弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人大蔵敏彦の上告理由について
 本件分限免職処分の処分事由の存否に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証
拠関係に照らして是認することができる。右事実関係のもとにおいて本件分限免職
処分を適法であるとした原審の判断は、正当として是認するに足り、所論引用の判
例にも違反しない。論旨は、採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
環昌一の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官環昌一の補足意見は、次のとおりである。
 私は、特に、上告人に対する本件処分事由として原審の確定した事実が、地方公
務員法二八条一項三号に定める場合に該当するかどうか、それに該当するとして上
告人に対して免職処分をすることが正当であるかどうか、の点について、以下述べ
るような見解のもとに、そのいずれをも肯定すべきものとされる他の三裁判官の意
見に同調する。
 一 前記規定に定める「その職に必要な適格性を欠く場合」とは、当該職員の簡
単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因してその職
務の円滑な遂行に支障があり、又は支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合を
いうものと解され、なかんづく処分が免職処分である場合には特別に厳密、慎重な
考慮が払われなければならないというべきである(最高裁昭和四三年(行ツ)第九
五号同四八年九月一四日第二小法廷判決・民集二七巻八号九二五頁参照)が、その
判断に当たつては特に当該職務の種類、内容、目的等との関連を重視すべきもので
あることはいうまでもないところである。
 ところで中学校における教育は、すべての子女に対し平等な教育と教育の均等な
機会を保障するために、小学校におけるそれとともにいわゆる義務教育とされ(学
校教育法三九条、二二条)、その目標の一つとして「小学校における教育の目標を
なお充分に達成して、国家及び社会の形成者として必要な資質を養うこと」が掲げ
られている(同法三五条、三六条一号)。そして小学校における教育の目標として
は「学校内外の社会生活の経験に基き、人間相互の関係について、正しい理解と協
同、自主及び自律の精神を養うこと」が謳われている(同法一八条一号)から、中
学校においては、小学校におけると同様に、教員と生徒等によつて構成される学校
という一個の具体的社会において営まれる学校生活のもつ教育上の意義、効果が重
視され、その経験を通じてすべての生徒に等しく社会人としてあるべき一定の水準
に達する基本的資質、すなわち他人に対しては理解と寛容の心をもち諸々の社会的
ルールを尊重することによつて相互に協同しながらも、いたずらに他人に追随する
ことなく自主、自律の精神をもつて自らの個性を確立することを忘れないという、
二つの要素の均衡し調和した資質、を養うことが、その重要な教育目標とされてい
ることを見て取ることができる。そして小学校から中学校にいたる義務教育の過程
は、子女が保護者の膝下を離れ、はじめて学校という具体的社会の一構成員として、
いわば本格的社会生活の洗礼を受けるのであつて、その学校生活が児童、生徒の生
涯に及ぼす影響は極めて大きいものといわなければならないのであるが、この目標
の達成のためには社会、道徳等の教科の授業による教育と並んで、右に述べたよう
な学校生活のあらゆる部面において教員が成熟した社会人として自ら実践、垂範し
てする実物教育こそが、高等教育や専門教育等に比して格別に強く期待されている
ものとみなければならない。それ故これら教員についてその適格性を判断するに当
たつては右の点に関する考慮が特に必要であると考えられる。
 二 以上に述べた見地から本件の事案を検討すると、先づ原審は上述のような教
員と生徒によつて営まれる学校生活の部面において、上告人がした言動として、お
おむね次のような趣旨の事実を認定する。すなわち、(1) 上告人は、昭和三九年
八月、D中学校の一年八組の学級主任であつたとき、同校では同月二三日に都合の
つく父兄によつて教室の壁や天井にペンキを塗ることがPTA運営委員会によつて
計画され(父兄の手による校舎の補修は前例があつた。)、同月二一日の休暇中の
全校登校日に一年の学級主任を通じて登校した生徒にこの趣旨を記載した連絡文書
を各家庭に持ちかえらせることとなつたが、上告人は、本来公費でするべき校舎の
補修を任意参加とはいえ父兄の手をわずらわすべきでないとして、その担当する生
徒に右の文書を持ちかえらせなかつたため、結局、上告人担任の学級の教室は他の
学級の生徒の父兄によつて補修される結果となり、PTAの間に上告人に対する不
満が生じた。(2) 同校PTAでは、同年一〇月から同校に父兄等地元民の寄附に
よつてプールを建設する計画があり、PTA会長名義のプール建設についての文書
(アンケート用紙つき)を学級主任に配布し、生徒に各家庭に持ちかえらせて父兄
の記名による賛否を問うこととした際、上告人は、このような記名を伴う調査方法
では公正な意見の開陳を期待することができない等として右文書の配布を中止させ
たことがあつた。結局、プールは大部分の費用を地元負担で昭和四一年ごろ完成し
たが、PTA会長等幹部がPTAに協力しないものとして上告人を排斥、非難する
ようになり、昭和三九年度末ごろにはPTA会長が激しい口調で上告人に対しPT
Aに反対する先生は転任してもらいたいといつたことがあつた。(3) 上告人は、
昭和四〇年四月一日付でE中学校へ転任の発令を受けたが、同月六日に始業式(そ
こでは担任教員の紹介や時間割の伝達等も行われ、他の新任教員らも出席した。)
が行われることを予め知つており、かつ容易に登校することができる状態であつた
にもかかわらず、前記自己の転任について抗議するため他の者と共にD中学校へ行
き、右始業式に出席しなかつた。また、D中学校での右抗議の際上告人は校長が始
業式に参列しようとするのを引き留めたり、さえぎつたりしたため同校の始業式は
約二〇分遅れて開かれた。(4) 上告人は、肺結核の前歴があり、毎年身体検査で
レントゲン検査を受けるたびに精密検査を命ぜられるのが常であつたが、昭和四〇
年五月のE中学校職員一同のレントゲン撮影の際にも精密検査を要するものと判定
され、直接撮影を受けることを保健所から指示されたのであるが、その後九回にも
わたつて受診を催促されたにもかかわらず、同年一〇月に至るまで口実を設けて直
接撮影を受けなかつた。(5) 昭和四一年五月同校校長から担任生徒のうち給食の
脱脂粉乳を飲まない生徒の人数の調査報告を求められた際、他の学級担任教員はこ
れに応じて報告をしたのに、上告人ひとりこれをしなかつたので、校長から催促し
たところ、調べたかつたら自分で調べろとの趣旨の発言をして校長の指示に従わず、
やむなく校長自ら調査を行つた。(6) 同中学校で放課後行われていたインペル学
習と称する生徒の自主的学習について、校長から当初この学習が軌道にのるまでの
間担任学級の生徒を指導するよう各学級担任教員に指示し、他の教員はこの指示に
従つたにかかわらず、二年五組の担任であつた上告人のみは二年の学年主任から注
意されても行かないのが自分の主義だといつて当初の一学期は右指導をあまりしな
かつた。(7) 同中学校では、校長が各学級担任の教員に対しなるべく教室で生徒
と共に昼食をとることを要望し、大部分の学級担任教員はこれを実行していたが、
上告人は、校長から促されても行かないのが自分の主義だといつて拒否し、生徒と
一緒に昼食をとることはまれであつた。(8)上告人は同校校長等から注意されたに
もかかわらず火災の危険の多い古い木造の校舎内の廊下を喫煙しながら歩くことが
あり、この行為について生徒が黒板に「禁煙願います」と書いたことがあつた。(
9) 上告人は、同校の他の教員と異なり昭和四〇年度の二学期の担任生徒の通信
簿の家庭通信らんに校長の了解を得ないで何の記入もしなかつた。(10)上告人は、
同年一二月に行われた同校の二学期の終業式に出席しないのみか、校長の訓話中火
のついたたばこをくわえて式場に入り、中にいた同僚教員に声高に話しかけて立ち
去つた。(11) 上告人は、同年度の指導要録を指示された期日までに校長に提出
せず自己の机の下に放置し、校長の命を受けた他の教員により発見された上告人作
成の指導要録にも記載の不備があり、校長がこれを補正させた。
 三 以上の事実を徴表として認められることは、上告人には、生徒と共にする学
校生活の部面において一般に受容されている諸々のルールを軽視ないし無視し、自
らの思うところ、主義とするところを相当の手順をふむことをせずにそのまま直ち
に実行に移して他を顧みることなく、校長らの注意、進言等にも耳をかさないとい
うような、独善的傾向が強く見られることである。そして、このような上告人の言
動は、当該学校における学校生活の存立の基盤そのものへの上告人の基本的無理解
を示すものというべく、前記一で述べたところに即していえば中学校における教育
目標の一半である人間関係についての正しい理解と協同の精神の養成の趣旨に逆行
するものとの評価を免かれることはできないと思われる。上告人の主観からいえば、
それは自主、自律の精神に発する言動であるとするのであるかも知れないが、これ
を客観的にみるとき、根本において他に対する寛容と協同の志向に欠けるものであ
ることは明らかであり、とうてい自主、自律の言動としての積極的評価を受け得ら
れるものではない。たしかにこの点の判断に当たつて、教員の教育活動には高度の
創造的性質が認められるべきであり、これに対する不当な介入が排除せられなけれ
ばならないことを忘れてはならないこというまでもないが、上告人の前記のような
言動が、その内容、態様自体からいつて上告人の教育者としての見識に発した当然
の成り行きであると考えることはできず、また、そのような事情は原審認定の事実
からこれをうかがうことはできない。そして前記上告人の言動は、その行われた経
緯や態様だけから見ても、何らかの特殊な動機や事情によつて偶発的に生起したも
のとは考えられないものであるが、このことは、原審の認定にかかる、上告人がD
中学校からE中学校へ転勤を命ぜられたこと、他の組合役員が処分されたことに抗
議する目的でF組合の役員の一人として同市教育長との交渉を求めた際、上告人は
前後三回にわたつて同教育長の身体、衣服に手をかけるような行動をとつているこ
と、同校における昭和四〇年末からの冬休みの際には九日間の勤務、昭和四一年一
月二日の宿直勤務、同月二九日の日直と宿直の勤務、同年三月七日の勤務及び同年
の春休みの際には四日間の勤務を、いずれも正規の手続を経ていないのに自宅研修
ないし年次有給休暇であるとして欠務したこと、などの事実からもこれを裏付ける
ことができ、上告人の、共同生活のルールの無視、独善的行動の強行は、その素質
に由来しその性格の一部を形成するものであると認めざるを得ないものである。そ
してそれが容易に矯正することのできないものであると認むべきことは、原審も趣
旨としてこれを認定するところであるばかりでなく、上述の上告人の諸々の言動の
された経緯自体に徴してもこれを肯認するに足るものである。そして、前記一にお
いて述べた義務教育にたずさわる教員の身をもつてする実践教育の重要性にかんが
みると、右のような上告人の独善的性格は生徒に対する垂範者としての中学校教員
の職務の遂行にとつて極めて重大な障害となるものであると考えざるを得ない。な
お、この点に関連して苦干の私見を附加するならば、私は、上告人が担任の生徒と
共に昼食をとることによる生徒との精神的交流の意義を、自分の主義だと称して無
視したことに強い関心をもたざるを得ないのであり、また、上告人の独善的行動の
結果、その担任する生徒が他の教員の担任する生徒と学校生活上異なつた立場に立
たされるにいたつたことも、決して些事として軽視すべきものではないと考えるの
であり、D中学校のPTAが上告人の言動に接して強い不満を抱くようになつたこ
とも無理からぬこととしてこれをうべなうことができる。父兄等の保護者は、子女
を中学校に就学させる義務を負うものであるとともに、自らその子女を教育する権
利をもつものであるこというまでもなく、また、保護者の膝下における子女の家庭
生活は、前記学校教育法一八条一号のいう学校外の社会生活として、学校生活と彼
此相補う関係に在るのであるから、このような立場に在る保護者が全体として当該
教員に対して消極的な評価をした場合には、それが一部の者による、為めにするも
のである場合等特別の事情のある場合を除き(本件においてこのような特別の事情
のあることは認められないから、前記PTAの上告人に対する消極的評価は保護者
全体とそれと推認すべきである。)、その教員の適格性の判断においてこれを一要
素として考慮することができる、といわなければならない。
 以上検討してきたところを総合考慮すると、上告人には、その素質、性格におい
て前記一において述べた中学校教員としての職務の遂行と相容れないところがあり、
しかもそのことは上告人が義務教育にたずさわる者である点において基本的なもの
にかかわると考えられるから、本件分限免職処分はこれを肯認せざるを得ないもの
である。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    環       昌   一
            裁判官    横   井   大   三

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