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平成21年1月28日判決言渡
平成20年(行ケ)第10180号審決取消請求事件
平成20年11月17日口頭弁論終結
判決
原告株式会社備後バルブ製造所
原告X
原告ら訴訟代理人弁護士村重慶一
被告東京サイレン株式会社
訴訟代理人弁理士斉藤侑
同伊藤文彦
主文
1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2007−800253号事件について平成20年4月11日
にした審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告らは,発明の名称を「接合金具」とする発明につき,平成13年11月
,(),,6日特許出願し特願2001−340822号平成19年1月26日
特許権の設定登録を受けた(特許第3906462号。以下「本件特許」とい
う。請求項の数は2である。。)
被告は,平成19年11月12日,本件特許の請求項1及び2について無効
審判を請求した(無効2007−800253号。)
特許庁は,平成20年4月11日「特許第3906462号の請求項1及,
び2に係る発明についての特許を無効とする」との審決(以下「審決」とい。
う)をした。。
以下,審決の表記にしたがって,本件特許の請求項1,2に記載された各発
明を,順に「本件発明1「本件発明2」といい,甲1の1に記載されている」,
仕様と同一の仕様が記載されている海上自衛隊仕様書(仕様書番号「M4P−
G−00827−2,名称「消防用ホース,艦船用。甲3の7枚目ないし1」」
4枚目,乙3の4,乙3の7)を「甲1仕様書」という。
2審決の理由の要点
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。
要するに,本件発明1及び2は,本件特許出願前に日本国内において頒布さ
れた刊行物である甲1仕様書に記載された発明であって,特許法29条1項3
号の規定に該当し特許を受けることができないものであり(無効理由1,ま)
た,本件発明1及び2は,本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行
物である甲2(特開2000−304185号公報)記載の発明及び甲1仕様
書記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであっ
て,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるか
ら(無効理由2,本件発明1及び2の特許は,無効とすべきものである,と)
いうものである。
審決は,上記判断の前提として,①甲1仕様書は,入札を目的として提供さ
れた文書であり,入札参加予定者及びそれ以外の相当数の業者が入手していた
こと,②被告は,平成13年3月27日,艦船用消防ホースの中間継手につい
て,海上自衛隊の契約担当官との間で受注契約を締結し,請書(以下「本件請
書」という。甲3,乙3の1)を作成,提出し,その控えを受領したこと,③
本件請書には甲1仕様書が添付されていたこと,から,甲1仕様書は,遅くと
も被告が艦船用消防ホースの中間継手について受注契約を締結した平成13年
3月27日までに不特定多数の者が見得るような状態におかれており,本件特
許出願前に日本国内において頒布された刊行物であると認定した。また,審決
は,④甲1仕様書は受注契約の契約条項により守秘義務が課せられた文書では
ない,⑤甲1仕様書に係る物品である消防用ホースは,艦船に特有の形状・構
造を有するとはいえないごく一般的なものであり,特段の軍事機密に属するも
のではない,と認定した。
第3原告ら主張の取消事由
甲1仕様書が本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に該当す
るとした審決の認定には,以下のとおりの誤りがある。
1甲1仕様書が本件請書に添付されていたとの認定の誤り
審決は,甲1仕様書が本件請書に添付されていたと認定したが,以下の理由
により,その認定は誤りである。
すなわち,①被告は,中間継手の入札に参加した上で,受注し,その受注契
約の過程で本件請書を作成,提出し,その控えを受領したものであるから,本
件請書に「消防用ホース,艦船用」の仕様書である甲1仕様書が添付されるの
は不自然であり,②本件請書(甲3の3枚目)には調達要求番号が記載されて
いるのに対し,本件請書に添付されていたとされる甲1仕様書(甲3の7枚目
ないし14枚目,乙3の4,乙3の7)には調達要求番号が記載されていない
ことからすれば,甲1仕様書は,本件請書に添付されていなかったものと認定
するのが合理的であり,③原告ら訴訟代理人が,行政機関の保有する情報の公
開に関する法律(以下「情報公開法」という)に基づいて「平成13年度に。
おける防衛庁(当時)に対する海上自衛隊仕様書(M4P−G−00827−
2)による消防用ホース,艦船用に関する納入契約書(添付書類を含む」の)
開示請求を行ったところ「開示請求に係る行政文書は,契約実績がないこと,
から,文書不存在につき不開示とします」との行政文書不開示決定通知を受。
けたことからも,甲1仕様書が本件請書に添付されていたことはないと推認で
きる。
2甲1仕様書は受注契約の契約条項により守秘義務が課せられた文書ではない
との認定の誤り
審決は,甲1仕様書は受注契約の契約条項により守秘義務が課せられた文書
ではないと認定するが,以下の理由により,その認定は誤りである。
すなわち,中間継手の受注契約においては,必ず契約書が作成され,契約書
には秘密保全義務が規定され,甲1仕様書が綴られ,また,秘密の保護に関す
る特約条項が規定されるから(入札及び契約心得」5.14参照,甲1仕様「)
書は,契約条項による包括的な守秘義務の対象とされている。
3甲1仕様書は入札を目的として提供された文書で相当数の業者が入手してい
たことから不特定多数の者が見得るような状態におかれていたとの認定の誤り
審決は,甲1仕様書は入札を目的として提供された文書で相当数の業者が入
手していたことから不特定多数の者が見得るような状態におかれていたと認定
するが,以下の理由により,その認定は誤りである。
①入札及び契約心得防衛省装備施設本部の11目的は防「」()「.()」,「
衛省装備施設本部・・・と・・・入札等に参加しようとする者,契約を締結
しようとする者及び契約を締結した者・・・が知り,かつ,守らなければな
らない事項を定めるものとする」と規定する。仕様書は,防衛省と契約を。
締結しようとする者以外の一般人が知り得ない文書であり,契約を締結しよ
うとする者も,入札の際は閲覧し若しくは貸与を受けるにとどまり,返還義
務があるから頒布されたとはいえないそのため仕様書については入,。,,「
札及び契約心得」により守秘義務が課せられている。
②甲1仕様書は,防衛省における行政機関の保有する情報の公開に関する法
律に基づく処分に係る審査基準の第4,5(6)に規定する「防衛省・自衛
隊の現有及び将来装備品等の機能,性能,構造,材質に係る情報であって,
当該情報を開示することにより自衛隊の装備品等の質的能力が推察され,防
衛省・自衛隊の任務の効果的な遂行に支障を生じさせるおそれがあると認め
られる情報」に該当し,情報公開法5条3号に基づき不開示とされる情報で
ある。
③甲1仕様書は,不正競争防止法2条6項に規定する営業秘密に当たり,被
告の従業員が下請等に甲1仕様書を見せたとしても,甲1仕様書は公知とは
ならない。
4甲1仕様書に係る消防用ホースは特段の軍事機密に属するものではないとの
認定の誤り
審決は,甲1仕様書に係る消防用ホースは特段の軍事機密に属するものでは
ないと認定するが,甲1仕様書には材質等の記載があり,材質は耐熱特性,運
,,用の限界に影響するから甲1仕様書に係る消防用ホースは重要な秘密に属し
審決の認定は誤りである。
第4被告の反論
甲1仕様書が本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に該当す
るとの審決の認定に誤りはなく,原告ら主張の取消事由は理由がない。
1甲1仕様書が本件請書に添付されていたとの審決の認定に誤りはなく,この
点に関する原告らの主張は理由がない。
すなわち,①甲1仕様書は,中間継手の仕様書に引用された文書として,中
間継手の仕様書とともに本件請書に添付されていたものであること,②甲1仕
様書は,中間継手の仕様書に引用された文書であったことから,本件請書に添
付されていた甲1仕様書の写しには調達要求番号が記載されていなかったもの
であり,調達要求番号が記載されていなかったことに不自然な点はないこと,
③被告は,中間継手について受注契約を締結したものであるから,消防用ホー
スについて契約実績がない旨の行政文書不開示決定通知が行われたとしても,
甲1仕様書が本件請書に添付されていたことと矛盾はないことから,審決の認
定に誤りはない。
2甲1仕様書は受注契約の契約条項により守秘義務が課せられた文書ではない
との審決の認定に誤りはなく,この点に関する原告らの主張は理由がない。
すなわち,被告の中間継手の受注契約において,守秘義務を定めた契約条項
はなく,秘密の保護に関する特約条項もない。したがって,甲1仕様書は契約
条項による守秘義務の対象とされておらず,甲1仕様書は受注契約の契約条項
により守秘義務が課せられた文書ではないとの審決の認定に誤りはない。
3甲1仕様書は入札を目的として提供された文書で相当数の業者が入手してい
たことから不特定多数の者が見得るような状態におかれていたとの審決の認定
に誤りはなく,この点に関する原告らの主張は理由がない。
すなわち,①甲1仕様書は「入札及び契約心得」によって守秘義務が課せ,
られているとはいえず,②情報公開法5条3号の情報に該当せず,③不正競争
防止法2条6項の営業秘密にも該当しない。
4甲1仕様書に係る消防用ホースは特段の軍事機密に属するものではないの
で,その旨の審決の認定に誤りはなく,この点に関する原告らの主張は理由が
ない。
第5当裁判所の判断
1当裁判所は,以下のとおり,甲1仕様書は本件特許出願前に日本国内におい
て頒布された刊行物に該当するとの審決の認定に誤りはないものと判断する。
()甲1仕様書が本件請書に添付されていたとの認定について1
ア原告らは,甲1仕様書が本件請書に添付されていたとの審決の認定は誤
りであると主張し,その理由として,①被告は,中間継手の入札に参加し
た上で,受注し,その受注契約の過程で本件請書を作成,提出し,その控
えを受領したものであるから,本件請書に「消防用ホース,艦船用」の仕
様書である甲1仕様書が添付されるのは不自然であり,②本件請書(甲3
の3枚目)には調達要求番号が記載されているのに対し,本件請書に添付
(,,されていたとされる甲1仕様書甲3の7枚目ないし14枚目乙3の4
乙3の7)には調達要求番号が記載されていないことからすれば,甲1仕
様書は,本件請書に添付されていなかったものと認定するのが合理的であ
ると主張する。
しかし,原告らの上記各主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)甲1(甲1の枝番号の表記は省略する,甲3,乙2,乙3の1な。)
いし8によれば,次の事実が認められる。
被告は,昭和30年ころから,一般競争入札及び指名競争入札の参加
,(),資格者として防衛庁現防衛省の発注した防衛用装備品類等の製造
販売を行っていた。被告は,艦船用消防ホースの中間継手について受注
のための準備行為を行う過程において,平成11年3月ころ,防衛庁の
担当部署から甲1仕様書の交付を受けた。甲1仕様書は,見積書を提出
するために不可欠な資料として交付を受けたものであって,入札への参
加を希望する資格者であれば誰でも入手できるものであった。また,甲
1仕様書の交付を受けるに当たり,秘密保全に関して特別な義務は課さ
れていなかった。被告は,製品を試作するために下請業者に製作依頼を
したが,その際も,被告は下請業者に対し,秘密保持契約の締結を求め
るなどの対応はしなかった。
その後,被告は,海上自衛隊の担当部署から,被告を発注先とする旨
の連絡を受け,平成13年3月27日,艦船用消防ホースの中間継手の
製造,販売について,海上自衛隊の契約担当官との間で受注契約を締結
した。被告は,受注契約締結に際し,本件請書(甲3,乙3の1)を4
通作成,提出し,そのうち1通を控えとして受領した。本件請書には,
中間継手についての海上自衛隊仕様書(物品番号等「GQ4730−3
35−23565,仕様書番号「M4P−G−00617−3,名称」」
「中間継手,MS40×MS65。甲3の3枚目ないし6枚目,乙3」
の3。以下「本件中間継手仕様書」という)が添付されていた。本件。
中間継手仕様書には,以下の記載がある。
「引用文書この仕様書に引用する次の文書は,この仕様書に規1.3
定する範囲内において,この仕様書の一部をなすものであり,入札書
又は見積書の提出時における最新版とする。
)規格・・・a
)仕様書M4P−G−00827消防ホース,艦船用」b
そして,本件請書には,本件中間継手仕様書とともに甲1仕様書が添付
されていた。
(イ)上記の事実によれば,甲1仕様書は,仕様書番号が「M4P−G−
00827−2」であり,名称が「消防用ホース,艦船用」と表記され
ているから,本件中間継手仕様書に引用文書として記載された「仕様書
M4P−G−00827消防ホース,艦船用」の最新版に該当する
こと,また,甲1仕様書は,本件中間継手仕様書とともに,本件中間継
手仕様書に引用される形式の文書として本件請書に添付されたことが認
められる。
なお,受注契約に際して作成された本件請書に添付された本件中間継
手仕様書には,調達要求番号()が記載されてい「」12-2-6645-6104-2334
るのに対し,本件請書に添付されていたとされる甲1仕様書には,調達
要求番号は記載されていない。しかし,本件請書に添付された甲1仕様
,,書は本件中間継手仕様書に引用される形式で付された文書であるから
調達要求番号が記載されていなかったことは不自然でない。
以上のとおり,原告らの上記①及び②の主張は理由がない。
イまた,原告らは,原告ら訴訟代理人が情報公開法に基づいて「平成13
年度における防衛庁(当時)に対する海上自衛隊仕様書(M4P−G−0
0872−2)による消防用ホース,艦船用に関する納入契約書(添付書
類を含む」の開示請求を行ったところ「開示請求に係る行政文書は,契),
約実績がないことから,文書不存在につき不開示とします」との行政文。
書不開示決定通知を受けたことからも,甲1仕様書が本件請書に添付され
ていたことはないと推認できると主張する。
しかし,原告らの上記主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,原告ら訴訟代理人は,平成20年9月2日,情報公開法に基
づいて「平成13年度における防衛庁(当時)に対する海上自衛隊仕様書
(M4P−G−00872−2)による消防用ホース,艦船用に関する納
入契約書(添付書類を含む」の開示請求を行ったところ(甲14,同月))
29日「開示請求に係る行政文書は,契約実績がないことから,文書不,
存在につき不開示とします」との行政文書不開示決定通知(甲15)を。
受けたことが認められる。しかし,被告は,消防用ホースそのものではな
く,その中間継手について受注契約を締結し,甲1仕様書は本件中間継手
仕様書の引用文書として本件請書に添付されたものであるから,被告に消
防用ホースについて契約実績がない旨の行政文書不開示決定通知が行われ
たとしても,甲1仕様書が本件請書に添付されていたことと矛盾するもの
ではない。
ウ以上のとおり,原告らの主張は理由がなく,甲1仕様書が本件請書に添
付されていたとの審決の認定に誤りはない。
()甲1仕様書は受注契約の契約条項により守秘義務が課せられた文書では2
ないとの認定について
原告らは,中間継手の受注契約においては,必ず契約書が作成され,契約
書には秘密保全義務が規定され,甲1仕様書が綴られ,また,秘密の保護に
関する特約条項が規定されるから(入札及び契約心得」5.14参照,「)
甲1仕様書は,契約条項による包括的な守秘義務の対象とされていると主張
する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。
まず,被告が締結した受注契約に甲1仕様書を秘密とする旨の契約条項が
定められていたことや,甲1仕様書を秘密とする旨の特約が別途締結された
ことを認めるに足りる証拠はない。
次に,被告が締結した受注契約には,防衛省の製造請負契約条項が適用さ
れ,同条項は,秘密の保持について「第46条甲及び乙は,この契約の,
履行に際し知得した相手方の秘密を第三者に漏らし,又は利用してはならな
い・・・乙は,特約条項の定めるところにより,秘密の保全を確実にしな。
ければならない」と規定している(甲8の6。上記46条1項の規定は,。)
秘密とされる事項が存在する場合に,それを前提に,漏泄,利用を禁止する
,,,「」,条項であるところ後記()のとおり甲1仕様書は入札及び契約心得3
情報公開法又は不正競争防止法に基づいて秘密と認められるものではなく,
後記()のとおり,甲1仕様書に係る消防用ホースは軍事上の秘密に属する4
ものとは認られないから,上記46条1項に基づいて,甲1仕様書について
実質的に守秘義務が課せられることはない。
さらに「入札及び契約心得」5.14.1は,契約条項に定める場合の,
ほか,秘密の保護等に関する特約条項が添付されている場合に当該特約条項
の定めるところにより秘密の保全に万全を期さなければならないと規定する
(甲8の5。しかし,前記のとおり,被告が締結した受注契約に甲1仕様)
書を秘密とする旨の契約条項が定められていたことや,甲1仕様書を秘密と
する旨の特約が別途締結されたことを認めるに足りる証拠はないから,その
ような契約条項や特約の規定に基づいて甲1仕様書について守秘義務が課せ
られることはない。
以上のとおり,原告らの上記主張は,採用することができない。
()甲1仕様書は入札を目的として提供された文書で相当数の業者が入手し3
ていたことから不特定多数の者が見得るような状態におかれていたとの認定
について
ア原告らは,仕様書については「入札及び契約心得」により守秘義務が,
課せられていると主張するが,以下のとおり理由がない。
すなわち「入札及び契約心得」の「1.1(目的」は「防衛省装備,),
施設本部・・・と・・・入札等に参加しようとする者,契約を締結しよう
とする者及び契約を締結した者・・・が知り,かつ,守らなければならな
。」(),,い事項を定めるものとすると規定するところ甲8の1この規定は
「入札及び契約心得」の一般的な目的を規定しているにすぎず,この規定
から仕様書についての守秘義務を導くことはできない。また,前記()の2
とおり「入札及び契約心得」5.14.1に基づいて甲1仕様書につい,
,,「」て守秘義務が課せられているとは認められず他に入札及び契約心得
により甲1仕様書の守秘義務が根拠づけられると認めるに足りる証拠はな
い。
また,甲12,乙2,乙5ないし7及び弁論の全趣旨によれば,①省庁
の一般競争入札及び指名競争入札の参加資格を有する者は相当数存在する
こと,②甲1仕様書を含む海上自衛隊の仕様書は,海上自衛隊の入札広告
に対して応札意思を示し,資格審査結果通知書を提示した者に配布される
こと,③甲1仕様書は,平成13年4月1日から情報公開の開示対象であ
ったことが認められ,前記()のとおり,甲1仕様書は本件請書にも添付1
されたものである。そうすると,甲1仕様書は,遅くとも被告が本件請書
を作成,提出し,本件請書とともにそこに添付された甲1仕様書を受領し
た平成13年3月27日には,不特定多数の者が見得る状態にあり,配布
,。を受けることが可能であったのであるから頒布されたものと認められる
原告らは,仕様書は,契約を締結しようとする者が閲覧し若しくは貸与を
受けるにとどまり,返還義務があるから,頒布されたとはいえないと主張
するが,仮に受注契約に至らなかった入札資格者が甲1仕様書について返
還義務を負うとしても,入札資格者であれば,閲覧し,貸与を受けること
は可能であったのだから,頒布されたといえる。
したがって,原告らの上記主張は理由がない。
イ原告らは,甲1仕様書は,防衛省における行政機関の保有する情報の公
開に関する法律に基づく処分に係る審査基準の第4の5(6)の規定に該
,。当し情報公開法5条3号に基づき不開示とされる情報であると主張する
しかし,原告らの上記主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,甲1仕様書に係る消防用ホースは,後記()のとおり,艦船4
に特有の形状・構造を有するものとは認められず,ごく一般的なものであ
ると認められ,甲1仕様書は,防衛省における行政機関の保有する情報の
公開に関する法律に基づく処分に係る審査基準の第4の5(6)の「防衛
省・自衛隊の現有及び将来装備品等の機能,性能,構造,材質に係る情報
であって,当該情報を開示することにより自衛隊の装備品等の質的能力が
推察され,防衛省・自衛隊の任務の効果的な遂行に支障を生じさせるおそ
れがあると認められる情報(甲9)に該当するとは認められず,情報公」
開法5条3号の情報に該当するとは認められない。
ウ原告らは,甲1仕様書は,不正競争防止法2条6項に規定する営業秘密
,,,に該当したとえ被告の従業員が下請等に甲1仕様書を見せたとしても
甲1仕様書は公知とはならないと主張する。
しかし,甲1仕様書については,秘密管理性,非公知性など不正競争防
止法2条6項が規定する要件を充足すると認めるに足りる証拠はないか
ら,甲1仕様書が不正競争防止法2条6項に基づいて秘密であると認める
ことはできず,原告らの上記主張は理由がない。
以上のとおり,甲1仕様書は,不特定多数の者が見得る状態にあったもの
と認められ,頒布されたと認められるから,甲1仕様書は入札を目的として
提供された文書で相当数の業者が入手していたことから不特定多数の者が見
得るような状態におかれていたとの審決の認定に誤りはない。
()甲1仕様書に係る消防用ホースは特段の軍事機密に属するものではない4
との認定について
原告らは,甲1仕様書には材質等の記載があり,材質は耐熱特性,運用の
限界に影響するから,甲1仕様書に係る消防用ホースは重要な秘密に属する
ものであって,同消防用ホースは特段の軍事機密に属するものではないとの
審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,甲1仕様書の材質に関する記載をみると「材料・構造」,2.3
の項に,次のとおり記載されている(甲3の7枚目ないし14枚目,乙3の
4,乙3の7。)
「材料・構造材料及び構造は,次によるほか付図1による。2.3
ジャケット2.3.1
)ジャケットは,縦糸に綿糸,横糸にポリエステル繊維糸を使用するa
ものとする。
)ジャケットは,自治省令に規定する消防用ゴム引きホースとする。b
結合金具結合金具は,MS継手本体,接合環,エキスパンション2.3.2
リング,MSパッキン及びホースパッキンからなる。
保護布材料は,合成繊維とし,織り方は,丸織りとする」2.3.3。
上記記載によれば,甲1仕様書の材質に関する記載は,その内容に鑑み
て,一般の消防用ホースの材料・構造と異なる特徴はなく,一般のホース
と異なる耐熱特性や運用の限界を画するような記載もなく,甲1仕様書の
「製品に関する要求」などの記載に照らしても,甲1仕様書に係る消2.
防用ホースは,艦船に特有の形状・構造を有するものとは認められず,ご
く一般的なものであると認められ,軍事上の秘密に属するものとは認めら
れない。
したがって,原告らの主張は理由がなく,甲1仕様書に係る消防用ホー
スは特段の軍事機密に属するものではないとの審決の認定に誤りはない。
()公知刊行物への該当性5
前記()のとおり,甲1仕様書は,遅くとも平成13年3月27日の時点3
で,不特定多数の者が見得る状態にあり,頒布されたと認められるから,本
件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に該当し,その旨の審決
の認定に誤りはない。
2結論
以上のとおり,原告ら主張の取消事由は理由がない。原告らはその他縷々主
張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。
よって,原告らの本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官中平健
裁判官上田洋幸

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