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平成24年4月25日判決言渡
平成23年(ネ)第10069号特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審大阪地方裁判所平成21年(ワ)第1193号)
口頭弁論終結日平成24年3月14日
判決
控訴人(原告)株式会社コスメック
訴訟代理人弁護士村林隆一
井上裕史
弁理士梶良之
補佐人弁理士瀬川耕司
被控訴人(被告)パスカル株式会社
被控訴人(被告)パスカルエンジニアリング株式会社
被控訴人(被告)パスカルトレーディング株式会社
被控訴人(被告)パスカル大分株式会社
被控訴人(被告)パスカル山形株式会社
被控訴人ら5名訴訟代理人
弁護士別城信太郎
弁理士深見久郎
森田俊雄
吉田昌司
荒川伸夫
佐々木眞人
高橋智洋
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
「原判決を取り消す。被控訴人らは,各自,原判決別紙イ号物件目録,ロ号物件
目録及びハ号物件目録記載の各製品の製造,販売,輸出又は販売の申出をしてはな
らない。被控訴人らは,各自,前記各製品及びその半製品を廃棄せよ。被控訴人ら
は,控訴人に対し,連帯して,5900万円並びにうち4400万円に対する平成
21年1月1日から,及びうち1500万円に対する同年2月6日から,それぞれ
支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。」との判決
第2事案の概要
1クランプ装置に関する発明につき3件の特許権(特許第3621082号,
第4038108号,第4139427号)を有する控訴人(原告)は,被控訴人
ら(被告ら)による原判決別紙イ号物件目録記載の旋回式クランプ(イ号物件)及
び同判決別紙ロ号物件目録記載の旋回式クランプ(ロ号物件)の製造・販売行為が
特許番号第3621082号及び第4139427号の特許権(順に082特許,
427特許あるいは本件特許権1,3)を侵害し,またイ号物件,ロ号物件及び同
判決別紙ハ号物件目録記載の旋回式クランプ(ハ号物件)の製造・販売行為が特許
番号第4038108号の特許権(108特許,本件特許権2)を侵害すると主張
して,被控訴人らに対し,上記行為の差止請求並びにイ号ないしハ号物件及びこれ
らの半製品の廃棄請求をするとともに,上記特許権侵害を理由とする損害賠償請求
及び108特許に係る補償金請求をした。
これに対し,被控訴人らは,082特許(本件特許権1)の請求項1の発明(本
件特許発明1),427特許(本件特許権3)の請求項1,2の発明(本件特許発明
3-1,3-1)の技術的範囲へのイ号,ロ号物件の属否,108特許(本件特許
権2)の請求項1の発明(本件特許発明2)の技術的範囲へのイ号ないしハ号物件
の属否を争い,また082特許(本件特許権1)の無効(新規性欠如,進歩性欠如),
108特許(本件特許権2)の無効(新規性欠如,特許法39条1項違反,同法2
9条の2違反,進歩性欠如),427特許(本件特許権3-1,3-2)の無効(新
規性欠如,同法39条1項違反,進歩性欠如)を主張し,差止めの必要性を争うな
どして,控訴人の上記請求を争った。
原審は,①被控訴人パスカルトレーディング株式会社がイ号ないしハ号物件の製
造・販売に関与した事実を認めるに足りる証拠はない,②本件特許発明1の構成の
うちの一部の構成は優先権主張の基礎とされる出願に係る明細書又は図面に記載さ
れておらず,優先権主張の利益を享受できないところ,現実の出願日(平成14年
10月2日)以前に実施品「スイングクランプLH」が製造・販売されていたので,
新規性を欠き,特許無効審判によって無効とされるべきものである,③本件特許発
明3-1,3-2も上記と同様の理由で優先権主張の利益を享受できないところ,
現実の出願日(平成14年10月10日)以前に実施品「スイングクランプLH」
が製造・販売されていたので,新規性を欠き,特許無効審判によって無効とされる
べきものである,④イ号物件はロ号物件に設計変更されており,本件特許権2(1
08特許)の設定登録後に製造・販売された事実は認められないし,将来被控訴人
らがイ号物件の製造・販売を再開する可能性はないから,本件特許権2に基づくイ
号物件の製造・販売の差止請求や損害賠償請求は理由がない,⑤イ号物件は控訴人
による平成18年3月14日付けの補正の前後を通じて本件特許発明2の技術的範
囲に属さず,平成19年10月4日付けの補正については被控訴人らにおいてその
内容を知る機会はなかったから,本件特許権2に基づく補償金請求は理由がない,
⑥ロ号,ハ号物件は本件特許発明2の技術的範囲に属しないなどとして,控訴人の
上記各請求を全部棄却した。
なお,被控訴人パスカルエンジニアリング株式会社は特許庁に対し,本件特許権
1について特許無効審判を請求し(無効2006-80215号),控訴人はその審
理において請求項1の特許請求の範囲の記載及び明細書の発明の詳細な説明の各一
部を改める旨の訂正請求をした。上記特許無効審判請求においては特許庁から上記
訂正を認め,請求を不成立とする審決がされ,この審決は原審で本件を審理中に確
定した(平成21年4月24日上告棄却及び上告不受理決定,平成21年(行ツ)
第41号,同年(行ヒ)第48号)。控訴人は上記訂正後の特許請求の範囲の記載に
従って,本件特許権1に基づく請求につき訴えを変更した(平成21年5月18日
付け訴えの変更申立書)。
また,被控訴人パスカルエンジニアリング株式会社は,特許庁に対し,108特
許の請求項1ないし4について特許無効審判を請求したところ(無効2010-8
00145号,請求項1が本件特許権2),請求項1ないし3の発明について特許を
無効とし,請求項4につき請求を不成立とする審決がされた。そこで,控訴人は請
求項1ないし3について審決取消訴訟を提起したが(平成23年(行ケ)第101
27号),平成24年2月29日,請求棄却の判決があり,確定した。控訴人は,平
成24年3月14日,当審において,本件特許権2に基づく請求に係る訴えを取り
下げ,被控訴人らは同意した。
2本件の前提となる事実は原判決「事実及び理由」中の第2の1記載のとおり
である。本件特許権2に基づく請求の訴えは終了したので,当審における争点は,
上記「事実及び理由」第2の2の(1),(3),(4),(6),(8)ないし(10)記載のとおりである。
第3当事者の主張
当事者の主張は,控訴審での控訴人の補充主張を次のとおり付加するほか,原判
決「事実及び理由」中の第3「争点に関する当事者の主張」1,3,4,6,8な
いし10に記載のとおりである。
【控訴人の補充主張】
1争点1(1)(本件特許発明1の新規性欠如の有無)について
(1)特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書,特許
請求の範囲又は図面・・・に記載された発明に基づ」くか否かは,明細書や図面か
ら当該事項を看取し得るか否かではなく,明細書及び図面のすべての記載を総合し
て導かれる技術的事項の関係で,新たな技術的事項を導入したか否かで判断される
べきである。しかるに,本件特許発明1の基礎出願である乙第2号証の段落【00
05】及び図2の記載内容を総合すれば,「旋回溝の傾斜角度を通常の角度よりも小
さいものとすることで,クランプロッドの旋回用ストロークを小さくしたクランプ」
との技術的事項が導かれる。原判決は乙第2号証の段落【0005】の記載等を考
慮せずに,図2は特許図面にすぎずこれから螺旋溝(旋回溝)の具体的な傾斜角度
を読み取ることはできないなどと判断するが,当業者であれば段落【0005】等
の記載から基礎出願において従来技術にはない小さな傾斜角度の旋回溝という技術
的事項を採用したことを理解できるところ,旋回溝の傾斜角度やガイド溝の具体的
な構成を開示するために明細書に添付されたのが,クランプロッドの下摺動部分の
展開図である図2であって,当業者は図2から具体的な傾斜角度を理解できるから,
原判決の上記判断は誤りである。
そして,控訴人は旋回溝の傾斜角度が通常の角度よりも小さいという技術的事項
を明確にするために,傾斜角度が30度を超える構成と,同角度が10度未満の構
成を除いたにすぎず,かかる除外によって新たな技術的事項が付加されたものでは
ない。
したがって,本件特許発明1にいう「傾斜角度を10度から30度の範囲にし」
たとの限定は基礎出願の明細書及び図面から導かれる技術的事項との関係で新たな
技術的事項を導入するものではないから,かかる構成が特許法41条1項にいう先
の出願「の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載さ
れた発明に基づ」かないとする原判決は誤りである。
また,上記図2からは,クランプロッドのガイド溝の隔壁の最小厚さがガイド溝
の溝幅よりも小さいことが明らかであるから,上記と同様に,本件特許発明1にい
う「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝
(26)の溝幅よりも小さい値に設定したこと」との限定も基礎出願の明細書及び
図面から導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入するものではなく,
かかる構成が特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又
は図面・・・に記載された発明に基づ」かないとする原判決は誤りである。
(2)本件特許発明1の基礎出願後の平成14年5月ころから控訴人が販売を
開始した「スイングクランプLH」は,製造装置の一部にすぎず,納入先での分解
や改造は禁止されている。そうすると,少なくとも本件特許権1の出願以前におい
ては,「スイングクランプLH」の購入者はその具体的構成を知らないし,控訴人も
クランプ装置の外形や機能等を開示していたにすぎず,その内部の構造を開示して
いたわけではない。したがって,「スイングクランプLH」の製造・販売によって同
製品に係る発明が公然実施されたことになるものではないから,この旨をいう原判
決の判断は誤りである。
なお,特許出願前に発明者自身が当該発明を公知にした場合に,当該特許を無効
にすることは特許権の価値を著しく損なうものであって,基礎となる出願がされて
いる本件特許権1については公然実施の判断は慎重にされるべきであるし,かかる
公然実施に基づき新規性が欠如するものであるとし,特許法104条の3の抗弁を
主張することは,特許権を著しく矮小化するもので,権利濫用である。
(3)以上のとおり,本件特許権1の新規性欠如を理由とする無効の抗弁には理
由がない。
2争点3(1),4(1)(本件特許発明3-1,3-2の新規性欠如の有無)につい

本件特許発明1と同様に,本件特許発明3-1における「その外周部を展開した
状態における上記の旋回溝の傾斜角度を10度から30度の範囲内に設定し」,「隣
り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)
の溝幅(W)又は上記の係合ボールの直径(D)よりも小さい値に設定した」との
各限定事項も,基礎出願の明細書及び図面から導かれる技術的事項との関係で新た
な技術的事項を導入するものではなく,かかる構成が特許法41条1項にいう先の
出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」か
ないとする原判決は誤りである。
また,本件特許発明3-2における「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の
最小厚さ(T)は,隣り合う一方の旋回溝(27)の他端部を他方の旋回溝(27)
の一端部の近傍に位置させることによって形成し,かつ,同上のガイド溝(26)
の溝幅(W)又は上記の係合ボール(29)の直径(D)よりも小さい値に設定し
た」との限定事項も,上記基礎出願の明細書及び図面から導かれる技術的事項との
関係で新たな技術的事項を導入するものではなく,かかる構成が特許法41条1項
にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・
に記載された発明に基づ」かないとする原判決は誤りである。
そして,前記1のとおり,「スイングクランプLH」の製造・販売によって発明が
公然実施されたことになるものではないか,又は特許法104条の3の主張は権利
の濫用であるから,本件特許権3-1,3-2の新規性欠如を理由とする無効の抗
弁には理由がない。
第4当裁判所の判断
当裁判所も,①被控訴人(被告)パスカルトレーディング株式会社がイ号ないし
ハ号物件の製造・販売に関与した事実を認めるに足りる証拠はないから,控訴人(原
告)の同被控訴人に対する各請求はいずれも理由がない,②本件特許発明1につい
ては,特許法29条等の規定の適用に関して優先権主張の利益を享受できず,現実
の出願日である平成14年10月2日を基準として新規性等を判断すべきであると
ころ,同日以前に実施品「スイングクランプLH」が製造・販売されていたので,
新規性を欠き,特許無効審判によって無効とされるべきものである,③本件特許発
明3-1,3-2についても,本件特許発明1と同様の理由で優先権主張の利益を
享受できず,現実の出願日である平成14年10月10日を基準として新規性等を
判断すべきであるところ,同日以前の実施品の製造・販売によって新規性を欠き,
特許無効審判によって無効とされるべきものであるから,控訴人の各請求はいずれ
も理由がないと判断する。
その理由は,控訴人の当審における補充主張について次のとおり付加して判断す
るほか,原判決「事実及び理由」中の「第4当裁判所の判断」1ないし3(58
~67頁)記載のとおりである。
1本件特許発明1の新規性欠如の有無について
控訴人は,本件特許発明1にいう「傾斜角度を10度から30度の範囲にし」た
との限定も,「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上
のガイド溝(26)の溝幅よりも小さい値に設定したこと」との限定も,基礎出願
の明細書及び図面から導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入する
ものではないとして,これらの構成が特許法41条1項にいう先の出願「の願書に
最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載された発明に基づ」
かないとする原判決は誤りであるなどと主張する。
しかしながら,原判決が認定するとおり(58~63頁),平成13年11月13
日にされた特許出願(第1基礎出願)に係る基礎出願明細書1(図面を含む。乙2)
にも,平成13年12月18日にされた特許出願(第2基礎出願)に係る基礎出願
明細書2(図面を含む。乙3)にも,平成14年4月3日にされた特許出願(第3
基礎出願)に係る基礎出願明細書3(図面を含む。乙4)にも,クランプロッド5
の下摺動部分12に4つのガイド溝を設けることを前提に,下摺動部分12の外周
面を展開した状態における螺旋溝27(旋回溝)に傾斜角度を付けることは開示さ
れているものの,傾斜角度の具体的範囲については記載も示唆もされておらず,本
件特許発明1の構成のうち,「第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態におけ
る上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定」す
るとの構成(発明特定事項)については,平成14年法律第24号による改正前の
特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・
に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでないから,本件特許発明1に
ついての特許法29条等の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できず,
現実の出願日である平成14年10月2日を基準として新規性等を判断すべきであ
る。
この点,控訴人は,当業者であれば基礎出願明細書1の段落【0005】等の記
載から基礎出願において従来技術にはない小さな傾斜角度の旋回溝という技術的事
項を採用したことを理解できるところ,旋回溝の傾斜角度やガイド溝の具体的な構
成を開示するために明細書に添付されたのが,クランプロッドの下摺動部分の展開
図である図2であって,当業者は図2から具体的な傾斜角度を理解できるなどと主
張する。しかしながら,上記図2には寸法や角度等の数値が一切記載されておらず,
左右の端を合わせても一つの円筒としてきれいに繋がるものではないことに照らし
ても,上記図2は装置の部材の概要を示した模式図にすぎず,図面から具体的な傾
斜角度を読み取ることができる性格のものではないことが明らかである。また,本
件特許発明1のクランプ装置のようなクランプ装置において,クランプロッドの旋
回動作をガイドするガイド溝の傾斜角度を従来のクランプ装置におけるそれより小
さくすると「10度から30度の範囲に」なるとの当業者の一般的技術常識を認め
るに足りる証拠はない。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
なお,原判決が判示するとおり(62頁),上記図2からガイド溝(旋回溝)間の
隔壁の厚さとガイド溝の溝幅の大小関係を一応看取することができるとしても,当
業者において「隔壁の最小厚さ」を「ガイド溝の溝幅」よりも小さくするという技
術的思想まで看取することは困難であるから,本件特許発明1の「隣り合うガイド
溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)の溝幅より
も小さい値に設定したこと」との構成(発明特定事項)についても,改正前の特許
法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記
載された発明に基づ」いて特許出願されたものでなく,かかる観点からも,本件特
許発明1についての特許法29条等の規定の適用については,優先権主張の利益を
享受できないというべきである。
そして,控訴人が上記平成14年10月2日以前(同年4月8日)に製造・販売
を開始した「スイングクランプLH」は本件特許発明1の実施品であるから,本件
特許発明1に係る特許(本件特許1)は新規性(特許法29条1項2号)を欠き,
特許無効審判によって無効とされるべきものである。
控訴人は,「スイングクランプLH」は,製造装置(製造工程で使用される装置)
の一部にすぎず,納入先での分解や改造は禁止されているから,「スイングクランプ
LH」の製造・販売によって同製品に係る発明が公然実施されたことになるもので
はないなどと主張する。しかしながら,「スイングクランプLH」の購入者が同製品
を分解してその構成を知ることができなかったことを窺わせるに足りる事情は証拠
上存しないのであって,控訴人の上記主張を採用することはできない。また,被控
訴人らによる新規性欠如の主張や特許法104条の3の抗弁の提出が権利濫用であ
るということもできない。
そうすると,控訴人の被控訴人らに対する本件特許権1(本件特許発明1)に基
づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
2本件特許発明3-1,3-2の新規性欠如の有無について
(1)前記1(本件特許発明1の新規性欠如の有無についての判断)と同様に,
本件特許発明3-1の構成のうち,「その外周部を展開した状態における上記の旋回
溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定し」,「隣り合うガ
イド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)の溝幅
(W)又は上記の係合ボールの直径(D)よりも小さい値に設定した」との各構成
(発明特定事項)も,基礎出願明細書1ないし3で開示されておらず,前記改正前
の特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・
に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでないから,本件特許発明3-
1についての特許法29条等の規定の適用については,優先権主張の利益を享受で
きず,現実の出願日である平成14年10月10日を基準として新規性等を判断す
べきである。
(2)前記(1)と同様に,本件特許発明3-2の構成のうち,「上記の隣り合うガ
イド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)は,隣り合う一方の旋回溝(27)
の他端部を他方の旋回溝(27)の一端部の近傍に位置させることによって形成し,
かつ,同上のガイド溝(26)の溝幅(W)又は上記の係合ボール(29)の直径
(D)よりも小さい値に設定した」との構成(発明特定事項)も,基礎出願明細書
1ないし3で開示されておらず,前記改正前の特許法41条1項にいう先の出願「の
願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出
願されたものでないから,本件特許発明3-2についての特許法29条等の規定の
適用については,優先権主張の利益を享受できず,現実の出願日である平成14年
10月10日を基準として新規性等を判断すべきである。
(3)そうすると,前記1と同様に,本件特許発明3-1及び3-2の実施品で
ある「スイングクランプLH」の製造・販売によって,本件特許発明3-1,3-
2に係る特許(本件特許3-1,3-2)は新規性(特許法29条1項2号)を欠
き,特許無効審判によって無効とされるべきものである。
したがって,控訴人の被控訴人らに対する本件特許権3-1,3-2(本件特許
発明3-1,3-2)に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,
理由がない。
第6結論
以上によれば,控訴人の各請求は理由がなく,本件控訴も理由がないから,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
古谷健二郎
裁判官
田邉実

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