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平成15年(行ケ)第513号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成16年6月22日
判決
原       告    株式会社角田ブラシ製作所
同訴訟代理人弁理士  池田仁士
被       告    特許庁長官 小川洋
同指定代理人    宮崎侑久
同高木進
同涌井幸一
主文
     1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
(1) 特許庁が不服2002-15508号事件について平成15年9月29日
にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
 主文と同旨
第2 前提となる事実
 1 特許庁における手続の経緯(当事者間に争いがない。)
  (1) 原告は,平成9年9月26日,発明の名称を「回転式円筒研磨ブラシ」と
する発明につき特許出願(請求項の数2。特願平9-279803号。以下「本件
出願」という。)をし,平成14年7月1日付け手続補正書により,本件出願に係
る明細書の「特許請求の範囲」等を変更した。特許庁は,平成14年7月16日,
同出願につきこれを拒絶すべき旨の査定(以下「本件拒絶査定」という。)をし
た。
  (2) 原告は,本件拒絶査定を不服として,平成14年8月13日,本件審判の
請求をした。特許庁は,同請求を不服2002-15508号事件として審理した
上,平成15年9月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以
下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年10月22日に原告に送達され
た。
2 平成14年7月1日付け手続補正書による補正後の請求項1に係る発明(以
下「本願発明」という。)の要旨は,同補正後の明細書(以下「本件明細書」とい
う。)の「特許請求の範囲」に記載された,次のとおりのものである(甲1,
3)。
 【請求項1】直円筒状をなす円筒コア管の外周にブラシが装着され,回転動を
もってワークに対する研磨作業をなす回転式円筒研磨ブラシにおいて,前記円筒コ
ア管は,アルミ製の円筒状をなす円筒基部と,前記円筒基部に外嵌される硬質合成
樹脂製の外管とが接着固定されてなり,前記硬質合成樹脂製の外管に複数のブラシ
植設孔が穿設され,該ブラシ植設孔のそれぞれにブラシ束が植設されるとともに,
前記ブラシ植設孔は円孔をなすとともにその底部は頂角が90°又は鋭角の逆円錐
形に形成され,前記ブラシ束はその基部に線材の止め金具がその先端を突出して巻
き懸けられて装着され,該止め金具の突出端を前記ブラシ植設孔の底部の傾斜面に
沿って押し込んで前記外管内に食込み状に係合させてなる,ことを特徴とする回転
式円筒研磨ブラシ。
3 本件審決の理由の要旨
  (1) 本願発明と実願昭61-5881号(実開昭62-121064号)のマ
イクロフィルム(甲5。以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引
用発明1」という。)とは,「直円筒状をなす円筒コア管の外周にブラシが装着さ
れ,回転動をもってワークに対する研磨作業をなす回転式円筒研磨ブラシにおい
て,前記円筒コア管は,アルミ製の円筒状をなす円筒基部と,前記円筒基部に外嵌
される硬質合成樹脂製の外管とが固定されてなり,前記硬質合成樹脂製の外管にブ
ラシが植設された,回転式円筒研磨ブラシ。」という点で一致し,次の点で相違す
る。
   ア 円筒基部と外管とが,本願発明は,接着固定されているのに対して,引
用発明1は,ネジ固定されている点(以下「相違点1」という。) 
   イ 硬質合成樹脂製の外管にブラシを植設する構成が,本願発明は,「複数
のブラシ植設孔が穿設され,該ブラシ植設孔のそれぞれにブラシ束が植設されると
ともに,前記ブラシ植設孔は円孔をなすとともにその底部は頂角が90°又は鋭角
の逆円錐形に形成され,前記ブラシ束はその基部に線材の止め金具がその先端を突
出して巻き懸けられて装着され,該止め金具の突出端を前記ブラシ植設孔の底部の
傾斜面に沿って押し込んで前記外管内に食込み状に係合させてなる」のに対して,
引用発明1は,この構成が不明である点(以下「相違点2」という。)
(2) 相違点1について
 相違点1については,固定手段としてネジによる固定も接着による固定も
周知であり,引用発明1のネジによる固定を,本願発明の如く接着による固定とす
ることは,当業者であれば適宜なし得る程度のものと認められる。
 (3) 相違点2について
相違点2については,ブラシの植毛方法として,植毛する部材に円孔を,
その底部を逆円錐形となるように穿孔し,ブラシ束を2つ折に折り曲げ,その折り
曲げ部にワ字形の止め金具を掛け,該止め金具を上記円孔の底部の傾斜面に沿って
押し込んで,植毛する部材に止め金具の先端部を交叉状に食い込ませて植毛するこ
とは周知技術(例えば実公昭28-1173号公報(甲7)参照)である。そし
て,引用発明1と同一技術分野に属するブラシロールに関する特開昭61-265
104号公報(甲6。以下「引用例2」という。)には,「合成樹脂製の部材であ
るローラ本体に,複数の円孔をなす植設孔が穿設され,その植設孔に刷毛が植設さ
れ,U字形とされた刷毛は,その基部を止め針の突出端を植設孔の底部に押し込ん
でローラ本体内に,食い込み状に係合させる」点の技術事項,言い換えると「合成
樹脂製の部材であるローラ本体に,複数の円孔をなす植設孔が穿設され,その植設
孔にブラシ束が植設され,U字形とされたブラシ束は,その基部を止め金具の突出
端を植設孔の底部に押し込んでローラ本体内に,食い込み状に係合させる」点が記
載されており,引用発明1に引用例2に記載の上記技術事項を適用するにあたり,
上記ブラシの植毛方法の周知技術を施し,この際に,止め金具先端部を交叉状とな
るように,円孔の底部の逆円錐形の角度を適宜決定して,相違点2における本願発
明の構成の如くすることは,当業者であれば容易になし得るものと認める。
(4) したがって,本願発明は,引用発明1並びに引用例2に記載された発明
(以下「引用発明2」という。)及び甲7に記載の周知技術に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものと認められ,特許法29条2項の規定により特許
を受けることができない。
  よって,本件出願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく,本
件審判の請求は成り立たない。
第3 当事者の主張 
(原告主張の取消事由)
   本件審判の手続には瑕疵があり(取消事由1),また,本件審決は,相違点
1,2についての判断を誤って(取消事由2,3),本願発明は,特許を受けるこ
とができないとしたものであり,これらの瑕疵が本件審決の結論に影響を及ぼすこ
とは明らかであるから,本件審決は違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(審理手続の瑕疵)
(1) 本件出願の審査においては,拒絶理由通知がされた後に,原告が平成14
年7月1日付け手続補正書により明細書の特許請求の範囲を減縮する補正をしたに
もかかわらず,担当審査官は,あらためて拒絶理由を通知することなく,実質的に
新たな理由を付加して拒絶査定をしたものであり,その手続には瑕疵がある。した
がって,本件審判の手続において,担当審判長は,原告に対し,あらためて拒絶理
由を通知し,原告に意見を述べる機会を与えるべきであった。しかるに,担当審判
長は,原告にその機会を与えずに本件審決をした。
(2) また,本件審決は,周知技術に名を借りて,新たな公知文献(実公昭28
-1173号公報(甲7))に基づいて判断をしているが,新たな公知文献を判断
の資料とするのであれば,担当審判長は,原告に対し拒絶理由を通知して意見を述
べる機会を与えるべきであった。しかるに,担当審判長は,原告にその機会は与え
ずに本件審決をした。
(3) 上記のとおり,本件審判の手続には,本件審決を取り消すべき瑕疵があ
る。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
 本件審決は,相違点1について,前記第2の3(2)のとおり判断しているが,
次に述べるとおり,その判断は誤りである。
  (1) そもそも,本願発明は,円筒コア管の形成にあたり,精度を保って円筒コ
ア管の長尺化・大径化に対応できるようにするとともに,アルミ製円筒コア管への
ブラシ束の植毛作業の困難性にかんがみて,ブラシの植設作業を容易とし,円筒コ
ア管の生産性を向上させることを目的とするものであり,次の作用効果が得られる
ものである。
    すなわち,①円筒コア管は,回転軸への取付けに供される内側のアルミ製
の円筒基部と,ブラシの植設される外側の合成樹脂製の外管との2部分より合成さ
れるもので,機能が2分化されており,明確かつ合理的な設計をなすことができ
る,②全体的に軽量化でき,③円筒基部の剛性により合成樹脂製の外管の歪み・変
形を有効に阻止できるため,全体的な外径精度並びに長さ方向へのたわみ精度が向
上し,大径化・長尺化が可能となる,④円筒コア管における円筒基部と外管との接
着固定による一体化により回転動作にガタつきが生じない,また,シャフトへの取
付けは,所定の精度を保持するアルミ製の円筒基部を介してなされるので,ガタつ
きなく確実に取り付けられ,また,回転式円筒研磨ブラシの重量部分は円筒軸部分
すなわちシャフト側に集まるので,当該回転式円筒研磨ブラシの回転動作は円滑な
ものとなる,⑤ブラシ植設孔の穴加工は合成樹脂製の外管に対してのみなされるの
で,その作業は容易であるとともに,穴加工に伴う歪みは円筒基部により阻止さ
れ,所定の精度が保持される,⑥ブラシ植設孔へのブラシ束の植設に付き,ブラシ
束はその止め金具がブラシ植設孔から外管内に食い込み,該止め金具を介して強固
な定着がなされることから,穴加工,ブラシ束の植設作業の効率が向上し,生産性
の向上が計れる,⑦ブラシ植設孔へのブラシ束の植設操作において,止め金具はブ
ラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って外管内に押し込まれ,斜め方向に向かって外管
に食い込むので,小さな深さで十分な定着長さが得られ,ブラシ植設孔の深さの短
小化に寄与し得,ひいては外管の厚みを小さくでき,円筒コア管の径小化を図るこ
とができる,という作用効果が得られる。
  (2) 本願発明において,アルミ製の円筒基部と硬質合成樹脂製外管との接着固
定は,上記のとおり,円筒コア管の作成に当たっての精度向上,生産性向上を目的
としたものであるが,引用発明1においては,アルミ製軸半体と合成樹脂製中芯半
体とをネジ固定しており,その目的は,中芯半体の取り外しを可能として,高価な
アルミ製軸半体の再利用を図ることにある。
    すなわち,本願発明と引用発明1とは,技術的課題,目的を異にしてお
り,両者における固定手段の相違は,技術的課題,目的の相違に基づくものである
から,当業者が適宜なし得る程度のものではない。
 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)
本件審決は,相違点2について,前記第2の3(3)のとおり判断しているが,
次に述べるとおり,その判断は誤りである。
  (1) 引用例2には,「合成樹脂製の部材であるローラ本体に,複数の円孔をな
す植設孔が穿設され,その植設孔に刷毛が植設され,U字形とされた刷毛は,その
基部を止め針の突出端を植設孔の底部に押し込んでローラ本体内に,食い込み状に
係合させる」点が記載されているが,引用例2に記載されているローラは,農作物
用の搬送用回転ローラであって,本願発明の回転式円筒研磨ブラシとは,用途を異
にする。本件審決は,引用例1に記載のものと引用例2に記載のものとが同一技術
分野に属するブラシロールであることから,引用例2に記載の技術事項を引用発明
1に適用し得ると判断しているが,同一技術分野に属するだけでは,適用の動機付
けがあるとはいえない。したがって,引用例2に記載の技術事項を引用発明1に適
用することは,当業者にとって想到容易であるとはいえない。
    しかも,引用例2に記載のローラでは,単一のローラ本体へブラシを植設
しており,本願発明のように,①「円筒基部と外管と2重管構造のうち外管に限っ
てブラシを植設する」点を備えたものではなく,ブラシの植設態様が相違する。ま
た,引用例2に記載のローラにおいては,ブラシ植設孔の底部は平底であり,引用
発明2は,本願発明における②「円孔をなすブラシ植設孔の底部は頂角が90°又
は鋭角の逆円錐形に形成され,ブラシ束の基部に巻き懸けられた線材の止め金具の
突出端をブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押し込んで外管内に食込み状に係合
させてなる」点を示唆するものではない。また,上記した点が周知であるとの証拠
はない。
(2) 本件審決は,「ブラシの植毛方法として,植毛する部材に円孔を,その底
部を逆円錐形となるように穿孔し,ブラシ束を2つ折に折り曲げ,その折り曲げ部
にワ字形の止め金具を掛け,該止め金具を上記円孔の底部の傾斜面に沿って押し込
んで,植毛する部材に止め金具の先端部を交叉状に食い込ませて植毛することは周
知技術(例えば実公昭28-1173号公報(甲7)参照)である。」と説示す
る。しかし,甲7には,ワ字形の2脚釘5の脚部が孔底の傾斜面に直交状をなして
食い込んでいる様子が図示されており,図示内容からすると,脚部を傾斜面に沿わ
せることなく(逆に,平底であるなら脚部は滑ってしまう。),その折曲部の突刺
4を孔壁に圧入するものと解され,「傾斜面に沿って押し込」むことが記載されて
いるとはいえない。したがって,甲7の記載から,上記植毛技術が周知であるとい
うことはできない。
    そうすると,本件審決は,周知技術の把握を誤ったことになり,この誤っ
た認定に基づいてなされた相違点2についての判断が誤っていることは明らかであ
る。
 (3) しかも,本件審決は,「合成樹脂製の部材であるローラ本体に,複数の円
孔をなす植設孔が穿設され,その植設孔にブラシ束が植設され,U字形とされたブ
ラシ束は,その基部を止め金具の突出端を植設孔の底部に押し込んでローラ本体内
に,食い込み状に係合させる」点を適用するにあたり,上記ブラシの植毛方法の周
知技術を施し,この際に,止め金具先端部を交叉状となるように,円孔の底部の逆
円錐形の角度を適宜決定して,この相違点における前者(本願発明)の構成の如く
することは,当業者であれば容易になし得る」と判断しており,引用発明1に引用
例2に記載の技術事項を適用することにより,直ちに本願発明の相違点に係る構成
に到達できると判断したのではなく,引用例2に記載の技術事項の適用に当たっ
て,周知技術を付加し,かつ適宜改変を加えることは容易であると,いわば「屋上
屋を重ねる」論理(容易性の積み重ね)でもって,相違点2に係る構成の想到容易
性を判断しており,この論理は妥当なものといえないから,上記判断が誤りである
ことは明らかである。
 (被告の反論)
本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由にはいずれも理由が
ない。
1 取消事由1(審理手続の瑕疵)について
  (1) 原告は,本件出願に係る審査において手続補正後にあらためて拒絶理由を
通知することなく本件拒絶査定がされ,また,本件審判の手続において,拒絶理由
が通知されないまま本件審決がなされており,上記審査,本件審判の手続には瑕疵
がある旨を主張する。
    しかし,本件出願の審査において,担当審査官は,原告がした明細書の
「特許請求の範囲」を限定的に減縮する補正に関し,当該補正部分は周知事項であ
るとして(周知例として,特開平7-250711号公報を例示したものであ
る。),本件拒絶査定をしたものであり,それに先だって通知した拒絶理由とは異
なる新たな拒絶理由に基づいて本件拒絶査定をしたものではない。したがって,当
該審査の手続,本件審判の手続において,担当審査官ないし担当審判長があらため
て拒絶理由を通知しなかったことに手続上の瑕疵はない。
  (2) また,本件審決において引用された,実公昭28-1173号公報(甲
7)は,ブラシの植毛方法として,植毛する部材に円孔を,その底部を逆円錐形と
なるように穿孔し,ブラシ束を2つ折に折り曲げ,その折り曲げ部にワ字形の止め
金具を掛け,該止め金具を上記円孔の底部の傾斜面に沿って押し込んで,植毛する
部材に止め金具の先端部を交叉状に食い込ませて植毛することが周知技術であるこ
とを示すためのものである。上記技術が周知であることは,実公昭31-1686
1号公報(乙1)からも明らかである。
    しかして,周知技術は,当業者が当然に熟知しているべき事柄であって,
逐一示されなければその存在が分からないというものではないから,これを原告に
提示して意見を述べる機会を付与することは必要でなく,本件審判の手続におい
て,甲7を提示した拒絶理由を通知しなかったことに手続上の瑕疵はない。
(3) したがって,上記審査,本件審判の手続には,何らの瑕疵もない。
 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
(1) 原告は,本願発明と引用発明1とは,技術的課題,目的を異にしており,
両者における固定手段の相違は,技術的課題,目的の相違に基づくものであるか
ら,当業者が適宜なし得る程度のものではない旨を主張する。
    しかし,発明の技術的課題,すなわち,発明の目的ないし効果について
は,必要に応じて,本願発明と引用発明1との相違点に係る発明の容易推考性を判
断する際に参酌される事項である。したがって,本願発明と引用発明1とが技術的
課題,目的を異にするからといって,相違点1に係る本願発明の構成が,当業者に
とって容易に想到できないと直ちに判断されるわけではない。
(2) 相違点1は,「円筒基部と外管とが,本願発明では,接着固定されている
のに対して,引用発明1では,ネジ固定されている」というものである。本件審決
で説示したとおり,固定手段として,ネジによる固定も接着による固定も周知であ
るから,あらためて,本願発明の目的又は作用・効果を考慮するまでもなく,相違
点1に係る本願発明の構成は,当業者が容易に想到できるものである。
    なお,接着固定によれば,円筒基部と外管との全面密着が可能であり,円
筒基部と外管とが一体的に固定されること,すなわち固着されることは自明であ
る。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 原告は,引用例2に記載されているローラは,農作物用の搬送用回転ロー
ラであって,引用発明1の回転式円筒研磨ブラシとは,用途を異にしており,引用
例2に記載の技術事項を引用発明1に適用する動機付けがない旨主張する。
    しかし,引用例2には,ローラの用途として,搬送のみならず,「磨き」
が挙げられていることから(1頁1欄12~13行),引用発明2は,具体的な対
象物はともかく,本願発明と同様な研磨の用途に用いることが可能なものである。
したがって,引用発明2も,回転式円筒研磨ブラシに関するものであり,引用発明
1も引用発明2も,同一技術分野であるブラシロール,それも研磨を為すブラシロ
ールに属するから,引用発明2を引用発明1に適用することについての動機付けは
十分にある。また,引用発明2を引用発明1に適用することについての阻害要因は
ない。
(2) 原告は,本件審決が周知例として挙げた,実公昭28-1173号公報
(甲7)の記載からは,「ブラシの植毛方法として,植毛する部材に円孔を,その
底部を逆円錐形となるように穿孔し,ブラシ束を2つ折に折り曲げ,その折り曲げ
部にワ字形の止め金具を掛け,該止め金具を上記円孔の底部の傾斜面に沿って押し
込んで,植毛する部材に止め金具の先端部を交叉状に食い込ませて植毛すること」
が周知技術であると認定することはできない旨主張する。
    しかし,甲7において,円孔が逆円錐形の底部を有し,これにワ字形の止
め金具を挿入するのであるから,止め金具を円孔に押し込んでいけば,止め金具の
先端部は,円孔の底部の傾斜面に当接した後,該先端部は押し込みとともに,傾斜
面に沿って押し込まれることは明らかである。したがって,甲7の図面には,素材
1に穿った孔2内に,毛束3を2つ折りとしてワ字形の釘5に掛けて,釘5を孔2
の底部の傾斜面に沿って押し込んで,釘5の先端部を交叉状に食い込ませた状態が
示されていると認められる。
    すなわち,甲7は,ブラシの植毛方法として,「植毛する部材(素材1)
に円孔(孔2)を,図に示される如く,その底部を逆円錐形となるように穿孔し,
ブラシ束(毛束3)を2つ折に折り曲げ,その折り曲げ部にワ字形の止め金具(2
脚釘5)を掛け,該止め金具(2脚釘5)を上記円孔(孔2)の底部の傾斜面に沿
って押し込んで,植毛する部材(素材1)に止め金具(2脚釘5)の先端部を,図
に示される如く,交叉状に食い込ませて植毛すること。」(括弧内は,甲7に記載
された部材を示す。)が周知であることを示すものである。
    上記のとおり,本件審決の周知技術の認定に誤りはない。
(3) 以上のとおり,引用発明2を引用発明1に適用することには十分な動機付
けがあり,また,その適用の際に,上記周知技術を考慮することも当業者が容易に
想到できるから,本件審決の相違点2についての判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(審理手続の瑕疵)について
  (1) 原告は,本件出願の審査において,拒絶理由通知が発せられた後に原告に
おいて明細書の「特許請求の範囲」を減縮する補正をしたから,担当審査官は,あ
らためて拒絶理由を通知すべきであるのに,これを怠り実質的に新たな拒絶理由に
より本件拒絶査定をしており,上記審査の手続には瑕疵があるとし,そうである以
上,本件審判の手続において,担当審判長は,あらためて拒絶理由を通知し,原告
に意見を述べる機会を与える必要があったのに,これを怠って本件審決に至ったも
のであり,本件審判の手続には瑕疵がある旨主張する。
  しかしながら,出願の審査において,拒絶理由の通知がされた後に出願に
係る明細書の「特許請求の範囲」が補正により減縮されたとしても,先に通知した
拒絶理由が解消されないときには,担当審査官は,あらためて特許法50条の規定
による拒絶理由の通知をして,出願人に意見を述べる機会を与える必要はなく,先
にした拒絶理由通知を前提として拒絶査定をすることができるものと解される。
(2) 本件についてみると,前記第2の1の事実に証拠(甲3,8,9)及び弁
論の全趣旨を併せれば,本件出願の審査において,担当審査官は,拒絶理由の通知
後に本件出願に係る明細書の「特許請求の範囲」等につき補正がされたものの,そ
の補正に係る事項は周知技術に属するとの認定の下,本願発明は,先に通知した拒
絶理由で引用した引用文献及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明すること
ができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができ
ない,との理由で本件拒絶査定をしたことが認められる。このように補正された事
項が周知・慣用技術に属するような場合,周知・慣用技術は,当業者が,当然知っ
ているべき技術であり,先に通知した拒絶理由は解消されないことになると考えら
れるから,担当審査官は,上記のとおり,あらためて拒絶理由の通知を発すること
なく,拒絶査定をすることができるというべきである。そして,後記説示のとお
り,上記補正の内容は周知技術に属するとの本件拒絶査定における認定にも誤りは
ないから,本件出願の審査において,あらためて拒絶理由を通知しなかったことに
手続上の瑕疵はない。
したがってまた,本件出願の審査手続に上記の瑕疵があることを前提とし
て,本件審判の手続に瑕疵があるとする原告の主張は,その前提において失当であ
る。
(3) 原告は,本件審決は,周知技術に名を借りて,新たな公知文献(実公昭2
8-1173号公報(甲7))に基づいて判断をしているが,新たな公知文献を判
断の資料とするのであれば,担当審判長は,原告に対し,あらためて拒絶理由を通
知して意見を述べる機会を与えるべきであったのに,これを怠って本件審決に至っ
たものであり,本件審判の手続には瑕疵がある旨主張する。
    しかしながら,本件審決は,審査段階で通知した拒絶理由で引用された公
知文献に周知技術を組み合わせることにより,相違点1,2に係る本願発明の構成
を想到することは容易であると判断したものであり,新たな拒絶理由に基づいて本
件拒絶査定を維持したものでないことは明らかである。原告は,本件審決がその判
断に引用した実公昭28-1173号公報(甲7)は周知例ではなく,公知文献に
すぎないかのようにいうが,甲7は,本件出願の審査段階での上記補正に係る事項
が周知技術に属することを明らかにするための証拠として引用されたものであり,
それが周知技術を開示したものであることは後記に説示するとおりである。
    しかして,このような周知技術に係る文献を引用して拒絶査定を維持する
ことは,審判において,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には当
たらないから,本件において,甲7を提示した拒絶理由を通知して,原告に意見を
述べる機会を与えることは要しないというべきである。
    上記原告の主張は採用できない。
(4) したがって,本件拒絶査定,本件審決に手続上の瑕疵はなく,原告主張の
取消事由1には理由がない。
 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
 原告は,本願発明と引用発明1とにおける固定手段の相違は,両発明の技術
的課題,目的の相違に基づくものであり,接着固定とネジ固定とでは技術的意義が
相違するから,当業者が適宜なし得る程度のものではない旨を主張するので,以下
検討する。
(1) 本願発明における「接着」の技術的意義
    本願発明における「接着」の技術的意義についてみるに,本件明細書(甲
3)の「特許請求の範囲」の請求項1には,「前記円筒コア管は,アルミ製の円筒
状をなす円筒基部と,前記円筒基部に外嵌される硬質合成樹脂製の外管とが接着固
定されてなり」と記載されている。同請求項1には,他に,「接着固定」について
規定する記載は認められないから,この「接着固定」がいかなる態様のものである
かは上記請求項1の記載からは必ずしも明らかでないが,本件明細書の「発明の詳
細な説明」中には,「該外管3も2つの半円筒状体(3A,3B)よりなり,円筒
基部2には接着をもって固定される。」(段落【0008】)と記載されているこ
とから,本願発明において「接着固定」とは,円筒基部と硬質合成樹脂製外管とを
接着により固定することを意味しているものと認められ,「接着」の技術的意義
は,円筒基部と硬質合成樹脂製外管とを空間的に一体化することにあるものと解さ
れる。
  (2)ア 本件明細書(甲3,4)の「発明の詳細な説明」の項には,「接着」に
関連して,別の観点から次のとおり記載されている。
    (ア) 「この実施形態の円筒研磨ブラシBの製作は以下のようになされ
る。先ず,円筒コア管4の製作に付き,次の各方法が採られる。
     ① 円筒状の円筒基部2に円筒状の外管3を接着剤を介して嵌装させ,
その固着を待って半割り体に切断する。
     ② 円筒状の円筒基部2,円筒状の外管3をそれぞれ半割り状に切断
し,それらの半円筒状のものを接着剤を介して固着させる。ボルト挿通孔12は半
割り体4A,4Bに穴加工される。
  ブラシ植設孔5の穿孔作業すなわち穴加工に付いては,所定の装置
すなわちボール盤を使用し,該装置に装着されたドリルによりなされる。」(段落
【0012】)
    (イ) 「ブラシ植設孔の穴加工は合成樹脂製の外管に対してのみなされる
ので,その作業は容易であるとともに,穴加工に伴う歪みは円筒基部により阻止さ
れ,所定の精度が保持される。」(段落【0005】)
    (ウ) 「シャフト1に当該円筒研磨ブラシBを取り付ける。すなわち,円
筒研磨ブラシBの一方の半割り体の円筒コア管4A(又は4B)をシャフト1に当
接し,そのボルト挿通孔12Aをシャフト1のボルト挿通孔22に一致させ,ま
た,他方の半割り体4B(又は4A)も同様にして,そのボルト挿通孔12Bをシ
ャフト1のボルト挿通孔22に一致させ,それらの挿通孔12A,22,12Bに
固定具7のボルト19を挿通し,しかる後,ボルト19のねじ部にナット20を螺
合し,回動締め付ける。」(段落【0013】)
     これらの記載によれば,回転式円筒研磨ブラシは,半割りの円筒基部2
と半割りの円筒状外管3とが接着により一体化している半割り体4A,4Bの状態
で,半割り体4A,4Bの円筒状外管3に対するブラシ植設孔の穴加工がなされ,
次いで,ブラシ植設孔へのブラシ植設がなされるという工程を経て製造されるこ
と,また,かかる製造工程によれば,半割り体4A,4Bを形成した後に,穴加工
を含めたブラシ植設作業を行うため,ブラシ植設作業が容易で,回転式円筒研磨ブ
ラシを所定の精度に保持できることが認められ,穴加工を含めたブラシ植設作業に
先立ち,予め,円筒基部2と円筒状外管3とを一体化して半割り体4A,4Bを作
製しておくこと,すなわち,「接着工程」を「ブラシ植設工程」の前工程として採
用したことに,「接着」の技術的意義を認めることができる。
イ しかしながら,本願発明は「もの」の発明であるから,その構成要件が
有する技術的意義を考察するにあたっては,その構成要件を形成する部材の形状,
構造,各部材の空間的配置等によりもたらされる技術的意義が把握されるべきであ
って,「もの」の製造される工程においてもたらされる技術的意義を把握すること
は適切でない。
     そうすると,本願発明において,「接着固定」,すなわち,円筒基部と
硬質合成樹脂製外管とを接着により固定することの技術的意義は,円筒基部と硬質
合成樹脂製外管とを空間的に一体化することにあると解すべきである。他方,「接
着工程」を「ブラシ植設工程」の前工程として採用したことによる「接着」の技術
的意義は,「接着」による「固定」と,ブラシ植設工程に先立つ「接着工程」の採
用という,特定の製造工程とを組み合わせることにより発揮されるものであって,
製造方法とは切り離された「もの」の発明において発揮されるものではなく,本願
発明における「接着固定」の技術的意義は,回転式円筒研磨ブラシの製造工程にお
いて,穴加工を含めたブラシ植設作業に先立ち,円筒基部と硬質合成樹脂製の外管
とを一体化しておくことにあるのではないと認められる。
なお,原告は,本願発明においては,「接着加工」により,「①ブラシ
植設孔の穴加工は合成樹脂製の外管に対してのみなされるので,その作業は容易で
あるとともに,②穴加工に伴う歪みは円筒基部により阻止され,所定の精度が保持
される」作用効果を奏する旨主張するが,上記①の作用効果は穴加工が合成樹脂製
の外管にのみなされることから当然に予想される範囲内のものというべきである
し,上記②の作用効果は,上記の特定の製造方法を採用した場合に得られるもので
あって,当該「もの」の発明の場合に得られるものとはいえない。
(3) 引用発明1における「ネジ固定」の技術的意義
   ア 引用例1(甲5)には,次のとおり記載されている。
    (ア) 「中芯半体6の外周に不織布7を接着固定した状態のものを用意す
る。第4図に示すように軸半体5の中央部5aの外周に上記不織布7を接着固定さ
れた中芯半体6の内周6aを当接させる。次にネジ12を軸半体5の周縁部両側の
凹部5c側より貫通孔5e1~5e4に挿入し中芯半体6のネジ孔6b1~6b4に
螺入する。」(明細書6頁7~13行)
    (イ) 「このようにして組付けられたロール半体3,4を・・・回転軸2
を介在させて互いに対向させる。そして,ネジ11を固定部5bの孔5dより挿入
し回転軸2の孔2aを挿通させて軸半体8のネジ孔8aに螺合させる。」(同6頁
18行~7頁2行)
    (ウ) 「新品の不織布7(10)を設けられた中芯半体6(9)を複数本
用意しておけば,即座に新品の不織布7(10)に交換できる。また高価な軸半体
5,8は一組あれば良いため,ユーザの経済的な負担が小さい。・・・また,中芯
半体6,9は,合成樹脂等により安価に成型されているため,摩耗した不織布7,
10と共に捨てても経済的な損失は小さくて済む。」(同7頁16行~8頁5行)
   イ 上記記載によれば,ネジ12が,軸半体5,8と中芯半体6,9とを固
定するためのものであることは明らかであり,引用発明1において,ネジ固定の技
術的意義は,軸半体5,8と中芯半体6,9との空間的な一体化にあるといえる。
  (4) そうすると,本願発明の「接着固定」と,引用発明1の「ネジ固定」と
は,技術的意義において一致するというべきである。これらの技術的意義が相違し
ているとする原告の主張は採用できない。
    ところで,引用例1(甲5)の前記(3)ア(ウ)の記載からすると,引用発明
1において,軸半体5と中芯半体6とを固定するために「ネジ」を用いたのは,軸
半体5と中芯半体6との固定を解いて,中芯半体6を新品に交換できるようにする
ためであると認められるところ,中芯半体の交換は,経済的要因を考慮してのこと
であって,技術的要因からの要請によるものではないから,引用発明1において,
「ネジ」による固定によらず,他の固定手段も採用でき,また,経済的に許される
のであれば,中芯半体を交換する必要のないものとすることも当業者に明らかであ
る。しかして,「接着」が固定手段の1つであることは,技術常識に属することで
あり,上記のとおり,引用発明1において,「ネジ」以外の固定手段を採用できる
ことは明らかであるから,引用発明1における軸半体5と中芯半体6との固定手段
として「接着」を用いることは,当業者ならば容易に想到できることというべきで
ある。
    原告は,引用発明1においては,中芯半体が取り外し自在の構成が採用さ
れていることから,「接着」を採用することは容易ではない旨主張するが,上記の
とおり,引用発明1において,中芯半体を取り外し自在とする必然性はないといえ
るから,原告の主張は採用できない。
  (5) 以上のとおり,本願発明における「接着固定」と,引用発明1における
「ネジ固定」とは,技術的意義を同じくするものであり,両者は,互いに代替可能
なものということができる。
そして,両者が代替可能である以上,前記第3(原告主張の取消事由)
2(1)記載の本願発明の作用効果,すなわち,①円筒コア管は,回転軸への取付けに
供される内側のアルミ製の円筒基部と,ブラシの植設される外側の合成樹脂製の外
管との2部分より合成されるもので,機能が2分化されており,明確かつ合理的な
設計をなすことができる,②全体的に軽量化でき,③円筒基部の剛性により合成樹
脂製の外管の歪み・変形を有効に阻止できるため,全体的な外径精度並びに長さ方
向へのたわみ精度が向上し,大径化・長尺化が可能となる,④円筒コア管における
円筒基部と外管との接着固定による一体化により回転動作にガタつきが生じない,
また,シャフトへの取付けは,所定の精度を保持するアルミ製の円筒基部を介して
なされるので,ガタつきなく確実に取り付けられ,また,回転式円筒研磨ブラシの
重量部分は円筒軸部分すなわちシャフト側に集まるので,当該回転式円筒研磨ブラ
シの回転動作は円滑なものとなるとの作用効果は,引用発明1が有している作用効
果及び「接着」自体が有する作用効果から,当業者が予測可能なものであるといえ
る。
    したがって,本願発明と引用発明1における固定手段の相違は,当業者が
適宜なし得る程度のものではない旨の原告の主張は採用できない。
(6)以上のとおり,本件審決の相違点1についての判断に誤りがあるとはいえ
ず,原告主張の取消事由2には理由がない。
 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 用途の相違(回転式円筒研磨ブラシと搬送用回転ローラ)について
    原告は,引用例2に記載されているローラは農作物用の搬送用回転ローラ
であって,本願発明の回転式円筒研磨ブラシとは用途を異にしており,引用例2に
記載の技術的事項を引用発明1に適用し得るとする動機付けはないから,引用例2
に記載の技術的事項を引用発明1に適用することは,当業者にとって想到容易であ
るとはいえない旨主張する。
    そこで検討するに,引用例2(甲6)には,「本発明は,・・・農作物の
搬送及び磨きに使用される刷毛ローラに関する」(1頁1欄12~13行)と記載
されており,この記載から,引用例2に記載の刷毛ローラは,農作物の搬送及び磨
きに使用されるものであることが認められる。
    しかしながら,他方,引用例2(甲6)には,「ローラ本体1は木材,合
成樹脂材等によって丸軸に形成され,そのローラ本体1の外周に軸芯方向及び周方
向に適宜間隔をおき,軸芯Oに沿った一方向及び周方向の夫々所定角度だけ傾斜さ
せて植設孔2が穿設され,その植設孔2に刷毛3が嵌挿着固定されてローラ本体1
外に適宜長さ延長突出される。」(2頁4欄15行~5欄1行)と記載されてお
り,この記載から,引用例2のローラは,合成樹脂製ローラ本体に複数の円孔をな
す植設孔が穿設され,その植設孔に刷毛が植設されたものであると認められる。そ
うすると,引用例2に記載のローラは,引用発明1のローラとは磨きを行う回転式
円筒ブラシである点で同一の技術分野に属するものであり,また,合成樹脂製の円
筒部にブラシを植毛する点で植設構造を同じくするものであるから,たとえ,引用
例2に記載のローラの用途が農作物の搬送及び磨きに利用されるものであるとはい
え,引用例2に記載されたブラシの植設態様を引用発明1に適用することには,十
分な動機付けがあるというべきである。
(2) 構成の相違(ブラシの植設に関する構成)等について
ア原告は,引用例2(甲6)に記載のローラでは,単一のローラ本体へブ
ラシを植設しており,本願発明のように,円筒基部と外管とからなる2重管構造の
うち,外管にブラシを植設する態様とは相違する旨主張する。
     確かに,引用例2に記載のものは,単一のローラ本体にブラシを植設す
るものであり,2重管構造を採用する引用発明1とは,ローラ本体の構造が相違す
るが,上述したとおり,引用例1に記載の技術事項と引用例2に記載のそれとは,
磨きを行う回転式円筒ブラシである点で同一の技術分野に属するものであり,ま
た,合成樹脂製の円筒部にブラシを植毛する点で植設構造を同じくするものであ
る。2重管構造であるか否かは,合成樹脂製の円筒部にブラシを植設することと直
接関係のないことであるから(上述のとおり,本願発明は「もの」の発明であり,
2重管構造とした状態で植毛する植毛工程を構成要件とする「製造方法」の発明で
はない。),引用例2に記載されたブラシの植設態様を引用発明1に適用すること
に格別の創意は要しないということができる。
イ また,原告は,引用例2に記載のローラにおいては,ブラシ植設孔の底
部は平底であり,引用発明2は,本願発明の「円孔をなすブラシ植設孔の底部は頂
角が90°又は鋭角の逆円錐形に形成され,ブラシ束の基部に巻き懸けられた線材
の止め金具の突出端をブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押し込んで外管内に食
込み状に係合させてなる」点を示唆するものではない旨主張する。
    (ア) 確かに,引用例2(甲6)の「ローラ本体1に傾斜穿設した植設孔
2に対する 刷毛3の嵌挿着固定は,植設孔2に刷毛3を嵌挿すると共に,植設孔
2に接着剤4を流し込んで固着したり(第2図),刷毛3を予めT字形をした基板
5に接着剤4で起立状態に固着し,これをローラ本体1の植設孔2に嵌合固着する
形態(第3図),又は必要長さの倍の長さを有した刷毛3’をU字形に半折し,こ
れを植設孔2に嵌合して止め針6で固着する形態(第4図)等,何れでも良いもの
である。」(2頁5欄7~16行)という記載,また,その第4図の記載からみ
て,引用発明2は,ブラシ植設孔の底部において頂角が90°又は鋭角の逆円錐形
に形成されている点,止め金具の突出端をブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押
し込む点の構成を有していないことが認められる。
    (イ) しかしながら,本願発明において,ブラシ植設孔の底部は頂角が9
0°又は鋭角の逆円錐形に形成されている点についてみるに,本件明細書(甲3,
4)には,①「このブラシ植設孔5は,先端の刃先が円錐形をなすドリルをもって
穿孔されるものであり,従ってその先端の形状に対応して孔底5bは円錐形をな
す。このブラシ植設孔5は例えば,径が5mm,深さが10mm,孔底5bの角度
が90°の諸元を採り,各孔5は千鳥に配され,15mmの間隔を保つ。」(段落
【0009】),②「外管3の素材は金属に比べ軟質であるので,容易に穿孔され
る。従って,その先端角は鋭角状を採りうる。ブラシ束15のブラシ植設孔5への
植込み作業は,次のようにしてなされる。ブラシ繊維16の6~10本と(「を」
の誤記と認める。)1束とし,その中央に止め金具17を巻き懸け,該止め金具1
7の突出両端が下方になるように折り込み,その状態を保持しつつ,所定の工具を
介してブラシ植設孔5に押し込む。その押込み力により,止め金具17の突出両端
はブラシ植設孔5の孔底5bの傾斜面に沿って折り曲げられ外管3内に食い込
む。」(段落【0012】)と記載されている。
      上記記載によれば,本願発明においては,外管3の素材が軟質である
ことから,ブラシ植設孔の底部の頂角を,90°又は鋭角とできることが認められ
るものの,このことにより,「もの」の発明として格別の作用効果が奏されている
と認めることはできない。
      そうすると,ブラシ植設孔の底部において頂角が90°又は鋭角の逆
円錐形に形成されている点は,刃先の先端角度が90°又は鋭角である円錐形をな
すドリルを用いた穿孔作業の結果というべきであって,この点には格別の技術的意
義を認めることはできず,当業者が外管素材の材質に応じて適宜決定し得ることと
いうべきである。
 (ウ) また,止め金具の突出端をブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って押
し込む点についてみると,この点は,本件明細書の上記②の記載からして,止め金
具17を外管3内に食い込ませるための作業工程の一部であるということができ,
本件明細書(甲3)の「特許請求の範囲」の請求項1には,かかる作業工程により
得られる止め形状が特定されているわけではない。
   したがって,本願発明において,「ブラシ植設孔の底部は頂角が90
°又は鋭角の逆円錐形に形成されている点」,「止め金具の突出端をブラシ植設孔
の底部の傾斜面に沿って押し込む点」の有する技術的意義は,本件明細書(甲3,
4)における「該ブラシ植設孔5へのブラシ束15の植設に付き,ブラシ束15は
その止め金具17がブラシ植設孔5から外管3内に食い込み,該止め金具17を介
して強固な定着がなされる。」(段落【0014】)との記載から明らかなとお
り,止め金具17を介して,ブラシ束を強固に定着させることにあり,止め形状が
特定されていない以上,他に,格別の技術的意義があると認めることはできない。
      なお,原告は,前記第3(原告主張の取消事由)2(1)のとおり,本願
発明により,⑥「ブラシ植設孔へのブラシ束の植設に付き,ブラシ束はその止め金
具がブラシ植設孔から外管内に食い込み,該止め金具を介して強固な定着がなされ
ることから,穴加工,ブラシ束の植設作業の効率が向上し,生産性の向上が計れ
る」,⑦「ブラシ植設孔へのブラシ束の植設操作において,止め金具はブラシ植設
孔の底部の傾斜面に沿って外管内に押し込まれ,斜め方向に向かって外管に食い込
むので,小さな深さで十分な定着長さが得られ,ブラシ植設孔の深さの短小化に寄
与し得,ひいては外管の厚みを小さくでき,円筒コア管の径小化を図ることができ
る」という作用効果が奏されると主張するが,止め金具がブラシ植設孔から外管に
食い込む構成を採用することにより,止め金具を介してブラシ束の強固な定着が図
れることはそのとおりであるとしても,それが直ちに上記のような穴加工等の作業
効率の向上,生産性の向上につながるとは考えられず,その作用効果は,特定の作
業工程から生ずる作用効果にすぎず,「もの」の発明である本願発明の奏する作用
効果とはいえない。また,止め金具がブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿って外管内
に押し込まれ,斜め方向に向かって外管に食い込むことに奏されるとする上記の作
用効果については,本件明細書には記載のないものであり,これを当該構成を採用
することによる格別な効果と認めることはできない。
(3) 周知技術の認定について
    本件審決が引用した文献(実公昭28-1173号公報(甲7))及び実
公昭31-16861号公報(乙1)からすると,円孔が逆円錐形の底部を有する
ブラシ植設孔を形成し,このブラシ植設孔に,ブラシ繊維の束を巻き懸け,突出両
端が下方になるように折り込んでなる止め金具を圧入するブラシ束の定着手法は,
本件出願前周知の技術であることが認められる。
    確かに,甲7,乙1には,止め金具の突出端が,ブラシ植設孔の底部の傾
斜面に沿って押し込まれるかどうかは明記されていないが,円孔が逆円錐形の底部
を有し,これにワ字形(ワ字形という以上,突出両端が閉じているとは想定できな
いし,突出両端を完全に閉じてしまう必要性があるとは認められない。)の止め金
具を挿入するのであるから,止め金具を円孔に押し込んでいけば,止め金具の先端
部が,円孔の底部の傾斜面に当接するであろうことは容易に理解され,傾斜面に当
接した後,該先端部は押し込みとともに,傾斜面に沿って押し込まれることも明ら
かである。本願発明において,止め金具の突出端をブラシ植設孔の底部の傾斜面に
沿って押し込む点は,上記周知技術を採用するにあたり,押し込みの過程におい
て,必然的に生じるものにすぎないというべきである。
    そうすると,本件審決が,ブラシの植毛方法として,植毛する部材に円孔
を,その底部を逆円錐形となるように穿孔し,ブラシ束を2つ折に折り曲げ,その
折り曲げ部にワ字形の止め金具を掛け,該止め金具を上記円孔の底部の傾斜面に沿
って押し込んで,植毛する部材に止め金具の先端部を交叉状に食い込ませて植毛す
ることが周知技術であると認定し,この周知技術の適用は当業者が容易に行えると
した点に誤りはない。なお,止め金具の突出端をブラシ植設孔の底部の傾斜面に沿
って押し込む点に格別の技術的意義が認められないことは,上述のとおりである。
(4) 論理付けの相当性
    原告は,本件審決は,引用発明1に引用発明2を適用することにより,直
ちに相違点2に係る構成に到達できると判断したのではなく,引用発明2の適用に
当たって,周知技術を付加し,かつ適宜改変を加えることは容易であると,いわば
「屋上屋を重ねる」論理(容易性の積み重ね)でもって,相違点2に係る構成の想
到容易性を判断しており,この論理は妥当なものといえない旨主張する。
    しかしながら,本件審決は,「合成樹脂製の部材であるローラ本体に,複
数の円孔をなす植設孔が穿設され,その植設孔にブラシ束が植設され,U字形とさ
れたブラシ束は,その基部を止め金具の突出端を植設孔の底部に押し込んでローラ
本体内に,食い込み状に係合させる」ことが,引用例2(甲6)に記載されている
とし,その係合態様の一例として,周知技術を示したことは明らかであるから,本
件審決の論理付けに誤りがあるということはできない。
(5) 以上のとおり,本件審決の相違点2についての判断に誤りがあるとはいえ
ず,原告主張の取消事由3には理由がない。
4 以上の次第で,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がな
く,その他,本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見出せない。
 よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
  東京高等裁判所知的財産第1部
    裁判長裁判官    北  山  元  章
   裁判官      青  栁     馨
         裁判官   沖  中  康  人

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