状に図案化してなる図形部分とその下段に「FEMMIOVALENTINO」の欧文字を表
してなる文字部分とから構成されている。そして,その図形部分と文字部分は,視
覚上分離した構成となっており,文字部分は,「FEMMIO」と「VALENTINO」が半文字
程度間隔を空けて表示されている上,全体として15文字からなり称呼も冗長とい
えること,我が国において「FEMMIOVALENTINO」全体としては特定人名や成語とし
て一般に知られているものとはいえないことを考慮すると,本願商標は,その外観
及び称呼のいずれの点においても,「FEMMIO」部分と「VALENTINO」部分とに二分し
て認識され得るものである。そうすると,本願商標は,「FEMMIOVALENTINO」全体が
常に一体不可分のものとして,取引者,需要者に把握され,認識されるものとは認
め難い。そして,後述するように,「VALENTINO」表示は,著名なファッションデザ
イナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に付されるブラ
ンドの表示として,我が国の婦人服,紳士服等のファッション関連分野の取引者,
需要者にとって周知・著名であることを考慮すると,その構成中
の「VALENTINO」の部分が,「VALENTINOGARAVANI」に係る「VALENTINO」表示を表
したものと把握され,認識されることによって取引者,需要者の注意を特に強く引
くものと認められる。したがって,「「VALENTINO」の著名性の程度,商品の関連性
及び取引者及び需要者の共通性に照らすと,本願商標がその指定商品に使用された
ときは,「VALENTINO」の部分がこれに接する取引者・需要者の注意を特に強く引く
ものといえる」(審決9頁第4段落)とした審決に誤りがあるということはできな
い。
    原告は,本願商標は,文字部分と図形部分が常に一体不可分のものとして
構成されているものではないが,図形は,縦長の楕円形の中に,「f」と「v」を
モノグラム化した特徴的なもので,本願商標の文字部分の上段に,あるいは商品に
よっては,文字部分の前頭部分に必ず使用しているものであり,自他商品の識別性
を有する商標として取引者,需要者の注意を惹起するものとなっているとも主張す
る。しかし,本願商標の図形部分は,独創性が強いものとまではいい難く,また,
それ自体がファッション関連分野の取引者,需要者にとって周知であ
る「VALENTINO」の文字部分をしのぐ周知性を獲得しているものとも認め難いから,
看者の注意をひく程度が強く商品の出所表示機能が強い部分ということはできな
い。そして,本願商標は,図形部分と文字部分が視覚上分離した構成となっている
のであるから,原告主張に係る上記図形部分の特徴を考慮しても,「VALENTINO」の
部分が取引者,需要者の注意を特に強く引くとの上記判断を左右しないというべき
である。
  (2)また,原告は,審決の「引用商標は・・・被服等に使用されているもので
あり,その使用商品は,ファッション関連の商品であって,デザイン性が重要視さ
れる商品といえる」(審決8頁下第3段落),「他方,本願指定商品は日用品では
あるが,デザイン性が求められる商品であり,また,ファッション業界において著
名な標章(ブランド名)であるクリスチャンディオール,ティフアニー,エルメス
等が,日用品である食器等に使用している事実があることから,両者はともに,フ
ァッション関連の商品であるといえる」(同下第2段落)とした認定に対し,本願
商標と引用商標とは,同じく「デザイン性」といっても,被服等と日用品である本
願指定商品とは比較するレベルが全く異なっている,著名ブランドを使用した食器
等は,高級品であり高価格であるとの認識から人々が日常的に購入し,消費するも
のではないのに対して,本願商標に係る指定商品は,極めて日常性が高く,子供か
ら高齢者まで男女の差なく,すべての人々に必要な商品であり,食卓や台所での使
い勝手のよさ,あるいは商品の耐久性が求められるものであり,ファッション性に
は関係がない,などと主張する。
    しかし,本願商標の指定商品は上記第3の1(2)記載のとおりであり,この
うち,例えば,「化粧用具」,「洋服ブラシ」,「靴ブラシ」,「靴べら」,「靴
磨き布」,「軽便靴クリーナー」は,美感,装いを整える,着飾る一連の用途に関
わる商品で,デザイン性やファッション性も求められている商品であるから,本願
商標の指定商品についてファッション関連の商品でもあるといえるとした審決の認
定に誤りがあるということはできない。原告は,本願商標に係る指定商品は,極め
て日常性が高く,子供から高齢者まで男女の差なく,すべての人々に必要な商品で
あり,食卓や台所での使い勝手のよさ,あるいは商品の耐久性が求められるもので
あると主張するが,本願商標の指定商品は上記のとおりであり,原告が主張する商
品に限られるものではないから,原告の主張は前提において誤りであるというほか
ない。
  (3)さらに,原告は,審決の「商品の需要者もともに主として一般消費者であ
って,本件商標の指定商品が日常的に消費される性質の商品であり,殊にその需要
者は特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であって,これを購入するに際して
払われる注意はさほど綿密なものではないといえることから,両者はその需要者を
共通にするものである」(審決8頁最終段落~9頁第1段落)との認定に対し,著
名ブランドを使用した商品のような高級品を購入する際に払われる注意は相当に綿
密なものであるのに対して,本願商標を使用した商品は,現在「ランチシリーズ」
商品として100円ショップで販売されており,需要者・消費者,販売経路のいず
れにおいても共通するところはないなどと主張する。
    しかし,商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と
混同を生ずるおそれ」を判断するに当たっては,出願に係る商標の指定商品全部,
すなわち上記第3の1(2)記載の商品すべてについて,これを一般的に検討すべきで
あり,出願人固有の取引の実情を混同を否定する方向に斟酌することは許されない
というべきである。なぜならば,原告が現在本願商標を上記のように使用していた
としても,それは原告の事業展開の一つにすぎないものであり,事業展開がしばし
ば変化することは日常よく見られることであって,現在の販売方法が今後も継続
し,固定していくとは限らないからである。そして,本願指定商品全体についてこ
れを一般的に検討すれば,上記審決の認定に誤りはないというべきであるから,原
告の上記主張も採用することができない。
  (4)以上検討したところによれば,本願商標に関する認定判断の誤りをいう原
告の取消事由1の主張は,理由がない。
 3 取消事由2(引用商標に関する認定判断の誤り)について
(1)原告は,審決の「同氏の名前は,「VALENTINOGARAVANI」(Valentino
Garavani)「ヴァレンティノ ガラヴァーニ」とフルネームで表示され,このフル
ネームをもって紹介される。・・・「VALENTINO」(Valentino)「ヴァレンティ
ノ」といえば同氏を指すものと広く認識されるに至っているというべきである」
(審決8頁第2段落)との認定に対し,現在のファッション界においてその著名性
が継続しているかは疑問であり,この認定は誤りであると主張する。
(2)証拠(乙1~42,甲15)によれば,次の事実を認めることができる。
ア ヴァレンティノ・ガラヴァーニは,1932年(昭和7年)イタリア国
ボグヘラで生まれ,パリ洋裁学院でデザインの勉強をし,フランスの有名なデザイ
ナー「ジーン・デシス,ギ・ラ・ロシュ」の助手として働いた後,1959年(昭
和34年),ローマで自分のファッションハウスを開設した。1967年(昭和4
2年)にはデザイナーとして最も栄誉ある賞といわれる「ファッションオスカ
ー(FashionOscar)」を受賞し,ライフ誌,ニューヨークタイムズ誌,ニューズウ
ィーク誌など著名な新聞,雑誌にヴァレンティノ・ガラヴァーニの作品が掲載され
た。これ以来,ヴァレンティノ・ガラヴァーニは,イタリア・ファッションの第一
人者としての地位を確立し,国際的なトップデザイナーとして知られるようになっ
た。
イ 昭和51年10月2日発行「日刊ゲンダイ」(乙1の1)及び昭和51
年10月1日発行「センイ・ジャァナル」(乙1の8)には,我が国において,ヴ
ァレンティノ・ガラバーニのデザインによる紳士・婦人服装,雑貨の輸入・販売を
目的とする「株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパン」が昭和49年7月
輸入専門商社アオイ,サンフレール及び三井物産の協同出資により設立され,東
京・大阪を中心に全国に20店舗を設ける事業展開を行い,昭和51年7月期決算
(11か月決算)では年商8億2000万円,昭和52年8月決算では12億円を
予定している旨の記載がある。株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパンの
広告宣伝費,販売促進費及び展示会費の合計金額は,本願商標の登録出願前の平成
5年(1993年)に1億3500万円,平成6年(1994年)に2億0400
万円,平成7年(1995年)に7000万円,平成8年(1996年)に950
0円,平成9年(1997年)に1億0900万円であり,また,商品の売上高
は,平成5年(1993年)が55億6000万円,平成6年(1994年)が4
9億2000万円,平成7年(1995年)が39億6900万円,平成8年(1
996年)が41億3100万円,平成9年(1997年)が41億4400万円
である(乙40~42)。
ウ 田中千代著同文書院昭和56年(1981年)発行「服飾辞典」(乙3
6)及びディビィド・クルンタル編集株式会社岩波書店平成9年(1997年)発
行「岩波=ケンブリッジ世界人名辞典」(乙38))には,「ヴァレンティノ」の
項が設けられていて,その項に「ヴァレンティノ」の語がヴァレンティノ・ガラヴ
ァーニを示すことや「ヴァレンティノ」の語が単独で説明に記載され,また,本願
商標の登録出願前の昭和51年9月30日ないし平成5年8月28日にわたり発行
された日刊「ゲンダイ」,読売新聞,日経流通新聞,繊研新聞,「センイ・ジャァ
ナル」,朝日新聞,秋田さきがけ,河北新報,東奥日報,山陰中央新報,サンケイ
新聞,宮崎日日新聞,日経産業新聞,福島民友新聞,ディリースポーツ,徳島新
聞,公明新聞,夕刊フクニチ,千葉日報,日本経済新聞及び報知新聞の記事や見出
し中には,「ヴァレンティノ」又は「バレンチノ」等と略称して,ヴァレンティ
ノ・ガラヴァーニに関する記事が掲載される(乙1の1~25)など,ヴァレンテ
ィノ・ガラヴァーニの名前は,「VALENTINOGARAVANI」,「ヴァレンティノ・ガラ
ヴァーニ」とフルネームで表示されるほか,単
に,「VALENTINO」,「Valentino」,「ヴァレンティノ」,「バレンチノ」等と略
称として,又は同人のデザインに係る商品群に使用されるブランドの略称を表すも
のとして使用されている。
  また,「VALENTINOGARAVANI」及び「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」
並びにその略称である「VALENTINO」,「Valentino」,「ヴァレンティノ」及び
「バレンチノ」の表示は,「世界の一流品大図鑑」1981年版(乙2),「世界
の一流品大図鑑」1983年版(乙3),「世界の一流品大図鑑」1985年版
(乙4),「男の一流品大図鑑」1985年版(乙5),「世界の一流品大図鑑」
1988年版(乙6),「男の一流品大図鑑」1988年版(乙7),「世界の一
流品大図鑑」1990年版(乙8),「男の一流品大図鑑」1991年版(乙
9),「ヴァンサンカン(25Ans)」1987年10月号,1989年5月
号,1994年4月号及び同10月号(乙10~13),「SUPR」1989年
11月号及び同12月号(乙14,15),「ミス家庭画報」1989年5月号,
1990年5月号,同7月号,1994年4月号及び同6月号(乙16~2
0)),「ミセス」1994年5月号(乙21),「ヴァンテーヌ」1994年1
0月号及び同12月号(乙22,23),「JJ」1990年6月号(乙2
4)),「Oggi」1993年10月号(乙25),「CLASSY」1993
年10月号(乙26),「マリ・クレール」1993年10月号(乙27),
「ル・クール」1993年10月号(乙28),「ELLE」1997年8月号
(乙29),「エル・ジャポン」1997年8月号(乙30),「ドンナ ジャポ
ーネ」1998年4月号(乙31),「世界の一流品大図鑑」1977年版(乙3
2),「EUROPE一流ブランドの本」1977年12月号(乙33),「朝日
新聞」1982年11月20日発行(乙34),「nonno」1989年12月
号(乙35)等の各種ファッション関連雑誌及び新聞において,ファッション関連
商品におけるデザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニを示す略称として,
また,同人のデザイナーブランドである「VALENTINOGARAVANI」,「ヴァレンティ
ノ・ガラヴァーニ」を示す表示として,繰り返し掲載されている。
エ 加えて,日本法人である株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパ
ンは,「ヴァレンティノ」(乙1の1)及び「VALENTINO」(甲15)の商標を使用
し,また,山田政美著株式会社研究社1991年発行「英和商品名事典(乙37)
には,ヴァレンティノ・ガラヴァーニの店の名称につい
て,「Roma,Firenze,Milanoなどにあるその店の名称はValentino(Vは小文字で
書くこともある)」と紹介されている。
(3)以上認定したところによれば,「VALENTINO」,「Valentino」,「ヴァレ
ンティノ」,「バレンチノ」の表示は,著名なファッションデザイナーであるヴァ
レンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に付されるブランドの表示とし
て,我が国の婦人服,紳士服等のファッション関連分野の取引者,需要者にとっ
て,遅くとも平成9年ころまでには周知・著名となったものと認められ,その周
知・著名性は,本件出願時(平成13年6月21日)を経て不登録事由の判断時期
である本件審決時(平成17年4月12日)に至るまで継続していたものと推認さ
れる。
  原告は,現在のファッション界において上記著名性が継続しているかは疑
問であると主張するが,「VALENTINOGARAVANI」及び「ヴァレンティノ・ガラヴァ
ーニ」並びにその略称である「VALENTINO」,「Valentino」,「ヴァレンティノ」
及び「バレンチノ」の表示が各種ファッション関連雑誌及びの新聞において,ファ
ッション関連商品におけるデザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニを示す
略称として使用され,また,同人のデザイナーブランドである「VALENTINO
GARAVANI」,「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」を示す表示として,各種ファッシ
ョン関連雑誌及び新聞に繰り返し掲載されてきたことは上記(2)のとおりであり,そ
の後上記推認を覆すような「VALENTINO」表示の周知・著名性の継続を阻害する事情
が存したことを認めるに足りる証拠はなく,原告の上記主張は採用することができ
ない。
  また,原告は,「VALENTINO」(Valentino)は,イタリアにおけるごくあ
りふれた氏姓であり(甲1),そのことから「VALENTINO」,「Valentino」,「ヴ
ァレンティノ」を含む,いわゆるブランドが数多く存在している(甲2),我が国
では,平成7年から「VALENTINOGARAVANI」のブランドマーケティングが行われて
いない(甲16~19),などと主張する。しかし,「VALENTINO」(Valentino)
がイタリア人の氏姓としてありふれたものであるとしても,そのことが我が国にお
いて商標としての識別力を備えることの妨げになるとは解されないし,まして,我
が国においては「VALENTINO」(Valentino)は氏姓としてありふれたものであると
はいえず,これが上記使用等の事実の蓄積によって取引者,需要者にとって周知・
著名となることを何ら妨げるものということはできない。また,甲2によれば,
「ルドルフ・バレンチノ」,「ステファノ・ヴァレンチノ」,「ヴァレンチノクリ
スティー」(VALENTINOCHRISTY)等の「VALENTINO」,「バレンチノ」,「ヴァレン
チノ」を含む商標が使用されていること,株式会社矢野経済研究所作成の2001
年(平成13年)版ないし2003年(平成15年)版「ライセンスブランド全調
査」(甲17~19)には「VALENTINO」ブランドに関するマーケティング調査が
行われていないことが認められるが,これらの事実は,ヴァレンティノ・ガラヴァ
ーニに係る「VALENTINO」表示の上記周知・著名性の成立及び継続を阻害するもので
あるとまでは認めることはできない。
  (4)以上検討したところによれば,引用商標に関する認定判断の誤りをいう原
告の取消事由2の主張は,理由がない。
 4 取消事由3(出所混同のおそれに関する認定判断の誤り)について
(1)原告は,審決の「本願商標は,著名なデザイナーである「VALENTINO
GARAVANI」の著名な略称「VALENTINO」を含む商標であり,その指定商品も引用商標
の使用商品とは,ともにファッション関連の商品であって,両者はその需要者を共
通にするものであるから,本願商標をその指定商品に使用した場合,これに接する
取引者・需要者は,引用商標と綴り字を同じくする「VALENTINO」の文字部分に着目
し,容易に引用商標を連想・想起し,その商品の出所について混同を生ずるおそれ
があるといわなければならない」(審決9頁最終段落)との認定判断に対
し,「VALENTINO」の文字は,「VALENTINOGARAVANI」の著名な略称であるというこ
とはできないから,我が国の取引者,需要者が「VALENTINO」のみに接する時,直ち
に「VALENTINOGARAVANI」を想起するとは考えられないと主張する。
  しかし,「VALENTINO」表示が,著名なファッションデザイナーであるヴァ
レンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に付されるブランドの表示とし
て,我が国の婦人服,紳士服等のファッション関連分野の取引者,需要者にとって
周知・著名であり,本願商標の構成中の「VALENTINO」の部分が,「VALENTINO
GARAVANI」に係る「VALENTINO」表示を表したものと把握され,認識されることによ
って取引者,需要者の注意を特に強く引くものと認められることは,既に前記1,
2に述べたとおりであり,原告の上記主張は採用することができない。
(2)原告は,「VALENTINO」表示が略称として著名であっても,本願商標に係る
指定商品のほとんどは,日用品であり,ファッション性よりも使い心地,使い勝手
の良さ,耐久性が求められるのであり,現在,本願商標を使用して既に市場に受け
入れられている商品は「ランチ用品」であり,100円ショップにおいて販売され
ているから,引用商標に係るファッション性が高い分野の高級品と関連性は全くな
く,商品の取引者,需要者も異なり,これらの取引の実情を総合的に判断すれば,
両者における商品に関して出所の混同を生ずる余地は全くないと主張する。
  しかし,本願商標の指定商品中「化粧用具」,「洋服ブラシ」,「靴ブラ
シ」,「靴べら」,「靴磨き布」,「軽便靴クリーナー」は,美感,装いを整え
る,着飾る一連の用途に関わる商品であり,デザイン性やファッション性も求めら
れている商品であることは,前記2(2)のとおりであり,また,現在,本願商標を使
用して既に市場に受け入れられている商品は「ランチ用品」であり,100円ショ
ップにおいて販売されているとしても,商標法4条1項15号にいう「他人の業務
に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」を判断するに当たっては,出願に係る
商標の指定商品全部について一般的に検討すべきであり,出願人固有の取引の実情
を混同を否定する方向に斟酌することは許されないことは,前記2(3)のとおりであ
り,原告の上記主張も採用することができない。
  (3)原告は,甲29を援用し,本願商標に係る「ランチ用品」は,甲3商標な
いし甲5商標のライセンス事業から拡大したもので,本願商標には独自の信用,顧
客吸引力が生じているのであると主張する。しかし,甲29を含め,本件全証拠に
よるも,本願商標が,ヴァレンティノ・ガラヴァーニに係る「VALENTINO」表示との
混同を生じさせないほどの独自の出所識別力を獲得しているものとは認められな
い。また,原告は,甲3商標ないし甲5商標が本願商標の出願前わずか2年ないし
3年前に商標登録されたものであり,本願商標に対して正反対の判断をしなければ
ならない事情の変化があったとは到底考えられないとも主張するが,本願商標の商
標法4条1項15号該当性の判断は,本願商標につき個別具体的になされるべきで
あり,これとは別に甲3商標ないし甲5商標が商標登録された事実は,本願商標に
係る上記判断を左右するものではなく(甲3商標ないし甲5商標の商標登録が確定
判決により適法とされたわけでもない。),採用することができない。
  (4)以上検討したところによれば,本願商標は,その指定商品について使用す
るときは,その商品があたかも著名なデザイナーである著名なデザイナーである
ValentionoGaravani/ヴァレンティノ・ガラヴァーニあるいは同人と何らかの関係
にある者の業務に係る商品であるかの如く,その商品の出所について混同を生じさ
せるおそれがあるというべきであり,これに関する認定判断の誤りをいう原告の取
消事由3の主張も,理由がない。
5 結論
 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願商標は商標
法4条1項15号に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。
   よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のと
おり判決する。
     知的財産高等裁判所第2部
         裁判長裁判官   中  野  哲  弘
    裁判官   岡  本     岳
    裁判官   上  田  卓  哉

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