弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人後藤昌次郎、同兼田俊男、同平賀睦夫、同安岡清夫、同伊藤まゆ、同田賀
秀一の上告趣意のうち、最高裁昭和三〇年(あ)第三三七六号同三三年五月二〇日
第三小法廷判決・刑集一二巻七号一四一六頁及び昭和四二年(あ)第一一九二号同
四三年一一月二六日第三小法廷決定・刑集二二巻一二号一三五二頁を引用して判例
違反をいう点は、原判決はなんら所論引用の各判例と相反するものではないから、
所論は理由がなく、最高裁昭和三七年(あ)第三〇一一号同四〇年四月二八日大法
廷判決・刑集一九巻三号二七〇頁を引用して判例違反をいう点は、所論引用の判例
は所論の点につきなんら判断を示していないから、所論は前提を欠き、最高裁昭和
四五年(あ)第一七〇〇号同四七年一二月二〇日大法廷判決・刑集二六巻一〇号六
三一頁を引用して判例違反をいう点は、所論引用の判例は本件と事案を異にして適
切でなく、憲法三七条一項の迅速な裁判の保障条項違反をいう点は、記録を検討し
ても、本件において右保障条項に反する異常な事態が生じているとは認められない
うえ、本件第一審判決を破棄し事件を東京地方裁判所に差し戻すべきものとした原
判決が右の異常な事態をもたらすべきものとも認められないから、所論は前提を欠
き、その余は、憲法三一条、三三条、三七条一項、三九条違反をいう点を含め、す
べてその実質は単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあた
らない。
 しかしながら、所論にかんがみ職権をもつて調査すると、原判決は以下に述べる
理由により破棄を免れない。
 記録により明らかな本件審理の経過は次のとおりである。
 被告人Aは、「(一)被告人は、昭和四三年九月二日東京地方裁判所民事第九部
が債権者学校法人Bの申請により行つた、債務者たるB全学共斗会議、B経済学部
斗争委員会等所属の学生らに占拠されていた東京都千代田区a町b丁目c番所在同
大学経済学部一号館等につき、債務者らの右建物等に対する占有を解いて債権者の
申立をうけた東京地方裁判所執行官にその保管を命じ、執行官は債権者にその使用
を許さなければならない等四項目の仮処分決定に基づき、同月四日、同地方裁判所
執行官C外三名及び同職務代行者Dが、民事訴訟法第五三六条第二項の規定により
援助を要請した警視庁機動隊所属の警視Eら約六七〇名の警察官の援助のもとに、
補助者F外七名を使用して前記経済学部一号館に対する右仮処分の執行を行つた際、
同建物を占拠していたほか数十名の学生らと共謀のうえ、同日午前五時二〇分ころ
から同六時一五分ころまでの間、右経済学部一号館周辺において前記各職務に従事
中の執行官及び警察官らに対し、同建物内二階ベランダ、三・四階窓及び五階屋上
等から石塊、コンクリート破片、牛乳空びん、椅子等を投げつけ、あるいは放水す
るなどして暴行を加え、もつて右執行官及び警察官らの前記各職務の執行を妨害し
た(本判決においては、以下、甲事実という。)、(二)被告人は、昭和四三年九
月四日早朝、さきにBの申請により東京地方裁判所民事第九部がなした前記仮処分
決定の執行のため同大学経済学部一号館に赴いた同地方裁判所執行官一行のうち、
Fらが同館北側一階エレベーターホール窓から右仮処分の執行を開始した際、右執
行官よりの援助要請に基づき出動中の警視庁第五機動隊長警視G指揮下の同機動隊
第四・三・二中隊所属の警察官約一三〇名が、右執行を援助するため同館北側幅約
八〇糎の路地内から右一階エレベーターホール窓を破壊して同館内に進入しつつあ
るのを認めるや、同館五階北側窓付近に来合わせたほか数名の学生らと共謀のうえ、
前記警察官らの右職務の執行を妨害しようと企て、同日午前五時三〇分ころから同
五時五〇分過ぎころまでの間、同館五階エレベーターホール北側窓から、かねて同
所付近に準備してあつた重さ数キログラムから一〇数キログラムに及ぶレンガ・コ
ンクリート塊、コンクリートブロツク塊等数十個を、同館内に逐次進入するため右
路地内に密集していた前記警察官らめがけて激しく投下し、もつて前記警察官らの
職務の執行を妨害し、その際、同機動隊巡査Hら一八名に対し、加療約一週間乃至
一〇か月間を要する(ただしIについては完治不能)頸椎骨折・同捻挫等の傷害を
負わせ、巡査部長J(当時三四年)に対しては左前頭部頭蓋骨骨折・脳挫傷の傷害
を負わせたうえ、同人をして同月二九日午前一一時ころ同区de丁目f番g号東京
警察病院において、右傷害に基づく外傷性脳機能障害により死亡するに至らしめた
(本判決においては、以下、乙事実という。)」との二個の事実について、被告人
佐村を除くその余の被告人五名(被告人J、同K―旧姓L、以下、被告人Kという
―、同M、同N及び同O)は、右乙事実のみについて、それぞれ公訴を提起された
ものである。
 ところで、右乙事実に関する訴因がいわゆる現場共謀に基づく犯行の趣旨である
ことは起訴状における公訴事実の記載から明らかであるうえ、検察官は、第一審審
理の冒頭において、右訴因が現場共謀による実行正犯の趣旨である旨及び乙事実は
甲事実とは別個の犯罪である旨の釈明をし、その後約八年半に及ぶ審理の全過程を
通じて右主張を維持したので、乙事実に関する第一審における当事者の攻撃防禦は、
検察官の右主張を前提とし、その犯行の現場に被告人らがいたかどうかの事実問題
を中心として行われた。
 第一審裁判所は、審理の最終段階において、被告人K、同Oの両名については、
乙事実の被害者である警察官一九名が負傷した時間帯である昭和四三年九月四日午
前五時三〇分ころから五時四五分ころまでの間に同事実の犯行現場である五階エレ
ベーターホールにいて犯行に加担したと認めるに足る証拠がなく、また、その余の
被告人らについては、同日午前五時四〇分以前に右現場にいて犯行に加担したと認
めるに足る証拠がないとの心証に達し、前記訴因を前提とする限り被告人らを無罪
又は一部無罪とするほかないものの、乙事実の訴因を右現場共謀に先立つ事前共謀
に基づく犯行の訴因に変更するならばこれらの点についても犯罪の成立を肯定する
余地がありうると考えて、裁判長から検察官に対し、第五四回公判において、甲・
乙両事実の関係及び乙事実の共謀の時期・場所に関する検察官の従前の主張を変更
する意思はないかとの求釈明をしたところ、検察官がその意思はない旨明確かつ断
定的な釈明をしたので、第一審裁判所は、それ以上進んで検察官に対し訴因変更を
命じたり積極的にこれを促したりすることなく、現場共謀に基づく犯行の訴因の範
囲内において被告人らの罪責を判断し、被告人K、同Oに対しては乙事実について
無罪の、その余の被告人らに対しては前記五時四〇分過ぎ以降に生じた傷害、公務
執行妨害についてのみ有罪(ただし、被告人Aに対しては甲事実についても有罪)
の各言渡しをした。
 これに対し、原判決は、被告人Aを除くその余の被告人らに対する関係では、乙
事実の訴因につき訴因変更の手続を経ることなく事前共謀に基づく犯行を認定して
その罪責を問うことは許されないものの、本件においては、右訴因変更をしさえす
れば右被告人らに対し第一審において無罪とされた部分についても共謀共同正犯と
しての罪責を問いうることが証拠上明らかであり、しかも右無罪とされた部分は警
察官一名に対する傷害致死を含む重大な犯罪にかかるものであるから、第一審裁判
所としては、検察官に対し、訴因変更の意思があるか否かの意向を打診するにとど
まらず、進んで訴因変更を命じ、あるいは少なくともこれを積極的に促すべき義務
があつたとし、右義務を尽くさず、右被告人らについて乙事実又はその一部を無罪
とした第一審の訴訟手続には審理を尽くさなかつた違法があるとして、右被告人ら
に関する第一審判決を破棄し、被告人Aに対する関係では、同被告人については事
前共謀に基づく一連の抵抗行為のすべてが訴因とされているとみるべきであるから、
同被告人は、右抵抗行為中に含まれる乙事実につき仮にその実行行為の一部に加わ
つていなかつたとしても共謀共同正犯としての責任を免れないとし、第一審判決が
同被告人の事前共謀に基づく本件建物における一連の犯行を認めながら乙事実の一
部を有罪としなかつたのは共同正犯に関する刑法六〇条の解釈ないし適用を誤つた
違法があるとして、同被告人に関する第一審判決を破棄し、全被告人につき事件を
東京地方裁判所に差し戻す旨の判決を言い渡したものである。
 思うに、まず、被告人Aを除くその余の被告人らに対する関係では、前記のよう
な審理の経過にかんがみ、乙事実の現場共謀に基づく犯行の訴因につき事前共謀に
基づく犯行を認定するには訴因変更の手続が必要であるとした原判断は相当である。
そこで、進んで、第一審裁判所には検察官に対し訴因変更を命ずる等の原判示の義
務があつたか否かの点につき検討すると、第一審において右被告人らが無罪とされ
た乙事実又はその一部が警察官一名に対する傷害致死を含む重大な罪にかかるもの
であり、また、同事実に関する現場共謀の訴因を事前共謀の訴因に変更することに
より右被告人らに対し右無罪とされた事実について共謀共同正犯としての罪責を問
いうる余地のあることは原判示のとおりであるにしても、記録に現われた前示の経
緯、とくに、本件においては、検察官は、約八年半に及ぶ第一審の審理の全過程を
通じ一貫して乙事実はいわゆる現場共謀に基づく犯行であつて事前共謀に基づく甲
事実の犯行とは別個のものであるとの主張をしていたのみならず、審理の最終段階
における裁判長の求釈明に対しても従前の主張を変更する意思はない旨明確かつ断
定的な釈明をしていたこと、第一審における右被告人らの防禦活動は右検察官の主
張を前提としてなされたことなどのほか、本件においては、乙事実の犯行の現場に
いたことの証拠がない者に対しては、甲事実における主謀者と目される者を含め、
いずれも乙事実につき公訴を提起されておらず、右被告人らに対してのみ乙事実全
部につき共謀共同正犯としての罪責を問うときは右被告人らと他の者との間で著し
い処分上の不均衡が生ずることが明らかであること、本件事案の性質・内容及び右
被告人らの本件犯行への関与の程度など記録上明らかな諸般の事情に照らして考察
すると、第一審裁判所としては、検察官に対し前記のような求釈明によつて事実上
訴因変更を促したことによりその訴訟法上の義務を尽くしたものというべきであり、
さらに進んで、検察官に対し、訴因変更を命じ又はこれを積極的に促すなどの措置
に出るまでの義務を有するものではないと解するのが相当である。
 そうすると、これと異り、第一審裁判所に右のような訴因変更を命じ又はこれを
積極的に促す義務があることを前提として第一審の訴訟手続には審理を尽くさなか
つた違法があると認めた原判決には、訴因変更命令義務に関する法律の解釈適用を
誤つた違法があるというべきであり、右違法は判決に影響を及ぼし、原判決を破棄
しなければ著しく正義に反するものと認める。
 次に、被告人Aに対する関係では、乙事実の訴因は、その余の被告人らの場合と
同じく現場共謀に基づく犯行の訴因であり、甲事実の訴因は、右乙事実の訴因とさ
れている犯行部分を除くその余の部分に関する、右現場共謀に先立つ事前共謀に基
づく犯行の訴因であるところ(なお、乙事実の訴因とされている犯行部分が右事前
共謀に基づくものとして予備的ないし択一的関係において主張されているという事
実は認められない。)、右乙事実の訴因につき右事前共謀に基づく犯行を認定する
場合に訴因変更の手続を必要とすることはその余の被告人らの場合と同様であつて、
右訴因変更手続を経ない限り、乙事実の訴因中被告人Aが同事実の犯行現場である
本件五階エレベーターホールにいて犯行に加担したと認めるに足る証拠のない部分
について事前共謀に基づく罪責を認めることは許されないと解されるから、右訴因
変更手続を経ないまま、同被告人につき事前共謀に基づく一連の抵抗行為のすべて
が訴因とされていることを前提として第一審判決には共同正犯に関する刑法六〇条
の解釈ないし適用を誤つた違法があると認めた原判決には、訴因の範囲に関する判
断を誤つた違法があるというべきであり、右違法は判決に影響を及ぼし、原判決を
破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
 よつて、刑訴法四一一条一号により、全被告人に関する原判決を破棄し、さらに
審理を尽くさせるため、同法四一三条本文により、本件を原裁判所である東京高等
裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 俵谷利幸 公判出席
  昭和五八年九月六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    木 戸 口   久   治

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛