弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件仮処分申請を却下する。
申請費用は申請人の負担とする。
       理   由
第一 当事者の求める裁判
(申請人)
1 被申請人は別紙物件目録記載の物件(イ号物件)を製造販売してはならない。
2 右物件に対する被申請人の占有を解いて大阪地方裁判所執行官にその保管を命
ずる。
(被申請人)
 主文同旨。
第二 当裁判所の判断
1 左記の事実は当事者間に争いがないかまたは疏明により一応認められる事実で
ある。
(イ)申請人が左記実用新案権を有していること。
考案の名称 合成樹脂製水仕事用靴
出願 昭和五〇年六月二〇日(実願昭和五〇―八五四〇一)
公告 同五四年七月二七日(実公昭五四―二一一三九)
登録 同五六年一月三〇日(一三六二六六八号)
実用新案登録請求の範囲
 「軟質の合成樹脂材料で甲部と薄い底部とを一体的に形成して平面細長楕円形の
靴本体を形成し、この靴本体の上部に長さ方向一側に偏して全長の1/2長より大
きくした平面楕円形状の足挿入部を形成し、この足挿入部の開口部の全周縁を外方
に朝顔状に突出させ、これとは別に形成した下面に滑り止め用凹凸部を有せしめた
靴底部の上面に前記甲部と一体的に形成した肉薄底部の下面を溶融若しくは接着剤
を用いて全面的に接着した合成樹脂製水仕事用靴。」
(ロ)被申請人が現に案としてイ号物件を製造販売していること
2 申請人は、本件仮処分申請において、右イ号物件は本件考案の技術的範囲に属
するから被申請人がこれを業として製造販売することは申請人の前記実用新案権を
侵害するものであると主張して、仮りにその差止めを求めるというのである。
3 しかるところ、疏明によれば、被申請人はこれに対抗し申請人の前記実用新案
権は無効であるとの見解のもとに、昭和五六年三月二六日付をもつて特許庁に対し
無効審判請求をなし、右請求は現に昭和五六年審判第五六五六号事件として係属中
であることが一応認められる。
4 そこで、当裁判所は右のような実情に鑑み、本件については便宜先に仮処分の
必要性の存否について検討する。
一 まず、本件実用新案登録請求の範囲を分説すると、このクレームはA「軟質の
合成樹脂材料で……靴本体を形成し、」B「この靴本体の上部に……朝顔状に突出
させ、」C「これとは別に形成した……全面的に接着した」D「合成樹脂製水仕事
用靴」以上四つの構成要件からなると解するのが相当である。
二 しかるところ、疏明によれば次のような事実が一応認められる。すなわち右要
件のうちA、B、Dの各要件を充足する合成樹脂製の水仕事用靴は昭和四三年七月
四日公告にかかる実公昭四三―一六一三〇の実用新案公報(疏乙第一号証)に記載
されており本件実用新案の出願前すでに公知である。同様のものは、昭和四九年八
月一一日発行にかかる家庭日用新聞二〇頁下段の広告欄(申請人が経営するナツク
ス株式会社の広告。疏乙第四号証)にも記載されている(なお、右広告欄に紹介さ
れている【A】の実用新案とは前示疏乙第一号証の公報記載のものにほかならな
い。)。また、要件Cに関しては、右新聞の広告欄に靴底部に滑り止めシートが貼
着されている水仕事用靴が図示されており、この滑り止めシートの作用効果は本件
考案の要件Cにいう「靴底部」のそれと同一である。ただ、その構成自体について
は、前者は底部に凹凸を有していないのに対し(材質自体摩擦の多いものを使用し
ていることが容易に推察される)、後者では底部に凹凸を持たせる構成を採用して
いる点で相違する。しかし、滑り止めの機能を発揮させる構成として底部に凹凸を
持たせること自体は実公昭四六―二〇三三四号の公報(疏乙第三号証)に記載され
ており公知であるのみならず、古くから運動靴等の底部にみられるとおり公用の技
術であることが当裁判所に顕著である。
 このようにみてくると、本件考案はいわゆる全部公知といえないまでも、前示の
ような公知公用技術に照らすと、特許庁における前記無効審判手続において進歩性
を欠くものと解され、その登録が無効とされる蓋然性が高いことが認められる(実
用新案法三条二項、三七条一項一号)。
三 ところで、本件仮処分申請はその申請の趣旨に照らし明らかなとおりいわゆる
満足的仮処分すなわち仮りの地位を定める仮処分を求めるものであるから、民訴法
七六〇条に則り「著シキ損害ヲ避ケ若クハ急迫ナル強暴ヲ防ク為メ又ハ其他ノ理由
ニ因リ之ヲ必要トスルトキ」に限りこれを発すべきである。そして、右のような必
要性の存否については右法条にいうような緊急の必要性のほか仮処分を発した場
合、発しない場合における当事者双方の利害得失、本案訴訟の帰すう、その他諸般
の事情をもあわせ考慮すべきが当然である。これを本件についてみるに、本件で申
請人の主張する被保全権利(イ号物件の製造販売差止請求権)の基本となる本件実
用新案権は、上来説示のとおり、その登録が現に特許庁に係属中の無効審判手続に
おいて無効とされる蓋然性が大きいのであつて、このような事情は、たとえ本件実
用新案権が現段階では有効適法なものであつても、前示のような趣旨での仮処分の
必要性を否定するものと解するのが相当である。
 そして、このような帰結が妥当かつ合理的であることは次のような点からしても
裏付けられると考える。すなわち、実用新案法四一条で準用される特許法一六八条
二項は、実用新案権に基く差止請求訴訟(本件に則していえば、本件仮処分の本案
訴訟)が係属する一方、他方において当該実用新案権につき無効審判請求がなされ
ているような場合で、必要があるときには、裁判所は右審決が確定するまで訴訟手
続を中止することができることとしている。そして、この趣旨は、たとえ原告が現
に有効な権利に基き訴権を行使しているときでも、将来場合により権利自体が無効
となると解されるときには、そのまま訴訟を進行させるよりも、これを中止してま
ず審判の帰すうを待つ方が将来いたずらな混乱を招くことがなく当事者の利害にも
合致し、訴訟経済にも適い便宜であることを慮つたものにほかならない。しかると
ころ、保全処分手続においてはその審理は本案訴訟のそれと異なり一応の心証に基
きすすめられるのであるから、前記のような配慮は一層必要であり、かつ右配慮
は、事柄の性質上被保全権利の存否判断としてするよりも保全の必要性の側面にお
いて検討するのが相当である(東京地裁昭和四三年一〇月一六日判決判タ二三〇号
二四四頁参照)。
5 はたしてそうだとすれば、本件仮処分申請は爾余の判断をなすまでもなくその
必要性の疏明を欠くものであり、また本件は事案に照らし仮処分理由の疏明にかえ
て保証を立てさせてこれを認容することも相当でない。
 よつて、本件仮処分を却下し、申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して主
文のとおり決定する。
(裁判官 畑郁夫)
 物件目録
イ号製品説明書
この説明書は、被申請人の製造にかかる合成樹脂製水仕事用靴を説明するものであ
り、添付のイ号製品図面は、第1図は斜め前方上方からみた斜視図、第2図は平面
図、第3図は上半部と底部とが分離した状態の側面図、第4図は第2図のⅣ―Ⅳ線
断面図である。
イ号製品は、
(一) 軟質の合成樹脂材料で甲部2と薄い底部6とを一体的に形成して平面細長
楕円形の靴本体1を形成してあること。
(二) この靴本体1の上部に、長さ方向一側に偏して全長の1/2長より大きく
した平面楕円形状の足挿入部4を形成し、この足挿入部4の開口部の全周縁を外方
に朝顔状に突出させてあること。
(三) これとは別に形成した下面に滑り止め用凹凸部7を有せしめた靴底部3の
上面に前記甲部と一体的に形成した肉薄底部6の下面を溶融を用いて全面的に接着
してあること。
(四) 合成樹脂製水仕事用靴であること。
<12227-001>

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