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平成17年(行ケ)第10095号 審決取消請求事件
(旧事件番号 東京高裁平成16年(行ケ)第394号)
口頭弁論終結日 平成17年9月1日
          判           決
   
       原      告         X
       訴訟代理人弁理士   深見久郎
       同          森田俊雄
       同          竹内耕三
       同          野田久登
       同          向口浩二
   
       被      告   パパ ジョンズ インターナショナル
インコーポレーテッド
       代表者   
       訴訟代理人弁護士   中村哲朗
       同          中村紀夫
       同          雨宮正啓
       同          伊郷亜子
       同          廣中太一
          主           文
    1 特許庁が取消2003-30606号事件について平成16年8月1
0日にした審決を取り消す。
    2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
          事実及び理由
第1 請求
   主文第1項と同旨
第2 事案の概要
   本件は,被告の有する本件商標について,原告が商標法50条1項に基づき
不使用による商標登録取消しの審判を請求したところ,特許庁が審判請求不成立の
審決をしたことから,原告が同審決の取消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
 1 請求原因
  (1)特許庁における手続の経緯
   被告は,商標登録第3199279号商標(平成6年1月13日出願,平
成8年9月30日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
 原告は,平成15年5月8日付けで本件商標につき商標法50条1項に基
づき不使用による商標登録取消審判を請求(以下「本件取消審判請求」という。)
し,同年6月4日(以下「取消審判請求登録日」という。)にその予告登録がなさ
れた。
 特許庁は,同請求を取消2003-30606号事件として審理した上,
平成16年8月10日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,そ
の謄本は平成16年8月20日原告に送達された。
(2)本件商標の内容
  本件商標の内容は,次のとおりである(甲13の2)。
(商標)
(指定商品)
  第30類「ピザ」
  (3)審決の内容
   審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。その要旨とするところ
は,本件商標は,審判請求登録前3年以内に日本国内において商標権者,専用使用
権者又は通常使用権者のいずれによっても指定商品について使用されていなかった
ものの,その不使用については,商標権者たる被告は我が国におけるピザに係るフ
ランチャイズ展開について具体的な準備を進めてきており,本件商標について真摯
なる使用の意思が認められるから,商標法50条2項ただし書にいう正当な理由が
あるとしたものである。
  (4)小括
  しかし,審決が被告において本件商標を本件取消審判請求登録前の3年以
内に日本国内において使用しなかったとしたことは正当であるが,使用をしなかっ
たことについて正当な理由があるとしたことは誤りであるから,本件審決は違法と
して取り消されるべきである。
 2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)ないし(3)の事実はいずれも認める。
 3 被告の抗弁
(1)被告による本件商標の使用
 本件商標は,取消審判請求登録日である平成15年6月4日の前3年以内
に,以下のように被告によって使用されていたから,そもそも原告の本件取消審判
請求は成り立たない。
ア 本件商標を表示しての指定商品の提供
 被告は,日本におけるフランチャイズ展開の協議のために関連業者が米
国(アメリカ合衆国)を訪れた際には,本件商標を表示した店舗に案内し,ピザ,
販売促進品等を提供している。例えば,伊藤忠商事の従業員に対し,平成13年1
月11日から同月13日の間にピザ,飲食物及び販売促進品を提供した。これらの
提供がなされたのは海外であるが,日本における事業展開に関するものであれば国
内での使用と同視すべきである。米国訪問のときに提供した場合とその後郵送した
場合とで結論を異にすることは不合理であるからである。これらの行為はいずれ
も,被告が,審判請求の登録前3年以内に指定商品及び指定商品の販売促進のため
に本件商標を付したものを日本において譲渡して本件商標を使用したと認定される
べきものである。
イ 本件商標を付した取引書類の頒布
 被告は,フランチャイジーの開拓営業過程において,以下に列挙すると
おり本件商標の付された指定商品のカタログを日本国内の取引先に手渡し,また,
本件商標の付された年次報告書を,ピザ及び飲食物提供に関するフランチャイズの
規模,状況及び業務方針の説明のために手渡している。
①JETRONY(2000年10月)
②伊藤忠商事(2000年12月/2001年1月)
③アリアケジャパン(2001年1月)
④パシフィックアライアンス(2001年1月)
⑤プラザクリエイト(2002年1月/2月)
⑥アクアネット(2002年7月1日)
⑦ジャストプランニング(2002年8月26日)
⑧ストロベリーコーンズ(2002年10月18日)
⑨西洋フードシステム(2003年2月3日)
⑩オリックスアルファ(2003年4月22日)
 このように,被告は,取消審判請求登録日の前3年以内に指定商品であ
るピザ及び飲食物の提供に関する取引書類である名刺,カタログ及び年次報告書を
頒布して本件商標を使用している。
ウ ウェブページによる広告
 被告は,平成8年(1996年)12月20日から現在に至るまで,ウ
ェブページによって指定商品であるピザ及びピザの提供に関する広告を行い(乙
8,9),このウェブページの広告には,本件商標が付されている。ウェブページ
には,被告のフランチャイズ店において販売提供されるピザの種類が掲載されてい
るほか,フランチャイジーの募集を行い,その条件まで詳細に記載されている上,
日本を含めた海外からのフランチャイジー希望者にも対応する形をとっている。こ
のウェブページは,日本の検索エンジン「MSNサーチ」,「アップル・エキサイト」
等において「papajohns」,「papajohn's」の語で検索した場合に直ちに検索され
るものである(乙24)。また,日本からのアクセスも多数に上るものであり,日
本からのフランチャイジー申込み及び問い合わせも多くある(乙7)。
 このように,被告は,日本国内において取消審判請求登録日の前から指
定商品であるピザ及び飲食物の提供に関する広告を電磁的方法により提供して本件
商標を使用している。電磁的方法による広告に関する商標法改正(2条3項8号)
は,商標の「使用」にこれが含まれることを明確にするためのものであり,同改正
法施行前の広告行為にも当然に適用される。
エ 雑誌による広告
 被告は,ニューズ・ウィーク等の世界的に著名な雑誌に本件商標を付し
て商業広告を出しており,これらが日本において頒布されていることは明白である
から,これは,商品若しくは役務に関する広告に該当し,商標法2条3項8号の
「使用」であることは明らかである。なお,当該広告は,主にフランチャイジーを
募集するための広告であるが,被告が急成長中のピザカンパニーであること,世界
中に約3000店舗を有すること,ピザの品質にこだわる企業姿勢,国際的ピザチ
ェーンの中で品質と顧客満足度においてNo.1を4年間獲得したことが記載されてい
る上,ピザ自体の写真が広告の半分を占めていることから,これによって指定商品
に信用蓄積作用が生じていることは明らかあり,ピザあるいは飲食物の提供そのも
のの商品広告でないことによって商標法2条3項8号の「使用」に該当しないとい
うことはできない。
(2)「正当な理由」の存在(商標法50条2項ただし書)
仮に被告による使用の事実が認められないとしても,被告が本件商標を我
が国において使用していないことについて正当な理由があるとした審決の認定判断
に誤りはない。
ア 本件のように商標権者が外国人であり,かつ,世界第3位もの規模を誇
る大規模フランチャイズチェーンである場合(乙1,乙2)は,商標権者が日本人
である場合,又は商標権者がフランチャイズ形式を前提としない企業である場合よ
りも商標の使用に多大な困難の伴うことは明白であり,そのような場合には個別事
情に応じた弾力的な基準が設けられるべきであって,これは「正当な理由」という
抽象的な要件のみを規定し,具体的要件を定めていない商標法50条2項ただし書
の趣旨にも合致する解釈である。したがって,被告が我が国におけるピザに係るフ
ランチャイズ展開について具体的な準備を進めており,本件商標について「真摯な
る使用の意思」が認められることを指摘し,これをもって正当な理由があると認定
した審決に違法はない。
  仮に,原告の主張するように登録商標の使用について正当な理由がある
場合を商標権者の責めに帰すことができない不可抗力が存在する場合に限定して解
釈するとしても,本件において,被告には正当な理由が存在することは明らかであ
る。すなわち,被告は,少なくとも平成12年5月以降は,日本におけるマスタ
ー・フランチャイジーの発掘活動を熱心に行っており,それにもかかわらず,日本
におけるマスター・フランチャイジーの発掘・契約に至らなかったのは,当時,既
に米国をベースとする大規模ピザチェーン「PizzaHut」及び「Domino'sPizza」が
既に日本市場に参入していたこと,既に大規模ピザチェーンに成長していた被告の
マスター・フランチャイジーとしてふさわしい経験・資力を有している日本企業の
絶対数が少なかったこと,当時日本は不況であって外食フランチャイズ産業は過当
競争値下げ競争に入っていたこと,マスター・フランチャイジーに最もふさわしい
と思われた伊藤忠商事との成約が同社側の事情でかなわなかったこと等,被告の責
めに帰すことのできない事情が存在したからである(乙5)。
イ 原告は,本件商標の使用はフランチャイズ方式によらなければ不可能と
いうわけではないこと,マスター・フランチャイジーにとって資格・資力は必須条
件ではないこと,マスター・フランチャイジーを捜し契約を締結することには長時
間を要しないことを指摘して,審決の認定が誤っている旨主張する。
  しかし,外国で発達した大規模外食チェーンが他国に進出する際には,
当該国の消費者の傾向やその国の文化等に通じている企業等にその展開を任せなけ
れば,事実上その進出は不可能である。既に世界的に有名なピザ店舗フランチャイ
ズチェーンであった被告にとって,そのブランド力を維持するために資格・資力を
持つマスター・フランチャイジーを捜すことは必須であり(乙5),被告のブラン
ド力を維持するにふさわしい資格・資力を持つマスター・フランチャイジーの探索
活動に多大な困難を伴うことは当然である。したがって,フランチャイズ産業の他
国進出においては,マスター・フランチャイジーを捜すのが通例であり,資格・資
力のあるマスター・フランチャイジーを捜し契約をすることは困難を伴い一定の時
間を要する,とした審決の認定に誤りはない。
ウ 原告は,被告の行った準備行為は単なる使用許諾先の探索活動にすぎな
いからフランチャイズ展開について具体的な準備ということはできず,被告による
探索活動の内容からは被告が「真摯なる使用の意思」を有していたとはいえない旨
主張する。
  しかし,「真摯なる使用の意思」の前提となる具体的な準備行為に該当
する行為は,商標権者の行う商標使用行為の実態に即して個別に判断すべきであ
る。この点,大規模フランチャイズチェーンの他国進出においてはまず資格・資力
のあるマスター・フランチャイジーを捜しフランチャイズ契約を締結するのが不可
欠であり(乙5),かつ,この作業が一番の困難を伴うこと,その後は契約内容を
履行すれば足りることにかんがみると,大規模フランチャイズチェーンが他国進出
する際にはマスター・フランチャイジーの探索を開始し,複数の企業と交渉して使
用の意思を外部に表明することで足りると解するべきである。本件において,被告
はブローカー等の第三者(乙5,乙18)を通じて,上記(1)イの①ないし⑩に列挙
するように指定商品のカタログ(乙6)を日本国内のマスター・フランチャイジー
開拓のために手渡し,また,年次報告書を被告の指定商品に関するフランチャイズ
の規模,状況及び業務方針の説明のために手渡している(乙5,乙7)。特に,被
告は平成10年に日本におけるフランチャイズチェーン展開について伊藤忠商事に
プレゼンテーションを行うとともに,伊藤忠商事の従業員は,平成13
年1月に,日本におけるブローカーと共に米国の被告事務所へ赴き,試食,施設見
学,交渉等を行い,その後も,様々な企業の代表が伊藤忠商事を介して被告事務所
に訪問してきた(乙5,乙7)。さらに,被告のウェブページにおいては,フラン
チャイジーの募集を行い,その条件まで詳細に記載されているし,日本を含めた海
外からのフランチャイジー希望者にも対応する形をとっており,日本からのアクセ
スも多数に上るものである(乙7)。また,日本においても頒布されているニュー
ズ・ウィーク等の世界的に著名な雑誌にフランチャイジーを募集する旨の広告を載
せ,ここには被告が急成長中のピザカンパニーであること,世界中に約3000店
舗を有すること,ピザの品質にこだわる企業姿勢,国際的ピザチェーンの中で品質
と顧客満足度においてNo.1を4年間獲得したことを記載し,精力的に世界中のフラ
ンチャイジーを募集している(乙10~17)。
  以上のように,被告は,内部で本件商標使用の準備行為をするのみなら
ず,日本国内の数多くの有名企業と交渉を継続して行っており,その使用意思が外
部に表明されていること,ウェブページを通じて世界中の企業等に対しフランチャ
イジーの募集を行っていること,著名雑誌の広告を通じて世界中の企業等に対しフ
ランチャイジーの募集を行っていることからすれば,被告が本件商標を日本におい
て使用する具体的準備を行っていたのは明らかである。また,大規模フランチャイ
ズチェーンのマスター・フランチャイジーについては,ブランド力を維持するだけ
の資力・資格が必要であるところ,この候補者に該当する企業自体が限定されるの
であるから,これだけの数の企業にマスター・フランチャイジー発掘のために接触
したことにかんがみれば,被告に商標使用について「真摯なる使用の意思」が存在
したことは明らかである。
  したがって,「真摯なる使用の意思」を認定した審決に誤りはない。
(3)取消審判請求の権利濫用
 原告による本件取消審判請求は,被告を害することを目的としてなされた
ものであり,権利濫用に該当する。
 原告は,京都でチーズケーキ店を営んでおり,その業務との関係で,「菓
子及びパン」を指定商品とする登録商標2件(登録番号第4251306号,第4
324338号)と「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,香辛料,即席菓子の
もと」を指定商品とする登録商標2件(登録番号第4333124号,第4368
033号)の合計4件の登録商標を原告が代表取締役を務めるジェ・ピー・カーメ
ル有限会社(以下「カーメル社」という。)を通じて取得している(乙19~2
2)。そして,原告の経営するチーズケーキ店にはピザのメニューはなく,また,
ピザを調理する設備も存在しない。
 被告は,本件取消審判請求に先立つ平成14年12月時点で,米国内に2
585店舗を有し,英国に79店舗,カナダに7店舗,コスタリカに11店舗,グ
アテマラに4店舗,ホンジュラスに4店舗,メキシコに38店舗,プエルトリコに
10店舗,サウジアラビアに14店舗,ベネズエラに22店舗を有しており(乙
1),アジアでは,平成15年に上海,韓国に新店舗を開設した(乙7)。これら
店舗においては,すべて本件商標が使用されている。また,被告は,米国で「PAPA
JOHN'S」の商標を取得しており,かつ,90以上の国々及びEUにおいても同様の
商標を取得している(乙1)。被告の株式は米国のナスダックに上場され(乙
1),また,被告は,フランチャイズの拡大計画を1985年(昭和60年)の創
立以来行ってきており,日本市場参入のために,自ら又はブローカー,JETRO等の第
三者を通じてフランチャイジーの業界の企業と協議・交渉をしてきた。
 他方,原告は,本件取消審判請求と同日(平成15年5月8日)付けで,
次のとおりの内容を有する商標登録出願(乙23。以下,同出願に係る商標を「乙
23商標」という。)を行っているが,
乙23商標と本件商標は,その外観,呼称及び観念において極めて紛らわし
く,類似するものである上,その指定商品には本件商標の指定商品である第30類
の「ピザ」や,第43類として「飲食物の提供」が入っており,その指定商品も同
一であるから,商標法4条1項11号により両立しない関係にある。すなわち,仮
に原告の本件取消審判請求と上記出願が認められれば,被告は本件商標と同一の商
標を指定商品「ピザ」ないし「飲食物の提供」で登録することはできなくなる。
 以上のように,原告は,自らの登録商標の保全,自らの業務の維持,保全
につき何ら積極的な利益をもたらさない本件取消審判請求を行っていること,他
方,原告による本件取消審判請求及び上記新たな商標登録出願が認められれば,被
告は多大な打撃を被ることは確実であること,原告がこれらのことを認識して本件
取消審判請求・商標登録出願を同一日に行っていることからすれば,原告に,被告
の日本市場参入を不当に阻止しようとする目的があることは明らかである。したが
って,原告による本件取消審判請求の申立ては被告が有する本件商標に化体された
信用にただ乗りするフリーライドを意図したものであるといわざるを得ない。
 また,原告は,京都市においてチーズケーキ店を営んでいるものの,ピザ
を販売しておらず,その使用する商標と本件商標とは呼称を共通にする類似関係に
あるものの,指定商品が異なっていたことから並存していたものである。原告の出
願に係る乙23商標は,商標法4条1項15号,19号に該当し,仮に本件商標が
その登録を取り消されたとしても,依然として拒絶理由を有していることに変わり
はない。
 したがって,原告による本件取消審判請求は,被告に損害を加える不正の
目的をもって行ったものといわざるを得ないほか,原告の上記出願に係る乙23商
標が商標法4条1項15号,19号に該当することからすれば,請求の具体的な利
益を欠いた不当なものであり,権利濫用というほかない。
 4 被告の抗弁に対する原告の認否と反論
(1)本件商標の使用の主張に対し
 被告は,本件商標は指定商品「ピザ」について取消審判請求登録日である
平成15年6月4日前3年以内に被告によって使用されていたと主張するが,本件
商標がその指定商品について審判請求の登録前3年以内に使用されなかったこと
は,審決の認定したとおりである。
(2)「正当な理由」の主張に対し
ア 「正当な理由」の適用範囲
(ア)審決は,「被請求人は,本件審判請求の登録前3年以内の期間内に,
我が国におけるピザに係るフランチャイズ展開について具体的な準備を進めていた
ことが明らかであり,本件商標について真摯なる使用の意思が認められるものであ
る。かかる場合は,商標の使用する者の業務上の信用の維持を図るという商標法の
目的に照らし,被請求人が本件商標を我が国において使用していないことについて
正当な理由があるものとすべきである」(審決19頁最終段落)と認定判断し,一
企業内の経営的又は経済的理由による不使用であっても,使用の準備がなされてお
り,「真摯なる使用の意思」が認められる場合は,商標法50条2項ただし書に規
定する「正当な理由」に該当するとしたが,かかる判断は,「正当な理由」の解釈
を誤ったものである。
(イ)東京高裁平成9年(行ケ)第53号・同9年10月16日判決(甲
2)は,「商標法は,「商標権は,設定の登録により発生する。」(商標法18条
1項)として,商標権の成立につき登録主義を採用しているが,商標法1条の規定
に照らすと,同法は,使用商標の保護を本来の目的としていて,商標権者が登録商
標を使用することを保護の前提としているものと解される。しかして,一定期間登
録商標を使用しない場合には保護すべき対象がないものと考えられ,他方,そのよ
うな不使用の登録商標に対し排他独占的な権利を与えておくのは,第三者の商標選
択の範囲を不当に狭めるなどの不合理があることから,商標法50条の不使用によ
る商標登録の取消審判制度が設けられているものと解される。上記のとおり,商標
法は本来,登録商標の使用を保護の前提としていること,及び,不使用取消審判制
度が設けられている趣旨からすると,登録商標の不使用につき商標法50条2項た
だし書にいう「正当な理由」があるといえるためには,登録商標を使用しないこと
について当該商標権者の責めに帰すことのできないやむを得ない事情があり,不使
用を理由に当該商標登録を取り消すことが,社会通念上商標権者に酷で
あるような場合をいうものと解するのが相当である」としたが,上記判示内容にか
んがみれば,一企業内の経営的又は経済的理由による不使用は,「当該商標権者の
責めに帰すことのできないやむを得ない事情」とはいえないことはもとより,単に
使用の準備がなされており,「真摯なる使用の意思」が認められる場合であって
も,「正当な理由」に該当するとはいえない。また,東京高裁平成14年(行ケ)
第50号・同年9月20日判決(甲7)及び平成14年(行ケ)第67号・同年9
月20日判決(甲8)は,商標権者が使用の準備をしていた場合であっても,「正
当な理由」に該当にしない旨を明確に判示しており,かかる判示内容にかんがみれ
ば,使用の準備が「正当な理由」に該当しないことは明らかである。
イ 本件商標の使用を阻害する要因の有無についての認定の誤り
(ア)審決は,本件商標の使用を阻害する要因の基礎的事実として,「フラ
ンチャイズ産業の他国進出においては,マスター・フランチャイジーを捜すのが通
例であるところ,資格・資力のあるマスター・フランチャイジーを捜し契約を締結
することは困難を伴い一定の時間を要する」(審決19頁下第2段落)と認定した
が,誤りである。
(イ)本件商標に係る指定商品は,第30類「ピザ」であって,「フランチ
ャイズ方式によって販売されるピザ」又は「フランチャイズ方式によるピザの提
供」ではなく,被告がどのような経営方式で本件商標を使用するかは被告の自由で
ある。したがって,被告による本件商標の使用が「フランチャイズ方式」によるも
のでなければならないとする前提は,被告の個別事情であり,不当である。ピザの
販売は,既存の流通経路を通じて達成可能であるから,フランチャイズ方式によら
なければならないとする必然性は全く存在しない。また,ピザの販売は,レストラ
ンにおける持ち帰り方式による販売に限らず,冷凍ピザの販売,インターネットに
よる販売,宅配ピザ等によっても可能であり,ピザの販売において「マスター・フ
ランチャイジーを捜すのが通例」ではないことは明らかである。さらに,審決は,
「マスター・フランチャイジー」は資格・資力のあるものでなければならないこと
を当然の前提としているが,「資格・資力」は望ましい条件ではあっても,フラン
チャイズの展開において必須の条件ではない。
(ウ)審決のいう「一定の時間」とはどれほどの時間を指すのか全く不明で
あるが,契約は当事者の条件が相互に合致さえすれば成立し得るのであるから,1
年に満たない期間でも契約の締結は可能であるというべきである。特に,本件にお
いては,被告は複数の外国への進出経験があるのであるから,条件が合致さえすれ
ば,極めて短期での契約締結は可能であったというべきである。
ウ 「具体的な準備」及び「真摯なる使用の意思」の有無についての認定の
誤り
(ア)審決は,「以上を総合勘案すると,被請求人は,本件審判請求の登録
前3年以内の期間内に,我が国におけるピザに係るフランチャイズ展開について具
体的な準備を進めていたことが明らか」(審決19頁最終段落)と認定したが,被
告が行ったとする「マスター・フランチャイジー」の探索活動は,単なる本件商標
の使用許諾先の探索活動にすぎず,「フランチャイズ展開について具体的な準備」
ということはできない。
(イ)また,審決は,「本件商標について真摯なる使用の意思が認められ
る」(審決19頁最終段落)と認定したが,誤りである。
  そもそも,商標登録には少なくとも使用意思の存在が要件とされてお
り(商標法3条1項柱書,15条),不使用の場合はその登録を取り消すこととし
ているのであるから,商標権を取得しその維持を図らんとする者が使用意思を有す
ることは当然のことである。したがって,通常の使用意思の水準を越えて「真摯な
使用意思」があるということを認定するためには,商標権者の企業規模と資力に応
じて,使用のための相応の努力が払われたことを示す事実が客観的証拠によって裏
付けられなければならない。しかし,被告がブランド力を維持しつつ日本に進出す
ることは容易であったというべきであり,被告が日本進出をちゅうちょしたのは,
単に,被告独自の理論に基づく理想のマスター・フランチャイジーが探索できなか
ったか,又は被告の理想とする高収益をもたらすような市場がなかったというだけ
である。そうであるならば,被告が独善的に理想とする環境が整わないことをもっ
て,本件商標の不使用について「正当な理由」が存在すると主張することは,到底
許されない。
エ 以上を総合勘案すると,「正当な理由」に値するほどの事情が被告にあ
ったとは到底いえず,本件商標の不使用について正当な理由があると認定判断した
審決は誤りである。
(3)権利濫用の主張に対し
 ア 自らの商標登録出願の日と同日に第三者が有する商標につき不使用取消
審判を請求することが違法ではないことはもとより,商標登録出願前に発見された
先行登録商標を排除するために,該商標登録出願と同日又はその前後に不使用取消
審判を請求することは,商標実務上しばしば採用される手法である。原告が,商標
登録出願前に先行商標調査を行い,その結果発見された本件商標が不使用のまま放
置されていることを知り,その登録の取消しを求めて商標法50条に基づく本件取
消審判請求をすることは,商標法50条の趣旨に合致した合理的な行為である。
 イ 原告が出願した乙23商標は,下記のとおりの内容を有するが,本件商
標の存在とは別途独自に採択・使用され,国内において周知性を獲得しているもの
である。

(商標)
(指定商品又は指定役務)
第30類「アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリ
ーム用安定剤,食品香料(精油のものを除く。),茶,コーヒー及びココア,氷,
菓子及びパン,調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コ
ーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅう
まい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットド
ッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウ
ダー,即席菓子のもと,酒かす,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉
類,食用グルテン」
第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,
飲食物の提供,動物の宿泊施設の提供,保育所における乳幼児の保育,老人の養
護,会議室の貸与,展示施設の貸与,布団の貸与,業務用加熱調理機械器具の貸
与,業務用食器乾燥機の貸与,業務用食器洗浄機の貸与,加熱器の貸与,調理台の
貸与,流し台の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,
タオルの貸与」
   まず,乙23商標の構成中の欧文字「Jon」は,「ジョン」なるファース
トネームに対応する通常の綴りである本件商標の構成中の「JOHN」とは異なり,
「H」の文字を欠くものである。これは,「Jon」の欧文字の採択が原告の父親のフ
ァーストネームである「Jon」に由来するからである。また,乙23商標は,原告の
祖父の肖像写真を「PAPA」の欧文字と「Jon's」の欧文字との間に配してなる。かか
る肖像写真は本件商標の構成に存しないものである。これら乙23商標の各構成要
素の由来と特徴にかんがみれば,乙23商標が本件商標とは別途独自に採択された
ことは明らかである。
   さらに,乙23商標は,被告のピザレストランが米国においてわずか1
店舗しか存在していなかった1985年(昭和60年)ころ(甲28),すなわ
ち,被告のピザレストランがフランチャイズチェーン化する以前から,日本国内に
おいてチーズケーキについて使用され(甲20添付の第9号証の1),チーズケー
キに使用する原告の商標として周知に至ったものである(甲20,21)。「PAPA
Jon'S」又は「パパジョンズ」といえば「京都のニューヨーク風チーズケーキ」,
「京都のニューヨーク風チーズケーキ」と言えば「PAPAJon'S」又は「パパジョン
ズ」とのことであると言われるほど乙23商標は我が国において周知性を確立して
いる。一方本件商標は日本国内において全くその存在が知られていない。したがっ
て,乙23商標が本件商標の存在とは別途独自に国内において周知性を獲得したこ
とは明らかである。このような事情の下にあっては,乙23商標が本件商標にフリ
ーライドする必要は全くなく,そのような意図を有したということはあり得ない。
第4 当裁判所の判断
 1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本件商標の内容)及び(3)
(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
   ところで,審決は,前記のとおり,商標権者たる被告は本件取消審判請求
の登録前3年以内に日本国内において使用しなかったものであるが,その使用をし
ていなかったことについては正当な理由があるとしたものである。これに対し原告
は,本件商標を本件取消審判請求の登録前3年以内に日本国内において使用しなか
ったものであるとしたことは正当であるが,その使用をしていなかったことについ
ては正当な理由があるとしたことは誤りであると主張し,一方被告は,抗弁とし
て,①本件商標は,指定商品「ピザ」について審判請求登録前3年以内に被告によ
って使用されている,②仮に被告による使用の事実が認められないとしても,本件
商標を日本において使用していないことについては正当な理由がある,③原告によ
る本件取消審判請求は権利濫用である,と主張する。
   そこで,被告の抗弁につき,以下,順に判断することとする。
 2 被告による本件商標の使用の有無(抗弁(1))
(1)本件商標を表示しての指定商品の提供
ア 被告は,日本におけるフランチャイズ展開の協議のために関連業者が米
国を訪れた際には,本件商標を表示した店舗に案内し,ピザ,販売促進品等を提供
していると主張する。
イ 証拠(乙1,2,5~7)によれば,①被告は,1985年(昭和60
年)に創業したピザ販売業者であり,1986年(昭和61年)からフランチャイ
ズ店の展開を開始し,2002年(平成14年)12月29日の時点において,被
告及びその加盟店のレストランは,被告によるものが,米国に585店舗,英国に
9店舗,フランチャイズによるものが,米国(アラスカ及びハワイを除く。)20
00店舗,アラスカに3店舗,カナダに7店舗,コスタリカに11店舗,グアテマ
ラに4店舗,ハワイに15店舗,ホンデュラスに4店舗,メキシコに38店舗,プ
エルトリコに10店舗,サウジアラビアに14店舗,ベネズエラに22店舗,英国
に70店舗,合計2792店舗であること,②被告は,1994年(平成6年)か
ら日本における業務拡大の計画を有し,日本の多数のフランチャイジー候補者に対
し営業活動を行ってきたこと,③これらの営業活動において,2001年(平成1
3年)1月11日から同月13日の間,伊藤忠商事の担当者がJETRONYの担当者及
び被告から日本におけるフランチャイズ先の紹介を依頼されたブローカーであるA
と共に米国ケンタッキー州ルイスビーレ所在の被告本社を訪問し,施
設を見学して被告のピザを試食し,本件商標を付したティーシャツ,マグカップ等
の販売促進品等の提供を受けたこと,④同年3月にも,伊藤忠商事及び日本企業の
担当者らが上記被告本社を訪問し,同様に施設を見学し被告のピザを試食したこ
と,⑤同年4月にも伊藤忠商事の担当者らが上記被告本社を訪問し,その際,被告
ピザのサンプルの提供を受けたこと,以上の事実を認めることができる。
ウ ところで,商標の不使用による登録取消の審判請求があった場合,商標
法50条2項本文は,「前項の審判の請求があった場合においては,その審判請求
の登録前三年以内に日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者の
いずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の
使用をしていることを被請求人が証明しない限り,商標権者は,その指定商品又は
指定役務に係る商標登録の取消しを免れない」としているから,同項にいう「使
用」は日本国内における使用でなければならないと解するほかない。しかし,上記
イに認定した使用は,いずれも米国におけるものであり,日本国内における使用と
は認められない。
  被告は,これらの提供がなされたのは海外であるが,日本における事業
展開に関するものであれば国内での使用と同視すべきであると主張するが,採用す
ることができない。
(2)本件商標を付した取引書類の頒布
ア 被告は,フランチャイジーの開拓営業過程において,下記①ないし⑩の
とおり本件商標の付された指定商品のカタログを日本国内の取引先に手渡し,ま
た,本件商標の付された年次報告書を,ピザ及び飲食物提供に関するフランチャイ
ズの規模,状況及び業務方針の説明のために手渡したと主張する。

「①JETRONY(2000年10月)
②伊藤忠商事(2000年12月/2001年1月)
③アリアケジャパン(2001年1月)
④パシフィックアライアンス(2001年1月)
⑤プラザクリエイト(2002年1月/2月)
⑥アクアネット(2002年7月1日)
⑦ジャストプランニング(2002年8月26日)
⑧ストロベリーコーンズ(2002年10月18日)
⑨西洋フードシステム(2003年2月3日)
⑩オリックスアルファ(2003年4月22日)」
イ 確かに,証拠(乙1,2,5~7)によれば,被告は,日本におけるフ
ランチャイズ展開のための営業活動として,上記ア①ないし⑩の時期に,上記①な
いし③については米国を訪れた相手方に対し,本件商標と社会通念上同一と認めら
れる商標の付された指定商品のカタログ(本訴乙6・審判乙12),同商標の付さ
れた年次報告書(本訴乙1・審判乙1)を,ピザ及び飲食物提供に関するフランチ
ャイズの規模,状況及び業務方針の説明のために手渡したことが認められる。
ウ しかし,上記①ないし③は,いずれも米国において手渡されたものであ
り,上記(1)ウと同様の理由により,日本国内における使用とは認められない。ま
た,上記④ないし⑥についても,これが日本国内において手渡されたことを認める
に足りる証拠はない(商標法50条2項によれば,これらの事実を被請求人たる被
告が証明する責任があると解される。)。
  加えて,上記①ないし⑩において頒布されたカタログ(乙6)及び年次
報告書(乙1)は,日本おけるフランチャイズ展開のために行われたものであっ
て,被告の会社自体の宣伝,フランチャイズ事業の方法・条件等の説明を行うもの
であると認められる。そして,被告は,日本国内において指定商品である「ピザ」
を生産・販売したことはなく,日本の需要者は被告のピザの提供を受けることがで
きないのであるから,上記カタログ及び年次報告書が商標法2条3項8号の「取引
書類」に該当するとしても,その頒布は,指定商品である「ピザ」に関するもので
あるとは認めることができない。
(3)ウェブページによる広告
ア 被告は,平成8年12月20日から現在に至るまで,ウェブページによ
って指定商品であるピザ及びピザの提供に関する広告を行っている(乙8,9)と
主張する。
イ 確かに,証拠(乙8,9,24)によれば,被告は,インターネットの
ウェブページ(本訴乙8・審判乙3,本訴乙9・審判乙4)において,本件商標と
社会通念上同一と認められる商標を表示してピザに関する広告を行い,フランチャ
イジーの募集を行っていること,上記ウェブページには日本からもアクセスが可能
であること,上記ウェブページは,日本の検索エンジン「MSNサーチ」,「アップ
ル・エキサイト」等において「papajohns」,「papajohn's」の語で検索した場合
に直ちに検索できる(本訴乙24・審判乙5,6)ことが認められる。
ウ しかし,上記ウェブページは,米国サーバーに設けられたものである
上,その内容もすべて英語で表示されたものであって,日本の需要者を対象とした
ものとは認められない。上記ウェブページは日本からもアクセス可能であり,日本
の検索エンジンによっても検索可能であるが,このことは,インターネットのウェ
ブページである以上当然のことであり,同事実によっては上記ウェブページによる
広告を日本国内による使用に該当するものということはできない。
  被告は,電磁的方法による広告に関する商標法改正は,商標の「使用」
にこれが含まれることを明確にするためのものであり,同改正法施行前の広告行為
にも当然に適用されると主張する。確かに,ウェブページによる広告は,平成14
年法律第24号により改正された商標法2条3項8号のいう,「広告」を「内容と
する情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」に該当するものというこ
とができる。しかし,同行為を日本国内による使用に該当するものということがで
きないことは上記のとおりであるから,被告の上記主張は理由がない。
(4)雑誌による広告
ア 被告は,ニューズ・ウィーク等の世界的に著名な雑誌に本件商標を付し
て商業広告を出しており,これらが日本において頒布されていることは明白である
から,これは,商品若しくは役務に関する広告に該当し,商標法2条3項8号の
「使用」に該当すると主張する。
イ 証拠(乙10~17)によれば,被告は,ニューズ・ウィーク2003
年3月3日号(本訴乙10・審判乙25),同3月10日号(本訴乙11・審判乙
26),同3月27日号(本訴乙12・審判乙27)及び同3月24日号(本訴乙
13・審判乙28),インターナショナル・フランチャイジング2000年夏号
(本訴乙14・審判乙29),コマーシャル・ニュース・ユー・エス・エー200
0年10月号(本訴乙15・審判乙30)及び同2002年3月号(本訴乙16・
審判乙31)並びにリテイル・アジア2003年9月号(本訴乙17・審判乙3
2)に,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を表示してピザに関する広告
を行い,フランチャイジーの募集を行っていることが認められる。
ウ しかし,上記雑誌は,日本国内において頒布されたとしても,日本国内
で発行されたものとは認められない上,その内容もすべて英語で表示されたもので
あって,日本の需要者を対象としたものとは認められない。
  加えて,上記雑誌の広告は,フランチャイズ展開のために行われたもの
であって,被告会社自体の宣伝,フランチャイズ事業の広告であると認められる。
そして,被告は,日本国内において指定商品であるピザを生産・販売したことはな
く,日本の需要者は被告のピザの提供を受けることができないのであるから,上記
雑誌の広告は,指定商品であるピザに関し日本国内においてなされた広告であると
は認めることはできない。
  したがって,上記雑誌による広告は,商標法2条3項8号の「使用」に
該当するということはできない。
(5)以上に検討したところによれば,本件商標は,指定商品「ピザ」について
審判請求の登録前3年以内に日本国内において被告によって使用されたと認めるこ
とはできない。
3 「正当な理由」の有無(抗弁(2))
(1)審決は,「被請求人は,本件審判請求の登録前3年以内の期間内に,日本
での業務拡大のために日本のフランチャイズ候補者に対し営業活動を行っており,
日本でのピザ店舗展開に興味を持っていた伊藤忠社員に本件商標と社会通念上同一
といえる商標が付された被請求人の会社概要,フランチャイジー用パンフレット等
を手渡し,さらに同社員が被請求人会社及びそのレストランを訪問しピザの提供を
受けたほか,被請求人の日本でのマスター・フランチャイジーとなることに興味を
有していたプラザクリエイト,アクアネット,ジャストプランニング,ストロベリ
ーコーンズ,西洋フードシステム等の日本企業と日本でのフランチャイズ展開に係
る交渉を継続していたことが認められる・・・。また,直接日本を対象としたもの
ではないとしても,被請求人は,自己が開設するインターネットのウェブページ
や「Newsweek」等の雑誌にフランチャイジー募集の広告を行っていたこと・・・,
日本からも被請求人の日本での事業計画について問い合わせがあったこと・・・が
認められる。そして,フランチャイズ産業の他国進出においては,マスター・フラ
ンチャイジーを捜すのが通例であるところ,資格・資力のあるマスター
・フランチャイジーを捜し契約を締結することは困難を伴い一定の時間を要するこ
とが認められる」(審決19頁第4段落)との認定事実を基に,「以上を総合勘案
すると,被請求人は,本件審判請求の登録前3年以内の期間内に,我が国における
ピザに係るフランチャイズ展開について具体的な準備を進めていたことが明らかで
あり,本件商標について真摯なる使用の意思が認められるものである。かかる場合
は,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図るという商標法の目的に照ら
し,被請求人が本件商標を我が国において使用していないことについて正当な理由
があるものとすべきである」(同最終段落)と判断したものである。
(2)しかし,商標法50条2項ただし書の「正当な理由」があるというには,
商標権者において登録商標を使用できなかったことが真にやむを得ないと認められ
る特別の事情が具体的に主張立証される必要があると解するを相当とするところ,
上記(1)の審決の認定事実によっては商標権者の責めに帰することのできない特別の
事情があったと認めることはできず,また,他に上記特別の事情が存したことを認
めるに足りる証拠もない。
(3)この点につき,被告は,本件のように商標権者が外国人であり,かつ,世
界第3位もの規模を誇る大規模フランチャイズチェーンである場合(乙1,乙2)
は,商標権者が日本人である場合,又は商標権者がフランチャイズ形式を前提とし
ない企業である場合よりも,商標の使用に多大な困難の伴うことは明白であり,そ
のような場合には個別事情に応じた弾力的な基準が設けられるべきである,そし
て,被告は,少なくとも平成12年5月以降は,日本におけるマスター・フランチ
ャイジーの発掘活動を熱心に行っており,それにもかかわらず,日本におけるマス
ター・フランチャイジーの発掘・契約に至らなかったのは,当時,既に米国をベー
スとする大規模ピザチェーン(「PizzaHut」及び「Domino'sPizza」)が既に日本
市場に参入していたこと,被告のマスター・フランチャイジーとしてふさわしい経
験・資力を有している日本企業の絶対数が少なかったこと等,被告の責めに帰すこ
とのできない事情が存在した,などと主張する。
  しかしながら,我が国の商標法は,商標権者による商標の現実的使用を重
視している(3条1項柱書,50条)ことからすると,同法50条2項にいう「正
当な理由」とは,前述したように,商標権者において登録商標を使用できなかった
ことが真にやむを得ないと認められる特別の事情がある場合に限られると解すべき
ところ,被告の上記主張は,企業たる被告の内部事情にすぎず(被告がその経営判
断により本件商標を日本国内において使用することは十分に可能であった),これ
をもって前記特別の事情と認めることはできない。したがって,商標権者である被
告が上記のように外国企業であっても,本件商標の指定商品である「ピザ」につい
て本件商標を使用することができないことにつき「正当な理由」があったと認める
ことはできない。
(4)以上検討したところによれば,被告が本件商標を日本において使用してい
ないことについて商標法50条2項ただし書の「正当な理由」があるということは
できない。
4 権利濫用の有無(抗弁(3))
(1)被告は,原告による本件取消審判請求は,被告を害することを目的として
なされたものであり,権利濫用に該当すると主張し,その理由として,①原告は,
本件取消審判請求と同日(平成15年5月8日)付けで前記内容の乙23商標につ
いて商標登録出願を行っているが,乙23商標と本件商標は,両立しない関係にあ
り,仮に原告の本件取消審判請求が認められ,かつ,上記出願が認められれば,被
告は本件商標と同一の商標を指定商品「ピザ」ないし「飲食物の提供」で登録する
ことはできなくなるところ,原告は,自らの登録商標の保全,自らの業務の維持,
保全につき何ら積極的な利益をもたらさない本件取消審判請求を行っていること,
②他方,原告による本件取消審判請求及び上記新たな商標登録出願が認められれ
ば,被告は多大な打撃を被ることは確実であること,③原告がこれらのことを認識
して本件取消審判請求・商標登録出願を同一日に行っていることからすれば,原告
に,被告の日本市場参入を不当に阻止しようとする目的があること,④したがっ
て,原告による本件取消審判請求の申立ては,被告が有する本件商標に化体された
信用にただ乗りするフリーライドを意図したものであるといわざるを得な
いこと,等を挙げる。
(2)証拠(甲20~23,乙19~23)によれば,①原告は,昭和60年こ
ろから,「PAPAJon's」の商標を使用してチーズケーキを製造・販売するようにな
り,昭和61年2月25日,京都市を本店所在地として,喫茶,欧風料理の飲食
業,洋菓子及びサンドイッチ類の製造販売等を業とするカーメル社を設立し,京都
市上京区烏丸通上立売東入ル相国寺門前町等の「PAPAJon's」の商標を使用する店
舗でケーキ店を営んでいること,②カーメル社は,いずれも「PAPAJon's」の構成
を含み,指定商品を第30類「菓子及びパン」とする登録第4251306号商標
(平成9年6月16日出願,平成11年3月19日登録。乙19)及び登録第43
24338号商標(平成9年6月16日出願,平成11年10月15日登録。乙2
0),指定商品を第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,香辛料,即席
菓子のもと」とする登録第4333124号商標(平成10年10月22日出願,
平成11年11月12日登録。乙21)及び登録第4368033号商標(平成1
0年10月22日出願,平成12年3月17日登録。乙22)の各登録商標を有し
ていること,③原告は,本件取消審判請求と同日(平成15年5月8日
)付けで前記乙23商標について商標登録出願を行ったこと,以上の事実を認める
ことができる。
(3)上記認定の事実によれば,原告による本件取消審判請求は,原告の乙23
商標についての商標登録出願の障害となる本件商標を排除するために行われたもの
と推認することができる。しかし,商標登録の出願をする者が,その障害となる先
行登録商標を排除するために,その不使用取消審判請求をすること自体は何ら違法
ということはできず,また,商標登録出願の際に指定商品又は役務に係る使用を現
実に行っていることを必要とするものでもないから,上記事実をもって本件取消審
判請求を権利濫用に当たるとすることはできない。そして,被告は日本国内におい
て指定商品であるピザを生産・販売したことがないことは上記のとおりであるとこ
ろ,本件商標が日本国内において取引者・需用者に広く知られ信用を獲得するに至
っていたとは認めるに足りる証拠はないから,原告による本件取消審判請求が被告
が有する本件商標に化体された信用にただ乗りするフリーライドを意図したもので
あると認めることもできない。
  したがって,原告の本件取消審判請求を権利濫用ということはできない。
5 結論
 以上のとおり,本件商標は,指定商品「ピザ」について審判請求登録前の3
年以内に被告によって使用されていたとの事実を認めることはできず,被告が本件
商標を日本において使用していないことについて正当な理由があるということもで
きず,また,原告による本件審判の請求は権利濫用であるということもできない。
したがって,原告の本件取消審判請求を不成立とした審決は違法というほかなく,
取消しを免れない。
   よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとして,主文
のとおり判決する。
     知的財産高等裁判所第2部
         裁判長裁判官 中野哲弘
    裁判官 岡本 岳
    裁判官 上田卓哉

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