弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
 本件は,控訴人が被控訴人に対し,被控訴人が所得税の源泉徴収及び納付(所得
税法212条1項)をしなかったとして,平成9年11月26日付けで納税告知及
び不納付加算税の賦課決定をしたことに対し,被控訴人が,同納税告知及び同加算
税の賦課処分の取消しを求めた事案であり,原審は,被控訴人の取消しを求める範
囲の一部について訴えを却下した上で,被控訴人が招へい外国人に支払った報酬に
係る源泉所得税についての納税告知及び不納付加算税の賦課処分の部分については
これを適法としたが,被控訴人が,フィリピン共和国のバービートール(「BAL
 BIRS TOOR」)というプロダクション及びインドネシア共和国のアリー
ナセル・アスリー(「ALI NASSER ASRY」)というプロダクション
(以下,両者を併せて「本件プロダクション」という。)に対して支払った手数料
等は,源泉徴収の対象とならないとして,当該部分に係る納税告知及びその不納付
加算税の賦課処分の部分を取り消した。これに対して控訴人のみが控訴したもので
ある。したがって,当審における主たる争点は,被控訴人が本件プロダクションに
対して支払った手数料等が所得税法161条2号,同法施行令282条1号の定め
る「国内において芸能人の役務の提供を主たる内容とする事業を行う者が受ける当
該人的役務の提供に係る対価」に該当するか否かである。
 事案の概要は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決の「事実及び理由」中の
「第2 事案の概要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決4頁24行目及び同12頁20行目から21行目にかけての「本件プロ
ダクションに支払った航空券代金及びコスチューム代金」をそれぞれ「本件プロダ
クションに支払った本件手数料等のうち航空券代金及びコスチューム代金等に係る
部分」と改める。
2 同11頁8行目の「それにより紹介する者の中から」を「それによって紹介さ
れる者の中から」と改める。
(控訴人の当審における主張)
 所得税法161条2号の「人的役務の提供に係る対価」は,同法施行令282条
に掲げる職業人を同職業人としての立場で役務提供する事業を行ったことによる対
価であれば足りると解されるべきである。すなわち,本件でいえば,原判決が認定
したごとく,「被控訴人は,外国人である芸能人を日本国内においてホステスとし
て勤務させる旨の雇用契約を締結し,同外国人も本件出演店にホステスとして派遣
されることを承知しており,実際にホステスとして勤務していたから,本件プロダ
クションは,招へい外国人を出国させる目的が芸能活動を行わせることになかっ
た」と認められる場合であっても,以下の観点にかんがみると,本件手数料等が,
国内源泉所得に該当するものと解すべきである。
(1)理論的正当性
 外国法人に対する「人的役務の提供に係る対価」が源泉徴収義務の対象となる趣
旨が,領土内所得課税主義に基づくものであることからすると,わが国における当
該外国人の活動内容によって,外国法人に対する源泉徴収義務の内容に差異を設け
るべき理論的必然性はない。そして,所得税法161条2項が「人的役務の提供に
係る対価」の支払時期を問題にしていないことからすると,外国プロダクションが
招へい外国人の芸能活動に対する対価を前もって支払う場合が考えられるが,その
ような場合,招へい外国人が本邦内に入国後どのような活動を行うかは同人次第で
あるため,厳密な意味で芸能活動に対する対価の部分を特定することは困難である
一方,芸能活動を行うための資格である「興業」の在留資格なくして本邦内での活
動は不可能であるという側面は否定できないから,「興業」という在留資格に基づ
く役務提供に係る対価ということができる。また,当該外国人が本来の事業と一体
としてその他の事業も行っていた場合に所得の内容を性質ごとに区別することもま
た困難であるが,このような場合においても同様なことがいえる。そうすると,い
ったん芸能人として入国した外国人が,予定された別個の活動を行うことによっ
て,課税行為を回避することを未然に防ぐという見地からも,所得税法161条2
号は,同法施行令282条の職業人を同職業人としての立場で役務提供する事業を
行ったことによる対価であれば足りると解釈されるべきである(しかも,法の許容
しない活動を行うことを例示として列挙することは不可能である。)。
 非居住者等に対する課税規定は,いわば国際法であるから,公序良俗に反する職
業人や,いわゆるホステスのように,入管法において単純労働者であることから在
留資格が認められない職業人の斡旋手数料等に課税する旨を法律で明示するような
立法をすることは,事実上不可能である。そうすると,所得税法161条2項及び
同法施行令282条は,適法に本邦に入国し就労が認められる在留資格を取得し得
ることが可能な職業人を想定して人的役務の提供事業を列挙したものと解される。
(2)課税実務上の弊害
 仮に,10人の外国人が本件プロダクションを通じて適法に本邦に入国した後
に,同外国人のうち6人は芸能活動を行ったが,残り4人は芸能活動を行わずホス
テスとして勤務した場合,本件プロダクションに対する手数料のうち,6人分に該
当する部分は国内源泉所得に該当し源泉徴収義務があり,4人分に該当する部分に
ついては源泉徴収義務がないとすれば,源泉徴収義務者において手数料の支払時に
は源泉徴収の要否が不明となり,納期限の経過を避けるために勤務実態を未確認の
まま仮納付した場合には,勤務実態を確認後に源泉所得税を還付する必要が生ずる
こととなる。
 また,源泉徴収義務者が芸能人の勤務実態の確認を要するとすれば,源泉所得税
の納期限を徒過する可能性が極めて高く,源泉所得税が未納となっている場合に
は,徴収権の時効(国税通則法72条1項)により,徴収不能という事態に陥るこ
とになりかねない。
 なお,課税庁において,既に出国した外国人ごとの過去の勤務実態を個別に確認
した上で,源泉所得税の還付あるいは告知処分を行うことは事実上不可能である。
 さらに,通常,本件プロダクションに対する手数料は,招へい外国人が日本国で
興行を行う期間が3か月間あるいは6か月間という前提で支払われることから,仮
に,芸能人が当初の4か月間は芸能活動を行ったが,その後の2か月間は芸能活動
を行わずにホステスとして勤務したような場合,その勤務実態に即した源泉課税が
要求されるとすれば,当初納付した源泉所得税のうち,2か月分に対応する部分つ
いては納付義務がないこととなり,上記と同様な事態に陥ることとなる。
 上記のような事態は,課税実務上も極めて不合理な結果となり,源泉徴収義務者
に過度の事務負担を強いるとともに,源泉徴収制度の法的安定性が担保されないこ
とにもなる。
 このような源泉徴収の制度面からしても,また,源泉所得税の納税義務の存否が
所得の支払の時に成立し,特別の手続を要しないで自動的に確定するものであるこ
とからしても,本件手数料等に係る源泉徴収については,同手数料等の支払の基礎
となる被控訴人と本件プロダクションとの間の契約の内容によって判断されるべき
である。
(3)課税の公平性
 招へい外国人の本邦における勤務実態がホステスである場合に,本件手数料等は
源泉徴収の対象にならず,招へい外国人に支払ったホステスとしての人的役務の提
供に対する報酬のみが源泉徴収の対象になるとすれば,本来招へい外国人に支払わ
れるべき報酬部分を源泉徴収の対象とならない手数料部分に上乗せ,あるいは手数
料に仮装して支払った後,国外において配分することにより,本来負担すべき源泉
所得税額を免れるような租税回避行為を行うことが容易に可能となる。
 このような租税回避行為を防止する観点からしても,本件手数料等が同法161
条に規定する国内源泉所得のいずれに該当し,所得税を源泉徴収すべきか否かの判
断は,被控訴人が,本件プロダクションに役務の提供の対価として支払った時にさ
れなければならない。
(被控訴人の当審における主張)
1 所得税法161条2号は,政令により,その国内源泉所得の範囲を限定してお
り,政令に具体的に定められた範囲を徴税上の便宜から拡張解釈することは,税法
の本質からしても,到底認められない。
 控訴人が主張する徴税上の便宜や不都合に基づく主張は,立法論の問題である。
2 本件外国法人は,自ら外国人女性を採用して日本に派遣しているものではな
く,単にフィリピン又はインドネシアにおける書類の作成名義人になり,招へい外
国人が日本に入国するための現地の労働省の許可及び日本大使館のビザの発給を受
けるための手続に関与し,これに対して,被控訴人がその手数料や名義借り料を外
国法人に支払っているものであるから,当該外国法人は日本国内における人的役務
の提供を主たる内容とする事業を行っている者とはいえず,それゆえ,同外国法人
が受け取る手数料等は,国内に源泉のある所得とはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件プロダクションは,被控訴人との間の合意のもとで,日本国
内の飲食店においてホステスとして勤務する外国人女性を斡旋し,この招へい外国
人を本国から出国させ,本邦に入国させることの対価として本件手数料等の報酬を
受給していたのであり,招へい外国人を出国させる目的が日本国内においてホステ
スを行わせることにあり,芸能活動を行わせることになかったことは明らかである
から,本件プロダクションが芸能人の役務の提供を主たる内容とする事業を行う者
(所得税法161条2号,同法施行令282条1号)に該当するということはでき
ないと判断するが,その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「第3 争点
に対する判断」欄の説示のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決18頁13行目の「本邦へ招へいし,」の次に「上記女性らとの間
で」と付加する。
(2)原判決20頁17行目の「手数料等を受給していたのであり」の次に「(し
たがって,本件プロダクションが受け取った本件手数料等は国内に源泉のある所得
とはいえないとする被控訴人の主張は採用できない。)」と付加する。
2 事案にかんがみ,控訴人の当審における主張についての当裁判所の判断を,以
下のとおり付加する。
 控訴人は,所得税法161条2号の「人的役務の提供に係る対価」は,同法施行
令282条に掲げる職業人を同職業人としての立場で役務提供する事業を行ったこ
とによる対価であれば足りると解されるべきであり,本件でいえば,「被控訴人
は,外国人である芸能人を日本国内においてホステスとして勤務させる旨の雇用契
約を締結し,同外国人も本件出演店にホステスとして派遣されることを承知してお
り,実際にホステスとして勤務していたから,本件プロダクションは,招へい外国
人を出国させる目的が芸能活動を行わせることになかった」場合でも,本件手数料
等が,国内源泉所得に該当するものと解すべきであると主張する。
 この主張の趣旨は必ずしも明らかではないが,仮に,その趣旨が,芸能人として
の形式を整えた外国人を,本件プロダクションがホステスとして稼働させる目的で
本邦に渡航させ,被控訴人も,当該外国人をホステスとして勤務させるために雇用
し,現にホステスとして本件出演店に派遣していたとしても,本件プロダクション
は所得税法161条2号所定の「国内において人的役務の提供を主たる内容とする
事業で政令に定めるものを行う者」に該当するとの主張だとすると,控訴人のいう
「理論的正当性」「課税実務上の弊害」及び「課税の公平性」を考慮しても,到底
採用できない。なぜなら,所得税法161条2号が,「国内において人的役務の提
供を主たる内容とする事業」の全部を規律の対象としておらず,「政令で定めるも
の(事業)」に限って対象としており,その政令である所得税法施行令282条
は,「法161条第2号(国内源泉所得)に規定する政令で定める事業は,次に掲
げる事業とする。」とした上で,その1ないし3号において具体的に各職業人を挙
げてその職業人の役務の提供を主たる内容とする事業と明定している趣旨に反する
ことになるからである。
 よって,控訴人の上記主張は採用できない。
第4 以上の認定,説示のとおり,控訴人の当審での主張を勘案しても,被控訴人
の請求は原判決認容の限度で理由があるから,原判決は相当であり,本件控訴は理
由がない。
 よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官 森脇勝
裁判官 中野信也
裁判官 林道晴

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