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裁判例


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       主   文
1 一審被告東京都の控訴及び一審原告らの当審における追加的請求に基づき,原
判決のうち,一審原告らの一審被告東京都に対する金員請求に係る部分を,次のと
おり変更する。
(1) 一審被告東京都は,一審原告らに対し,別紙2の各一審原告に対応する
(a)欄記載の各金員並びに(b)欄記載の各金員に対する(c)欄記載の各日か
ら平成13年12月31日までは年4.5%の割合,平成14年1月1日から支払
済みまで(ただし,一審原告株式会社北陸銀行の(ア)欄については同年2月21
日まで)は年4.1%の割合による各金員及び(d)欄記載の各金員に対する
(e)欄記載の各日から支払済みまで年4.1%の割合による金員を,(ア)及び
(イ)の区分があるものについてはその区分に応じて支払え。
(2) 一審原告らの一審被告東京都に対するその余の金員請求をいずれも棄却す
る。
2 一審原告らの一審被告東京都に対する,一審原告らが本件条例に基づき平成1
4年4月1日に開始する事業年度に係る事業税を納付する租税債務を有しないこと
の確認請求に係る訴えを却下する。
3 一審原告らの控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,一,二審を通じてこれを3分し,その1を一審原告らの,その余
を一審被告東京都の各負担とする。
5 この判決は,1(1)項に限り,仮に執行することができる。ただし,一審被
告東京都が,各一審原告につき附帯請求部分を除く当該一審原告の請求認容額の6
割(1万円未満切捨て)に相当する金員の担保を供するときは,当該一審原告の仮
執行を免れることができる。
      事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
〔一審原告ら〕
(控訴の趣旨)
1 原判決のうち,一審原告らの敗訴部分を取り消す。
2 一審原告らと一審被告東京都との間で,一審被告東京都が平成12年4月1日
に制定した「東京都における銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する
条例」(東京都条例第145号。以下「本件条例」という。)が無効であることを
確認する。
3 一審原告らと一審被告東京都知事との間で,本件条例が無効であることを確認
する。
4(原判決で1000万円の限度でしか認容されなかった国家賠償請求について)
 一審被告東京都は,一審原告八十二銀行,一審原告福岡銀行及び一審原告みずほ
信託銀行に対し,それぞれ1億円及びこれに対する平成12年10月24日から支
払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(以下5ないし7項は,控訴審における追加的請求)
5 一審原告らと一審被告東京都との間で,一審原告らが,本件条例に基づき平成
14年4月1日に開始する事業年度に係る事業税を納付する租税債務を有しないこ
とを確認する。
6 主位的請求
(1)(一審原告ユーエフジェイ銀行,一審原告大和銀行及び一審原告中央三井信
託銀行を除く一審原告らについて後記7(1)の予備的請求との間での主位的請
求)
 一審被告東京都は,一審原告ユーエフジェイ銀行,一審原告大和銀行及び一審原
告中央三井信託銀行を除く一審原告らに対し,それぞれ同各一審原告に対応する別
紙3(c)欄記載の各金員並びに同各金員に対する別紙3(g)欄記載の各日から
支払済みまで年4.1%の割合による各金員を支払え。
(2)(一審原告ユーエフジェイ銀行について後記7(2)の予備的請求との間で
の主位的請求)
 一審被告東京都は,一審原告ユーエフジェイ銀行に対し,101億0082万9
300円並びにうち83億4828万6300円に対する平成14年8月2日から
及びうち17億5254万3000円に対する同年5月16日からそれぞれ支払済
みまで年4.1%の割合による金員を支払え。
(3)(一審原告大和銀行について後記7(3)の予備的請求との間での主位的請
求)
 一審被告東京都は,一審原告大和銀行に対し,17億8161万3300円並び
にうち16億0635万1200円に対する平成14年7月1日から及びうち1億
7526万2100円に対する同年8月2日からそれぞれ支払済みまで年4.1%
の割合による金員を支払え。
(4)(一審原告中央三井信託銀行について後記7(5)の予備的請求との間での
主位的請求)
 一審被告東京都は,一審原告中央三井信託銀行に対し,37億3229万230
0円並びにうち34億2735万4000円に対する平成14年7月25日から及
びうち3億0493万8300円に対する同年8月2日からそれぞれ支払済みまで
年4.1%の割合による金員を支払え。
7 予備的請求
(1)(一審原告ユーエフジェイ銀行,一審原告大和銀行,一審原告みずほコーポ
レート銀行及び一審原告中央三井信託銀行を除く一審原告らについて上記6(1)
と予備的併合関係で,かつ,次のアとイとの間では単純併合の関係にある請求)
ア 一審原告ユーエフジェイ銀行,一審原告大和銀行,一審原告みずほコーポレー
ト銀行及び一審原告中央三井信託銀行を除く各一審原告が申告納付した平成13年
4月1日に開始する事業年度に係る事業税が過大申告であったとして同各一審原告
に対応する別紙3(e)欄記載の各日に行った各更正請求に対し,一審被告東京都
知事が平成14年8月14日付けで同各一審原告に対してそれぞれした「理由がな
いと認め,更正しないことにした」旨の各通知処分を取り消す。
イ 一審被告東京都は,一審原告ユーエフジェイ銀行,一審原告大和銀行,一審原
告みずほコーポレート銀行及び一審原告中央三井信託銀行を除く各一審原告に対
し,それぞれ同各一審原告に対応する別紙3(c)欄記載の各金員並びに同各金員
に対する別紙3(h)欄記載の各日から支払済みまで年4.1%の割合による各金
員を支払え。
(2)(一審原告ユーエフジェイ銀行について請求6(2)と予備的併合関係で,
かつ,アとイとの間では単純併合の関係にある請求)
ア 一審原告ユーエフジェイ銀行が申告納付した平成13年4月1日に開始する事
業年度に係る事業税が過大申告であったとして別紙3(e)欄の(旧三和銀行)及
び(旧東海銀行)記載の各日に行った各更正請求に対し,一審被告東京都知事が平
成14年8月14日付けで一審原告ユーエフジェイ銀行に対してそれぞれした「理
由がないと認め,更正しないことにした」旨の各通知処分を取り消す。
イ 一審被告東京都は,一審原告ユーエフジェイ銀行に対し,101億0082万
9300円並びにうち83億4828万6300円に対する平成14年10月4日
から及びうち17億5254万3000円に対する同月5日からそれぞれ支払済み
まで年4.1%の割合による各金員を支払え。
(3)(一審原告大和銀行について請求6(3)と予備的併合関係で,かつ,アと
イとの間では単純併合の関係にある請求)
ア 一審原告大和銀行が申告納付した平成13年4月1日及び平成14年3月1日
に各開始する事業年度に係る事業税が過大申告であったとして同年7月4日に行っ
た各更正請求に対し,一審被告東京都知事が同年8月14日付けで一審原告大和銀
行に対してそれぞれした「理由がないと認め,更正しないことにした」旨の各通知
処分を取り消す。
イ 一審被告東京都は,一審原告大和銀行に対し,17億8161万3300円及
びこれに対する平成14年10月5日から支払済みまで年4.1%の割合による金
員を支払え。
(4)(一審原告みずほコーポレート銀行について請求6(1)のうち一審原告み
ずほコーポレート銀行に係る請求と予備的併合関係で,かつ,アとイとの間では単
純併合の関係にある請求)
ア 一審原告みずほコーポレート銀行が申告納付した平成13年4月1日に開始す
る事業年度に係る事業税が過大申告であったとして平成14年7月4日に行った各
更正請求に対し,一審被告東京都知事が同年8月14日付けで一審原告みずほコー
ポレート銀行に対してそれぞれした「理由がないと認め,更正しないことにした」
旨の各通知処分を取り消す。
イ 一審被告東京都は,一審原告みずほコーポレート銀行に対し,157億508
9万7500円及びこれに対する平成14年10月5日から支払済みまで年4.1
%の割合による金員を支払え。
(5)(一審原告中央三井信託銀行について請求6(4)と予備的併合関係で,か
つ,アとイとの間では単純併合の関係にある請求)
ア 一審原告中央三井信託銀行が申告納付した平成13年4月1日及び平成14年
3月25日に各開始する事業年度に係る事業税が過大申告であったとして同年7月
9日に行った各更正請求に対し,一審被告東京都知事が同年8月14日付けで一審
原告中央三井信託銀行に対してそれぞれした「理由がないと認め,更正しないこと
にした」旨の各通知処分を取り消す。
イ 一審被告東京都は,一審原告中央三井信託銀行に対し,37億3229万23
00円及びこれに対する平成14年10月10日から支払済みまで年4.1%の割
合による金員を支払え。
〔一審被告東京都〕
1 原判決のうち,一審被告東京都の敗訴部分を取り消す。
2 一審原告らの控訴審における追加的請求5(平成14事業年度分の事業税の租
税債務不存在確認請求)に係る訴えを却下する。
3 一審原告らの一審被告東京都に対する金員請求(原判決における請求5及び6
並びに控訴審における追加的請求6及び7)をいずれも棄却する。
4 一審原告らの控訴を棄却する。
〔一審被告東京都知事〕
1 一審原告らの控訴を棄却する。
2 一審原告らの一審被告東京都知事に対する控訴審における追加的請求7をいず
れも棄却する。
第2 事案の概要
 本件は,一審被告東京都が,各事業年度の終了日に資金量5兆円以上の銀行業等
を行う法人に対し,業務粗利益を課税標準として税率100分の3の法人事業税を
課税する本件条例を制定したことについて,納税義務者である一審原告らが,本件
条例は憲法及び地方税法の関係する条項に違反して無効であると主張して,一審被
告東京都及び一審被告東京都知事に対し,本件条例の無効確認請求(請求1及び
2。以下「請求1」ないし「請求6」という表現は,原判決におけるものと同じ表
現を用いることとする。),一審被告東京都に対し,平成13事業年度(平成13
年4月1日から開始する1年間の事業年度)分の事業税を対象とする本件条例に基
づく更正処分及び決定処分の差止め請求(請求3)並びに本件条例に基づく租税債
務不存在確認請求(請求4)をするとともに,平成12事業年度分として留保文言
を付した上で,一審被告東京都に対し本件条例に基づき計算し申告納付した事業税
額について,一審被告東京都に対し,主位的に,誤納金としての還付及び還付加算
金の支払請求(請求5の一部)を,予備的に,一審被告東京都知事に対し,一審原
告らの過大申告を理由とする更正請求について一審被告東京都知事が行った「理由
がないと認め,更正しないことにした」旨の通知処分の取消しを請求し,それを前
提に一審被告東京都に対し,上記事業税額の過納金としての還付及び還付加算金の
支払請求(請求6の一部)をし,そして,本件条例制定に至る一審被告東京都知事
及び一審被告東京都の担当職員等の一連の行為等が違法であり故意・過失があるこ
とを理由として,一審被告東京都に対し,国家賠償請求(請求5及び6の残部)を
求めた事案である。
 原判決は,請求1ないし4については不適法な訴えであるとして却下したが,請
求5については,本件条例が地方税法72条の19に違反し無効なものであり,平
成12事業年度分の事業税に関する一審被告東京都知事の通知処分も無効であると
して,誤納金の還付請求を認めるとともに,本件条例制定に至る一連の行為等は,
国家賠償法上違法であり,一審被告東京都の担当者及び一審被告東京都知事に過失
が認められるとして,国家賠償請求も認めた(ただし,一審原告八十二銀行,一審
原告福岡銀行及び一審原告みずほ信託銀行の国家賠償請求については,1000万
円の損害額の限度で認容した。)。
 原判決に対し,一審原告ら及び一審被告東京都が控訴をした(なお,原審で原告
であった株式会社富士銀行は,商号変更により一審原告みずほコーポレート銀行と
なるとともに,原審で原告であった株式会社日本興業銀行の訴訟を承継し,また,
原審で原告であった株式会社第一勧業銀行及び安田信託銀行株式会社は,商号変更
により,それぞれ一審原告みずほ銀行及び一審原告みずほアセット信託銀行となっ
た。)。控訴審において,一審原告北陸銀行は,原判決で誤納金還付請求が認めら
れた平成12事業年度分として納付した事業税額の一部(2190万2100円)
の還付を原審の口頭弁論終結日の後(平成14年2月21日)に受けたことから,
還付を受けた分の請求額を減縮した(附帯請求との関係においても,還付日の翌日
以後で対象となる元本額が減額されることとなる。)。また,一審原告らは,控訴
審係属中に平成13事業年度分の事業税を納付したことから,平成13事業年度分
の事業税を対象とする本件条例に基づく更正処分等の差止請求(請求3)及び租税
債務不存在確認請求(請求4)に係る訴えに代えて,一審被告東京都に平成13事
業年度分として納付した事業税額について,主位的に,誤納金の還付及び還付加算
金の支払請求(控訴審における追加的請求6)を,予備的に,一審被告東京都知事
に対するその通知処分の取消しと一審被告東京都に対する過納金の還付及び還付加
算金の支払の請求(控訴審における追加的請求7)を,さらに,平成14事業年度
分の事業税を対象とする本件条例に基づく租税債務不存在確認請求(控訴審におけ
る追加的請求5)に係る訴えを本件訴訟に併合して提起し,各訴えは,一審被告ら
の同意を得た上で本件訴訟と併合して審理された(行政事件訴訟法19条1項)。
 したがって,控訴審において判断を求められているのは,
 ①本件条例の無効確認請求(原判決における請求1及び2),
 ②平成14事業年度分の事業税を対象とする租税債務不存在確認請求(控訴審に
おける追加的請求5),
 ③平成12事業年度分及び平成13事業年度分の各事業税を対象とする誤納金還
付(主位的),通知処分の取消しと過納金還付請求(予備的)及び国家賠償請求
(平成12事業年度分を対象とするもの及び国家賠償請求が原判決における請求5
及び6,平成13事業年度分を対象とするものが控訴審における追加的請求6及び
7)
 である。
 本件に関係する地方税法の定め及び前提事実については,原判決12頁1行目と
2行目との間に次のエないしキを付加するとともに,控訴審における当事者の主張
として本判決添付別紙4のとおり付加するほか,原判決の「第2 事案の概要」の
「1 法令の定め」から「4 当事者の主張」まで(原判決7頁10行目から同1
3頁10行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。
「エ 一審原告北陸銀行は,富山県知事に対し,平成13年9月28日付けで,事
業税の分割基準となる従業員数及び事業所数の訂正による分割基準の修正に関する
届出をし,富山県知事は,この届出に基づき分割基準の修正を行うとともに,一審
被告東京都知事に対し,同年11月30日付けで,一審原告北陸銀行の分割基準の
修正を行った旨の通知(地方税法72条の49第11項)をした。一審原告北陸銀
行は,一審被告東京都知事に対し(東京都中央都税事務所長を経由して),同年1
2月17日,更正請求書(乙7の42)を提出し,一審被告東京都知事は,平成1
4年1月25日付けの法人事業税更正処分(乙3の109)を行い,一審原告北陸
銀行は,同年2月21日,平成12事業年度の既納税額(1億6301万8600
円)のうち,2190万2100円の還付を受けた(乙3の110)。これによ
り,一審原告北陸銀行の平成12事業年度の既納税額は,同月22日以降1億41
11万6500円となった。
 オ 原審で原告であった株式会社富士銀行は,平成14年4月1日,「株式会社
みずほコーポレート銀行」に商号変更して一審原告みずほコーポレート銀行となる
とともに,同日,一審原告みずほコーポレート銀行を存続会社として,原審で原告
であった株式会社日本興業銀行と合併し,その権利義務を承継取得し,本件訴訟も
承継した。また,原審で原告であった株式会社第一勧業銀行及び安田信託銀行株式
会社は,同日,それぞれ「株式会社みずほ銀行」及び「みずほアセット信託銀行株
式会社」に商号変更して,一審原告みずほ銀行及び一審原告みずほアセット信託銀
行となった。
 カ 一審原告らは,それぞれ,平成13事業年度分の事業税についても,平成1
2事業年度分と同様な留保文言を付して,本件条例に基づき計算された事業税額を
一審被告東京都に申告納付したが(甲268の1ないし17),各一審原告につい
ての各既納税額及び納付日並びに地方税法72条の12に従い事業税の課税標準を
「所得」として従来の税率で算出した税額は,別紙3(a)欄及び(d)欄並びに
(b)欄にそれぞれ記載されたとおりである。そして,各一審原告は,それぞれ,
上記各申告納付後直ちに,各一審原告が申告納付した平成13事業年度に係る事業
税が過大申告であったとして,一審被告東京都知事に対し更正請求を行い(甲26
9の1ないし17),一審被告東京都知事は,平成14年8月14日付けで,各一
審原告に対して,それぞれ「理由がないと認め,更正しないことにした」旨の通知
処分を行った(甲270の1ないし17)。各一審原告について,各更正請求日及
び通知処分がされた日は別紙3(e)欄及び(f)欄にそれぞれ記載されたとおり
である。
 キ なお,一審原告ユーエフジェイ銀行は,平成14年1月15日に,原審で原
告であった株式会社三和銀行が商号変更した銀行であり,同日,原審で原告であっ
た株式会社東海銀行との間で,ユーエフジェイ銀行を存続会社として合併したの
で,一審原告ユーエフジェイ銀行は,平成13事業年度に係る事業税としては,自
己に係る分のほか,地方税法72条の13第7項に基づき,平成13年4月1日か
ら平成14年1月14日までを1事業年度とする株式会社東海銀行の分の事業税を
納付している。同様に,一審原告みずほコーポレート銀行は,平成14年4月1日
に,原審で原告であった株式会社富士銀行が商号変更した銀行であり,同日,原審
で原告であった株式会社日本興業銀行との間で,みずほコーポレート銀行を存続会
社として合併したので,一審原告みずほコーポレート銀行は,平成13事業年度分
に係る事業税としては,自己に係る分のほか,地方税法72条の13第7項に基づ
き,平成13年4月1日から平成14年3月31日までを1事業年度とする株式会
社日本興業銀行の分の事業税を納付している。
 また,一審原告大和銀行は,平成14年3月1日に,訴外大和銀信託銀行株式会
社との間で,一審原告大和銀行を分割会社として会社分割を行ったことから,一審
原告大和銀行は,地方税法72条の13第8項に基づき,「平成13年4月1日か
ら平成14年2月28日まで」及び「平成14年3月1日から同月31日まで」を
各1事業年度として,事業税を納付している。同様に,一審原告中央三井信託銀行
は,平成14年3月25日に,訴外三井アセット信託銀行株式会社との間で,一審
原告中央三井信託銀行を分割会社として会社分割を行ったことから,一審原告中央
三井信託銀行は,地方税法72条の13第8項に基づき,「平成13年4月1日か
ら平成14年3月24日まで」及び「平成14年3月25日から同月31日まで」
を各1事業年度として,事業税を納付している。」
第3 当裁判所の判断
1 本件条例の無効確認請求(請求1及び2)及び租税債務不存在確認請求(控訴
審における追加的請求5)に係る訴えの適法性について
(1) 本件条例の無効確認請求(請求1及び2)の法律上の争訟性等について
 当裁判所も,本件条例の無効確認請求(請求1及び2)は,法律上の争訟性を欠
き,また,本件条例の制定・公布が抗告訴訟の対象となる行政処分性を有すると解
することはできないから,同請求に係る訴えは不適法であると判断するものである
が,その理由は,引用の末尾に次のとおり付加するほか,原判決13頁13行目冒
頭から同17頁11行目末尾までの「(1) 請求1及び2について」欄記載のと
おりであるから,これを引用する。
「オ 本件条例の制定や施行自体に法律上の争訟性や抗告訴訟の対象となる行政処
分性が認められるためには,本件条例の制定なり施行によって一審原告らの「具体
的な」権利義務や法的地位に対し,「直接的な」影響を及ぼすことが必要であると
解されるものであるが(最高裁判所平成4年11月26日第一小法廷判決民集46
巻8号2658頁),そもそも,地方公共団体における条例の制定なり施行は,一
般的な規範を定立することを目的とするものであって,条文の文言上その適用対象
として規定されている個人や法人の「具体的な」権利義務や法的地位に「直接的
な」影響を及ぼすような内容を持つものではない。例外的に,そうした内容を持っ
た条例があり得ることは否定できないが,甲1号証により認められる本件条例の条
文の文言や内容を精査してみても,本件条例は,各事業年度の終了の日における資
金の量が5兆円以上である銀行業等を行う法人を課税の対象として規定するにとど
まるのであるから,本件条例の制定・施行が直ちに一審原告らの「具体的な」権利
義務や法的地位に「直接的な」影響を及ぼすものであるとは認められない。確か
に,証拠(乙3の3ないし17・20・21,乙4の1ないし5,乙5の1ないし
8)によれば,本件条例の制定過程においては,一審被告東京都の主税局長ら関与
した職員,一審被告東京都知事,本件条例案の審議に参加した東京都議会議員ら
が,一審原告らも含めた大手の銀行30行に適用されることになることを予測し,
その前提で,本件条例案の準備,審議における説明・答弁・質疑等が行われたこと
が認められるが,そこで問題となっている本件条例の「適用」というのは,あくま
でもこれが制定・施行された場合の適用可能性のことであって,上記本件条例の文
言等に照らして,法律的に当然に適用されることを前提とする趣旨のものと見るこ
とはできない。また,一審原告らは,本件条例の制定・施行によって,繰延税金資
産及び当期利益の減少という直接的な影響を受けたと主張するが,この点について
も,実際上の関連性は認められるとしても,法的な意味では,本件条例の制定・施
行後,一審原告らに本件条例に基づく具体的な租税権利義務関係が生じて初めて関
連性が問題となる点に変わりはなく,本件条例の制定自体が一審原告らに対し,上
記の意味で「直接的に」及ぼした「具体的な」権利義務への影響であると評価する
ことはできない。」
(2) 一審原告らの「回復し難い損害」について
 標記の各請求は,不利益処分(一審被告東京都知事による更正処分及び決定処分
を指す。)の根拠法令である本件条例の無効確認を求め(請求1及び2),並びに
平成14事業年度分事業税について予想される不利益処分によって具体的に形成さ
れる権利義務関係の不存在確認を求める(控訴審における追加的請求5)もので,
それぞれ異なる請求なり訴訟形態をとってはいるが,その法律的な意味での目的
が,本件条例の効力を争うことにより,一審被告東京都知事の不利益処分を事前に
予防することにある点では共通であると考えられる。当裁判所は,そうした不利益
処分が行われる前にその予防を目的として提起される訴えがすべて不適法であると
考えるものではないが,行政処分の取消訴訟を中心に構成されている現行行政事件
訴訟法の構造等から見ると,このような予防的訴訟は例外的なものであり,これが
認められるためには,不利益処分を受けてから,それに関する訴訟の中で,事後的
に不利益処分の根拠となる法令の効力を争ったのでは,「回復し難い損害」を被る
おそれがある等事前の救済を認めないことを「著しく不相当とする特段の事情」が
あることが必要であると考える(最高裁判所昭和47年11月30日第一小法廷判
決民集26巻9号1746頁)。そして,本件においては,こうした特段の事情を
認めるに足りる証拠はないといわざるを得ないので,標記の各請求に係る訴えはい
ずれも不適法で却下を免れない。その理由は,引用の末尾に以下のとおり付加する
ほか,原判決17頁12行目冒頭から同21頁19行目末尾までの「(2) 請求
1ないし4について」欄記載のとおりであるから,これを引用する。
「オ 一審原告らが本件条例の制定・施行による「回復し難い損害」と主張すると
ころのものは,社会的信用や評価の低下に代表されるように,具体的な損害につい
ての法的な評価が困難なものであるし,そもそも一審原告らの事業活動には,銀行
を取り巻くここ数年の厳しい経済情勢はもちろんのこと,基本的な経営方針,事業
の組織,営業活動の実情といった各一審原告固有の事情から,国家の経済政策とい
った社会一般の事情まで,多種多様な諸要因が複合的に影響し作用を及ぼしている
ことは公知の事実である。そして,本件条例の事業税の納税が,一審原告らの信用
低下等に実際上何がしかの悪影響を及ぼしたことは否定できないが,一審原告らの
事業活動に具体的にどの程度の悪影響を及ぼし,それが他の影響を及ぼした要因と
比べて,法的な意味で決定的なものないしは主因的なものであったかを確定するこ
とは,その性格上困難であるし,控訴審で提出された証拠を勘案しても,これを確
定するに足りる証拠があるとはいえない。また,一審原告らは,不利益処分を回避
するために,留保文言を付した事業税の申告納付を行うという策を講ずることによ
って,法的な救済措置を求めている間に不利益処分を受ける可能性を減少させてい
るところ,他方で,この申告納付をするために多大な資金の調達を余儀なくされ
(甲245・246の1ないし17),このことが一審原告らの事業活動に影響を
及ぼしていることも否定できないところではあるが,この点についても,上記と同
様に,多種多様な諸要因の複合的な作用が働くものであることから,上記資金調達
が一審原告らの事業活動に与えるマイナスの影響の具体的な程度や法的な評価を確
定することは,本件全証拠によっても困難である。そのほか,一審原告らが「回復
し難い損害」と主張するところの繰延税金資産及び当期利益の減少等の損害につい
ては,仮に,これらが,一審原告らが主張するとおり,本件条例の制定・施行と法
律的な因果関係が認められる経済的な価値を有する資産の減少と評価できるとして
も,これらは,本件条例の効力を争い誤過納金の還付や国家賠償を求める事後的な
救済方法によって,確定され決着されるべき事項であって,一審原告らの「回復し
難い損害」を基礎付けるものと解することはできない。
 以上を総合すると,一審原告らの控訴審における主張立証を踏まえても,請求1
及び2並びに控訴審における追加的請求5について,事後的な救済を待っていたの
では,一審原告らが「回復し難い損害」を被るおそれがある等,事前の救済を認め
ないことを「著しく不相当とする特段の事情」があるものと認めることはできな
い。」
2 本件条例の適法性・有効性について
 請求5及び請求6のうちの平成12事業年度分の事業税を対象とする誤過納金還
付請求並びに控訴審における追加的請求6及び7(平成13事業年度分の事業税を
対象とする誤過納金還付請求)は,本件条例が違法で無効であることを前提として
いる。
 この点について,原判決は,事業税の沿革等から見て現行事業税は,「所得課
税」という意味での応能課税の立場を原則として採っており,「事業の情況に応
じ」例外的に外形標準課税とする余地を認める地方税法72条の19は,事業の収
益構造等事業自体の客観的性格や法律上の特別の制度の存在などから,「所得」が
当該事業の担税力を適切に反映しない情況にある場合に,初めて外形標準課税を認
めているものと解されるところ,本件条例が対象とした銀行業等において,所得を
課税標準とした場合に,事業の客観的性格や法令上の制度の存在により適切な担税
力の把握ができない事情はうかがえないなどとして,本件条例は,同条の要件がな
いのに外形標準課税を賦課することとした点において違法で無効なものであると判
断している。当裁判所も,本件条例は地方税法に違反して無効なものであると考え
るが,その理由は原判決と異なり,本件条例は同法72条の19には違反しない
が,同法72条の22第9項に違反することにより無効となると考えるものであ
り,その理由は以下に述べるとおりである(なお,原審,控訴審を通じて,当事者
双方から,自らの主張を裏付けるものとして,学者,元行政官僚,政治家等有識者
の意見書が多数提出されているが,それらの意見書は,それぞれの観点からの参考
意見を述べるものであることにかんがみ,以下の認定において,これに適合する意
見又は異なる意見を述べた個々の意見書を網羅的に摘示することはしない。)。
(1) 現行事業税の導入に至る経過
 現行事業税の導入に至る経過については,原判決22頁10行目の「乙6の3・
4・7,乙7の35」を「乙6の3・4・7・21ないし26・29・30,乙7
の35・36」に改め,同26頁13行目及び27頁25行目の「第25号」の後
に「(乙6の29)」を,同28頁15行目及び29頁11行目の「第24号」の
後に「(乙6の26)」をそれぞれ付加した上,以下のとおり付加,訂正するほか
は,同22頁6行目冒頭から同29頁18行目末尾までの「(2) 事業税の沿
革」欄記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決26頁14行目冒頭から16行目「されたが,」までを次のとおり改め
る。
「同日の委員会における自治庁税務部長の説明では,事業税の条文の構成につい
て,「(前略)今回の事業税の立案にあたりましては,法人の課税標準は所得また
は収入金額によるんだということにいたしまして,収入金額が例外であって,所得
が原則なんだというような書き方はやめたのであります。とにかく事業に応じて所
得をとるものもあるし,収入金額をとるものもあるというような立案にいたしてお
ります。(中略)」との説明がされていた(第19回国会衆議院地方行政委員会議
録第25号(乙6の29)10頁)。」
イ 原判決27頁25行目末尾の次に,行を改めて次のとおり加える。
「同月13日の同委員会においては,政府委員の自治庁税務部長は,個人事業税に
は基礎控除があることから,事業税は純益課税ではないのかとの質問に対し,「事
業税の性格をどう見て行くかということにつきましては,実定法を基礎にして考え
るよりいたし方ないだろうと思うのであります。その際にやはり事業税は府県の経
費分担だという思想を出しながらも,特に零細な事業につきましてはそこに多少負
担の緩和をはかって行かなければならない,こういう考え方をとっておるというふ
うに見るべきだろうと思うのであります。ただ,御趣旨のような生活費を差引いた
純益というのでありましょうか,そういう形ではなしに,税率も標準税率をとって
おりますし,すべての事業に課税するという建前をとっているということから考え
て参りますと,やはり事業をして行く場合には,事業に対する地方団体の施設もあ
ることなんだから,その分量に応じて経費を負担して行くのだ,しかしながら,課
税標準をどうするかということについては,税金を緩和しなければならぬとかいろ
いろな関係があるものだから,ある種のものについては収入金額をとる,ある種の
ものについては所得をとる,しかしながら,零細なものについてそこに若干の考慮
を払う,こういうような姿になっておると言わざるを得ないのじゃないかと思って
おります。」と答弁した。これに対し,事業税の本質は応益税的性格かとの質問が
され,自治庁税務部長が府県の経費を分担するという意味があると答弁したことに
対し,さらに,応益税であるならば,法人にもっと課税すべきではないかとの質問
がされ,自治庁税務部長は,不徹底な点があることを認めた上で,徹底するために
は,売上金額等別の課税標準を用いた方がよいと答弁している。また,同日の同委
員会において,法人と個人の事業税の間に格差があるので,個人事業税の基礎控除
の引き上げ等緩和措置をもっととるべきであるとの質問との関連で,自治庁税務部
長は,「(前略)事業税は経費のうちから払わるべき税金だという建前をとってお
るわけであります。従いまして法人税や所得税の計算をいたします場合に,支払い
ました事業税額は,全部経費として控除して行きます。(中略)要するに経費のう
ちから払わるべき税金なのであって,それだけの経費はやはりその事業の対価を受
けた場合に常に控除してもらいたい。すなわちそこからできた品物を買って行く人
がありましたならば,買って行く人たちに一応それだけのものを背負わして行きた
い,こういう考え方をとっておるのであります。(後略)」と答弁した(第19回
国会衆議院地方行政委員会議録第30号(乙6の22)7ないし10頁)。同委員
会の審議においては,以上の質疑に代表されるような零細な個人事業者の事業税負
担が法人の事業税負担よりも重いので,一層の基礎控除の引き上げ,税率の引き下
げ等緩和措置が必要であるとの質問がされ,その関連で事業税の性格に関する答弁
がされている。」
ウ 原判決28頁8行目末尾の次に,行を改めて次のとおり加える。
「同年6月6日の衆議院地方行政委員会における審議において,政府委員として出
席した同改正法案立案担当者である自治庁税務部長は,事業税を純益課税にしない
で外形課税で説明しようとするので,無理が生じてくるとの質問に対し,「(前
略)事業税の課税標準を何に求めるかということは非常にむずかしい問題でありま
すけれども,純益に求めるよりも,売上金額とか,付加価値額とか,あるいは従業
者数とかいう形に求めた方が,事業税の性格ならいってもむしろ望ましいのではな
いか,こういう感じを持っております。しかし課税事務の簡素化の問題その他の問
題もございますので,多くのものにつきましては,法人税や所得税にそのまま乗っ
かるという方式を採用して参っております。」と説明している(第22回国会衆議
院地方行政委員会議録第15号(乙6の25)9頁)。」
エ 原判決28頁14行目末尾の次に,次のとおり加える。
「さらに,付加価値税的なものはやめるべきであるとの質問に対し,自治庁税務部
長は,「かって国税でありました場合の営業税と,現在府県の独立税としての事業
税とは全くその存在理由を異にしているだろうと思います。(中略)今のこの事業
税をむしろ全体の納得の得られるようなものに育てていきたいというふうな考え方
を持っているわけであります。事業税はもうけから払うのか,経費から払うのかと
いう考え方に立ちました場合には,やはりもうけのうちから払う税金じゃなしに,
元来事業をやっていきます以上は,それだけのものを経費として考えていってもら
わなければならないのではないだろうか,こういうふうに思うのでございます。そ
の場合にどの程度負担してもらえるかということになって参りますと,沿革的な事
情もございますし,あるいは負担する場合の難易の問題もございまして,従来通り
所得を課税標準にしているわけでございますけれども,料金統制の行われているも
の等につきまして,漸次売上金額と課税標準とするように切りかえていっているわ
けであります。こういうように個々にいろいろ問題が起きております点を率直に見
詰めまして,是正をはかりながら事業税というものを育てていきたい,こういう考
え方を現在のところいたしているわけであります。」」
(2) 本件条例に至るまでの外形標準課税に関する議論等
 上記認定の昭和29年,30年及び32年の地方税法の改正(それぞれ各年の法
律第95号,法律第112号及び法律第60号)により,現行事業税の基本的な構
造が確立されたものと考えられる。
ア 立案担当者,所管官庁等の考え方
 こうした法改正の立案担当者であるとともに,地方税法を所管していた旧自治庁
ないし自治省担当者の事業税の性格や外形標準課税の位置付けに対する理解は,事
業税の課税客体である事業は,道路,港湾,橋梁,公衆衛生施設等の都道府県の施
設を利用し,又はこれらの行政サービスを受けてその活動を行っていることから,
事業税は,基本的には,これらの公共施設の設置や行政サービスに必要な経費につ
いて応分の負担を求めるという応益原則に基づく税であること,その課税標準も事
業の規模・活動量を最も端的に表現するものであることが望ましく,そういう意味
では,「所得」よりも,「売上金額」等のいわゆる外形的なものを課税標準とする
ことがより適当であるというものである(乙1の3・17・18・21・42・4
7の1・51・53・55ないし58・60ないし63,乙3の87・88・9
0・91,乙7の7)。例えば,乙1の57(地方税昭和33年1月号の旧自治庁
税務局府県税課担当者の事業税に関する解説)では,現行地方税法72条の19に
相当する当時の72条の18第1項の実質的意義に関して,「(1)事業税は,そ
の沿革上ここに規定されているような課税標準であったのが,所得金額に統一さ
れ,例外的に収入金額をも採用しているが,本来の性格として,所得を課税標準と
すべきものではなく,現在の経済情勢上やむを得ず所得を中心として課税標準とし
ているものの,事情が許せばここに規定されている思想即ち外形標準課税の方向に
向かうべきものであること。(2)そのために,全国的に,一律に改正は行われ難
いが,特定の都道府県において,外形標準課税を行い得るならば,法定外普通税の
如く国家の許可を得なくても実施できること。(3)税率は,法第72条の22第
10項に,法定の課税標準の場合の負担と著しく均衡を失することのないようにし
なければならないと規定されているが,これは,個々の納税者ごとに判断するので
なく,この制度に包含される全体についての税負担と考えるべきものであること。
課税標準に変更があれば個々には税負担の変動があるのは当然であり,個々の税負
担を法定の方法による場合と同じくするならば,この制度の大半の意義が失われ
る。(以下略)」と,また,「事業の情況に応じ」に関して,「事業の情況に応じ
てこの方法がとれるのであるが,一定の業態(例えば,物品販売業或はその特殊な
る形態である百貨店業)を対象とし,或は一定規模以上のものに限定し,或は法
人,個人を区分して適用することもできる。何れの場合においても,条例上明らか
にしておかなければならない。」とそれぞれ解説が加えられている。この解説は,
昭和35年に初版が刊行された自治庁税務局編「地方税法逐条解説 事業税編」
(乙1の58)にも引き継がれている(乙3の88)。
 一方,国や地方の税制全体の在り方を検討する政府の税制調査会においても,制
度論としてではあるが,事業税を「所得」以外の基準によって事業の規模・活動量
に応じた課税とするための検討が続けられた。早期の段階のものである昭和39年
12月の「「今後におけるわが国の社会,経済の進展に即応する基本的な租税制度
のあり方」についての答申」では,事業税について「事業税の課税の根拠は,事業
が収益活動を行なうに当たっては,地方団体の各種の施設を利用し,その他の行政
サービスの提供を受けていることから,これらのために必要な経費を分担すべきで
あるとする考え方によるものであるが,課税に当たって事業そのものを課税客体と
しているのは,事業が収益活動を行なっている事実に着目してその担税力を見出そ
うとするものであるからである。したがって,事業税は事業の規模ないし活動量あ
るいは収益活動を通じて実現される担税力をなんらかの基準によって測定して課税
することが望ましいと考えられる。このような意味において,現行の事業税は,大
部分の事業について,所得金額を課税標準としていることは,法人税又は所得税の
附加税的な色彩をもち,所得に対する課税の重複とみられる等問題があると考えら
れる。したがって,事業税の課税標準については,事業の規模ないし活動量あるい
は収益活動を通じて実現される担税力を表わす何らかの所得金額以外の基準を求め
て,これを課税標準とすることが適当であると考える。」とした上で,具体的な外
形基準の在り方についての検討を行っている(乙1の39・45)。
 本件条例案の検討が始められた前後の平成11年7月には,政府税制調査会の下
に置かれた地方法人課税小委員会が,地方税を安定的で税収の変動が少ないものと
して地方分権を推進するために,「特に,都道府県の最大の税目である法人事業税
に外形標準課税を導入し,応益課税としての事業税の性格を明確にするとともに,
都道府県税収の安定化を図ることが重要な課題となっている。」とし,具体的に
は,「法人事業税は,法人の事業活動と地方の行政サービスとの幅広い受益関係に
着目して事業に対して課される税であることから,その課税標準は,法人の事業活
動の規模をできるだけ適切に表すものであることが望ましい」が,「所得」を課税
標準としているため,「事業活動の規模との関係が適切に反映されず,本来の応益
課税の性格から見て,望ましいあり方になっていない」ので,「法人事業税への外
形標準課税の導入は,法人の事業活動と地方の行政サービスとの受益関係に着目し
て事業に対して課する税としての性格の明確化を図るという観点からも,大きな意
義を有する改革になるものと考える。」とした上で,具体的な外形基準について検
討している(乙6の5・8,甲175)。
イ 本件条例以前の外形標準課税導入に向けた動き
 本件条例以前においても,地方税法72条の19を活用して外形標準課税を導入
しようとする動きがなかったわけではない。すなわち,昭和49年に,千葉県で
は,一定規模以上の石油精製及び石油化学企業の2業種に限って,売上金額を課税
標準とする外形標準課税導入の試みがされたが,他の地方自治体や旧自治省等か
ら,特定の業種に限った外形標準課税の導入について,税負担の均衡を失うなどの
批判がされて,結局導入が見送られた(甲61ないし63)。
 その後も,全国知事会が昭和52年11月30日に「法人事業税の外形課税の実
施に関する報告」をし,その中で「法人事業税外形課税実施案要綱」を公表した
(乙7の23,24)。その内容は,「事業税の物税としての性質を明確にし,行
政サービスに対する法人の税負担の適正化及び都道府県税収の安定化」を目的とし
て,法改正によらず,全国の都道府県が地方税法72条の19に基づく特例条例を
制定して外形標準課税の導入を図ることを提言するものであって,主として製造業
を行う法人で資本又は出資金額が5億円以上のものを納税義務者とし,課税標準
は,「所得」と外形標準,具体的には,いわゆる加算法による付加価値(所得並び
に給与,利子及び賃借料の合計金額)を併用する方式によるというものである。同
年末の外形標準課税の本格導入の問題は,地方財政制度審議会や政府の税制調査会
においても検討されたが,厳しい経済情勢下にあるし,政府において関連する一般
消費税の検討が行われていたこと,また,国と地方の財源配分をどうするかについ
ても結論が出ていないことから見送られることとなった(乙1の47の1,乙6の
27,乙7の24)。この全国知事会の提案の検討過程で,旧自治省税務局の担当
者が地方税制に関して共同執筆した文献(乙1の47の1「昭和52年 改正地方
税制詳解」)においては,全国知事会で製造業のように一定の業種の法人に限定し
て外形標準課税の導入が検討されていることを念頭に置いた上で,地方税法72条
の19の「事業の情況に応じ」について,「「事業の情況に応じ」とは,たとえば
①相当規模の事業活動を行っているにもかかわらず,その事業の規模に比して税負
担が著しく低いことが常態であるため一定期間の所得を課税標準としては,受益の
程度に応ずる負担を求めることが困難な情況にある場合,②所得を課税標準として
いるため同一規模の事業を行っている異種の事業の間に税負担の不均衡が生じてい
る情況にある場合等をいうものと考えられる。したがって,知事会試案のように例
えば製造業のように一定の業種の法人に限定して外形課税を行うことも可能である
と考えられる。」と説明されている。また,昭和53年3月30日の参議院地方行
政委員会において,この点の経緯に関する質疑が行われた際に,政府委員である旧
自治省税務局長は,都道府県が個別に外形標準課税を導入することと地方税法72
条の22第9項の均衡要件との関係については,「地方税法の現行法から申します
と,いまお話しのように外形標準課税の仕組みを導入できる,その場合の税率は現
行の所得課税の負担と均衡を失しないように決めなければならないと,こう書いて
おるわけでございます。そういたしますと,いまお話しのように,得するところだ
けが外形課税をやり,そうでないところは所得課税をやるということになります
と,全体として所得課税を行った場合との負担のバランスというものはこれはとれ
ない結果になりますから,法はそういうことは予定していないと私は考えておりま
す。したがって,外形課税を導入する場合には,所得課税負担との均衡を失しない
ようにするためには,どうしても一律に外形標準課税方式を導入するということで
なければ適当でないと,かように思っておる次第でございます。」と答弁し,引き
続き外形標準課税を導入する業種を増やしていくことについて問われて,「(前
略)法律で外形課税が導入できるのは,事業の状況により導入できると,こう書い
てあるわけです。ですから,すべての事業を通じて事業税に外形課税を一律に導入
するということは法律は予定してないと私は思うんでございます。知事会の提案
も,製造業に限定をしてやりたいということでやっておりますから,まあそういう
事業の状況に応じてやるという税法上の考え方に即しておると思うわけでありま
す。その製造業をさらに個別に分けて,何業はやるが何業はやらないということに
なりますと,これはなかなか選別なり整理はむつかしいという感じがいたしますか
ら,もし現行法を活用しますならば,知事会が考えてこられたような形ではないだ
ろうかと,かように思います。」と答弁している(第84回国会参議院地方行政委
員会議録第5号(乙6の27)6頁)。
ウ 学界等有識者の議論
 事業税の性質については,学界では,戦前の営業税時代から,これを収得税(人
税)である所得税と対置する収益税(物税)と位置付ける見解が一般的であり,戦
後事業税として改正された後にも,事業税が収益税の性質を持っていることは異論
がないこと,事業税の課税根拠に関する論説には,上記アで認定した立案担当者等
と同様な見解をとる旧自治省関係者が執筆したものが少なくないこともあって,事
業が都道府県の公共サービスから利益を受けているという事実に着目し,事業税を
公共サービスの受益の対価として根拠付ける「利益説」の立場をとる見解が多い
(乙1の4・41)。
 地方税法72条の19に関して具体的な解釈論を展開したもので,旧自治省関係
者以外の学者のものとしては,上記イ認定の千葉県における外形標準課税導入の動
きに関連して,「地方税法が「所得」を課税標準としている以上,所得が零または
赤字である場合までも課税対象にするということは,許されないものといわねばな
らない。外形課税によらねばならない必要性としては,例えば,売上金額を課税標
準とする方が公平な課税を実現できるとか,徴税能率を高めるというような場合が
考えられる。さらに,外形課税の合理性を担保するような税率が採用されねばなら
ないが,すべての事業に公平な一本の税率というものは考えられない。事業の種類
や規模により,売上原価や費用に大きな差異があるのが当然であろう。むしろ,特
定の種類の事業について規模等を考慮して税率を定めることの方が合理性を有する
可能性があるものと考えられる。したがって,千葉県のように,石油精製・石油化
学企業に限定して外形課税を実施することも,「所得」課税の趣旨を全く無視する
ようなものでない限り,許されるわけである。因みに,地方税法は,事業税につい
て,所得を課税標準とする方法と外形課税の方法を併せ用いることを明文で許容し
ていることに注目しておきたい(72条の19)。」として,地方税法72条の1
9の規定による外形標準課税を認めるために,その必要性と税率面における合理性
を求める見解(甲85・98。昭和61年に公表されたA東京大学法学部教授のも
の)や,「現在の事業税制度は,必ずしも利益説の考え方に即した制度とはなって
いない。それは,若干の業種を除いて純収益(所得)を課税標準としている点で
は,むしろ能力説の考え方に近く,他方,法人税および所得税の税額計算において
経費として控除することが認められている点では,利益説の考え方を反映している
(法人事業税について累進課税が採用されていることも,利益説の考え方では説明
できない。)。いずれにしても,現行の事業税は応能課税と応益課税の混合タイプ
であり,しかも応能課税の要素のより強い混合タイプである。」とする見解(乙1
の4。上記ア認定の政府税制調査会地方法人課税小委員会の報告を契機として,平
成11年に公表されたB東京大学名誉教授のもの)があることが認められる。
 いずれにせよ,本件条例の構想が公表された後の議論(原判決48頁23行目冒
頭から同49頁23行目末尾までのキ欄参照)と比べると,地方税法72条の19
の具体的な解釈論についての学界における検討はそれほど突っ込んだものではなか
ったのではないかと推認される。
エ 内閣法制局部長の国会答弁
 なお,本件条例案に対しては,平成12年2月22日に政府が具体的な問題点を
指摘して東京都に対し慎重な対応を求める統一見解(その詳細については,原判決
51頁8行目冒頭から同52頁9行目末尾までのソ欄説示のとおり)を公表してい
るが,その一方で,同月24日の衆議院地方行政委員会で政府参考人として出席し
た内閣法制局第一部長が,地方税法72条の19の解釈について質問されて,
「(前略)事業税といいますのは,事業活動が地方公共団体のサービスを受けて行
われるという点に着目した,事業に対する課税であるというふうに考えられており
ます。お尋ねの72条の19は,事業の状況に応じて外形標準課税をすることがで
きるという旨を規定しておるわけでありますけれども,これは,こうした事業税の
本来の性格,応益課税であるという本来の性格に照らしまして,特定の事業につい
ては,事業税の課税標準として所得以外のものを用いる方が受益との関係でより適
切であるというふうに判断される場合ということになろうと思います。さらに具体
的に申し上げますと,基本的には,所得を課税標準としてとっていたのでは事業税
の負担がその受益の程度に比して相当に低いということが常態化しているような業
種が,同条の規定による外形標準課税の対象になるというふうに考えられます。ほ
かにも,例えば,非常に景気感応性が高くて毎年の事業税の納付額が大きく極端に
動くというふうなことで,地方公共団体の安定的なサービスの提供に障害があると
いうようなことがあれば,そういうものも対象として考えていいのではないかとい
うふうに考えております。」と答弁している(第147回国会衆議院地方行政委員
会議録第3号(乙6の31)29頁)。この答弁は,本件条例案公表後のものであ
るが,その内容から見て,上記アないしウ認定の本件条例以前の議論を踏まえ,そ
れをまとめたものと推認され,従前の議論を理解する上で参考になると考えられ
る。
(3) 現行事業税の性格
ア 立法経過の理解
 上記(1)認定のとおり,昭和29年及び30年の地方税法の改正過程で,立案
作業に当たった旧自治庁担当者は,提案理由の説明においてはもちろん,外形標準
課税や付加価値税的な考え方を批判する質問に対しても,事業税の基本的な理念と
して,事業者が事業を行うに当たっては,公共施設を利用したり行政サービスを受
けることになるので,その経費を分担してもらうという応益的な考え方が採られる
べきであるとの立場からの答弁が繰り返されている(例えば,「事業の分量に応じ
て,府県の経費を分担するという考え方が事業税の中に織り込まれるべきではなか
ろうか」「事業税は府県の経費分担だ」等)。その上で,そうした基本的な考え方
からの帰結として,事業税の本来の姿としては,付加価値等による外形標準課税が
望ましいとしている(例えば,「理論的には,附加価値税が非常によろしいのであ
ります」「純益に求めるよりも売上金額とか,付加価値額とか,あるいは従業者数
とかいう形に求めた方が,事業税の性格ならいってもむしろ望ましいのではない
か」「所得を課税標準とすることは本来の筋ではないのじゃないか,やはり付加価
値的なもの,あるいは従業員数その他の外形的なものを課税標準に採用した方がい
いのじゃないか,こういう考え方をしております。」)。一方で,「所得」なり
「純益」を課税標準とした理由については,戦後の経済情勢,特に企業の担税力へ
の配慮,従前と異なる取扱いをすることによる徴税・納税事務の負担という,理論
的というよりは,実際上の理由によるものであると説明している(例えば,「経済
の基礎が非常に浅いものだから千億にもなろうとする税金の賦課方法をかえるとい
たしますと,業界にとって非常に重くなったり,軽くなったりいたします。こうよ
うな負担の激変(中略)に打ちかつためには,現在のわが国の産業界の基礎があま
りに弱すぎるのではなかろうか。(中略)やむを得ず従前通りにしておくよりいた
し方ないのではなかろうか。」「やむを得ず従来通り踏襲するだけ」「課税事務の
簡素化の問題その他の問題もございます」「沿革的な事情もございますし,あるい
は負担する場合の難易の問題もございまして,従来通り所得を課税標準にしている
わけでございます」)。その上で,応益的な考え方による事業税を育てて行きたい
旨明確に答弁している。
 以上の説明・答弁から見て,立案担当者は,事業税について,その性格から見て
応益的な考え方に基づき構成されるべきものであり,実際上の理由から所得を課税
標準としているが,「所得」以外の付加価値等の課税標準による課税が可能である
ならば,その採用を広げていくべきであるという立場に立っていたことが明らかで
ある。
 確かに,昭和29年の地方税法の改正において,事業税において応益的な考え方
による制度設計を徹底させようとしたシャウプ勧告やそれに基づく附加価値税が一
度も実施されないまま廃止され,所得が原則的課税標準として採用された経過から
すると,現行事業税を応益的な考え方だけで理解することには,なお慎重な検討を
要するともいえよう。しかし,上記(1)認定の立案担当者の説明・答弁によれ
ば,例えば,事業税の課税標準を定める条文(現行地方税法72条の12)では,
所得と収入金額について,条文上の表現面で優先劣後を付けず並列的に規定するな
ど,将来の立法論にとどまらず,現行法の立案に当たっても,シャウプ勧告やそれ
を受けた附加価値税が実現しようとした応益的な考え方を,可能な限り条文中に取
り込もうとしていたことが認められる。また,一審原告らは,上記(1)認定の説
明・答弁は,明文で外形標準課税を認める例外業種を拡大する方向での法改正に際
し,これを直接的な対象としたものであって,地方税法72条の19の解釈運用が
直接議論の対象とされていたわけではないと主張する。しかし,上記の説明や答弁
によると,所得を課税標準とすることは本来望ましくなく,応益的な考え方に基づ
き外形基準を課税標準とする余地を広げていくべきであるとの基本的な立場を一貫
させていることから見て,地方税法72条の19の解釈運用においても,積極的な
立場をとるものと考えられる。
イ 戦前の営業税制度の影響
 一審原告らは,事業税の前身である営業税は,明治11年までさかのぼることが
できるが,少なくとも終戦当時の営業税は,純益(所得)課税を原則としていて,
その例外として認められていた外形標準課税は,純益,営業純収益等の所得の捕捉
が困難な場合にこれを補うため徴税の便宜から設けられたものであって,その点は
昭和29年に創設された現行事業税においても引き継がれているのであり,したが
って,現行地方税法72条の19が許容するものも,営業税時代と同趣旨で,所得
の捕捉の困難な情況を前提としていると解すべきであると主張する。そこで,以下
この点について検討する。
 証拠(甲280ないし294,甲297,乙6の24)によれば,明治29年に
国税として創設された営業税,大正15年に府県税として存置された営業税,昭和
22年に国税から地方税に移管された営業税及び昭和23年に営業税に代わって創
設された事業税には,原則か例外かはともかくとして,いずれも外形標準課税の規
定が設けられていたこと,明治29年に創設された営業税においては,主要24業
種に限るものではあるが,本来純収入ないし営業純収益を課税標準とすべきとこ
ろ,帳簿が未整備な小営業者等がおり,個別調査も煩に耐えないことから外形基準
(「建物賃貸価格,従業者,売上金額,資本金額,収入金額,請負金額及び報償金
額」。なお,戦前の法規上の文言については,必要に応じて現代語標記によってお
り,以下も同様である。)を課税標準としたと解されていたこと,しかし,外形標
準課税によると課税の負担が営業の利益や収益の実際と合わず負担の均衡を失する
という批判があったことから,大正15年の改正で国税としての営業税を廃止し,
国税としては,営業純益を課税標準とする営業収益税が創設されたこと,その際,
府県税としては内務,大蔵両大臣の許可を受けて,「営業の収入金額(売上金額,
請負金額,報償金額の類を含む),資本金額,営業用建物の賃貸価格,従業者の
数」を課税標準とする外形標準課税を採用することが認められた(地方税に関する
法律施行規則2条1項)が,これは小営業者の純益の調査が大営業者と比べて困難
であることに対応するものと解されていたこと,昭和15年の改正で府県税の営業
税も国税としての営業税に統合され,昭和22年の地方税法の改正で,営業税は国
から地方に移譲されて,純益を課税標準とする地方税としての営業税になったが,
営業の種類を限り内務大臣の許可を受け純益以外の外形基準を採用することが認め
られていたこと,この外形標準課税も営業者が実際の営業の収益を証すべき帳簿を
整備していない等収益の算定が困難な場合を補うために設けられたものと解されて
いたこと,昭和23年に営業税が廃止されて創設された事業税は,所得を原則的な
課税標準としながら,現行地方税法72条の19に相当する条文(69条1項前
段)が設けられたが,当時,この条文は,例えば,露天商のように事業形態によっ
て純収益ないし所得の把握が困難な場合に,外形基準による課税を認めたものと解
されていたこと,昭和29年の改正時において,現行地方税法72条の19に相当
する条文案について,政府委員の旧自治庁税務部長が「従来あった規定と同じであ
ります。」と説明していること(第19回国会参議院地方行政委員会議録第30号
(乙6の24)26頁),また,昭和29年改正に関する旧自治庁関係者の解説の
中には,現行地方税法72条の19に相当する条文について,徴税の便宜を図るた
めの規定である(甲294)とか,小規模な事業に適用することとなる(甲29
7)という趣旨の説明がされていることが認められる。また,一審原告らが当審で
提出した有識者の意見書(甲263ないし265,甲276)には,戦前の営業税
や営業収益税における外形標準課税は,基本的には記帳慣行等が未整備で収益の捕
捉が困難である中小事業者を想定していたもので,それも改正過程で縮小されてい
った経過から見て,現行事業税が応益的なものではあり得ない旨の見解が見られる
し,上記旧自治庁税務部長の説明から見て,昭和29年改正の立案担当者におい
て,それまでの外形標準課税に関する基本的な考え方を転換する意図はなかった旨
の見解が見られる。
 以上によれば,戦前の営業税時代の外形標準課税は,主として帳簿類が未整備な
小規模な営業者を想定して,その純益ないし所得の捕捉が困難な業種に営業税の課
税を可能とするために,導入されていたのであり,このような解釈は,昭和22年
改正による営業税及び昭和23年改正による事業税においても同様であったと認め
られる。そして,同年改正による地方税法における現行地方税法72条の19に相
当する条文(69条1項前段)は,既に説示(原判決23頁6行目冒頭から同21
行目末尾までのカ欄説示)したとおり,現行事業税法72条の19とほぼ同様な文
言である(ただ,外形基準に係る「家屋の床面積若しくは価格,土地の地積若しく
は価格」が「家屋の床面積若しくは賃貸価格,土地の地積若しくは賃貸価格」とな
っている点が目立つ程度である。)ところ,上記昭和29年改正に関する立案担当
者であった旧自治庁関係者の説明ないし解説に照らすと,同条による外形標準課税
が許容される場合についての解釈が,戦前の営業税時代と同様なものであるとの理
解が成り立たないわけではない。
 しかし,このような理解は,昭和29年及び30年の地方税法の改正過程で行わ
れた上記(1)で認定した説明・答弁の内容に反するものであるし,昭和29年の
改正に関する上記旧自治庁関係者の説明においては,その冒頭では,「事業税は所
得を課税標準にするのが原則だとか,収入金額を課税標準にするのが原則だとかい
うふうにきめてしまいませんで,それぞれの実態において所得を課税標準に用いる
ものもあれば,収入金額を課税標準に用いるものもあるという趣旨を現わしている
つもりでございます。」(第19回国会参議院地方行政委員会議録第30号(乙6
の24)25頁)と説明していること,また,いずれの説明等も,所得の捕捉の困
難性を指摘するものではないし,限定的な解釈の必要性について言及するものでも
ないことなどから見て,これらの説明等が直ちに上記アの認定を覆すものとは評価
できない。そして,戦前からシャウプ勧告前の昭和23年の改正までの経過が上記
のとおりのものであったとしても,シャウプ勧告,附加価値税の導入の議論を重ね
ている過程の中で,地方税法の立案担当者が応益的な考え方を重視するようになっ
ていったと認めることとは,何ら矛盾するものはないと考えられる。むしろ,上記
(1)認定の説明・答弁にもあるとおり,所得税法及び法人税法の課税標準の算定
に当たって,事業税額を経費又は損金に算入することが認められているのも,原判
決がいうところの技術的な規定にとどまらず,事業税がその本質において事業遂行
に当たっての行政サービスの受益と対価関係にあるべきものであることを勘案して
のものであると解されるところである。
 いずれにしても,以上に述べた現行事業税に対する応益的な考え方については,
上記(2)ア及びイで認定したその後の旧自治庁及び自治省関係者が執筆した資料
や国会答弁においても一貫している。
ウ 事業税の関係規定の表現
 一方,地方税法72条の19は,「(事業税の課税標準の特例)」という条見出
しの下に,例外4業種以外の事業についての外形標準課税について規定している。
この「特例」という表現から見る限りは,事業税の地方税法上における原則的な課
税標準は,「所得」(正確には,「所得」と「清算所得」であるが,以下中心的な
「所得」のみを表記することとする。)であるといわざるを得ない。上記(1)の
説明・答弁によれば,立案担当者においても,応益的な考え方が望ましいとはいっ
ても,実際上適用される課税標準としては,所得の場合が圧倒的であることは,自
認していたところであるし,現に,例外4業種の東京都の事業税額総額に占める割
合は,3.39%にとどまること(甲316。平成12年度)から見て,現行地方
税法においては,外形標準課税は例外的なものと位置付けられる。その意味では,
現行事業税は,上記(2)ウで認定したB教授の「応能課税と応益課税の混合タイ
プであり,しかも応能課税の要素のより強い混合タイプ」というとらえ方が,その
法的性格についても的確に表しているものと考えられる。
 その上で,例外4業種(地方税法72条の12が「収入金額」を課税標準とする
ことを認める電気供給業,ガス供給業,生命保険業及び損害保険業)以外の事業に
外形標準課税を認める要件として地方税法72条の19が定めているものは,「事
業の情況に応じ」という文言上解釈の幅のある一般的な表現によるものであって,
例外4業種と関連付けた表現とはなっていない。この表現を字義どおり理解する限
り,原判決が採用したような例外4業種に準ずるような事業自体の客観的性格や法
律上の特別の制度が存在する場合に限って,外形標準課税の導入を認めていると解
することは,狭きに失することは明らかである。昭和22年に改正された営業法4
8条の3の「営業の種類を限り」という表現(原判決22頁25行目冒頭から同2
3頁5行目末尾までのオ欄説示のとおり)が,昭和23年の地方税法の全面改正で
事業税に引き継がれる際に,「事業の情況に応じ」となったことから,特定の事業
に限定した外形標準課税の導入は解釈論として困難となったとの一審原告らの主張
は,これに沿う見解(甲85)もあるが,条文の文言を見る限り,このような理解
をすることは困難である。
 以上に認定したところに,上記(1)及び(2)認定の事実を勘案すれば,地方
税法72条の19は,原則的な課税標準である「所得」を課税標準として課税する
と適当でないと考えられる場合に,「所得」以外の適当な外形基準による課税(外
形標準課税)を,地方公共団体の裁量によって行うことを認める趣旨の規定である
と解するのが相当である。こうした解釈は,少なくとも,昭和29年の改正以来の
経過や議論になじむだけではなく,立案時以上に地方分権の推進が求められ,その
ための財源的な裏付けの必要性が高まっている現在の社会情勢にも,適合している
といえる。現行事業税は,「所得」を原則的な課税標準とし,その現実の適用の場
面においても,「所得」を課税標準とする課税が圧倒的に多いという意味におい
て,応能課税の要素が強いものと評価できるが,そうであるからといって,事業税
の本来的な姿である応益課税を選択することができるとする72条の19の解釈適
用の場面においては,その発動のための要件を満たしている以上,応益的な考え方
を基本とすべきであると考えられる。いずれにせよ,この「事業の情況に応じ」と
いう一般的な表現の解釈運用に当たっては,原則として,地方公共団体の合理的な
裁量にゆだねられていると認められるところである。
エ 均衡要件の位置付け
 上記ウのとおり,地方税法72条の19は,地方公共団体が,応益的な考え方に
立って,一定の立法裁量(もちろん,合理的なものである必要がある。)を認めて
いると解されるのであるが,その立法裁量権の行使の結果は,納税義務者の税負担
に直接的かつ重大な影響を及ぼすことになるし,法律で原則的に明定されている課
税標準の例外を条例で制定することを許容するのであるから,これが地方公共団体
の全くの自由裁量にゆだねられると解することはできない。そのような解釈は,法
令の明文の規定又はその趣旨に反する条例制定を許さないとする憲法94条及び地
方自治法14条1項の趣旨に反することになるし,税目の新設又は変更における地
方公共団体の選択を総務大臣の同意に係らせている法定外普通税についての地方税
法259条の規律とも整合性がとれないこととなる。一方,地方税法72条の19
自体の条文上の表現や構造から見て,同条の解釈論の中で,そうした外形標準課税
に関する地方公共団体の裁量に対する制約原理を導き出すことには限界があると思
われる。そして,地方税法の中で,そうした制約原理(法的な意味での歯止め)と
して機能することが期待されているのは,地方税法72条の22第9項のいわゆる
「均衡要件」であると解される。すなわち,同項は,外形標準課税の税率決定に,
その外形標準課税による税負担が所得を課税標準とする場合の税負担と著しく均衡
を失することのないように定めるべきものとしているのである。この均衡要件は,
実質的には,昭和23年の地方税法の全面改正の際に創設された規定であり,その
当時適用されていた営業税法48条の3が営業税の原則的課税標準である「純益」
に代えて,外形基準とすべき特別の必要がある場合には,営業の種類を限り,内務
大臣の許可を受けることを要件としていた(原判決22頁25行目冒頭から同23
頁5行目末尾までのオ欄説示のとおり)のを廃止して,上記の均衡要件を創設した
経緯にかんがみると,均衡要件は,実質的には内務大臣の許可に代替する法的な機
能を期待されているものと考えられる。したがって,地方税法72条の22第9項
は,地方公共団体が事業税に外形標準課税を導入するに当たっては,均衡要件を満
たすこと,すなわち,従前の課税標準及び税率による税負担と「著しく均衡を失す
ることのない」ように,外形標準課税に係る条例を制定することを要求している規
定と解すべきである。
 以上によれば,地方税法は,一方で,原則的課税標準を「所得」としてその税率
をも法定し,他方で,地方公共団体に対し,「事業の情況」という解釈に幅のある
表現で外形標準課税を導入できるようにするとともに,均衡要件により,原則的課
税標準及び税率による税負担と,著しく均衡を失しないように定めるべきことを求
めているものということができる。
(4) 地方税法72条の19の解釈
ア 適用される基本的な場合
 地方税法72条の19の解釈適用に当たっては,事業税が公共施設や行政サービ
スの受益に対する経費を分担するという応益的な考え方に立つべきであること,
「所得」以外の課税標準を条例によって採用する道を開いている同条の適用が検討
されるのは,原則的な課税標準である「所得」による課税が適当でないと考えられ
る場合であることは,上記(3)で認定したとおりである。また,事業税の課税客
体は事業(その収益活動)であり,事業税の担税力も課税客体である事業に求めら
れることは争いがないところである。そして,課税客体である事業の担税力を数量
的に測定するとともに,公共施設や公共サービスの受益の程度を反映するものとし
ては,課税客体である事業の規模・活動量が端的な指標であると考えられるので,
事業税の課税標準も,事業の規模・活動量にできる限り対応するものである必要が
あると考えられる。したがって,「所得」による課税が適当でない場合というの
は,基本的には,「所得」による課税が事業の規模・活動量から測定される事業の
担税力と対応しないものとなっていることが基本となる。この考え方は,例外4業
種について「収入金額」が課税標準として採用されていること(地方税法72条の
12)にも対応している。すなわち,電気供給業及びガス供給業については,公益
事業であるため料金認可制が採られ,料金が低く抑えられていること,また,生命
保険業及び損害保険業については,保険契約者の保険料を投資して大きな利益を上
げているが,この利益の大部分は配当に回されること,これらの理由により「所
得」を課税標準とする事業税額が事業の規模・活動量と対応しないものとなること
から,外形標準課税が採用されている。
 ただ,事業の規模・活動量については多義的なとらえ方ができるものであるの
で,税負担と事業の規模・活動量が対応しないといっても,もともと厳密な意味で
の定量的な対応関係を求めることは困難であり,抽象的・擬制的なアプローチに頼
らざるを得ないのであって,この点に関して,例外4業種に準ずる事業自体の客観
的性格や法律上の特別の制度の存在が必要であるとする原判決が採用した考え方
は,事業税の関係規定の表現や構造から見ても狭きに失し,これを採用できないこ
とは,既に(3)ウで述べたとおりである。そうはいっても,地方税法72条の1
9は特例的な課税であること,課税標準は納税義務者の税負担に直結し大きな影響
を与えるものであることから,税負担と事業の規模・活動量が対応しないとの判断
に当たっては,慎重な考慮が必要であると考えられる。上記(2)イで認定したと
おり,昭和52年に全国知事会の外形課税の提案がされた前後に公表された旧自治
省税務局の担当者の論説では,地方税法72条の19により外形標準課税ができる
一つの場合として,事業活動が相当規模であるのに,その規模に比して税負担が
「著しく低いこと」,そして,そのことが「常態化していること」を挙げている
し,また,上記(2)エで認定したとおり,本件条例の構想公表後にされた内閣法
制局第一部長の国会答弁でも,「所得」を課税標準とする税負担がその受益の程度
に比して「相当に低いこと」,そして,そのことが「常態化していること」が,同
条の外形標準課税の対象となる要素としているのも,同様な考察に基づくものであ
って,基本的に是認できる考え方であると評価できる。
イ 特定の事業,業種に限った適用
 次に,地方税法72条の19が,特定の事業,業種に限って外形標準課税を導入
することを許容する趣旨であるか否かを検討する。同条の「事業の情況に応じ」と
いう文言自体を素直に読めば,問題となる事業なり業種ごとに外形標準課税の課税
標準を検討することを許容しているものと考えられる。そして,同条の「事業の情
況に応じ」は,上記アで検討したとおり,事業税の税負担が,公共サービスの受益
の程度,具体的には,事業の規模・活動量に比して,「著しく」ないし「相当程
度」低いことが「常態化」している場合に満たされるものであることとすれば,個
々の事業なり業種ごとに,そうした常態が生じているかを吟味することになるのが
自然である。現に,例外4業種のように,法律で明定されているとはいえ,事業な
いし業種単位での例外が認められていること,上記(2)ア認定のとおり,旧自治
庁税務局の担当者の昭和30年代の現行事業税に関する解説書では,地方税法72
条の19の「事業の情況に応じ」の解釈として,物品販売業,百貨店業といった一
定の業態を対象とする外形標準課税が認められるとの考え方が紹介されている。ま
た,上記(2)イ認定のとおり,千葉県では昭和49年に,一定規模以上の石油精
製及び石油化学企業に限った外形標準課税導入の動きがあったこと,この動きは税
負担の均衡を失うなどの批判で見送られたが,このような石油精製・石油化学企業
に限定しての外形課税も,上記(2)ウ認定のとおり,「所得」課税の趣旨を全く
無視するようなものでない限り許容されるとの学者の見解が公表されていること,
その後も,上記(2)イ認定のとおり,全国知事会は昭和52年に,主として製造
業を行う法人を対象とする外形標準課税の導入を提案し,この提案に対しては,旧
自治省税務局長が国会で,製造業に限定しての導入は,地方税法の「事業の情況に
応じ」という文言に則している旨を答弁しているところである。それにもかかわら
ず,本件条例に対しては,その構想が公表された直後である平成12年2月22日
に閣議口頭了解として発表された政府の統一見解(甲10)を始め,特定の事業に
限定した外形標準課税の導入には問題がある旨の指摘が多く(ただし,上記(2)
エ認定の本件条例案公表後の内閣法制局第一部長の国会答弁では,上記ア認定の要
件を満たしている業種は,地方税法72条の19の外形標準課税の対象となるとし
ている。),本件訴訟においても,多数の有識者から同様な指摘がされているとこ
ろである。しかし,少なくとも,一審被告東京都において,本件条例案が検討され
ていた当時までの議論は,以上のとおり,物品販売業,石油精製業,製造業という
ように特定の事業・業種に限って適用することが当然の前提となっていたことを考
慮すると,地方税法72条の19は,特定の事業に限定した外形標準課税の導入を
許容していると解するのが相当であり,このような解釈も十分成り立ち得るところ
である。
 なお,昭和23年の地方税法の改正により,それまでの地方税法48条の3が
「営業の種類を限り」と規定していたのを,「事業の情況に応じ」という表現に改
められたことは既に認定したとおりであるが,このことから,特定の事業に限った
外形標準課税の導入の余地がなくなったと解すべきでないことは,上記(3)ウに
説示したとおりである。
ウ 東京都のみにおける適用
 一審原告らは,本件条例が,一審被告東京都のみにおける外形標準課税の実施で
ある点を問題としている。この点については,上記(2)アで認定した,昭和30
年代の旧自治庁税務局の担当者の解説書では,特定の都道府県における外形標準課
税も認められる旨の説明がされている。一方,本件条例の構想が公表される前に公
刊されていた旧自治庁・自治省関係者の論説(甲298ないし301)中には,地
方税法72条の19が道府県ごとに適用される場面は,現実にはほとんど考えられ
ない旨述べているものがあるし,また,上記(2)イで認定した,昭和52年の全
国知事会の外形標準課税の提案後に行われた旧自治省税務局長の国会答弁では,地
方税法72条の22第9項の「所得」による税負担との均衡を失しないようにする
ためには,全国一律の外形標準課税の導入でないと適当でないとしている。これら
に基づき,一審原告らは,旧自治庁・自治省関係者も,事業税における外形標準課
税は,法律によって一律にすべての道府県に適用しないと,現実には機能しないも
のと考えていたと主張する。確かに,昭和52年の全国知事会の外形標準課税導入
の提案,また,本件条例案が公表された後に,平成12年2月22日に閣議口頭了
解として発表された政府の統一見解(甲10),本件条例を契機とする旧自治省や
政府の税制調査会における外形標準課税導入の議論(乙6の9ないし12・28・
37)も,全国一律の導入が妥当であるという立場を前提としており,それが理論
的に見ても望ましい形態であることは確かであるといえる。
 しかし,地方税法72条の19が,例外4業種のように,法律という明確な形式
で全国一律に外形標準課税を課する方法とは別に,「事業の情況に応じ」という,
事業ごとの検討が可能な要件の下に,外形標準課税を導入する道を開いていること
からは,同条は,特定の地方公共団体の条例による外形標準課税の導入を認めてい
ると解さざるを得ない。ただ,特定の地方公共団体が外形標準課税を導入する際に
は,他の地方公共団体に与える影響が大きいことから,この面からも「所得」を課
税標準とした場合の税負担の均衡,つまり,地方税法72条の22第9項の均衡要
件の吟味をより慎重に行う必要があると考えられる。
(5) 本件外形標準課税と地方税法72条の19
 ア 銀行業等への限定について
 本件条例は,その2条1項に定める銀行業等を行う法人であって,各事業年度の
終了の日における資金量5兆円以上であるものを納税義務者としている。本件条例
が,地方税法72条の19に基づき銀行業等に限って外形標準課税を導入する理由
について,一審被告東京都側の公式の説明の要旨は,以下のとおりである(本件条
例制定後公表された一審被告東京都主税局の担当者の解説である乙3の20・2
1,本件条例案を審議した東京都議会の会議録である乙5の1ないし8)。
 「法人事業税は都道府県が提供する行政サービスと事業活動の受益関係に着目し
たものであり,その課税標準は,法人の事業活動の規模をできるだけ適切に表すも
のであることが,税負担の公平性の確保のためには望ましい。また,行政サービス
の安定的な供給のためには,税が安定的で変動が少ないものである必要がある。銀
行業等が十分な収益を上げながら不良債権処理に係る損失額が多額であるため,一
審被告東京都の行政サービスの対価としての法人事業税をほとんど負担しておら
ず,そうした情況が今後急に好転することが見込まれない。具体的には,銀行業等
の収益は,大手銀行19行の業務粗利益で見ると,バブル経済期の平成2年3月期
に約5兆6000億円であったものが,平成11年3月期には約7兆5000億円
を超えているのに対し,事業税額は,大手銀行のものがバブル経済期に約2200
億円で一審被告東京都の全事業税収の約14%であったものが,現在は約100億
円程度で全事業税収の約1.5%にまで落ち込む見込みである。このようにバブル
経済期よりも本業での利益を上げながら,法人事業税の負担をしていない業種は,
銀行業等(本件条例2条1項に定義がある。甲1)だけであるし,銀行業等の法人
事業税の税収は,他の業種と比べて極めて不安定である。以上から見て,銀行業等
に関する限り,構造的に事業活動の規模に見合った納税が期待できない「事業の情
況」(地方税法72条の19)にあることになり,応益課税としての法人事業税が
その機能を喪失している。そこで,銀行業等に限って同条に基づき,外形標準課税
を導入する必要がある。」
 証拠(上記の乙3の20・21,乙5の1ないし8に加えて,乙3の3ないし1
7・22ないし28,乙3の60・61の各1・2,一審被告東京都側から全国銀
行協会に送付された乙4の2ないし5)によれば,大手の銀行19行ないし30行
が一審被告東京都に納付する法人事業税額が昭和59年度以後不安定な状況にあ
り,特に平成5年度以降減少幅が大きいこと,その一方で,大手の銀行19行ない
し30行の業務粗利益や銀行の資金利益は,平成2年度から平成10ないし11年
度までの間,若干の増加ないし横ばいの傾向で推移していること(乙3の3ないし
5・12,乙4の5),一審被告東京都においては,本件条例案を検討する際に,
昭和60年度から平成10年度までの法人事業税額や平成2年度から平成11年度
までの業務粗利益の推移等について,銀行業等と不動産業,建設業及び証券業との
比較検討を行っているが,その結果によれば,不動産業等においても法人事業税額
が減少しているが,これらにおいては業務粗利益も減少していること(乙3の5・
6等),一審被告東京都の全法人事業税のうち大手の銀行30行が占める割合は,
昭和59年度から平成4年度までの間は,10%を上回るか10%相当であったも
のが,平成6年度から平成11年度までの間は,平成8年度(10.8%)及び1
0年度(5.8%)を除いて,1ないし3%の間にとどまったこと(乙4の5),
銀行業の事業税額が業務粗利益の傾向に反して減少しているのは,いわゆるバブル
経済の崩壊以降,不良債権処理を進めるため貸倒処理を本格化したことが影響して
いることが判明した。そして,以上の事実と銀行業等においては,今後も当分の間
継続して,不良債権処理,貸倒処理を継続する必要性が高いこと(公知の事実)か
ら見て,「所得」を課税標準とする法人事業税の課税によっては,銀行業等の法人
事業税額が,現状においても既に相当程度減少しているのに,今後も当分の間減少
が見込まれる状況であり,少なくとも業務粗利益や資金取引から推認される銀行業
等の事業の活動量は,そのような減少傾向と相当程度対応しないものとなっていた
し,このような傾向や状況は,不動産業等他の業種と異なるものであったのである
から,銀行業等について,上記(4)アで認定した地方税法72条の19の適用を
許容することができる「事業の情況」が生じていると判断することができる。
 一審原告らは,銀行業の上記のような情況について,バブル経済期及びその崩壊
後の経済情勢が銀行業に影響を及ぼした結果であって,銀行業等の事業自体の客観
的性質に基づかない事態であるから,地方税法72条の19の「事業の情況」には
当たらないと主張し,これに沿う有識者の意見書(例えば,甲276)を証拠とし
て提出する。しかし,地方税法72条の19の「事業の情況に応じ」の解釈運用
は,上記(3)ウで認定したとおり,基本的には,地方公共団体の合理的な裁量に
ゆだねられているものであるし,「事業の情況に応じ」の解釈として,「所得」を
課税標準とすると,事業の規模が同一である異種の事業との間で,事業税の税負担
の不均衡が生じている情況がある場合(昭和52年の全国知事会の外形標準課税の
提案前後に公表された旧自治省税務局担当者の論説)や,景気感応性が高くて毎年
の事業税納付額が大きく極端に変動するため,地方公共団体の安定的な行政サービ
スの提供に障害がある場合(本件条例の構想公表後の内閣法制局第一部長の国会答
弁)が含まれるとの見解もあることを考えると,上記一審原告らの主張は採用でき
ない。
イ 資金量5兆円以上との限定について
 銀行業等への限定が地方税法72条の19において許容されるとしても,各事業
年度の終了日における資金量が5兆円以上のものに限定していることについても許
容されるのかが問題となる。この点については,上記(2)アで認定した,昭和3
0年代の旧自治庁税務局の担当者の解説書では,対象事業を限定するだけではな
く,その中の一定規模以上のものに限定することも許される旨の説明がされている
一方,上記(2)イで認定した,昭和52年の全国知事会の外形標準課税の提案後
に行われた旧自治省税務局長の国会答弁においては,特定の事業に限った外形標準
課税を認めた上で,その事業を更に個別に分けて適用の有無を変えることは,その
選別や整理が困難であるとしており,消極的なニュアンスがうかがわれる。また,
本件条例について理解を示している有識者も,全銀行業等を納税義務者とした上
で,資金量5兆円未満のものについては課税免除とした方が問題が少なかったので
はないかとの見解を述べている(乙1の5・6)。以上から見ると,特定の業種の
中で,更に外形標準課税が適用されるものとそうでないものとの区別を設けること
については,慎重な考慮と検討が必要であると考えられる。
 一審被告東京都側は,公式の説明において資金量による限定を設けた理由とし
て,「中小金融機関への配慮」を挙げている(乙5の1ないし8,乙3の20・2
1)。すなわち,一般的にも中小事業者に厳しい経済情勢下にある中で,その資金
繰りに無視できない影響を及ぼす中小金融機関に対して,実質的に見れば増税の効
果を伴う本件条例による課税を適用することは,中小事業者にも相当程度の影響を
及ぼす可能性は否定できず,そうした事態が生じないように適用対象外にしたとい
うことである(弁論の全趣旨)。一方,本件条例案の検討過程の資料(乙3の1
0,乙4の5)によれば,本件条例による課税によって,大手の銀行30行(いず
れも資金量5兆円以上である。)については税収が120億円であったものが11
30億円増加するのに対し,資金量3兆円以上5兆円未満の銀行については,税収
が11億3000万円であったものが2億4000万円増加するに過ぎないことが
認められ,このことからすると,本件条例の資金量5兆円という要件は,どちらか
というと,安定した法人事業税収入を得るために,必要な限度で線を引いた面があ
ったことは否定できないところである。そして,本件条例の制定目的の一つとし
て,一審被告東京都の安定的な税収の確保があったことは争いがなく,その目的に
照らして,必要性の点から線引きしたことも,理解できないではない。しかしなが
ら,税負担の公平性の観点からは,この理由だけから線引きの合理性を根拠付ける
ことは困難である。
 そこで,更に検討するに,法人事業税の課税標準を地方税法72条の19を適用
して「所得」から外形基準に改めるに当たっては,中小事業者の事業活動に与える
影響を考慮する必要があることについては,昭和29年,30年の地方税法改正の
国会審議の際も上記(1)認定のとおり議論されているところである。また,上記
(2)アで認定した,昭和39年に外形標準課税の導入方向を示した政府の税制調
査会の答申においても,中小事業者への考慮が検討されている(乙1の39・4
5)し,上記(2)イで認定した,昭和49年の千葉県における導入の検討の際
も,一定規模以上の事業者を対象として外形標準課税を導入することが検討されて
いる。以上から見て,適用を受ける事業者の税負担を概して増やす結果となる外形
標準課税の導入の検討に当たっては,中小事業者への影響を検討することが必要で
あり,このような政策的な判断を認めることについて強い異論があるとは考えられ
ない。本件条例における中小事業者への影響は,中小金融機関に対する外形標準課
税の適用を通じてのものであるという意味で,間接的ではあるが,基本的には中小
事業者に対する妥当な政策的配慮と評価することができる。そして,一審被告東京
都が資金量5兆円で線引きした資料(乙3の8・9)によれば,平成11年3月期
において,資金量5兆円以上の大手銀行30行の資金量の合計が,3800以上あ
る民間預金取扱機関の全資金量の55.7%を占めていること,また,大手銀行2
4行の業務純益の総額が138行の銀行の業務純益総額の74.1%を占めている
ことが認められ,これらを考慮して資金量5兆円で線を引いた一審被告東京都の裁
量権行使については,地方公共団体の政策的な判断として一応の合理性が認めら
れ,地方税法72条の19の適用においても許容され得るものと考えられる。
ウ 業務粗利益を課税標準としたことについて
 本件条例は,課税標準(外形基準)として「業務粗利益」を採用している。一審
被告東京都側の,公式の説明におけるこの点の要旨は,「「業務粗利益」が銀行の
基本的な業務をすべてカバーした指標で,一般企業でいえば,売上高から売上原価
を差し引いた売上総利益に相当する概念ないしはそれに近い概念である。そして,
銀行の事業活動の規模を的確に反映した客観的な基準であるとともに,銀行の収益
力に裏付けられた担税力も一定程度反映されているものでもあることから,課税標
準として最適である。」というものである(乙3の20・21,乙5の1ないし
8)。同じ証拠によれば,一審被告東京都が他の外形基準として「資本金」,「資
金量」を検討したことは認められる(前者については各銀行ごとに大きな差異があ
ること,後者については現実の銀行等の活動量を十分に反映するとは言い難いこと
等から採用されなかった。)が,具体的にどのような経過で「業務粗利益」の採用
に至ったかをうかがわせる直接的な証拠はない。上記(2)アで認定した,平成1
1年7月の政府の税制調査会地方法人課税小委員会の報告(乙6の5・8,甲17
5)を契機とした,上記(2)ウ認定のB教授の論説(乙1の4)が,企業会計上
の売上総利益(企業の売上高から売上原価を控除した金額)が「企業の公共サービ
スからの受益ないし活動規模を測定する指標」として適切な選択肢として説明され
ていることを参考にした可能性も否定できない。
 これに対し,一審原告らは,銀行業における「業務粗利益」は,一般事業会社に
おける「売上総利益」とは法律上も会計上も全く異なる概念であり,銀行の貸付業
務において必然的かつ経常的に発生し,銀行業が新たに生み出した付加価値ではな
い貸倒損失等や信用リスク・プレミアムが控除されていないことから,銀行業の事
業活動量を適切に表す指標とはいえないので,本件条例は,「業務粗利益」を課税
標準とした点だけでも違法であると主張する。そして,この一審原告らの主張に沿
った有識者の意見書が控訴審だけでも多数(甲253ないし255,甲260ない
し264,甲276,甲277)提出されており,これらによれば,銀行業の「業
務粗利益」は,業務収益から業務費用を差し引いた金額でも,業務純益でもなく,
一般事業会社の「売上総利益」とは会計学上も対応しない概念であること,また,
金融実務に通じた者の感覚によれば,銀行の貸倒損失部分は貸付業務において不可
避的に発生するととらえられていることが認められる。この点から見ると,一審被
告東京都の説明のうち,「業務粗利益」を一般事業会社の「売上総利益」との対比
から,銀行業等に対する外形標準課税の課税標準として最適であると判断した点に
は,検討を加えるべき余地があったといわざるを得ない。一方で,本件条例案の検
討が始められた前後の平成11年7月の政府の税制調査会地方法人課税小委員会の
報告において,導入を図ることが望ましい外形基準として,「事業活動によって生
み出された価値(事業活動価値)」,「給与総額」,「物的基準と人的基準の組合
せ」及び「資本等の金額」が提案されており(乙6の8),上記B教授の論説もそ
うした提案を前提に「売上総利益」の提案をしていること(乙1の4)が認められ
ることからすると,一審被告東京都が検討したことが認められる「資本金」や「資
金量」以外の外形基準についても,銀行業等への当てはめを含む検討が十分行われ
るべきであったとも考えられる。その際,例外4業種である生命保険・損害保険業
においては,課税標準が「収入金額」とされているものの,この収入金額の算定に
当たっては,営業保険料総額から純保険料部分を除くために,収入保険料に一定割
合を乗じた額が「収入金額」とされており(地方税法72条の14第8項及び第9
項),この純保険料部分が信用リスク・プレミアムに相当するとの見方ができるこ
と(甲229,甲262)との対比からすると,銀行業等の課税標準においては,
貸倒損失ないし信用リスク・プレミアムを何らかの形で考慮する方法について,な
お検討を加える必要があったともいえそうである。
 一方,証拠(甲108,甲109,乙1の26,乙3の95,乙6の32,乙7
の5・6・15・39ないし41,43ないし50,弁論の全趣旨)によれば,銀
行業における「業務粗利益」は,計算書類上独立の勘定項目ではないが,平成元年
の銀行法施行規則の改正により,銀行が銀行法24条1項を背景として監督官庁に
提出することが求められている「決算状況表」の記載事項となり,現在も金融庁の
事務ガイドライン(乙6の32)で,銀行の金融庁長官への決算情報の一部として
報告を求められていること,当初は,監督官庁の監督事務のためのものであって,
一般や外部への開示は予定されていなかったが,投資家,利用者等に対するディス
クロージャーを充実させる観点から,全国銀行協会連合会統一開示基準が平成2年
に改正され,「業務粗利益」が開示項目に追加され,さらに,平成10年12月に
施行された金融システム改革法による銀行法21条1項の改正により,銀行法施行
規則19条の2で業務の状況を示す指標の一つとして,銀行の主要な営業所に備え
置き公衆の縦覧に供する説明書類における開示事項に加えられたこと,実際上も,
各銀行の一般向けのディスクロージャー誌には,「業務粗利益」について,例え
ば,「銀行の基本的な業務からの収益です。」(乙7の5),「収益の大きさを表
す「業務粗利益」」(乙7の39),「業務粗利益・業務純益は,銀行の利益をみ
るうえで重要な指標です。銀行が本業でどれだけの利益をあげたかを示す銀行特有
の指標で,一般企業でいう「売上総利益・営業利益」に相当します。」(乙7の4
3),「業務粗利益とは・・・銀行本来の業務による「収益」と「費用」の差額
(収支)です。一般の企業で言う経費控除前の「売上総利益」にあたります。」
(乙7の44),「業務粗利益は,一般に銀行の本来業務にかかる収益性を示すと
いわれているもの」である(乙7の45),「業務粗利益とは,(中略)信用金庫
の基本的業務の粗利益を示すものです。」(乙7の46)等として記載されている
こと,決算説明会における資料(乙7の48ないし50等)にも銀行業の損益や利
益を示す指標の一つとして記載されていること,全国銀行協会が作成した銀行のデ
ィスクロージャーを解説するパンフレット(乙7の15)にも,「業務粗利益」に
ついて「銀行が本来の業務でどれくらいの利益をあげているかがわかります。」と
の説明がされていることが認められる。以上について,一審原告らは,「業務粗利
益」は,専ら銀行監督目的で監督官庁が導入したもので,事業活動量の測定との関
連性は全くないし,また,上記資料における説明は,いずれも一般の素人向けのも
のであって,法律学,会計学等専門的な検討が加えられた上でのものではないと主
張する。しかしながら,「業務粗利益」の当初の導入目的が業法上の規制,監督上
の必要性にあったとしても,その後の法規の改正等により,銀行業の経営状況等の
情報を対外的に提供する機能を付与されていたことは明らかであるし,また,上記
のディスクロージャー誌等の記載は,一般向けの分かりやすさを優先した面がある
とはいえ,「業務粗利益」が,銀行業界からの対外的な情報発信において,銀行業
の基本的業務の収益ないし粗利益を示すとしたり,一般事業会社の「売上総利益」
に相当するものとして,一般的,日常的に用いられている概念であることは否定で
きないところである(甲307は,この認定に反するものではない。)。したがっ
て,こうした情報発信を受けて,「業務粗利益」を用いて銀行業の収益や業務の活
動量を測定する要素として用いることも,許容されるアプローチの一方法であると
評価することが可能である。
 ところで,地方税法72条の19は,外形基準については,「資本金額,売上金
額,家屋の床面積若しくは価格,土地の地積若しくは価格,従業員数等」と定める
だけで,外形基準がどのようなものであるべきかといった定義もされていないし,
「等」という表現から明らかなとおり,「資本金額」以下の具体的な外形基準は,
例示的なものにとどまっている。したがって,上記(4)アで述べた「事業の情況
に応じ」の解釈を前提とすると,地方税法72条の19は,事業の規模・活動量を
できる限り適切に反映し得るものであって,徴税・納税事務の観点から合理的なも
のと解される客観的な指標であれば,同条の外形基準として採用することを許容し
ていると考えられる。この点について,一審原告らは,この「等」という表現は,
上記(3)イ認定のとおり,大正15年の改正で府県税として存置された営業税に
ついて,地方税に関する法律施行規則2条1項により外形標準課税の課税標準とす
ることが認められていた「営業の収入金額(売上金額,請負金額,報償金額の類を
含む),資本金額,営業用建物の賃貸価格,従業者の数」における「の類を含む」
を基本的には引き継いだものであること,この「の類を含む」という表現は,営業
税(府県税)が小規模な個人営業者のみを対象とするものであるところ,各業種ご
とに,「収入金額」に相当する概念について「売上金額,請負金額,報償金額」な
どというように,呼称が区々に分かれていて逐一条文に列挙することが困難であっ
たことから,「の類を含む」という表現でまとめて規定する趣旨であり,個別に掲
げられたもの(売上金額,請負金額,報償金額)と同質で何らかの共通性が認めら
れるものに限られると解釈されること,したがって,「の類を含む」を基本的に引
き継いだ現行地方税法72条の19の「等」も,「資本金額,売上金額,家屋の床
面積若しくは価格,土地の地積若しくは価格,従業員数」と同質で何らかの共通性
が認められるものに限って外形基準と認める趣旨であるところ,「業務粗利益」は
同条が具体的に規定する外形基準と全く異質であり何らの共通性も認められないか
ら,同条が許容する外形基準とはいえないと主張し,これと同じ見解の有識者の意
見書(甲263ないし265)が提出されている。しかし,戦前の法律の施行規則
上の「の類を含む」という表現と,現行法律上の「等」という表現が,法制上の概
念として同質のものと理解することができるのか疑問である上,その点を譲って同
趣旨の表現であると仮定しても,上記大正15年改正後の営業税(府県税)の外形
基準に係る「の類を含む」は,法律施行規則上規定されていた外形基準の一つであ
る「収入金額」に関するものであって,しかも,カッコ内の具体例(売上金額,請
負金額,報償金額)の末尾に付されたものであり,「収入金額」以外の外形基準
(資本金額,営業用建物の賃貸価格,従業者の数)も含めた全体に係っているもの
ではなかったのに対し,現行地方税法72条の19の「等」は,同条が規定する外
形基準の末尾にその全体を受ける形で規定されており,規定中の位置付けにおいて
明らかに異なる点があるから,上記一審原告らの主張のように解釈しなければなら
ないとは,直ちには考えられない。そして,上記(3)イで認定したとおり,シャ
ウプ勧告やこれを受けた附加価値税の検討を経て,昭和29年,30年の地方税法
改正の立案担当者の基本的な立場が,できる限り応益的な考え方に立った事業税を
実現することを重視するものとなったこと,また,例えば,上記平成11年7月の
政府の税制調査会地方法人課税小委員会の報告(乙6の8)のように,本件条例に
至る間の外形標準課税に関する議論においては,事業活動価値や付加価値等を反映
する適切な外形基準を幅広く検討する手法がとられ,その前提として「等」につい
て上記主張のように限定的にとらえる考え方は採られていないことも合わせ考える
と,現行地方税法72条の19の「等」が,具体的に規定された外形基準と同質で
何らかの共通性のあるものに限って許容する趣旨であるとの,上記一審原告らの主
張は採用できない。
 以上を総合すると,「業務粗利益」を本件条例の課税標準(外形基準)として採
用したことには,以上述べてきたような会計処理との整合性や貸倒損失等の考慮と
いった問題点から,一審被告らが主張するような「最適の」課税標準であったとは
考えられない。しかし,ここで問題となっていることは,事業税の課税という局面
において,事業としての銀行業等の規模・活動量を表すものとして「業務粗利益」
を採用した一審被告東京都の裁量判断の合理性であり,地方税法72条の19は,
「等」という地方公共団体に一定の裁量を認めた表現を採っている上に,「業務粗
利益」が,銀行業界から対外的に,銀行業の業務や収益の状況に係る情報を伝える
概念として,一般的,日常的に活用されていることも合わせ考えれば,事業税の課
税客体である事業としての銀行業等の規模・活動量を測定するものとして,「業務
粗利益」を課税標準として採用した一審被告東京都の判断が,合理性を欠くものと
断定することはできない。
エ 結論
 以上のとおりであるので,本件条例制定に当たっての一審被告東京都の裁量判断
は,いずれも地方税法72条の19において許容される範囲内のものであると認め
られるので,本件条例は同条に違反しないものと考えられる。
(6) 本件外形標準課税と地方税法72条の22第9項
ア 均衡要件の意義と一審被告東京都の説明
 上記(3)エで認定したとおり,地方税法72条の22第9項の均衡要件は,同
法72条の19の解釈運用における地方公共団体の裁量判断に対する歯止めとして
の機能を果たすものである。しかも,本件条例は,一審被告東京都だけでの外形標
準課税の実施であるので,上記(4)ウで認定したとおり,均衡要件に対するより
慎重な考慮が必要となる。また,均衡要件は,直接的には外形標準課税の税率を問
題としているが,本件条例の100分の3という税率を直接吟味するわけではな
く,「所得」を課税標準とした場合の税負担と外形標準課税による税負担とを比較
することを求めている。そして,税負担は,基本的には課税標準に税率を乗ずるこ
とによって決まることから,均衡要件の吟味,すなわち,税負担の均衡を比較検討
する際には,外形標準課税における課税標準いかんについても,間接的に問題とな
らざるを得ないことになる。
 本件条例における均衡要件に関する,一審被告東京都の公式の説明の要旨は,
「過去数年間における本件条例の適用対象となり得る資金量5兆円以上の大手銀行
30行について,過去数年間の法人事業税の税収実績と,本件条例による課税との
均衡により判断した。ここ数年間はバブル経済期をはさんで極めて不安定な形で推
移していることを考慮し,バブル経済期前,バブル経済期,バブル経済期後(バブ
ル経済崩壊後)のいずれの時期をも含んだ期間である昭和59年度から平成10年
度までを選択した。その間における大手銀行30行の一審被告東京都における法人
事業税の税収実績の年間平均額は約1088億円であり,一方,本件条例による法
人事業税額の増額見込みは約1130億円であることから,均衡している。」とい
うものである(乙3の7・20・21,乙4の2ないし5,乙5の1ないし8)。
証拠(甲111,甲112,乙3の104,乙4の5)によれば,一審被告東京都
の全事業税額のうち,資金量5兆円を超える銀行30行が納付した事業税額の占め
る割合の,昭和59年度から平成10年度までの平均が約9.8%であるのに対
し,本件条例が適用された初年度(一審原告らの事業年度では平成12年度であ
り,一審被告東京都に納付されるのは平成13年度ということになる。)の確定申
告納税額約1029億円が一審被告東京都の全事業税額に占める割合は約9.6%
であり,この納税額や割合だけを比較する限度では,見合ったものとなっているこ
とが認められる。
イ 不均衡の程度と比較する期間
 地方税法72条の22第9項が税負担の均衡について求めているのは,「著しく
均衡を失することのないように」することであって,「著しく」という文言上解釈
の幅がある一般的な表現となっているので,その解釈適用に当たっては,どの程度
の不均衡に至ると著しく均衡を失することになるのかが問題となる。この点につい
て,一審原告らは,同条8項により法人事業税に認められる制限税率(超過税率)
が標準税率の1.1倍であることから,同条9項の均衡要件の解釈に当たっても,
これと統一的に解釈されるべきであり,同条8項の趣旨にかんがみれば,この1.
1倍と「若干の差異」しか許容されず,いかに緩やかに解するとしても2倍を超え
ることは論外であると主張し,同様な見解を述べる有識者の意見書(甲263ない
し265)が控訴審でも提出されている(なお,原審で提出された甲225号証
(A教授の意見書)では,本件条例のように特定事業に限った外形標準課税におい
ては,「1.5倍を超える場合は当然に違法であり,1.2倍を超える場合も違法
とされる疑いがある」との見解が示されている。)。標準税率と異なる税率を適用
するという点では,外形標準課税は制限税率適用と類似する場面と見られないでは
ないし,均衡要件の歯止め的機能からすると,このような考え方が出てくることも
理解できないではない。しかし,「1.1倍」と「著しく」とでは,表現自体とし
て見た場合かい離がある上に,制限税率を規定する地方税法72条の22第8項
は,昭和50年の法改正(法律第18号)で導入されたものである(例えば,甲2
27)ところ,同じ条文中で規定されている均衡要件については表現が改められて
いないこと,そもそも,地方税法72条の19の外形標準課税は,「所得」を課税
標準とする税負担が事業の規模・活動量と「著しく」ないし「相当程度」対応しな
いことを前提としているのに,外形標準課税によっても,「所得」を課税標準とす
る場合の1.1倍ないしそれに準ずる程度といった課税しかできないとするので
は,税負担と事業の規模・活動量の不均衡が解消できないこと等の事情を総合する
と,均衡要件が歯止め的機能を期待されていることを考慮しても,狭きに失すると
いわざるを得ず,結局,上記見解を解釈論として採用することはできない。
 また,一審原告らは,一審被告東京都が税負担の均衡を過去数年間の平均値を基
礎として検討していることについて,単年度を基礎とすべきであると主張し,本件
条例適用の初年度(平成12事業年度)における「所得」を課税標準とした場合の
一審原告らの推計事業税額(107億4489万1900円)に対し,本件条例に
よる外形標準課税による一審原告らの事業税額(832億0571万7800円)
は約7.7倍となること(甲101),また,第2年度(平成13事業年度)にお
ける「所得」を課税標準とした場合の一審原告らの推計事業税額(2477万27
00円)に対し,本件条例による外形標準課税による事業税額(904億6486
万4200円)は約3652倍となること(甲257)から見て,「著しく」均衡
を失していることは明らかであるとする。確かに,税負担の均衡を問題にする以
上,同じ年度について外形標準課税を適用した場合と「所得」基準による場合とを
比較することが基本となると考えるのが事柄の性格に適合していると考えられる。
しかし,地方税法72条の22第9項が「著しく」という解釈上幅のある表現を用
いていることに加えて,上記(4)ア認定のとおり,「所得」を課税標準とする事
業税の税負担と事業の規模・活動量とが相当程度対応していない状況が「常態」化
していることが,地方税法72条の19の適用の前提であって,「常態」化の有無
を判定するためには,過去数年間の状況の吟味が不可欠であるし,均衡要件におい
ては,外形標準課税の導入がそうした状況への対処として必要かつ合理的なものと
なっているかも実質的には検討されることとなると考えられること,また,本件条
例の適用は平成12年4月1日以後5年以内に開始する各事業年度分の法人事業税
についてであるので,地方税法72条の19の適用も一定期間継続することが前提
であると考えられることからして,過去や将来の一定期間(将来については見込み
のもの)における税負担を比較吟味した結果も勘案要素となると解される。この点
について,平成12年2月24日の衆議院地方行政委員会において内閣法制局第一
部長は,地方税法72条の22第9項の解釈について「(前略)72条の22の第
9項にあります「著しく均衡を失する」というのはどういう意味かということであ
りますけれども,これも今申し上げましたように,いわゆる外形標準課税は,主と
して特定の業種の税負担がその受益の程度に比してかなり低いという場合に,その
負担の程度を引き上げて受益との均衡を図るということを目的に導入するというも
のでありますから,それを導入することによって,所得を課税標準とし続ける場合
に比べてですが,ある程度事業税の負担が増加するということは法の予定するとこ
ろだと言えるかと思います。したがって,問題は,何をもって,あるいはどの程度
になると,外形標準課税による事業税負担が,所得を課税標準とする場合に比べて
著しく均衡を失すると言えるほどに重いということになるのかということであろう
かと思いますが,これは事柄の性格上,なかなか画一的に,あるいは定量的に基準
を設定するということは困難であろうと思いますので,いろいろな要素を総合的に
勘案して,究極のところは社会通念に照らして判断するしかないということだろう
と思います。その際,考慮すべき主な要素としては,やはり外形標準課税をするこ
とによって増加する税負担の額がどれぐらいであるか,あるいは負担の増加割合が
どれぐらいであるかというようなことになろうかと思いますけれども,これも,導
入する年とか,その後2,3年とかいう短い期間ではなくて,中長期的に見て負担
の均衡が図られているかということだろうと思いますけれども,今回の東京都案の
ように,一定の期間を限って措置するという場合には,その限られた期間内全体を
比較するということになろうと思います。ほかにも,外形標準課税を導入すること
とした目的であるとか,あるいは,外形標準課税をすることによって,所得その他
法定されている他の課税標準を引き続き用いる類似の業種等と負担のバランスがど
うであるかといったようなことも,いろいろなことを考えなければいけないという
ことだろうと思います。」と答弁している(第147回国会衆議院地方行政委員会
議録第3号(乙6の31)29頁)が,均衡要件の趣旨から見て,その解釈運用に
当たって基本的に是認できる考え方であると考えられる。
 いずれにせよ,当裁判所も,均衡要件の判断については,外形標準課税が導入さ
れた後の2,3年度の比較を基本としながら,過去数年間の課税実績からの推計に
よる比較のほか,外形標準課税導入の目的,本件条例のように,一審被告東京都に
限って,しかも特定の業種に限って導入する場合には,他の道府県に及ぼす影響
や,他の業種との負担の均衡等関連する諸般の事情を,客観的な資料に基づき総合
勘案すべきであり,このように解することが,地方税法72条の22第9項の条文
の表現及び同条項に期待されている機能に適合するものというべきである。
ウ 税負担の比較
 証拠(乙3の7,乙4の5)によれば,本件条例の検討過程において,一審被告
東京都は,資金量5兆円を超える大手銀行30行の平成11年3月期の「所得」を
課税標準とした場合の事業税額が約120億円ないし122億円であるところ,本
件条例が制定適用されることにより推計事業税額がその10倍を超える約1250
億円になるとの推計をしていることが認められる。これは,本件条例案の検討過程
における,従来の「所得」を課税標準とする課税済みの資料に基づく推計ではある
が,本件条例の検討過程において入手可能な直近の年度の課税実績に基づく推計で
あるし,一審被告東京都において本件条例による影響を推測する有力な資料となっ
たものであると推認される。そして,上記イで認定した一審原告らの主張の根拠と
なっている証拠(甲101,甲257)によれば,一審原告らに対して本件条例が
適用された結果,その初年度(平成12事業年度)には約7.7倍,そして第2年
度(平成13事業年度)には約3652倍という大幅な事業税負担の増加が生じた
ことが推認できる。もっとも,この推計においては,一審原告らの大半の銀行(一
審原告ら17行中,初年度では12行,第2年度では16行)において,「所得」
を課税標準とする課税では事業税額がゼロとなるのであって,その点が上記の著し
い倍率に影響を及ぼしている。本件条例の適用第2年度で,唯一「所得」を課税標
準とした場合の事業税額(2477万2700円)を推計することができる一審原
告八十二銀行については,本件条例に基づく納税額は1億2225万6500円で
あり(甲257,甲268の9),税負担の比較割合は約4.9倍となっている。
こうした「所得」を課税標準とした場合に課税額がゼロとなる事業者については,
そもそも地方税法72条の19が外形標準課税を適用して課税することはできない
(均衡要件以前の問題である。)との見解(例えば,甲85,甲98及び甲102
のA教授の見解)があるが,上記(3)ア認定のとおり,同条は,外形標準課税の
解釈適用に当たっては,できる限り応益的な考え方に基づくべきであると解される
ところ,「所得」を課税標準とした事業税額がゼロとなるということは,かえっ
て,「所得」を課税標準としたままでは,事業の規模・活動量に対応した税負担と
程遠い状況となっていることを推認させる側面もあると考えられるので,そのよう
な場合であるからといって,同条を適用することは一切できないとする見解は採用
できない。しかし一方,均衡要件の判断(地方税法72条の22第9項の適用)と
いう局面においては,「所得」を課税標準とした事業税額がゼロとなっていること
が影響しているとはいえ,結果的に税負担の間に大きな不均衡が発生していること
は,均衡要件の基本となる不均衡の程度(著しいか否か)を判断する際に,無視で
きない勘案要素となることは否定できない。
 税負担を比較した場合の差額ないしその割合(倍率)がどの程度になれば著しく
均衡を失していることになるかについて,具体的な線引きをすることは困難であ
り,結局のところ,上記イ認定のとおり総合判断によるしかないが,そうはいって
も,税負担の比較値ないし割合が勘案要素における比重が高いものであることはい
うまでもない。そして,上記の本件条例案を検討する過程における一審被告東京都
の10倍を超えるという比較値(平成11年3月期の「所得」に対するものである
ので平成10事業年度のものということになり,「所得」を課税標準とした税負担
が現実のもので,本件条例による外形標準課税の適用結果が推計値である。)や,
本件条例による外形標準課税を適用した初年度(平成12事業年度分)及び第2年
度(平成13事業年度分)における約7.7倍及び約3652倍という比較値
(「所得」基準を課税標準とした税負担が推計値で,本件条例による外形標準課税
の適用結果が現実のものである。),第2年度における一審原告八十二銀行の約
4.9倍という比較値を見る限りは,約7.7倍及び約3652倍という比較値に
ついて「所得」を課税標準とした場合の推計事業税額がゼロの銀行がほとんどであ
るとの事情を割り引いて考慮してみても,本件条例による外形標準課税を適用した
結果としての事業税の税負担は,「所得」を課税標準とした場合の税負担と比較し
て,「著しく」均衡を失している可能性が大きいといわざるを得ない。
エ 一審被告東京都の検討の評価
 これに対し,一審被告東京都が本件条例の検討過程で均衡要件を充足すると判断
した基礎資料で,証拠上明らかなものは,上記ア認定の過去15年間(昭和59年
度から平成10年度まで)における大手銀行30行の事業税額と一審被告東京都の
全事業税額に占める割合程度のものしかない。こうした過去数年間の課税実績の評
価が,均衡要件判断の勘案要素の一つであることは,上記イで説示したとおりであ
るが,「所得」を課税標準とした場合との税負担の均衡という意味においては,本
件条例が適用されることとなる年度(5年間)における比較も有力な勘案要素とい
うべきところ,一審被告東京都は,この点に関して銀行における不良債権処理の継
続によって,「所得」を課税標準とした場合には銀行業等の税負担がゼロないし限
りなく低くなるという見込みを立てていたことが認められる(本件条例の構想公表
日が作成日とされる乙3号証の17。なお,乙3号証の99・101は本件訴訟係
属後に作成されたことが明らかである。)が,本件条例の検討過程において具体的
な推計とそれを基礎にした検証作業がされたことを認めるに足りる証拠はない。ま
た,平成12年3月に公表された全国銀行協会の「都の答弁・説明に対する7つの
疑問点」(甲218)においては,一審被告東京都が根拠として挙げる過去15年
間の数値について,仮に,大手銀行19行の昭和55年度から平成11年度までの
間に一審被告東京都に納付済みの事業税額を基に,本件条例で採られている「業務
粗利益」×3%の計算式を当てはめて事業税額を推計すると,昭和55年度から平
成11年度までの間に事業税約3800億円が支払超過となっており,その大半は
平成6年度から平成11年度までの間に生じているとの反論がされている。全国銀
行協会の詳細な推計根拠が明らかでないので,この反論をそのまま採用することは
できないが,少なくとも,こうした推計が可能であること自体から見れば,一審被
告東京都においても,過去15年間の主要銀行30行の既納付の事業税額を基とし
て,これら各年度ごとに本件条例の課税標準及び税率で再計算して推計した事業税
額を算出することが可能であり,これらを比較することにより,一審被告東京都の
立場から見れば,どの時点からかはともかく,本件条例の適用年度以前から「望ま
しい」事業税額になっていたことが判明するはずであり,その年度以降において
は,相当程度「所得」を課税標準とする場合を上回る結果となることを認識し得た
はずである。さらに,本件条例が銀行業等という特定の業種に限って外形標準課税
を導入するものであることから,一審被告東京都の全事業税額において大手銀行の
事業税額の占める割合という観点からの検討が行われたことは理解できないではな
いが,一方,平成2年度から平成11年度の間に,事業活動価値基準,物的人的基
準,給与基準等といった他の外形基準によって推計した資金量5兆円以上の銀行の
事業税額が,一審被告東京都の全事業税額に占める割合の平均値はおおむね2%以
下である(事業活動価値基準による推計値では2%を上回ってはいるが,2.09
%である。)との推計があり(甲113,甲236),上記ア認定の一審被告東京
都が主張する9.6%ないし9.8%という割合と相当かい離があることも合わせ
考えると,一審被告東京都が過去の実績から割り出した,一審被告東京都の全事業
税額に占める大手銀行の事業税額の負担割合だけから,本件条例により一審原告ら
が受ける税負担が「所得」を課税標準とした場合の税負担と比べて著しく均衡を失
していない税負担となっているものと認めてよいか疑問が残るところである。
 以上によれば,上記ア認定の一審被告東京都の説明や均衡要件の判断に当たって
の上記基礎資料によっては,上記ウ認定の比較値による税負担の不均衡(の可能
性)の推認を覆すことはできないと評価せざるを得ない。かえって,税率と共に,
本件外形標準課税による税負担に影響を及ぼす課税標準として「業務粗利益」を採
用したことについては,上記(5)ウで認定した問題点があり,「所得」を課税標
準とした場合の税負担がゼロとなってしまう銀行がほとんどとなっているのに,本
件条例による納税額が相当額に上るのは,貸倒損失等を一切考慮しない「業務粗利
益」を課税標準としたことに起因することは明らかであって,均衡要件との関係で
も,課税標準における貸倒損失等の扱いについてはなお検討が必要であったという
ことになる。そして,地方税法72条の19に基づき導入した外形標準課税が同法
72条の22第9項の均衡要件を満たすことについては,外形標準課税を導入する
条例を制定した地方公共団体側において,客観的な資料に基づき積極的に証明すべ
き責任があるところ,以上を総合勘案すると,本件条例による税負担が,「所得」
を課税標準とした場合の税負担と,「著しく均衡を失することのないよう」なもの
であることを認めるに足りる証拠はなく,一審被告東京都は,本件条例が均衡要件
を満たすことの証明ができていないことになる。したがって,本件条例は,地方税
法72条の22第9項の均衡要件を満たしていると認めることはできない。
(7) 結論
 以上のとおりであるので,本件条例は,地方税法72条の19には違反しない
が,同法72条の22第9項には違反するものであり,憲法違反の主張等一審原告
らのその余の主張について判断するまでもなく,違法なものである。そして,地方
税法72条の22第9項の歯止め的な機能から見て,本件条例は,地方税法上与え
られた条例制定権を超えて制定されたものであって,無効であるといわざるを得な
い。
3 本件通知処分の有効性等について
 当裁判所も,本件通知処分(控訴審では,原判決が対象とした平成12事業年度
に係るものに加えて,平成13事業年度に係るものも対象となる。)は,拠るべき
条例の根拠を欠く重大な瑕疵があるから,無効であると判断するが,本件通知処分
を取り消すまでもなく,一審原告らが納付した事業税額(平成12事業年度分に係
る請求5及び平成13事業年度分に係る控訴審における追加的請求6)のうち,旧
基準税額との差額部分は,これを誤納金として還付請求することができると考える
ところであり,その理由は,平成13事業年度に係る既納税額,旧基準税額及び誤
納金額(一審被告東京都の不当利得額)が当判決別紙3の(a),(b)及び
(c)欄記載のとおりである点を付加するほかは,原判決44頁17行目冒頭から
46頁20行目末尾までの3欄記載のとおりであるから,これを引用する。なお,
控訴審における追加的請求7は,平成13事業年度分の事業税に係る一審被告東京
都知事の通知処分が無効でないことを前提とするものであって,控訴審における追
加的請求6を主位的請求とする予備的請求であるので,主位的請求を認める以上判
断は不要となることは,請求6についてと同様である。
4 一審被告東京都の責任原因について
(1) 本件条例の制定に至る事実経過
 本件条例の制定に至る事実経過は,原判決46頁21行目冒頭から55頁13行
目末尾までの4(1)欄記載のとおり(ただし,同51頁5行目「その後も,」か
ら同7行目末尾までを「その後も,全国銀行協会と一審被告東京都との間で,同主
税局長を交えた意見交換会を実施することが検討されたが,銀行側の出席者等をめ
ぐり調整が付かず,結局実施されなかった(甲39,甲191,甲219,乙3の
65)。」と改める。)であるから,これを引用する。
(2) 一審被告東京都の本件条例制定行為の違法性
 原判決は,一審被告東京都知事,一審被告東京都の主税局長以下本件条例の制定
に携わった同主税局職員,東京都議会を構成する東京都議会議員による,本件条例
の議案の立案行為,当該議案の東京都議会への提出行為,当該議案の議決行為及び
本件条例の公布行為等の本件条例制定に向けた一連の行為は,本件条例の内容が地
方税法72条の19に違反する客観的に違法なものであることから,全体として国
家賠償法1条1項の違法性を有するものであると判断している。
 当裁判所は,上記2認定のとおり,本件条例は地方税法に違反し無効なものであ
ると考える(ただし,違反する条項が原判決の説示する72条の19ではなく,7
2条の22第9項であることは,上記2認定のとおりである。)が,地方公共団体
が制定する条例が法律に違反するからといって,その制定に向けた一連の行為が,
直ちに一審原告らとの関係で国家賠償法上も違法となると評価すべきではないと考
える。すなわち,条例の制定に向けた行為は,地方公共団体レベルでの立法行為と
はいえ,関連する地域社会の実情や社会一般の経済情勢等多種多様な背景事情や諸
条件,関係者の意見や対立する利害などを総合勘案し調整しながら行われるもので
あるとともに,地域社会の代表者である地方公共団体の議会の議員の審議,その多
数決による議決によって決定されるべきものであるから,条例の制定に向けた一連
の行為が国家賠償法上の違法性を具有すると認めるためには,個々の地域住民・法
人の権利に対応した関係において,条例制定過程に関与した責任者が職務上尽くす
べき法的義務に違反したものと客観的に評価できることが必要である。
 本件条例は,地方税法72条の19を制定根拠とするものであるが,上記2認定
のとおり,同条の「事業の情況に応じ」などの要件を一応満たしていると評価する
ことができるから,同条に違反することを前提とする法的義務違反を問題とするこ
とはできない。一方,本件条例は,地方税法72条の22第9項の均衡要件に違反
しており,一審被告東京都のこの点に関する検討は,結果的には十分ではなかった
といわざるを得ない。しかし,均衡要件は,上記2(6)で認定したとおり,「著
しく均衡を失することのない」という文言上解釈の幅がある一般的な要件への当て
はめの問題であり,同条8項が規定する事業税の超過税率における制限税率のよう
な一義的な規定に適合するか否かが問題となるわけではない。そして,上記2
(6)イ認定のとおり,この均衡要件の判断に当たっては,外形標準課税導入後何
年間かについての予測に基づく税負担を推計したり,過去数年間の課税実績から当
該外形標準課税による場合の税額を推計する等関連する諸般の事情の総合勘案がそ
の性格上避けられないものである。上記2(6)認定のとおり,一審被告東京都に
おいても,本件条例の検討過程において,均衡要件に対する一応の吟味検討を加え
てはいるが,本件条例の無効事由は,本件条例が均衡要件を満たすと認めるに足り
る客観的資料に基づく検討ができていないというものであって,明白に均衡要件に
違反するというものではない。以上から見ると,一審被告東京都の本件条例の検討
に関する一連の行為全体が,客観的に職務上尽くすべき法的義務に違反したもので
あるとまでは,評価することはできない。確かに,上記認定の事実によれば,一審
被告東京都知事及び一審被告東京都の担当者は,本件条例の立案,検討を秘密裡に
進め,全国銀行協会の問い合わせにも,銀行業のみを対象とする新税構想を検討し
ている事実はない旨返答しながら,東京都議会に本件条例案を提出する直前までそ
の公表を先送りにしてきたことが認められる。しかしながら,一審被告東京都知事
は,本件条例案を東京都議会に提出する約半月前には,記者会見を開き本件条例の
構想を公表していること,東京都議会においては,本件条例案の提出を受けた平成
12年2月23日以降東京都議会の本会議の審議及び予算特別委員会における参考
人意見聴取を含む審議を経て,同年3月30日の本会議において圧倒的多数の賛成
により本件条例が成立するまで,審議が重ねられたことが認められるのであって,
もとより,条例の構想や条例案の公表時期,内容,方法等は多分に一審被告らの政
治的判断にゆだねられるべき事柄であることをも考慮すると,本件条例の立案,検
討が秘密裡に行われた等の上記行為を,一審原告らとの関係で違法と評価すること
はできない。
 また,一審原告らは,一審被告東京都知事や一審被告東京都の担当者が,東京都
議会において,貸倒損失を控除していない「業務粗利益」が一般事業会社の「売上
総利益」に相当する旨や,配当原資(過去の年度において積み立てられたもの)の
説明なしに大手銀行が巨額の配当を実施している旨誤った発言をした点を問題にす
る。このうち,「業務粗利益」を外形基準としたことについては,上記2(5)ウ
で認定したとおり問題点があるし,これを一般事業会社の「売上総利益」に相当す
ると説明することには,少なくとも会計学上正確でないことは否定できない。しか
しながら,銀行業界においても,一般向けのディスクロージャー誌や決算説明会に
おいて「業務粗利益」が一般事業会社の「売上総利益」に相当する旨の説明がされ
ていたし,少なくとも,事業の規模・活動量の測定との関係では,一般事業会社の
「売上総利益」に比肩すべきものということができるから,一審被告らの上記説明
が,東京都議会の判断を誤らしめるものであったと評価することはできない。ま
た,大手銀行の配当原資への言及がなかったとの点についても,説明の真意は十分
理解可能なものであって,違法とはいえない。このほか,関係者の意見聴取の機会
が十分であったとはいいにくい点があったことや,本件条例の構想公表後,本件条
例についての一審被告東京都知事の発言に誤解を招きかねないような表現があった
ことは否定できないが,これらの点を含む本件条例の制定に至るすべての事情を総
合勘案してみても,本件条例に至る一審被告東京都及び一審被告東京都知事の一連
の行為が,客観的に職務上尽くすべき法的義務に違反し「違法な」ものであると評
価することはできない。
 したがって,一審原告らの国家賠償請求は,その余の点について判断するまでも
なく理由がなく,一審被告東京都側の違法性と過失を認めた原判決は失当である。
第4 結論
 以上のとおりであるので,原判決中,一審原告らの一審被告らに対する本件条例
の無効確認請求(請求1及び2)に係る訴えを却下した部分は相当であり,本件条
例は地方税法72条の22第9項(均衡要件)に違反し無効であることから,一審
原告らの一審被告東京都に対する平成12事業年度分の事業税を対象とする誤納金
の還付請求(請求5の一部)を認めた部分は相当であるが,一審原告らの一審被告
東京都に対する国家賠償請求を認めた部分(請求5の残部)は失当である。また,
一審原告らの一審被告東京都に対する,平成14事業年度分の事業税を対象とする
租税債務不存在確認請求(控訴審における追加的請求5)に係る訴えは,原判決に
おいて平成13事業年度の事業税を対象とする同様な請求(請求4)に係る訴えを
却下したのと同じ理由から,不適法であって却下を免れない一方,平成13事業年
度分の事業税を対象とする誤納金の還付請求(控訴審における追加的請求6)は,
上記のとおり本件条例が地方税法72条の22第9項に違反し無効であることから
理由がある。
 したがって,まず,原判決中金員請求に関する部分を変更することとし,一審原
告らの一審被告東京都に対する平成12事業年度分及び平成13事業年度分の各事
業税を対象とする誤納金の還付請求を認め,その余の金銭請求(国家賠償請求)を
棄却し,次に,一審原告らの一審被告東京都に対する平成14事業年度分の事業税
を対象とする租税債務不存在確認請求に係る訴えを却下し,原判決中の本件条例の
無効確認請求に係る訴えを却下する部分の取消し等を求める一審原告らの控訴を棄
却し,訴訟費用の負担及び仮執行宣言関係については,行政事件訴訟法7条,民事
訴訟法67条2項,61条,64条及び65条1項本文並びに259条1項及び3
項を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官 森脇勝
裁判官 林道晴
裁判官 藤下健
(別紙4)控訴審における当事者の主張
1 一審原告らの主張
(1) 本件条例の無効確認請求の争訟性について
ア 「法律上の争訟」と認められるためには,当事者間の具体的な権利義務又は法
律関係の存否に関する紛争であって,法律の適用により終局的に解決し得べきもの
であればよいのであり(最高裁判所昭和29年2月11日第一小法廷判決民集8巻
2号419頁等),権利義務・法律関係が金銭的な場合にその金額が確定している
ことまで要求されているわけではない。そうすると,一審原告らの具体的な事業税
の納税額が確定していないことから,本件条例の無効確認請求を不適法とした原判
決は誤りであるし,都市再開発法に基づく第二種市街地再開発事業において,払渡
しの「対償」の金額がいまだ具体的に確定していない中間段階にある事業計画決定
に処分性を認めた最高裁判所平成4年11月26日第一小法廷判決民集46巻8号
2658頁の趣旨に反するものである。そもそも,本件においては,将来分の納税
額が全く不明ということではなく,年度末ないし納期を迎えなくても,それ以前の
段階で予想事業税額を証拠化し,具体的納税額を証明することが相当程度可能であ
り,一審原告らの上記請求は,全くの抽象的な将来の事象についての判断を求めて
いるわけではない。
イ 一審原告らは,本件条例により,過大な事業税の納付を強いられただけでな
く,事業税の法定実効税率を「当然に」,「直接」減少させ,繰延税金資産及び当
期利益を著しく減少させるという資産減少による財産的損害を被っており,後者の
減少額は,事業税額確定以前の本件条例制定時において「既に」具体化している
(本件条例の本来的,少なくとも副次的な効果が個別具体的に発生している。)の
で,その点からも本件条例無効確認請求の争訟性が認められる。原判決は,国家賠
償請求の判断の中で,本件条例が無効と判断されれば繰延税金資産の減少は生じな
かったことになる旨判示しているが,そうであるとすれば,本件条例が有効か無効
かを判断することによって,具体的な権利義務に関する争いを解決し得ることにな
り,換言すれば,本件条例の無効確認請求が争訟性の要件を満たしていることを意
味する。
ウ 一審被告らは,本件条例が東京都議会で可決成立する以前から,一審原告らが
資金量5兆円以上の大手銀行として本件条例の適用対象となることが確実なものと
認識していた。現に,本件条例制定当時,一審原告らの資金量は,いずれも5兆円
を超えていて安定的傾向を示して推移しており,一審原告らが本件条例の適用を受
けることは確実であった。仮に,本件条例制定当時の客観的な状況を基礎として,
本件条例の適用対象から外れる「特段の事情」が認められる銀行があるとすれば,
その特定の銀行に限って争訟性の要件を満たさないとすれば足りるはずである。
エ 平成12事業年度の課税処分に関する争いと,平成13事業年度以降の各課税
処分に関する争いは,全く同一の争点であり,本件条例自体の無効確認の判断(従
前の一審被告らの活動等から見て,「判決主文」における判断が必要である。)を
もって,平成12事業年度以降のすべての課税処分に関する争いが一回で解決され
る。つまり,本件条例の違憲性・違法性に関する争いは,既に十分煮詰まっている
といえる。これを不適法とすると,かえって,一審原告らは,平成14年事業年度
以降についても,納税の都度,誤過納金の還付請求を繰り返し行わなければならな
いことになるが,それは,不当な行政処分からの国民の権利保護を図るという行政
事件訴訟法の趣旨にもとり,訴訟経済にも反する。
オ 本件条例の無効確認請求は,その課税要件への具体的事実の当てはめが問題と
なるのではなく,課税要件を定める本件条例の違憲性・違法性が争いとなってお
り,当てはめ以前の段階において,既に繰延税金資産及び当期利益が減少して一審
原告らの財産権が侵害されている。
カ 以上のとおりであるので,本件条例の無効確認請求については,争訟性が肯認
されるべきであり,これを認めなかった原判決は違法である。
(2) 本件条例の無効確認及び租税債務不存在確認の各請求の適法性について
ア 裁判を受ける権利の実効性を確保するためには,違法な行政処分に対する「事
前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情」の要件を殊更に厳格に
解すべきではない。最高裁判所昭和47年11月30日第一小法廷判決民集26巻
9号1746頁及び同平成元年7月4日第三小法廷判決判例時報1336号86頁
に対する一般的な理解から見ても,事後的な救済を待っていては,一審原告らに
「倒産の危機」が生ずるといった事項を「特段の事情」を要求する原判決は,厳格
に過ぎるというべきである。
 一審原告らは,本件条例の制定自体により,上記(1)のとおり,繰延税金資産
及び当期利益の減少に加え,その社会的信用・評価が著しく低下したことによる具
体的な損害を被っている。しかも,この信用は,各事業年度に本件外形標準課税が
される度に一層低下するが,いったん低下した信用はその性質上容易に回復されな
いので,事後的な金銭賠償を受けたとしても,原状回復はまず不可能であって,救
済としては不十分である。そのため,一刻も早く本件条例が無効であることを確定
して,信用の低下を防ぐ緊急の必要性がある。
 原判決は,本件外形標準課税による事業税額の納付に必要な資金調達コストの実
態について,一審原告らの個別具体的な主張立証がないことから,回復し難い損害
の発生を否定しているが,上記納付に必要な資金調達コスト及び逸失利益は,甲2
45号証及び246号証の1ないし17のとおりである。一方,本件条例による信
用や社会的評価の低下とそれが営業活動に及ぼす被害については,損害発生を基礎
付ける具体的事実の立証が十分であるので,その損害額は民事訴訟法248条の適
用により認定することが可能であると考えられる。
イ 上記最高裁判所昭和47年11月30日判決が採っていると考えられる,「紛
争の成熟性」に関する判断基準から見ても,①一審原告らが本件条例の適用・執行
を受けることは確実であること,②一審原告らは,本件条例が憲法上の基本権であ
る法の下の平等(憲法14条)に違反するものであり,また,一審原告らの営業の
自由(憲法22条1項)及び財産権(憲法29条1項)を侵害するものであるか
ら,無効であると主張していること,③一審原告らは,本件条例による申告・納付
義務を履行しない場合には,刑罰,加算金・延滞金を課され,免許が取り消される
可能性もあるところ,こうした不利益処分を受けるか,その不利益処分を回避すべ
く,多大な資金調達費用を負担し多大な運用益を逸してでも本件条例による申告・
納付義務を履行するかという選択を余儀なくされていること,④本件条例が無効と
判断されない限り,一審原告らは毎年毎年,上記③の選択を余儀なくされる上,ど
ちらを選択しても,加算金等か,資金調達費用等に伴う損害かのいずれかが発生す
るとともに,一審原告らの信用が更に低下する等新たな損害が今後も継続的に発生
することになるのであるから,一審原告らをこのような状態から救済する真の必要
性があること,⑤銀行の業務の枢要を占める「信用」は,いったん低下すれば容易
に回復されない性質のものであり,今般の銀行業を巡る極めて厳しい経済環境から
しても,誤過納金の還付請求等,金銭的,事後的な救済では不十分であり,本件条
例の即時無効判断によって一審原告らを救済する真の必要性があることから,上記
判決の基準を満たし,本件条例の無効確認請求等には,原告適格及び訴えの利益が
認められるべきである。
ウ 仮に,上記確認の各請求が認められるために,「一義的明白性」,「緊急性」
及び「補充性」という3要件を満たすことが必要であるとしても,以上のとおり,
本件条例の制定自体により,一審原告らは,事業税の納付のための莫大な資金調達
コスト,巨額の逸失利益の発生による損害を受けているだけでなく,憲法上保障さ
れた営業の自由(同法22条)や財産権(同法29条)に係る権利である「信用」
の低下による損害をも被っているので,上記3要件は満たされており,上記確認・
差止めの各請求は,適法ということになる。いずれにせよ,これらの請求に係る訴
えを却下した原判決は違法である。
(3) 本件条例の憲法14条違反について
ア いわゆるサラリーマン税金訴訟の最高裁判所昭和60年3月27日大法廷判決
民集39巻2号247頁が,「国税」の定立について憲法14条1項に係る合憲性
審査基準を明らかにしているが,①この判決は,「国会」が定立した「国法」たる
所得税法に関する判例であるのに対し,本件条例は「地方議会」である東京都議会
が制定した「条例」であること,②国会と裁判所との間では権力分立原理の下での
「同格の機関への敬譲」という考え方から,正確な資料を基礎とする国会の政策的
技術的な裁量的判断を尊重する憲法解釈が考えられるが,「国会」とは同格でない
「地方議会」に対して憲法解釈上この「敬譲」という考え方を持ち込むことは無理
であること,③立法府が租税法を定立する場合には,国家財政,社会経済,国民所
得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎としていることが立法裁量の前
提であるところ,本件条例は,その制定過程において,慎重かつ十分な調査・検討
を実施し,正確な情報に基づいて制定されたものとは到底認められず,議会での審
議過程でも,重要な立法事実について十分な調査,審議を経ず誤認・誤解したまま
制定されたものであること,④地方税に関しては,立法裁量を認める根拠である高
度な政策的・技術的観点からの第一次的判断が既に地方税法という形でされてお
り,その地方税法の枠組みの中で残された条例制定裁量は,国税の定立に関する立
法裁量と比べてかなりの程度制約されているのであるから,本件条例の合憲性審査
においては,いわゆるサラリーマン税金訴訟の最高裁判所判決で採られた判断基準
や立法裁量論は適用されるべきではない。
イ 仮に,上記最高裁判所判決の合憲性審査基準によるとしても,上記判決は,国
税について,抽象的な目的のみをもって「目的の正当性」の要件が充足されている
と判断しているのではなく,立法目的を基礎付ける立法事実を具体的かつ実質的に
検討しているし,「目的の正当性」については,「著しく不当」であることまでは
要件とされていない。上記判決後に出された最高裁判所判決(森林法事件に関する
最高裁判所昭和62年4月22日大法廷判決民集41巻3号408頁,郵便法事件
に関する最高裁判所平成14年9月11日大法廷判決)を総合すれば,最高裁判所
は,経済的自由の規制立法の合憲性審査に当たって,事案の特性に応じて,規定の
目的の正当性並びにその目的達成の手段の合理性及び必要性,つまり規制法の合理
性及び必要性を,立法事実の検証に基づいて検討するという枠組みをとっている。
以上を本件条例に当てはめると,①a 本件条例は,制定当時の大手銀行に対する
批判的な国民感情に乗じて,税金を最もとりやすい大手銀行をねらい撃ちして「懲
罰的」に事業税を課したものであり,租税本来の正当化根拠とは全く無関係な極め
て無定見なものであること,b 一審被告東京都が本件条例の制定根拠として挙げ
る「安定的な税収の確保」という目的を考慮しても,資金量5兆円以上の大手銀行
というように,納税義務者を恣意的に選択することは,いかなる租税原則からも許
容されるものではないし,銀行業について事業税の税収の落ち込みがあるという点
も,事業税が「所得」を課税標準とする限り景気に応じて税収が変動することは,
当然のことで,むしろ,地方税法は,このことを織り込み済みであるのであるか
ら,銀行業のみを他と区別して重い法人事業税を課す根拠とはならないというべき
である。現に,銀行業よりも事業税額が不安定な業種が複数存在していることから
すると,一審被告らの主張する「安定的な税収の確保」は,本件条例の立法目的と
して正当ではないというべきである。②また,「税負担の公平性の確保」という立
法目的についても,一審被告らが唱える「応益原則」に立脚するとしても,a 事
業所(店舗)数及び従業員数を比較しても,大手銀行の事業規模が他業種よりも特
に大きいわけでないし,一審被告らの提出した資料で見ても,平成元年度から9年
度までの事業規模に応じた事業税負担の低下の程度が,銀行業よりも著しい業種が
複数存在すること,b 銀行業の中だけで比較しても,資金量の違いによって,そ
の受ける行政サービスの受益量に差異があるとは考えられないこと,c 「業務粗
利益」は事業活動量の計測とは全く関連のない計数であるのに,銀行業における
「業務粗利益」の推移と,それと対応しない他業種の「売上総利益」の推移とを比
較して,大手銀行に対してだけ外形標準課税を適用しようとすることは,合理的な
事実的根拠が欠落しているといわざるを得ないこと,d むしろ,バブル経済崩壊
後の低迷する経済状況下で,銀行業の実績は極めて悪化し,破綻するものも見ら
れ,経営継続中のものも組織・人員・店舗の削減等のリストラ・合理化を行ってお
り,銀行業の事業活動が縮小していることは公知の事実であることから見て,本件
条例は,「税負担の公平性の確保」を実現するものとはほど遠いといわざるを得な
い。以上のとおり,一審被告らが主張する本件条例の目的は,いずれも立法事実に
支えられたものではないことが明らかであるから,大手銀行のみを対象とした本件
条例は憲法14条1項に違反する。
ウ また,本件条例は,一審被告らの主張する立法目的を実現するため,銀行業に
限定して課税標準を業務粗利益とするとの手段を採用したが,この点においても,
憲法14条に違反するといわざるを得ない。すなわち,①a 一審被告東京都が平
成13年度に見込んでいた銀行業等からの事業税の税収は,法人事業税額の総額の
12.8%,納税実績値における比率で9.61%であるところ,一審被告東京都
による行政サービスは,そのほとんどが不特定多数の都民や銀行業等に限定されな
い法人一般に向けられたものであり,事業税の税収に対応するような,大量の行政
サービスを資金量5兆円以上の大手銀行のみが受益していることを認めさせるもの
では全くない。b 外形標準課税の課税標準として他に考えられる,付加価値基
準,給与基準,物的・人的基準,従業員基準を採用した場合や,所得基準と給与基
準の併用及び所得基準と物的・人的基準の併用を採用した場合における事業税額の
負担割合と比べても,本件条例による負担割合は6倍から11倍もの極度に重い事
業税を課していることになる。c 一審原告らは,本件条例により,繰延税金資産
の減少額3583億0300万円及び外形標準課税が適用される5事業年度分の納
税見込額2373億円の負担を強いられるほか,負担額の資金調達・運用量ないし
貸出金量を補うために必要な金額や不良債権処理原資を調達しなければならず,ま
た,自己資本比率の低下等による影響も受けていることから見て,本件条例は,一
審原告ら銀行業等に対して過重な負担を強いるものである。②そして,本件条例
は,納税義務者である大手銀行のみならず,他の地方公共団体,更には不良債権処
理に関する国策,国民成長率を含む国民経済全体といった銀行業等以外の関係に対
しても,重大な影響を与えている。以上によれば,本件条例は,立法目的との整合
性を有しないだけでなく,手段の相当性も認められないことから,憲法14条1項
に違反する。
エ さらに,上記森林法事件に関する最高裁判所大法廷判決が採用する比較考量に
よっても,①本件条例の目的は,懲罰的,濫用的なものであること,②大手銀行に
対する課税上の差別の必要性についても,合理性が認められないこと,③本件条例
の内容も,応能・応益いずれの見地から見ても,大手銀行を他業種から不合理に差
別してねらい撃ちしたもので,極めて不当なものであること,④本件条例によっ
て,一審原告らの財産権は,本来,憲法84条の租税法律主義により保障されてい
るはずであるので,税金という形をとって侵害されること,⑤本件条例による財産
権の侵害の程度は,所得基準の課税の7.7倍ないし約3652倍という甚大なも
のであることから,本件条例が憲法14条1項に違反することは明白である。
(4) 本件条例の憲法94条違反について
ア 憲法上地方公共団体に認められる課税権は,抽象的に認められた租税の賦課,
徴収の権能であり,その具体化は,法律又はそれ以下の法令の規定を待たざるを得
ないものであり,地方公共団体に課税自主権があるとはいっても,「法律」による
統制を受けるのである(地方自治法223条,地方税法2条)。そして,地方自治
の制度的保障の見地から,法律と条令との適合性を判断するには,第1に,条例が
法律に整合的であるか否かが検討され(憲法94条の要請),第2に,当該法律が
地方自治の本旨に反するものではないかが検討される(憲法92条の要請)のであ
って,地方自治の本旨なり,条例が民主的自治立法であるという一事のみをもっ
て,条例が法律に優先すべきであるとか,法律を当該条例と整合するように解釈す
べきであるということにはならない。そして,憲法94条によって,条例が法律に
整合しなければならないとされる「法律」とは,当該条例の根拠法に限定されるも
のではないし,また,当該「法律」との整合性を検討するに当たっては,個別の規
定だけではなく,法律全体の構造と趣旨に照らして,実質的に判断されるべきであ
る。
イ ①本件条例は,その適用期間の5年間で,地方税レベルだけでも,他の地方公
共団体の地方税を1050億円ないし2790億円減少させるものであって,国及
び他の道府県に与える影響は大きく,著しく財源上の不均衡を生じさせるものであ
るから,課税権の調整を担う地方税法の趣旨,目的及び効果に矛盾抵触するといわ
ざるを得ない。②また,本件条例は,その内容を客観的に考察すると,実質的には
法定外税の性質を持つものであり,それにもかかわらず総務大臣の同意(地方税法
259条)等法定外税として適法な手続をとらずに制定されたものである点でも地
方税法に違反している。本件条例は,「銀行の不良債権処理の促進」や「金融シス
テムの安定化」という国の経済政策を阻害ないし遅延させるものであって,国の経
済施策に照らしても適当でないと評価されるものであるから,仮に,本件条例の制
定について,法定外税の手続を経ようとしても,総務大臣の同意すら得られなかっ
たことが推測され,その意味でも重大な瑕疵があるのであって,この点からも,本
件条例は,地方税法の趣旨,目的及び効果に矛盾抵触しているというべきである。
これらから見て,本件条例は,地方税法の「法律の範囲内」という制限を逸脱して
いるので,憲法94条に違反する。
ウ また,本件条例が施行された結果,実際に一審原告らの不良債権処理の原資
(剰余金)が大幅に減少し,不良債権処理の促進の障害となった上,約半分の大手
銀行が,平成12年3月期において,金融早期健全化法により義務付けられた経営
健全化計画を達成できなくなるとともに,本件条例により一審原告らの最終利益が
減少することによって,一審原告らの国に対する公的資金の返済が遅れ,金融機能
ないし金融システムの安定化の障害ともなっている。以上から見て,本件条例は,
金融機能安定化法や金融早期健全化法等の趣旨,目的及び効果に明らかに矛盾抵触
しており,この点でも「法律の範囲内」という制限を逸脱し憲法94条に違反す
る。
(5) 本件条例の憲法31条等違反について
ア 憲法はその31条又は13条により,適正手続を保障しているのであるから,
本件条例の制定行為について,一審原告らには,あらかじめ不利益の内容が告知さ
れ,弁解と防御の機会が与えられるべきであった。しかしながら,一審被告らは,
本件条例案の立案過程において,密室による検討をするだけで,大手銀行からの問
い合わせに対しても,虚偽の回答をして本件条例の構想を秘匿していた。また,本
件条例の構想発表後も,全国銀行協会との間で,形式的な意見交換会を1回開催し
ただけで,十分な資料も交付せず,責任者である一審被告東京都の主税局長との意
見交換会の開催も拒否し続けた。これらのことから明らかなように,一審被告らに
は,納税者である一審原告らの意見に耳を傾け,場合によっては本件条例の撤回や
修正を含めて検討しようとする姿勢など全くなかったのであり,一審原告らに対す
る告知・聴聞の機会を欠いたものといわざるを得ない。さらに,本件条例案につい
ての東京都議会の審議においても,議員らは,銀行憎しの世論に安易に迎合し,審
議前に既に本件条例を可決するとの結論を先に決めており,また,一審被告東京都
知事や一審被告東京都の主税局長らは,審議において,必要かつ重要な情報を提供
しないばかりか,誤った情報を提供して,都議会議員の認識を誤らせたまま本件条
例を成立させている。いずれにせよ,本件条例案の審議において,一審原告らの反
対意見などがまじめに検討された形跡はなく,一審原告ら納税義務者や利害関係人
の意見が,条例の可否や修正に影響を及ぼし得るような実質的な告知・聴聞が行わ
れたと評価することはできない。一審被告らが主張するように,本件条例を「応益
課税」の見地から根拠付けるのであれば,納税者や利害関係者に対する実質的な告
知・聴聞の機会の付与が,より一層強く,求められることになるが,以上のとお
り,本件条例の制定過程において,一審被告らが当然行うべきであった,納税者や
利害関係者に対する実質的な告知・聴聞の機会の付与が全くなかったことになるの
で,本件条例の制定行為が憲法31条又は13条に違反することは明らかである。
イ また,本件条例は,一審原告らを含む大手銀行という特定の者にだけ適用する
ことを最初から意図しており,いわば名宛人を「特定」して制定されたのであるか
ら,一般性を持つ法規範には該当せず,法規としての本質である法の一般性を欠い
ているというべきであるので,憲法31条にいう「法律」に該当しないというべき
である。
ウ なお,①本件条例による一審原告らの財産権侵害の程度が非常に大きく,ま
た,不良債権処理の促進という「国策」にも反し,その社会的影響があまりに大き
いこと,②一方,本件条例の目的と称するところの一審被告東京都の「安定的な税
収の確保」及び「税負担の公平性の確保」の必要性は,一審被告東京都自らの放漫
財政により招いた財政危機を原因とするところが大きいこと,③本件条例の適用を
受ける一審原告らから,意見聴取する手続を履践することは,可能でありかつ極め
て容易であった上,本件条例の制定に当たって,一審原告らが被る重大な損害に関
して告知及び聴聞等の慎重な手続の履践を排除するほどの「緊急性」は全く認めら
れないことから見れば,憲法31条又は13条に基づく適正手続の保障が行政手続
についても適用ないし準用され得るとした,いわゆる成田新法事件に関する最高裁
判所平成4年7月1日大法廷判決民集46巻5号437頁の判示によっても,本件
条例の制定行為について,一審原告らに憲法31条又は13条の保障が及ぶことは
明らかである。
(6) 事業税の性格について
ア 現行事業税に至る沿革を客観的な立法資料等によって振り返ると,①明治11
年に導入され事業税の創設まで続いた営業税及び昭和23年創設の事業税は,いず
れも純益課税(所得課税)を原則としていたのであり,外形標準課税を許容する営
業税時代の規定及び昭和23年当時の地方税法(以下「昭和23年法」という。)
69条1項は,純益,営業純収益ないし営業収益(所得)の捕捉の困難性を補うた
め,徴税の便宜上設けられたこと,②昭和29年に創設された現行事業税は,それ
以前の事業税と連続しており,現行地方税法72条の19(当時は,72条の1
8)は,昭和23年法69条1項をそのまま承継した規定であること,③地方税法
による例外業種に対する収入金課税は,これとは全く異なる理由で導入されたもの
で,所得の捕捉の困難性を理由に導入されてきた「条例」による外形標準課税と例
外業種における外形標準課税とでは別個の根拠付けがされてきたこと,④昭和29
年及び30年の旧自治庁関係者による国会答弁は,事業税の原則が所得課税である
ことを前提に,その例外として,地方税法により例外業種に対して収入金課税を行
う正当化の理由を,応益的見地から説明したものに過ぎないこと,⑤また,その答
弁は,地方税法による例外業種について収入金課税を行うことに関する議論であ
り,所得の捕捉の困難性を理由に導入された「条例」による外形標準課税の規定
(現行地方税法72条の19)に関する議論ではないことが明らかである。以上の
経過から見て,事業税は,応能的な課税として「純益・収益課税」,更には「所得
課税」へと進歩・改善を遂げてきたのであり,これが,立法府における議論もな
く,地方自治体の行政サービスに対する応益税に「変身」することなどあり得ない
(むしろ,応益税に立脚したシャウプ勧告に基づき昭和25年に創設された附加価
値税が,結局実施されることなく昭和29年に廃止され現行の事業税に至ったこと
からすると,現行事業税は,応益課税の否定の上に成り立っているといえる。)。
そして,現行地方税法72条の19は,昭和23年改正時の条文をそのまま踏襲し
ているから,法律の文言に変化がない以上,その意義も昭和23年当時と同様に,
「所得」課税が原則と解すべきである。
イ また,「法人の事業税の課税標準」を定める地方税法72条の12は,「所
得」と「収入金額」を課税標準として明示的に定めている以上,いずれかが原則で
いずれかが例外であるとの規定をわざわざ置く必要がないことは当然であって,地
方税法72条1項もこれを受けて,「所得」と「収入金額」とを列記しているに過
ぎない(なお,この「所得」は,企業の収益活動の成果として生み出された現実の
「所得」であり,法人税法及び所得税法の「所得」と同じ概念であることはいうま
でもない。)。そして,外形標準課税について定める同法72条の19の見出しも
「事業税の課税標準の特例」とされていて,所得課税が原則であることを明記して
いる。現に,東京都の全事業税の税収(平成12年度)のうち,地方税法72条の
19の例外4業種が占める割合はわずか3.39%であり,全国規模で見ても,例
外4業種が占める割合は5%程度といわれており,95%ないしそれ以上が所得基
準による事業税の税収で占められており(甲316),納税の実態から見ても,事
業税は所得課税を原則としていることが明らかである。
ウ さらに,法人税法及び所得税法における損金又は経費算入の該当項目は,種々
の政策的理由により定められており,法人税法上事業税額が損金に算入されるから
といって,事業税が応益課税か応能課税かの判断の決め手になるわけではない。
エ このほか,①税率の差異は,累進税率を採用する場合でも軽減税率を採用する
場合でも,納税義務者の担税力を考慮して設けられるものであって,事業税が基本
税率と軽減税率を採用しているからといって,このことから直ちに事業税が応能原
則に立脚していることを否定できないこと,②法人税額を課税標準として課され,
法人税の附加税と解される法人住民税のような課税も禁止されていないこと,③二
重課税を禁ずる明文の規定は存在しておらず,地方税法も二重課税を禁じていると
は解されないこと,④海外投資等損失準備金に係る積立金額の損金算入を認める特
別措置は,銀行の経営基盤を強化し国際競争力を強めるためという政策的な優遇措
置であり,この措置が設けられていることと,事業税が応益課税であるかという議
論とは関連がないことから,現行事業税が応能課税を原則としていることを否定す
ることはできず,これらを根拠として事業税が応益課税によっているとする一審被
告らの主張は失当である。
(7) 地方税法72条の19の「事業の情況に応じ」について
ア 銀行業を含めた現代の大企業においては,会計制度も発展・浸透し,適正な記
帳がされ,外部監査や当局の検査も十分に実施されているから,外形標準課税の前
提である「所得の捕捉の困難」な情況は通常考えられないから,地方税法72条の
19の適用場面は現実的にはほとんどない状況になっている。この点は,旧自治
庁・自治省関係者も認めており(例えば,「実際には相当に局限されることとな
る。」(甲294),「外形課税の規定は,現在では有名無実となっており」(甲
299)等),法律によって一律にすべての道府県に適用しないと,現実にはワー
クしないことを認めていた。
イ 現行地方税法は,事業税の課税標準が「所得」であることを大前提とした上
で,その「例外」として72条の19を置いていることからすると,例外の採用を
制限する同条の「事業の情況」という概念は,厳格に解釈されるべきである。これ
を緩やかに解釈すると,「所得」を課税標準の中心に据えて各種の規定を置いてい
る現行事業税制度の趣旨が実質的に潜脱されることになり,枠組み法としての地方
税法の意味が失われることになる。したがって,地方税法72条の19を根拠とし
て外形標準課税を導入するには,外形標準課税によらなければならない「必要性」
と当該外形標準課税の「合理性」がなければならない。この観点から見ると,同条
の「事業の情況」は,例外4業種と同様な「事業自体の客観的性質及び特別の法制
度上の理由による事業税負担の恒常的な過少性が存在する情況」ないし「事業税負
担を過少ならしめる事業構造の恒常性」が存在する場合においてのみ,同条の外形
標準課税を認める趣旨であって,その時々の経済情勢に応じて変化するようなもの
を含む趣旨とは解されない。確かに,銀行業等の事業税負担額は大きく落ち込んで
はいるが,これは専ら景気の影響を受けてのものであり(同様な事態は他業種にも
発生している。),例外4業種のような所得を恒常的に過少ならしめる事業構造が
認められるわけではない。事業税の物税としての本質から見ても,「事業の情況」
は,ある事業の客観的性質のみを考慮したときに所得基準で課税することがなじま
ない場合で,かつ,その事業になじむ外形基準を採用することが可能である場合を
指す趣旨でなければならない。しかも,一審被告東京都は,バブル経済期以降の
「業務粗利益」ないし「売上総利益」又は事業税負担額の増減という表面上の数値
を比較しただけで,事業規模と事業税負担額との相関関係に関する比較・検討を全
く行っておらず,この点だけからも見ても本件条例の「立法事実」に関する検討の
欠如が顕著である。現に,本来合理的とされる税負担と比較して,本件条例による
大手銀行の事業税負担額は,6倍ないし11倍もの極度に重いものとなっている
(甲113,甲236)。
 また,一審被告らが引用する平成12年2月24日の内閣法制局第一部長の答弁
は,2日前の閣議口頭了解をも合わせ考えれば,「事業の情況」の意味を限定的に
解釈する趣旨であって,広範に地方税法72条の19の適用を認める趣旨と理解す
ることは到底できない。いずれにせよ,銀行業等の「所得」が低く事業税負担が小
さいことは,バブル経済崩壊後の経済状況の変化により,不良債権処理額が増加し
た結果であり,税負担を過少ならしめる恒常的な事業構造が認められる例外4業種
とは全く異なるものであるので,本件条例による外形標準課税の「合理性」は認め
られない。さらに,一審被告らが主張する昭和52年の全国知事会の外形標準課税
導入案に対する旧自治省の見解は,学界と実務において支持された見解ではない
し,仮に,この見解によるとしても,銀行業等の不良債権額は年度によって大きな
変化があるので,税負担が著しく低いことが「常態」であるとは認められないこ
と,事業税の納付額が近時落ち込んでいる業種は銀行業等に限られないこと,後記
(8)のとおり,銀行業等の「業務粗利益」と一般事業会社の「売上総利益」との
比較は不合理であることなどから,銀行業等は,上記見解の要件を満たしていな
い。
 一方,一審被告らが主張する「不公平」論による「事業の情況に応じ」の解釈論
は,事業税に関し地方公共団体に実質的に「白紙委任」することを認めるに等し
く,地方公共団体の恣意的な課税に対する地方税法のチェック機能を失わせるもの
である。また,法定外税創設において総務大臣の同意を要するとした地方税法の規
定を完全に潜脱してしまうし,自治体間の税源配分の均衡化・適正化や事業活動に
対する予測可能性を与えようとする地方税法自体の趣旨をも完全に否定することに
なる。
 なお,この法定外税との関係では,本件条例は,実質的に法定外税の性質を持ち
ながら,総務大臣(当時は,自治大臣)の同意を得なかっただけでなく,東京都議
会においても,本件条例は法定外税を創設するものとして上程されたり審議された
りしておらず,地方税法259条及び731条2項にも違反していると考えられ
る。
ウ そもそも,地方税法72条の19の「事業の情況に応じ」は,昭和22年の営
業税法において外形標準課税を許容する要件であった「営業の種類を限り」が現行
法に至る過程で削除されたことからも明らかなとおり,例外4業種以外の法人・個
人を区別せず,全業種に一括一律に外形標準課税を導入することを予定した規定で
ある。そもそも,地方税法は,すべての税目にわたり,均一課税を原則としつつ,
不均一課税を例外と位置付けている(同法6,7条)ので,明文で認められている
場合でない限り,納税者に応じて区別した課税をすることは許されないし,不均一
課税は課税の公平を著しく損ねることから,同法72条の19がこれを許容してい
るとは解されない。また,事業税は,納税者の人的側面・事情とは無関係に課税さ
れる「物税」であるから,すべての事業を通じてできるだけ均一に課税することが
必要である。むしろ,事業税においては,行政サービスの受益に応じて,広く薄く
税負担を分担する仕組みが「税負担の公平の確保」の観点からも重要であり,外形
標準課税は,本来的に業種を限定せず,「広く,薄く」一律に負担を求める制度を
導入することを原点としなければならない。以上から見て,銀行業等のみに限って
外形標準課税を導入した点だけでも,本件条例は,地方税法72条の19に反し違
法無効である。
 昭和52年の全国知事会の外形標準課税導入案も,一地方団体のみが単独で外形
標準課税を導入することを前提としたものではないし,「主として製造業を行う法
人に限定」したものであり,「銀行業等」が外形標準課税の課税標準として適当で
あるとは全く報告されていない。この提案を受けた旧自治省側の国会答弁も,外形
標準課税で得する地方公共団体が実施し,そうでない地方公共団体が所得課税とい
うことになると,全体として所得課税を実施した場合とバランスがとれなくなるの
で,地方税法はこのような事態を予定しておらず,所得課税負担との均衡を失しな
いためには,一律の外形標準課税の導入が適当である旨認めている。この提案は,
結局,その当時の深刻な経済状況を考慮して実施が見送られたが,当時よりも本件
条例制定時の経済状況は悪化しており,この提案は,その意味からも本件条例を正
当化する根拠にならない。
エ 以上から明らかとおり,銀行業等には地方税法72条の19の「事業の情況」
が認められないし,本件条例は,業種を特定し,しかもそのうちの資金量5兆円以
上の大手銀行のみの「事業の情況」に着目して外形標準課税を導入しようとするも
のであるから,地方税法72条の19に違反し無効である。
(8) 課税標準としての「業務粗利益」について
ア 業務粗利益は,地方税法72条の19が規定する「資本金額,売上金額,家屋
の床面積若しくは価格,土地の地積若しくは価格,従業員数」に含まれないことは
文言上明らかであるし,会計学上これらと全く異質で何らの共通性のないものであ
る。同条がこれらの末尾に付した「等」の意味は,大正15年創設の営業税(府県
税)に関する「地方税に関する法律施行規則」2条1項の「営業の収入金額(売上
金額,請負金額,報償金額の類を含む)」という文言中の「の類を含む」に由来す
るものであり,この「類」は,当時営業税(府県税)が小規模な個人営業者のみを
課税対象とし,各業種において「売上金額,請負金額,報償金額」の呼称が区々で
あったものを逐一条文に列挙せずにまとめて規定する趣旨で設けられたものである
から,これを承継した現行地方税法72条の19の「等」もこれと同様に,条文に
列挙されている「資本金額,売上金額,家屋の床面積若しくは価格,土地の地積若
しくは価格,従業員数」のいずれかを各業種に言い換えたもののみを指すと解釈す
べきであるので,これら列挙されたものと全く異質で何らの共通性も認められない
「業務粗利益」は,「等」に含まれないことが明らかである。
イ そもそも,事業税の課税標準に関して一審被告らが主張する「事業規模」,
「事業活動量」という概念は,それ自体非常に抽象的で,課税標準の適法性を基礎
付ける具体的な根拠や基準とならない。一審被告らが「業務粗利益」を課税標準と
する根拠の資料として主張する「ドクター・ビッグバンのよくわかる銀行のディス
クロージャー」(乙7の15)は,会計学等の素人に対して銀行のディスクロージ
ャー誌の概要を説明することを目的としたものに過ぎず,そこでは事業の規模や活
動量を念頭に置いた解説は一切されていないし,これを作成した全国銀行協会も,
業務粗利益が事業活動量を表すという認識はなく,そうした記載もないことから,
この資料が業務粗利益が銀行業等の事業活動量を表すことの根拠とはなり得ない。
 「業務粗利益」が事業活動量を適切に表す指標であるか否かは,「付加価値」
(企業の事業活動によって新たに生み出された価値)を表現するものであるか否か
という観点から検討する必要がある。そして,銀行の貸出業務(リスクを引き受け
ることに対する対価を受け取ることがその本質である。)においては,複数年度に
及んで行われる一連の「貸付」活動と「回収」活動が不可分一体となっており,そ
の過程で必然的かつ経常的に発生する「貸倒損失等」(貸倒損失,貸倒引当金繰入
額その他の不良債権処理額)は,貸出利息収入と本質的に対応する「直接的な費
用」であるから,いかなる意味においても銀行業が事業活動によって新たに生み出
した価値ではなく,銀行業の付加価値を構成しない。また,貸倒損失等を予測して
銀行業によって積み立てられる「信用リスク・プレミアム」に相当する部分も,同
様に銀行業の付加価値を構成しない。したがって,貸倒損失等も信用リスク・プレ
ミアムも控除されないスプレッド全体を付加価値とみなすことはできない。一審被
告東京都が本件条例制定に当たり参考にしたとするイタリアの州生産活動税におい
ても,貸倒損失等は控除(損金算入)されているし,例外4業種の生命保険業及び
損害保険業においても,銀行業の貸倒に相当する純保険料部分が課税標準から控除
されているのであって,これとのバランスから見ても,「業務粗利益」をそのまま
課税標準とすることは不当である。一審被告らは,銀行の主観性や恣意性が入り込
む余地のある貸倒引当金は課税標準から控除すべきでないと主張するが,引当金計
上は,金融検査マニュアルに準拠した自己査定に基づき企業会計に従って認識・計
上され,監査役及び公認会計士ないし監査法人の監査,金融当局の金融検査等によ
る厳格な審査を受けているものであるので,銀行の恣意は入りようがない。以上の
とおり,貸倒損失等や信用リスク・プレミアムを控除していない「業務粗利益」
は,付加価値の観点から見て,事業活動量を適切に表す指標ということはできない
から,これを課税標準とすることは,何らの正当性もない。
ウ また,「業務粗利益」は,銀行法上認められた基本的業務から生ずる「株式売
買損益」及び「金銭の信託運用損益」を含んでおらず,銀行の基本的業務から生じ
た収益を網羅するものではない。現に,銀行業の実績は,バブル経済崩壊後の低迷
する経済状況下で極めて悪化し,中には破綻するものも見られ,経営継続中のもの
も組織・人員等のリストラ・合理化を行っており,事業活動量が低下していること
は公知の事実である。それにもかかわらず,銀行業の「業務粗利益」はバブル経済
崩壊後も増加しているのであり,このことから見ても,「業務粗利益」が銀行業の
事業活動量を表すものでないことは明らかである。
エ「業務粗利益」は,専ら銀行監督目的で当局が導入した概念であって,事業活動
量の計測とは全く関連のない計数であり,一般事業会社の財務諸表に表示される売
上高とは異質なものであるし,売上高のように収益のみを示す内容のものでもない
から,一般事業会社における「売上総利益」とは法律学上も会計学上も全く異なる
概念であり,これに類似するとか相当するとする一審被告らの主張は誤っている。
オ 以上から見て,「業務粗利益」は,銀行業等の課税標準として不合理であり,
これを課税標準とした点でも,本件条例は,地方税法72条の19に違反し無効で
ある。
(9) 地方税法72条の22第9項の均衡要件について
ア 地方税法72条の22第9項の均衡要件は,昭和23年の改正で,従前,内
務・大蔵大臣の許可を必要としていた許可制の廃止に代えて設けられた,当時の地
方税法69条1項後段に由来するものであり,地方税法の下では,事業税を含む一
切の法定税について,地方公共団体による課税標準自体の変更を認めないのが原則
であるところ,地方税法72条の19はその唯一の例外として,地方公共団体に対
して事業税について所得課税の例外としての外形標準課税を許容するものである
が,地方税法はこれを認めるに当たって,地方公共団体の恣意的な導入を排除する
「歯止め」として均衡要件の規定を設けたのである。したがって,そのような恣意
を許すように解釈することは許されない。本件条例のように,特定業種のうちの特
定規模の企業のみを対象とする外形標準課税は,それだけの理由からも地方税法7
2条の19に違反するが,仮にこれが許されるとしても,地方税法72条の22第
9項については,より一層厳格な解釈が必要となる。そういう観点から見ると,外
形標準課税の導入の目的が「税収の増加」にあることが明白な場合は,地方税法7
2条の22第9項の趣旨に違反する。
イ また,一審被告らは,地方税法72条の22第9項の税負担の比較を過去の複
数年度の比較によることが許されると主張する。しかし,同項には過去の複数年度
の比較を前提とすることをうかがわせる文言は見当らないし,こうした比較を認め
ると,過去の期間の抽出方法により数値の操作による恣意的な運用が可能となって
しまい,同項の「歯止め」が効かなくなるので,そのような解釈は許されない。一
審被告らが引用する平成12年2月24日の内閣法制局第一部長の答弁も,外形標
準課税導入後の期間の比較を問題としているのであり,2日前の閣議口頭了解を合
わせ考えれば,この答弁を一審被告らの主張の根拠とすることはできない。恣意的
な解釈を許さないという趣旨からは,「あるべき所得」という不明確な概念を同項
の「均衡」の解釈に持ち込むことも許されない。
ウ さらに,地方税法72条の22第9項の「著しく均衡を失しない」は,他の地
方公共団体への影響の観点から,地方自治体の課税自主権の行使の上限に相当する
事業税の制限税率を標準税率の1.1倍と定めた同条8項と統一的に解釈されるべ
きである。すなわち,同条8項の趣旨は,税制を変更するに当たって当然生ずる
「若干の差異」を許容する趣旨に過ぎないことからすると,同条9項の場合に,新
基準(外形基準)による事業税収総額が旧基準(所得基準)によるそれの2倍を超
えるといったことは論外である。
エ 本件条例による外形標準課税の導入目的が「税収の増加」に当たることが明白
な場合であるので,本件条例は,それだけの理由から地方税法72条の22第9項
に違反する。また,本件条例の制定に当たって,一審被告東京都がバブル経済期を
含めるために,過去の複数年度の税負担の比較を行っており,この点からも,本件
条例は,地方税法72条の22第9項に違反する。さらに,本件条例による外形標
準課税が導入された平成12事業年度に係る,一審原告らの法人事業税について
は,新基準による納税額は旧基準によるものの約7.7倍にも達する(甲101)
し,平成13事業年度に係る法人事業税に至っては,新基準による納税額が旧基準
によるものの約3652倍という異常なものとなっている(甲257)。これらか
ら見ても,本件条例は,地方税法72条の22第8項の制限税率をはるかに上回
り,「明らかに」著しく均衡を失するものであり,地方税法72条の22第9項に
違反する。
(10) 国家賠償請求について
ア 本件条例の制定行為の違法性及び故意・過失は,本件条例の内容それ自体の違
憲性ないし違法性が認められるかという点及び一審被告東京都知事らの本件条例の
制定行為を構成する各行為が,公務員の職務上の行動準則に違反していたかという
点を総合的に考慮した上で,本件条例の制定行為全体が客観的な法秩序の要請に適
合しないと判断できる場合には,国家賠償法1条1項の「違法性」が認められ,か
つ,それと一元的に,本件条例の制定行為に当たっての一審被告東京都知事らの
「故意・過失」を認めることができる。在宅投票事件に関する最高裁判所昭和60
年11月21日第1小法廷判決民集39巻7号1512頁が国会議員の立法行為へ
の国家賠償法の適用について判示しているが,①上記判決の事案は「立法の不作
為」が直接の論点となっていて,しかも,立法行為を行う行わないという「立法制
定自体」のみが問題となっていたのに対し,本件では条例が現に立案・制定された
こと(「作為」)が論点となっていて,しかも,「立法行為の過程」も問題となっ
ていること,②上記判決では憲法51条の免責特権が認められる国会議員の活動内
容が問われているのに対し,本件ではそのような免責特権が認められていない一審
被告東京都知事らの行為が問題となっていることなど,上記判決の事案は,本件と
は明らかに事案を異にし,本件は上記判決の射程外である。
イ 本件条例が違憲・違法であることは,上記のとおりであり,一審被告東京都知
事らの本件条例の制定に向けた一連の行為には,以下に述べる数々の公務員として
の職務上の行動準則違反が認められ,本件条例の制定行為全体が客観的な法秩序の
要請に適合しないので,国家賠償法1条1項の違法性及び故意・過失が認められ
る。すなわち,一審被告東京都知事及び一審被告東京都の主税局長らにおいては,
①本件条例の制定に当たり必要な調査を行うべきであったのに,本件条例と憲法及
び地方税法その他の関係法令との関係,銀行業の実情等も含めた立法事実の有無,
業務粗利益や銀行業の収入といった基本的な概念等について必要な調査義務を尽く
さなかったこと,②本件条例の制定に当たり,極く少数の者によりあえて密室で検
討し,更には,虚言を用いて一審原告らを欺くなどして,納税者である一審原告ら
の意見を反映させる機会を意図的に奪ったこと,③本件条例の構想公表直後から相
次いだ政府関係者,法学者等有識者の批判的な指摘や反対意見から,本件条例が違
憲・違法である可能性を認識しながら,本件条例の立案・東京都議会への提出・公
布などの本件条例の制定行為をあえて強行したこと,④東京都議会における審議の
際に,虚偽又は誤導の答弁を行ったこと,以上の行為は,いずれも職務上の行動準
則に反するものである。また,東京都議会議員においても,本件条例案の審議に際
し,本件条例の違憲・違法である可能性を認識していた以上,本件条例案を否決す
べきであったのに,あえてこれを可決成立させた違法がある。
ウ 「繰延税金資産」については,一審原告らが将来の課税所得をこれに応じて減
少させる権利ないし利益を有していたものであるが,本件条例が適用されたことに
より一審原告らの上記権利ないし利益は現実に失われたのであるから,その減少
は,当期利益の減少と共に,民法及び国家賠償法上の損害を構成するというべきで
ある。事後的に,裁判により本件条例の無効が確定したからといって,一審原告ら
の繰延税金資産という企業価値を構成するものが低下した事実までも回復させるわ
けではないから,一審原告らに発生した損害が遡って否定される性質のものではあ
り得ない。この点は,「当期利益」の減少についても同様である。一審原告八十二
銀行,一審原告福岡銀行及び一審原告みずほ信託銀行についての,平成12事業年
度における繰延税金資産及び当期利益の減少額は,それぞれ2億3000万円,6
800万円及び11億5600万円にも及んでいる。
 また,本件条例の構想の公表によって下落した一審原告らの株価についても,そ
の後発表前の水準に株価が回復したとしても,「回復するまでの間」に一審原告ら
が被った損害は回復されるものではない。さらに,本件条例が一審原告らの営業活
動に及ぼす影響は多種多様であって,日々その損害が波及し莫大な金額に及ぶこと
は,経済社会の通常の経験則上当然に認められ得るところであり,このような悪影
響による財産的及び非財産的損害の具体的な損害額については,民事訴訟法248
条に基づき認定されるべきである。
 原判決が少額な損害の認定をした一審原告八十二銀行及び一審原告福岡銀行は,
一審原告らの中では相対的に小規模な地方銀行であるが,これら両行においては,
かえって貸出余力の低下による影響が大きく,得べかりし利益である利子収入の減
少額は,優に1億円を超えている。同じく原判決が少額の損害額を認定した一審原
告みずほ信託銀行は,非公開会社であるといっても,資金調達・運用の円滑化の観
点からは,預金者を含む債権者等に対する信用確保が極めて重要である等の点は,
公開会社と変わらないし,自己資本比率が他の一審原告らと比較して極めて高いた
めに,かえって,本件条例により現実に低下する同比率は大きくなっており,貸出
余力の低下による利子収入の減少額は,優に1億円を超えている。
 以上によれば,一審原告らには原判決以上の損害額の賠償請求が認められるべき
であるし,また,他の一審原告らと比べて低額の損害賠償しか認められなかった上
記一審原告3行についても他の一審原告らと同様な損害額の賠償請求が認められる
べきである。
2 一審被告らの主張
(1) 本件条例の無効確認請求の争訟性について
 一審原告らの本件条例の無効確認請求は,本件条例が一般的・抽象的に憲法ない
し法律に適合するか否かの審査を求めるものである。しかし,本件条例が制定され
施行されただけでは,一審原告らに具体的な納税義務は生じないのであるから,い
ずれにせよ,当事者間の具体的な権利義務又は法律関係に関する紛争を対象とする
ものとはいえないので,「法律上の争訟」に当たらず,この請求に係る訴えを却下
した原判決は相当である。
(2) 租税債務不存在確認請求の適法性について
 標記の訴えは,要するに,本件条例が一般的・抽象的に憲法ないし法律に適合す
るか否かの審査を求めるものであるから不適法であり,この請求に係る訴えを却下
した原判決は相当である。
(3) 本件条例の憲法14条違反について
ア 本件条例は,一審原告らを含めた大手銀行をねらい撃ちしたものではない。す
なわち,銀行業等(特に,大手銀行)については,他の大規模企業には全く見られ
ない特有の問題があることが明確に証明され,別扱いをすることに十分な合理性が
あると判断されるに至った。そこで,一審被告東京都知事は,資金量5兆円以上の
大手銀行に限って外形標準課税を行うこととする本件条例案を提案し,東京都議会
で原案どおり可決されたのである。確かに,本件条例の適用を受ける課税対象法人
事業者の数は限られるが,合理性に裏打ちされて,別異の取扱いを定めるものであ
るから,憲法14条に違反するものではない。
イ ここ数年にわたっての銀行業等の業務粗利益と事業税額の推移,他の業種の売
上総利益と事業税額の推移と対比し,これを法人の事業活動が地方公共団体の行政
サービスから受ける受益という観点から見ると,銀行業等の「事業の情況」は,負
担の公平を著しく損なうものであることが明らかであった。そこで,本件条例は,
そうした銀行業等の「事業の情況」にかんがみ,銀行業等に対して所得課税を継続
すると当該事業の活動量に応じた課税ができないため,外形標準課税を導入して税
負担の実質的な公平性を確保しようとしたものである。また,昭和59年度から平
成10年度までの15年間の一審被告東京都の法人事業税の税収額について,全法
人と主要銀行とを比較する(乙3の11)と,主要銀行の税収動向が不安定である
ことは明らかであり,これによって表される銀行業等の法人事業税の不安定性は見
逃すことができない事態である。本件条例は,このような銀行業等特有の事業の情
況にかんがみ,外形標準課税を導入することにより,銀行業等からの法人事業税の
税収を安定させ,一審被告東京都の安定的な税収を確保しようとしたものであり,
いずれの立法目的も正当であることは明らかである。
ウ 銀行業等は,不良債権処理に係る損失額が多額に及ぶため,いわゆるバブル経
済期よりも業務粗利益を上げていながら,所得課税による法人事業税をほとんど負
担していないのが実情であり,しかも,このような情況は銀行業等のみに限られる
特有なものである。本件条例は,銀行業等のこうした事業の情況にかんがみ,地方
税法72条の19に基づき,銀行業等に限定して外形標準課税を行うこととしたも
のであって,外形標準課税の対象を銀行業等に限定したことは区別態様として合理
的であり,実質的公平を図る方策として,公平性の原則に適合するものである。ち
なみに,本件条例に基づく申告納税の初年度である平成13年度の銀行業等の納税
額は1029億円であり,同年度の事業税納税総額1兆0709億円の9.6%と
なるところ,昭和59年度から平成10年度までの15年間における事業税納税総
額に対する主要銀行の納税額の割合は9.8%(乙3の104)であったから,上
記初年度の比率はこの範囲内に収まっている。
 また,一審原告らは,本件条例が目的と手段との関連性においても著しく合理性
を欠くと主張するが,上記イの正当な目的を実現する手段として,銀行業等の業務
を最もよく網羅的に表す「業務粗利益」を課税標準としたものであるから,本件条
例は,その目的と手段の関連性においても合理性を有することは明らかである。
エ 本件条例が適用対象を資金量5兆円以上の銀行業等に限定したのは,中小金融
機関を含む中小零細企業に配慮したためであり,こうした選択は一審被告東京都の
政策的判断にゆだねられるべき問題である。東京都内の事業所77万1655中,
その98.2%である75万7876が中小規模事業所であり(乙3の49),そ
のうちには最先端技術を有するものも少なくなく,その経営安定化と活性化は,一
審被告東京都の主要な政策目標の一つである。こうした中小企業に資金を供給する
役目を果たしているのが,信用金庫,信用組合等のいわゆる中小金融機関であり,
これらの金融機関に外形標準課税を適用するとその経営に与える影響のほか,その
税負担増が貸出金利の引上げといった形で中小零細企業に転嫁されることが憂慮さ
れることから,本件条例の適用対象から除外したものである。
(4) 本件条例の憲法94条違反について
 地方公共団体も憲法上独立の統治団体であって憲法上固有の課税権が承認されて
いる。この地方公共団体(地方税法上は「地方団体」)の課税権は,地方自治に不
可欠の要素であり,地方公共団体の自治権の一環として憲法によって直接に地方公
共団体に与えられている。地方税法3条は,同法の定めるところにより,地方公共
団体が条例により課税要件等を規定することができるとしており,この意味で同法
は「枠法(準則法)」であるとされている。そして,地方税法72条の19も,超
過課税,法定外税及び不均一課税(同法6条)と並んで,地方公共団体の課税自主
権の行使を認めた規定であり,地方税法72条の19に基づく本件条例も,課税自
主権行使の一つである。課税自主権の行使の適否は,最終的には,当該地方公共団
体の住民の判断によることになり,司法の判断においても,そうした地方公共団体
の判断は最大限尊重されるべきである。
 そして,地方分権一括法が制定され,国と地方との関係を対等に位置づけて地方
の自主性を高めようとしている今日,地方公共団体の課税自主権については,自主
財政主義の趣旨にかんがみて,国法といえども地方公共団体の自主(独立)財源の
確保等その自主性を十分に尊重すべきであって,特に,外形標準課税を「一般概
念」で地方公共団体の条例に委任している地方税法72条の19の解釈について
も,そうした考え方が当てはまるものというべきである。
(5) 本件条例の憲法31条等違反について
ア 行政処分の手続に憲法31条の適用ないし類推適用があることは別段異論がな
いが,多元的価値観等の調整過程を経て一般的・抽象的な規範を定立する立法行為
には,憲法31条を類推適用する余地はなく,その点は,国の立法行為に限らず,
本件条例の制定のような,地方自治及びこれに基づく立法権が憲法上保障されてい
る地方自治体の立法行為についても同様である。そもそも,本件条例のような租税
に関する法律,条例は,これに基づく一定の手続(納税義務者による申告,行政庁
による更正・決定処分等)を経ることによって,初めて国民・住民の具体的納税義
務が生ずるのであり,法律,条例が施行されても,それだけでは具体的納税義務は
生じないので,この点で本件条例の制定・施行と行政処分たる課税処分とを同視す
ることはできない。本件条例は,平成12年4月1日以降開始する事業年度の末日
における資金量が5兆円以上の銀行業等に適用されるものであることを一般的,抽
象的に定めているのに過ぎず,一審原告らが主張するように,一審原告ら大手銀行
を特定の名宛人とするものではない。
イ 一審原告らは,本件条例の立案過程で,一審被告東京都が銀行側の問い合わせ
に虚偽の回答をしたことが,憲法31条の適正手続に違反すると主張するが,条例
案の立案過程は,地方自治体内部において条例提案権者が行っている単なる準備行
為に過ぎず,適正手続の問題とは無関係な場面である。本件条例の制定過程におい
ても,東京都議会の公聴会等で銀行側の意見聴取の機会も設けているし,他の参考
人の意見も聴いた上で,東京都議会議員の圧倒的多数の賛成により可決成立したも
ので,適正手続を問題にする余地は全くない。
ウ 仮に,一審原告らが主張するように,成田新法事件に関する最高裁判所平成4
年7月1日大法廷判決の判示の趣旨が及ぶとしても,本件条例により「制限を受け
る権利利益の内容,性質,制限の程度」の点に関しては,一審原告らが主張する繰
延税金資産及び純利益の減少,資金調達コストは,「法律上の損害」に当たらない
し,仮に,これに当たるとしても,一審原告らの企業規模からすれば,決して大き
いものであるということはできない。また,一審原告らの信用や国際競争力の低下
についても,企業に対する信用は,企業の経営状況・経営能力全体に対する評価の
結果であって,租税制度のみによって決まるものではない。更にいえば,一審原告
らに信用や国際競争力の低下が仮にあるとすれば,それは多額の不良債権を抱えそ
の処理が一向に進まないばかりか増加さえしていることに起因していることは,社
会一般に認知されているところである。一方,本件条例により「達成しようとする
公益の内容,程度,緊急性」の点に関しては,1200万人の都民を抱える一審被
告東京都には,膨大な行政需要にこたえ行政サービスを提供する責務があり,税収
の落ち込みにより厳しい財政運営を迫られる中,投資的経費の削減,経常経費の見
直し,全職員の給料カット等,歳出削減に最大限の努力を行ってきているが,それ
にも限界があり,本件条例の制定により見込まれる増収(年間1000億円程度)
を行政サービスに振り向けることにより,これをはるかに超える効果が見込まれ
る。以上のとおり,上記判決が示した基準に照らした比較考量によっても,一審原
告らに告知及び聴聞の機会が保障されるものではない。ちなみに,地方税法上条例
制定に当たって聴聞を義務づけられているのは,固定資産税に関する同法350条
2項のみであって,事業税にはそうした規定はない。
(6) 事業税の性格について
ア 事業税は,事業に担税力を見い出し,地方公共団体の提供する行政サービスを
受けながら事業を営んでいるという,事業と行政サービスとの受益関係に着目して
課される「応益税」である。
 すなわち,昭和29年及び30年の地方税法改正においても,所管官庁である当
時の自治庁は,国会答弁等において,事業税の法的性格は応益的性格が前提である
ことが立法過程において一貫して説明されている。また,そこでは,外形標準課税
を例外業種に限定するような説明はされておらず,むしろ,漸次課税標準を売上金
額に切り替えて行って,いろいろな問題の是正を図りながら,事業税を育てていき
たい旨の将来展望が示されている。昭和29年の改正法も,応益原則を事業税の課
税の正当根拠としていたシャウプ勧告の趣旨をできる限り生かそうとして制定され
たものである。結局,立法当時のわが国の経済状況等から,大半の業種の課税標準
を「所得」とせざるを得なかったのであるが,事業税の制度的な本質としては,応
益原則に立脚して制定されていることは明らかである。
イ また,租税が,原判決がいうように,「能力に応じて課されるものであり,」
「公共サービスの対価としての性質を有しない」ものであるからとって,直ちに応
能原則に結びつくものではない。能力に応じた課税とは,租税の負担能力である担
税力を意味するもの(「応能」の概念)であって,課税の根拠を示す基本的考え方
である「応能原則」,「応益原則」と相互に対応する関係にあるわけではない。ま
た,課税標準は,「応能原則」,「応益原則」といった税の性格に従って論理必然
的に決定されるものではなく,その時々の財政上の理由や経済の状況に応じて,租
税政策により選択されるべきものであり,「応能原則」によっているからといっ
て,直ちに「所得」を課税標準とすべきであるということにはならない。憲法14
条は,確かに,「担税力に応じた課税」を求めているが,それは,「応能」概念を
要請するにとどまり,所得を課税標準とする「応能原則」とすることまで求めてい
るものではない。そして,事業税の課税標準としての「所得」は,応能原則とされ
る法人税法等の「所得」概念とは異質であり,応益原則に基づく概念であり,地方
税法72条の19は,「所得」を課税標準としたのでは事業税の応益税としての性
格を適切に反映できない場合を想定して,その場合の是正措置として設けられてい
るものである。
ウ さらに,法人税額や所得税額の算出に当たって,事業税額を損金や経費に算入
することが認められているのは,原判決がいうような技術的な規定にとどまらず,
事業税が事業の費用,行政サービスの対価であるという応益的な考え方に基づくも
のである。また,地方税法72条の14や72条の15は,法人の国外所得を除外
して所得計算しているが,これは,国外の事業活動は都道府県の提供する行政サー
ビスとの応益関係がないからであり,この点は事業税を応能税であるとすると,整
合性ある説明ができなくなってしまう。
エ 以上のほか,①比例税率とするか累進税率とするかの問題は,応益原則であれ
ば,必ず比例税率でなければならないという性格の問題ではないこと,②法人事業
税は法人税の附加税ではないこと,③政府の税制調査会の外形標準課税導入の動き
は,必ずしも法律改正による事業税の応益課税化ではなく,応益課税としての税の
性格の明確化を一層図ろうとするものであること,④法人事業税は所得を課税標準
とすることで,原則的には禁止されている法人住民税との二重課税となっているこ
と,⑤海外投資等損失準備金等事業税が応益課税であることからしか,説明できな
い事業税特有の加算減算項目があることを合わせ考えれば,現行事業税が応益原則
に基づいて課される税であることは明らかであり,これを所得課税を原則とする応
能原則の立場に立つものと判断した原判決には,重大な誤りがある。
(7) 地方税法72条の19の「事業の情況に応じ」について
ア 一審原告らは,戦前の営業税からの沿革から見て,現行地方税法72条の19
の「事業の情況」とは,所得の捕捉の困難性が認められる業種あるいは小規模な事
業など極めて限定された場合にのみ適用される趣旨と解すべきであると主張する。
しかし,こうした主張は,大正15年の営業税が,現行事業税とは異なる時代背景
の下に成立したものであることや,地方税制についての考え方が,明治憲法と現行
憲法とでは全く異なることを完全に無視した議論であり,「事業」を課税客体とす
る応益税としての現行事業税は,原則として営業収益に課される大正15年当時の
地方税である営業税や,この営業税を改組してすべて営業収益を課税標準とした昭
和15年の国税である営業税とは,税の性格が基本的に異なるものである。また,
地方税法72条の19が現実にはワークしない規定であるとの一審原告らの主張も
誤りであることは,現に,昭和52年に全国知事会がこの規定を活用して,製造業
を対象とした外形標準課税を導入しようとした経過や,当時の自治省税務局長の国
会答弁から明らかである。その他一審原告らが引用する有識者の意見は,外形標準
課税はすべての業種を対象として「広く薄く」課税すべきものであるとするが,こ
れらの意見は,地方税法72条の19の規定の解釈適用による外形標準課税を論ず
るものではなく,法律改正による立法論としての外形標準課税を主眼として述べる
もので,筋違いの議論である。
イ 地方税法72条の19の「事業の情況に応じ」は,文字どおり読めば,「事業
のそのときの情況,状態,有様に応じて」としか読めず,例外4業種について例外
的取扱いをするに至った事情ないしはこれに準ずる事情があることを要件としてい
ないのであるから,その文理からは,原判決のような限定的な解釈をすることはで
きない。原判決がいうような限定的な解釈は,本件訴訟が提起された後に初めて言
い出された極めて特異な見解である。また,原判決がいうように,法人事業税が応
能課税であるとすると,応益課税の考え方を採っていることが明らかな例外4業種
についての説明と矛盾するし,例外4業種については,「所得」が担税力の指標と
して機能していないというのであれば,同じ応能課税である所得税についても,
「所得」は担税力の指標として適切でないということになりかねない。
 そもそも,事業税の課税客体は「事業」であり,課税標準もこの課税客体を数量
化したものであるから,事業税の課税標準としての「所得」は,事業の規模又は活
動量を表す指標であることになり,法人税等の課税標準である「所得」とは明らか
に意味が異なっている。事業税の課税標準を規定する地方税法72条1項は,「所
得及び清算所得又は収入金額」と並列的に規定するだけで,「所得」が原則で「収
入金額」が例外であるとは規定していないのである。
 確かに,地方税法72条の12は,大半の業種の課税標準を「所得」と規定して
いる。しかし,地方税法72条の19が例外4業種について「収入金額」という外
形標準課税標準を採用しているのは,「所得」を課税標準とすると,その事業の規
模又は活動量が大きいにもかかわらず,事業税額が本来負担すべき税額よりも少額
となり,事業税の応益的性格が反映できなくなるためである。例外4業種以外の業
種について,「所得」を事業税の課税標準としたのは,事業税の応益的性格を認め
つつも,昭和29年等立法当時の経済情勢に配慮しただけのものである。事業税の
課税客体と課税標準の関係や,事業活動と都道府県の提供する行政サービスの応益
関係に着目すれば,事業税の課税標準は,事業の規模や活動量を最も適切に表すも
のであることが望ましく,本来的には,所得よりも,例外4業種に適用されている
ように,外形的なものとすることが適当である。したがって,地方税法の事業税の
関連諸規定を総合して体系的に解釈すれば,地方税法72条の19の存在意義は,
「事業の情況」によって,所得を課税標準とすることが相応しくない不都合・不合
理な情況がある場合に,同条の規定を用いて外形標準課税を行うことができるとす
るところにあり,「事業の情況に応じ」は,「所得」を課税標準として課税すると
不公平な結果となる事情を広く含む概念ということになる。
ウ 地方税72条の19は,要件自体が不確定概念で,発動のための具体的適用要
件が定められていないのであるから,地方公共団体が条例によりその具体的な定め
をすることについて,一定の立法裁量を与えたものと解するほかはない。そして,
その立法裁量を行使するに当たっては,事業税の性格である「応益原則」や法の一
般原則である「公平原則」に照らして,適法性,妥当性を判断すべきことになる。
前者からは,課税標準が事業の規模や活動量を適切に反映するものであることが求
められるし,後者からは,同一規模の事業を行っている他の業種と比較して税負担
が著しく低くならないようにすることが求められる。
 旧自治省の公式見解における地方税法72条の19の「事業の情況に応じ」の解
釈は,「①相当規模の事業活動を行っているにもかかわらず,その事業の規模に比
して税負担が著しく低いことが常態であるため一定期間の所得を課税標準として
は,受益の程度に応ずる負担を求めることが困難な情況にある場合,②所得を課税
標準としているため同一規模の事業を行っている異種の事業の間に税負担の不均衡
が生じている情況にある場合」の例示のいずれかに該当する場合には,一定の業種
の法人に限定して外形標準課税を導入することができるものとしている(乙1の4
7の1)。また,本件条例の構想が公表された直後の平成12年2月24日の衆議
院地方行政委員会で示された内閣法制局の見解(以下「内閣法制局見解」という。
乙6の31)における「事業の情況に応じ」の解釈は,「①基本的には,所得を課
税標準としてとっていたのでは事業税の負担がその受益の程度に比して相当に低い
ということが常態化しているような業種」,②「非常に景気感応性が高くて毎年の
事業税の納付額が大きく極端に動くというふうなことで,地方公共団体の安定的な
サービスの提供に障害があるもの」のいずれかに該当すると判断される場合を指す
とするもので,この場合には,当該業種について地方税法72条の19を適用し
て,外形標準課税を導入することができるとしている。「事業の情況に応じ」の解
釈は,基本的にこの2つの見解によるべきであると考えられる。
エ 銀行業等においては,いわゆるバブル経済期よりも大きな業務粗利益を上げ,
事業活動も活発に行われ,それに応じた行税サービスの受益があるにもかかわら
ず,不良債権処理に係る損失が多額に及ぶため,最終的には所得が極端に減少する
情況にあるから,事業の活動量に比して事業税負担が著しく低いことが常態化し,
一定期間の所得を課税標準としたのでは,行税サービスの受益の程度に応ずる事業
税負担を求めることが困難な情況にある。税収動向も極めて不安定であり,今後
も,相当の事業年度にわたって不良債権処理を行わなければならないため,所得の
発生が見込まれず,「所得」を課税標準とした事業税であれば,事業活動に見合っ
た負担をほとんど期待できない。こうした情況は,銀行業等の事業構造によるもの
であり,しかも,銀行業等のみに認められるものであって,他の業種との間で税負
担の不均衡が生じている。つまり,「所得」を課税標準としたのでは,税負担の公
平性・安定性が確保できず,応益税とされる事業税の機能を維持できないこととな
っていた。東京都における銀行業等のこのような情況は,具体的には,旧自治省の
公式見解や内閣法制局見解によれば,地方税法72条の19の「事業の情況に応
じ」外形標準課税を導入できる場合に該当することは明らかであり,税負担の公平
性・安定性を確保するために,本件条例により外形標準課税が導入されたのであ
る。
 銀行業等がバブル経済期よりも大きな業務粗利益を上げながら,法人事業税をほ
とんど負担していない事態は,バブル経済とその崩壊後におけるわが国の金融政策
とその下における銀行業等の経営実態等を反映したもので,決して,原判決がいう
ような一時的な景気状況や個々の銀行の経営手段の相違によってもたらされたもの
ではない。銀行業等がバブル経済期よりも大きな「業務粗利益」を上げていること
は,政府の低金利政策と深く結びついており,わが国金融における制度的・構造的
問題に係わっている。
 以上のとおり,本件外形標準課税は,地方税法72条の19の「事業の情況に応
じ」を適切に適用したものであって,原判決は,同条の誤った解釈適用により,本
件外形標準課税の適法性について誤った結論を出している。
(8) 課税標準としての「業務粗利益」について
ア 地方税法72条の19を適用して外形標準課税を行う場合には,課税標準とし
ての「所得」が事業の規模又は活動量を表す指標としての課税標準として不適切で
あるということが出発点である。銀行業等とそれ以外の業種を比較する際に,どの
ような指標を用いるのが適切であるかについては,検討の余地がある。同条が規定
する「売上金額」は,銀行業等における売上に相当する経常収益に該当すると考え
られるが,その大半を占める資金運用収益は,金利変動の影響を強く受けることか
ら安定性に欠けるので不適当である。売上金額に最も近い外形基準としては,資金
調達費用を差し引いた「業務粗利益」が考えられ,これによれば,貸出金利と借入
金利の双方について金利変動の影響が相殺される結果,比較的安定しており,比較
対照の指標として適当であると考えられる。銀行業等以外の業種における「売上総
利益」は,売上高から売上原価を差し引いたものであり,銀行業等の「業務粗利
益」とそれ以外の業種の「売上総利益」は,いずれも「売上」から「仕入」を差し
引いた「粗利」であるから,銀行業等における業務粗利益は,その他の業務におけ
る売上総利益に相当するもので,相互に比較可能な概念といえる。この比較対照は
あくまで事業の規模又は活動量を比較するという土俵におけるものであり,「業務
粗利益」と「売上総利益」が法律学上,会計学上厳密な意味で同じものであって違
いがないといっているわけではない。
 なお,加算型の付加価値が事業税の外形基準として相応しいことは確かではある
が,銀行の付加価値については明確な定義が定まっていない。一般に付加価値は,
「支払利子-受取利子」として計算されるのが基本といわれているが,銀行におけ
る支払利子は,預金者に対するものであるので,企業への貸付利子である受取利子
より少なく,付加価値がマイナスとして計算されてしまうことから,銀行業等にそ
のままこれを適用することはできない。
イ 「業務粗利益」は,当初は銀行に対する監督当局による監督目的から導入され
たものであるが,その後,銀行法施行規則19条の2等に規定されるデイスクロー
ジャーの開示項目とされたのであって,「業務粗利益」は,単に監督目的にとどま
らず,投資家だけではなく,広く一般の利用者等を保護するために,対外的な公表
が義務付けられた指標であり,あたかも,証券取引法の適用のある限られた大会社
の損益計算書に記載を求められている「売上総利益」と同様の重要性を有する指標
と考えられる。そして,「業務粗利益」は,銀行業等の固有業務をはじめとするほ
とんどの業務から生じた収益を示す指標であり,銀行業等の業務活動の成果をほと
んど網羅している。全国銀行協会の「ドクター・ビッグバンのよくわかる銀行のデ
イスクロージャー」(乙7の15)でも,一般事業会社の損益計算書と銀行の損益
計算書は基本的に同じで,「売上総利益」と「業務粗利益」とを同じ概念として認
識している。このほか,個別の銀行や信用金庫等のデイスクロージャー誌やホーム
ページ等(乙7の43ないし47)でも,「業務粗利益」が「売上総利益」に相当
するとか,「業務粗利益」が銀行の本来業務に係る収益性を示すものである等の説
明がされている。
ウ 「業務粗利益」は,「売上総利益」と同様に,貸倒損失を控除する前の数値で
あるし,本件外形標準課税における「業務粗利益」は,銀行業等における「事業」
を数量化したものであるから,当然に貸倒損失を控除すべきということにはならな
い。過去の貸付の失敗から発生した貸倒損失は,銀行の収益を生み出すための資本
である「貸付元本」としての貸付金が侵食ないし毀損されたのであって,銀行の現
在の事業の規模又は活動量とは何ら関連性を有しないし,会計上も貸出金利息に直
接対応する費用ではあり得ない。貸倒れは,損益計算書上貸倒引当金繰入額又は貸
出金償却として「営業経費」のうち「その他の経常費用」に計上されるだけで,会
計上「売上」の減少とは評価されないし,所得税法上,貸倒引当金は売上原価とは
別に引当金として必要経費に参入され(同法52条),法人税法上も,貸倒引当金
は売上原価とは別に引当金として損金に算入されることになっているから(同法5
2条),貸倒れは,会計上も税法上も「売上原価」を構成しない。また,貸倒引当
金の計上に当たっては,例えば,不良債権の債務者区分の認定(「破綻懸念先」
等)において,銀行の恣意が入らざるを得ない。いずれにせよ,貸倒による元本の
毀損分を,外形標準課税の課税標準から控除することは相当でない。
エ 以上のとおりであるので,「業務粗利益」は,地方税72条の19の規定によ
る外形基準として適当である。
(9) 地方税法72条の22第9項の均衡要件について
ア 地方税法72条の22第9項の均衡要件の解釈に関する旧自治省の公式見解
は,外形標準課税採用の趣旨の一つに「安定的な税収の確保」があり,単年度の税
収による判断では,単発的偶発的な事情等による税収の変動の影響を受ける可能性
があって適当ではなく,相当期間における税収の平均値等を参考にすることが適切
妥当であるので,当該業種の一定期間における所得課税を行った場合の事業税収入
と外形標準課税を行った場合の事業税収入とが著しく異ならないような水準とする
ことが適当であるというものである。また,内閣法制局見解でも,外形標準課税に
よって増加する税負担の均衡については,当該外形標準課税を導入する年とか,そ
の後2,3年とかいう短い期間ではなくて,中長期的に見て税負担の均衡が図られ
るかという問題であるし,また,外形標準課税を導入することとした目的等の事情
も考慮すべきであるというものである。一審被告東京都が本件条例の税率を決定す
る際に,バブル経済期前,バブル経済期,バブル経済期後の15年間(昭和59年
度から平成10年度まで)の税収実績を勘案し,所得課税との均衡が図られること
を確認したことは,以上の旧自治省の公式見解や内閣法制局見解に沿ったものであ
る。そして,上記(3)イで述べたとおり,本件条例に基づく申告納税の初年度で
ある平成13年度の銀行業等の納税額は1029億円で,同年度の事業税納税額総
額1兆0709億円の9.6%であるところ,この割合は,昭和59年度から平成
10年度までの15年間における事業税納税総額に対する主要銀行の納税額の割合
である9.8%の範囲内に入っており(乙3の104),銀行業等と全業種との対
比における納税割合の不均衡は,本件条例によって是正され適正に均衡が回復され
たと評価すべきである。
イ 一審原告らは,平成13事業年度に係る法人事業税負担が所得基準(旧基準)
による事業税額と比較して約3652倍にも相当するから(甲257),不均衡が
著しい旨主張するが,比較の対象となっている一審原告らの平成13事業年度に係
る所得基準(旧基準)による事業税額はわずか2477万2700円であり,しか
もその内訳は,一審原告ら17行中実に16行が事業税額がゼロとなるため,残る
1行の地方銀行(八十二銀行)の事業税額に相当する。このようなゼロに近い数値
を分母にとれば,倍率が無限大に近い数値になることは当然であり,この3652
倍という倍率は何ら意味がない。むしろ,3652分の1に近い負担で済むのは,
莫大な貸倒損失を所得から控除しているからであり,このような事態は多くの業種
中銀行業等にしか生じていない。上記の倍率は,所得基準(旧基準)によると,銀
行業等の事業税負担が一審被告東京都の行政サービスの受益の大きさに見合うもの
でないことを如実に示しているともいえるのである。
ウ また,一審原告らは,地方税法72条の22第8項が事業税の制限税率を標準
税率の1.1倍と低く設定していることから,同条9項の税負担の均衡について
も,この上限を超えることが許されないかのように主張するが,同条8項中に掲げ
られる条項には,同条9項は含まれていないから,同条8項の適用を受けないこと
は明らかである。さらに,一審原告らは,本件条例の適用により,他の道府県の税
収額が年間210億円,5年間で1050億円も減少すると主張するが,一審原告
らが上記イの主張の根拠とする甲257号証によれば,一審原告らの平成13事業
年度に係る所得基準(旧基準)による事業税額は,実に16行でゼロであり,残り
1行についてもわずかに2477万2700円であるので,他道府県の税収に年間
210億円もの減収が生ずるはずはないし,法人事業税,法人道府県民税・法人市
町村民税及び法人税の実行税率,東京都と他道府県の分割割合を考慮すると,平成
13事業年度における本件条例の影響により生ずる他道府県の減収額は,精々22
00万円程度であり,今後も銀行業等の各事業年度の所得が発生しないことが見込
まれることから,一審原告らが主張するような大幅な減収額が生ずるはずがない。
エ 一審原告らが他の付加価値基準によった場合の納税分と主張するところも,銀
行業にもかかわらず一般事業会社と同じ「支払利子」のみの計算方法をとり,「支
払利子-受取利子」として付加価値を計算しているが,銀行の支払利子は,預金者
への支払利子であるため,企業への貸付利子である受取利子より少ないため,実際
に利ざやが出ているにもかかわらず,付加価値の計算ではマイナスとなるという不
適切な計算となっており,このことだけからも上記主張は不適切である。
(10) 国家賠償請求について
 本件条例は,憲法や地方税法72条の19等の法律の規定に抵触するものではな
いから,本件条例制定行為は,国家賠償法1条1項の「違法性」を有しない。ま
た,本件条例の制定過程において,一審被告東京都の主税局長らが採っていた解釈
は,当時における通説的なものであり,原判決が指摘するような調査義務や情報伝
達義務が生じることはないし,事業税が応益原則に立脚するものであり,地方税法
72条の19は,所得が事業の規模又は活動量を適切に表さない状況が存する場合
に適用されるべき規定であることは,立案当時の見解・実務の扱いからすれば明ら
かであった。さらに,一審被告東京都の担当者や一審被告東京都知事が本件条例の
構想公表後各界から出された慎重論を無視したとの点も,このことにより直ちに
「故意・過失」が認められるわけではないし,閣議口頭了解や当時の自治大臣の発
言も決して本件条例が違法であるとまで明言しているわけではない。銀行業が十分
な収益を得て巨額の配当をしているとの説明についても,多額の金員を配当する能
力があることは客観的な事実であるので,こうした説明をしたことに「過失」があ
るとはいえない。

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