弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は原告に対し,60万円を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が被告によって,原告の住居のベランダに干してあった洗濯物を
盗撮されたことにより,精神的苦痛を受けたとして,不法行為に基づく損害賠償
を求めた事案である。
1争いのない事実等
以下の事実は,当事者間に争いがないか,主に各項末尾記載の証拠及び弁論
の全趣旨により容易に認められる。
(1)原告は,遅くとも平成19年5月16日には福岡市から障害等級2級の等
級認定を受け,従前からA病院精神神経科で受診して加療を受けており,平
成22年6月下旬以降は「軽度精神遅滞,強迫性障害」でB診療所に通院し
て加療を受けている。(甲1,同23,弁論の全趣旨)
(2)原告は平成22年3月下旬ころまで,福岡市a区内のCアパートb号室(以
下「本件居室」という。)に居住していた。
(弁論の全趣旨)
(3)被告の親会社である米国法人Dは,平成21年12月以降,「ストリート
ビュー」と題する,特定の地域において地図上のある地点の様子を写真で見
ることができるサービスを,福岡についてもインターネット上で提供してい
る。(乙1)
(4)原告は平成22年3月末頃,ストリートビューで本件居室のベランダが撮
影され,インターネット上で公開されていることを発見した。(以下インタ
ーネット上で公開されている上記画像を「本件画像」という。甲2,弁論の
全趣旨)
2争点及びこれに対する当事者の主張
(1)被告の行為によって,原告の権利又は法律上保護される利益が侵害された
か。(争点1)
(原告の主張)
ア原告が本件居室のベランダに洋服や下着を干していたところ,被告が原
告に無断で本件画像を撮影し,それをインターネット上で発信したことに
より,原告のプライバシー権(憲法13条)が侵害された。
イ被告の上記行為は,個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護
法」という。)16条,18条,21条,22条,24条,29条等に違
反している。
ウ被告は私有地から本件画像を撮影したものである。
(被告の主張)
本件画像からは,そこに写っている物が下着ないし洗濯物であるとは分か
らず,かつ,原告の所有する物であることも分からない。
そして,被告は本件画像を公道から撮影しており,原告が自ら公衆の目に
触れる場所に下着ないし洗濯物とされるものを干したという事情も併せ考慮
すれば,本件画像がインターネット上に発信されたことにより原告のプライ
バシー権が侵害されたとはいえない。
(2)(仮に上記侵害があったとして)原告に発生した損害及びその額(争点2)
(原告の主張)
被告の不法行為が判明してから,原告の既往症である強迫神経症及び知的
障害が悪化した。原告は,いつも自宅を盗撮されているという不安から恐怖
がぬぐいきれず,住居も転居せざるを得なかった。原告の被った損害は以下
のとおりである。
ア慰謝料150万円
イ通院費用75万円
ウ転居費用75万円
本件訴訟では上記合計300万円のうち,一部である60万円を請求する。
(被告の主張)
本件画像がインターネット上で閲覧可能となった時期よりも前に原告は障
害2級の認定を受けて継続的に外来診療を受けており,本件画像の公開前後
を通じて,原告の病状に特段の変化はなく,本件画像の公開に起因する特段
の損害は生じていない。
第3争点に対する判断
1認定事実
証拠(括弧内に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認めら
れる。
(1)原告は本件居室に居住していた頃,ベランダに洗濯物を干していたところ,
被告は公道であるc号線上を走行する撮影車から撮影し,遅くとも平成22
年3月上旬までに,本件画像をストリートビューのサービスとしてインター
ネット上で公開した。(甲35,乙3,同4。枝番号含む)
(2)被告は,一般人から画像の公開停止依頼を受けた場合にはこれを削除する
こととしており,本件画像についても平成22年11月12日に本件訴訟の
訴状の送達を受けた後,公開停止の措置をとった。
(甲22,乙2,顕著な事実)
2争点に対する判断
(1)争点1(原告の権利又は法律上保護すべき利益が侵害されたか)について
原告は,本件居室のある建物の敷地前の公道は道幅が狭いことから,その
路上で本件画像を撮影することはできないなどとして,被告が本件画像を私
道上から撮影した旨主張するが,証拠(乙4の1及び2)によれば,上記認
定のとおり,公道上から撮影したことが明らかに認められるのであって,そ
の主張は採用できない。
そして,本件画像によれば,本件住居のベランダに洗濯物らしきものが掛
けてあることは判別できるものの,それが何であるかは判別できないし,も
とより,それがその居住者のものであろうことは推測できるものの,原告個
人を特定するまでには至らない。
そして,元来,当該位置にこれを掛けておけば,公道上を通行する者から
は目視できるものであること,本件画像の解像度が目視の次元とは異なる特
に高精細なものであるといった事情もないことをも考慮すれば,被告が本件
画像を撮影し,これをインターネット上で発信することは,未だ原告が受忍
すべき限度の範囲内にとどまるというべきであり,原告のプライバシー権が
侵害されたとはいうことができない。したがって,本件においては,不法行
為の要件である,権利又は法律上保護すべき利益の侵害が認められないとい
うべきである。
なお,原告は被告の行為が個人情報保護法の諸規定に違反するとも主張す
るが,同法にいう個人情報とは「生存する個人に関する情報であって,当該
情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別する
ことができるもの(他の情報と容易に照合することができ,それにより特定
の個人を識別することができることとなるものを含む。)」をいうところ(同
法2条1項),上記判示のとおり,本件画像の内容に鑑みれば,せいぜい洗
濯物が干してあり,誰かが同居室に住んでいることが分かるといった程度の
情報にすぎないから,上記個人情報に当たるといえるか疑問であるし,仮に
これに当たるとしても,上記認定の事実からすれば,原告との関係で,その
情報取得の態様,取扱いの方法,管理の態様等が個人情報保護法の諸規定に
違反して違法であるとは到底言えない。
したがって,いずれにしても原告の主張は採用できない。
第4結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由
がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第3民事部
裁判官松永栄治

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