弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○主文
一原告の請求を棄却する。
二訴訟費用は原告の負担とする。
○事実
第一当事者の求めた裁判
一請求の趣旨
1被告が、原告の昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日まで、同年四月一日から
同五九年三月三一日まで及び同年四月一日から同六〇年三月三一日までの各事業年度の法
人税につき、同年一二月二五日付をもつてした各更正及び過少申告加算税の各賦課決定を
取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
二請求の趣旨に対する答弁
主文第一、二項と同旨。
第二当事者の主張
一請求原因
1原告は、紡績、織物及び染色整理の共同開発、共同受注を目的とする中小企業協同組
合法に基づいて設立された協同組合である。
2原告は、昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日まで、同年四月一日から同五九
年三月三一日まで及び同年四月一日から同六〇年三月三一日までの各事業年度(以下、そ
れぞれ「昭和五八年三月期「昭和五九年三月期」及び「昭和六〇年三月期」といい、」、

れらを総称して「係争年度」という)の法人税について、別表一の「確定申告」欄記載。

とおり、被告に確定申告(青色)をしたところ、被告は、昭和六〇年一二月二五日付で同
表の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分(以下「本件更正処分」という)及び過少。

告加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と本件賦課
決定処分とを合わせて「本件処分」という)をし、同月二六日にその通知書を原告に送。

した。
3そこで、原告は、昭和六一年二月二四日、本件処分につき被告に対して異議申立をし
たところ、被告は同年五月二一日付でこれを棄却する旨の決定をし、同月二二日にその決
定謄本を原告に送達した。原告は、更に、昭和六一年六月二三日、本件処分につき、国税
不服審判所長に審査請求をしたが、国税不服審判所長は、昭和六二年五月一二日付でこれ
を棄却する旨の裁決をし、その裁決書謄本は同月一四日ころ原告に送達された。
4しかし、本件処分は以下の理由で違法であるから、その取り消しを求める。
(一)原告が、その雇用する訴外Aに対し、昭和五八年三月期七一万六〇〇〇円、同五
九年三月期七二万七〇〇〇円及び同六〇年三月期七九万八〇〇〇円の各賞与(以下「本件
賞与」という)をそれぞれ支給し、。
それぞれ係争年度の各損金の額に算入して確定申告したのに対して、被告は、Aは原告の
定款に定めた専務理事であり、法人税法施行令(以下「施行令」という)七一条一項一。

の規定により、使用人兼務役員にはならず、本件賞与は法人税法(以下「法」という)。

五条一項及び四項の規定による役員賞与であるので損金に算入できないとして、これを係
争年度の各所得金額に加算して本件処分を行なつた。
(二)しかしながら、法三五条五項を受けた同法施行令七一条一項一号にいうところの
「専務理事」とは、その業務内容、地位等から実質的に解釈すべきである。即ち、その者
が名義上のみの専務理事であつて業務内容からみると実質上は使用人であること、その者
に支給された給与は支払時期の点で他の使用人と同一時期で金額も使用人に比準している
こと、その者は専務理事として行動したり通常専務理事の担当すると考えられる事務を処
理したりしたこともないこと、その者に支給された給料、賞与は使用人としての給与とし
て支払われていること、役員としての業務は別の者が専ら行なつていたこと等が認められ
る場合は、当該専務理事は施行令や定款が予定しているような専務理事に該当するものと
は認められず、施行令七一条一項一号の適用はないと解すべきである。
(三)原告組合の定款上は一応専務理事の選任が定められている(本定款は中小企業協
同組合のモデル定款をほぼそのまま踏襲したものであつて、原告組合が専務理事を特に必
要としたものではなかつた。専務理事は定款上、代表権を有していない)が、初代の専。

理事Bは無報酬で、二代目のCは丸進工業株式会社営業部長を兼務のまま被告組合に出向
していた者である。
同人に対する給与は出向時間等を考慮して一七六万円前後でそれを一般会計が負担してい
たが、同人に原告組合が直接支給したのではなく右会社の好意に報いる補償として同社に
支払つたのである。
「」、、「」同人は一般部門の業務を担当したがその地位職務内容は本来の意味の専務理事
のそれといつたものではなく、せいぜい「事務局長」程度に過ぎなかつた。
その後、原告組合の事業運営の実情から庶務関係に格別の人材が必要でなくなり、Cは昭
和五五年一二月末日をもつて退任し、翌年一月からはAが一応「専務理事」の肩書で一般
部門の庶務関係(とはいつても軽度の事務処理に過ぎない。
)の仕事に当たることとなつた。Aは、昭和五五年一〇月、原告組合に採用され「事業、
部」
、、「」、の倉庫工場課長を勤めていて今日まで一貫して専ら事業部の業務を担当していて
「」()、その本務のかたわらその合間に一般部門の庶務雑務を取り扱つていたものであり
昭和六〇年一〇月本件の問題が生じて専務理事の肩書がなくなつたあとも「事業部」の課
長職にあつて、常時原告組合の使用人として職務に従事しているものである。もとより同
人は定款が予定し、あるいは通常の協同組合の専務理事が執行する業務は一切行なつたこ
とはなく、組合の運営、企画、対外折衝の重要事項は全て理事長Dが専任するところであ
つた(一般部門を統括していたのも理事長である。Aに対し「事業部」から従業員給。)、

として昭和五八年三月期ないし六〇年三月期には年額三〇〇万円前後月給の形態で定期に
支給されている。そして、このほか賞与として右各期に本件賞与も支給されたのであつて
支給額は夏季及び年末賞与とも月額給与の二箇月分に相当するものである。それらは使用
人としての雇用契約に基づいて給与の昇給率及び賞与の支給を「事業部」の使用人に比準
して、他の使用人と同様に毎月の給与と年二回の使用人に対する賞与として支給されたも
。、、。のであるAに対し理事としての報酬賞与が現実に支給されることは一度もなかつた
地上のようなAの選任の経緯、業務内容、給与の実態等からみてAの実際の地位は使用人
にすぎず、施行令七一条一項一号の専務理事には該当しない。
(四)したがつて、本件賞与は損金に算入されるべきものである。
二請求原因に対する認否
1請求原因1ないし3の各事実は認める。
2同4について
本件処分が違法であるとの主張は争う。
(一)請求原因4(一)の事実は認める。
(二)同(二)は争う。
(三)同(三)の各事実中、Aが専務理事としての業務運営に全く関与しておらず、専
ら理事長Dが行なつていたとの点は否認し、その余は知らない。
(四)同(四)は争う。
三被告の主張
1原告の係争年度の所得金額等の内訳及び本件処分の経過は別紙二記載のとおりであ
る。
2本件処分は、以下のとおり違法である。
(一)原告組合の定款二七条は「1)理事のうち一人を理事長、一人を専務理事と、(

て、理事会において選任する。
()、、、2専務理事は理事長を補佐して本組合の業務を執行し理事長に事故のあるときは
、。」、、その職務を代理し理事長が欠員のときはその職務を行う旨定めているところAは
係争年度において、右定款上の専務理事であつた。
(二)税務執行の斉一性の確保、納税者の税負担の公平の保障等の要請からして、使用
人兼務役員とされない役員の範囲は当該役員の職務の実質的内容によつて画するのではな
く、法人の内部規程等に基づいてその地位が付与されたかどうかという明確性のある形式
的基準によつて判定すべきである。したがつて、形式的にせよ、Aが前記定款上の専務理
事であつた以上、実際の職務内容のいかんを問わず施行令七一条一項一号の「専務理事」
に該当する。
(三)よつて、法三五条一項、五項、施行令七一条一項一号により、本件賞与を損金に
算入することは許されない。
四被告の主張に対する認否
1被告の主張1の事実は認める。
2同2につき、本件処分が適法であるとの点は争う。
(一)同(一)の事実につき、当該定款の規程があること、Aが形式的には同定款上の
専務理事に就任していたことは認める。
(二)同(二)及び(三)は争う。
第三証拠関係(省略)
○理由
一請求原因1ないし3及び被告の主張1については、当事者間に争いがない。
二そこで、本件賞与を損金に算入することが許されるかどうかについて検討する。
1施行令七一条一項一号の「専務理事」の意義について
法二条一五号は、法人税法上の「役員」として、法人の取締役、監査役、理事、監事及び
清算人をなんらの限定なしに列挙する一方、それ以外の者については実際に法人の経営に
従事していること(実質的基準)を要求している。これは、取締役等については、本来法
人の経営に参画すべきであるという職制上の地位に鑑み、実際に法人の経営に参画してい
るか否かを問わず、形式的基準で役員を定めようとしたものと解することができる。法三
五条は右役員の概念を前提に、役員賞与の損金への不算入の原則(法三五条一項)及び使
用人兼務役員における右原則の例外(同条二項、五項)を規定する一方で、同条五項にお
いて、社長、理事長等、右例外の認められない役員を列挙している。これは、理事長等に
ついては、本来法人の目的たる事業の遂行に専念すべき者であつて、使用人を指揮監督す
る立場にある者として、
使用人としての立場と両立しえない職制上の地位にあるといえるから、仮に使用人として
の職務に属する仕事に従事したとしても、それは役員としての業務執行と認識すべきもの
であり、使用人としての地位を兼ねていると解すべきではないとしたものである。かかる
趣旨からするなら、同条五項の委任を受けて施行令七一条一項一号に規定された「専務理
事」も、右に準ずる職制上の地位を有する者を指すと解すべきであつて、実際の職務内容
いかんにかかわらず、形式的にその地位にあるものはこれに該当すると判断すべきである
(こう解することは、被告も主張するように、税務執行の斉一性の確保という実質的観点
からも是認することができる。。)
2そこで、本件をみると、原告組合の定款二七条が「1)理事のうち一人を理事長、、(
一人を専務理事として、理事会において選任する(2)専務理事は理事長を補佐して、。

組合の業務を執行し、理事長に事故のあつたときは、その職務を代理し、理事長が欠員の
ときはその職務を行う」旨定めていることは当事者間に争いがなく、右規定によれば、。

告組合における専務理事が、右1の基準に合致することも明らかである。そして、Aが、
係争年度において、形式上にせよ右定款上の専務理事の地位にあつたことは当事者間に争
いがないから、その間、Aは、施行令七一条一項一号に規定するところの「専務理事」で
あつたと認めることができる。
3以上によれば、法三五条一項、五項、施行令七一条一項一号により、本件賞与を損金
に算入することは許されないというべきであり、これを前提としてなされた本件処分に違
法な点はないことになる。
三よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することにし、訴訟費用について行
政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官梶本俊明三島昱夫登石郁朗)
別表一、二(省略)

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