弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人馬淵分也の大法廷開廷申立書第一乃至第三及び上告趣意第四点について。
 憲法第二五条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有
する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上
及び増進に努めなければならない。」と規定している。そして食糧管理法は、新憲
法施行前の法律ではあるが、所論のごとく、国民食糧の確保及び国民経済の安定を
図るため、食糧を管理し、その需給及び価格の調整並びに配給の統制を行うため制
定せられた法律であることは、同法第一条によつて明白であるから、その制定の目
的は、公共の福祉すなわち国民全般の食生活その他一切の経済生活を安定確保する
にある。そして、その目的を達成する手段として同法第二条において、先ず政府の
管理すべき国民食糧の範囲を勅令(政令)を以て定めるいわゆる主要食糧に限定し、
同法第三条乃至第三〇条において、その主要食糧を管理する基本方針として、主要
食糧の生産者からその余剰食糧を供出せしめ、これを一般消費者に対し、出来得る
限り多く配給せんとすることを規定したものである。されば国民中食糧生産者は、
この法律によつて直接その生命又は生活を害せられることなく、また、一般消費者
は、この法律によつて寧ろその生命又は生活を保障せられるのであるから、同法は
憲法第二五条所定の国民の生活権を害するものではなく、寧ろこれを擁護する立法
であるといわねばならぬ。しかるに所論第一は食糧管理法の第二条以下第三〇条迄
の規定では、その目的の運用に相当する規定がないため、憲法第二五条謂うところ
の国民の健康で文化的最低限度の生活を営む権利を擁護することができないから、
食糧管理法は右憲法規定の違反であるというにある。しかし、仮りに所論食糧管理
法の規定では、同法の目的達成に相当でなく、従つて憲法第二五条所定の生活権を
擁護するに充分でないとしても、かかる主張は、立法不備の非難たるに止まり、現
存する食糧管理法をして、その目的を同じくする憲法第二五条の規定に牴触せしめ、
惹いて、その条規に適合しない違憲立法たらしめる理由となるものでないこと、前
述の説明により多言を要しないところである。それ故所論第一は憲法適否の上告理
由として到底採用するを得ない。
 次に、政府の主食糧配給処分が仮りに所論第二のごとく、憲法違反であるとして
も、その処分の如何は、原判決に何等影響を及ぼすものでないこと明白である。従
つて、本件刑事判決における上告理由として、これが行政処分の取消を求めること
は全く筋違いであつて、上告適法の理由とならない。それ故論旨第二も採るを得な
い。
 以上のごとく論旨第一、第二は採用することできないものであるから、従つてこ
れを前提とする論旨第三及びこれらの論旨を援用する上告趣意第四点はいずれもそ
の理由がない。
 同上告趣意第一点について。
 しかし、所論は要するに原判決の事実認定の手続が憲法第三八条、刑訴応急措置
法第一〇条各第三項に違反するというに帰する。そして、本上告は、刑訴第四一六
条所定のいわゆる飛躍上告であつて、かかる上告は、刑の廃止若しくは変更又は大
赦あつたことを理由とする外「判決ニ依リ定リタル被告事件ノ事実ニ付法令ヲ適用
セズ又ハ不当ニ法令ヲ適用シタルコトヲ理由トスルトキ」でなければ上告をなすこ
とを得ないものである。然るに本論旨は、右の各場合に当らないから、飛躍上告適
法の理由とならない。
 同第二点及び大法廷開廷申立書第四について。
 しかし、裁判所は、所論のごとく、法令に対する憲法審査権を有し、若し或る法
令の全部又は一部が、憲法に適合しないと認めるときは、これを無効としその適用
を拒否し得るものであると共に、有罪の言渡をなすには、その理由において必ず法
令の適用を示すべき義務あるものであるから、当事者において、或る法令が憲法に
適合しない旨の主張をした場合に、裁判所が有罪判決の理由中にその法令の適用を
挙示したときは、すなわち、その法令は憲法に適合するとの判断を示したものに外
ならないと見るを相当とする。それ故原審における所論の主張に対して、特に憲法
に適合する旨の判断を積極的に表明しなかつたからと言つて、所論のように、判断
を示さなかつた違法ありといえない。従つて本論旨は、いずれもその理由がない。
 同第三点について。
 しかし、所論の審理不尽理由不備の論旨は、上告趣意第一点について説明した理
由により、本件飛躍上告適法の理由とならない。
 上告趣意第一点についての理由に関し、裁判官真野毅の少数意見は、次のとおり
である。
 本件は、いわゆる飛躍上告事件である。刑訴第四一六条第一号によれば、「判決
により定りたる被告事件の事実に付、法令を適用せず、又は不当に法令を適用した
ることを理由とするとき」においては、区裁判所又は地方裁判所においてした第一
審の判決に対し控訴をしないで上告をすることができる。それは、第一審裁判所が
認定した事実そのものについては別段異議はないが、ただその事実に対して適用す
べき法令を適用しなかつたとか、又は適用すべからざる法令を不当に適用したとか
についてのみ異議があることがある。かかる場合には、単に法令の適用の当否だけ
を争うのであるから、控訴審の一段階を飛び越えて直ちに法律審である上告裁判所
え上告してその法律判断を受け得ることの方が、当事者の便宜から言つても、訴訟
経済の上から言つても、好ましく適当であると言わなければならぬ。これが、前記
法条で飛躍上告の認められている立法趣旨である。されば、この飛躍上告の上告理
由は、本質上法令適用の当否の点だけに限定せらるべきであつて、事実関係は、確
定不動のものとして争うことを許されないのである。所論は、前記法条に「被告事
件の事実に付不当に法令を適用したること」とある中には、「被告事件の事実認定
につき不当に法令を適用したること」をも含むものと解したもののごとくである。
成程法文を形において卒然として読めば、さように読み違い易い点がないこともな
い。他にも時々同じ様な事例が起る。しかし、これはその立法趣旨を理解しないこ
とに基くものであつて、その誤りであることはまさに前述のとおりである。だから
論旨のように、事実認定又はその前提たる証拠の取捨に対する非難攻撃を加えるこ
とは、何れも飛躍上告適法の理由とはならない。(多数説は、単に論旨が、刑訴第
四一六条に掲げる何れの場合にも当らない、というだけの理由を述べているに過ぎ
ない。これは、間違つてはいないが、あまりにも漠然とした一般的、抽象的な判示
の仕方であつて、焦点がピツタリ論旨に合つていない感がする。判決は、特殊的、
具体的な上告趣意を対象とする判断であるから、当然の帰結として十分特殊性、具
体性をそなえた的確な判示をすることが、正しく、厳しい判決態度―これは従来あ
まり論ぜられていないが非常に根本的な重大な問題である―であらねばならぬ、と
わたくしは平素から確信している。たまたまこの機会に少数意見に託して所懐の一
端を述べたまでのことである。)
 以上の理由により、刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。この判決は、
理由に関する少数意見を除き、裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 安平政吉関与。
  昭和二三年一二月八日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
 裁判官小谷勝重は差支えにより署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義

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