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平成21年(受)第1923号保険金請求事件
平成24年4月27日第二小法廷判決
主文
1原判決を次のとおり変更する。
(1)ア上告人X1の控訴及び被上告人の同上告人に対
する附帯控訴に基づき,第1審判決中同上告人
に関する部分を次のとおり変更する。
(ア)被上告人は,上告人X1に対し,1億15
83万6731円及びうち1億1202万3
538円に対する平成18年3月21日から
支払済みまで年6分の割合による金員を支払
え。
(イ)上告人X1のその余の請求を棄却する。
イ上告人X1の原審で拡張した請求を棄却する。
(2)ア上告人X2,同X3及び同X4の控訴に基づ
き,第1審判決中同上告人らに関する部分を次
のとおり変更する。
(ア)被上告人は,上告人X2及び同X3に対
し,各205万円及びこれに対する平成18
年3月21日から支払済みまで年6分の割合
による金員を支払え。
(イ)被上告人は,上告人X4に対し,105万
円及びこれに対する平成18年3月21日か
ら支払済みまで年6分の割合による金員を支
払え。
(ウ)上告人X2,同X3及び同X4のその余の請
求をいずれも棄却する。
イ被上告人の上告人X2,同X3及び同X4に対す
る附帯控訴をいずれも棄却する。
2訴訟の総費用は,これを3分し,その1を上告人ら
の負担とし,その余を被上告人の負担とする。
理由
上告代理人岩田修一の上告受理申立て理由3(2),4について
1本件は,交通事故により後遺障害が残った上告人X1及びその両親又は子で
あるその余の上告人らが,上告人X1との間で自動車保険契約を締結していた保険
会社である被上告人に対し,上記保険契約に適用される普通保険約款の無保険車傷
害条項に基づき,保険金及びこれに対する商事法定利率である年6分の割合による
遅延損害金の支払を求める事案である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)ア上告人X1は,平成16年7月3日,普通乗用自動車を運転中,Aの運
転する普通乗用自動車に衝突される事故(以下「本件事故」という。)に遭い,同
上告人には,頚髄損傷による四肢麻痺の後遺障害が残った。
イ上告人X2及び同X3は,上告人X1の両親であり,上告人X4は,上告人
X1の子である。
(2)上告人X1は,本件事故当時,被上告人との間で,自動車保険契約を締結
しており,上記保険契約に適用される普通保険約款(以下「本件約款」という。)
には無保険車傷害条項が置かれているところ,上告人X1は上記条項に係る被保険
者であり,Aの運転していた普通乗用自動車は上記条項にいう無保険自動車に当た
る。
上記条項は次のア及びイのようなものであり,また,本件約款には次のウのよう
な定めがあった。
ア被上告人は,無保険自動車の使用等に起因して,被保険者の身体が害され,
その直接の結果として後遺障害が生じること等によって被保険者又はその父母,子
等(以下「被害者等」という。)の被る損害に対して,賠償義務者がある場合に限
り,保険金(以下「無保険車傷害保険金」という。)を支払う。
イ無保険車傷害保険金の額は,被害者等の被る損害の額から,①自動車損害賠
償責任保険からの支払額,②賠償義務者以外の第三者が負担すべき金員で被害者等
が既に取得したものの額等(以下「自賠責保険金等」という。)の合計額を差し引
いた額とする。
ウ被上告人は,被保険者又は保険金請求権者が保険金請求の手続をした日から
30日以内に保険金を支払う。
(3)本件約款には,被上告人が被害者等の被る損害の元本に対する遅延損害金
を支払う旨の定めはない。
(4)ア本件事故により上告人X1の被った損害の額は,無保険車傷害保険金の
内払金311万8612円を差し引くと,1億5669万5310円である。
イ上告人X1は,平成19年4月10日,自動車損害賠償責任保険から400
0万円(以下「本件自賠責保険金」という。)の支払を受け,また,平成17年8
月15日から平成21年4月15日にかけて,原判決別紙「計算表」記載のとお
り,国民年金法に基づく障害基礎年金合計467万1772円(以下「本件障害基
礎年金」という。)の支給を受けた。
(5)本件事故により上告人X2及び同X3の被った損害の額は各205万円,上
告人X4の被った損害の額は105万円であり,これらが同上告人らに支払われる
無保険車傷害保険金の額となる。
(6)上告人らの代理人である岩田修一弁護士は,平成18年2月18日,被上
告人に対し,無保険車傷害保険金の支払を請求した。
3原審は,上記事実関係の下において,次の(1)ア及びイ並びに(2)のとおり判
断して,①上告人X1の請求を,無保険車傷害保険金の残元本1億1583万67
31円のほか,無保険車傷害保険金の元本のうち休業損害及び逸失利益を塡補する
部分に対する弁済期の翌日である平成18年3月21日から平成21年4月15日
までの民法所定の年5分の割合による確定遅延損害金の未払額304万3884
円,上記部分の残元本である4465万2618円に対する平成21年4月16日
から支払済みまでの上記割合による遅延損害金,無保険車傷害保険金の元本のうち
上記部分以外の部分である7118万4113円に対する平成18年3月21日か
ら支払済みまでの上記割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,②その
余の上告人らの各請求を,無保険車傷害保険金(上告人X2及び同X3につき各2
05万円,同X4につき105万円)及びこれに対する平成18年3月21日から
支払済みまでの上記割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容した。
(1)ア上告人X1に支払われる無保険車傷害保険金の額を算定するに当たって
は,上記2(4)アの損害の元本の額から,本件自賠責保険金の全額及び本件障害基
礎年金のうち平成18年3月20日以前に支給された分の全額を差し引くのが相当
である。
イ本件障害基礎年金のうち平成18年3月21日以後に支給された分について
は,順次,上記アにより算定された無保険車傷害保険金のうち休業損害及び逸失利
益を塡補する部分に対する各支給日までの遅延損害金の額,上記無保険車傷害保険
金の元本の額から,この順に差し引くのが相当である。
(2)無保険車傷害保険金の支払請求は,実質において賠償義務者に対する損害
賠償請求と同じであるから,無保険車傷害保険金の支払債務に係る遅延損害金の利
率は,民法所定の年5分と解するのが相当である。
4所論は,本件約款上,無保険車傷害保険金の額を算定するに当たり被害者等
の被る損害の額から差し引くものとされている自賠責保険金等の額とは,被害者等
に支払われた自賠責保険金等の額のうち,損害の元本に対する遅延損害金に充当さ
れた額を控除した残額をいうものと解すべきであり,また,無保険車傷害保険金の
支払債務に係る遅延損害金の利率は商事法定利率である年6分であると解すべきで
あって,これと異なる原審の上記3(1)ア及び同(2)の判断には,法令の解釈を誤る
違法があるというのである。
5そこで検討すると,原審の上記3(1)アの判断は是認することができるが,
同(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)まず,本件約款によれば,無保険車傷害保険金は,被害者等の被る損害の
元本を塡補するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を塡補するものではな
いと解されるから,本件約款に基づき被害者等に支払われるべき無保険車傷害保険
金の額は,被害者等の被る損害の元本の額から,被害者等に支払われた自賠責保険
金等の全額を差し引くことにより算定すべきであり,自賠責保険金等のうち損害の
元本に対する遅延損害金に充当された額を控除した残額を差し引くことにより算定
すべきものとは解されない。このことは,自賠責保険金等が無保険車傷害保険金の
弁済期後に支払われた場合であっても,異なるものではない(なお,原審の上記3
(1)イの判断は相当でないこととなる。)。
原審の上記3(1)アの判断は正当として是認することができ,この点に関する論
旨は理由がない。
(2)次に,無保険車傷害保険金の支払債務は,商人である被上告人との間で締
結された保険契約に基づくものであるから,商行為によって生じた債務(商法51
4条)に当たるというべきであって,無保険車傷害保険金の支払請求が賠償義務者
に対する損害賠償請求に代わる性質を有するとしても,そのことは,上記支払債務
に係る遅延損害金の利率を賠償義務者に対する損害賠償請求の場合と同様に解すべ
き理由にはならない。したがって,無保険車傷害保険金の支払債務に係る遅延損害
金の利率は,商事法定利率である年6分と解すべきである。
以上と異なる原審の上記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな
法令の違反があり,この点に関する論旨は理由がある。
6以上説示したところによれば,上告人X1に支払われるべき無保険車傷害保
険金の額は,上記2(4)アの損害の元本の額から,本件自賠責保険金及び本件障害
基礎年金の全額を差し引いた1億1202万3538円となり,上告人らの請求
は,無保険車傷害保険金(上告人X1につき上記同額,上告人X2及び同X3につ
き各205万円,上告人X4につき105万円)及びこれに対する弁済期の翌日で
ある平成18年3月21日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合によ
る遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由が
ないから棄却すべきである。しかし,被上告人からの上告がない本件においては,
原判決のうち上告人X1に関する部分を同上告人に不利益に変更することは許され
ないから,原判決を主文第1項のとおり変更するにとどめることとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官須藤正彦裁判官古田佑紀裁判官竹内行夫裁判官
千葉勝美)

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