弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人大森夏織、同梓澤和幸連名の控訴趣意書に、これに対す
る答弁は検察官吉岡征雄作成の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、こ
れらを引用する。
 所論は、要するに、原判決は、被告人に対し、原判示第二の事実として、出入国
管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)七三条の二第一項一号の不法就労
助長罪の成立を認めているが、原判決には、被告人は同罪の処罰の対象とならない
のにこれになるとする点で、法令の適用の誤りがあり、また、被告人には同罪の構
成要件に該当する事実がないのにこれがあるとする点で、法令の適用の誤りないし
事実の誤認があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのであ
る。
 しかしながら、記録を検討してみても、原判決に所論のような判決に影響を及ぼ
すことが明らかな法令の適用の誤りないし事実の誤認があるとは認められない。以
下、所論にかんがみ説明を付加する。
 一 所論は、入管法七三条の二第一項の不法就労助長罪の立法趣旨・処罰根拠
が、不法就労外国人を日本に来させる吸引力又は推進力となっている雇用主、ブロ
ーカー等の不法な存在を処罰し、不法就労外国人の増加に歯止めをかけることにあ
ることからすれば、同項一号の不法就労助長罪の処罰の対象は、事業の経営者・雇
用主若しくはその代替性を有する者、あるいは監督的立場にあり外国人を使役する
者に限られると解すべきであり、単なる従業員にすぎない者はこれに該当しないの
に、原判決は単なる従業員にすぎない被告人に対し同号を適用したものであって、
原判決には法令の適用の誤りがあり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであ
る、と主張する。
 しかしながら、入管法七三条の二第一項の不法就労助長罪の立法趣旨及びその処
罰根拠は所論のとおりであるとしても、同項一号は、単に、「事業活動に関し、外
国人に不法就労活動をさせた者」と規定しているにすぎないことからすれば、同号
による処罰の対象を所論のように、特定の身分のある者に限られるとするなど、限
定して解釈しなければならないとは考えられず、所論の者らを含めて、外国人に不
法就労活動をさせた者と認められる以上、同号による処罰の対象になると解するの
が相当であり、これと同旨の原判決は是認し得るところであるから、原判決に法令
の適用の誤りがあるとはいえない。
 したがって、この点についての所論は採用することができない。
 二 所論は、入管法七三条の二第一項一号の外国人に不法就労活動を「させた」
との構成要件に該当するためには、「1」行為者において当該外国人との間で雇用
関係にある等、対人関係上優位な立場にあり、「2」その外国人が自己の指示どお
り不法就労活動を行う状態にあることを利用して、「3」その外国人に対して積極
的に働きかけ、「4」その結果として、その外国人が不法就労活動を行ったことが
必要であると解するのが相当であるところ、被告人にはこの構成要件に該当する事
実はない、しかるに、原判決は、被告人にこれに該当する事実があったとして、原
判示第二の事実を認定しており、右は同号の構成要件を過度に緩やかにとらえる
か、あるいは事実の認定を誤ったものであって、原判決には法令の適用の誤りない
し事実の誤認があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである、と主張す
る。
 <要旨第一>しかしながら、入管法七三条の二第一項一号が規定する「外国人に不
法就労活動をさせた」とするためには、当該外国人との間で対人関係上
優位な立場にあることを利用して、その外国人に対し不法就労活動を行うべく指示
等の働きかけをすることが必要であると解されるが、原審において取り調べられた
各証拠によれば、原判示第二の事実は優に認められるところであって、原判決に所
論が指摘するような法令の適用の誤りないし事実の誤認があるとは認められない。
 すなわち、関係各証拠によれば、(1)本件の「サパークラブA」(以下「本件
クラブ」という。)は、平成三年七月に、共犯者であり原審共同被告人でもあるB
が被告人の姪であるCことCから店を任せられ(同年九月には同店の営業許可名義
もBに変更された。)、以後Bが店長として同店を取り仕切っていたこと、(2)
本件クラブは、タイ人らのホステスが、飲食に来た客を接待する一方、客との間で
売春の合意ができれば、店外で売春をするという、いわゆる売春スナックであり、
そのシステムは、店はホステスらの店内での接客等の仕事に対しては同女らに給料
を支払わない代わりに、客との売春で得た金員は全額売春したホステスらの収入に
する、店は、売春を期待して来店する客に対し、「どの娘がいいですか。」などと
声をかけ、客が「あの娘がいい。」などと答えると、ホステスにその客の所に行く
よう指示するなど、積極的にホステスヘの客付け(多くの場合この客付けには、ホ
ステスらに当該客との売春を勧める意味も含まれている。)をする、店としては、
客の飲食代金のみが収入ということになるが、右のように売春の機会を作出するこ
とにより、ホステスらの収入を高めさせて同女らを店に引き止めるとともに、客を
増やして店の収入の増加を図るというものであったこと、(3)本件クラブで働く
タイ人女性らは、必ずしも出退勤を厳しく規制されていたわけではなく、割合自由
にしていたが、売春の合意ができて客と店外に出るときは、店の了承が必要であ
り、また、同店で働くについては、店長による面接を受けて採用されることが前提
になっていたこと、(4)被告人は、Bが本件クラブを引き受ける前から、同店で
働いており、同人が同店を引き受けた後も、一時台湾に帰国していたことがあった
ものの、引き続き同店で前記システムを了知しつつ稼働し、同店から月に三〇万円
の給料をもらっていたこと、(5)被告人の本件クラブでの稼働の内容は、カウン
ター内でつまみものを作ったり、客席でホステスらと一緒に客と会話したりするほ
か、Bから任せられて店の経理等の仕事をし、また、同人が店を留守にしたときに
は、同人に代わって店を管理するなどの仕事もしていたこと、(6)ところで、本
件クラブには、前記のようにホステスとして働くタイ人女性らを除いては、Bと被
告人しかおらず、被告人は、ホステスらからも客からも、同店の「ママ」と見られ
ており、Bとともに、ホステスらに対し、前記客付けをし、店外に出るに当たって
の了承をするなどしていたこと、(7)DことDも、右のようなタイ人女性らの一
人であり、本件クラブでホステスとして働くとともに、店の客らと店外で売春をす
ることによって、生活していたものであること、(8)Dは不法残留者であり、本
件クラブで働くその他のタイ人女性らも不法残留等の不法滞在者であり、このこと
はBも被告人も十分承知していたこと等の事実が認められる。
 <要旨第二>以上の事実によると、被告人は、本件クラブにおける従業員ではある
が、被告人の同店での前記のとおりの仕事の内容等にかんがみても、ホ
ステスらと同じ立場にある者ではなく、Bとともに、同店の使用者側に立ついわゆ
る「ママ」として、Dを含む同店のホステスであるタイ人女性らとの間で対人関係
上優位な立場にあって、同女らにホステス兼売春婦として働くよう指示し、同女ら
もその指示に従ってホステス兼売春婦として稼働していたことは明らかであり、し
たがって、被告人が、Bと共謀の上、本件クラブにおいて、同店の事業に関し、外
国人であるDに不法就労活動をさせたとする原判示第二の事実は十分認められると
いうべきである(なお、所論には、「対人関係上優位な立場」というものをかなり
高度なものに限るとしている節があるが、入管法七三条の二第一項一号が、単に、
「不法就労活動をさせた」と規定していることからしても、特に優越性が高度であ
る必要はなく、不法就労活動を「させた」といい得る程度の対人関係上優位な立場
が認められれば足り、本件クラブにおける被告人のDらに対する関係がこれに当た
ることは明らかである。)。
 所論は、本件クラブでのタイ人女性らの稼働が自由であったこと、売春料金はす
べて同女らの収入になっていたこと等、店とホステスらとが持ちつ持たれつの関係
であったことにかんがみると、雇われ店長であるBについても外国人を監督的立場
で「使役」する者とはいえず、ましてや被告人についてはなおさらである、と主張
する。
 確かに、前記のとおり、本件クラブでは、ホステスとして働くタイ人女性らの出
退勤については厳しくなく、割合自由であったこと、同女らが店の客との売春によ
って得た金員はすべて同女らの収入になっていたことは認められるが、これらの事
実が、対人関係上被告人及びBがDを含む同店のホステスであるタイ人女性らに対
し優位な立場にあったとする、前記認定を左右するものとは認められない。
 所論は、また、原判決は、Bと被告人間の共同正犯を認定しているが、両者間の
共謀については、事前共謀にせよ現場共謀にせよおよそ認定していないから、本罪
の構成要件該当性の有無については、被告人とDとの関係を個別的に検討する必要
がある、そして、この関係を個別的にみると、被告人は、単にチーフ的存在として
給料をもらって雇われている同店の一従業員にすぎず、同じく同店でホステスとし
て働くDとの間で対人関係上優位な立場にあったとはいえない、その他金銭関係、
居住関係等でも被告人のDに対する優位性はないなどと、るる主張する。
 しかしながら、記録によると、原判決は被告人とBとの間の共同正犯を認めてい
ることは明らかであり、また、被告人が、Bと意思を通じた上、同人とともに、D
らとの間で対人関係上優位な立場にあって、同女らを同店のホステス兼売春婦とし
て稼働させていたと認められることは前示のとおりであって、被告人にBとの共謀
による不法就労助長罪が成立することは明らかである。その他Dとの間の金銭関
係、居住関係等、所論が指摘する諸々の事情も前記認定を左右するものとは認めら
れない。
 なお、所論は、売春は直接Dらと客との間の合意で行われたものであり、被告人
らはせいぜい客との間を取り持つ程度であって、同女らに対し優越的地位に基づく
指示とか積極的な働きかけをしていたとは認められない、とも主張するが、前記の
ような本件クラブのシステム、すなわち、ホステスらに給料を支払わない代わり
に、客との売春によって得る売春料金は全額同女らの収入とするということからす
れば、ホステスとして稼働させるということが、とりもなおさず、ホステス兼売春
婦として稼働させるということであり、したがって、被告人らがDらの売春の点に
ついてもその不法就労活動をさせたものであることは明らかである。
 したがって、この点についても所論は採用することができない。
 論旨は理由がない。
 よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判
決する。
 (裁判長裁判官 岡田良雄 裁判官 阿部文洋 裁判官 毛利晴光)

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