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平成21年1月28日判決言渡
平成20年(ネ)第10054号特許権等侵害差止請求控訴事件
平成20年(ネ)第10071号特許権等侵害差止請求附帯控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成18年(ワ)第8725号)
口頭弁論終結日平成20年11月27日
判決
控訴人(附帯被控訴人)ウエダ産業株式会社
被控訴人(附帯控訴人)Y
訴訟代理人弁護士和田宏徳
主文
1本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。
当審における被控訴人(附帯控訴人)の請求の減縮により,原判決
主文第1項は「控訴人(附帯被控訴人)は,別紙物件目録3記載の物
件を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しの申出をし
てはならない。」に,同第2項は「控訴人(附帯被控訴人)は,被控
訴人(附帯控訴人)に対し,300万円及びこれに対する平成20年
3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」に,
それぞれ変更された。
2訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)は,第1,2審を通
じてこれを5分し,その1を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし,そ
の余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人(附帯被控訴人)
(1)原判決中,控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を取り消す。
(2)被控訴人(附帯控訴人)の請求を棄却する。
(3)附帯控訴を棄却する。
(4)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
2被控訴人(附帯控訴人)
(1)本件控訴を棄却する。
なお,当審において,被控訴人(附帯控訴人)は,「控訴人(附帯被控訴
人)は,別紙物件目録3記載の物件を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,
譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。控訴人(附帯被控訴人)は,被控
訴人(附帯控訴人)に対し,300万円及びこれに対する平成20年3月3
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」と,請求を減縮し
た。
(2)原判決中,被控訴人(附帯控訴人)敗訴の部分を取り消す。
控訴人(附帯被控訴人)は,別紙物件目録4記載の物件を製造し,使用
し,譲渡し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。
第2事案の概要
1原審の経緯等
被控訴人(附帯控訴人・1審原告。以下「原告」という。)は,発明の名称
を「廃材用切断装置」とする特許第3553514号の特許権(出願日・平成
13年3月12日,登録日・平成16年5月14日。甲2。以下,この特許を
「本件特許1」といい,その特許権を「本件特許権1」という。)及び特許第
3593514号の特許権(出願日・平成13年9月27日,登録日・平成1
6年9月3日。甲4。以下,この特許を「本件特許2」といい,その特許権を
「本件特許権2」という。)並びに意匠第1183428号の意匠権(出願日
・平成14年8月20日,登録日・平成15年7月11日,意匠に係る物品
「木製廃材切断機用刃」。甲6。以下,この意匠を「本件意匠」といい,その
意匠権を「本件意匠権」という。)の権利者である。
原告は,控訴人(附帯被控訴人・1審被告。以下「被告」という。)に対
し,
①被告の製造販売する別紙物件目録3記載の物件(以下「ハ号物件」とい
う。)は,本件特許権1及び2に係る特許発明の技術的範囲に属し,その製
造販売等の行為は,本件特許権1及び2を侵害する,
②被告の製造販売する別紙物件目録1記載の物件(以下「イ号物件」とい
う。)及び同目録2記載の物件(以下「ロ号物件」という。)は,パワーシ
ョベルに取り付けた状態において,本件特許権2に係る特許発明の技術的範
囲に属し,かつ上記特許発明に係る物である廃材用切断装置の生産にのみ用
いる物であるから,その製造販売等の行為は,特許法101条1号により,
本件特許権2を侵害(間接侵害)する,
③被告の製造販売する廃材切断機用刃に係る別紙物件目録4記載の物件(以
下「ニ号物件」という。)の形状(以下「ニ号意匠」という。)は,本件意
匠と類似し,その製造販売等の行為は,本件意匠権を侵害する,
と主張して,本件特許権1及び2並びに本件意匠権に基づき,被告が製造販売
するイ号,ロ号及びハ号物件並びにそれらの刃であるニ号物件についての製造
販売等の差止めを求めたほか,本件特許権1及び2の侵害による損害賠償金8
200万円の内金3000万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成
18年12月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
原判決は,①被告によるハ号物件の製造販売等は本件特許権1及び2を侵害
する,②被告によるイ号及びロ号物件の製造販売等は本件特許権2を侵害(間
接侵害)する,③ニ号意匠は,本件意匠と類似せず,被告によるニ号物件の製
造販売等は本件意匠権を侵害しない,④原告の損害賠償請求は,損害金300
0万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成20年3月3日(原審口
頭弁論終結日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払を求める限度で理由がある,と判断し,イ号ないしハ号物件の製造販売等
の差止請求を認容するとともに,損害金3000万円及びこれに対する平成2
0年3月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求を認
容し,その余の原告の請求を棄却した。
これに対して被告は,原判決中の被告敗訴部分を不服として本件控訴を提起
した。また,原告も,原判決中の原告敗訴部分を不服として,附帯控訴した。
その後の平成20年7月4日,特許庁が本件特許2を無効とする審決をし,
同審決が確定したことに伴い,原告は,当審において,本件特許権2に基づく
差止請求及び損害賠償請求を取り下げて請求を減縮した。その結果,本件特許
権1に基づくハ号物件に係る製造販売等の差止請求並びに損害金300万円及
びその遅延損害金の支払を求める部分のみが本件控訴の審理対象として残され
るとともに,原告からの附帯控訴に係る本件意匠権に基づくニ号物件に係る差
止を求める部分が附帯控訴の審理対象となった。
2前提となる事実,争点及び当事者の主張
原判決の「事実及び理由」欄の「第3前提となる事実」,「第4争
点」,「第5争点に対する当事者の主張」のとおりであるから,これを引用
する。ただし,本件特許権2に基づく差止請求及び損害賠償請求に係る事実及
び主張部分をすべて削除する。
なお,略語については,当裁判所も原判決と同一のものを用いる(以下同
じ)。
3当審における主張
(1)本件特許1の無効の抗弁の成否
ア被告の主張
原告は,審査過程において,本件特許1に係る出願当初の明細書(以
下,図面と併せ,「本願当初明細書」という。)で「挽き切り」と記載さ
れていた部分を,平成16年1月29日付け手続補正(以下「本件補正」
という場合がある。)により削除した(甲2,28)。本件補正によっ
て,本件特許1における「切断」は,「押し切り」を含むものとして,拡
張解釈される余地が生じた。したがって,本件補正は,本願当初明細書に
記載した事項の範囲内においてされておらず,補正要件を満たさない違法
な補正というべきである。また,本件明細書1の記載は,発明の詳細な発
明の記載に係る実施可能要件及び特許請求の範囲の記載要件を満たしてい
ない。
したがって,本件特許1は,特許法123条1項1号及び4号に該当
し,特許無効審判により無効とすべきであるから,原告は,本件特許権1
を行使することができない。
イ原告の反論
原告は,平成15年11月27日付けで,以下のとおり指摘されて拒絶
査定を受けた(甲26)。
「・・・本願発明における可動刃4及びその鋸歯状刃体6は,軸5を中
心として回転駆動されて,各鋸歯状刃体は,被切断物Aの切断深さ方向に
近い方向に,並列して進行するものであるから,被切断物Aを挽切るより
は,むしろ押切るに近い切断操作がなされるものと解されるものであ
る。」
本願当初明細書の図面上は,押し切り状に切断することが示されていた
にもかかわらず,その発明の詳細な説明中の文章では誤って「挽き切り状
に切断する」と記載したため,原告は,文章による説明を図面と整合させ
るために,「挽き切り状に切断する」との記載を削除した。なお,本件特
許1に対する拒絶理由通知,拒絶査定について,原告は特許庁に対し,当
初は,挽き切るか押し切るかに重点をおいて意見を提出していたが,特許
庁から前記のとおり指摘されたことを受けて,文言を削除し,本件特許1
については,拒絶理由を回避し,特許査定に至った。
以上のとおり,押し切り状に切断するとの点については,本願当初明細
書に記載されているから,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載し
た事項の範囲内においてした補正であるといえる。
また,本件特許1に係る明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者に
とって実施可能であるし,本件特許1に係る特許請求の範囲の記載も明確
で簡潔に記載されている。よって,この点に関する被告の主張は理由がな
い。
(2)本件意匠登録の無効の抗弁の成否
ア被告の主張
原告は,本件意匠の登録出願日である平成14年8月20日よりも前か
ら本件意匠と同じ刃を用いた製品を製造していたから,本件意匠は出願前
に公知となった。よって,本件意匠登録は意匠法3条1項,48条により
無効審判において無効にされるべきであるから,被告に対して本件意匠権
を行使することはできない(意匠法41条,特許法104条の3参照)。
イ原告の反論
原告は,本件意匠登録前に,被告に対して原告製の廃材用切断装置をデ
モンストレーションのために貸し出したことがある。しかし,それは刃を
廃材用切断装置に装着したままの状態であったから,これをデモンストレ
ーション等に使用したとしても,第三者は,刃全体の形状等を認識するこ
とはできないので,刃の意匠が公知になったとはいえず,本件意匠登録が
無効事由を有することにはならない。
(3)ハ号物件に係る損害発生の有無及び損害額
ア原告の主張
被告は,ハ号物件について,平成16年5月から現在まで,少なくとも
合計30台販売した。
その損害額は,以下のとおり算定されるべきである。
すなわち,原告は,独占的通常実施権を設定したオカザキを通じて,ジ
ャクティ社に対し,本件特許1及び2につき,1台当たり10万円でライ
センスをしたことがある。しかし,ジャクティ社との実施料は,友好的な
契約が行われた場合の金額であり,特許権侵害に基づく実施料相当額はこ
れより高い額が算定されるべきであって,少なくとも1台当たり20万円
とすべきである。
ハ号物件については30台販売されたから,特許法102条3項によ
り,原告の被った損害額は600万円と算定されるべきである。仮に1台
10万円が相当実施料であったとしても,原告の損害額は300万円であ
る。
原審において,被告に対し,ハ号物件等の製造・販売等の事実に関する
売上台帳等につき文書提出命令が出されているが,被告は同命令に従わな
かったので,原告の主張する事実が真実と認められるべきである。
原判決において,ハ号物件の販売台数につき30台であると認定された
にもかかわらず,これとは異なる販売台数と認定されるためには,被告の
主張する台数分が営業日誌に記載され,請求書も存在しているという事実
のみでは足りず,被告が主張する台数分以外に,販売の事実がないという
ことが確認される必要がある。
なお,被告は,平成16年1月ないし平成19年12月の間のイ号,ロ
号及びハ号物件の売上数は,合計33台(平成20年8月7日付け控訴の
理由(補足他)でハ号物件につき1台追加された分を含む。)であると主
張する。しかし,原告において,営業日誌(乙74)について,イ号,ロ
号,及びハ号物件の売上げの事実を調査したところ,平成17年4月ない
し平成19年7月の間に,合計38台の売上げを確認した。このような事
実経緯に照らすならば,被告の主張内容と営業日誌の記載との間に,齟齬
があり,営業日誌の記載について信ぴょう性があるとはいえない。
よって,原告は,被告に対し,本件特許権1の侵害による不法行為に基
づき,損害金600万円のうち300万円及びこれに対する不法行為の後
の日である平成20年3月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延
損害金の支払を求める。
イ被告の反論
原告は,ライセンス契約を締結したジャクティ社の販売台数から,製造
販売台数を立証することができたはずである。しかし,原告は,そのよう
な立証活動をすることなく,被告に対する文書提出命令を申し立て,被告
において営業日誌を精査し,売上明細表を作成してこれを提出し,営業原
簿まで法廷に,事実上持ち込んだにもかかわらず,被告が文書を提出しな
かったものと認定された。原告が主張する被告の販売台数は正確ではな
く,被告は利益を得ていないし,原告には損害が発生していない。
なお,ハ号物件の最終決定組立図は,平成17年10月13日作成であ
った(乙75)。被告は,当初,ハ号物件の販売台数を2台(原審被告準
備書面(8)の1.売上明細表のNo.16及びNo.19)と主張してい
たが,営業日誌原簿を精査中,更に1台を販売していた事実が判明したこ
とから(乙74の9及び11,乙78),合計3台を販売していたことを
認める。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,以下のとおり,①ハ号物件は本件特許1に係る発明の技術的範
囲に属する,②本件特許1の実施許諾の事実(抗弁)を認めることができな
い,③本件特許1について無効事由(抗弁)を認めることができない,④ニ号
意匠は,本件意匠と類似していないから,ニ号物件の製造販売等は本件意匠権
を侵害しない,⑤ハ号物件に係る原告の損害額を300万円と認めるのが相当
である,と判断する。その理由は,上記③及び⑤を除いて,原判決のとおりで
あるから,これを引用する。
ただし,本件特許権2に基づく差止請求及び損害賠償請求に係る判断部分を
すべて削除する。また,原判決の損害額の認定に関する部分(51頁19行目
から54頁24行目)を削除する。
2ハ号物件の製造,販売の差止請求及び損害賠償請求について
(1)本件特許1の無効の抗弁の成否について
ア補正要件違反の主張について
被告は,本願当初明細書の段落【0005】,【0008】及び【00
11】には「挽き切り状に切断せしめる」と記載されていたが(甲2
5),拒絶査定不服審判請求時にされた平成16年1月29日付け手続補
正(本件補正)によりそれらの記載が削除された(甲28)ため,本件特
許1における「切断」には,押し切りを含めるとの拡張解釈の余地が生じ
たとして,同補正は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事
項の範囲内においてした補正には当たらないという無効事由が存すると主
張する。
しかし,被告の主張は,次のとおり理由がない。
(ア)本願当初明細書の「発明の詳細な説明」には,以下の記載がある
(乙65,4頁以下)。
すなわち,「【0005】【課題を解決するための手段】・・・請求
項1記載の発明は,ホルダー1の先部に略湾曲状とされた両側一対の受
片2が所定間隔をおいて並設され,該受片2間には外周縁に鋸歯状刃体
6を備えた略半円形状の可動刃4が嵌合自在に軸着されると共に,該可
動刃4には流体圧シリンダ8が接続されてなることを特徴とする,廃材
用切断装置を要旨とするものである。そして,本発明のかかる廃材用切
断装置は,両側の受片2に木製廃材などの被切断物Aを横架状に保持せ
しめつつ,流体圧シリンダ8の作動により可動刃4を受片2間に嵌合せ
しめて挽き切り状に切断せしめるものである。」
「【0008】・・・しかるのち,油圧シリンダ8の作動により可動刃
4を閉作動せしめつつ受片2内に嵌合せしめ,刃体6により被切断物A
を挽き切り状に切断せしめる。このさい,被切断物Aを受片2内に保持
せしめつつ可動刃4により挽き切り状に切断せしめるものであるから,
木製廃材などの切断を常に確実に行なうことが出来る。」
「【0011】【発明の効果】・・・該可動刃4には流体圧シリンダ8
が接続されているから,両側の受片2間に被切断物Aを横架状に保持せ
しめつつ,流体圧シリンダ8の作動により可動刃4を受片2内に嵌合せ
しめて挽き切り状に切断せしめることが出来るものであって,特に木製
廃材などの被切断物Aを確実に切断せしめることが出来るものであ
る。」。また,図1ないし5が示されている。
ところで,原告は,拒絶査定不服審判請求時に,本件補正を行い,本
願当初明細書の段落【0005】,【0008】及び【0011】にあ
る「挽き切り状に切断せしめる」との各記載を削除した上で,本件発明
1は,「受片2の基端部には各々固定掴持片3が立設されると共に,該
固定掴持片3に対応すべく可動刃4の背部に掴持部7が形成」されてい
ることにより,独自の作用効果がある旨の意見を述べ(甲27),特許
査定を受けた。
(イ)以上の事実に照らすならば,本願当初明細書の「発明の詳細な説
明」には,可動刃4及びその鋸歯状刃体6は,軸5を中心として回転駆
動されて,各鋸歯状刃体は,被切断物Aの切断深さ方向に近い方向に,
並列して進行する構造及びその操作が開示されているというべきである
が,同開示内容は,被切断物Aを「挽切る」という操作ではなく,むし
ろ「押切る」という操作というべきである。
そうすると,本願当初明細書における「挽き切り状に切断せしめる」
との記載は,そもそも記載自体が適切を欠くものであり,また,本願当
初明細書の開示内容は上記のとおり「押切る」という操作であったか
ら,段落【0005】,【0008】及び【0011】に記載されてい
た「挽き切り状に切断せしめる」との記載を削除する本件補正は,願書
に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした
ものであり,上記範囲を超えた違法な補正に当たるとはいえない。
以上のとおりであるから,被告の主張は失当である。
イ実施可能要件違反の主張について
(ア)被告は,本件明細書1の段落【0006】「鋸歯状刃体6を被切断
物Aに食込ませてその逃げを防止せしめつつ確実に切断せしめることが
出来る」との記載,段落【0008】「鋸歯状刃体6を被切断物Aに食
込ませてその逃げを防止せしめつつ確実に切断せしめる」及び「被切断
物Aを受片2内に保持せしめつつ可動刃4により切断せしめる」との記
載における「切断」という表現は,その発明の属する技術の分野におけ
る通常の知識を有する者が実施することができる程度に明確かつ十分に
記載されたものとは認められず,実施可能要件に違反すると主張する。
しかし,本件明細書1の段落【0004】,【0006】,【000
8】,【0011】及び図1ないし図5には,可動刃により,木製廃材
を切断することが記載されており,発明の属する技術の分野における通
常の知識を有する者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載
されているから,被告の上記主張は,理由がない。
(イ)また,被告は,本件発明1の願書に添付した図4では,油圧シリン
ダ8の給油ホースは,パワーショベル10から供給されるので,回り継
手(SWIVELJOINT)がない限り,フリー回転角度が大きく
制限され,また,フリー回転させた場合のストッパー装置がないことに
より,被切断物Aに食い込んだ鋸刃6を抜き去ろうとしても,被切断物
Aの端部をたたくように接地させて可動刃6の鋸刃6を抜き去る手段も
とれないから,発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載
されたものとはいえないと主張する。
しかし,当該技術分野の技術水準を勘案すれば,図4からは,回転不
能または揺動可能に固定されていることが理解でき,また,フリーに回
転する場合や揺動する場合は,油圧シリンダ8の給油ホースは,回り継
手(SWIVELJOINT)を介して給油すれば良いことは当業者
にとって周知の事項であるから,格別の説明がなくとも,本件発明1の
明細書は,実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されてい
るといえる。
(2)以上のとおり,本件特許1について被告の主張に係る無効事由(抗弁)
はこれを認めることができない。
そうすると,ハ号物件を製造販売する被告の行為は,原告の有する特許権
1を侵害するから,原告は,被告に対して,ハ号物件の製造,販売の差止め
及び損害賠償金の支払を求めることができる。
なお,被告は,ハ号物件を設計変更し,その受片を直線形状にしたり(乙
84),2つの受片の先端部をプレートで溶接して一体化するなど(乙8
0)の製品を製造販売していると主張する。しかし,仮にそのような事実が
認められたとしても,ハ号物件の製造販売等のおそれがなくなったとはいえ
ない。
3ハ号物件に係る損害発生の有無及び損害額について
(1)被告のハ号物件の販売台数
原告は,平成16年5月以降の被告によるハ号物件の販売台数は少なくと
も合計30台であると主張し,その立証等のため,平成19年10月22
日,被告の製造,販売に係る製品について,平成16年5月以降の受注管理
表,売上台帳,売上一覧表,請求一覧表又はこれらに相当する文書,若しく
は電子ファイルのプリントアウト(以下「本件文書」という。)について,
特許法105条1項により文書提出命令を申し立てた。原審裁判所は,その
申立てを認め,平成19年10月29日付けで,被告に対し,上記申立てに
係る各文書について,同年11月13日までに提示せよとの決定をした。
しかし,被告は,平成19年11月8日の原審第8回弁論準備手続期日に
おいて同年12月10日までに可能な範囲で提出すると述べ,更に平成19
年12月19日の原審第9回弁論準備手続期日においても平成20年1月3
1日までに提出すると述べておきながら,結局本件文書を提出しなかった。
なお,被告は,当審においても,平成17年4月8日から平成19年7月3
1日までの作成に係るものと主張する営業日誌(乙68,74の1~16)
及び売却済みのハ号物件3台に係るものと主張する請求書(乙76~78)
の証拠申出をしたが,それら3台のみが販売台数であることを裏付けるため
のその他の本件文書を提出しない。
そこで,真実擬制の可否について検討するに,本件文書である受注管理
表,売上台帳,売上一覧表,請求一覧表又はこれらに相当する文書,若しく
は電子ファイルのプリントアウトは,被告の日常業務の過程で作成される帳
簿書類等であるから,それらの記載に関して,原告が具体的な主張をするこ
とは著しく困難である。また,原告が,本件文書により立証すべき事実(被
告によるハ号物件の販売台数)を他の証拠により立証することも著しく困難
である。そうすると,被告のハ号物件の販売台数については,民事訴訟法2
24条3項により,原告の主張,すなわち被告が平成16年5月から平成2
0年3月3日(原審口頭弁論終結時)までの間に合計30台のハ号物件を販
売したことを真実であると認めるのが相当である。
(2)実施許諾料の相当額
原告が独占的通常実施権を設定したオカザキを通じて,ジャクティ社に対
し,1台当たり10万円の許諾料で本件特許2の実施許諾をしていること
(甲15)に照らすならば,本件特許2と同種の本件特許1の実施許諾料に
ついても,ハ号物件1台当たり10万円を下らないと認めるのが相当であ
る。
(3)原告の損害額
そうすると,原告の損害額は,300万円(販売台数30台×実施許諾料
1台当たり10万円=300万円)であるものと認める。
4結論
以上によれば,別紙物件目録3記載のハ号物件の製造等の差止請求のほか,
損害金300万円及びこれに対する不法行為の日又はその後の日である平成2
0年3月3日(原審口頭弁論終結日)から支払済みまで民法所定の年5分の割
合による遅延損害金の支払を求めた原告の請求は理由があるからこれを認容す
ることとし,これと同旨の原判決部分は相当であり,本件控訴は理由がないか
らこれを棄却することとする(ただし,原判決の主文第1項及び第2項は,当
審における原告の請求の減縮により本判決主文第1項記載のとおり変更され
た。)。また,ニ号物件の製造販売等の差止めを求めた原告の附帯控訴に係る
請求は理由がなく,これと同旨の原判決部分は相当であるから,本件附帯控訴
を棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官齊木教朗
裁判官嶋末和秀
物件目録1(イ号)
1商品名
ワニラーV
2図面
別紙のとおり
3図面符号の説明
1:ホルダー
2:受片
3:可動刃
4:バケットシリンダ
5:掛止片
物件目録2(ロ号)
1商品名
フォークワニラーV
2図面
別紙のとおり(ただし,斜線部分は除く。)
3図面符号の説明
1:ホルダー
2:受片
3:可動刃
5:掛止片
物件目録3(ハ号)
1商品名
ニューワニラー
2図面
別紙のとおり
3図面符号の説明
1:ホルダー
2:受片
3:可動刃
4:油圧シリンダ
5:掛止片
6:固定掴持片
7:掴持片
物件目録4(ニ号)
1名称
ワニラーV,フォークワニラーV,及びニューワニラー用の刃
2図面
別紙のとおり
3図面の説明
別紙図面は,製品の意匠を示す正面図である。

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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シフトは週40時間以上
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応募方法
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