弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成24年4月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第25324号損害賠償請求事件(以下「第1事件」という。)
平成22年(ワ)第30940号業務委託料等請求事件(以下「第2事件」とい
う。)
口頭弁論終結日平成24年2月8日
判決
東京都千代田区<以下略>
第1事件原告・第2事件被告株式会社ヒューマントラスト
東京都渋谷区<以下略>
第2事件被告X1
同所
第2事件被告X2
上記3名訴訟代理人弁護士的場徹
山田庸一
服部真尚
大塚裕介
川口綾子
同訴訟復代理人弁護士小杉健太郎
東京都渋谷区<以下略>
第1事件被告・第2事件原告株式会社マーキュリー
兵庫県伊丹市<以下略>
第1事件被告Y1
大阪市<以下略>
第1事件被告Y2
堺市<以下略>
第1事件被告Y3
大阪市<以下略>
第1事件被告Y4
神戸市<以下略>
第1事件被告Y5
大阪市<以下略>
第1事件被告Y6
上記7名訴訟代理人弁護士田島正広
森居秀彰
同訴訟復代理人弁護士和泉玲子
同第1事件訴訟復代理人・第2事件訴訟代理人弁護士
中村章吾
主文
1第2事件被告株式会社ヒューマントラストは,第2事件原告株式会社マ
ーキュリーに対し,1946万8170円及びこれに対する平成21年8
月1日から同月29日まで年6分,同月30日から支払済みまで年1割4
分6厘の各割合による金員を支払え。
2第2事件原告株式会社マーキュリーのその余の請求をいずれも棄却する。
3第1事件原告株式会社ヒューマントラストの請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,第1事件原告・第2事件被告株式会社ヒューマントラスト
と第1事件被告・第2事件原告株式会社マーキュリー,第1事件被告Y1,
同Y2,同Y3,同Y4,同Y5及び同Y6との間においては,全部第1
事件原告・第2事件被告株式会社ヒューマントラストの負担とし,第2事
件原告株式会社マーキュリーと第2事件被告X1及び同X2との間におい
ては,全部第2事件原告株式会社マーキュリーの負担とする。
5この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
(第1事件)
第1事件被告株式会社マーキュリー,同Y1,同Y2,同Y3,同Y4,同
Y5及び同Y6は,第1事件原告株式会社ヒューマントラストに対し,連帯し
て4887万3690円及びこれに対する平成21年8月27日から支払済み
まで年5分の割合による金員を支払え。
(第2事件)
1主文第1項と同旨
2第2事件被告X1及び同X2は,第2事件原告株式会社マーキュリーに対し,
連帯して1946万8170円及びこれに対する平成22年9月9日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1(1)第1事件
労働者派遣事業を営む第1事件原告株式会社ヒューマントラストは,第1
事件被告株式会社マーキュリー,同Y1,同Y2,同Y3,同Y4,同Y5
及び同Y6が,共謀の上,平成21年4月27日から同年6月22日にかけ
て,労働者派遣先や請負契約の受注先を同原告から奪い取ることを企図して,
同原告の取引先であった兼松コミュニケーションズ株式会社,株式会社新通
エスピー,日本エイサー株式会社,株式会社第一エージェンシー,株式会社
エヌ・ティ・ティ・アド及びKDDI株式会社の6社ないし同原告の派遣労
働者ら(以下「スタッフ」ともいう。)に対し,競争関係にある同原告の営
業上の信用を害する虚偽の事実を告知した行為(以下「本件不正競争」とい
う。)は,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項14号の不
正競争に当たるとして,上記被告らに対し,同法4条に基づき,連帯して,
損害賠償4887万3690円及びこれに対する平成21年8月27日から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
(2)第2事件
労働者派遣事業を営む第2事件原告株式会社マーキュリーは,①第2事件
被告株式会社ヒューマントラストに対し,両当事者間の平成18年3月31
日付け業務委託基本契約(以下「本件基本契約」という。)及び平成21年
6月1日付け業務委託個別契約(以下「本件個別契約」という。)に基づき,
業務委託料1946万8170円(以下「本件業務委託料」という。)並び
にこれに対する平成21年8月1日から同月29日まで商事法定利率年6分
の割合による遅延損害金及び同月30日から支払済みまで下請代金支払遅延
等防止法(以下「下請法」という。)4条の2に基づく年1割4分6厘の割
合による遅延利息の支払を求めるとともに,②第2事件被告株式会社ヒュー
マントラストの代表取締役である第2事件被告X1及びその夫である同X2
に対し,同被告らが,共同して,本件業務委託料を支払う意思がないのに,
第2事件原告株式会社マーキュリーとの間で本件個別契約を締結した上,何
ら根拠のない損害賠償請求権との相殺を主張して本件業務委託料の支払を不
当に拒絶したのは違法であるとして,民法719条,会社法429条1項に
基づき,連帯して,損害賠償金1946万8170円及びこれに対する平成
22年9月9日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求めている。
2当事者の表記
以下,各当事者を次のとおり略称する。
第1事件原告・第2事件被告株式会社ヒューマントラスト
原告
第1事件被告・第2事件原告株式会社マーキュリー
被告会社
第1事件被告Y1被告Y1
同Y2被告Y2
同Y3被告Y3
同Y4被告Y4
同Y5被告Y5
同Y6被告Y6
第1事件被告Y1,同Y2,同Y3,同Y4,同Y5及び同Y6の6名
被告Y1ら6名
第2事件被告X1第2事件被告X1
同X2第2事件被告X2
第2事件被告X1及び同X2の2名第2事件被告X1ら
3前提事実(証拠等を掲げたもののほかは当事者間に争いがない。)
(1)当事者等
ア原告及び被告会社は,いずれも労働者派遣事業等を目的とする株式会社
であり,大阪府内に支店ないし営業所を設置して,関西地区において営業
を行っている。
原告は,株式会社ヒューマントラストホールディングスの子会社として,
同社を中心に組織されるヒューマントラストグループに所属している。原
告は,平成19年9月頃,株式会社アックス(以下「アックス」という。)
との間で経営統合することを合意し,同月1日,アックスが取り扱うセー
ルスプロモーション(販売促進)業務受託事業を吸収分割によって統合し
た。また,ファーストプロモーション株式会社(以下「ファーストプロモ
ーション」という。)は,原告の子会社で,同社の従業員は,全て原告か
らの出向者又は原告に兼務する従業員により構成されていたが,平成23
年3月31日,原告は同社を吸収合併した。(弁論の全趣旨)
被告会社は,アックスの元従業員であったT(以下「T」という。)が
設立した会社であり,平成19年3月頃からアックスとの間で取引(アッ
クスが受託した業務を再受託する取引)を行っていたが,上記吸収分割に
伴い,同取引は原告に承継された。
イ被告Y1ら6名は,いずれも元原告の従業員であった。
ウ第2事件被告X1は,原告及びファーストプロモーションの代表取締役
である。
エ第2事件被告X2は,ヒューマントラストグループの創業者であり,第
2事件被告X1の夫である。
(2)原告について
原告の平成21年当時における状況は,次のとおりであった。
ア原告の組織
平成21年当時,原告は,資本金9900万円,発行済株式総数433
1株,本店所在地である東京のほか,札幌,仙台,横浜,名古屋,大阪及
び福岡の6支店を有していた。
各支店には,支店長と,支店長が出張,病欠その他の事故によりその権
限を行使できない場合に支店長の職務を代行する支店長代理が置かれてい
た。
イ大阪支店の業務
大阪支店は,関西地区における労働者派遣や業務委託等の業務を扱って
いた。
登録スタッフ(派遣労働者)としては,主に事務系のスタッフ,ワーク
ス(軽作業)のスタッフ,量販店における販売スタッフを有しており,こ
れらのスタッフを派遣し,又は受託した業務に就かせていた。
ウ量販店における販売促進業務の契約状況
量販店における販売促進業務は,①量販店と契約している会社が,原告
からスタッフの派遣を受けて販売促進業務に就かせる形態,②量販店と契
約している会社が,更に原告に業務委託し,原告の管理の下,原告のスタ
ッフが販売促進業務を行う形態,③両者の複合した形態の3つがある。
平成21年当時,原告は,大阪地区において,兼松コミュニケーション
ズ株式会社(以下「兼松」という。),株式会社新通エスピー(以下「新
通エスピー」という。),日本エイサー株式会社(以下「日本エイサー」
という。),株式会社第一エージェンシー(以下「第一エージェンシー」
という。),株式会社エヌ・ティ・ティ・アド(以下「NTTアド」とい
う。)及びKDDI株式会社(以下「KDDI」という。)の6社(以下
「兼松ら6社」という。)と取引を行っており,上記①の形態として兼松,
新通エスピー,第一エージェンシー及びKDDIとの間で,販売促進業務
を行うスタッフを派遣する内容の労働者派遣契約を締結しており,上記②
の形態として日本エイサーとの間で,販売促進業務を行う業務委託契約を
締結していた。
また,同時期,原告の子会社であるファーストプロモーションが,上記
③の形態としてNTTアドとの間で,販売促進業務の業務委託契約を締結
し,同業務を原告からファーストプロモーションに派遣したスタッフによ
り行っていた。
(甲14,甲29の2,乙21,弁論の全趣旨)
(3)被告会社について
平成21年当時,被告会社は,資本金2000万円,発行済株式総数20
00株,同年6月までの大阪営業所における従業員数は10名前後であった。
(乙20,被告代表者T,弁論の全趣旨)
(4)原告と兼松ら6社との取引関係
大阪地区における原告と兼松ら6社との取引関係は,次のとおりであった。
ア兼松
アックスは,平成15年12月1日,兼松との間で労働者派遣基本契約
及びこれに基づく個別契約を締結し,以後,平成19年8月まではアック
スが,同年9月以降はアックスを包括承継した原告が,それぞれ,これら
の契約に基づいて,ヨドバシカメラマルチメディア梅田店(以下「ヨドバ
シカメラ梅田店」という。)における携帯電話販売業務等に労働者を派遣
する取引を行った。
同取引は,平成21年5月31日,個別契約の期間満了によって終了し
(終了時の派遣労働者数4名),それ以降,更新されなかった。(甲1の
1~4,甲14,71,弁論の全趣旨)
イ新通エスピー
アックスは,平成17年2月1日,新通エスピーとの間で労働者派遣基
本契約及びこれに基づく個別契約を締結し,以後,平成19年8月までは
アックスが,同年9月以降はアックスを包括承継した原告が,それぞれ,
これらの契約に基づいて,ヤマダ電機テックランド堺本店等における店頭
販売支援業務等に労働者を派遣する取引を行った。
同取引は,平成21年5月31日,個別契約の期間満了によって終了し
(終了時の派遣労働者数16名),それ以降,更新されなかった。(甲2
の1~23,甲14,71,弁論の全趣旨)
ウ日本エイサー
原告は,平成20年9月30日,日本エイサーとの間で家電量販店にお
けるパソコン販売業務(販売員の手配)の業務委託基本契約及びこれに基
づく個別契約を締結し,以後,これらの契約に基づいて,ヨドバシカメラ
梅田店における日本エイサー製のパソコン販売業務及びこれに付随する業
務を提供する取引を行った。
同取引は,平成21年6月30日,個別契約の期間満了によって終了し
(終了時の派遣労働者数24名。ただし,株式会社博報堂からの再委託に
より従事した派遣労働者を含む。),それ以降,更新されなかった。(甲
3の1,2,甲10,14,71,弁論の全趣旨)
エ第一エージェンシー
原告は,平成21年1月1日,第一エージェンシーとの間で労働者派遣
基本契約及びこれに基づく個別契約を締結し,以後,これらの契約に基づ
いて,ヤマダ電機LABI1なんば店(以下「ヤマダ電機なんば店」とい
う。)等における,西日本電信電話株式会社(以下「NTT西日本」とい
う。)の「フレッツ光」の販売業務等に労働者を派遣する取引を行った。
同取引は,平成21年5月31日,個別契約の期間満了によって終了し
(終了時の派遣労働者数4名),それ以降,更新されなかった。(甲4の
1~5,甲14,71,弁論の全趣旨)
オNTTアド
ファーストプロモーションは,平成21年3月31日,NTTアドとの
間で,NTT西日本の「フレッツ」の販売ブース運営及び販売促進業務(以
下「フレッツブース運営業務」という。)をファーストプロモーションが
請負うことを目的とする基本契約並びにこれに基づく個別契約(契約期
間:平成21年4月1日~同年6月30日)を締結し,原告は,ファース
トプロモーションとの間で労働者派遣契約を締結して,ヨドバシカメラ梅
田店の上記販売ブース等に労働者を派遣する取引を行った。
同取引は,平成21年6月30日,個別契約の期間満了によって終了し
(終了時の派遣労働者数18名),それ以降,更新されなかった。(甲5
の1~3,甲14,71,弁論の全趣旨)
カKDDI
原告は,平成14年2月1日,KDDIとの間で労働者派遣基本契約及
びこれに基づく個別契約を締結し,以後,これらの契約に基づいて,ヨド
バシカメラ梅田店等における販売支援業務に労働者を派遣する取引を行っ
た。
同取引は,平成21年6月30日,個別契約の期間満了によって終了し
(終了時の派遣労働者数10名),それ以降,更新されなかった。(甲6,
7の1~11,甲14,71,弁論の全趣旨)
(5)被告Y1ら6名について
被告Y1ら6名が原告を退職し又は原告から解雇された経緯は,次のとお
りであった。
ア被告Y1
被告Y1は,平成17年4月,アックスに入社し,平成20年8月,原
告に転籍した。同被告は,平成21年4月にファーストプロモーションに
出向し,同年6月末頃,同月27日付けで退職する旨の退職届(甲68)
を原告に提出し(退職時の配属先は,NTT事業推進部であった。),同
年7月1日付けで被告会社に入社した。
原告は,平成21年7月13日付けで同被告を懲戒解雇処分にした。(甲
14,乙4,弁論の全趣旨)。
イ被告Y2
被告Y2は,平成19年8月,原告に入社し,大阪支店セールスサポー
ト事業部に配属になった。同被告は,平成21年6月30日をもって原告
を事実上退職し,同年7月1日付けで被告会社に入社した。
原告は,平成21年7月13日付けで同被告を懲戒解雇処分にした。(甲
14,乙5,弁論の全趣旨)
ウ被告Y3
被告Y3は,平成15年11月,アックスに入社し,平成19年7月,
原告に出向し,平成20年8月には原告に転籍した。同被告は,平成21
年5月31日付けで原告を退職し(退職時の肩書は,大阪支店セールスサ
ポート事業部マネージャーであった。),同年6月1日付けで被告会社に
入社し,同被告の大阪支店支店長に就任した。(甲14,弁論の全趣旨)
エ被告Y4
被告Y4は,平成18年10月,アックスに入社し,平成20年8月に
原告に転籍した。同被告は,平成21年6月末頃,同月28日付けで退職
する旨の退職届(甲67)を原告に提出し(退職時の肩書は,西日本統括
支店セールスサポートグループマネージャーであった。),同年7月1日
付けで被告会社に入社した。
原告は,平成21年7月13日付けで同被告を懲戒解雇処分にした。(甲
14,乙6,弁論の全趣旨)
オ被告Y5
被告Y5は,平成20年8月,アックスから原告に転籍し,平成21年
6月15日付けで原告を退職し,同月16日付けで被告会社に入社した。
(甲14,弁論の全趣旨)
カ被告Y6
被告Y6は,平成15年7月,アックスに入社し,平成20年8月,原
告に転籍した。同被告は,平成20年8月から平成21年3月まで,西日
本支店統括部大阪支店支店長を務めたが,同年4月,西日本支店統括部大
阪支店支店長代理に降格した。
原告は,平成21年7月15日付けで同被告を懲戒解雇処分にした。(甲
14,乙9,弁論の全趣旨)
(6)本件業務委託料の発生
ア被告会社とアックスは,平成18年3月31日,アックスが被告会社に
業務を委託する場合には,その都度個別契約を別に締結するものとし,そ
の対価として,アックスは被告会社に対し,個別契約で定める業務委託料
を支払う旨の業務委託基本契約(本件基本契約。乙24)を締結した。
イ原告は,平成19年9月1日,アックスとの経営統合により,本件基本
契約をアックスから包括承継した。(弁論の全趣旨)
ウ被告会社と原告は,平成21年6月1日,本件基本契約に基づき,販売
業務に関する下記内容の業務委託個別契約(本件個別契約)を締結した。
(弁論の全趣旨)

(ア)委託内容
原告がイー・モバイルから受託する携帯電話の販売促進業務の再受託
(具体的には,被告会社が雇用する販売員約40名を,同被告の指揮命
令の下,販売店におけるイー・モバイルの携帯電話販売業務に従事させ
ることを内容とする。)
(イ)業務期間
平成21年6月1日から30日
(ウ)業務委託料
1946万8170円
(エ)弁済期
平成21年7月31日
エ被告会社は,本件個別契約に基づく委託業務を履行した。
(7)原告による本件業務委託料の支払債務と本件不正競争に基づく損害賠償請
求権との相殺
原告は,平成21年8月11日,被告会社に対し,本件不正競争に基づく
損害賠償請求権をもって,本件業務委託料の支払債務と対当額で相殺すると
の意思表示をした(乙8,弁論の全趣旨。以下「本件相殺」という。)。
4争点
(第1事件)
(1)不正競争の成否(争点①)
(2)損害の発生及び額(争点②)
(第2事件)
(3)本件相殺の効力(争点③)
(4)第2事件被告X1らの責任(争点④)
5争点に関する当事者の主張
(第1事件)
(1)争点①(不正競争の成否)について
〔原告の主張〕
被告Y1ら6名は,原告の従業員でありながら,原告と競業関係にあった
被告会社と共謀の上,その指図のままに後記ア~カのとおり,原告の取引先
である労働者派遣先企業(兼松ら6社)や派遣労働者らに対し原告の営業上
の信用を害する虚偽の事実を告知して(本件不正競争),取引関係を原告か
ら被告会社に切り替えさせた。
本件不正競争は,被告会社が,被告Y1ら6名を動員して敢行した高度に
組織化され計画的に企てられた行為であり,被告会社と被告Y1ら6名との
間には共謀関係が認められる。
Tは,率先して後記アの本件告知1-1を行い,マニュアル化した虚偽事
実を被告Y1ら6名に示して本件不正競争を指揮したものであり,被告Y3
は,平成21年6月1日にいち早く被告会社に入社して,同社の大阪支店長
という立場で本件不正競争を指揮し,自身も実際に行っていたものである。し
たがって,両名は被告会社の機関として不正競争行為を行ったものといえ,
被告会社は,民法715条,会社法350条の類推適用により,不競法4条
に定める損害賠償責任を負う。
ア兼松に対する虚偽事実の告知
Tは,平成21年5月19日,兼松の東京本社を訪問して,営業担当の
A(以下「A」という。)に対し,「原告とアックスは経営統合し,母体
としては大きくなったものの,経営者の放漫な経営や昨今の景気低迷によ
り経営状況が良くないようです。特にセールスプロモーションをやってい
る部門においては,旧アックスの従業員がやっており,原告の経営者から
は虐げられているようです。」,「原告としては,このような状況である
ことからセールスプロモーション部門を切り離し,事務派遣等に専念し経
営を行っていくこととなっているようです。」,「そこで,セールスプロ
モーション部門においては,現在勤務中のスタッフを被告会社へ転籍させ,
同被告が営業活動していくことで原告と調整が済んでいる。」,「したがっ
て,取り急ぎ大阪の兼松にご挨拶に伺いたい。」旨の事実を告知した(以
下「本件告知1-1」という。)。
また,被告Y3及び同Y5は,同月29日,兼松の大阪支社を訪問し,
第二営業本部通信ネットワーク推進部主任B(以下「B主任」という。)
に対し,「原告の大阪支店では,今後,セールスプロモーション業務に関
する派遣業務及び請負業務は縮小していく傾向にある。」,「しかしながら,
現在いるスタッフについては,兼松,店舗へご迷惑をお掛けすることがで
きないので,被告会社に勤務中のスタッフを移籍させたい。」旨の事実を
告知した(以下「本件告知1-2」という。)。
被告Y3及び同Y5は,同日,共に休暇を取って,頻繁に連絡を取り合
っており(甲21,22),このことは,同人らが共謀して不正競争を行
っていたことと整合する。なお,被告Y3及び同Y5は,共に原告の従業員
であったが,被告Y3は,同日,B主任に対し,被告会社大阪支店長の肩
書が記載された名刺を渡して挨拶した。
しかし,平成21年5月当時,原告において業務を縮小するというよう
な話は一切なく,原告と被告会社との間でスタッフを転籍させるという話
がなされたこともなく,本件告知1-1,1-2の内容はいずれも虚偽で
あった。
イ新通エスピーに対する虚偽事実の告知
被告Y3は,平成21年6月1日,新通エスピーを訪問し,同社の契約
担当であるC(以下「C」という。)に対し,「原告から派遣しているス
タッフが被告会社に転籍する。新通エスピーの営業担当者には話をしたの
で,被告会社との間で労働者派遣契約を締結してもらいたい。」旨の事実
を告知した(以下「本件告知2-1」という。)。
これに対し,Cは,移籍先の被告会社の話だけでは契約ができない旨伝
えたところ,被告Y3は,翌日に改めて原告と被告会社の2社で訪問した
いと要望した。
これを受けて,被告Y3及び同Y6は,同月2日,新通エスピーを訪問
して,Cに対し,「原告の大阪支店では,今後,セールスプロモーション
業務に関する派遣業務及び請負業務は縮小していく傾向にある。被告Y3
自身はそのため退職した。」,「しかしながら,現在いるスタッフについて
は,店舗へご迷惑をお掛けすることができないので,原告は被告会社へ勤
務中のスタッフを移籍させたいと考えている。」旨の事実を告知した(以
下「本件告知2-2」という。)。
しかし,平成21年6月当時,原告において業務を縮小するというよう
な話は一切なく,原告と被告会社との間でスタッフを転籍させるという話
がなされたこともなく,本件告知2-1,2-2の内容は虚偽であった。
ウ日本エイサーに対する虚偽事実の告知
被告Y4は,平成21年5月13日,原告の福岡支店において,日本エ
イサー事業支援部マーケティング部チャネルマーケティング課のD(以下
「D」という。)と面談し,「原告は,今後,日本エイサーの業務ボリュ
ームに応じられず,対応しきれない。」,「原告は業務撤退し,この業務を
被告会社にスライドする。」,「原告と被告会社とは円満な関係である。」,
「このことは,被告Y4の上司である被告Y3も了解済みの事案である。」
旨の事実を告知した(以下「本件告知3-1」という。)。
また,被告Y3は,同年6月18日,Dの紹介により日本エイサーマネ
ージャーのE(以下「Eマネージャー」という。)と面談し,日本エイサ
ーと原告との間の契約を,原告から被告会社に移行する手続を取る旨説明
した(以下「本件告知3-2」という。)。
しかし,平成21年5月及び6月当時,原告において業務撤退するとい
うような話は一切なく,原告から被告会社に業務を移行させるという話が
なされたこともなく,本件告知3-1,3-2の内容は虚偽であった。
エ第一エージェンシーに対する虚偽事実の告知
被告Y3及び同Y2は,平成21年4月27日,第一エージェンシーの
派遣窓口担当者であるF(大阪支局営業部第2グループ所属。以下「F」
という。)に対し,「原告は事業撤退するため,被告会社との間で,原告
のスタッフが被告会社へ円満な転籍をすることで話がついている。」,「こ
の転籍については,(ヤマダ電機なんば店における販売業務を第一エージ
ェンシーに発注している)NTTアドも了解している。」旨の事実を告知
した(以下「本件告知4-1」という。)。
また,被告Y2は,同年5月25日頃,原告から第一エージェンシーに
派遣されていた派遣労働者5名に対し,「同年6月以降,現在の第一エー
ジェンシーの仕事は,被告会社がやるので,そのまま同じ仕事を続けたい
のであれば,被告会社と雇用契約を締結するように。」という旨の事実を
告知し(以下「本件告知4-2」という。),上記派遣労働者5名全員を,
同年6月1日をもって原告から被告会社に転籍させた。
しかし,平成21年4月及び5月当時,原告において事業撤退するとい
うような話は一切なく,原告と被告会社との間で派遣労働者を転籍させる
という話がなされたこともなく,本件告知4-1,4-2の内容は虚偽で
あった。
オNTTアドに対する虚偽事実の告知
被告Y1は,平成21年6月19日,原告大阪支店支店長代理の被告Y
6を伴って,NTTアドを訪問し,同社西日本営業本部企画制作部担当課
長G(以下「G課長」という。)に対し,「自分は原告を退職するつもり
である。」,「現在原告からファーストプロモーションに派遣しているス
タッフも,自分に同調して原告を退職する。」旨の事実を告知した(以下
「本件告知5-1」という。)。
さらに,被告Y6は,同月22日,NTTアドを訪問し,G課長に対し,
「7月1日からの原告のスタッフが勤務するヨドバシ運営について,現状
の主要メンバーであるスタッフが6月末日で退社するに当たり,代要員が
今現在いない状態である。」,「代要員を手配しても今までどおりのクオ
リティを担保することは難しく,ファーストプロモーションで今までどお
りの運営を行うことは難しい。」旨の事実を告知した(以下「本件告知5
-2」という。)。
しかし,平成21年6月19日当時,原告において被告Y1の退職や,
派遣労働者らの退職という話は出ていなかった。また,原告はNTTアド
の請負業務を,大阪だけでなく東京や福岡でも扱っており,たとえ大阪の
スタッフが退職しても,他の地域のスタッフを配置することにより,同業
務のクオリティを維持することは可能であった。したがって,本件告知5
-1,5-2の内容は虚偽であった。
カKDDIに対する虚偽事実の告知
被告Y3は,平成21年6月2日,KDDIを訪問し,同社担当者のH
(以下「H」という。)及びI(以下「I」という。)に対し,「原告か
ら派遣していたスタッフについて,できれば被告会社に移籍させて,KD
DIに派遣する。」旨の事実を告知した。これに対し,Hが,「スタッフ
は原告との契約に基づいて派遣されている。」,「原告と被告会社との間
で合意されればともかく,当方からは何とも言えない。」と返答すると,
被告Y3は,「現在,スタッフの移籍について原告と調整が進んでおり,
後日,原告における元上司である被告Y6からご連絡する。」と話した(以
下,同日の告知内容を併せて「本件告知6-1」という。)。
被告Y6は,同月8日,KDDIを訪問し,H及びIに対し,「先日,
被告会社の被告Y3から話のあったスタッフの移管について,原告,被告
会社の両社で合意した。」,「両社合意の上での業務移管と理解していた
だいて構わない。」,「派遣スタッフへの周知については,原告にて責任
をもって行う。」旨の事実を告知した(以下「本件告知6-2」という。)。
しかし,平成21年6月当時,原告と被告会社との間で,業務を移管す
るとか,派遣労働者を移籍させるという話がなされたことはなく,本件告
知6-1,6-2の内容は虚偽であった。
〔第1事件被告らの主張〕
原告の主張は全て争う。
後記ア~カのとおり,原告が主張する虚偽事実の告知は,いずれも事実自
体が存在しないか,告知内容が虚偽であるとは認められない。そもそも,被
告会社は,不正競争があったとされる平成21年当時,原告との取引によっ
て多くの売上げを得ていたのであり,それを失うリスクを冒してまで,本件
不正競争を行うはずがない。本件紛争の実態は,原告の従業員に対する残業
代未払及び従業員からの労働問題改善要求の無視等に起因する労働問題であ
り,原告の不当労働行為により退職に追い込まれた被告Y1,同Y2,同Y
3,同Y4及び同引地が被告会社に入社したことをもって,原告が第1事件
被告らを敵視し,根拠のない本件不正競争を主張して言い掛かりを付けたに
すぎない。
ア兼松
(ア)本件告知1-1につき
Tが平成21年5月19日にAを訪問した事実はない。TはAとの面
識すらない。
被告会社は,平成21年2月1日に兼松と労働者派遣基本契約を締結
しているところ(乙34の前文),Tは,この契約を締結するに当たっ
て,同日前頃に前職アックスのときから面識のあった兼松のJ氏を訪問
している。しかし,基本契約を締結すれば,その都度代表取締役である
T自身が取引先である兼松を訪問するはずもなく,Tは,平成18年1
1月に被告会社を設立してから現在に至るまで,平成21年2月1日前
頃に1度だけ兼松を訪問したことがあるにすぎない。このように,Tが
平成21年5月19日に兼松のAを訪問した事実はなく,原告主張の発
言などできるはずがない。
(イ)本件告知1-2につき
被告Y3及び同Y5が,平成21年5月29日に兼松のB主任を訪問
した事実はない。
被告Y5は,平成21年6月16日に被告会社に入社した後の挨拶の
際に初めてB主任に会ったのであり,原告在職中にB主任に会った事実
はない。したがって,被告Y5が平成21年5月29日にB主任に対し
て原告主張の発言などできるはずがない。
また,被告Y5の業務端末の使用記録(甲22)が示すように,同人
は平成21年5月29日に業務を行っていた。被告Y5は,同日,仕事
のみに使用する原告支給の業務端末を使用して,仕事に関係のある人物
に対して電話しており,その時間帯も同日の1日にわたり,特定の時間
帯にだけ仕事に関係のある人物に電話をしていたわけではない。以上の
事実からすれば,被告Y5が同日に業務を行っていたことは明らかであ
り,この事実からしても,被告Y5が同日にB主任を訪問し,原告主張
の発言をするはずがない。
被告Y3は,同Y5と異なり,原告在職中に兼松のB主任と面識があ
った。被告Y3は,平成21年5月後半頃,1人でB主任を訪問し,原
告を退職する旨の挨拶をしている。その際,被告Y3は,B主任に対し,
平成21年6月1日から被告会社で働くことは伝えておらず,原告主張
の発言をした事実はない。したがって,被告Y3が,平成21年5月2
9日に,被告引地と一緒にB主任を訪問し,原告主張の発言をするはず
がない。
イ新通エスピー
(ア)本件告知2-1,2-2につき
被告Y3は,平成21年6月1日も同月2日も被告会社大阪支店で業
務を行っており,新通エスピーを訪問などしていない。被告Y3は,同
月1日から被告会社に入社しており,新たな業務を覚える必要があった
ため,両日とも被告会社大阪支店において業務を行っていた。
また,被告Y6は,同月2日は,原告大阪支店で請求業務等に従事し
ており,新通エスピーを訪問などしていない。
(イ)被告Y3及び同Y6は,平成21年5月後半頃に新通エスピーを訪問
している。この訪問の目的は,新通エスピーを担当していた被告Y3が
同月末に原告を退職することになったため,被告Y6が新通エスピーの
担当者となることになり,その説明をするためである。
このように,被告Y6も同Y3も,原告において業務を継続すること
を前提に,後任の担当者を紹介するために新通エスピーを訪問している
のであり,取引を被告会社に引き継がせるとか,原告と新通エスピーの
取引を終了させるような発言は一切していない。
ウ日本エイサー
(ア)本件告知3-1につき
被告Y4は,Dに対し,原告主張の発言はしていない。被告Y4が,
平成21年5月13日,福岡においてDと会ったのは事実であるが,原
告大阪支店に勤務していた被告Y4が福岡を訪問したのは,原告福岡支
店の従業員に代わって,日本エイサーの業務(ヨドバシカメラ博多店に
おいて日本エイサーのパソコンの研修をする業務)を行うためである。
被告Y4は,日本エイサーの業務を行うために福岡に行っているのであ
るから,日本エイサーとの取引を失わせるような原告主張の発言をする
はずがない。
(イ)本件告知3-2につき
被告Y3は,Eマネージャーに対し,日本エイサーと原告間の契約を
原告から被告会社へ移行する手続を取る旨の説明などしていない。被告
Y3が平成21年6月18日にEマネージャーと面談をしたことは事実
であるが,これは被告Y3が東京に本社のある被告会社の営業を兼ねて
挨拶に行ったからである。また,被告Y3がEマネージャーに会った際,
日本エイサーは被告会社と必ず取引を開始するとの対応ではなく,複数
企業から提案を受けた上でより良い提案をした企業と取引するとの対応
であった。
そもそも,日本エイサーと継続して取引するには,日本エイサーの納
得する提案を上げ,実績を上げていくことが必要なのであって,必ず日
本エイサーとの取引が継続するというものではない。
エ第一エージェンシー
(ア)本件告知4-1につき
被告Y3及び同Y2が,平成21年4月27日,第一エージェンシー
のFを訪問した事実はない。被告Y3も同Y2も,毎月末は請求の準備
に追われ社内業務をすることが通常であったことから,同日は原告大阪
支店で社内業務をしていた。
ところで,被告Y3は,同年5月後半頃,被告Y2と共に,第一エー
ジェンシーを訪問し,Fに会っている。しかし,この訪問の目的は,被
告Y3が同月末をもって原告を退職することの挨拶をするためであり,
被告Y3及び同Y2は原告が主張するような発言は一切していない。
(イ)本件告知4-2につき
被告Y2は,平成21年5月下旬頃,派遣労働者らに対して原告主張
の発言などしていない。
オNTTアド
(ア)本件告知5-1につき
平成21年6月20日前後頃,被告Y1が同Y6と共にNTTアドの
G課長を訪問し,原告を退職する旨を告げたことはある。しかし,被告
Y1がG課長に対し,「スタッフも,自分に同調して原告を退職する。」
などと発言したことはない。
被告Y1がNTTアドのG課長に対し原告を退職する旨を告げたとし
ても,被告Y1は平成21年6月24日付けの退職届(甲68)を提出
し,実際に原告を退職している以上,「虚偽の事実」(不競法2条1項
14号)には該当しない。
したがって,被告Y1の発言は,何ら不正競争となるものではない。
(イ)本件告知5-2につき
被告Y6は,平成21年6月22日に1人でNTTアドを訪問し,G
課長に対し,「7月1日からのヨドバシ運営について,現状の主要メン
バーが6月末で退社するに当たり,代要員が今現在いない状態である。」,
「代要員を手配しても今までどおりのクオリティを担保することは難し
く,ファーストプロモーションで今までどおりの運営を行うことは難し
い。」と説明した(甲9の2)。
しかし,被告Y6の当該説明は,被告Y6の意見であって事実には該
当しない。また,仮に事実であっても虚偽ではないから,「虚偽の事実」
(不競法2条1項14号)には該当しない。したがって,被告Y6の発
言は何ら不正競争となるものではない。
カKDDI
(ア)本件告知6-1につき
被告Y3は,平成21年6月2日には被告会社大阪支店において業務
を行っていたのであり,KDDIを訪問していない。被告Y3は同月1
日から被告会社に入社しており,新たな業務を覚える必要があったため,
両日とも被告会社大阪支店において業務を行っていた。
ところで,被告Y3は,同年5月後半頃,原告従業員のK及び被告Y
4と共にKDDIを訪問し,H及びIと会っている。しかし,この訪問
の目的は,KDDIを担当していた被告Y3が同月末をもって退職する
こと及び同じくKDDIを担当していたKが結婚退職することに関する
挨拶であり,被告Y3は原告が主張するような発言は一切していない。
(イ)本件告知6-2につき
被告Y6は,同月8日には原告大阪支店において,派遣労働者への前
借り給与の処理や,原告が人材募集広告を発注している業者との打合せ
等を行っていたのであり,KDDIを訪問していない。
ところで,被告Y6は,同年6月中旬頃にKDDIを訪問し,H及び
Iと会っている。しかし,この訪問の目的は,KDDIの後任担当者と
なった被告Y4の紹介である。このように,被告Y6は,原告での業務
を継続することを前提に,後任担当者を紹介するためにKDDIを訪問
したのであり,取引を被告会社に引き継がせるとか,原告とKDDIと
の取引を終了させるような発言は一切していない。
(2)争点②(損害の発生及び額)について
〔原告の主張〕
ア主位的主張
(ア)原告と,兼松,新通エスピー,日本エイサー,第一エージェンシー,
ファーストプロモーション(NTTアドの業務への労働者派遣契約)及
びKDDIとの契約に基づく,平成21年1月から6月までの原告の売
上高は,別表1のとおりである。そして,原告の大阪支店の平成21年
1月から6月までの平均粗利率は,別表2のとおりであり,平成21年
1月から6月までの各取引先との契約に基づく売上高に,対応する各月
の大阪支店の平均粗利率を乗じて求められる額が,各月の各取引先との
契約に基づく利益額となる(別表3)。
原告は,本件不正競争により,平成21年6月1日以降,兼松,新通
エスピー,第一エージェンシーとの契約を全て失い,また同年7月1日
以降,日本エイサー,ファーストプロモーション(NTTアドの業務へ
の労働者派遣契約),KDDIとの契約を全て失い,別表3のとおり得
られていた利益額もゼロとなった。これらの契約は全て継続的なもので
あり,本件不正競争がなければ,原告はこれらの契約に基づいて,平成
21年7月以降も,毎月,月平均利益額相当額の利益を得られていたは
ずであり,その額を列挙すると以下のとおりである(別表3)。
兼松46万9233円
新通エスピー61万3435円
日本エイサー49万8737円
第一エージェンシー49万7316円
ファーストプロモーション(NTTアド)266万7775円
KDDI94万8659円
合計569万5155円
本件不正競争がなければ,これらの契約はどんなに短くても1年は継
続したものといえるから,原告は,1年分の逸失利益として,6834
万1860円の損害を被った。
(イ)原告は,平成21年8月11日,被告会社に対し,本件不正競争に基
づく損害賠償請求権をもって,本件業務委託料の支払債務と対当額で相
殺するとの意思表示をした(本件相殺)。よって,上記6834万18
60円から本件業務委託料1946万8170円を差し引いた後の損害
額の残額は4887万3690円となる。
イ予備的主張
(ア)被告会社及び被告Y1ら6名は,本件不正競争により,以下のとおり,
兼松ら6社と契約を締結し,これにより利益を得た。
a上記被告らは,平成21年6月1日より,①兼松,②新通エスピー,
③第一エージェンシーとの間で,家電量販店におけるセールスサポー
ト業務を行うスタッフを派遣する内容の労働者派遣契約を締結し,こ
れにより平成21年6月から平成22年5月までの1年間に,1か月
当たり,①兼松との契約により46万9233円,②新通エスピーと
の契約により61万3435円,③第一エージェンシーとの契約によ
り49万7316円の利益を得た。
b上記被告らは,平成21年7月1日より,④日本エイサーとの間で,
家電量販店におけるセールスサポート業務の業務委託契約を締結し,
これにより平成21年7月から平成22年6月までの1年間に,1か
月当たり49万8737円の利益を得た。
c上記被告らは,平成21年7月1日より,⑤新通エスピーとの間で,
同社がNTTアドから受託したセールスサポート業務を行うためのス
タッフを派遣する内容の労働者派遣契約を締結し,これにより平成2
1年7月から平成22年6月までの1年間に,1月当たり266万7
775円の利益を得た。
d上記被告らは,平成21年7月1日より,⑥KDDIとの間で,家
電量販店におけるセールスサポート業務を行うスタッフを派遣する内
容の労働者派遣契約を締結し,これにより平成21年7月から平成2
2年6月までの1年間に,1か月当たり94万8659円の利益を得
た。
以上より,上記被告らが,本件不正競争により契約を締結し,得た利
益額は,(①46万9233円+②61万3435円+③49万731
6円+④49万8737円+⑤266万7775円+⑥94万8659
円)×12=6834万1860円である。
よって,不競法5条2項により,上記被告らが本件不正競争によって
受けた利益の額である6834万1860円が原告の損害額と推定され
る。
(イ)上記ア(イ)に同じ。
〔第1事件被告らの主張〕
ア主位的主張に対し
原告が,平成21年6月1日以降,兼松,新通エスピー及び第一エージ
ェンシーとの契約を全て失ったこと,同年7月1日以降,日本エイサー,
ファーストプロモーション(NTTアドの業務への労働者派遣契約)及び
KDDIとの契約を全て失ったことは不知,その余は否認ないし争う。
原告は,大阪支店における平成21年1月から6月までの平均粗利率が
別表2のとおりであると主張するが,計算根拠が不明である。また,この
結果,別表3の利益額の計算根拠も不明である。
原告は,上記各契約がどんなに短くても1年間は継続したと主張するが,
全く根拠がない。
イ予備的主張に対し
全て争う。
原告は,不競法5条2項による損害額を主張するが,推定の前提事実で
ある「その侵害の行為により利益を受けている」ことの立証がなく,同項
を適用して損害額を認定できないことは明白である。
(第2事件)
(3)争点③(本件相殺の効力)について
〔原告の主張〕
原告は,平成21年8月11日,被告会社に対し,本件不正競争に基づく
損害賠償請求権をもって,本件業務委託料の支払債務と対当額で相殺すると
の意思表示をした(本件相殺)。
よって,本件業務委託料の支払債務は消滅した。
〔被告会社の主張〕
争う。原告が主張する自働債権(本件不正競争に基づく損害賠償請求権)
が存在しない以上,本件相殺は認められない。
(4)争点④(第2事件被告X1らの責任)について
〔被告会社の主張〕
第2事件被告X2は,原告に対する支配権を有しており,原告の業務執行
に関する意思決定を単独かつ自由に行うことができる地位にあるから,原告
の事実上の取締役に当たる。そして,第2事件被告X2は,原告の代表取締
役である第2事件被告X1及びL(以下「L社長」という。)に対して,被
告会社との間で支払意思のない業務委託契約を締結するよう指示したほか,
何ら根拠のない本件相殺を主張して本件業務委託料の支払を不当に拒絶する
よう指示し(あるいは,少なくとも,被告会社に対する債務の履行を指示す
べきであったのに,著しく注意を欠いたためにそれを怠り),もって,第2
事件被告X1及びL社長をして,本件業務委託料の不払という取締役として
の任務懈怠行為を行わせた。これにより,被告会社は,本件業務委託料の支
払を受ける権利ないし法的地位を侵害され,その結果,本件業務委託料相当
額の損害を被った。
よって,第2事件被告X1らは,被告会社に対し,会社法429条1項に
基づき,本件業務委託料相当額を支払うべき責任を負う。
〔第2事件被告X1らの主張〕
全て争う。第2事件被告X2は原告の事実上の取締役ではなく,上記のよ
うな指示をしたこともない。原告が被告会社に対し本件相殺の意思表示をし
たことは,正当な企業活動であるから,取締役の任務懈怠にも当たらない。
被告会社において,本件業務委託料とは別個にいかなる損害が発生したのか
も不明である。
第3当裁判所の判断
1第1事件
(1)争点①(不正競争の成否)について
ア前記第2の3の前提事実に,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨を総合する
と,次の事実が認められる。
(ア)原告と被告会社の関係
a被告会社は,原告が経営統合する前のアックスに約5年間在籍した
Tが,平成18年11月21日に設立した会社であり,その人的つな
がりから,アックスとの間で,アックスが受託した家電量販店におけ
る販売促進業務等を再受託する取引等を行ってきた。(乙18,20,
弁論の全趣旨)
b平成19年9月1日,原告がアックスを経営統合した後も,被告会
社とアックスとの間の上記取引は,原告に引き継がれた。(乙21,
被告代表者T,弁論の全趣旨)
c平成21年当時,被告会社の原告に対する売上げは,平均して毎月
2000万円程度であり,前年9月の決算期における総売上高約2億
8000万円のうち2億円弱を原告との取引に関する売上げが占めて
いた。(被告代表者T,弁論の全趣旨)
(イ)原告における労働問題の発生と従業員の退職
a原告の大阪支店セールスサポート事業部では,平成21年1月以降,
時間外手当のカットや昇給の見送り,経営統合したアックス出身の従
業員の処遇等をめぐって,従業員に不満が生じていた。
同年4月には,名古屋支店への転勤命令を降格人事と受け止めた被
告Y3が同年5月31日付けで退職することになったほか,同年6月
初め頃には被告Y1が退職の意向を示し,同月15日には同事業部に
所属する被告Y5が退職し,同月22日には被告Y4,同Y2,同Y
5及び同Y1を含む同事業部の従業員14名が連名で,昇給の実施,
時間外労働に対する割増賃金の支払,賞与に関する協定の締結,不当
な人事考課の改善,不当労働行為を行わないこと等を要望し,同月2
9日までに回答がなければ5営業日以上の間ストライキを決行する旨
の要求書(乙1)を原告代表者宛てに提出する事態に至った(被告Y
5は,既に原告を退職していたが,退職前の残業代が未払であったこ
とから,同被告も上記要望書に名を連ねた。)。(乙1,14,15,
被告Y6,弁論の全趣旨)
bその後,上記14名は,一旦は,取引先やスタッフに迷惑が掛かる
ことは本意ではないとして,ストライキをせず,同月24日,25日
に不当労働行為が行われなければ通常出勤で業務を行う旨,原告代表
者宛てに通知したが,最終的に,会社から連日に及ぶ不当労働行為(嫌
がらせ電話,早朝深夜の執拗な訪問,家族への脅迫電話等)を受けた
結果,退職を選択せざるを得なくなったとして,団体交渉の窓口を弁
護士に一本化する旨を原告代表者宛てに通知した。(乙2,3,弁論
の全趣旨)
c被告Y3は,平成21年6月1日付けで被告会社に入社していた。
そして,同月16日には被告Y5が,同年7月1日には被告Y4,同
Y1及び同Y2を含む原告大阪支店の従業員6名が,同月16日には
原告大阪支店の従業員5名が,それぞれ被告Y3の紹介で,被告会社
に入社することとなった。
当時,被告会社は,業績が好調で,人材の確保が売上げの増加につ
ながることから,従業員を毎年倍増させる計画を立てており,Tは,
被告Y3を採用後,同被告を大阪支店の支店長に任命し,同支店にお
ける採用権限を同被告に任せていた。
同年7月,Tは,被告Y3から,新たに11名を採用した旨の報告
を受け,それまで大阪支店(大阪営業所)の従業員数は10名程度で
あったことから,やや多すぎないかと尋ねたが,同被告から,「一時
的に職場がない人たちをどうしても雇ってあげて欲しい。」,「何か
月後には必ず何らかの形で会社に利益になるようにする。」などと言
われ,これを了承した。
被告会社は,これを機に大阪支店のオフィスをより広い場所に移転
するとともに,その後も採用を続け,現在,従業員数は50名弱とな
っている。(甲66,乙12,16,被告Y3,被告代表者T,弁論
の全趣旨)
d他方,原告は,被告Y1,同Y2及び同Y4を平成21年7月13
日付けで,被告Y6を同月15日付けで,それぞれ懲戒解雇処分にし
た。(甲14,乙4~6,9)
(ウ)取引先をめぐる原告と被告会社の折衝等
a平成21年6月22日,NTTアドのG課長から,原告に対し,ヨ
ドバシカメラ梅田店におけるフレッツブース運営業務に係る個別契約
の契約期間満了を控え,原告に労働問題が持ち上がっていると聞いた
が真偽のほどを確認したい旨の連絡があり,原告は,翌日,担当の被
告Y1及び当時18名いたスタッフに連絡を取って事実関係を確認し
ようとしたが,いずれも連絡が取れなかった。
b同月24日ないし25日頃,NTTアドにおいて,NTTアド,原
告及びファーストプロモーションによる話合いが行われ,席上,NT
Tアドから改めて事実確認があった。原告及びファーストプロモーシ
ョンは,懸念されるような事実はないと否定したが,NTTアドの担
当者らは,被告Y1の退職に店舗スタッフ(派遣労働者)も同調する
という話も聞いており,現状の運営態勢を維持することが困難であれ
ば,NTTアドとしてはクライアントのNTT西日本に対し,業務の
質を担保できないことから,事態を憂慮していると述べた。これに対
し,原告のL社長は,現場の仕事は間違いなく保証する,NTTの業
務については全国展開しており,ノウハウを持った従業員,スタッフ
を有している,採算を度外視してでも現場は保証する旨を述べたが,
NTTアド側は,運営者の退職や店舗スタッフの大量流出,社内にお
ける労働問題などを抱える会社と契約することのリスクを考えている,
クライアントからは店舗における現在の運営態勢の変更は困ると言わ
れており,ノウハウがあるといってもスタッフの総入替えでは今まで
どおりの運営は無理ではないかと危惧している,そこまで言うなら7
月以降の運営態勢案を提示して欲しいと迫った。なお,この話合いに
は,被告Y6も大阪支店の支店長代理として立ち会っていた。
c原告は,被告Y1及び大半のスタッフと連絡が取れないままであっ
たことから状況が把握できず,事態収拾のためNTTアドに被告会社
との仲介を依頼した。そして,NTTアドの仲介により,同月25日
から同月27日にかけて,L社長,ファーストプロモーション社長M
及びTとの間で何度か話合いが行われたが,原告及びファーストプロ
モーションが,原状回復,すなわち,一旦被告Y1ら従業員とスタッ
フを原告側に戻すことを求めたのに対し,被告会社は,一連の事態へ
の関与(スタッフ等の引き抜き)を否定した上で,飽くまでファース
トプロモーションの下で被告会社が業務委託を受けることを主張した
ことから,話合いは合意に至ることなく終わった。そして,この間,
被告Y1の復職もスタッフの確保も見通しが付かなかったことから,
同月28日,原告及びファーストプロモーションは,NTTアドに対
し,当社としては現運営態勢を維持することが困難であり,NTTア
ドの要求する業務の質を確保できないことから,契約を継続できない
旨を伝えた。
dその結果,平成21年7月1日以降,ヨドバシカメラ梅田店におけ
るフレッツブース運営業務は,これまでNTTアドからファーストプ
ロモーションが委託を受けていた業務を,新通エスピーが受託するこ
とになり,新通エスピーから被告会社が再委託を受けて運営されるこ
とになった。
e兼松,新通エスピー,日本エイサー,第一エージェンシー及びKD
DIの各取引先に対しても,原告と各取引先との取引が終了した後は,
それぞれ被告会社が派遣労働者の派遣を行っている(ただし,それが
原告と各取引先との契約と全く同一の条件で,かつ,同一の派遣労働
者で行われていることを認めるに足りる証拠はない。)。(上記a~
eにつき,乙37,被告Y6,被告代表者T,弁論の全趣旨)
イ虚偽事実の告知の有無
上記認定の事実経過を前提に,以下,原告主張に係る虚偽事実の告知の
有無について検討する。
(ア)兼松に対する告知
a原告は,平成21年5月19日にTが本件告知1-1を,同月29
日に被告Y3及び同Y5が本件告知1-2をそれぞれ行ったと主張す
る。
b原告の主張に沿う証拠として,元原告従業員(NTT事業推進部マ
ネージャー)兼ファーストプロモーション通信事業部部長N(以下「N」
という。)作成の平成21年9月29日付け陳述書(甲18)があり,
同陳述書には,平成21年6月30日に兼松の営業担当であるAから
電話で聴取した内容,及び同年7月2日に兼松を訪問してAから聴取
した内容として,それぞれ,本件告知1-1,1-2があった旨記載
されている(なお,N作成とされる平成21年7月3日付け報告書〔甲
65〕にも,NTTアドに関する記載がない点を除き,甲18とほぼ
同一の記載がある。以下,併せて「甲18陳述書等」という。)。
しかし,甲18陳述書等における本件告知1-1についての記載は,
NがAから聴取したというものであり,本件告知1-2についての記
載は,Aが伝聞した内容を更にNが電話で聴取したというものであっ
て,いずれもN自身の体験ではない上,Nが原告の従業員であること,
T,被告Y3及び同Y5が,いずれも当該日時に兼松を訪問した事実
自体が存在しないと主張して事実関係を争っていることを踏まえると,
上記各記載の信用性については慎重に吟味する必要がある。他方,N
作成の平成22年2月10日付け陳述書(乙10)には,自分が在職
中に原告に提出した甲18は,原告の要求を拒否すれば,自分自身が
解雇されるおそれと他のアックス出身者が差別的扱いを受けるおそれ
があるという社内状況の下,半ば強要されて作成したものであり,内
容は全く真実でないとする記載がある。加えて,同人については,原
告及び被告双方からの証人申請を採用し,平成23年11月16日午
後2時の本件口頭弁論期日において尋問する旨の呼出状が送達された
にもかかわらず(顕著な事実),同人は上記口頭弁論期日に出頭せず,
証人尋問が実施できなかったことをも考慮すると,同人作成の甲18
陳述書等の信用性には疑念をいれざるを得ない。そして,甲18陳述
書等以外に,本件告知1-1,1-2が行われた事実を認めるに足り
る的確な証拠はない。
c以上によれば,本件告知1-1,1-2が行われたと認めることは
できない。
(イ)新通エスピーに対する告知
a原告は,平成21年6月1日に被告Y3が本件告知2-1を,同月
2日に被告Y3及び同Y6が本件告知2-2をそれぞれ行ったと主張
する。
b甲18陳述書等には,平成21年7月3日に新通エスピーの契約担
当であるCから電話で聴取した内容として,本件告知2-1,2-2
があった旨が記載されている。
しかし,甲18陳述書等の信用性に疑念をいれざるを得ないことは
前記のとおりであり,ほかに本件告知2-1,2-2があったと認め
るに足りる的確な証拠はない。原告は,被告Y6が平成21年6月2
日に新通エスピーを訪問した事実がないというのは虚偽であるとして,
原告の社内システムにおけるスケジュール管理画面の写し(甲23)
を提出し,そこには被告Y6が同日午前11時から12時まで新通エ
スピーへ外出したことが記録されている。しかし,同システムのスケ
ジュール管理画面の記載は,事後であっても原告が自由に記載内容を
変更できるものであるから,改ざん防止措置が講じられていること等
の信用性を担保する事情の具体的立証がない限り,同証拠の記載を根
拠に被告Y6の主張及び供述を虚偽であると断定することはできない
というべきである。そして,本件においては,上記具体的事情の立証
はなく,ほかに被告Y6の主張及び供述が虚偽であるとすべき証拠は
ない。
c以上によれば,本件告知2-1,2-2が行われたと認めることは
できない。
(ウ)日本エイサーに対する告知
a原告は,平成21年5月13日に被告Y4が本件告知3-1を,同
年6月18日に被告Y3が本件告知3-2をそれぞれ行ったと主張す
る。
b本件告知3-1につき,原告の主張に沿う証拠として,原告営業本
部営業推進部部長O(以下「O」という。)作成の平成21年12月
15日付け陳述書(甲10)及び証人尋問における同人の証言(以下,
併せて「O供述」という。)がある。
しかしながら,O供述のうち被告Y4の発言,すなわち本件告知3
-1に関する部分は,いずれもDからの伝聞にすぎない上,Oが原告
の従業員ないし役員である(平成20年6月25日まで原告の取締役
の地位にあり,同日付けで一旦退任したものの,平成21年10月1
日には再び取締役に就任している。)こと,被告Y4は,Dと面談し
た事実を認めながら,原告主張の発言内容を否定していることを踏ま
えれば,その信用性を吟味する必要があるが,これを裏付ける客観的
な証拠はない。したがって,O供述のみによって本件告知3-1を認
めることは困難であり,ほかにこれを認めるに足りる的確な証拠はな
い。
c本件告知3-2につき,これを裏付ける証拠として電子メールの写
し計7通(甲11の1~7。以下「本件メール」という。)が提出さ
れている。本件メールは,平成21年6月15日から同月17日にか
けて,当時既に被告会社に転職していた被告Y3と日本エイサーのD
ないしEマネージャーが次回商談のスケジュールを調整する内容のや
り取りであり,このうち,同月17日付けでDが被告Y3に対して送
信した電子メールの写し(甲11の1)には,同月18日に決まった
商談に関し,「HT(判決注:原告を示すものと認められる。)さん
から,マーキュリーさんへスライドしていく流れを,業務効果向上と
言う点と,その背景にある御社代表以下,皆様の熱い想い!的な感じ
でお話いただけれ(判決注:「いただければ」の誤記と認める。)良
いと思います。」との記載があり,また,その末尾には,「※このメ
ールはY3さんY4さんのみに送っておりますので,ご理解の程,よ
ろしくお願いします。」と記載され,ヘッダー部分の「Cc:」欄に
原告における被告Y4のメールアドレスが記載されていることから,
同メールが被告Y3だけでなく,当時原告に在籍していた被告Y4に
も送信されていたことが認められる。
しかしながら,本件メールの内容それ自体は,被告会社と日本エイ
サーとの間における商談のスケジュール調整のためのやり取りにすぎ
ず,「HTさんから,マーキュリーさんへスライドしていく流れを…
…お話しいただけれ……」という部分に関しても,その直後に「業務
移行のスケジュールをフローで解説いただければ」という記載がある
こと,原告と日本エイサーとの間の契約期間が同月までとなっていた
こと(O供述)を考慮すれば,次期の契約を原告ではなく被告会社が
締結した場合,どのように業務を移行させるのかという点について説
明を求める内容と理解することができる。したがって,本件メールの
内容自体からは本件告知3-2があったと認めることはできない。そ
もそも,本件告知3-2は,その内容及び告知が行われたとする時期
(次期契約の開始月である同年7月に接近する6月18日)からする
と,本件告知3-1を前提としているというべきところ,本件告知3
-1が認められないことは前記のとおりである。
したがって,本件メールのみから本件告知3-2を認めることはで
きず,ほかにこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
d以上によれば,本件告知3-1,3-2が行われたと認めることは
できない。
(エ)第一エージェンシーに対する告知
a原告は,平成21年4月27日に被告Y3及び被告Y2が本件告知
4-1を,同年5月25日頃に被告Y2が本件告知4-2をそれぞれ
行ったと主張する。
b本件告知4-1,4-2につき,原告の主張に沿う証拠として,①
O供述,②F作成の平成22年1月26日付け陳述書(甲19),③
P(以下「P」という。)作成の平成22年1月28日付け陳述書(甲
20)がある。
(a)O供述について
Oは,「平成21年7月以降,第一エージェンシーを訪問してF
と面談した際,同人から,(本件告知4-1に関し)平成21年4
月下旬に,被告Y3及び同Y2より,『原告が事業撤退するため,
被告会社との間で,原告のスタッフが被告会社に円満な転籍をする
ことで話がついている。』,『この転籍についてはNTTアドも了
解している。』という話があった。(本件告知4-2に関し)同年
5月末に原告のスタッフ4名が被告会社に転籍した際,被告Y2が
被告会社の契約書を上記4名に渡そうとしたところ,そのうちの1
人であるPが,被告Y2から,『今は原告の社員だけどこの被告会
社の契約書を受け取るしかない。』と何らの選択肢も与えられず強
い口調で迫られ,一方的に言われたことに立腹し,一旦は被告会社
に転籍した後に,自ら別会社(株式会社オフィスワイズ)に転籍を
希望し,現在もそこから派遣で来ているという内容の話を聞いた。」
と供述する。
しかしながら,上記O供述の内容は,本件告知4-1に関しては
伝聞,本件告知4-2に関しては再伝聞である上,Oが原告の従業
員ないし役員であること,被告Y3及び同Y2は,本件告知4-1,
4-2があったとされる日に第一エージェンシーを訪問した事実自
体を否定していること(乙12,17,被告Y3,弁論の全趣旨)
からすれば,上記O供述のみから本件告知4-1,4-2があった
と認めることは困難である。
(b)甲19について
甲19には,Fが被告Y3及び被告Y2から本件告知4-1を受
けたことが記載されている。
しかし,甲19の記載によれば,本件告知4-1を受けたFは,
原告との間で話が付いており,委託元のNTTアドの了承も取って
いるのであれば特に問題はないと判断し,平成21年6月1日以降
の派遣契約を被告との契約に切り替えることを承諾したとされてい
るが,F自身は第一エージェンシーの派遣窓口担当者にすぎないに
もかかわらず,派遣契約の切替えという重要な事項(原告の主張に
よれば,上記業務に係る平成21年1月~7月の売上高は,月額約
163万円から221万円に上る。)について,これまで取引がな
かった被告会社からの売り込みにすぎない本件告知4-1を受けて,
第一エージェンシー内部でいかなる検討が行われたのか,現に取引
を行っている原告や委託元のNTTアドに対して意向の確認をした
のかという点について何ら説明がなく,その信用性については疑念
をいれざるを得ない。
(c)甲20について
甲20には,平成21年5月25日頃,被告Y2から本件告知4
-2を受けた経緯が記載されている。
しかし,甲20を作成したPは,原告の元派遣労働者であるが,
同書面の作成時期及び体裁に照らすと,同書面は本件訴訟に証拠と
して提出するために原告が同人に依頼して作成したものであると認
められるから,これを客観的な証拠ということはできない。そして,
F作成の陳述書(甲19)には,当時Pから相談を受けた旨の記載
があるにもかかわらず,被告Y2から本件告知4-2を受けたこと
についての記載が一切なく,両者の記載が整合しないことからする
と,甲20の本件告知4-2に関する記載の信用性には疑念をいれ
ざるを得ない。
c以上によれば,本件告知4-1,4-2に関するO供述,甲19及
び甲20はいずれも信用性に疑念をいれざるをえないところ,ほかに
本件告知4-1,4-2があったと認めるに足りる的確な証拠はない。
よって,本件告知4-1,4-2が行われたと認めることはできな
い。
(オ)NTTアドに対する告知
a原告は,平成21年6月19日に被告Y1が本件告知5-1を,同
月22日に被告Y6が本件告知5-2をそれぞれ行ったと主張する。
b本件告知5-1について,被告Y1は,平成21年6月20日前後
頃,被告Y6と共にNTTアドのG課長を訪問し,原告を退職する旨
告げたことは認めている。
しかし,被告Y1は,このとき,本件告知5-1に係る「スタッフ
も,自分に同調して原告を退職する。」旨の発言したことは否定して
いるところ,被告Y1が上記発言を行ったことを認めるに足りる的確
な証拠はない(N作成の陳述書〔甲18〕には,G課長から聴取した
内容として,被告Y1がそのような発言をした旨の記載があるが,同
陳述書が信用できないことは前記のとおりである。)。
また,被告Y1は,同月27日付けで退職する旨の退職届(甲68)
を原告に提出し,実際に原告を退職しているから,原告を退職する旨
告げたこと自体は,虚偽の事実の告知には当たらない。
したがって,同月19日に被告Y1が本件告知5-1に係る虚偽の
事実の告知を行ったと認めることはできない。
c本件告知5-2について,被告Y6は,平成21年6月22日にN
TTアドを訪問し,G課長に対し,「7月1日からのヨドバシ運営に
ついて,現状の主要メンバーが6月末日で退社するに当たり,代要員
が今現在いない状態である。」,「代要員を手配しても今までどおり
のクオリティを担保することは難しく,ファーストプロモーションで
今までどおりの運営を行うことは難しい。」と説明したことは認めて
いる。
しかし,上記告知内容が虚偽であったこと,すなわち,同年6月の
時点で,被告Y1及び同月の時点で18人いたフレッツブース運営業
務に従事するスタッフの大半が同月末に原告を退社しても,原告にお
いて,直ちに代替要員を手配し,同年7月以降も滞りなく同業務を履
行できる態勢にあったとは認められない。原告は,スタッフの管理,
指導,掌握は,人材派遣業者にとって,さしたる経験,専門的知識,
スキルを要する業務ではなく,同業務に携わる従業員を全国で100
人以上有していたから,代替要員に欠けることはなかったと主張する。
しかし,①ヨドバシカメラ梅田店は全国有数の大型家電量販店であり,
フレッツブース運営業務は,対象商品(フレッツ光,フレッツADS
L)の商品説明から,各種イベント企画運営等,各種ツールのデザイ
ン,製作,各種プレミアムの製作等に至るまで広範な業務を行うこと
が要求されていたこと(甲5の1,弁論の全趣旨),②被告Y1は,
上記時点で約4年間,1人でフレッツブース運営業務に関するスタッ
フの管理及び各種イベントの企画運営等を行ってきたこと(甲71,
72,被告Y6,弁論の全趣旨),③同人は,同年6月初め頃には被
告Y6を通じて原告及びファーストプロモーションに退職の意向を示
していたにもかかわらず,原告及びファーストプロモーションは被告
Y6に対し引き留めるよう説得を指示したのみで,上記業務を滞りな
く履行するための具体的な対応を何ら講じていなかったこと(乙14,
15,被告Y6,弁論の全趣旨)からすると,原告が,約1週間の期
間で,代替要員として上記業務を滞りなく履行するに足りる能力と経
験を有する従業員及び従前のスタッフと同様の能力,経験を有する1
6名前後のスタッフを現実に他の現場から融通し,かつ,前任者から
の十分な引継ぎがないまま,従前同様にフレッツブースを運営して上
記各種業務を行うことができたとは認められない。現に,NTTアド
からは,「クライアントからは店舗における現在の運営態勢の変更は
困ると言われており,ノウハウがあるといってもスタッフの総入替え
では今までどおりの運営は事実上,無理ではないかと危惧している」
旨の懸念が表明され,「そこまで言うなら,7月以降の運営態勢案を
提示して欲しい」と迫られ,同月28日,原告及びファーストプロモ
ーションは,NTTアドに対し,現運営態勢を維持することは困難で
ありNTTアドの要求する業務の質を確保できないことから,契約を
継続できない旨を伝えたことは,前記認定のとおりである。また,被
告Y6は,その後も原告にとどまり懲戒解雇処分を受けており,当時,
人事上の不満を抱えていたとはいえ,原告大阪支店長代理という職に
ありながら,あえて職を失うリスクを冒してまで,取引先に対し虚偽
の事実を告知する動機があったとも認め難い。
以上によれば,本件告知5-2の内容が虚偽の事実であったと認め
ることはできない。
dよって,本件告知5-1,5-2に係る不正競争を認めることはで
きない。
(カ)KDDIに対する告知
a原告は,平成21年6月2日に被告Y3が本件告知6-1を,同月
8日に被告Y6が本件告知6-2をそれぞれ行ったと主張する。
b原告の主張に沿う証拠として,KDDIソリューション第1営業本
部第4営業部部長Q(以下「Q部長」という。)が原告総務部R(以
下「R」という。)に宛てて送信した平成21年7月29日付け電子
メール(甲12の2)の添付文書とされる甲12の3があり,甲12
の3には,社内調査により確認できた事実として,同年6月2日に被
告Y3がKDDIのコンシューマー関西支社を訪れて応対したKDD
IのH及びIに対し本件告知6-1を行ったこと,同月8日には被告
Y6が同所を訪れて応対したKDDIのH及びIに対し本件告知6-
2を行ったこと,これを受けてKDDIの社内手続が進められ,同年
7月1日以降は被告会社からスタッフの派遣を受けることになったこ
と等が記載されている。
しかしながら,甲12の3が甲12の2のメールに添付されていた
ことを証明する客観的な証拠はない上,甲12の3の記載内容のうち,
被告Y3及び同Y6の発言部分はいずれも伝聞にすぎず,被告Y3及
び同Y6はその発言内容を否定していることからすると,その記載内
容の信用性についても吟味する必要がある。
cよって検討するに,甲12の1~3によれば,(a)平成21年7月当
時,原告の社内において,KDDIの携帯電話250台が会社の承認
を得ることなく無断で購入されていた事実が発覚し,原告総務部によ
る社内調査が進められており,その件で,KDDIにも内部調査を要
請していた,(b)その最中,本件に関係する従業員の退職等の問題が発
生し,当初はOが調査を行っていたが,難航したため,総務部のRに
おいて,同問題についてもKDDIに対し調査を要請することとなっ
た,(c)Rが,KDDIの担当者Sに対し,本件についての調査を要請
したところ,同月22日,Sとその上司であるQ部長が原告の本社を
来訪し,その際,Rは,Q部長らに対し,改めて本件についての調査
を要請し,具体的に回答を求めるべき事項をメールでQ部長宛てに送
信した,(d)同月27日,SからRに,「今回の件について早急に書面
にまとめてご連絡します。」との電話があり,同月29日,Q部長か
らR宛てに甲12の2のメールが送信された,とされている。
そして,甲12の2は,Rの上記メールを引用する形式で作成され,
その引用部分には,「本日,Q部長様に現状を説明させていただきま
したとおり弊社で現在発生している問題が解決されないと話が進まな
い」,「本日Q部長様が契約を継続していく為,何を解決できればも
とに戻ることが出来るか話がございましたので社内で調整確認しまし
たのでご連絡させていただきます」とあり,その上で,回答を求める
事項として,「1.御社からの仕事をいただく件30人」,「3.
大阪で株式会社マーキュリーに業務を持っていかれた件,弊社社員か
ら虚偽の説明を受けた内容の開示,弊社営業責任者,Oが伺った際に
断られた理由」,「4.接待を受けたまたは接待した内容,金額,そ
の場いた個人名の開示」,「5.1が解決されない限り,納品されて
いる端末費用に関しては支払いが出来ません」,「上記については全
て文面でのご返答を御願い致します」と記載され,甲12の3は,上
記「3.大阪で株式会社マーキュリーに業務を持っていかれた件,弊
社社員から虚偽の説明を受けた内容の開示,弊社営業責任者,Oが伺
った際に断られた理由」に対する回答として甲12の2のメールに添
付されたものとされている。
dそうすると,甲12の3が原告主張のとおり甲12の2のメールに
添付された文書であったとしても,その作成経緯からすれば,当時,
原告とKDDIとの間では,原告の従業員がKDDIから購入した携
帯電話250台の購入代金の支払について折衝が行われており,原告
はこれを交渉材料として,上記従業員の退職等の問題についても調査
を要請した上で,原告との取引(労働者派遣契約)を継続するよう求
めていたのであって,甲12の3はそのようなやり取りの中で作成さ
れたものであるから,KDDIの担当者が上記交渉のため原告の意向
に沿う内容の記載とした可能性を否定できず,かつ,その調査内容の
客観性を担保する資料等は何ら添付されていないのであるから,その
証明力は必ずしも十分なものと評価することはできない。したがって,
甲12の1~3のみによって本件告知6-1,6-2を認めることは
困難であり,ほかに本件告知6-1,6-2が行われた事実を認める
に足りる証拠はない。
原告は,被告Y6が,本件告知6-2があったとされる平成21年
6月8日にKDDIを訪問した事実がないというのは虚偽であるとし
て,原告の社内システムにおけるスケジュール管理画面の写し(甲2
3)を提出し,そこには被告Y6が同日午後2時から午後3時までK
DDIへ外出した旨が記録されている。しかしながら,同システムの
スケジュール管理画面の記載の客観性,信用性を担保する具体的立証
がないことは前示のとおりであり,同記載を根拠に被告Y6の主張及
び供述を虚偽であるとすることはできない。
e以上によれば,本件告知6-1,6-2が行われたと認めることは
できない。
(2)以上によれば,原告が主張する不正競争は,いずれも認めることができな
いから,その余の点について判断するまでもなく,原告の第1事件請求は,
理由がない。
2第2事件
(1)原告に対する請求について
ア被告会社が原告と本件基本契約及び本件個別契約を締結したこと,被告
会社が本件個別契約に基づく委託業務を履行したことは当事者間に争いが
なく,したがって,被告会社は,原告に対し,上記各契約に基づき,業務
委託料として1946万8170円の支払請求権(弁済期平成21年7月
31日)を有する。
イ本件個別契約は,委託事業者である原告が他社に提供する役務の全部又
は一部を他の事業者である被告会社に対し委託するものであるから,下請
法2条4項の役務提供委託に該当する。また,本件個別契約の時点の資本
金額は原告が9900万円(乙21),被告会社が2000万円(乙20)
であるから,原告は同条7項3号の親事業者に該当し,被告会社は同条8
項3号の下請事業者に該当する。
したがって,同法4条の2,下請代金支払遅延等防止法第4条の2の規
定による遅延利息の率を定める規則により,親事業者たる原告は,下請代
金の支払期日までに下請代金を支払わなかった場合,下請事業者である被
告会社に対し,役務の提供を受けた日から起算して60日を経過した日,
すなわち平成21年8月30日から支払をする日までの期間について,そ
の日数に応じ,本件業務委託料1946万8170円に年1割4分6厘を
乗じた額を遅延利息として支払わなければならない。
ウ争点③(本件相殺の効力)について
原告は,平成21年8月11日,被告会社に対し,本件不正競争に基づ
く損害賠償請求権をもって,本件業務委託料の支払債務と対当額で相殺す
るとの意思表示をし,本件相殺により本件業務委託料の支払債務は消滅し
たと主張する。
しかしながら,本件不正競争がいずれも認められないことは,前記1の
とおりである。したがって,自働債権である不正競争に基づく損害賠償請
求権が認められない以上,本件相殺は効力がない。
エ以上によれば,原告は,被告会社に対し,本件業務委託料1946万8
170円及びこれに対する平成21年8月1日から同月29日まで商事法
定利率年6分の割合による遅延損害金,同月30日から支払済みまで下請
法4条の2,下請代金支払遅延等防止法第4条の2の規定による遅延利息
の率を定める規則所定の年1割4分6厘の割合による遅延利息を支払うべ
き債務を負う。
オよって,被告会社の原告に対する第2事件請求は理由がある。
(2)第2事件被告X1らに対する請求について
ア争点④(第2事件被告X1らの責任)につき
被告会社は,①第2事件被告X2は原告に対する支配権を有しており,
原告の業務執行に関する意思決定を単独かつ自由に行うことができる地位
にあるから,原告の事実上の取締役に当たる,②第2事件被告X2は,原
告の代表取締役である第2事件被告X1及びL社長に対して,被告会社と
の間で支払意思のない業務委託契約を締結するよう指示したほか,何ら根
拠のない本件相殺を主張して本件業務委託料の支払を不当に拒絶するよう
指示し(あるいは,少なくとも,被告会社に対する債務の履行を指示すべ
きであったのに,著しく注意を欠いたためにそれを怠り),もって,第2
事件被告X1及びL社長をして,本件業務委託料の不払という取締役とし
ての任務懈怠行為を行わせた,③これにより,被告会社は,本件業務委託
料の支払を受ける権利ないし法的地位を侵害され,その結果,本件業務委
託料相当額の損害を被ったと主張する。
しかしながら,第2事件被告X2が,原告の代表取締役である第2事件
被告X1及びL社長に対し,業務委託料を支払う意思がないのに本件基本
契約及び本件個別契約を締結するよう指示したとか,第2事件被告X1及
びL社長が業務委託料を支払う意思なくしてこれらの契約を締結したとの
事実を認めるに足りる的確な証拠はない。また,第2事件被告X2におい
て根拠がないと知りながら本件相殺を主張して本件業務委託料の支払を拒
絶するよう第2事件被告X1及びL社長に指示したとか,第2事件被告X
1及びL社長において根拠がないと知りながら本件相殺を主張して支払拒
絶を行ったとの事実を認めるに足りる的確な証拠もない。
イよって,その余の点について判断するまでもなく,被告会社の第2事件
被告X1らに対する第2事件請求は理由がない。
3結論
以上の次第であるから,第1事件については,原告の請求はいずれも理由が
ないから棄却し,第2事件については,被告会社の原告に対する請求は理由が
あるから認容し,第2事件被告X1らに対する請求はいずれも理由がないから
棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
岡本岳
裁判官
寺田利彦
裁判官坂本康博は,転補につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官
岡本岳
別表添付省略

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛